説明

遮熱コーティングの補修方法並びに得られる補修コーティング

【課題】 遮熱コーティング(TBC)、特にアルミナ−シリカ組成物系TBCの補修に適したコーティング組成物及び補修方法の提供。
【解決手段】 本発明の方法では、中実セラミック粒子と中空セラミック粒子とシリカ前駆体バインダーとを含有するコーティング組成物を調製し、開口、例えばTBCの剥離によって露出した部品の表面領域にコーティング組成物を施工し、次いでバインダーを反応させて部品の表面領域を覆う補修コーティングを生じさせる。得られる補修コーティングは、バインダーの熱分解によって生じるシリカマトリックス中に中実セラミック粒子と中空セラミック粒子を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンの過酷な熱的環境のような高温に暴露される部品のためのコーティングに関する。具体的には、本発明は、局所的剥離を起こした遮熱コーティングの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機及び産業用(発電)ガスタービンエンジンのホットセクション部品は遮熱コーティング(TBC)で保護されることが多く、その皮膜下の部品基材の温度を下げて部品の実用寿命を延ばす。セラミック材料、特にイットリア安定化ジルコニア(YSZ)は、高温性能、低い熱伝導率、並びにプラズマ溶射、フレーム溶射及び電子ビーム物理気相成長法(EBPVD)のような物理気相成長法(PVD)による製膜が比較的容易であることから、TBC材料として広く使用されている。大気プラズマ溶射(APS)は、機器費用が比較的低く、施工及びマスキングが容易であるので、他の製膜法よりも好ましいことが多い。
【0003】
分析の結果、APS法で成膜したYSZ TBCは、約250〜500μmの典型的な厚さで製膜した場合、熱放射(波長約780nm〜約1mm)に約20%〜70%透明であることが判明した。そのため、かかるTBCで得られる熱保護は、ガスタービンの燃焼器セクションのような熱放射負荷の高い環境では、それらの赤外線(IR)透過率によって損なわれる。これに対応すべく、燃焼器ハードウェア及び同様な作動条件に暴露される他のハードウェアを遮熱するための他の材料が提案されている。注目すべき例として、燃焼器で特に問題となるIR波長(例えば波長約0.3〜約6μm)に不透明なアルミナ及びシリカを含有する材料がある。これらのコーティング材料は、質量が低く、遮熱特性に優れるという利点もある。こうしたコーティング材料から形成されたTBCの具体例では、アルミナ粉末粒子とシリカ前駆体を含有する混合物を使用し、保護すべき表面に施工し、加熱して前駆体を熱分解し、アルミナ粉末粒子が分散したシリカマトリックスを形成する。混合物は、テープとして予備成形してから表面に貼り付けてもよいし、或いは表面に溶射してもよい。例として、本願出願人に譲渡された米国特許第6165600号、同第6177186号、同第6210791号、同第6465090号及び同第6827969号を参照されたい。
【0004】
TBC系が有効であるには、低い熱伝導率を有していなければならず、部品に強固に密着していなければならず、さらに多くの加熱・冷却サイクルを通して密着し続けていなければならない。後者の要件は、TBCのセラミック材料と、保護される基材(通例金属超合金)との熱膨張率が異なるために特に厳しいものである。TBC皮膜系の接着を促進し、その実用寿命を延ばすために、耐酸化性ボンドコートが使用されることが多い。ボンドコートは典型的にはMCrAlX(式中、Mは鉄、コバルト及び/又はニッケルであり、Xはイットリウム、希土類元素及び/又は反応性元素である。)又は拡散アルミナイド皮膜のようなオーバーレイ皮膜の形態である。セラミックTBCの製膜及び高温暴露時(エンジン作動時)に、ボンドコートはアルミナ(Al23)層又はアルミナスケールを形成してTBCをボンドコートに接着させる。
【0005】
TBC系の実用寿命は、通例、ボンドコートの酸化、界面応力の増大とそれに起因する熱疲労によって促進される剥離現象によって制限される。技術は大きく進歩しているが、遮熱コーティングが剥離してしまった部品を補修する必要性は避けることができない。剥離は通例局所的な領域又はパッチで起こるが、従来の補修法では遮熱コーティングを完全に除去し、必要に応じてボンド層表面を修復又は補修してから、部品全体を再度被覆する。代替法として、Nagarajらの米国特許第5723078号には、TBCの剥離した領域をプラズマ溶射法を用いて選択的に補修する方法が教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6165600号明細書
【特許文献2】米国特許第6177186号明細書
【特許文献3】米国特許第6210791号明細書
【特許文献4】米国特許第6465090号明細書
【特許文献5】米国特許第6827969号明細書
【特許文献6】米国特許第5723078号明細書
