説明

過給機の異常判定装置

【課題】可変ディフューザ及び可変ノズルを有する過給機に対して、可変ディフューザの異常判定を精度良く行う。
【解決手段】過給機の異常判定装置は、可変ディフューザ付きのコンプレッサ及び可変ノズル付きのタービンを備える過給機に好適に適用される。異常判定手段は、可変ノズルのノズルベーンの開度変化が所定値以下である際に、可変ディフューザのディフューザベーンの開度を変化させた際に生じる過給圧の変化に基づいて、可変ディフューザの異常判定を行う。これにより、可変ディフューザ及び可変ノズルを有する過給機に対して、ディフューザベーンの開度を検出する開度センサなどを用いずに、ディフューザベーンの異常判定を精度良く行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変ノズル及び可変ディフューザを備える過給機の異常判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タービンの入口であるタービンホイールの外周に複数のノズルベーンを設け、各ノズルベーンの傾き角度を変更してタービンの入口面積を変化させることにより容量を変更可能にした可変ノズル付きのタービン(VNT;Variable Nozzle Turbine)を有する過給機が広く知られている。また、コンプレッサの出口であるコンプレッサホイールの外周に複数のディフューザベーンを設け、各ディフューザベーンの傾き角度を変更してサージングを防止できるように過給特性を変更可能にした可変ディフューザ付きのコンプレッサ(VGC;Variable Geometry Compressor)を有する過給機が広く知られている。例えば、特許文献1には、タービンの排気ガス入口に可変ノズルリングを設けると共に、そのブロワ入口にインレットガイドベーンを設け、且つその羽根車出口に可変ディフューザリングを備えた過給機が提案されている。
【0003】
その他にも、本発明に関連する技術が特許文献2及び3に提案されている。特許文献2及び3には、実過給圧と目標過給圧との差に基づいて、可変ノズルにおけるノズルベーンの固着を判定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−205330号公報
【特許文献2】特開2005−315163号公報
【特許文献3】特開2005−273568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、可変ディフューザについても、上記した特許文献2及び3に記載された技術と同様に、過給圧に基づいて固着判定などの異常判定を行うことができると考えられる。しかしながら、上記した特許文献1に記載されたような可変ディフューザ及び可変ノズルを有する過給機に対しては、特許文献2及び3に記載された技術を単純に適用して、可変ディフューザの異常判定を適切に行うことは困難であると考えられる。というのは、可変ディフューザ及び可変ノズルの双方が過給圧に影響を及ぼすからである。特に、可変ノズルはターボ回転数を変化させるものであるため、可変ノズルのノズルベーン開度が過給圧に与える影響が可変ディフューザのディフューザベーン開度が過給圧に与える影響よりも相対的に大きいので、ノズルベーン開度が連続的に制御されるような状況では可変ディフューザの異常判定を精度良く行うことは困難になる。他方で、可変ディフューザの異常判定を行うためにディフューザベーン開度を検出可能な開度センサを設けることが考えられるが、この場合には当該開度センサの追加によってコストが高くなってしまう。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、可変ディフューザ及び可変ノズルを有する過給機に対して、可変ディフューザの異常判定を精度良く行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの観点では、可変ディフューザ付きのコンプレッサ及び可変ノズル付きのタービンを備える過給機の異常判定装置は、前記可変ノズルのノズルベーンの開度変化が所定値以下である際に、前記可変ディフューザのディフューザベーンの開度を変化させたときの過給圧の変化に基づいて、前記可変ディフューザの異常判定を行う異常判定手段を備える。
【0008】
上記の過給機の異常判定装置は、可変ディフューザ付きのコンプレッサ及び可変ノズル付きのタービンを備える過給機に好適に適用される。異常判定手段は、可変ノズルのノズルベーンの開度変化が所定値以下である際に、可変ディフューザのディフューザベーンの開度を変化させた際に生じる過給圧の変化に基づいて、可変ディフューザの異常判定を行う。例えば、異常判定手段は、可変ディフューザのディフューザベーンに対する固着判定を行う。上記の過給機の異常判定装置によれば、可変ディフューザ及び可変ノズルを有する過給機に対して、ディフューザベーン開度を検出する開度センサなどを用いずに、ディフューザベーンの異常判定を精度良く行うことが可能となる。
