説明

過共析鋼からの構造部品の製造方法

本発明は、過共析鋼から構造部品、特に型鍛造部品を製造する方法であって、この構造部品は、加工温度に加熱したブランクまたは切断した塊から出発して1または2以上の熱間加工により輪郭工具を用いて作製するものである。本発明は、ブランクまたは切断された塊をAc1マイナス100KからAcmまでの範囲の温度か、またはAc1からAcmまでの範囲の温度に加熱するステップと、この温度範囲を維持しながら1または2以上の直接的に連続する工程で熱間加工して構造部品を作製するステップと、構造部品のいずれの箇所で少なくとも0.8の加工度を維持するステップと、最終的な加工の後に前記構造部品を冷却するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過共析鋼から構造部品、特に型鍛造部品を製造するための請求項1または2の前文に記載された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造部品は、多くの産業分野で、例えば車両製造で、機械加工が可能なこと(例えば、硬さ170〜280HBの範囲)と、良好な焼入性を有することとが必要とされる。例えば転がり軸受用の軸受鋼等には、焼入可能な鋼を用いる必要がある。
【0003】
機械加工性を確保するために、従来では、型鍛造または密閉型プレス成形によって作製された例えば転がり軸受鋼100Cr6からなる構造部品は、軟化焼なましされねばならない。球状に成形された炭化物を有して継続加工に適した組織(球状化焼なまし組織)を作製するために、12時間以上の時間を要する焼なましプロセスが必要である。軟化焼なましのこの過程は、球状化焼なまし、すなわち球状に成形されたセメンタイトへの焼なましと称される。さらに、球状化焼なまし状態で加工可能な構造部品は、例えば高周波による焼入が可能でなければならない。図1に、転がり軸受鋼100Cr6を例に従来技術による過共析鋼の型鍛造および球状化焼なましの製造工程を示す。
【0004】
素材鋼片から切断した塊またはブランクを、1150〜1250℃の範囲の温度に加熱した後、その温度で熱間加工する。この加工は、1または2以上の工程で構成することができる。次に構造部品を室温に冷却する。この冷却に続く軟化焼なましは、Ac1以下、すなわち710〜750℃の範囲の温度までの加熱と、12時間以上の保持とからなる。軟化焼なましは、場合により、Ac1温度前後のサイクル焼なましとすることができる。
【0005】
軟化焼なましを行った構造部品は、室温に冷却した後、硬さが170〜220HBの範囲にあり、機械加工に十分適している。構造部品を機械加工した後に通常行われる熱処理は、Ac1以上の830〜860℃の範囲の温度からの焼入れと、それに続く100〜300℃の範囲の温度の焼戻しとからなる。
【0006】
球状化焼なましの欠点として、軟化焼なましは時間が長いので高コストであり、しかも寸法の歪み、表層脱炭およびスケールがもたらす。これら軟化焼なましが時間およびエネルギーを要する等の欠点の他に、球状化焼なましによっても、比較的粗い炭化物粒子を有する組織が生じ、それに続く熱処理(焼入れと焼戻し)後の最終的な組織中に粗い析出炭化物がなお存在するという欠点がある。
【0007】
しかし部材の最適な疲労強度と相応に長い寿命とを達成するために、調質組織の析出炭化物は極力小さく、微細分散していなければならない。
【0008】
特許文献1に記載の転がり軸受の製造方法では、軟化焼なましが省かれている。すなわち、ブランクを先ず1150℃のオーステナイト化温度に加熱し、これにより組織中の炭化物をすべて溶解し、次にこの温度で例えば鍛造によって加工する。その後、構造部品をガスで周囲温度まで急激に冷却することで、微細層状パーライト組織が生じる。
【0009】
この冷却は900℃から650℃まで約40℃/分の速度で行われる。このパーライト組織を有するブランクを、セラミック被覆旋削工具で粗く加工し、この工作物を最初のオーステナイト化温度以下の約840℃の第2オーステナイト化温度に加熱し、均一に分散した二次炭化物を有する均一なオーステナイトが生じるまでこの温度で十分な長さ、例えば20分間保持する。
【0010】
十分な硬さを達成するために工作物を油焼入れ、塩焼入れまたは水焼入れし、精密加工により仕上げる。
【0011】
特許文献2には、過共析鋼、特に転がり軸受鋼から熱間加工して延伸した製品、特に棒材または管材を製造する方法が開示されている。
【0012】
