説明

過冷却器用伝熱管及びその製造方法

【課題】過冷却器用伝熱管を小型・軽量化できると共に、高温側冷媒の流れる流路の圧力損失を小さくできる過冷却器用伝熱管及びその製造方法を提供する。
【解決手段】圧縮機から吐出され凝縮器によって凝縮された冷媒が、主回路を流れる主流冷媒6と主回路から分岐されたバイパス回路を流れるバイパス流冷媒5とに別れ、主流冷媒6と、バイパス回路のバイパス膨張機構を通過して減圧された後のバイパス流冷媒5とを熱交換する、内管2と外管3とからなる二重管式の過冷却器用伝熱管1において、内管2に対して外管3が蛇行または旋回し、少なくとも1ヶ所以上で外管3と内管2とが接触しており、内管2内に高温の主流冷媒6を流し、外管3内に低温のバイパス流冷媒5を流す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過冷却器用伝熱管及びその製造方法に関し、更に詳しくは、内管と外管とからなる二重管構造を改善した過冷却器用伝熱管及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5に、従来の空気調和機の冷媒回路100を示す。この冷媒回路100は、圧縮機102、凝縮器103、二重管式の過冷却器104、主膨張機構105、蒸発器106、四路切換弁107およびアキュムレータ(気液分離器)108をこの順に有する主回路101と、凝縮器103と過冷却器104との間で主回路101から分岐して、バイパス膨張機構109と過冷却器104を通り、アキュムレータ108の入口近傍で主回路101と合流するバイパス回路110(破線で示す)と、を有する。
【0003】
圧縮機102から吐出された冷媒は、凝縮器(例えば室外空気に放熱する)103によって凝縮された後、主回路101を流れる主流冷媒とバイパス回路110を流れるバイパス流冷媒とに別れる。この主流冷媒は、過冷却器104において、バイパス膨張機構(膨張弁など)109を通過して減圧された後のバイパス流冷媒との熱交換によって過冷却される。一方、バイパス流冷媒は、過冷却器104において主流冷媒との熱交換によって蒸発される。
【0004】
従来の二重管式の過冷却器104は、図6に示すような、内管(伝熱管)111と、この内管111の外側に同心円状に設けられた外管112とからなる二重管構造であり、内管111と外管112には平滑管が用いられている(例えば、特許文献1参照)。冷媒を流す向きは、内管111内を流れるバイパス流冷媒115(破線の矢印で示す)と、内管111と外管112との間の環状の隙間(環状部)113を流れる主流冷媒116(実線の矢印で示す)とが、伝熱性を持つ内管111の管壁を挟んで互いに反対向きに流れるように設定されている(対向流型熱交換器)。
【特許文献1】特開平10−54616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、低温側のバイパス冷媒115は、二相流(気液混合流)となっており、内管111内を流れる際には、管壁に沿って液流が生じ、管内中心に気流が生じている。低温側のバイパス冷媒115は、高温側の主流冷媒116から受熱し、液冷媒が気体へと蒸発し潜熱を蓄える。よって、従来の二重管式の過冷却器104においては、低温側のバイパス冷媒115は、内管111を通過させる必要がある。このとき、高温側の主流冷媒116は外管112内を流れるが、高温側の主流冷媒116はその特性から高圧であり、耐圧上、外管112の肉厚を大きく取らなければならない。
また、高温側の主流冷媒116は、過冷却器104を通過した後、室内側の熱交換器へと送られるので、過冷却器104における高温側冷媒が通過する外管112は低圧力損失であることが求められる。しかし、上述した通り、高温側の主流冷媒116は外管112内の隙間(環状部)113を流れるので、外管112の内壁および内管111の外壁の両方の抵抗を受けながら流れるため、圧力損失が大きくなってしまう。
更に、平滑直管である内管111と外管112とが同心円状に配置された二重管構造であり、内管111の伝熱面を通じての伝熱・熱交換が不十分であった。
【0006】
本発明の目的は、内管の伝熱面積の増大と外管内冷媒の攪拌を実現でき、熱交換効率を簡易に向上できる過冷却器用伝熱管及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、過冷却器用伝熱管を小型・軽量化できると共に、高温側冷媒の流れる流路の圧力損失を小さくできる過冷却器用伝熱管及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は次のように構成されている。
