説明

部分的に又は完全に半絶縁性の又はp型ドーピングされたZnO基板を製造する方法、得られた基板、及び、それを備える電子装置、光電子装置または電気光学装置

【課題】n型ドーピングされたZnO基板から、少なくとも部分的に半絶縁性又はp型ドーピングされたZnO基板を製造する方法を提供する。
【解決手段】n型ドーピングされたZnO基板から、部分的に又は完全に半絶縁性又はp型ドーピングされたZnO基板を製造する方法であって、n型ドーピングされたZnO基板が、無水溶融硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、硝酸カリウム及び硝酸リビジウムから選択される無水溶融塩と接触させられる方法。部分的に又は完全に半絶縁性又はp型ドーピングされたZnO基板であって、基板が、特に薄層、薄膜の形態またはナノワイヤーの形態であり、基板が、Na、Li、K及びRbから選択される元素、N及びOが同時にドーピングされ、それは、さらにZnOまたはGaNにおいてこの基板上におけるエピタキシャル成長を可能にし得る。この基板を備える発光ダイオード(LED)などの電子装置、光電子装置または電気光学装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分的に又は完全に全体的に半絶縁性の又はp型ドーピングされたZnO基板を製造する方法に関する。
【0002】
本発明は、さらに、部分的に又は完全に全体的に半絶縁性の又はp型ドーピングされたZnO基板に関する。
【0003】
これらの基板は、特に電子装置、光電子装置または電気光学装置の製造に適用されることができ、ZnO及びGaNなどの“大きな間隙”材料のこれらの基板上におけるエピタキシャル成長の後における、例えば発光用の発光ダイオードの製造に役立つ。
【0004】
従って、本発明の技術分野は、一般に自然にn型ドーピングされている市販のZnO基板から少なくとも部分的に半導体またはp型ドーピングされたZnO基板の製造及び組立の分野として定義される。
【背景技術】
【0005】
低エネルギー消費を有する照明用の発光ダイオードを組み立てることに大きな関心がある。
【0006】
酸化亜鉛ZnOまたは窒化ガリウムGaNなどの大きな間隙の材料の使用は、高性能のダイオードが得られることを可能にする。
【0007】
これらのダイオードの組立における工程の1つは、適切なp型ドーピングされた基板上におけるこのようなn型ドーピングされた大きな間隙を有する材料のエピタキシャル成長である。
【0008】
現在、GaNエピタキシャル成長に最も頻繁に使用される基板は、サファイア基板であるが、これらは、ダイオードの効率にとって有害な歪みと転位を生じさせる。
【0009】
サファイア基板は、ZnOエピタキシャル成長にも使用されるが、この方法は、まだ最適化されていない。
【0010】
n型ドーピングされたZnOまたはGaNのエピタキシャル成長は、完全に理解されており、他の基板上で、特にZnO基板上でそれを行うことができることが有利であろう。
【0011】
これは、ZnOエピタキシャル成長の場合、このように行われたホモエピタキシャル成長が、エピタキシャル成長されたZnO膜、層において、エピタキシャル成長された層、膜と基板との間の格子不整合、ホモエピタキシャル成長の特性によって生じる歪みによる転位を生成することなく、ZnOで作られた基板の結晶品質を保つことを可能にするからである。
【0012】
GaNエピタキシャル成長の場合、格子不整合がほんの3%なので、ZnO基板の使用は、歪みを制限することを可能にする。
【0013】
しかしながら、特にダイオードの製造における主たる困難−ZnO基板上にn型ドーピングされたZnO及びGaNなどの材料のエピタキシャル成長における主要な障害−は、p型ドーピングされたZnO基板を製造することが極端に困難であるという事実による。
言い換えると、ZnOの自然の導電性がn型なので、ZnOのpドーピングは、非常に複雑である。現在、酸化亜鉛ZnOで作られる市販の基板は、水熱合成法によって成長された結晶からほとんど得られ、それは、大きなサイズ及び最良の結晶品質を得ることを可能にする。これらの結晶は、自然にnドーピングされている。いくつかの文献は、n型の導電性を有するZnOで作られる基板を半絶縁性基板またはp型の導電性を有する基板に変換する方法に言及している。従って、文献US−B2−6,936,101[1]は、ブリッジマン成長技術に従ってZnOの溶融塊から半絶縁性のZnO単結晶を製造する方法を開示する。この成長技術は複雑であり、非常に限られた半絶縁性のZnO基板が得られることのみを可能にする。