説明

配線基板用ガラスセラミックス組成物及びガラスセラミックス焼結体

【課題】結晶化度が高いにもかかわらず、緻密な焼結体を得ることが可能な配線基板用ガラスセラミックス組成物及びガラスセラミックス焼結体を提供する。
【解決手段】焼成すると主結晶としてディオプサイド(CaMgSiO)、コージェライト(MgAlSi18)、又はフォルステライト(MgSiO)を析出する性質を有する結晶性ガラス粉末を含む配線基板用ガラスセラミックス組成物であって、ガラス組成中にアニオン成分としてフッ素(F)を0.1〜3モル%含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は配線基板用ガラスセラミックス組成物とこれを焼成して得られる配線基板用ガラスセラミックス焼結体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等が高密度実装されるセラミックス多層基板、厚膜回路部品、半導体パッケージ等の絶縁材料としてガラスセラミックスが知られている。これらの配線基板用ガラスセラミックスは、1000℃以下の温度で焼結させることができるため、導体抵抗の低いCu、Ag等の低融点の金属材料を内層導体として使用することが可能である。また通信機器の分野においては、高周波回路基板材料として使用できる配線基板用ガラスセラミックス組成物の開発が進められている。
【0003】
高周波回路基板に使用可能な配線基板用ガラスセラミックス組成物として、主結晶としてディオプサイド(CaMgSiO)、コージェライト(MgAlSi18)、フォルステライト(MgSiO)等を析出する性質を有するものが実用化され、或いは提案されている。例えば特許文献1には、ディオプサイドを主結晶として析出し、高周波領域で誘電損失が低いガラスセラミックス組成物が開示されている。
【特許文献1】特開平10−120436
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したガラスセラミックス組成物は結晶化度が高く、低誘電損失のガラスセラミックス焼結体を得ることが可能であるという特徴がある。その反面、得られる焼結体は緻密性に劣るという特徴がある。つまり結晶化傾向が強いことから、焼結時のガラス流動と結晶化がほぼ同時に進行する、言い換えるとガラス粉末が流動しきらないうちに結晶化が始まり、結晶化が急激に進行するため、ガラスの軟化流動が不十分となりやすく、粉末間隙に存在する空気が抜け切らない状態で焼結が完了する傾向がある。その結果、緻密な焼結体が得にくく、焼結体内部には最大20μm程度の気孔が残存したり、また気孔率が5%以上となったりする。
【0005】
近年、高周波回路基板の小型化、低背化に伴い、グリーンシート一枚あたりの厚さが10μm前後にまで薄くなっている。薄型のグリーンシートでは、焼結体の気孔率や気孔径が大きいと、グリーンシート上に印刷されたAg、Cu等の内層導体が焼結時に断線、短絡するといった不具合が発生する。この対策として焼結体の結晶化度を下げてガラス相を増やすことによって気孔率の低減を達成することが考えられる。しかしながらガラス相が多くなると機械的強度が小さくなる。また誘電損失が増大してしまう。
【0006】
本発明の目的は、結晶化度が高いにもかかわらず、緻密な焼結体を得ることが可能な配線基板用ガラスセラミックス組成物及びガラスセラミックス焼結体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は種々の実験を行った結果、ガラス組成中に所定量のフッ素を含有させておくことにより、上記目的が達成できることを見いだし、本発明として提案するものである。
【0008】
即ち、本発明の配線基板用ガラスセラミックス組成物は、焼成すると主結晶としてディオプサイド(CaMgSiO)、コージェライト(MgAlSi18)、又はフォルステライト(MgSiO)を析出する性質を有する結晶性ガラス粉末を含む配線基板用ガラスセラミックス組成物であって、ガラス組成中にアニオン成分としてフッ素(F)を0.1〜3モル%含有することを特徴とする。
【0009】