【0008】
本発明の第1の態様は、圧縮機から吐出され凝縮器によって凝縮された冷媒が、主回路を流れる主流冷媒と主回路から分岐されたバイパス回路を流れるバイパス流冷媒とに別れ、前記主流冷媒と前記バイパス回路のバイパス膨張機構を通過して減圧された後の前記バイパス流冷媒とを熱交換する、内管と外管とを有する二重管式の過冷却器用伝熱管において、前記内管に対して前記外管が蛇行または旋回しており、少なくとも1ヶ所以上で外管と内管とが接触していることを特徴とする過冷却器用伝熱管である。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様の過冷却器用伝熱管において、前記内管内に高温の前記主流冷媒が流され、前記外管内に低温の前記バイパス流冷媒が流されることを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1の態様に記載の過冷却器用伝熱管を製造する製造方法において、直管状の外管内に直管状の内管が挿入された状態で、前記直管状の外管に対してプレス加工を行って成形することを特徴とする過冷却器用伝熱管の製造方法である。
【0011】
本発明の第4の態様は、第1の態様に記載の過冷却器用伝熱管を製造する製造方法において、直管状の外管内に直管状の内管が挿入された状態で、前記直管状の外管に対してロール加工を行って成形することを特徴とする過冷却器用伝熱管の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内管に対して外管が蛇行または旋回し、少なくとも1ヶ所以上で外管と内管とが接触しているので、内管の伝熱面積の増大と外管内冷媒の攪拌を実現でき、熱交換効率を簡易に向上できる。
また、本発明によれば、上記構造の内管と外管とからなる過冷却器用伝熱管の内管内に高温の主流冷媒を流し、外管内に低温のバイパス流冷媒を流すことにより、過冷却器用伝熱管の小型・軽量化が図れ、しかも高温側の主流冷媒の流れる流路の圧力損失を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明に係る過冷却器用伝熱管及びその製造方法の実施形態を説明する。
【0014】
本発明の第1の実施形態の過冷却器用伝熱管は、圧縮機から吐出され凝縮器によって凝縮された冷媒が、主回路を流れる主流冷媒と主回路から分岐されたバイパス回路を流れるバイパス流冷媒とに別れ、前記主流冷媒と、前記バイパス回路のバイパス膨張機構を通過して減圧された後の前記バイパス流冷媒とを熱交換する、内管と外管とからなる二重管式の過冷却器用伝熱管において、前記内管に対して前記外管が蛇行または旋回し、少なくとも1ヶ所以上で外管と内管とが接触しており、前記内管内に高温の前記主流冷媒が流され、前記外管内に低温の前記バイパス流冷媒が流される過冷却器用伝熱管である。
この過冷却器用伝熱管は、図5に示すような空気調和機等の冷媒回路に用いられる。内管および外管の材質としては、銅材料やアルミニウム材料など、伝熱性、加工性、耐圧性などに優れたものであれば、どのような材質のものでも良い。
【0015】
本実施形態の特徴は、内管に対して外管を蛇行または旋回させたことにより、外管内に
低温(低圧)側のバイパス冷媒を流し、内管内に高温(高圧)側の主流冷媒を流すことが出来ることである。
外管が内管に対して蛇行または旋回することにより、低温(低圧)側のバイパス冷媒を外管内(外管と内管との間の隙間・空間)に流した場合、低温側冷媒の二相流は撹拌され、高温側冷媒の流れる内管外壁に液流が直接接触し、熱交換が促進される。また、外管が蛇行または旋回しつつ内管に接触する部分を有するので、撹拌されずに外管内壁に残った液流を直接内管に接触させることができる。更に、内管に対して蛇行または旋回しつつ接触する外管が、内管外壁に対するフィンとして機能して内管外壁の伝熱面が増加するので、熱伝達率の向上が図れ、過冷却器用伝熱管の小型化を推進することができる。
また、高温(高圧)側の主流冷媒が内管内を流れることで、内管の直径が小さくなり耐圧が上がることから、内管の肉厚を薄くすることができ、過冷却器用伝熱管を小型・軽量化することができる。更に、高温側の主流冷媒は内管の内壁にしか接触しないため、圧力損失を小さくすることもできる。
【0016】
図1に、第2の実施形態に係る過冷却器用伝熱管1の縦断面図を示す。