文献(“Shallow Donors and Acceptors in ZnO”, Semiconductor Science and Technology, 2005, Vol.20, No.4, April 2005, S62−S66, by B.K.Meyer et al.[2])は、インサイチュの窒素注入、拡散及びドーピングによってZnOの導電性を修正する方法を記載している。ZnOへの窒素の拡散は、500から800℃の範囲の温度における硝酸リチウム及び硝酸アンモニウムの熱分解を用いて達成される。硝酸リチウムは、硝酸が600℃以上における熱分解を経た後にZnOへの硝酸の含有を可能にする。文献“Electron Spin Resonance Studies of Donors and Acceptors in ZnO”, Physical Review, Vol.130, No.3, 1 May 1963, 989−995, by P.H.Kasai[3])は、微細なZnO粉末を900℃で2時間加熱することによるZnO試料の製造を記載している。アクセプター及びドナーは、加熱前に、ZnO粉末に、アルカリ金属ハロゲン化物または硝酸リチウムなどの硝酸塩の水溶液を加えることによって導入される。文献[2]及び文献[3]の何れにおいても、ZnO基板の表面の完全性は保たれず、劣化される。文献(“Thermal diffusion of Lithium Acceptors into ZnO Crystals”, Journal of Electronic Materials, Vol.32, No.7, 2003,766−771 by N.Y.Garces et al.[4])は、ZnO結晶へのリチウムアクセプターの熱拡散に関する。小さなセラミックボートに配置されたZnO結晶は、LiF粉末によって完全に囲われ、750℃、すなわちLiFの融点である845℃未満の温度で一連の焼き鈍し操作にさらされる。上記文献では、LiF粉末とZnOの接触がZnO基板の全体にわたって均一であり得ないので、元素の拡散が均一ではない。上記の全ての方法は、高い温度で行われるという欠点も有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6,936,101号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Shallow Donors and Acceptors in ZnO”, Semiconductor Science and Technology, 2005, Vol.20, No.4, April 2005, S62−S66, by B.K.Meyer et al.
【非特許文献2】Electron Spin Resonance Studies of Donors and Acceptors in ZnO”, Physical Review, Vol.130, No.3, 1 May 1963, 989−995, by P.H.Kasai
【非特許文献3】Thermal diffusion of Lithium Acceptors into ZnO Crystals”, Journal of Electronic Materials, Vol.32, No.7, 2003,766−771 by N.Y.Garces et al.
【非特許文献4】ALP92(2008)、141101.by I.C. Robin et al.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、前述を考慮して、n型ドーピングされたZnO基板から、少なくとも部分的に半絶縁性の又はp型ドーピングされたZnO基板を製造する方法であって、製造される基板の表面のあらゆる劣化を避け、この基板に対するあらゆる損傷を避け、基板の形状及び大きさに関わらず導電性が均一に修正されることを可能にする方法に対する要求がある。
【0017】
さらに、単純であり、信頼性があり、実施が容易であり、比較的低温で使用されるこのような方法に対する要求がある。
【0018】
本発明の1つの目的は、特に上述の要求に適合する、n型ドーピングされたZnO基板から、少なくとも部分的に半絶縁性の又はp型ドーピングされたZnO基板を製造する方法を提供することである。
【0019】
本発明の他の目的は、上記のような従来技術の製造の方法の欠点、欠陥、制限及び不利点を有することなく、これらの方法の問題を解決する、n型ドーピングされたZnO基板から、少なくとも部分的に半絶縁性の又はp型ドーピングされたZnO基板を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