ここで「焼成すると主結晶としてディオプサイド(CaMgSiO)、コージェライト(MgAlSi18)、又はフォルステライト(MgSiO)を析出する性質を有する」とは、材料の焼結温度、具体的には800〜1000℃の温度で熱処理した場合に、ディオプサイド、コージェライト又はフォルステライトが主結晶として析出することを意味する。また本発明における「主結晶」とは、焼成によって得られる焼結体を粉末X線回折測定した時に現れる結晶ピークのうち、最も強いピークを示す結晶を意味する。
【0010】
本発明の組成物においては、結晶性ガラス粉末が、ガラス相の割合が10%以下となる性質を有することが好ましい。本発明における「ガラス相の割合」とは、粉末X線回析測定にて求めた焼結後のガラス部分のハロー強度をaとし、焼結前のガラス部分のハロー強度をbとし、a/b×100(%)で求めた値である。
【0011】
上記構成を有する場合、機械的強度が高く、しかも高周波領域において低い誘電損失を達成することができる。
【0012】
本発明の組成物においては、結晶性ガラス粉末が、モル百分率で、カチオン成分としてSi 35〜65%、Ca 0〜50%、Mg 0〜50%、Al 0〜50%、Zn 0〜50%、Sr 0〜30%、Ba 0〜30、Ti 0〜30%、アニオン成分として酸素(O) 97〜99.9%、F 0.1〜3%含有することが好ましい。
【0013】
上記構成を有する場合、ガラス中からディオプサイド、コージェライト、又はフォルステライトが主結晶として析出したガラスセラミックス焼結体を得ることが容易になる。
【0014】
本発明の組成物においては、主結晶としてディオプサイドを析出する性質を有する結晶性ガラス粉末を含むことが好ましい。
【0015】
上記構成を有する場合、高周波領域において非常に誘電損失の低いガラスセラミックス焼結体を得ることが容易である。
【0016】
本発明の組成物においては、質量百分率で結晶性ガラス粉末を40〜100%、フィラー粉末を0〜60%含有することが好ましい。
【0017】
上記構成を有する場合、焼結体の曲げ強度、靱性等の特性を改善することが可能である。
【0018】
本発明の組成物においては、フィラー粉末が、アルミナ、ムライト、クリストバライト、フォルステライト、石英、ジルコニア、ジルコンから選ばれる1種類以上であることが好ましい。
【0019】
上記構成を有する場合、焼結体の曲げ強度、靱性等の特性を改善することが可能であるとともに、高周波領域における焼結体の誘電損失上昇を抑制できる。
【0020】
本発明の配線基板用ガラスセラミックス焼結体は、上記配線基板用ガラスセラミックス組成物を焼成してなることを特徴とする。
【0021】
また本発明の配線基板用ガラスセラミックス焼結体は、主結晶としてディオプサイド(CaMgSiO)、コージェライト(MgAlSi18)、又はフォルステライト(MgSiO)を析出してなる配線基板用ガラスセラミックス焼結体であって、フッ素(F)を0.1〜3モル%含有することを特徴とする。本発明における「主結晶」とは、焼結体を粉末X線回折測定した時に得られる結晶ピークのうち、最も強いピークを示す結晶を意味する。
【0022】
本発明の焼結体においては、気孔率が3体積%以下であることが好ましい。本発明における「気孔率」とは、切断、鏡面研磨して焼結体断面を電子顕微鏡で1000倍に拡大し二次電子線画像を得た後、その画像を画像処理ソフトで解析することによって得た値を意味する。
【0023】
上記構成を有する場合、焼結体の製造に用いるグリーンシートが薄くても、Ag、Cu等の内層導体が断線、短絡するといった事態を回避することが容易になる。
【0024】
本発明の焼結体においては、最大気孔径が10μm以下であることが好ましい。本発明における「最大気孔径」とは、切断、鏡面研磨して焼結体断面を電子顕微鏡で1000倍に拡大し二次電子線画像を得た後、その画像を画像処理ソフトで解析することによって得た値を意味する。
【0025】
上記構成を有する場合、焼結体の製造に用いるグリーンシートが薄くても、Ag、Cu等の内層導体が断線、短絡するといった事態を回避することが容易になる。
【0026】
また本発明の配線基板用ガラスセラミックス組成物は、焼成すると、ガラス相の割合が10%以下となる性質を有する結晶性ガラス粉末を含む配線基板用ガラスセラミックス組成物であって、フッ素(F)を0.1〜3モル%含有することを特徴とする。本発明における「ガラス相の割合」とは、粉末X線回析測定にて求めた焼結後のガラス部分のハロー強度をaとし、焼結前のガラス部分のハロー強度をbとし、a/b×100(%)で求めた値である。
