説明

遠心圧縮機

【課題】内燃機関に搭載された遠心圧縮機において、ベーン翼が氷結により固着してしまうことを抑制する技術を提供する。
【解決手段】スリット11を介してディフューザ通路壁内部からディフューザ通路5に出没自在なベーン翼8と、ベーン翼8を出没させる駆動装置13と、を備えた遠心圧縮機1であって、遠心圧縮機1が搭載された内燃機関の機関停止時に、駆動装置13によってベーン翼8の翼部10をディフューザ通路5に最も突出した位置よりも埋没側に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディフューザ通路に出没するベーン翼を有し、内燃機関に搭載される遠心圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
ベーン翼をダイアフラムと一体化しておき、ダイアフラム内の流体圧を調節してダイアフラムを変形させそのダイアフラムの変形をベーン翼に伝達し、ディフューザ通路にベーン翼を出没自在とした技術が開示されている(例えば特許文献1参照)。これにより特許文献1では、遠心圧縮機の運転流量が小流量であるとディフューザ通路にベーン翼を突出させ、遠心圧縮機の運転流量が大流量であるとディフューザ通路壁にベーン翼を埋没させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−329996号公報
【特許文献2】特開2001−329848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ベーン翼が突出した場合には、ベーン翼の先端とディフューザ通路壁とが接触したり、ベーン翼の土台部分のディスクとディフューザ通路壁とが接触したりする。この状態で遠心圧縮機が搭載された内燃機関が機関停止してしまうと、寒冷地等において接触部分に氷結が生じ、解凍されるまでベーン翼が固着して動かなくなるおそれがあった。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みたものであり、本発明の目的は、内燃機関に搭載された遠心圧縮機において、ベーン翼が氷結により固着してしまうことを抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にあっては、以下の構成を採用する。すなわち、本発明は、
スリットを介して通路壁内部からディフューザ通路に出没自在なベーン翼と、
前記ベーン翼を出没させるアクチュエータと、
を備えた遠心圧縮機であって、
前記遠心圧縮機が搭載された内燃機関の機関停止時に、前記アクチュエータによって前記ベーン翼を前記ディフューザ通路に最も突出した位置よりも埋没側に位置させることを特徴とする遠心圧縮機である。
【0007】
本発明によると、内燃機関の機関停止時に、ベーン翼がディフューザ通路に最も突出した位置よりも埋没側に位置する。これにより、内燃機関の機関停止時に、ベーン翼の先端とディフューザ通路壁とが非接触になり、またベーン翼の土台部分のディスクとスリットが形成されたディフューザ通路壁とも非接触になる。このため、内燃機関の機関停止が寒冷地等で行われても、そのときのベーン翼とディフューザ通路壁との接触部分を少なくでき、接触部分が氷結してしまいベーン翼が氷結により固着してしまうことを抑制することができる。
【0008】
前記遠心圧縮機が搭載された内燃機関の機関停止時に、前記アクチュエータによって前記ベーン翼を前記ディフューザ通路に最も突出した位置よりも埋没側の位置であって、前
記ベーン翼の少なくとも一部が前記ディフューザ通路に突出した位置に位置させるとよい。これによると、内燃機関の機関停止時にスリット部分でベーン翼がディフューザ通路壁と接触しているため、この接触部分で氷結が生じベーン翼が固着しても、内燃機関が機関始動されると、ディフューザ通路に突出したベーン翼の一部がディフューザ通路を流通する吸気により温められるので、氷結したベーン翼をより速やかに解凍することができる。
【0009】