【特許文献7】米国特許第6294261号明細書
【特許文献8】米国特許第5759932号明細書
【特許文献9】米国特許第5985368号明細書
【特許文献10】米国特許第5123248号明細書
【特許文献11】米国特許第5211536号明細書
【特許文献12】米国特許第5817372号明細書
【特許文献13】米国特許第6047539号明細書
【特許文献14】米国特許第6368727号明細書
【特許文献15】米国特許第5059095号明細書
【特許文献16】米国特許第5384200号明細書
【特許文献17】米国特許第4338360号明細書
【特許文献18】米国特許第6726444号明細書
【特許文献19】米国特許第5817371号明細書
【特許文献20】米国特許第6022594号明細書
【特許文献21】米国特許第4232527号明細書
【特許文献22】米国特許第5626923号明細書
【特許文献23】米国特許第4030936号明細書
【特許文献24】米国特許第4332618号明細書
【特許文献25】米国特許出願公開第20070134408号明細書
【特許文献26】米国特許出願公開第20050282020号明細書
【特許文献27】米国特許出願公開第20050228098号明細書
【特許文献28】米国特許出願公開第20050100757号明細書
【特許文献29】米国特許出願公開第20020182362号明細書
【特許文献30】米国特許出願公開第20030207155号明細書
【特許文献31】米国特許出願公開第20040214938号明細書
【特許文献32】米国特許出願公開第20050031846号明細書
【特許文献33】米国特許出願公開第20020102360号明細書
【特許文献34】米国特許出願公開第20020102411号明細書
【特許文献35】米国特許出願公開第20030138658号明細書
【特許文献36】米国特許出願公開第20040197580号明細書
【特許文献37】米国特許出願公開第20030200752号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
大型発電タービンの場合、TBCが局所的にしか剥離していない部品を取り外すために発電を長期間完全に停止するのは経済的に望ましくない。そのため、TBCの剥離が認められた部品を分析して高応力領域で剥離が起きているか否かを調べてから、部品の熱保護の低下に起因するタービンの損傷のリスクについて判断することが多い。熱保護の低下が過大であると部品の破壊的故障を招きかねない。TBCを補修することに決定したら、剥離した部品を取り外し、剥離表面領域に新たなTBC材料をプラズマ溶射によって製膜する。かかる補修法はYSZ系TBCの補修に多用されている。しかし、上述のアルミナ−シリカTBC材料の補修に適したものを含めて、新たな補修材料及び補修技術に対するニーズは依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、部品のTBCの補修に適したコーティング組成物及び補修方法、特にアルミナ−シリカ組成物系TBC材料を提供する。
【0009】
本発明の第1の態様では、方法は、中実セラミック粒子と中空セラミック粒子とシリカ前駆体バインダーとを含むコーティング組成物を調製し、コーティング組成物を部品の露出した表面領域(例えば局所的剥離によって露出した領域)に施工し、次いでバインダーを反応させて、部品の表面領域を被覆する補修コーティングを得ることを含む。得られる補修コーティングは、バインダーの熱分解によって形成されたシリカマトリックス中に中実セラミック粒子及び中空セラミック粒子を含んでいる。本発明は、コーティング組成物及び補修TBCも包含する。
【0010】
上述のコーティング組成物及び得られる補修コーティングはアルミナ−シリカ系TBC材料と適合性であり、中空セラミック粒子は、密度を下げるとともに補修コーティングの遮熱及び耐エロージョン性を高めるという追加の利点ももたらす。中実及び中空セラミック粒子に好ましい材料は、タービンエンジンの燃焼器セクションで特に問題となるIR波長(例えば約0.3〜約6μmの波長)に不透明である。従って、補修コーティングに好ましい材料は補修TBCの熱反射性を損なわない。
【0011】
以上から、本発明の方法では、TBCの補修に際して、TBCを完全に除去する必要もなければ、部品を取り外す必要もないことが分かる。本方法では、シリカ前駆体バインダーを最初に硬化させれば補修コーティングはエンジン作動に耐えられる十分な強度を呈し、エンジン作動中に前駆体バインダーがシリカマトリックスを形成するように徐々に変換されるので、高温処理も必要としない。その結果、補修を完了し、タービンエンジンの作動を再開するまでに要する休止時間が最小限となる。大型発電タービンの場合、剥離が局所的にしか起きていない部品を取り外し、補修し、再度取り付けるため発電を長期間完全に停止することの費用が回避される。
【0012】