【0009】
上記の過給機の異常判定装置の一態様では、前記異常判定手段は、前記ノズルベーンの開度が全閉に設定される運転状態である際に、前記可変ディフューザの異常判定を行う。
【0010】
この態様では、異常判定手段は、ノズルベーンの開度が全閉に設定されるような運転状態である際に、可変ディフューザの異常判定を行う。このような運転状態では、ノズルベーン開度の変化はかなり小さく、且つ、ディフューザベーン開度をある程度変化させてもエンジンの出力に対して与える影響は小さいと言える。したがって、当該運転状態で異常判定を行うことで、エンジン出力に対して与える影響を抑制しつつ、ディフューザベーンの異常判定をより精度良く行うことが可能となる。
【0011】
例えば、上記した「ノズルベーンの開度が全閉に設定される運転状態」とは、加速時である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る車両の概略構成を示す図である。
【図2】ディフューザベーンの構成を示す概略平面図である。
【図3】ディフューザベーンの閉固着判定の具体例を説明するための図を示す。
【図4】ディフューザベーンの開固着判定の具体例を説明するための図を示す。
【図5】本実施形態におけるディフューザベーンの固着判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0014】
[装置構成]
図1は、本実施形態に係る車両100の構成を示す構成図である。図1に示すように、車両100は、主に、複数の気筒を有するエンジン10と、ターボ過給機(ターボチャージャ)30と、ECU(Electronic Control Unit)1と、を備える。エンジン10は、例えばガソリンエンジン又はディーゼルエンジンである。
【0015】
エンジン10は、吸気マニホールド12を介して吸気通路14と接続されている。吸気通路14には、吸入空気量を検出可能に構成されたエアフロメータ35が設けられていると共に、エアフロメータ35の下流側に、ターボ過給機30が有するコンプレッサ40のコンプレッサハウジング41が設けられている。また、コンプレッサハウジング41の下流側の吸気通路14には、吸気を冷却可能に構成されたインタークーラ15が設けられている。空気は大気中から吸気通路14に取り込まれ、吸気マニホールド12を介して各気筒の燃焼室に分配される。吸気通路14内の矢印は、空気の流れる方向を示している。吸気マニホールド12には、吸気の圧力(過給圧に相当する)を検出可能に構成された圧力センサ31が設けられている。
【0016】
また、エンジン10は、排気マニホールド22を介して排気通路24と接続されている。排気通路24には、ターボ過給機30が有するタービン50のタービンハウジング51が設けられている。エンジン10の各気筒から排出される排気ガスは、排気マニホールド22に集められ、排気マニホールド22を介して排気通路24へ排出される。排気通路24内の矢印は、排気ガスの流れる方向を示している。
【0017】
ターボ過給機30は、可変ノズル付きのタービン(以下、適宜「VNT;Variable Nozzle Turbine」と表記する。)50と、VNTアクチュエータ58と、ターボ回転軸39と、可変ディフューザ付きのコンプレッサ(以下、適宜「VGC;Variable Geometry Compressor」と表記する。)40と、VGCアクチュエータ48と、を備える。
【0018】
VNT50は、タービンハウジング51と、タービンブレード52と、ノズルベーン53と、を備える。タービンハウジング51は、タービンブレード52及びノズルベーン53を収容する筐体である。タービンブレード52は、排気通路24に導かれた排気の圧力(即ち、排気圧)によりターボ回転軸39を中心として回転可能に構成された、セラミック製の回転翼車である。
【0019】
ノズルベーン53は、タービンハウジング51においてタービンブレード52に対する排気の入口に相当する排気インレット部に、タービンブレード52を囲むように等間隔で複数設置された、羽根状部材である。これらノズルベーン53の各々は、不図示のリンク式回動機構により所定の回転軸を中心として当該排気インレット部内で一斉に回動可能であり、その開閉状態に応じて、排気通路24とタービンブレード52との連通面積(ノズルベーン53によって規定される排気流路の流路面積である)を変化させることが可能である。当該連通面積は、ノズルベーン53が全閉状態である場合に最小となり、全開状態である場合に最大となる。
【0020】
ここで、連通面積が小さくなれば排気の流速が高まるため、排気量が比較的小さい軽負荷領域においては、このノズルベーン53を閉じ側に制御することによって、効率的にタービンブレード52を駆動することが可能となる。
