説明

酵素を含有するフリーラジカル開始剤系

オキシダーゼ酵素、ペルオキシダーゼ補酵素、オキシダーゼ基質、及びレダクタント(即ち、還元剤)の組合せを含む、フリーラジカル開始剤系。この系は、重合性構成成分を含む樹脂系と共に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
様々な重合性組成物は、レドックス重合のためのフリーラジカル開始剤系を含む。このような組成物は、通常、医療用途及び歯科用途に使用される。しかし、多くは、不安定で、組成物の色の安定性に関する問題を引き起こす可能性がある過酸化物及び過硫酸塩などの酸化剤の使用を含む。このような組成物のための特定の添加剤は、色の安定性を改善することができるが、色の安定性を改善する幾つかの有用な添加剤によって、これらの組成物の潜在的な毒性及び/又は麻酔性が増大する可能性がある。そのため、より医学的に許容可能な組成物が必要とされている。
【0002】
【特許文献1】米国特許出願公開2003/0166740号明細書
【特許文献2】米国特許第5,154,762号明細書
【特許文献3】米国特許第4,209,434号明細書
【特許文献4】米国特許第4,872,936号明細書
【特許文献5】米国特許第5,130,347号明細書
【特許文献6】国際公開第00/38619号パンフレット
【特許文献7】国際公開第01/92271号パンフレット
【特許文献8】国際公開第01/07444号パンフレット
【特許文献9】国際公開第00/42092号パンフレット
【特許文献10】米国特許第5,076,844号明細書
【特許文献11】米国特許第4,356,296号明細書
【特許文献12】EP−0373 384号明細書
【特許文献13】EP−0201 031号明細書
【特許文献14】EP−0201 778号明細書
【特許文献15】米国特許第4,695,251号明細書
【特許文献16】米国特許第4,503,169号明細書
【特許文献17】米国特許第6,387,981号明細書
【特許文献18】国際公開第01/30304号パンフレット
【特許文献19】国際公開第01/30305号パンフレット
【特許文献20】国際公開第01/30306号パンフレット
【特許文献21】国際公開第01/30307号パンフレット
【非特許文献1】W.ティッシャー(W.Tischer)、F.ヴェーデキント(F.Wedekind)、現代化学のトピックス(Topics in Current Chemistry)、第200巻、シュプリンガー(Springer)、ベルリン・ハイデルベルク(Berlin Heidelberg)、1999年
【非特許文献2】米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、2002年、第124巻、4247〜4252頁
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、オキシダーゼ酵素、ペルオキシダーゼ補酵素、オキシダーゼ基質、及びレダクタント(即ち、還元剤)の組合せを含む、フリーラジカル開始剤系を提供する。この系は、好ましくは、不安定な酸化剤を使用することなく、重合性構成成分を含む樹脂系の比較的迅速なフリーラジカル開始を提供する。さらに、このような系は、毒性が比較的低いため、多くの慣用的な系よりも医療用途及び歯科用途にさらに好適である。
【0004】
好ましい実施形態では、本発明は、オキシダーゼ及びペルオキシダーゼ;オキシダーゼ基質;及び、スルフィン酸塩、アスコルビン酸、アミノ酸(好ましくは、システイン、N−フェニルグリシン、ヒスタジン(histadine)、及びこれらの組合せからなる群から選択されるアミノ酸)、バルビツル酸誘導体、及びこれらの組合せからなる群から選択される還元剤を含むフリーラジカル開始剤系を提供する。
【0005】
別の好ましい実施形態では、本発明は、オキシダーゼ及びペルオキシダーゼ;オキシダーゼ基質;及び、分子量約400のポリエチレングリコールジメタクリレート、水、グルコース、グルコースオキシダーゼ、及びホースラディッシュペルオキシダーゼの混合物を、約60分以下、約37℃で少なくとも部分的に硬化させる(実施例の項に記載の重合試験方法により試験する)還元剤を含む、フリーラジカル開始剤系を提供する。好ましくは、この還元剤は、スルフィン酸塩、アスコルビン酸、アミノ酸、バルビツル酸誘導体、及びこれらの組合せから選択されてもよい。
【0006】
本発明は、また、重合性構成成分を含む樹脂系、及び本明細書に記載のフリーラジカル開始剤系を含む、組成物(好ましくは、歯科組成物)を提供する。好ましくは、重合性構成成分は、エチレン性不飽和構成成分を含む。特に歯科組成物では、重合性構成成分は、多官能性構成成分を含む。さらに好ましくは、樹脂系は、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、及びこれらの組合せなどのエチレン性不飽和化合物から選択されてもよい。
【0007】
特定の実施形態では、組成物は、任意に水、及び任意に補助溶媒を含むことができる。
【0008】
本発明の組成物、特に歯科組成物は、任意に、2部以上からなる形態とすることができ、例えば、その両方をペーストの形態とすることができる。
【0009】