この方法では、ブランクまたは利用する長さの素材を、Acm以上、主に>1100℃の温度に加熱し、1または2以上の加工工程の後、再加熱前に650〜700℃の範囲の温度に制御された加熱または冷却することによって、中間製品に均一な温度分布が生成される。
【0013】
引き続き、Ac1以下、>650℃の範囲で、但し二相域(α+Fe3C)では≦710℃の温度か、またはAc1以上、但し>710℃の範囲でAcm以下、但し二相域(γ+Fe3C)では<880℃の温度のいずれかへの再加熱を行う。
【0014】
絞り圧延機における最終的な加工は、冷却および場合によっては付加的な外部加熱に関して調整され、圧延材中での温度上昇が初パス温度に関して僅かに留まり、かつ絞り圧延機内での加工中および圧延機から進出するとき圧延材が温度の点で二相域にあるようにされ、最低加工は伸び率として表現して総加工がλ≧1.5、絞り圧延機の個々のスタンドにおける最低部分加工がλRW≧1.03である。
【特許文献1】独国特許発明第3910959号明細書
【特許文献2】独国特許発明第19513314号明細書
【発明の開示】
【0015】
本発明の目的は、1または2以上の熱間加工の工程で作製し、球状化焼なましをせずに機械加工が可能であり、且つ優れた焼入性を有する構造部品を製造する方法を提供することである。
【0016】
この目的は、請求項1または2の前文から出発してその特徴部分により達成される。有利な構成はそれぞれ引用形式請求項に記載の特徴部分である。
【0017】
本発明によれば、ブランクはAc1マイナス100KからAcmまでの範囲の温度か、またはAc1からAcmまでの範囲の温度かに、すなわち両方の事例において二相域内で加熱される。
【0018】
公知の従来技術とは異なり、Acm以下の温度で過共析鋼を熱間加工するとの考えが本発明の根底にある。均質なオーステナイト領域内での予備的な加工または拡散焼なましは必要でない。そのことで時間とエネルギーが節約される。
【0019】
本発明に係る方法は以下のステップを有する。
【0020】
先ず、ブランクまたは切断した塊を、Ac1マイナス100KからAcmまでの第1の温度範囲内の温度に加熱する(図2参照)。
【0021】
次に、ブランクまたは塊を、1または2以上の連続する加工工程において、第1の温度範囲内で、すなわち高温のままで、輪郭工具で加工し、構造部品を得る。構造部品はごく異なる加工度(comparative strain caused by deformation)の領域を有する輪郭造形を有し、加工度は構造部品のいずれの箇所でも少なくとも0.8でなければならない。
【0022】
局部加工度を少なくともφ=0.8と明示する場合、体積要素の伸長方向、例えば高さの変化(h1/h0)だけでなく、体積要素の幅広がりおよび伸びも一緒にそこで考慮されることに注意しなければならない。この検討方式は、構造部品が複雑な形成物であり、例えば単に1つの主要伸長方向を有する棒材でないときに常に考慮に値する。
【0023】
最終的な加工工程の直後に構造部品を室温に冷却するか(図2a)、または少なくともAc1マイナス80Kの温度(第3の温度範囲、図2)に保持し、その後に室温に冷却する(図2b)。冷却は主に静止空気で行う。
【0024】
この方法によって、断続的な加工にもかかわらず個々の輪郭工具(すなわち型)内で構造部品を順次製造することができるとともに、この構造部品は、球状化焼なまし無しに機械加工が
可能であり(硬さ240〜280HBの範囲内)、且つ優れた焼入性を有する。
【0025】
意外なことに、熱間加工用に加工温度をかなり下げたにもかかわらず、予想に反して従来技術による型鍛造と比較してプレス力はごく僅かに高めたに過ぎない。
【0026】
本発明の好ましい一実施形態によれば、過共析鋼は工具鋼、主に100Cr6である。
【0027】
前記方法に対する代案として、ブランクまたは切断された塊の加工はAc1からAcmまでの第2の温度範囲(図2)内で行うことができる。
【0028】
直接的に連続する複数の加工工程が構造部品の製造に必要である場合、一連の加工工程中では、構造部品の冷却(比較的低い温度を有する輪郭工具との接触)も断熱加熱(加工時の内部摩擦)も起き、選択された二相域内で加工全体が経過することが確保されることを考慮している。
【0029】
指摘したこの措置によって、最適化されるべき特性に関して特別良好な結果を得ることができる。
【0030】
本発明の特別好ましい一実施形態によれば、最終的な加工工程の直後に、炉内でAc1からAc1マイナス80Kまでの第3の温度範囲(図2)まで制御下で冷却を行う。炉内での構造部品の保持時間は60分までで、主に20〜50分である。冷却条件(保持時間および/または温度)を適切に管理するため、構造部品の硬さに影響を与えることができる炉を使用する。構造部品は、主にこの保持時間中に連続的に炉内で移送される(連続炉)。