【0021】
VNTアクチュエータ58は、ノズルベーン53を回動させる上述したリンク式回動機構に備わる各リンクに対し、ノズルベーン53を一斉に回動させるための駆動力を付与可能な油圧式のアクチュエータである。このVNTアクチュエータ58における油圧制御ユニットは、ECU1と電気的に接続されており、ノズルベーン53の開閉状態は、エンジン10の運転条件に応じてECU1から供給される制御信号S58によって制御される構成となっている。
【0022】
なお、ノズルベーン53の制御態様は、公知のものであってよく、ここではその詳細を省略する。但し、定性的には、軽負荷領域においては先述したようにノズルベーン53は閉じ側に制御され、高負荷領域においてはノズルベーン53による排気の調速作用は必要ないため、エンジン背圧の上昇を避けるべくノズルベーン53は開き側に制御される。
【0023】
ターボ回転軸39は、タービンブレード52と後述するコンプレッサインペラ42とを連結する回転軸体である。ターボ回転軸39により相互に連結された構成を採るため、コンプレッサインペラ42とタービンブレード52とは略一体に回転する。
【0024】
VGC40は、コンプレッサハウジング41と、コンプレッサインペラ42と、ディフューザベーン43と、ディフューザ44と、を備える。VGC40は、所謂スイング式可変ディフューザと称される形態を採る。
【0025】
コンプレッサハウジング41は、コンプレッサインペラ42、ディフューザベーン43及びディフューザ44を収容する筐体である。コンプレッサインペラ42は、外界から吸気通路14に吸入された空気を、タービンブレード52の回転に伴う回転により生じる圧力により圧送供給可能に構成されている。このコンプレッサインペラ42による吸入空気の圧送効果により、所謂過給が実現される構成となっている。
【0026】
ディフューザベーン43は、コンプレッサハウジング41においてコンプレッサインペラ42を介して供給される吸入空気の流速を調整して圧力エネルギを取り出すディフューザ44に、コンプレッサインペラ42を囲むように等間隔で複数設置された羽根状部材である。ディフューザベーン43の各々は、不図示のリンク式回動機構(VNT50のノズルベーン53と同様のものである)により、所定の回転軸を中心として当該ディフューザ44内で一斉に回動可能であり、その開閉状態に応じて、ディフューザ44における吸入空気の流路面積を変化させることが可能である。
【0027】
VGCアクチュエータ48は、このリンク式回動機構の各リンクに対し、ディフューザベーン43の回動を促す駆動力を付与可能な公知のアクチュエータである。VGCアクチュエータ48もまた、ECU1と電気的に接続され、ECU1から供給される制御信号S48によって制御される構成となっている。
【0028】
ここで、図2を参照し、ディフューザベーン43の構成について説明する。図2は、コンプレッサインペラ42から、上流側の吸気通路14の方向を観察した際の概略平面図である。
【0029】
図2において、コンプレッサインペラ42の外周部には、複数のディフューザベーン43が配設される。図2(a)には、ディフューザベーン43が基準位置にある場合が示される。基準位置とは、ディフューザベーン43によって規定される吸入空気の流路面積が最小となる位置である。例えば、基準位置は、ディフューザベーン43が全閉に設定された際の位置である。一方、図2(b)には、ディフューザベーン43が、上記基準位置から回転角θ(矢線参照)で回動した状態が示される。基準位置に対し回転した状態では、基本的に、回転角θが大きい程、ディフューザベーン43により規定される吸入空気の流路面積が大きくなる。
【0030】
ディフューザベーン43は、例えば軽負荷運転から高負荷運転への移行(概ね、過給圧の上昇と一義的である)に伴って、段階的に開き側、即ち回転角が増大する側へ駆動制御される。一般的に、ディフューザベーン43を閉じ側に設定した場合よりも開き側に設定した場合のほうが、過給効率が高くなる傾向にある。そのため、加速要求が大きい場合には、例えば運転者がある程度アクセルペダルを踏み込んだ場合には、過給効率を向上させる観点から、過給効率の高い開き側にディフューザベーン43が設定される。
【0031】
図1に戻って、ECU1について説明する。ECU1は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備えて構成され、エンジン10やターボ過給機30などの車両100内の各構成要素に対して制御を行う。本実施形態では、ECU1は、圧力センサ31から供給される検出信号S31や、エンジン回転数センサ32から供給される検出信号S32や、アクセル開度センサ33から供給される検出信号S33や、エアフロメータ35から供給される検出信号S35などに基づいて、ターボ過給機30内のVGC40に対する異常判定を行う。つまり、ECU1は、本発明に係る過給機の異常判定装置の一例に相当する。詳細は後述するが、ECU1は、異常判定手段として機能する。
