説明

運搬車両の尿素水貯蔵装置

【課題】アウトリガー等の装備品の有無に拘わらず同じ車種の運搬車両について共通のレイアウトを採ることが可能で、エンジン冷却水の配管も簡易な構造で実現することが可能な運搬車両の尿素水貯蔵装置を提供する。
【解決手段】前一軸車のトラック1に搭載されたNOxを還元浄化するための選択還元型触媒に対し還元剤として添加すべき尿素水を貯蔵する装置に関し、その先頭前輪を成す前輪2の上側を覆うフェンダ3の後部3aの背面に、該後部3aの背面とキャブ8との間に三角形状に形成されるデッドスペースを利用し、このデッドスペースの形状に対応した三角形状の尿素水タンク11を配置し、前記フェンダ3の後部3aを前輪2が跳ね上げた飛石から保護するガード手段として機能させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運搬車両に搭載されたNOxを還元浄化するための選択還元型触媒に対し還元剤として添加すべき尿素水を貯蔵する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ディーゼルエンジンにおいては、排気ガスが流通する排気管の途中に、酸素共存下でも選択的にNOxを還元剤と反応させる性質を備えた選択還元型触媒を装備し、該選択還元型触媒の上流側に必要量の還元剤を添加して該還元剤を選択還元型触媒上で排気ガス中のNOx(窒素酸化物)と還元反応させ、これによりNOxの排出濃度を低減し得るようにしたものがある。
【0003】
他方、プラント等における工業的な排煙脱硝処理の分野では、還元剤にアンモニア(NH3)を用いてNOxを還元浄化する手法の有効性が既に広く知られているところであるが、自動車の場合には、アンモニアそのものを搭載して走行することに関し安全確保が困難であるため、近年においては、毒性のない尿素水を還元剤として使用することが研究されている(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。
【0004】
即ち、尿素水を選択還元型触媒の上流側で排気ガス中に添加すれば、約170℃以上の温度条件下で前記尿素水がアンモニアと炭酸ガスに分解され、選択還元型触媒上で排気ガス中のNOxがアンモニアにより良好に還元浄化されることになる。
【0005】
そして、このような尿素水を還元剤として使用する選択還元型触媒をトラック(運搬車両)に搭載する場合には、図3に示す如く、トラック1の前輪2の上側を覆うフェンダ3の直後で尿素水タンク4をフレーム5に対して取り付けることが提案されている。
【0006】
即ち、還元剤として尿素水を採用したものでは、寒冷地で使用した場合に尿素水が尿素水タンク4内で凍りついてしまうことを考慮しなければならないため、解凍用のエンジン冷却水(約80℃)をエンジン側から尿素水タンク4へ向け循環供給し得るよう配管を施す必要があり、尿素水タンク4をエンジンに対し極力近い位置となるように配置することが重要であると考えられている。
【0007】
尚、図中における6,7は前後一対の後輪、8はキャブを示している。
【特許文献1】特開2002−161732号公報
【特許文献2】特開2002−166130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図4に示す如きクレーン9を搭載したトラック1では、図3で尿素水タンク4が配置されている位置に、前記クレーン9の使用時に車体を固体するためのアウトリガー10が配置されることになるため、このアウトリガー10の更に後方に尿素水タンク4をずらして配置しなければならず、同じ車種のトラック1であっても、クレーン9付きのものと、そうでないものとでエンジン冷却水の配管系が大きく異なるものとなってしまう。
【0009】
即ち、図4のように尿素水タンク4をアウトリガー10の後方にずらして配置した場合、この尿素水タンク4にエンジン冷却水を導く配管が長くなり、フレーム5の内側を通して配索せざるを得なくなるが、該フレーム5の内側には、既にブレーキ用エアナイロンチューブや電気系統のハーネスが配索されており、これらの熱に弱い系統と並走させて高温のエンジン冷却水の配管を配索することができないという事情があるため、わざわざ左右のフレーム5間にエンジン冷却水の配管を通すためだけの専用のレールを架設して、該レールにエンジン冷却水の配管を取り付けるといった非常に複雑な構造を採らざるを得なくなってしまう。