これらの目的及び他の目的は、本発明に従って、n型ドーピングされたZnO基板から、部分的に又は完全に半絶縁性の又はp型ドーピングされたZnO基板を製造する方法であって、前記n型ドーピングされたZnO基板が、無水溶融硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、硝酸カリウム及び硝酸リビジウムから選択される無水溶融塩と接触させられる方法によって達成される。
【0021】
前記接触は、一般に264℃から600℃の溶融塩温度で行われ、特に前記塩が無水硝酸リチウムである場合、好ましくは350から500℃の溶融塩温度で行われる。
【0022】
前記接触は、5分から24時間、好ましくは5時間にわたって行われる。
【0023】
有利には、前記溶融塩は、前記接触の前、好ましくは前記接触の直前に脱水熱処理にさらされる。
【0024】
有利には、この脱水熱処理は、前記溶融塩を十分な温度まで上げ、前記塩が無水にされるのに十分な時間にわたってこの十分な温度を一定に保つことによって、前記接触の前、好ましくは前記接触と同時に行われる。
【0025】
この“十分な”温度は、一般に450から500℃である。
【0026】
この“十分な”時間は、一般に24から48時間である。
【0027】
前記接触は、一般に前記n型ドーピングされたZnO基板を溶融塩に浸漬することによって行われる。
【0028】
本発明による方法は、液体媒体中で非常に単純な拡散技術を用いてZnO基板を半絶縁性基板またはp型導電性の基板に変換することによってn型の導電性のZnO基板の導電性を容易に修正する方法として定義され得る。
【0029】
本発明によれば、n型導電性を補償し、p型導電性に必要なアクセプターの含有を促進することを可能にする元素を含む無水の液体が使用されるということが述べられる。
【0030】
例えば、硝酸リチウムLiNOなどの液体の場合、これらの元素は、リチウムLiが亜鉛に置き換わる場合にはリチウムLi、窒素Nが酸素に置き換わる場合は窒素N、酸素が酸素空孔を満たす場合は酸素である。
【0031】
本発明による方法は、従来技術には記載されていない。
【0032】
本発明による方法は、特に液体の使用において、さらには、この修正、変態を達成するために無水の溶融塩を使用する点において従来技術の方法と基本的に異なる。
【0033】
具体的には文献[2]では、LiO+NO+HO(すなわち水和した硝酸塩)を与えるように硝酸リチウムが密閉されたアンプル内で熱的に分解され、窒素のガスNOのみがZnOに拡散し、一方、文献[3]では、LiNOも水溶液中にあり、ZnO粉末のみが処理される。
【0034】
これらの文献[2]及び[3]に記載の方法と異なって、本発明による方法は、溶融液体形態の塩を使用し、これは、特に硝酸リチウムまたは硝酸ナトリウムであり、水溶液ではなく、塩は、この方法の間中、液体の溶融形態で残り、水を生成するように熱的に分解されない。
【0035】
文献[4]に記載の方法と異なって、本発明は、LiF粉末ではなく、4つの特定の塩から選択される液体の溶融塩、好ましくは2つの特定の塩、LiNO及びNaNOのら液体の溶融塩を使用する。
【0036】
特に上述の要求を満たす本発明による方法は、従来技術の方法の欠点、欠陥、制限及び不利点を有することがなく、これらの方法の問題に対する解決方法を提供する。
【0037】
本発明による方法は、非常に単純で、実施するのが容易で、実際にほんの1つの単純な必須の工程、すなわち、n型導電性の市販の酸化亜鉛基板などの基板を、例えば浸漬によって溶融塩に接触させる工程を備え、この工程中に、基板は、液体中に含まれる元素の拡散によってp型導電性の基板に変換される。
【0038】
本発明による方法は、その実施のために複雑または高価な装備を必要としない。
【0039】
本発明による方法では、溶融塩は無水であり、すなわち水がなく、その方法の実施中に水を生じさせず、これによって、文献[2]及び[3]の方法と異なって、ZnO基板の表面の完全性を保ち、それらに対するあらゆる損傷を避けることができる。
【0040】
ZnOが若干水に可溶性であり、例えばLiNOが吸湿性であって容易に水和されるという事実を考慮すると、拡散のためにZnO基板に塩を接触させる前に、例えば上述の条件下で塩を加熱することによってLiNOなどの塩を脱水することは有利である。
【0041】