【0032】
[異常判定方法の基本概念]
まず、本実施形態に係る異常判定方法の基本概念について説明する。
【0033】
本実施形態では、ECU1は、VGC40のディフューザベーン43に対する異常判定を行う。具体的には、ECU1は、VNT50におけるノズルベーン53の開度(以下、単に「ノズルベーン開度」と呼ぶ。)の変化が所定値以下である際に、VGC40におけるディフューザベーン43の開度(以下、単に「ディフューザベーン開度」と呼ぶ。)を変化させたときの過給圧の変化に基づいて、ディフューザベーン43の異常判定を行う。
【0034】
このような異常判定を行う理由は以下の通りである。一般的に、VNTのみを備えるターボ過給機においては、実過給圧と目標過給圧との差に基づいて、VNTのノズルベーンの異常判定が行われている。このように一般的に行われている異常判定方法を、上記したようなVGC40及びVNT50の両方を備えるターボ過給機30に対して、そのまま適用することは困難であると考えられる。というのは、VGC40及びVNT50の双方が過給圧に影響を及ぼすため、そのような過給圧に基づいてVGC40の異常判定を適切に行うことが困難となるからである。つまり、VGC40のみによる状態量変化(例えば過給圧や吸入空気量の変化)の影響だけを抽出することが困難だからである。特に、VNT50はターボ回転数を変化させるものであるため、ノズルベーン開度が過給圧に与える影響はディフューザベーン開度が過給圧に与える影響よりも相対的に大きいので、ノズルベーン開度が連続的に制御されるような状況ではディフューザベーン43の異常判定を精度良く行うことは困難であると考えられる。他方で、ディフューザベーン開度を検出可能な開度センサを別途設けることが考えられるが、この場合には当該開度センサの追加によってコストが高くなってしまう。
【0035】
以上のことから、本実施形態では、ECU1は、ノズルベーン開度変化が所定値以下である際に、ディフューザベーン開度を変化させたときの過給圧の変化に基づいて、ディフューザベーン43の異常判定を行う。例えば、ECU1は、ノズルベーン開度変化が比較的小さい運転状態である際に、つまりノズルベーン開度が過給圧に与える影響が比較的小さくなるような状況において、ディフューザベーン43の異常判定を行う。このような本実施形態によれば、VGC40及びVNT50の両方を備えるターボ過給機30に対して、ディフューザベーン43の開度センサなどを用いずに、ディフューザベーン43の異常判定を精度良く行うことが可能となる。
【0036】
なお、上記のノズルベーン開度変化に対して用いる「所定値」は、例えば、ディフューザベーン43の異常判定を精度良く行うことができる程度に、つまり過給圧変化に基づいてディフューザベーン開度変化を適切に推定することができる程度に、ノズルベーン開度変化が過給圧に対して与える影響が小さくなるような開度変化量を用いることができる。また、ノズルベーン開度変化が所定値以下であるか否かの判定を行う場合に、センサなどによってノズルベーン開度変化を検出し、検出された開度変化に基づいて当該判定を行うことに限定はされず、ノズルベーン開度変化に対応する他のパラメータに基づいて当該判定を行っても良い。例えば、エンジン10や車両100の運転状態に基づいて、ノズルベーン開度変化が所定値以下となるような状況であるか否かを判断することができる。
【0037】
なお、本実施形態に係る異常判定方法は、ディフューザベーン開度を検出可能な開度センサを有しない構成に対して好適に適用されるが、当該開度センサを有する構成に対しても適用できることは言うまでもない。
【0038】
[異常判定方法の具体例]
次に、本実施形態に係る異常判定方法について具体的に説明する。
【0039】
本実施形態では、ECU1は、VGC40の異常判定として、ディフューザベーン43の固着判定を行う。ここで、ディフューザベーン43の固着とは、ディフューザベーン43が任意の開度に設定されたまま動かなくなってしまうような故障若しくは動きにくくなってしまうような故障をいう。具体的には、ECU1は、ディフューザベーン43が閉側の開度で固着している状態(以下、「閉固着」と呼ぶ。)であるか否かの判定、及び、ディフューザベーン43が開側の開度で固着している状態(以下、「開固着」と呼ぶ。)であるか否かの判定を行う。例えば、ECU1は、閉固着判定として、ディフューザベーン43が全閉状態で固着しているか否かを判定し、開固着判定として、ディフューザベーン43が全開状態で固着しているか否かを判定する。
【0040】