前記内燃機関の機関始動前に、前記アクチュエータによって前記ベーン翼を動作させるとよい。これによると、内燃機関の機関停止時にスリット部分でベーン翼がディフューザ通路壁と接触しているため、この接触部分で氷結が生じベーン翼が固着しても、内燃機関の機関始動前に、ベーン翼を動作させて、氷結したベーン翼の固着をより速やかに解消することができる。このとき、砕けた氷が遠心圧縮機内に落下する。砕けた氷は、内燃機関の機関運転時であれば回転している羽根に衝突して羽根を損傷させるおそれがある。しかし、本発明では内燃機関の機関始動前であり、羽根は回転していないので、遠心圧縮機内に落下した砕けた氷による羽根の損傷を防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、内燃機関に搭載された遠心圧縮機において、ベーン翼が氷結により固着してしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1に係る遠心圧縮機の概略構成を示す図である。
【図2】実施例1に係るベーン翼の出没状態を示す図である。
【図3】実施例1に係る氷結が生じた状態を示す図である。
【図4】実施例1に係る機関停止時ベーン翼制御ルーチンを示したフローチャートである。
【図5】実施例1に係る機関始動時ベーン翼制御ルーチンを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の具体的な実施例を説明する。
【0013】
<実施例1>
(遠心圧縮機の構成)
図1は、本発明の実施例1に係る遠心圧縮機の概略構成を示す図である。図1に示す遠心圧縮機1は、内燃機関に搭載されるものである。遠心圧縮機1は、スクロールケーシング2を備え、スクロールケーシング2内の軸中心に羽根車3を備えている。遠心圧縮機1に流入した気体としての空気は、羽根車3の周方向に等間隔に設けられた羽根4にガイドされて、羽根車3の外周側に設けられたディフューザ通路5に流入する。
【0014】
ディフューザ通路5は、スクロールケーシング2の一部であるディフューザ通路壁に挟まれている。図1右側の一方のディフューザ通路壁は、板状のディフューザプレート6で構成されており、ケーシング本体とは別体である。ディフューザプレート6は、ケーシング本体にネジで固定されている。ディフューザプレート6の配置されたディフューザ通路壁内には、ディフューザプレート6で覆うことのできる空間7が設けられている。空間7は、中空円筒状であり、ディフューザ通路5内に出没自在なベーン翼8を収納可能である。
【0015】
ベーン翼8は、土台としての円環状のディスク9と、ディスク9に一端が固定され周方向に間隔を空けて配置された複数の翼部10と、を備える。ディフューザプレート6には、ベーン翼8の翼部10が差し込まれるスリット11が形成されている。これにより、ベ
ーン翼8のディスク9をディフューザプレート6に近付けると、ベーン翼8の翼部10がスリット11からディフューザ通路5に突出する。一方、ベーン翼8のディスク9をディフューザプレート6(ディフューザ通路5)から離すと、翼部10がスリット11にガイドされて空間7に収納されディフューザ通路壁内部にベーン翼8が埋没する。
【0016】
ベーン翼8が収納される空間7には、ディスクの外周部との間でカム機構を構成する環状リング12が配置されている。環状リング12は、駆動装置13の駆動を受けた駆動アーム14によって回転し、ディスク9を軸方向に移動させる。すなわち、環状リング12が回転することにより、ディスク9が軸方向に移動し、ベーン翼8の翼部10がディフューザ通路5に出没する。ここで、駆動装置13は、ECU15の指令により内燃機関のバッテリ16からの電力で内燃機関が機関停止していても駆動できるものである。本実施例の駆動装置13が、本発明のアクチュエータに対応する。
【0017】
(遠心圧縮機の動作)
図2は、図1A−A断面であり、本実施例に係るベーン翼8の出没状態を示す図であり、図2(a)はベーン翼8の翼部10がディフューザ通路5に最も突出した突出状態を示し、図2(b)はベーン翼8がディフューザ通路壁に埋没した埋没状態を示し、図2(c)はベーン翼8の翼部10の一部がディフューザ通路5に突出した中間状態を示す。
【0018】
遠心圧縮機1が空気を低流量かつ低過給圧にさせるよう運転する場合には、駆動装置13に駆動されて回転した環状リング12でディスク9を軸方向に移動させてベーン翼8の翼部10をディフューザ通路5に最大限突出させ、図2(a)に示すようにベーン翼8の翼部10がスリット11からディフューザ通路5に突出させた突出状態にする。
【0019】