図1に示ように、直管状の内管2に対して、外管3がほぼ円形断面を保持したままの状態で外管3の管軸が波形状ないしS字状に所定のピッチPで蛇行しており、ピッチPに対応した複数の接触点(接触箇所・接触部位)8にて、外管3と内管2は接触している。すなわち、図2(a)、(b)、(c)にそれぞれ図1のA−A断面、B−B断面、C−C断面を示すように、外管3の管軸Oは、内管2の管軸に垂直な一方向(図中、左右方向)に、内管2の管軸を中心として左右に蛇行している。このため、外管3と内管2との接触点8は、内管2の片側だけではなく、左右両側に交互にある。
【0017】
このとき、外管3内、即ち外管3と内管2との間の隙間4に、二相流である低温(低圧)側冷媒(バイパス流冷媒)5を流す場合に、蛇行した外管構造をとることで、二相流は撹拌され、撹拌された二相流中の液流が直接内管2に接触することとなり、効率良く熱交換することが出来る。また、接触点8では、外管3の内壁に残った液流を直接内管2に接触させることができ、さらなる熱交換効率の向上が見込める。また、内管2内に高温(高圧)冷媒(主流冷媒)6を流すことができるので、この過冷却器は高温(高圧)側冷媒6に対し、低圧力損失にすることができ、空気調和器等の冷凍サイクルの効率向上を図ることができる。さらに内管2内に高温(高圧)冷媒6を流すことで、耐圧が向上し、外管3内に高温(高圧)冷媒6を流す場合にくらべ、肉厚を薄くすることができ、過冷却器(用伝熱管)を小型・軽量化することができる。
【0018】
図3に、第3の実施形態に係る過冷却器用伝熱管の横断面図を示す。図3(a)、(b)、(c)は、図2(a)、(b)、(c)と同様に、過冷却器用伝熱管の軸方向に適宜間隔で並ぶ各点の横断面図をそれぞれ示すものである。
図1に示す上記の第2の実施形態と同様に、外管7は、その管軸Oが内管2に対して蛇行しているが、図示のように、蛇行方向は左右方向だけではなく、上下方向にも外管7は蛇行しており、外管7と内管2との接触点8は左右方向だけではなく、上下方向にも移動している。これによって、外管7内を流れる二相流である低温側冷媒(バイパス流冷媒)5の撹拌はさらに促進され、伝熱効率はさらに向上する。
なお、左右方向と上下方向の蛇行ピッチを同一とし、左右方向の蛇行ピッチと上下方向の蛇行ピッチとを例えば半ピッチずらして、外管の管軸が内管の管軸に沿って旋回するような外管構造としてもよい。
【0019】
上記の実施形態において、蛇行のピッチPは任意に設定することができ、冷媒流量、速度、温度等により、最適に設定することが可能である。同様に、接触点8の数、接触面積についても冷媒流量、速度、温度等により、最適に設定することができる。
また、上記の実施形態において、蛇行する外管3,7と内管2とは、例えば蛇行半ピッ
チごとの全箇所で接触する必要はなく、少なくとも1ヶ所以上で接触していれば、一部において外管3,7と内管2とが接触せずに近接している状態でも勿論よい。
また、上記の実施形態において、内管2の内面もしくは外面、外管3,7の内面もしくは外面の何れかに伝熱を促進させる表面加工(例えば、螺旋溝加工、すき起し加工等)を施しても良い。同様に、内管2の内面もしくは外面、外管3,7の内面もしくは外面の何れかに伝熱を促進させるための部材(例えば、フィン等)が設置されていても良い。
【0020】
上記の実施形態の過冷却器用伝熱管の製造方法として、あらかじめ蛇行して加工された外管3,7に内管2を挿入する方法で製造しても良いが、次のようにして製造するのがより好ましい。
即ち、まず、直管状の内管の外側に直管状の外管を装着し、或いは直管状の外管内に直管状の内管を挿入し、直管状の外管と直管状の内管とが同心円状に配置された状態とし、次いで、直管状の外管に対してプレス加工またはロール加工を行って、外管を蛇行(旋回)した形状に成形することで容易に製造することができる。このとき、内管2も若干蛇行することが考えられるが、外管3,7が内管2に対して相対的に蛇行していれば構わない。なお、内管2内の中空部に補強用の丸棒を挿入しておき、上記プレス加工またはロール加工時における内管2の変形を防止・軽減するようにしてもよい。
【実施例】
【0021】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0022】
図4に本発明の実施例に係る過冷却器用伝熱管の縦断面図を示す。