【0010】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、アウトリガー等の装備品の有無に拘わらず同じ車種の運搬車両について共通のレイアウトを採ることが可能で、エンジン冷却水の配管も簡易な構造で実現することが可能な運搬車両の尿素水貯蔵装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、運搬車両に搭載されたNOxを還元浄化するための選択還元型触媒に対し還元剤として添加すべき尿素水を貯蔵する装置であって、前記運搬車両の先頭車輪の後方上部に存在するデッドスペースに尿素水タンクを配置し、該尿素水タンクを前記先頭車輪が跳ね上げた飛石から保護するガード手段を備えたことを特徴とするものである。
【0012】
而して、このようにすれば、運搬車両の先頭車輪の後方上部に存在していたデッドスペースを有効に活用して尿素水タンクを配置することが可能となるので、アウトリガー等の装備品の有無に拘わらず同じ車種の運搬車両について共通のレイアウトを採ることが可能となる。
【0013】
また、尿素水タンクが配置される先頭車輪の後方上部は、キャブ下のエンジンから非常に近い位置となるため、解凍用のエンジン冷却水をエンジンから尿素水タンクに導くのに必要な配管が短くて済み、しかも、専用のレール等を架設しなくてもゴム管等でエンジンと尿素水タンクとを直接的に接続するだけで済むので、エンジン冷却水の配管を簡易な構造で実現することが可能となる。
【0014】
尚、このように先頭車輪に近づけて尿素水タンクを配置しても、該尿素水タンクを前記先頭車輪が跳ね上げた飛石からガード手段により保護するようにしているので、尿素水タンクの飛石による損傷を未然に防止することが可能である。
【0015】
更に、本発明においては、運搬車両が前一軸車である場合に、その先頭前輪を成す前輪の上側を覆うフェンダの後部背面に、該後部背面とキャブとの間に形成されるデッドスペースを利用して尿素水タンクを配置し、前記フェンダの後部をガード手段とすることが好ましい。
【0016】
また、運搬車両が前二軸車である場合には、その先頭前輪を成す前側の前輪の上側を後側の前輪も含めて覆うフェンダの内部天井面に、該内部天井面と前後の前輪との間に形成されるデッドスペースを利用して尿素水タンクを配置し、該尿素水タンクの少なくとも前側の前輪に臨む部位にガード手段としてプロテクタを被覆せしめると良い。
【発明の効果】
【0017】
上記した本発明の運搬車両の尿素水貯蔵装置によれば、アウトリガー等の装備品の有無に拘わらず同じ車種の運搬車両について共通のレイアウトを採ることができ、しかも、エンジン冷却水の配管も簡易な構造で実現することができるので、運搬車両の製造コストを従来よりも大幅に削減することができ、更には、先頭車輪に近づけて配置した尿素水タンクを飛石による損傷から保護することができるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、本形態例においては、尿素水を還元剤として使用する選択還元型触媒を搭載したトラック1(運搬車両)に関し、このトラック1の前輪2の後方上部に存在するデッドスペースに尿素水タンク11を配置している。
【0020】
即ち、ここに図示している例では、前一軸車のトラック1である場合を例示しているので、その先頭前輪を成す前輪2の上側を覆うフェンダ3の後部3aの背面に、該後部3aの背面とキャブ8との間に三角形状に形成されるデッドスペースを利用し、このデッドスペースの形状に対応した三角形状の尿素水タンク11を配置するようにしており、この際、前記フェンダ3の後部3aを前輪2が跳ね上げた飛石から保護するガード手段として機能させるようにしている。
【0021】
而して、このようにして尿素水貯蔵装置を構成すれば、トラック1の前輪2の後方上部に存在していたデッドスペースを有効に活用して尿素水タンク11を配置することが可能となるので、アウトリガー等の装備品の有無に拘わらず同じ車種のトラック1について共通のレイアウトを採ることが可能となる。
【0022】
また、尿素水タンク11が配置される前輪2の後方上部は、キャブ8下のエンジンから非常に近い位置となるため、解凍用のエンジン冷却水をエンジンから尿素水タンク11に導くのに必要な配管が短くて済み、しかも、専用のレール等を架設しなくてもゴム管等でエンジンと尿素水タンク11とを直接的に接続するだけで済むので、エンジン冷却水の配管を簡易な構造で実現することが可能となる。
【0023】
尚、このように前輪2に近づけて尿素水タンク11を配置しても、該尿素水タンク11を前記前輪2が跳ね上げた飛石からフェンダ3の後部3aにより保護することが可能となるので、尿素水タンク11の飛石による損傷を未然に防止することが可能となる。
【0024】
従って、上記形態例によれば、アウトリガー等の装備品の有無に拘わらず同じ車種のトラック1について共通のレイアウトを採ることができ、しかも、エンジン冷却水の配管も簡易な構造で実現することができるので、トラック1の製造コストを従来よりも大幅に削減することができ、更には、尿素水タンク11の飛石による損傷を未然に防止することができる。