【0027】
また本発明の配線基板用ガラスセラミックス焼結体は、上記配線基板用ガラスセラミックス組成物を焼成してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明の配線基板用ガラスセラミックス組成物は、主たる構成成分である結晶性ガラス粉末の結晶化度が高い(即ち、結晶化後に残存するガラス相が少ない)ことから、高周波領域で誘電損失の低い焼結体を得ることができる。さらにガラス組成中にフッ素を含有していることから、結晶性ガラス粉末の流動性が飛躍的に改善される。その結果、ガラスの結晶化度が高いにもかかわらず、粉末間隙に存在する空気が焼成中に抜け易く、気孔率や最大気孔径の小さい緻密な焼結体を得ることができる。
【0029】
それゆえ、薄型のグリーンシートに成形して使用する場合であっても、グリーンシート上に印刷されたAg、Cu等の内層導体が焼結時に断線、短絡するといった不具合が発生するおそれがない。よって高密度配線を施しても、信頼性の高い多層基板、回路部品、パッケージ等を作製することができる。
【0030】
また本発明の配線基板用ガラスセラミックス焼結体は、結晶化度が高い(即ち、結晶化後に残存するガラス相が少ない)結晶性ガラス粉末を用いて作製されることから誘電損失が低い。さらにガラス組成中にフッ素を含有していることから、ガラスの結晶化度が高いにもかかわらず、気孔率や最大気孔径が小さく緻密である。
【0031】
それゆえ、焼結体の製造に用いるグリーンシートが薄くても、Ag、Cu等の内層導体が断線、短絡し難い。よって高密度配線が施された信頼性の高い多層基板、回路部品、パッケージ等の構成材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の配線基板用ガラスセラミックス組成物は、主たる構成成分として結晶性ガラス粉末を含む。
【0033】
結晶性ガラス粉末は、焼成すると主結晶としてディオプサイド、コージェライト、又はフォルステライトを析出する性質を有するものである。上記した結晶を析出する性質を有する結晶性ガラスは、結晶化度が高くなる傾向にある、具体的には結晶化後に残存するガラス相の割合が10%以下となり易く、誘電損失の低い焼結体を得ることができる。特にディオプサイド結晶を析出する性質を揺する結晶性ガラスは、結晶化度が高く、また結晶自身の誘電損失も低いことから、高周波領域で誘電損失が非常に低い焼結体を容易に作製できる。
【0034】
結晶性ガラスとしては、上記した各種結晶を主結晶として析出する性質を有するものであれば、特に限定はされない。ただし結晶化度の高いガラスセラミックス焼結体を得るという観点から、ガラス化可能で、且つ析出結晶の理論組成に近い組成を有する組成を選択することが望ましい。好適な組成範囲は後述する。
【0035】
また結晶性ガラス粉末は、フッ素(F)を組成中に含む。フッ素はガラスの流動性を改善し、焼結体の気孔率や最大気孔径を小さくする効果がある。その含有量はモル百分率でアニオン成分として0.1〜3%、好ましくは0.1〜2%である。フッ素が3%より多くなると析出結晶の結晶化度が低くなる。また0.1%より少ないと上記効果が得られなくなる。
【0036】
具体的には、結晶性ガラス粉末は、モル百分率でカチオン成分としてSi 35〜65%、Ca 0〜50%、Mg 0〜50%、Al 0〜50%、Zn 0〜50%、Sr 0〜30%、Ba 0〜30、Ti 0〜30%、アニオン成分としてO 97〜99.9%、F 0.1〜3%含有するガラスからなることが好ましい。なおこれらの成分以外にも種々の成分を必要に応じて添加することが可能である。
【0037】
上記範囲において、ディオプサイドを析出可能な結晶性ガラスの組成は、モル百分率でカチオン成分としてSi 40〜65%、Ca 15〜35%、Mg 15〜35%、Al 0〜25%、Zn 0〜25%、Sr 0〜25%、Ba 0〜25、Ti 0〜25%、アニオン成分としてO 97〜99.9、F 0.1〜3%である。
【0038】
ディオプサイドを析出可能な結晶性ガラス組成を上記のように限定した理由を以下に述べる。
【0039】
Siはガラスのネットワークフォーマーであるとともに、析出結晶の構成成分となり、その含有量はモル百分率でカチオン成分として40〜65%、好ましくは40〜60%である。Siが40%より少ないとガラス化し難くなり、65%より多いと1000℃以下で焼成することが困難になり、内層導体としてAgやCuを用いることができない。