本発明の特に好ましい歯科組成物は、重合性構成成分(好ましくは、エチレン性不飽和重合性構成成分、さらに好ましくは、多官能性エチレン性不飽和重合性構成成分)を含む樹脂系;並びに、オキシダーゼ及びペルオキシダーゼ;オキシダーゼ基質;及び、分子量約400のポリエチレングリコールジメタクリレート、水、グルコース、グルコースオキシダーゼ、及びホースラディッシュペルオキシダーゼの混合物を、約60分以下、約37℃で少なくとも部分的に硬化させる(実施例の項に記載の重合試験方法により試験する)還元剤を含むフリーラジカル開始剤系を含む。好ましくは、還元剤は、スルフィン酸塩、アスコルビン酸、アミノ酸、バルビツル酸誘導体、及びこれらの組合せから選択されてもよい。
【0010】
本発明は、また、硬化した組成物を調製する方法も提供する。本方法は、組成物を硬化させるのに有効な条件下で、重合性構成成分を含む樹脂系と、本明細書に記載のフリーラジカル開始剤系を合わせることを含む。好ましくは、組成物を硬化させるのに有効な条件は、約0℃〜約60℃の温度を含んでもよい。さらに好ましくは、組成物の構成成分は、組成物が約25℃の温度で約120分未満で硬化するように選択される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、様々な硬化性組成物に樹脂系と共に使用するフリーラジカル開始剤系を提供する。フリーラジカル開始剤系は、オキシダーゼ酵素、ペルオキシダーゼ補酵素、オキシダーゼ基質、及びレダクタント(即ち、還元剤)の組合せを含む。この系は、好ましくは、不安定な酸化剤を使用することなく、比較的迅速なフリーラジカル開始を提供する。
【0012】
本発明の組成物は、フリーラジカル開始剤系、樹脂系、及び、任意の構成成分(水、補助溶媒、フィラー、光開始剤、界面活性剤、並びに、当業者に周知の他の任意の添加剤)含む。
【0013】
本発明のフリーラジカル開始剤系、及び、従って、硬化性組成物は、医療材料及び歯科材料、特に歯科材料に特に好適である。医療材料には、例えば、組織シーラント、骨格材料、及び潰瘍化した組織の処置剤が挙げられる。歯科材料には、例えば、シーラント、修復材、硬組織コーティング及び/又は軟組織コーティング、補綴デバイス、セメント、接着剤、及び歯周処置剤が挙げられる。
【0014】
本フリーラジカル開始剤系は、オキシダーゼ及びペルオキシダーゼ;オキシダーゼ基質;及び、還元剤を含む。オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、及び還元剤は、互いに協働し、樹脂系の重合を開始できるフリーラジカルを生成しなければならない。この種のキュアは、暗反応である。即ち、これは光に存在に依存せず、光がなくても進行できる。
【0015】
酵素及び還元剤は、好ましくは、典型的な歯科条件における貯蔵及び使用が可能になるほど十分な貯蔵安定性がある。それらは、他の硬化性組成物構成成分に容易に溶解できるほど(且つ、他の硬化性組成物構成成分からの分離が抑制されるほど)、樹脂系と十分な混和性を有していなければならない(且つ、好ましくは水溶性でなければならない)。
【0016】
本発明に使用するのに好適な酵素は、オキシドレダクターゼ酵素である。これらは、国際生化学・分子生物学連合(the International Union of Biochemistry and Molecular Biology)(IUBMB)の推奨(1992年)による酵素分類番号E.C.1に分類される酵素である。これらの酵素は、酸素還元反応(即ち、レドックス反応)を触媒する。オキシドレダクターゼ酵素群に入るものには、オキシダーゼ酵素とペルオキシダーゼ酵素がある。
【0017】
オキシダーゼ酵素は、電子受容体としてOに作用し、過酸化水素を生成することにより、基質の酸化を触媒する。このような酵素は、酵素分類E.C.1.1.3、E.C.1.2.3、E.C.1.3.3、E.C.1.4.3、E.C.1.5.3、E.C.1.7.3、E.C.1.8.3、E.C.1.9.3に分類される。例としては、以下に限定されないが、グルコースオキシダーゼ、スクロースオキシダーゼ、ラクテートオキシダーゼ、(S)−2−ヒドロキシ酸−オキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、L−又はD−アミノ酸オキシダーゼ、キシリトールオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、グリコレートオキシダーゼ、L−ソルボースオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、グロノラクトンオキシダーゼが挙げられる。本発明では、オキシダーゼ酵素の様々な組合せを使用することができる。好ましくは、オキシダーゼは、グルコースオキシダーゼ、ラクテートオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グリコレートオキシダーゼ、グロノラクトンオキシダーゼ、L−ソルボースオキシダーゼ、(S)−2−ヒドロキシ酸オキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、又はこれらの組合せであってもよい。