【0031】
所定の第1の温度範囲(図2)内で加熱温度を変更することによって、構造部品の所定の個所で構造部品の硬さを適切に調整することも可能である。
【0032】
本発明に係る方法において、熱間加工は、ブランクまたは塊を予備的に据込む部分工程と、荒型および仕上型内で熱間加工する部分工程と、ばり取りする部分工程と、必要により構造部品に穿孔する部分工程とを含むことができる。
【0033】
以上述べた方法は、プロセスの後段に軟化焼なましを施すことなく、機械的な継続加工と最終的な熱処理、特に焼入れ(プレス焼入れまたは表面硬化)を許容する組織を生成することができるので、特別安価に、過共析鋼から構造部品を製造することができる。
【0034】
さらに、熱間加工と球状化焼なましが施された過共析鋼の従来の組織と比較して、一層小さな微細分散した炭化物を有する組織が得られることから(図3)、作製される構造部品の疲労強度の点で優れている。本発明に係る方法の他の利点は、焼入温度に加熱するとき比較的小さな炭化物粒子が一層迅速に溶解し、焼入温度での保持時間を短縮できることにある。そのことからさらに、脱炭度が低下し、スケールの度合が減少する。
【0035】
以下、添付図面に基づき本発明を例示的に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明に係る一実施の形態として、構造部品、主にホイールハブの熱機械的密閉型プレス成形または型鍛造について説明する。図2に、本発明に係る製造工程を示す。
【0037】
先ず、ブランクまたは塊を、素材鋼片、例えば100Cr6からなる棒材から切断後、800℃に誘導加熱し、ソーキング後、直ちに熱間加工を800℃で開始する。この熱間加工は、この例において予備的な据込工程、荒型内での鍛造工程、仕上型内での鍛造工程を含む。
【0038】
構造部品の幾何学的なグレードに関して加工工程を決定するとき、構造部品のいずれの箇所でも少なくとも0.8の加工度が守られるように考慮する。
【0039】
最終工程として、製造した構造部品(ホイールハブ)のばり取りを行う。ばり取り後の構造部品の温度は約760℃である。この温度はAc1より上であり、ばり取りを含む加工全体は、Ac1〜Acmの第2の温度範囲内から選択した温度で行う。
【0040】
ばり取り直後、構造部品を温度720℃の連続炉内に置く。この温度は、Ac1〜Ac1マイナス80Kの範囲内、すなわち第3の温度範囲内である(図2)。この温度での保持時間は20分である。その後、構造部品を静止空気で室温まで冷却する。その結果、小さな微細分散炭化物と240〜280HBの範囲内の硬さとを有する組織を備えた100Cr6からなるホイールハブが得られる(図4)。また、これにより製造したホイールハブは、従来の一般的な球状化焼なましを行うことなく、機械加工が可能である。
【0041】
1150℃で熱間加工し、ばり取りと球状化焼なましの後に室温まで冷却して製造した組織を有すること以外は本発明と同じ構成である従来技術の構造部品(ホイールハブ)との比較を、図3に示す。
【0042】
複数の実験において、本発明に係る方法で製造したホイールハブの良好な焼入性を実証することができた。
【0043】
本発明に係る熱機械加工の利用による製造で得られる組織は、高コストな長時間の焼なましプロセス(球状化焼なまし)なしでも、その後の機械加工を許容する。さらにこの方法によれば、従来技術に比べて組織中の炭化物が小さくかつ微細分散しているので、構造部品の疲労強度に関して優れた効果を奏する。
【0044】
比較的小さな炭化物粒子が一層迅速に溶解するので、焼入温度での保持時間を短縮することができるという利点もある。
【0045】
Ac1マイナス100KからAcmまでの第1の温度範囲とAc1からAcmまでの第2の温度範囲との間で加熱温度を変更することによっても、最終的な加工工程の後、すなわちばり取りまたは穿孔後に、直ちに静止空気で室温まで冷却して構造部品を適切に冷却するか、またはAc1からAc1マイナス80Kまでの第3の温度範囲の温度で保持時間60分以内、主に20〜50分、炉内で構造部品を保持するかによっても、特性(硬さもしくは機械加工性および焼入性)に影響を与えることができ、製造方法のパラメータと協動して最適な結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】100Cr6からなる構造部品を型鍛造および球状化焼なましする従来の製造工程を示すフロー図である。