本実施例は、上記の図1に示す第2の実施形態の過冷却器用伝熱管と同様に、外管3の管軸Oは、内管2の管軸に垂直な一方向に、内管2の管軸を中心として蛇行している。外管3は外径φ=15.88mm、肉厚t=1.0mmであり、内管2は外形φ=11.1mm、肉厚t=1.0mmであり、過冷却器(用伝熱管)の長さL=1000mmとする。外管3は曲げ半径R=50mmで蛇行曲げし、曲げのピッチP=50mmであり、外管3と内管2とが半ピッチP/2=25mm毎に接触している。このとき、外管3と内管2との接触点8は、全部で41箇所となる。内管2内には高温高圧側冷媒、外管3内には低温低圧側冷媒が流れる。
本構造では、外管3が内管2外壁に対するフィンとして伝熱面増加に寄与しており、フィン効率f(フィン効率は、フィンの全ての部分がフィンの根本の温度と等しいとした場合の放熱量比であり、フィン効率は、冷媒の種類・流量等により変化する)を30%とした場合、下記の(1)式より伝熱面を37.5%増加させることが出来る(内管2表面と
等しい温度部分が37.5%増加する)。
【0023】
【数1】



式(1)において、
S:フィンによる伝熱面増加後の伝熱面積(内管表面と等温部分の面積)
:フィンによる伝熱面増加前の伝熱面積(内管の外表面積)
f:フィン効率(本実施例の場合:30%)
φ:内管の外径(本実施例の場合:11.1)
φ:外管の外径(本実施例の場合:15.88)
:外管の肉厚(本実施例の場合:1.0)
である。
【0024】
本実施例によれば、外管3が蛇行構造をとることで伝熱面を37.5%増加させること
ができ、過冷却器の大きさを37.5%小さくすることが可能となる。この場合、外管3
内の低温側冷媒の撹拌による効果は見込んでおらず、撹拌効果を加味すると、熱伝達率は更に増加し、より小型化が見込める。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る過冷却器用伝熱管の第2の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の過冷却器用伝熱管の横断面を示すもので、(a)は図1のA−A断面図、(b)は図1のB−B断面図、(c)は図1のC−C断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る過冷却器用伝熱管における各部の横断面図である。
【図4】本発明の実施例の過冷却器用伝熱管を示す縦断面図である。
【図5】従来の空気調和機に用いられている冷媒回路を示す回路図である。
【図6】従来の二重管式の過冷却器を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 過冷却器用伝熱管
2 内管
3 外管
4 隙間
5 低温(低圧)側冷媒(バイパス流冷媒)
6 高温(高圧)側冷媒(主流冷媒)
7 外管
8 接触点
P 蛇行ピッチ
O 外管の管軸
101 主回路
102 圧縮機
103 凝縮器
104 二重管式の過冷却器
109 バイパス膨張機構
110 バイパス回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機から吐出され凝縮器によって凝縮された冷媒が、主回路を流れる主流冷媒と主回路から分岐されたバイパス回路を流れるバイパス流冷媒とに別れ、前記主流冷媒と前記バイパス回路のバイパス膨張機構を通過して減圧された後の前記バイパス流冷媒とを熱交換する、内管と外管とを有する二重管式の過冷却器用伝熱管において、
前記内管に対して前記外管が蛇行または旋回しており、少なくとも1ヶ所以上で外管と内管とが接触していることを特徴とする過冷却器用伝熱管。
【請求項2】
請求項1に記載の過冷却器用伝熱管において、前記内管内に高温の前記主流冷媒が流され、前記外管内に低温の前記バイパス流冷媒が流されることを特徴とする過冷却器用伝熱管。
【請求項3】
請求項1に記載の過冷却器用伝熱管を製造する製造方法において、直管状の外管内に直管状の内管が挿入された状態で、前記直管状の外管に対してプレス加工を行って成形することを特徴とする過冷却器用伝熱管の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の過冷却器用伝熱管を製造する製造方法において、直管状の外管内に直管状の内管が挿入された状態で、前記直管状の外管に対してロール加工を行って成形することを特徴とする過冷却器用伝熱管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−210224(P2009−210224A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55816(P2008−55816)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】