一方、遠心圧縮機1が空気を高流量かつ高過給圧にさせるよう運転する場合には、駆動装置13に駆動されて回転した環状リング12でディスク9を軸方向に移動させてベーン翼8の翼部10をディフューザ通路壁に埋没させ、図2(b)に示すようにベーン翼8の翼部10がディフューザ通路壁に埋没した埋没状態にする。
【0020】
ところで、図2(a)に示すベーン翼8の突出状態で遠心圧縮機1が搭載された内燃機関が機関停止してしまうと、寒冷地等においては、ベーン翼8とディフューザ通路壁との接触部分に氷結が生じてしまう。図3(a)は、ベーン翼8の突出状態で氷結が生じた場合を示す図である。図3(a)に示すように、氷結が生じる箇所は、ベーン翼8の翼部10の先端とディフューザ通路壁とが接触した氷結箇所Aと、ベーン翼8の土台部分のディスク9とディフューザプレート6とが接触した氷結箇所Bと、ベーン翼8の翼部10とディフューザプレート6に形成されたスリット11の内周とが接触した氷結箇所Cとが存在する。このように氷結箇所A〜Cが存在すると、駆動装置13の駆動力よりも氷結によるベーン翼8の固着力が勝り、解凍されるまでベーン翼8が固着して動かなくなるおそれがあった。
【0021】
そこで、本実施例では、内燃機関の機関停止時に、駆動装置13に駆動されて回転した環状リング12でディスク9を軸方向に移動させてベーン翼8の翼部10を、ディフューザ通路5に最も突出した位置よりも埋没側の位置であって、ベーン翼8の翼部10の少なくとも一部がディフューザ通路5に突出した位置に位置させた図2(c)に示す中間状態にする。
【0022】
図3(b)は、ベーン翼8の中間状態で氷結が生じた場合を示す図である。本実施例により、内燃機関の機関停止時に、ベーン翼8の翼部10の先端とディフューザ通路壁とが非接触になり図3(a)に示す氷結箇所Aが無くなり、またベーン翼8の土台部分のディスク9とスリット11が形成されたディフューザプレート6とも非接触になり図3(a)
に示す氷結箇所Bが無くなる。このため、内燃機関の機関停止が寒冷地等で行われても、そのときのベーン翼8とディフューザ通路壁との接触部分は、図3(b)に示すベーン翼8の翼部10とディフューザプレート6に形成されたスリット11の内周とが接触した氷結箇所Cだけと、氷結部分を少なくでき、ベーン翼8が氷結により固着してしまうことを抑制することができる。なお、この効果を得ることができる構成としては、少なくとも、内燃機関の機関停止時に、駆動装置13に駆動されて回転した環状リング12でディスク9を軸方向に移動させてベーン翼8の翼部10をディフューザ通路5に最も突出した位置よりも埋没側に位置させるものでもよい。すなわち、図2(b)の埋没状態とするものでもよい。
【0023】
上記に加え、内燃機関の機関停止時にベーン翼8を図2(c)に示す中間状態とすると、内燃機関の機関停止時にスリット11部分でベーン翼8がディフューザ通路壁と接触しているため、この接触部分で氷結が生じ図3(b)に示す氷結箇所Cでベーン翼8が固着しても、内燃機関が機関始動されると、ディフューザ通路5に突出したベーン翼8の翼部10の一部がディフューザ通路5を流通する吸気により温められるので、氷結したベーン翼8をより速やかに解凍することができる。
【0024】
次に、本実施例による具体的な内燃機関の機関停止時の機関停止時ベーン翼制御のフローについて説明する。図4は、本実施例に係る機関停止時ベーン翼制御ルーチンを示したフローチャートである。本ルーチンは、所定の時間毎に繰り返し実行される。本ルーチンの処理が開始されると、まず、S101では、内燃機関が機関停止されたか否かを判別する。S101において肯定判定された場合には、S102へ移行する。S101において否定判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。S102では、駆動装置13に駆動されて回転した環状リング12でディスク9を軸方向に移動させてベーン翼8の翼部10を、ディフューザ通路5に最も突出した位置よりも埋没側の位置であって、ベーン翼8の翼部10の少なくとも一部がディフューザ通路5に突出した位置に位置させた図2(c)に示す中間状態にする。S102の処理の後、本ルーチンを一旦終了する。以上の本ルーチンによると、内燃機関の機関停止時にベーン翼8を図2(c)に示す中間状態にすることができる。
【0025】