本発明の方法は、特に限定されないが、アルミナ−シリカ組成物以外の材料から形成され、航空機及び産業用(発電)ガスタービンエンジンのホットセクション部品に施工されるTBCを始めとして、熱負荷に暴露される多種多様な部品のセラミック皮膜の補修に使用できる。
【0013】
本発明のその他の目的及び利点については、以下の詳細な説明から理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、局所的剥離を起こした遮熱コーティングで保護された部品表面の概略断面図である。
【図2】図2は、本発明の好ましい実施形態による遮熱コーティングの補修時の図1の部品表面の概略断面図である。
【図3】図3は、本発明の好ましい実施形態による遮熱コーティングの補修時の図1の部品表面の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、比較的高い温度で特徴付けられる環境中で作動し、厳しい熱応力、熱サイクリング及び熱放射負荷に付される遮熱コーティングで保護された部品に関する。かかる部品の具体例としては、航空機及び産業用途で用いられるガスタービンエンジンの高圧及び低圧タービンノズル及びブレード、シュラウド、燃焼器ライナー、二次シール及びオーグメンターハードウェアがある。特に、本発明は、熱伝導及び熱放射に対して遮熱性を示す遮熱コーティング(TBC)に関する。本発明の利点を、特にタービンエンジンの燃焼器部品について当てはまるものとして説明するが、本発明は、部品を環境から遮熱するための遮熱コーティングを使用し得るあらゆる部品に広く応用できる。
【0016】
図1に、部品10の表面領域を、例えば局所的剥離によって露出した領域20を有する遮熱コーティング(TBC)系12と共に示す。TBC系12は、部品10の表面上のボンドコート14と、ボンドコート14上に遮熱コーティングとして製膜されたセラミック層(TBC)16からなるものとして図示してある。ガスタービンエンジンのホットセクション部品でみられるように、部品10はニッケル基、コバルト基又は鉄基超合金から形成し得る。ボンドコート14は、その下の部品10を酸化から保護するとともにセラミック層16が部品10に強固に接着できるように、好ましくは耐酸化性金属材料から形成される。ボンドコート14に適した材料としては、特に限定されないが、MCrAlXオーバーレイ皮膜及び拡散アルミナイド皮膜が挙げられる。ボンドコート14の製膜後、高温でボンドコート14の表面に酸化物スケール18が生じる。酸化物スケール18は、セラミック層16がさらに強く接着する表面を与えて、セラミック層16の耐剥離性を増大させる。
【0017】
セラミック層16はTBC材料として広く使用されているYSZ材料を始めとして、様々な材料から形成し得るが、本発明の補修方法の結果はセラミック層16の熱膨張特性と以下に述べる補修材料との適合性の程度にある程度依存する。本発明の好ましい実施形態では、セラミック層16は、タービンエンジンの燃焼器セクションで特に問題となるIR波長に不透明なアルミナ/シリカ系材料(アルミナ、シリカ及び/又はアルミノケイ酸塩が主成分であるもの)である。かかる材料の具体例には、上述の米国特許第6165600号、同第6177186号、同第6210791号、同第6465090号及び同第6827969号に記載されたものがあり、それらのコーティング組成物及びコーティング法に関する開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。セラミック層16は、部品10の表面に貼ったテープから形成してもよいし、部品表面に溶射した組成物から形成してもよいし、その他の適当な製膜法で形成してもよい。コーティング材料の好ましい例は、アルミナ粉末粒子及び適宜追加のセラミック粒子と、シリカ前駆体とを含んでいるものであり、これらを混合して部品表面に塗工し、加熱して前駆体を熱分解させて、粉末粒子が分散したシリカマトリックスを生じさせる。コーティング材料は、得られるセラミック層16が部品10に所要の熱保護をもたらすことができる十分な厚さで製膜される。
【0018】
タービンエンジンの燃焼セクション内部に配置されると、部品10の表面はエンジン作動中に高温燃焼ガスに暴露され、酸化、腐食及びエロージョンによる激しい作用に付される。従って、部品10はTBC系12によって過酷な作動環境から保護された状態を維持し続けなければならない。剥離に起因するセラミック層16の損失は部品10の早期劣化(往々にして急激な劣化である)を招く。そのため、図1に示すセラミック層16の局所剥離領域20を補修するか、或いは部品10を廃棄する必要がある。本発明の好ましいTBC補修プロセスを図2及び図3に示す。部品10の補修で実施される以下の各工程は、部品10をタービンエンジンに取り付けたままで実施することができるので、部品を取り外し、後で取り付ける必要性は全くない。
【0019】