また、ECU1は、ノズルベーン開度が全閉に設定されるような運転状態である際に、ディフューザベーン43の固着判定を行う。具体的には、ECU1は、ディフューザベーン43が全開に設定されると共にノズルベーン開度が全閉に設定されるような加速時において(以下、「全開加速」と呼ぶ。)、ディフューザベーン43の固着判定を行う。このような全開加速時では、ノズルベーン開度の変化はかなり小さく、且つ、ディフューザベーン開度をある程度変化させてもエンジン10の出力に対して与える影響は小さいと言える。したがって、全開加速時において異常判定を行うことで、エンジン10の出力に対して与える影響を抑制しつつ、ディフューザベーン43の固着判定を精度良く行うことが可能となる。
【0041】
詳しくは、ECU1は、以下の手順で、ディフューザベーン43の閉固着及び開固着を判定する。まず、ECU1は、全開加速の開始初期において、ディフューザベーン43の閉固着判定を行う。具体的には、ECU1は、全開加速の開始から所定時間T1が経過するまでの期間において、実過給圧pimと推定過給圧pimeとの関係に基づいて、ディフューザベーン43の閉固着判定を行う。この推定過給圧pimeは、エンジン回転数や吸入空気量などに基づいて推定される、ディフューザベーン43を全開に設定した場合の過給圧である(以下同様とする)。詳しくは、ECU1は、推定過給圧pimeと実過給圧pimとの偏差(つまり「pime−pim」)が閾値Δpthcよりも大きい場合に、ディフューザベーン43が閉固着していると判定する。こうしているのは、ディフューザベーン43が正常であれば、ディフューザベーン43は全開状態に設定されているため、実過給圧pimが推定過給圧pimeに概ね一致するはずだからである、若しくは、一致しなくても実過給圧pimが推定過給圧pimeにかなり近い値となっているはずだからである。言い換えると、実過給圧pimが推定過給圧pimeからかけ離れている場合には、ディフューザベーン43は全開に設定されておらず、閉側の開度で固着していると考えられるからである。
【0042】
ECU1は、上記のようにディフューザベーン43が閉固着していると判定した場合、閉固着用のアクセル制限をかける。つまり、ECU1は、ディフューザベーン43が閉固着している場合に、アクセル開度に対して付与すべき制限を適用する。
【0043】
次に、ECU1は、ディフューザベーン43が閉固着していないと判定された場合に、ディフューザベーン43の開固着判定を行う。具体的には、ECU1は、全開加速の開始から所定時間T1が経過した後、更に所定時間T2が経過するまでの期間において、ディフューザベーン43を閉側に動かす制御を行う、詳しくはディフューザベーン43を所定角度β[deg]だけ閉じる制御を行う。そして、ECU1は、ディフューザベーン43を所定角度β[deg]だけ閉じる制御を行った際の実過給圧pimと、上記した推定過給圧pimeとの関係に基づいて、ディフューザベーン43の開固着判定を行う。詳しくは、ECU1は、推定過給圧pimeと実過給圧pimとの偏差(つまり「pime−pim」)が閾値Δpthoよりも小さい場合に、ディフューザベーン43が開固着していると判定する。こうするのは、ディフューザベーン43が正常であれば、ディフューザベーン43は全開状態から所定角度β[deg]だけ閉側に動かされているため、実過給圧pimが変化することにより、実過給圧pimが推定過給圧pimeからある程度離れた圧力になるはずだからである。言い換えると、実過給圧pimと推定過給圧pimeとの偏差がほとんど生じていなければ、過給圧が変化しておらず、即ちディフューザベーン43は閉側に動いておらず、開側の開度で固着していると考えられるからである。
【0044】
ECU1は、上記のようにディフューザベーン43が開固着していると判定した場合、開固着用のアクセル制限をかける。つまり、ECU1は、ディフューザベーン43が開固着している場合に、アクセル開度に対して付与すべき制限を適用する。
【0045】
なお、閾値Δpthcは、ディフューザベーン43の閉固着を判定するために用いられ、エンジン回転数や吸入空気量などに応じて設定される過給圧偏差の閾値である。同様に、閾値Δpthoは、ディフューザベーン43の開固着を判定するために用いられ、エンジン回転数や吸入空気量などに応じて設定される過給圧偏差の閾値である。例えば、閾値Δpthcと閾値Δpthoとは異なる値が用いられる。また、ディフューザベーン43の開固着判定を行う場合に設定される所定角度β[deg]は、過給圧変化を適切に検出可能で、且つ、ドライバビリティの悪化が生じないようなディフューザベーン43の開度変化量が用いられる。
【0046】
次に、図3及び図4を参照して、ディフューザベーン43の固着判定の具体例について説明する。
【0047】