【0040】
Caイオンはディオプサイド結晶の構成成分であり、その含有量はモル百分率でカチオン成分として15〜35%、好ましくは20〜35%である。Caイオンが15%より少ないとディオプサイド結晶が析出し難くなり、35%より多いとガラス化し難くなる。
【0041】
Mgはディオプサイド結晶の構成成分であり、その含有量はモル百分率でカチオン成分として15〜35%、好ましくは20〜35%である。Mgイオンが15%より少ないと結晶が析出し難くなり、35%より多いとガラス化し難くなる。
【0042】
Alは結晶性を調節する成分であり、その含有量はモル百分率でカチオン成分として0〜25%、好ましくは0〜20%である。Alイオン が25%より多くなるとガラス化し難くなる。
【0043】
Zn、Sr、Ba、Tiはガラス化を容易にするために添加する成分であり、その含有量はモル百分率でカチオン成分として各成分とも0〜30%、好ましくは0〜25%である。これら成分が各々30%より多くなると結晶性が弱くなり、ディオプサイド結晶の析出量が少なくなってガラス相が多くなる。
【0044】
Fはガラスの粘度を低下させるための必須成分であり、その含有量はモル百分率でアニオン成分として0.1〜3%、好ましくは0.1〜2%である。Fイオンが3%より多くなるとディオプサイドの結晶化度が低くなる。また0.1%より少ないと焼結体中に気孔が多くなり気孔率が高くなる。
【0045】
O(酸素)はカチオン成分が酸化物を形成するための必須成分であり、その含有量は、カチオン成分の組成およびFの量により決まる。好ましいOの含有量はモル百分率でアニオン成分として97〜99.9%、より好ましくは98〜99.9%である。
【0046】
なお上記成分以外にも、気孔率等の特性を損なわない範囲で他成分を添加してもよい。
【0047】
また上記範囲において、コージェライトが析出可能な結晶性ガラスの組成は、モル百分率でカチオン成分としてSi 40〜65%、Ca 0〜25%、Mg 15〜35%、Al 20〜50%、Zn 0〜25%、Sr 0〜25%、Ba 0〜25、Ti 0〜25%、アニオン成分としてO 97〜99.9、F 0.1〜3%である。なお上記成分以外にも、気孔率等の特性を損なわない範囲で他成分を添加してもよい。
【0048】
また上記範囲において、フォルステライトが析出可能な結晶性ガラスの組成は、モル百分率でカチオン成分としてSi 20〜55%、Ca 0〜25%、Mg 20〜50%、Al 0〜25%、Zn 0〜25%、Sr 0〜25%、Ba 0〜25、Ti 0〜25%、アニオン成分としてO 97〜99.9、F 0.1〜3%である。なお上記成分以外にも、気孔率等の特性を損なわない範囲で他成分を添加してもよい。
【0049】
本発明の配線基板用ガラスセラミックス組成物は、上記組成を有する結晶性ガラス粉末のみで構成されてもよいが、曲げ強度、靱性等の特性を改善する目的でフィラー粉末を混合して使用してもよい。この場合、両者の割合は、ガラス粉末40〜100質量%、フィラー粉末0〜60質量%、特にガラス粉末50〜95質量%、フィラー粉末5〜50質量%であることが好ましい。混合割合をこのように限定した理由は、フィラー粉末が60重量%より多いと緻密化しなくなるためである。
【0050】
フィラー粉末としては、アルミナ、ムライト、クリストバライト、フォルステライト、石英、ジルコニア、ジルコン等を使用することが好ましい。これらのフィラー粉末は、0.1〜10GHzでの誘電損失が10×10−4以下であり、低誘電損失の焼結体を作製する上で好適である。なお0.1〜10GHzでの誘電損失が10×10−4を越えるフィラー粉末を使用するとガラスセラミックス焼結体の誘電損失が高くなり易く好ましくない。
【0051】
以上の組成を有するガラスセラミックス組成物を用いれば、ガラス相の割合が10%以下であり、しかも気孔率が3%以下、最大気孔径が10μm以下のガラスセラミックス焼結体を容易に得ることができる。
【0052】
次に本発明の配線基板用ガラスセラミックス焼結体について説明する。
【0053】