補修プロセスは、非損傷セラミック層16を傷つけずに、弱く付着した酸化物、グリース、オイル及びすすのような汚染物質を除去するため、局所剥離領域20で露出した表面22を洗浄することから始める。剥離領域20で露出したセラミック層16の十分に密着した残留物及び酸化物スケール18は、図2に示す通り、剥離領域20に堆積させるコーティング組成物24の接着を依然として促進できる。本発明では、コーティング組成物24は、1種以上の中実(非中空)セラミック粒子26の粉末と1種以上の中空セラミック粒子(ミクロバルーン)28の粉末とシリカ前駆体とを含有する混合物であり、十分に加熱すると図3に示すようにセラミック補修コーティング30を形成する。さらに、コーティング組成物24は、ガラス組成物などの他の充填材料を含んでいてもよい。
【0020】
中実粒子26は好ましくはアルミナであるが、その他のセラミック材料又は混合物を使用してもよい。好ましい材料は、アルミナ、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO2)及びカルシア(CaO)を始めとする、IR波長に不透明な耐火性酸化物である。さらに、YSZ粒子を、約0.9〜約2.5μmの波長に対する散乱部位として、中実粒子26の一部として配合してもよい。コーティング組成物24の粉末粒子26その他の中実成分に好適な粒径は概して約0.01〜約100μmであり、さらに好ましくは約0.1〜約25μmである。コーティング30の具体的用途及び所望の構造に応じて、中実粒子26用の好ましいアルミナ粉末としては、Almatis社から入手できるA−14(未粉砕焼成アルミナ粉末、粒径範囲約3〜5.5μm)、同じくAlmatis社から入手できるA−16SG(超粉砕熱反応性アルミナ粉末、粒径範囲約0.3〜0.5μm)及びBaikowski International社から入手できるSM8(粒径範囲約0.10〜0.6μm)が挙げられる。
【0021】
コーティング30の具体的用途及び所望の構造に応じて、中空セラミック粒子28はアルミナ、他のセラミック材料又は1種以上のセラミック材料の混合物でよいが、好ましい材料はIR波長に不透明なもの、例えばアルミノケイ酸塩を始めとするケイ酸塩及びアルミナである。図2及び図3では、中空粒子28はコーティング組成物24及び補修コーティング30の全体に描かれているが、中空粒子28は組成物24及びコーティング30の特定の領域、例えば最も内側、最も外側及び/又は中間領域に限定されていてもよい。本発明の好ましい態様では、中空セラミック粒子28が果たす重要な役割は、タービンエンジンの燃焼器セクションで特に問題となるIR波長に対するアルミナ−シリカセラミック層16の全体としての不透明性を損なわずに補修コーティング30の遮熱性を高めることである。その他の潜在的な利点として、不都合な重量増をほとんど又は全く伴わずに補修コーティング30の耐エロージョン性を向上させることが挙げられる。中空粉末粒子28は中実粉末粒子26に比べて密度が低いので、中実粒子26しか含まない同様のコーティング組成物の重量を超えずに補修コーティング30の厚さを増したり、或いは同様な厚さの補修コーティング30を軽量化することができる。中空粒子28用の好ましい材料としては、粒子密度が0.40g/cm3未満のアルミノケイ酸塩が挙げられる。中空セラミック粉末の供給元は、Sphere One社(Extendospheres(商標))、3M社(Zeeospheres(商標))、Sphere Services社(cenosphere)及びTrelleborg Emerson & Cuming社(Eccospheres(商標))など数多く存在する。好ましい中空セラミック粒子28としては、Sphere One社から入手できるExtendospheres(商標)SL(約10〜約150μm)及び3M社から入手できるZeeospheres(D50約18μm)のような粒径範囲約0.05〜約200μmのアルミノケイ酸塩がある。
【0022】
シリカ前駆体はコーティング組成物24中でバインダーとして機能する。好ましいシリカ前駆体はポリメチルシロキサンのようなシリコーン系組成物であると思料されるが、TEOS(テトラ−エチル−オルト−シリケート)又はコロイド状ケイ素源のような他のケイ素源及びセラミック前駆体も使用できると考えられる。特に好適な前駆体としては、Apollo Plastics社(例えば、SR350及びSR355)及びDow Chemical社のような供給元から入手できるポリシロキサン群のメチルセスキシロキサン混合物、並びにMonsanto社からB−79という商品名で入手できるポリビニルブチラールが挙げられる。
【0023】