図3は、ディフューザベーン43の閉固着判定の具体例を説明するための図を示す。図3は、横軸に時間を示し、縦軸に過給圧を示している。この場合、時刻t1で全開加速が開始され、時刻t1から所定時間T1が経過する時刻t2までの期間において、ディフューザベーン43の閉固着判定が行われる。実過給圧として「pim11」が得られた場合には、推定過給圧pimeと実過給圧pim11との偏差が小さいため(詳しくは当該偏差が閾値Δpthc以下であるため)、ディフューザベーン43が正常であると判定される。つまり、ディフューザベーン43が閉固着していないと判定される。これに対して、実過給圧として「pim12」が得られた場合には、推定過給圧pimeと実過給圧pim12との偏差が大きいため(詳しくは当該偏差が閾値Δpthcよりも大きいため)、ディフューザベーン43が閉固着していると判定される。
【0048】
図4は、ディフューザベーン43の開固着判定の具体例を説明するための図を示す。図4は、横軸に時間を示し、縦軸に過給圧を示している。なお、開固着判定は、上記したように、閉固着判定の終了後において、ディフューザベーン43を所定角度β[deg]だけ閉じる制御を行うことで実行される。
【0049】
この場合、時刻t2で閉固着判定が終了し、時刻t2から所定時間T2が経過する時刻t3までの期間において、ディフューザベーン43の開固着判定が行われる。実過給圧として「pim21」が得られた場合には、推定過給圧pimeと実過給圧pim21との偏差が大きいため(詳しくは当該偏差が閾値Δptho以上であるため)、ディフューザベーン43が正常であると判定される。つまり、ディフューザベーン43が開固着していないと判定される。これに対して、実過給圧として「pim22」が得られた場合には、推定過給圧pimeと実過給圧pim22との偏差が小さいため(詳しくは当該偏差が閾値Δpthoよりも小さいため)、ディフューザベーン43が開固着していると判定される。
【0050】
次に、図5を参照して、ディフューザベーン43を固着判定するために行われる処理の具体例について説明する。図5は、本実施形態におけるディフューザベーン43の固着判定処理を示すフローチャートである。この処理は、ECU1によって繰り返し実行される。
【0051】
なお、図5において、「t」は全開加速を開始してからの経過時間(以下では、単に「経過時間t」とも表記する。)を意味するものとする。また、「閉固着フラグ」は、ディフューザベーン43が閉固着していると判定された場合に設定されるフラグであり、「開固着フラグ」は、ディフューザベーン43が開固着していると判定された場合に設定されるフラグである。
【0052】
まず、ステップS101では、ECU1は、車両100が全開加速中であるか否かを判定する。つまり、ECU1は、ディフューザベーン43が全開に設定されると共にノズルベーン開度が全閉に設定されるような加速が行われているか否かを判定する。1つの例では、ECU1は、ディフューザベーン43を駆動するVGCアクチュエータ48への指令値及びノズルベーン53を駆動するVNTアクチュエータ58への指令値に基づいて、当該判定を行う。他の例では、ECU1は、アクセル開度などに基づいて設定すべき運転状態を求め、当該運転状態が、ディフューザベーン43を全開に設定する共にノズルベーン開度を全閉に設定すべき運転状態に該当するか否かを判定する。
【0053】
全開加速中である場合(ステップS101;Yes)、処理はステップS102に進み、全開加速中でない場合(ステップS101;No)、処理は終了する。ステップS102では、ECU1は、全開加速を開始してからの経過時間tが「0」より大きいか否かを判定する。経過時間tが「0」より大きい場合(ステップS102;Yes)、処理はステップS103に進む。これに対して、経過時間tが「0」以下である場合(ステップS102;No)、処理はステップS114に進む。この場合には、ECU1は経過時間tを「0」に設定して(ステップS114)、処理は終了する。
【0054】
ステップS103では、ECU1は、「0<t≦T1」といった関係が成立するか否かを判定する。具体的には、ECU1は、経過時間tが所定時間T1以下であるか否かを判定する。言い換えると、全開加速を開始してから所定時間T1が経過していないか否かを判定する。つまり、ステップS103では、ディフューザベーン43の閉固着判定を行うべき期間であるか否かの判定が行われる。「0<t≦T1」といった関係が成立する場合(ステップS103;Yes)、処理はステップS104に進む。この場合には、以降の処理でディフューザベーン43の閉固着判定が主に行われる。これに対して、「0<t≦T1」といった関係が成立しない場合(ステップS103;No)、つまり経過時間tが所定時間T1を超えている場合、処理はステップS108に進む。この場合には、ディフューザベーン43の閉固着判定が既に終了しているため、以降の処理で閉固着判定は行われない。当該場合には、以降の処理でディフューザベーン43の開固着判定が主に行われる。
【0055】