さらに、本発明に従って使用される、硝酸リチウムなどの液体状態の溶融塩は、ZnO基板の表面全体に対する均一な接触と、元素の均一な拡散とがあり、場合によっては文献[4]のような塩粉末を用いることが可能ではないことを保証する。
【0042】
液体溶融塩の本発明に従う使用によって得られる元素のこの均一な拡散は、ZnO基板の大きさ及び形状に関わらず、本発明の方法の主たる利点の1つである。
【0043】
本発明による方法は、選択された特定の塩のために、低温で実施し得る。これは、エネルギー消費の点で実質的な節約をもたらす。
【0044】
言い換えると、本発明による方法では、例えば、LiNOの融点が264℃であり、NaNOの融点が309℃であり、硝酸ルビジウムRbNOの融点が309℃であり、硝酸カリウムの融点が334℃であるので、この拡散は、低温で起こり得る。
【0045】
硝酸リチウムの3つの構成要素は、リチウム、窒素及び酸素の拡散によってZnOのp型ドーピングに好ましい影響を有する。
【0046】
酸素Oは、酸素空孔(n型伝導を与えると考えられる)を補償することがあり得る酸化効果を有し、リチウムLiは、亜鉛の置換体としてアクセプターの役割を果たすことによってドナーの存在を補償し、窒素Nは、酸素の置換体としてアクセプターの役割を果たす。
【0047】
さらに、ZnOが溶融LiNOに不溶性であり、LiNOが、例えば水またはアルコール中で、例えばそれを溶解することによって急速に容易に取り除かれるので、ZnO基板は、LiNOによって損傷を受けない。
【0048】
溶融塩が無水なので、上述のようなZnO基板は、水によって損傷されることもなく劣化されることもない。
【0049】
本発明による方法の他の利点は、拡散が、液体の温度及び接触の時間、すなわち液体中での基板の浸漬時間によって制御され得ることである。
【0050】
この拡散制御は、他の技術と異なって、拡散深さを制御することができるので、非常に有利である。
【0051】
従って、薄層、または、例えば使用されるZnO基板の全体の厚さを超える厚さを有する層としてp型ドーピングZnOを製造することが可能であり、例えば、それは500μmであり得る。
【0052】
本発明による方法は、好ましくは所定の厚さである、n型ドーピングされたZnO基板の表面膜、表面層のみをp型ドーピングされたZnO基板に変換するために、または、n型ドーピングされたZnO基板の全て(全体)をp型ドーピングされたZnOに変換するために使用され得る。
【0053】
この膜、層は、500nmから1ミクロンの厚さを有する薄層、薄膜である。
【0054】
本発明による方法は、初めて部分的に又は完全に半絶縁性の又はp型ドーピングされたZnO基板を製造することを可能にし、そのp型挙動は、効果的に証明され、実証されている。この点において、読者は、提供された実施例を参照し得る。
【0055】
本発明による方法は、初めて部分的に又は完全に(全体的に)半絶縁性の又はp型ドーピングされたZnO基板を製造することを可能にし、前記基板は、同時にNa、Li、K及びRbから選択された元素、N、及び、Oによってドーピングされる。
【0056】
従って、本発明の他の主題は、部分的に又は完全に半絶縁性の又はp型ドーピングされたZnO基板であって、前記基板が、Na、Li、K及びRbから選択される元素、N及びOが同時にドーピングされることを特徴とする基板である。
【0057】
Na、Li、K及びRbから選択される元素、N、及び、Oによって同時にドーピングされたこのような基板、特に、3つの元素、Li、N及びOによって同時にドーピングされた基板は、本質的に新規であり、従来技術に開示も示唆もされていない。
【0058】
Na、Li、K及びRbから選択される元素、N、及び、Oによる同時ドーピング、特に、3つの元素、Li、N及びOによる同時ドーピングは、既に言及したように、それらの元素の各々がZnOのp型ドーピングに好ましい効果を有するので、非常に有益である。
【0059】
この基板は、二次元薄層または二次元薄膜の形態、または、ナノワイヤーの形態を採り得る。
【0060】
この基板は、例えば中実でバルクでモノリシック構造の基板であるn型ZnO基板の形態を採りえ、好ましくは所定の厚さのその表面層、表面膜が、本発明による方法を行った後にp型ドーピングされたZnOに変換される。
【0061】
この表面層、表面膜は、上記で定義される薄層、薄膜であり得る。
【0062】
このような成形体のモノブロックの1つのピースの構造体は、500nmから1μmの間の厚さにわたって修正される光学及び電気特性を有する。このような特性は、従来技術においてこれまで得られていない。
【0063】