組成物24の残りの成分は好ましくは有機物であって、主に担体としての液体又は溶媒と、適宜、界面活性剤、分散剤、及び/又は粉末粒子26及び28同士を接着して表面22に施工することができる組成物24を生じさせることのできる追加のバインダー/可塑剤である。追加成分の種類及び量に応じて、組成物24は、固体ではあるが表面22に貼り付けることのできる柔軟なテープとして配合及び処理することもできるし、或いはパテ又はペーストとして施工できるさらに柔軟で順応性に富む材料として配合及び処理することもできる。好適な担体液体/溶媒はエタノール、変性アルコール及びイソプロピルアルコールのような無水アルコールであるが、アセトン、トリクロロエチレン及びその他シリコーン材料と適合性のものも使用できる。好適な可塑剤としては、フタル酸ジブチル(DBP)及びポリビニルブチラール(例えば、上述のB−79)が挙げられる。組成物24をテープの形態で使用する場合には、熱又は圧力でテープを表面22に貼り付けて化学的又は機械的に付着させることができるように十分な割合のバインダー及び可塑剤が存在すべきである。また、組成物24(特にテープとして調製されたもの)が剥離領域20で露出した表面22に付着できるように適度に粘着性の稠度を達成するため、界面活性剤を使用することもできる。好適な界面活性剤としては、Whitco Chemical社からPS21Aとして市販されているアルキル有機リン酸エステル酸界面活性剤がある。使用し得る他の界面活性剤は、Stephan社からMerpol Aという商品名で入手できる。
【0024】
組成物24に使用される有機物の割合は、補修プロセスで得ようとするコーティング30の構造特性がその厚さによって変化するか否か、その場合に組成の異なる組成物24の複数の層を表面22に施工するか否かに依存し得る。例えば、施工コーティング材料24の最も内側の層又は領域は、サブミクロン空隙を生じさせてコーティング30の遮熱性能を高める望ましい気孔率レベルを得るのに十分なバインダー/可塑剤を含有するのが望ましいことがあるが、最も外側の層又は中間層に使用される有機物の割合は、気孔率を最小限にして耐摩耗性及び耐浸透性を高めるため、低いのが好ましい。
【0025】
ペースト又はテープのいずれの形態で配合するにしても、コーティング30の所定の領域が追加の性質改善を示すように配合するのが望ましいことがある。例えば、コーティング30の最外表面領域は、IR反射性又はIR吸収性の粒子、並びに耐エロージョン性及び/又は耐食性材料のような他の成分を含んでいてもよい。別の例は、部品10の空力特性を高める滑らかな表面仕上げがコーティング30の最外表面領域で得られるように配合することである。この場合、最外層としては、粒度の細かい中実及び/又は中空粒子26及び28を用いたコーティング組成物24を施工するのが望ましい。例えば、コーティング30の内部をA14のようなアルミナ粉末材料を含有する組成物24で形成し、コーティング30の外表面を、A16SGのような粒度の細かいアルミナ粉末材料を含有し、中空粒子28を全く含んでいなくてもよい組成物24で形成してもよい。
【0026】
以下の表I及び表IIに、それぞれペースト及びテープの形態のコーティング組成物24の各成分の一般的範囲及び好ましい範囲を重量%で示す。
【0027】
【表1】

表Iに具体例として示した量に関して、溶媒は好ましくは変性アルコール又はアセトンであり、中実粉末粒子は好ましくはA16SG又はA14アルミナであり、シリカ前駆体は好ましくはSR350である。
【0028】
【表2】

表IIに具体例として示した量に関して、溶媒は好ましくは変性アルコール又はアセトンであり、中実粉末粒子は好ましくはA16SGアルミナであり、シリカ前駆体は好ましくはSR355であり、追加のバインダーは好ましくはB−79であり、可塑剤は好ましくはDBPであり、界面活性剤は好ましくはPS21Aである。表IIのテープ組成物から溶媒を蒸発させてから、テープを部品表面22に貼り付け、焼結して補修コーティング30を形成する。
【0029】
表I及び表IIのシリカ前駆体の選択は、それらのシリカ収率にある程度依存する。表Iに示すSR350バインダーは、コーティング組成物24中に元々存在するSR350バインダー量の約60〜約75重量%の量でシリカを生成するが、表IIに示す同量のSR355バインダーで得られるシリカの量は、テープコーティング組成物24中に元々存在するSR355バインダー量の約30〜約40重量%と低い。
【0030】
本発明のコーティング組成物24をペーストとして調製するのに適したプロセスでは、表Iに示す成分を一緒に混合して適当なペースト状稠度とした後、組成物24をコテなどで塗工して剥離領域20を埋めればよい。組成に応じて、ペースト状組成物24のバインダーは室温で反応させることもできるし、或いは補修コーティング30の強度がタービンエンジンでの作動に必要なレベルに達するまで、加熱ランプ、トーチその他の熱源などで加熱することによって反応を促進してもよい。好ましいシリコーンバインダーを硬化させるための好適な硬化処理は室温で約16時間であるが、昇温することによって硬化時間を大幅に短縮することができる。ペースト組成物24の剥離領域20への適合及びバインダーの硬化は、塗工した組成物24を加熱アイロンで押圧することを始めとする熱的処理で促進することができる。次いで、部品10を使用できるように準備するため後加工処理を実施することができる。