ステップS104では、ECU1は、閉固着フラグがオンであるか否かを判定する。つまり、ECU1は、ディフューザベーン43が閉固着しているとの判定が既になされているか否かを判定する。閉固着フラグがオンである場合(ステップS104;Yes)、処理はステップS107に進む。この場合には、ECU1は、ディフューザベーン43における閉固着用のアクセル制限をかけて(ステップS107)、処理は終了する。これに対して、閉固着フラグがオンでない場合(ステップS104;No)、処理はステップS105に進む。
【0056】
ステップS105では、ECU1は、ディフューザベーン43を全開に設定した場合に予想される推定過給圧pimeと、実過給圧pimとの偏差が、閾値Δpthcよりも大きいか否かを判定する。つまり、ECU1は、「pime−pim>Δpthc」といった関係が成立するか否かを判定する。即ち、ECU1は、ディフューザベーン43が閉固着しているか否かを判定する。
【0057】
ここで、ECU1は、エンジン回転数センサ32が検出したエンジン回転数や、エアフロメータ35が検出した吸入空気量などに基づいて、推定過給圧pimeを求める。例えば、ECU1は、エンジン回転数や吸入空気量などによって規定された所定の演算式、若しくは、エンジン回転数や吸入空気量などによって規定されたマップ(事前に作成される)に基づいて、推定過給圧pimeを求める。また、ECU1は、エンジン回転数や吸入空気量などに基づいて閾値Δpthcを設定する。例えば、ECU1は、エンジン回転数や吸入空気量などによって規定された所定の演算式、若しくは、エンジン回転数や吸入空気量などによって規定されたマップ(事前に作成される)に基づいて、閾値Δpthcを設定する。更に、ECU1は、圧力センサ31からの検出信号S31に基づいて、実過給圧pimを求める。例えば、ECU1は、圧力センサ31からの検出信号S31に基づいて、実過給圧pimと一定の関係のあるインマニ圧を求め、求められたインマニ圧に基づいて、実過給圧pimを求める。なお、このようにする代わりに、タービンハウジング51付近の排気通路24に圧力センサを設けることとし、ECU1は、当該圧力センサからの検出信号に基づいて、実過給圧pimを直接求めても良い。
【0058】
推定過給圧pimeと実過給圧pimとの偏差が閾値Δpthcよりも大きい場合(ステップS105;Yes)、処理はステップS106に進む。ステップS106では、ECU1は閉固着フラグをオンに設定する。つまり、ECU1は、ディフューザベーン43が閉固着していると判定する。そして、処理はステップS107に進む。ステップS107では、ECU1は閉固着用のアクセル制限をかけて、その後処理は終了する。これに対して、推定過給圧pimeと実過給圧pimとの偏差が閾値Δpthc以下である場合(ステップS105;No)、処理は終了する。この場合には、ECU1は、ディフューザベーン43が閉固着していると判定しない。
【0059】
次に、ステップS108以降の処理について説明する。ステップS108以降の処理では、主にディフューザベーン43の開固着判定が行われる。上記したように、ステップS108の処理は、経過時間tが所定時間T1を超えている場合(ステップS103;No)に行われる。
【0060】
ステップS108では、ECU1は、「T1<t≦T1+T2」といった関係が成立するか否かを判定する。具体的には、ECU1は、経過時間tが所定時間「T1+T2」以下であるか否かを判定する。言い換えると、全開加速を開始してから所定時間T1が経過した後に、それから更に所定時間T2が経過していないか否かを判定する。つまり、ステップS108では、ディフューザベーン43の開固着判定を行うべき期間であるか否かの判定が行われる。「T1<t≦T1+T2」といった関係が成立する場合(ステップS108;Yes)、処理はステップS109に進む。この場合には、以降の処理でディフューザベーン43の開固着判定が主に行われる。これに対して、「T1<t≦T1+T2」といった関係が成立しない場合(ステップS108;No)、つまり経過時間tが所定時間「T1+T2」を超えている場合、処理はステップS115に進む。この場合には、ECU1は経過時間tをリセットして(ステップS115)、処理は終了する。
【0061】
ステップS109では、ECU1は、開固着フラグがオンであるか否かを判定する。つまり、ECU1は、ディフューザベーン43が開固着しているとの判定が既になされているか否かを判定する。開固着フラグがオンである場合(ステップS109;Yes)、処理はステップS113に進む。この場合には、ECU1は、ディフューザベーン43における開固着用のアクセル制限をかけて(ステップS113)、処理は終了する。これに対して、開固着フラグがオンでない場合(ステップS109;No)、処理はステップS110に進む。
【0062】