【図2】100Cr6からなる構造部品を型鍛造する本発明に係る製造工程を示すフロー図である。
【図3】100Cr6からなる構造部品の組織の電子顕微鏡写真であり、(a)が従来技術、(b)が本発明に係る方法により製造されたものである。
【図4】本発明に係る方法により製造された構造部品(ホイールハブ)の断面図であり、このホイールハブの各領域の組織および硬さを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過共析鋼から構造部品、特に型鍛造部品を製造する方法であって、前記構造部品は、加工温度に加熱したブランクまたは切断した塊から出発して1または2以上の熱間加工により輪郭工具を用いて作製するものであり、
前記ブランクまたは切断された塊をAc1マイナス100KからAcmまでの範囲の温度に加熱するステップと、
前記温度範囲を維持しながら1または2以上の直接的に連続する工程で熱間加工して構造部品を作製するステップと、
前記構造部品のいずれの箇所で少なくとも0.8の加工度を維持するステップと、
最終的な加工の後に前記構造部品を冷却するステップと
を含む方法。
【請求項2】
過共析鋼から構造部品、特に型鍛造部品を製造する方法であって、前記構造部品は、加工温度に加熱したブランクまたは切断した塊から出発して1または2以上の熱間加工により輪郭工具を用いてが作製するものであり、
前記ブランクまたは切断した塊をAc1からAcmまでの範囲の温度に加熱するステップと、
前記温度範囲を維持しながら1または2以上の直接的に連続する工程で熱間加工して構造部品を作製するステップと、
前記構造部品のいずれの箇所で少なくとも0.8の加工度を維持するステップと、
最終的な加工の後に前記構造部品を冷却するステップと
を含む方法。
【請求項3】
前記最終的な加工の後の冷却が、静止空気で室温へと連続的に行われることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記最終的な加工の後の構造部品を、Ac1からAc1マイナス80Kまでの範囲の温度に保持し、最終的に室温への冷却を行うことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
炉内で60分までの保持時間で前記保持を行うことを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
保持時間が20〜50分であることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記保持時間の間、前記構造部品を炉内で連続的に移送することを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記過共析鋼が、転がり軸受鋼、主に100Cr6であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記熱間加工が、
前記ブランクまたは切断した塊を予備的に据込みする部分工程と、
荒型内で加工し、直後に仕上型内で加工する部分工程と、
ばり取りする部分工程と、
場合によって構造部品に穿孔する部分工程と
を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
請求項1、3〜9または2〜9のいずれか一項記載の方法により製造された100Cr6からなる機械加工可能な構造部品。
【請求項11】
前記構造部品が235〜280HBの範囲内の硬さを有することを特徴とする請求項10記載の構造部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2007−526127(P2007−526127A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−501111(P2007−501111)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【国際出願番号】PCT/DE2005/000379
【国際公開番号】WO2005/085480
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(506298884)ザルツギッター・マンネスマン・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (1)
【Fターム(参考)】