従って、本発明による方法は、モノリシック構造の中実のバルクのZnO基板から所定の厚さにわたって様々な光学及び電気特性を有するアクセプターを生成することを可能にし、それは、自然にn型ドーピングされており、意図的にn型ドーピングされたものではない。
【0064】
従って、例えば多数の成長工程を必要とすることなく、単純なモノリシック構造の基板から直接的に、p−n接合において単純な方法によって容易に製造することが可能である。
【0065】
さらに、n型ドーピングされたGaNまたはZnOは、本発明によって基板上にエピタキシャル成長され得る。
【0066】
本発明は、本発明による基板を備える電子装置、光電子装置または電気光学装置にも関する。
【0067】
特に、この装置は、発光ダイオード(LED)、特にUVLEDである。
【0068】
本発明は、例示として与えられ、如何なる限定も暗示しない以下の詳細な説明を読むことによってより理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】溶融LiNOの本発明による方法に従って、自然にn型のZnO試料または基板と実施例1に製造された試料または基板において1000/T(K−1における)を関数として測定されたホール密度(cm−2における)を示すグラフである。
【図2】自然にn型のZnO試料または基板のフォトルミネッセンススペクトル(点曲線1)と、実施例1で製造された試料または基板のフォトルミネッセンススペクトル(実曲線2)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0070】
詳細な説明は、添付の図面を参照して与えられる。
【0071】
図1は、溶融LiNOの本発明による方法に従って、自然にn型のZnO試料または基板と実施例1に製造された試料または基板において1000/T(K−1における)を関数として測定されたホール密度(cm−2における)を示すグラフである。
【0072】
黒い四角は、自然にn型のZnO基板におけるホール密度を表し、ライトグレーは、実施例1で製造された基板におけるホール密度を表し、測定された導電性は、n型であり、ライトグレーの星は、実施例1で製造された基板におけるホール密度を表し、測定された導電性は、p型である。
【0073】
図2は、自然にn型のZnO試料または基板のフォトルミネッセンススペクトル(点曲線1)と、実施例1で製造された試料または基板のフォトルミネッセンススペクトル(実曲線2)を示すグラフである。強度(任意単位a.u.)は、y軸上でプロットされており、エネルギー(eVにおける)は、x軸上でプロットされている。
【0074】
本発明による方法は、n型ドーピングされたZnO基板から、少なくとも部分的に半絶縁性の又はp型ドーピングされたZnO基板を製造する方法であって、n型ドーピングされたZnO基板が、無水溶融硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、硝酸カリウム及び硝酸リビジウムから選択される無水溶融塩と接触させられる方法である。
【0075】
出発基板は、n型ドーピングされたZnO基板である。
【0076】
“n型ドーピングされた基板”との表現は、自然に本来このn型の導電性を有する基板を意味すると理解される。
【0077】
これは、ZnOが故意に又は意図的にn型ドーピングされておらず、むしろそれは、例えば熱水合成によって、例えばその製造の方法の結果として本来または本質的にこのn型の導電性を有することを意味し、従って、それは、n型ドーピングを経ることなく市販されるものとして使用される。
【0078】
一般に、出発基板は、粉状基板と対照的に、バルクで、中実で、モノリシックな基板と呼ばれることがある。
【0079】
この出発基板は、あらゆる形状及びあらゆる大きさを有し得る。
【0080】
これは、本発明の方法によって、同等な出来で大きな基板及び/又は複雑な形状の基板を処理することが可能になるためである。
【0081】
従って、本発明による基板は、10×10mmの寸法を有する正方形の形態、または、20mmの直径のディスクの形態を採ってもよく、これらは、市販の基板の形状である。
【0082】
この基板は、百から数百ミクロンの範囲、すなわち、例えば200、300、400、500または1000μmの厚さを有し得る。
【0083】
一般に、この基板は、約500μmの厚さを有する。
【0084】
本発明による方法を用いて、単一の基板または幾つかの基板を同時に製造することができる。
【0085】