【0031】
タービンエンジンの運転中、補修コーティング30は反応し続け、コーティング30の強度その他の機械的特性を増大させる。好ましいシリコーンバインダーは、まず重合によって硬化して、エンジン作動に十分な強度を有するシリコーンマトリックスを形成する。高温で長期使用するうちに、シリコーンがシリカに熱分解して、セラミック粒子26及び28が分散したシリカマトリックスを生じる。
【0032】
本発明のコーティング組成物24をテープとして調製するのに適したプロセスでは、テトラフルオロエチレン(TEFLON(商標))シート上で1以上のテープを流延する。表IIに規定した範囲内の組成物をTEFLONシートに塗工した後、十分な時間乾燥して溶媒を蒸発させる。次いで、乾燥テープをTEFLONシートから取り外して、補修コーティング30で保護すべき部品表面に移動させる。特性の異なる多層コーティング30が望まれる場合、コーティング30の最も内側の層又は領域を生じるように配合されたテープを最初に貼り付けてから、コーティング30の最も外側及び中間の層又は領域を生じるように1枚以上のテープを貼り付けてもよい。或いは、一枚のテープを貼り付けるだけで済むように、所望の各種コーティング組成物24を含有する一枚の多層テープを流延してもよい。一枚の多層テープを使用する利点は、コーティング30内部で様々な気孔率レベルが達成されるように、例えば、部品10の表面22近傍では高い気孔率、コーティング30の外表面近傍では低い気孔率となるように、中実粒子26、中空粒子28及びバインダーの相対量を変化させることができることである。上述の通り、中実及び中空粒子26及び28の相対的粒度並びに中実及び中空粒子26及び28とバインダーとの相対量を適切に選択することによって、補修コーティング30の表面の平坦さを改善することもできる。
【0033】
テープを貼り付けた後、好ましくは、当て板、ゴムフォームその他の適当な手段でテープの外面に圧力をかけて、コーティング30の所望の最終表面仕上げ及び幾何学形状を生じさせる。部品10が取り外してあれば、テープを部品10に化学的又は機械的に結合するのに必要な熱及び圧力を加えるためオートクレーブと真空バッグを併用することができる。次いで、エンジンの作動又は追加の熱処理によって未焼結テープを焼結すれば、テープを堅固に固化させることができる。いずれ場合も、焼結は、部品10の望しい性質に悪影響を及ぼさないが、バインダー及び可塑剤が燃え尽きかつセラミック粒子26及び28が焼結する温度で実施される。
【0034】
特定の実施形態に関して本発明を説明してきたが、その他の形態を当業者が採用できることは明らかである。従って、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0035】
10 部品
12 TBC系
14 ボンドコート
16 セラミック層
18 酸化物スケール
20 剥離領域
22 表面
24 組成物
26 粒子
28 ミクロバルーン
30 補修コーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ/シリカ系材料で形成された、部品の遮熱コーティングの補修方法であって、
中実セラミック粒子と中空セラミック粒子とシリカ前駆体バインダーとを含む少なくとも第1のコーティング組成物を調製する工程、
遮熱コーティング内の開口によって露出された部品の表面領域に第1のコーティング組成物を施工する工程、次いで
バインダーを反応させて部品の表面領域を被覆する補修コーティングを生成させる工程であって、補修コーティングが、バインダーの熱分解で生成したシリカマトリックス中に中実セラミック粒子と中空セラミック粒子とを含む工程
を含んでなる方法。
【請求項2】
前記中実セラミック粒子が、アルミナ、マグネシア、チタニア及びカルシアからなる群から選択される1種以上のセラミック材料を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記中空セラミック粒子が、アルミナ及びアルミノケイ酸塩からなる群から選択される1種以上のセラミック材料を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記調製工程が第1のコーティング組成物をペーストとして調製することを含んでいて、前記施工工程が該ペーストを表面領域に施工することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