ここで、上記のように内燃機関の機関停止時にベーン翼8を図2(c)に示す中間状態にしても、図3(b)に示す氷結箇所Cでベーン翼8が固着する可能性がある。そこで、本実施例では、内燃機関の機関始動前に、内燃機関のイグニッションスイッチがONされると、駆動装置13に駆動されて回転した環状リング12でディスク9を軸方向に移動させてベーン翼8を、図2(c)に示す中間状態から図2(b)に示す埋没状態とし、さらに図2(a)に示す突出状態とする。ベーン翼8の以上の動作の後、内燃機関のスタータを作動させ機関始動する。
【0026】
本実施例によると、内燃機関の機関停止時に図3に示す氷結箇所Cで氷結が生じベーン翼8が固着しても、内燃機関の機関始動前に、ベーン翼8を動作させて、氷結したベーン翼8の固着をより速やかに解消することができる。このとき、砕けた氷が遠心圧縮機1内に落下する。砕けた氷は、内燃機関の機関運転時であれば回転している羽根4に衝突して羽根4を損傷させるおそれがある。しかし、本実施例では内燃機関の機関始動前であり、羽根4は回転していないので、遠心圧縮機1内に落下した砕けた氷による羽根4の損傷を防止することができる。なお、この効果を得ることができる構成としては、少なくとも、内燃機関の機関始動前に、駆動装置13に駆動されて回転した環状リング12でディスク9を軸方向に移動させてベーン翼8をわずかでも移動させるものでもよい。
【0027】
次に、本実施例による具体的な内燃機関の機関始動時の機関始動時ベーン翼制御のフローについて説明する。図5は、本実施例に係る機関始動時ベーン翼制御ルーチンを示した
フローチャートである。本ルーチンは、所定の時間毎に繰り返し実行される。本ルーチンの処理が開始されると、まず、S201では、イグニッションスイッチ(IG)がONされたか否かを判別する。S201において肯定判定された場合には、S202へ移行する。S201において否定判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。S202では、駆動装置13に駆動されて回転した環状リング12でディスク9を軸方向に移動させてベーン翼8を、図2(c)に示す中間状態から、一旦図2(b)に示す埋没状態にし、さらに図2(a)に示す突出状態にする。S202の処理の後のS203では、内燃機関の機関始動を行う。S203の処理の後、本ルーチンを一旦終了する。以上の本ルーチンによると、内燃機関の機関始動前にベーン翼8の氷結の解消を試みることができる。
【0028】
本発明に係る遠心圧縮機は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1:遠心圧縮機、2:スクロールケーシング、3:羽根車、4:羽根、5:ディフューザ通路、6:ディフューザプレート、7:空間、8:ベーン翼、9:ディスク、10:翼部、11:スリット、12:環状リング、13:駆動装置、14:駆動アーム、15:ECU、16:バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリットを介して通路壁内部からディフューザ通路に出没自在なベーン翼と、
前記ベーン翼を出没させるアクチュエータと、
を備えた遠心圧縮機であって、
前記遠心圧縮機が搭載された内燃機関の機関停止時に、前記アクチュエータによって前記ベーン翼を前記ディフューザ通路に最も突出した位置よりも埋没側に位置させることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
前記遠心圧縮機が搭載された内燃機関の機関停止時に、前記アクチュエータによって前記ベーン翼を前記ディフューザ通路に最も突出した位置よりも埋没側の位置であって、前記ベーン翼の少なくとも一部が前記ディフューザ通路に突出した位置に位置させることを特徴とする請求項1に記載の遠心圧縮機。
【請求項3】
前記内燃機関の機関始動前に、前記アクチュエータによって前記ベーン翼を動作させることを特徴とする請求項1又は2に記載の遠心圧縮機。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−252416(P2011−252416A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125835(P2010−125835)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】