本発明によれば、n型ドーピングされたZnO出発基板は、液体溶融塩に接触させられ、それは、溶融硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、硝酸カリウムまたは硝酸リビジウムである。
【0086】
好ましい塩は、硝酸リチウムである。
【0087】
硝酸リチウム塩は、264℃(537.15K)の温度で溶融し、600℃(875.15K)まで液体状態を維持し、その温度でそれが分解する。従って、ZnOへの硝酸リチウムの元素の拡散は、264℃から600℃の範囲、好ましくは350℃から500℃の範囲で起こり得る。
【0088】
リチウムイオンは、より小さく、より容易にZnOに拡散するので、硝酸リチウムは好ましい塩であり、使用されることが好ましいものである。
【0089】
I族の他のアルカリ金属元素、例えばナトリウム(Na)、カリウム(K)及びルビジウム(Rb)などの硝酸塩も使用されることができるが、ナトリウム、カリウム及びルビジウムのイオンの拡散は、それらが次第に大きくなるので、より困難である。
【0090】
さらに、硝酸ナトリウムNaNOは、309℃(582.15K)で溶融し、538℃(811.15K)まで液体状態を維持するが、爆発の危険性を有して分解するかもしれず、一方、KNOは、334℃で液体であるが、400℃に達すると直ぐに分解する。
【0091】
この接触は、浸漬によって起り得る。
【0092】
基板の全体、すなわちその表面の全てを溶融塩に接触させることが好ましい。
【0093】
本発明によれば、溶融塩は、無水であり、それは、一般にその水含有量が1重量%未満であることを意味する。
【0094】
確かに、採用された塩が効果的に無水であり、例えばLiNOは吸水性であり容易に水和されるので、接触前に、好ましくは接触直前に脱水熱処理を行うことが好ましい。
【0095】
従って、接触前に、溶融塩は、例えば十分な温度にされ、この塩が無水なので、接触まで十分な時間にわたってこの十分な温度が一定に維持される。
【0096】
この十分な温度及びこの十分な時間は、例えばそれぞれ450から500℃、24時間から48時間である。
【0097】
浸漬による接触中に、基板は、並進運動及び/又は回転運動の動きを経てもよい。
【0098】
この接触温度及びこの接触時間は、既に上述されている。
【0099】
本発明によれば、液体の温度及び接触時間、例えば浸漬時間は、基板への種の拡散及び拡散の深さを制御するために使用される。従って、本発明によって、n型基板を部分的にp型基板、または、完全に全体的にp型基板に変換することが可能になる。
【0100】
従って、例えば500ミクロンの出発厚さを有する、バルクであり、中実の、モノリシックのn型ドーピングされたZnO基板の表面において、所望の、所定の、定義された厚さのp型ZnO層、膜、例えば、500nmから1ミクロンの範囲の厚さを有する薄層、薄膜を製造することが可能になる。
【0101】
このような厚さのp型ドーピングされたZnOを有する薄層、薄膜を得るために、接触温度は、一般に350から500℃であり、接触時間は、一般に5分から24時間である。
【0102】
このn型ZnO出発基板の厚さの全体がp型ドーピングされたZnOに変換されることが望まれる場合、一般に350から500℃の範囲の接触温度と一般に1または2時間から24時間の範囲の接触時間とを使用することが必要であろう。
【0103】
接触操作後に、基板が除去され、溶融液体塩から離隔される。残りの溶融塩の全てが、基板を激しく動かす、例えば基板を回転することによって除去し得る。
【0104】
LiNOが例えば水またはアルコール中で急速に溶解されるので、液体塩は、水またはアルコールを用いることによって除去され得る。
【0105】
p型ドーピングされたZnO基板、または、二次元の薄いZnO層、膜またはナノワイヤベースの基板は、本発明の方法によって製造され得る。
【0106】
このように製造されたZnOは、LiNOなどの液体塩中における浸す時間、浸漬時間、接触時間によって制御される体積にわたって又は厚さにわたってp型ドーピングされるが、n型ドーピングされたZnO(またはGaN)エピタキシー(例えば、MOCVDなどの気相成長技術)用の基板として機能する。製造された基板の一部のみがp型ドーピングされる場合、n型ドーピングされたZnOまたはGaNのエピタキシーがこの部分上で行われることが明らかである。
【0107】
このように得られた完成した装置は、発光ダイオード(LED)の製造におけるp−nダイオードを製造するために電子工学、電気光学及び光電子工学で使用され得る。これらの発光ダイオードは、例えば低エネルギー消費を有する発光に機能し得る。