本発明の焼結体は、主結晶としてディオプサイド、コージェライト、又はフォルステライトを析出してなる。これらの結晶が析出した結晶化ガラスは、一般に結晶化度が高い。具体的にはガラス相の割合が10%以下、特に8%以下であることが望ましい。なおガラス相の割合が10%より多いと、高周波領域における誘電損失が増大し、また機械的強度が低下する。
【0054】
また本発明では、フッ素(F)を0.1〜3モル%含有しているために、結晶化度が高いにも関わらず、焼結体中の気孔率が小さく、しかも大きな気孔が存在しないという特徴がある。具体的には気孔率が3%以下、特に2.5%以下、最大気孔径が10μm以下、特に8μm以下であることが好ましい。なお気孔率が3%を超えたり、最大気孔径が10μmを超えたりすると、薄型のグリーンシートを使用して作製された場合に、Ag、Cu等の内層導体が断線、短絡するといった不具合が発生し易くなる。
【0055】
また本発明の焼結体は、上記したガラスセラミックス組成物を焼成して得ることができる。なお出発材料であるガラスセラミックス組成物については既述の通りであり、ここでは説明を省略する。
【0056】
次に本発明の配線基板用ガラスセラミックス組成物を用いた多層基板の製造方法を述べる。
【0057】
まず結晶性ガラス粉末、或いは結晶性ガラス粉末とフィラー粉末の混合粉末に、所定量の結合剤、可塑剤及び溶剤を添加してスラリーを調製する。結合剤としては例えばポリビニルブチラール樹脂、メタアクリル酸樹脂等、可塑剤としては例えばフタル酸ジブチル等、溶剤としては例えばトルエン、メチルエチルケトン等を使用することができる。
【0058】
次いで上記のスラリーを、ドクターブレード法にてグリーンシートに成形する。
【0059】
その後、このグリーンシートを乾燥させ、所定寸法に切断してから、機械的加工を施してスルーホールを形成し、導体や電極となる低抵抗金属材料をスルーホール及びグリーンシート表面に印刷する。
【0060】
続いてグリーンシートの複数枚を積層し、熱圧着によって一体化する。
【0061】
さらに積層グリーンシートを、焼成することによってガラス中から結晶が析出し、ガラスセラミックス焼結体からなる絶縁層を有する多層基板を得ることができる。
【0062】
なおここでは多層基板として利用する方法を述べたが、本発明の組成物はこれに限定されるものではなく、種々の電子部品材料として使用することが可能である。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の配線基板用ガラスセラミックス組成物を実施例に基づいて説明する。
【0064】
表1は本発明の実施例(試料No.1〜7)を、また表2は比較例(試料No.8〜10)をそれぞれ示すものである。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
各試料は以下のように調製した。
【0068】
まず表に示す組成となるようにガラス原料を調合した後、白金坩堝に入れて1400〜1500℃で3〜6時間溶融してから、水冷ローラーによって薄板状に成形した。次いでこの成形体を粗砕した後、アルコールを加えてボールミルにより湿式粉砕し、平均粒径が1.5〜3μmの結晶性ガラス粉末とした。さらに試料No.2〜7及び9については、表に示したフィラー粉末(平均粒径2μm)を添加し、混合して試料とした。
【0069】
このようにして得られた各試料について、焼成温度、析出結晶、焼成後のガラス相の割合、気孔率、最大気孔径を測定した。結果を表に示す。
【0070】
表から明らかなように、実施例の各試料は、850〜950℃の低温で焼成可能であり、焼成によってディオプサイド、コージェライト、又はフォルステライトを主結晶として析出することが確認された。また焼成後のガラス相の割合が最大9%であり、かつ気孔率は2%以下、最大気孔径は9μm以下であった。
【0071】
一方、比較例である試料No.8はディオプサイド結晶が析出し、ガラス相の割合も5%と低かったが、フッ素を含有していないため、気孔率、最大気孔径がそれぞれ8%、23μmと大きかった。
【0072】
試料No.9はウォラストナイト結晶が析出し、フッ素を含有していないため、気孔率、最大気孔径がそれぞれ6%、17μmと大きかった。またガラス相の割合も14%と高かった。
【0073】
試料No.10はディオプサイド結晶が析出したが、フッ素含有量が4モル%と多いために焼結後のガラス相の比率が18%と高かった。
【0074】