第1のコーティング組成物が、10〜60重量%の溶媒、5〜55重量%の中実セラミック粒子、5〜45重量%の中空セラミック粒子及び6〜40重量%のシリカ前駆体バインダー、残部の随伴不純物を含むように調製され、第1のコーティング組成物を表面領域に施工する前に溶媒の少なくとも一部を第1のコーティング組成物から除去する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記中実セラミック粒子が、アルミナ、マグネシア、チタニア及びカルシアからなる群から選択される1種以上のセラミック材料からなる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記中空セラミック粒子が、アルミナ及びアルミノケイ酸塩からなる群から選択される1種以上のセラミック材料からなる、請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記調製工程が第1のコーティング組成物をテープとして調製することを含んでいて、前記施工工程が該テープを表面領域に貼り付けることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
第1のコーティング組成物が、さらに少なくとも第2のバインダー、1種以上の可塑剤及び適宜1種以上の界面活性剤を含むように調製される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
第1のコーティング組成物が、10〜60重量%の溶媒、5〜55重量%の中実セラミック粒子、5〜45重量%の中空セラミック粒子、6〜40重量%のシリカ前駆体バインダー、2〜20重量%の1種以上の第2のバインダー、1〜10重量%の1種以上の可塑剤及び9重量%以下の1種以上の界面活性剤、残部の随伴不純物を含むように調製され、溶媒の少なくとも一部を第1のコーティング組成物から除去してテープを形成した後、該テープを表面領域に貼り付ける、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記中実セラミック粒子が、アルミナ、マグネシア、チタニア及びカルシアからなる群から選択される1種以上のセラミック材料からなる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記中空セラミック粒子が、アルミナ及びアルミノケイ酸塩からなる群から選択される1種以上のセラミック材料からなる、請求項10記載の方法。
【請求項13】
中実セラミック粒子と、中空セラミック粒子と、シリカ前駆体バインダーと、第1のコーティング組成物の中実セラミック粒子及び中空セラミック粒子よりもIR反射性、IR吸収性、耐エロージョン性及び/又は耐腐食性の高い粒子からなる群から選択される追加成分とを含む第2のコーティング組成物を調製することをさらに含んでいて、第2のコーティング組成物を施工して補修コーティングの最外表面領域を形成する、請求項1記載の方法。
【請求項14】
シリカ前駆体バインダーと、第1のコーティング組成物の中実セラミック粒子及び中空セラミック粒子よりも粒度の細かい1種以上の第2の中実セラミック粒子及び第2の中空セラミック粒子とを含む第2のコーティング組成物を調製することをさらに含んでいて、第2のコーティング組成物を施工して、補修コーティングの空力特性を向上させるため第1のコーティング組成物で得られるものよりも平滑な表面仕上げを有する補修コーティングの最外表面領域を形成する、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記反応工程が、最初にシリカ前駆体バインダーを重合によって硬化させてシリコーンマトリックスを形成し、次いで部品を加熱してシリコーンマトリックスを熱分解してシリカマトリックスを形成することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記部品がガスタービンエンジンに取り付けられる、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記施工工程及び反応工程が、ガスタービンエンジンに部品を取り付けたまま実施される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記反応工程の際にガスタービンエンジンを作動させる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
遮熱コーティングのアルミナ/シリカ系材料がシリカマトリックス中のアルミナ粒子を含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
請求項1記載の方法によって補修された部品であって、遮熱コーティング内の開口が遮熱コーティングの局所的剥離によって生じる、部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−505(P2010−505A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147123(P2009−147123)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】