【0108】
本発明は、限定を意味しない例示によって与えられる以下の実施例を参照して以下に記載されるだろう。
【0109】
(実施例1)
200gの高純度の硝酸リチウムが水晶坩堝に収容された。
【0110】
組立体の全体は、垂直炉に配置され、その温度がコンピュータ制御された。坩堝の温度は、熱電対によって制御された。坩堝の温度及び溶融塩浴の温度は、同一であった。
【0111】
坩堝の温度は、500℃まで上昇され、硝酸リチウムは264℃から溶融し、その後、液体状態を維持した。500℃の温度は、硝酸リチウムが無水であることを保証するために24時間にわたって一定に維持された。
【0112】
選択された時間、この例では5時間にわたってその液体に基板が浸漬されることができるように、自然のn型導電性(商用タイプの、約500μmの厚さ及び0.0655gの質量を有する10×10mmである正方形基板)を有するZnO基板(初期基板)は、並進運動にさらされる基板ホルダーに配置された。
【0113】
溶融塩の温度は、この時間中、350℃に制御された。
【0114】
次いで、この基板はその液体から取り出され、基板ホルダーの回転は停止され、この液体は排水された。
【0115】
次いで、この基板は、炉から並進的に取り出された。5秒間にわたり脱イオン水で基板を急速に洗浄することによって、処理された基板から凝固された塩の残留物を取り除くことができた。
【0116】
最後に、最終的な基板、すなわち、本発明による方法の実施の結果である最終的な試料が回収された。
【0117】
(最終的な基板、すなわち得られた試料の特性解析)
最初に、質量における大きな変化及び外観における目立った変化が見られなかったことに留意すべきである。
【0118】
(可変磁場中におけるホール効果による電気特性の測定)
最終的な基板において測定された電子密度は、初期基板において予め測定されたものより低かった(2桁の大きさ)。
【0119】
p型導電率は、全磁場(0Tから9T)にわたって300Kにおいて再生可能な方法で測定された。
【0120】
最終的な基板の抵抗率は、初期基板のそれ(〜10から10Ω・cm)より2桁だけ増加した。
【0121】
図1は、上記のように、本発明による方法に従って製造された試料で測定されたホール密度と、自然にn型であるZnO基板、すなわち、本発明による方法によって処理されていないもので測定されたホール密度との変化を示す。自然にn型であるこのZnO基板は、処理された基板と同一の正方形状及び同一の寸法を有した。
【0122】
300Kにおける予想されるp型の導電率(ライトグレーの星)と本発明の方法に従って製造された試料の導電率の変化は、上記のように、n型導電率(温度:100から400K)からp型導電率まで、見ることができる。
【0123】
300Kにおいて、本発明の方法によって製造された測定されたp型の試料において得られた移動度は、上記のように約8cm/Vsであった。
【0124】
(フォトルミネッセンス(PL)による光学特性の測定)
自然に本来的にn型のドーピングされたZnO試料、基板のフォトルミネッセンススペクトル、及び、本発明の方法によって製造された最終的な試料、基板のフォトルミネッセンスは、上述のように形成された。
【0125】
正方形状の2つの基板は、同一の寸法(10×10mm及び約500μmの厚さ)を有した。
【0126】
測定条件は、以下の通りであった。
−温度:4K;
−アレイ:600ライン;
−レーザー出力:50マイクロワット;
−スロット:50ミクロン;
−スペクトル積分時間:自然にn型ドーピングされた基板においては0.01秒、本発明の方法による溶融硝酸リチウムで製造された試料においては0.3秒。
【0127】
図2は、本発明の方法(実曲線2)及び自然にn型ドーピングされたZnO基板(点曲線1)において、溶融されたLiNOで製造された試料における上述の条件下で得られたフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを与える。
【0128】
最も重要な結果は、DX(ドナー励起;ドナーに対する束縛励起子“exciton lie a un donneur”)と呼ばれるピークの強度と、FE(自由励起子)と呼ばれるピークの強度との比に関し、それは、本発明による溶融LiNO3で製造された試料の場合に、より低い。
【0129】
この結果は、文献(ALP92(2008)、141101.by I.C. Robin et al.[5])で検討されるように、ドナーの存在の補償を示す。
【0130】