【0025】
また、図2は本発明の別の形態例を示すもので、ここに図示している例では、前二軸車のトラック1’である場合を例示しているので、その先頭前輪を成す前側の前輪2の上側を後側の前輪2’も含めて覆うフェンダ3’の内部天井面に、該内部天井面と前後の前輪2,2’との間に形成されるデッドスペースを利用して尿素水タンク11を配置し、該尿素水タンク11の前後の前輪2,2’に臨む部位にガード手段としてプロテクタ12を被覆せしめている。
【0026】
即ち、このような前二軸車のトラック1’では、先頭前輪を成す前側の前輪2の後方上部に存在するデッドスペースが、フェンダ3’の内部天井面と前後の前輪2,2’との間に形成されることになるため、ここに形成されるデッドスペースを利用して尿素水タンク11を配置するようにしているが、このままでは車輪側に対し尿素水タンク11が剥き出しの状態となってしまうので、該尿素水タンク11にプロテクタ12を被覆して飛石から保護するようにしている。
【0027】
尚、飛石は一般的に車輪後方へ跳ね上げられるものであるため、プロテクタ12を尿素水タンク11の前側の前輪2に臨む部位にだけ被覆させるようにしても良いが、図示例の通り、尿素水タンク11の前後の前輪2,2’に臨む部位を両方ともプロテクタ12で被覆した方がより好ましいことは勿論である。
【0028】
而して、このような前二軸車のトラック1’にあっては、もともとフェンダ3’の直後に尿素水タンク4(図2中の二点鎖線を参照)が配置されるようになっていて、特別な装備品が無くてもエンジンから離れた後方配置となってしまっていたが、ここに図示している例のようにすれば、尿素水タンク11をキャブ8下のエンジンから非常に近い位置に配置することが可能となり、解凍用のエンジン冷却水をエンジンから尿素水タンク11に導くのに必要な配管が短くて済み、しかも、専用のレール等を架設しなくてもゴム管等でエンジンと尿素水タンク11とを直接的に接続するだけで済むので、エンジン冷却水の配管を簡易な構造で実現することが可能となり、先の図1の形態例の場合と同様に、トラック1’の製造コストを従来よりも大幅に削減することができるというメリットが得られる。
【0029】
尚、本発明の運搬車両の尿素水貯蔵装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、尿素水タンクとフェンダとを一体成形して更なる構造の簡略化を図るようにしても良いこと、その他、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す側面図である。
【図2】本発明の別の形態例を示す側面図である。
【図3】従来例を示す側面図である。
【図4】別の従来例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 トラック(運搬車両)
1’ トラック(運搬車両)
2 前輪(先頭車輪)
2’ 前輪(後側の前輪)
3 フェンダ
3’ フェンダ
3a 後部(ガード手段)
8 キャブ
10 アウトリガー(装備品)
11 尿素水タンク
12 プロテクタ(ガード手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運搬車両に搭載されたNOxを還元浄化するための選択還元型触媒に対し還元剤として添加すべき尿素水を貯蔵する装置であって、前記運搬車両の先頭車輪の後方上部に存在するデッドスペースに尿素水タンクを配置し、該尿素水タンクを前記先頭車輪が跳ね上げた飛石から保護するガード手段を備えたことを特徴とする運搬車両の尿素水貯蔵装置。
【請求項2】
運搬車両が前一軸車である場合に、その先頭前輪を成す前輪の上側を覆うフェンダの後部背面に、該後部背面とキャブとの間に形成されるデッドスペースを利用して尿素水タンクを配置し、前記フェンダの後部をガード手段としたことを特徴とする請求項1に記載の運搬車両の尿素水貯蔵装置。
【請求項3】
運搬車両が前二軸車である場合に、その先頭前輪を成す前側の前輪の上側を後側の前輪も含めて覆うフェンダの内部天井面に、該内部天井面と前後の前輪との間に形成されるデッドスペースを利用して尿素水タンクを配置し、該尿素水タンクの少なくとも前側の前輪に臨む部位にガード手段としてプロテクタを被覆せしめたことを特徴とする請求項1に記載の運搬車両の尿素水貯蔵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−161048(P2007−161048A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−358599(P2005−358599)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】