ステップS110では、ECU1は、ディフューザベーン43を所定角度β[deg]だけ閉じる制御を行う。具体的には、ECU1は、VGCアクチュエータ48に対して制御信号S48を供給することで、ディフューザベーン43を所定角度β[deg]だけ閉じる制御を行う。例えば、所定角度β[deg]は、過給圧変化を適切に検出可能で、且つ、ドライバビリティの悪化が生じないようなディフューザベーン43の開度変化量が用いられる。そして、処理はステップS111に進む。
【0063】
ステップS111では、ECU1は、ディフューザベーン43を全開に設定した場合に予想される推定過給圧pimeと、ディフューザベーン43を所定角度β[deg]だけ閉じた際に得られる実過給圧pimとの偏差が、閾値Δpthoよりも小さいか否かを判定する。つまり、ECU1は、「pime−pim<Δptho」といった関係が成立するか否かを判定する。即ち、ECU1は、ディフューザベーン43が開固着しているか否かを判定する。
【0064】
ここで、推定過給圧pimeは、上記のステップS105で求められた値が用いられる。実過給圧pimは、上記した方法と同様の方法により求められるため、ここではその説明を省略する。閾値Δpthoは、上記した閾値Δpthcと同様に、エンジン回転数や吸入空気量などに基づいて設定される。例えば、ECU1は、エンジン回転数や吸入空気量などによって規定された所定の演算式、若しくは、エンジン回転数や吸入空気量などによって規定されたマップ(事前に作成される)に基づいて、閾値Δpthoを設定する。
【0065】
推定過給圧pimeと実過給圧pimとの偏差が閾値Δpthoよりも小さい場合(ステップS111;Yes)、処理はステップS112に進む。ステップS112では、ECU1は開固着フラグをオンに設定する。つまり、ECU1は、ディフューザベーン43が開固着していると判定する。そして、処理はステップS113に進む。ステップS113では、ECU1は開固着用のアクセル制限をかけて、その後処理は終了する。これに対して、推定過給圧pimeと実過給圧pimとの偏差が閾値Δptho以上である場合(ステップS111;No)、処理は終了する。この場合には、ECU1は、ディフューザベーン43が開固着していると判定しない。即ち、ECU1は、ディフューザベーン43が閉固着も開固着もしておらず、正常であると判定する。
【0066】
以上説明したディフューザベーン43の固着判定処理によれば、全開加速時において固着判定を行うことで、エンジン10の出力に対して与える影響を抑制しつつ、ディフューザベーン43の固着判定を精度良く行うことが可能となる。
【0067】
[変形例]
なお、本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。
【0068】
例えば、上記では、本発明を所謂「スイング式可変ディフューザ」に適用する実施形態を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。本発明は、ディフューザベーンの位置状態が、ディフューザ内部に突出した突出状態とディフューザ外部に没入した没入状態との間で切り替え可能に構成された、所謂「スライド式可変ディフューザ」にも適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 ECU
10 エンジン
14 吸気通路
24 排気通路
30 ターボ過給機
31 圧力センサ
40 VGC
43 ディフューザベーン
44 ディフューザ
50 VNT
53 ノズルベーン
100 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変ディフューザ付きのコンプレッサ及び可変ノズル付きのタービンを備える過給機の異常判定装置であって、
前記可変ノズルのノズルベーンの開度変化が所定値以下である際に、前記可変ディフューザのディフューザベーンの開度を変化させたときの過給圧の変化に基づいて、前記可変ディフューザの異常判定を行う異常判定手段を備えることを特徴とする過給機の異常判定装置。
【請求項2】
前記異常判定手段は、前記ノズルベーンの開度が全閉に設定される運転状態である際に、前記可変ディフューザの異常判定を行う請求項1に記載の過給機の異常判定装置。
【請求項3】
前記ノズルベーンの開度が全閉に設定される運転状態とは加速時である請求項2に記載の過給機の異常判定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−220219(P2011−220219A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90125(P2010−90125)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】