さらに、フォトルミネッセンスPLは、ドナーアクセプター対の起り得る可能性のある存在と共に欠陥バンド(低エネルギー)の存在を示す。この結果は、溶融LiNOにおけるZnOの浸漬中に含有される可能性があるアクセプター(置換的なリチウム、窒素または酸素)の存在の特性解析でもある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型ドーピングされたZnO基板から、部分的に又は完全に半絶縁性の又はp型ドーピングされたZnO基板を製造する方法であって、
前記n型ドーピングされたZnO基板が、無水溶融硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、硝酸カリウム及び硝酸リビジウムから選択される無水溶融塩と接触させられる方法。
【請求項2】
前記接触が、264℃から600℃の溶融塩温度で行われ、特に前記塩が無水硝酸リチウムである場合、好ましくは350から500℃の溶融塩温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触が、5分から24時間、好ましくは5時間にわたって行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶融塩が、前記接触の前、好ましくは前記接触の直前に脱水熱処理にさらされる、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記脱水熱処理が、前記溶融塩を十分な温度まで上げ、前記塩が無水にされるのに十分な時間にわたってこの十分な温度を一定に保つことによって、前記接触の前、好ましくは前記接触と同時に行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記十分な温度が、450から500℃であり、前記十分な時間が、24から48時間である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記接触が、前記n型ドーピングされたZnO基板を溶融塩に浸漬することによって行われる、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
好ましくは所定の厚さである、前記n型ドーピングされたZnO基板の表面層、表面膜が、p型ドーピングされたZnOに変換される、請求項1から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記表面膜、表面層が、500nmから1ミクロンの厚さを有する薄層、薄膜である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記n型ドーピングされたZnO基板の全体が、p型ドーピングされたZnOに変換される、請求項1から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
部分的に又は完全に半絶縁性の又はp型ドーピングされたZnO基板であって、前記基板が、Na、Li、K及びRbから選択される元素、N及びOが同時にドーピングされる基板。
【請求項12】
前記基板が、Li、N及びOが同時にドーピングされる、請求項11に記載の基板。
【請求項13】
二次元薄層、二次元薄膜の形態、または、ナノワイヤーの形態を採る、請求項11または12に記載の基板。
【請求項14】
基板、好ましくはバルクで中実またはモノリシック構造のn型のZnO基板の形態を採り、好ましくは所定の厚さのその表面層、表面膜が、p型ドーピングされたZnOに変換される、請求項11または12に記載の基板。
【請求項15】
前記表面膜、表面層が、500nmから1ミクロンの厚さを有する薄膜、薄層である、請求項14に記載の基板。
【請求項16】
n型ドーピングされたGaNまたはZnOがさらにエピタキシャルに成長される、請求項11から15の何れか一項に記載の基板。
【請求項17】
請求項11から16の何れか一項に記載の前記基板を備える電子装置、光電子装置または電気光学装置。
【請求項18】
発光ダイオード(LED)、特にUVLEDである、請求項17に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−42989(P2010−42989A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−187811(P2009−187811)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】