なおアニオン成分の分析はICP−OES(Valiant社製 730es)により分析した。フッ素(Fイオン)の分析はイオンクロマトグラフィー(DIONEX社製 DX−500)により分析した。
【0075】
析出結晶は、各試料を表に示す温度で焼成した後、X線粉末回折法を用い求めた。
【0076】
焼成後のガラス相の割合は、粉末X線回析測定にて求めた焼結後のガラス部分のハロー強度をaとし、焼結前のガラス部分のハロー強度bとし、a/b×100(%)で求めた。
【0077】
また粉末X線回析測定には、リガク株式会社製RINT2100を用いた。測定条件は、管球Cuで40KV、40mA、スキャンスピード4.0°/分とした。
【0078】
気孔率、及び最大気孔径の測定は、焼結体を切断し、鏡面研磨を行った後、電子顕微鏡にて1000倍に拡大し、二次電子線画像を得た。その画像を用い、画像処理ソフト(三谷商事株式会社製 Winroof)で解析することにより、気孔率、最大気孔径を算出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成すると主結晶としてディオプサイド(CaMgSiO)、コージェライト(MgAlSi18)、又はフォルステライト(MgSiO)を析出する性質を有する結晶性ガラス粉末を含む配線基板用ガラスセラミックス組成物であって、ガラス組成中にアニオン成分としてフッ素(F)を0.1〜3モル%含有することを特徴とする配線基板用ガラスセラミックス組成物。
【請求項2】
結晶性ガラス粉末が、焼成するとガラス相の割合が10%以下となる性質を有することを特徴とする請求項1の配線基板用ガラスセラミックス組成物。
【請求項3】
結晶性ガラス粉末が、モル百分率で、カチオン成分としてSi 35〜65%、Ca 0〜50%、Mg 0〜50%、Al 0〜50%、Zn 0〜50%、Sr 0〜30%、Ba 0〜30、Ti 0〜30%、アニオン成分としてO 97〜99.9%、F 0.1〜3%含有することを特徴とする請求項1又は2の配線基板用ガラスセラミックス組成物。
【請求項4】
結晶性ガラス粉末が、主結晶としてディオプサイドを析出する性質を有することを特徴とする請求項1〜3の何れかの配線基板用ガラスセラミックス組成物。
【請求項5】
質量百分率で結晶性ガラス粉末 40〜100%、フィラー粉末0〜60%を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れかの配線基板用ガラスセラミックス組成物。
【請求項6】
フィラー粉末が、アルミナ、ムライト、クリストバライト、フォルステライト、石英、ジルコニア、ジルコンから選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れかの配線基板用ガラスセラミックス組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかの配線基板用ガラスセラミックス組成物を焼成してなることを特徴とする配線基板用ガラスセラミックス焼結体。
【請求項8】
主結晶としてディオプサイド(CaMgSiO)、コージェライト(MgAlSi18)、又はフォルステライト(MgSiO)を析出してなる配線基板用ガラスセラミックス焼結体であって、フッ素(F)を0.1〜3モル%含有することを特徴とする配線基板用ガラスセラミックス焼結体。
【請求項9】
気孔率が3体積%以下であることを特徴とする請求項7又は8の配線基板用ガラスセラミックス焼結体。
【請求項10】
最大気孔径が10μm以下であることを特徴とする請求項7〜9の何れかの配線基板用ガラスセラミックス焼結体。
【請求項11】
焼成すると、ガラス相の割合が10%以下となる性質を有する結晶性ガラス粉末を含む配線基板用ガラスセラミックス組成物であって、フッ素(F)を0.1〜3モル%含有することを特徴とする配線基板用ガラスセラミックス組成物。
【請求項12】
請求項11の配線基板用ガラスセラミックス組成物を焼成してなることを特徴とする配線基板用ガラスセラミックス焼結体。

【公開番号】特開2010−52953(P2010−52953A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216235(P2008−216235)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】