【0018】
ペルオキシダーゼ酵素は、電子受容体として過酸化物に作用する。このような酵素は、酵素分類E.C.1.11に分類される。異なる種類のペルオキシダーゼ酵素は供与体分子によって区別され、それらは供与体分子から電子を取り去って過酸化水素に供与する。本発明では、ペルオキシダーゼは、供与体分子からフリーラジカルを生成するのに使用される。供与体分子は、典型的には、このようなフリーラジカルを生成する際、ペルオキシダーゼの基質の役割をすることができる。本発明では、ペルオキシダーゼ酵素の様々な組合せを使用することができる。例としては、以下に限定されないが、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、大豆ペルオキシダーゼ、ポリフェノールペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、L−アスコルビン酸ペルオキシダーゼ、クロロペルオキシダーゼ、及びヨウ化物ペルオキシダーゼが挙げられる。好ましくは、ペルオキシダーゼは、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ポリフェノールペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、大豆ペルオキシダーゼ、クロロペルオキシダーゼ、又はこれらの組合せであってもよい。
【0019】
本発明では、フリーラジカル開始剤系は、また、オキシダーゼ酵素基質の様々な組合せを含むことができる。オキシダーゼ酵素に対応する酵素基質(本明細書ではオキシダーゼ基質と称される)には、以下に限定されないが、β−D−グルコース、スクロース、ラクテート、(S)−2−ヒドロキシ酸、広いスペクトルの炭水化物(D−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノース、マルトース、ラクトース、及びセロビオースなどを含む)、L−又はD−アミノ酸、キシリトール、キサンチン、α−ヒドロキシ酸、L−ソルボース、一級アルコール、及びL−グロノ−1,4−ラクトンが挙げられる。好ましくは、オキシダーゼ基質には、グルコース、ラクテート、ヘキソース、グロノラクトン、L−ソルボース、(S)−2−ヒドロキシ酸、キサンチン、又はこれらの組合せが挙げられる。
【0020】
還元剤は、好ましくは、還元剤が、分子量約400のポリエチレングリコールジメタクリレート、水、グルコース、グルコースオキシダーゼ、及びホースラディッシュペルオキシダーゼの混合物を、約60分以下、約37℃で少なくとも部分的に硬化させる(実施例の項に記載の重合試験方法により試験する)ように選択される。この試験を満たす本発明の好適な還元剤は、後述されるような、通常使用される様々な還元剤から選択されてもよい。
【0021】
本発明の還元剤は、重合性であっても、又は重合性でなくてもよい。操作性及び重合性の最適なバランス、並びに硬化した材料の最終特性を提供するように、2種類以上の還元剤の組合せを使用してもよい。還元剤は、モノマー、オリゴマー、又はポリマーの形態とすることができる。本発明では、還元剤の様々な組合せを使用することができる。
【0022】
非重合性還元剤には、アスコルビン酸及びその誘導体、アミン、三級アミン、アミノ酸、バルビツル酸及びその誘導体、亜ジチオン酸アニオン又は亜硫酸アニオンの塩、スルフィン酸、及びスルフィン酸塩を挙げてもよい。他の非重合性還元剤は、尿素官能基又はチオ尿素官能基を含んでもよい。他の非重合性還元剤には、低原子価金属塩、例えば、銅(I)、鉄(II)及びコバルト(II)を挙げてもよい。必要に応じて、非重合性還元剤の様々な混合物を使用することができる。
【0023】
重合性還元剤には、アクリル化三級アミン、例えば、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートを挙げてもよい。重合性還元剤の別の部類は、尿素基又はチオ尿素基を含んでもよい。尿素基及びチオ尿素基は、酸化還元(即ち、レドックス)重合反応におけるレダクタントとして機能することが知られている。さらに、尿素及びチオ尿素の誘導体は、2003年9月4日公開の特許文献1に記載のような重合性還元剤として有用な場合がある。必要に応じて、このような重合性還元剤の様々な組合せを使用することができる。
【0024】
特定の実施形態では、好ましくは、還元剤は、スルフィン酸塩、アスコルビン酸、アミノ酸、バルビツル酸誘導体、又はこれらの組合せから選択されてもよい。好ましくは、好適なスルフィン酸塩には、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、及びトルエンスルフィン酸ナトリウムなどの芳香族スルフィン酸塩が挙げられる。好ましくは、好適なアミノ酸には、N−フェニルグリシン、ヒスチジン、及びシステインが挙げられる。好ましくは、バルビツル酸誘導体には、1,3−ジメチルバルビツル酸が挙げられる。
【0025】
特定の実施形態では、開始剤系は酸素を含むことができる。即ち、本発明の組成物は、空気中で硬化できる。これは、フリーラジカル開始剤系が酸素を消費し、フリーラジカル重合に関する一般的な問題である酸素阻害を防止する能力によるものと考えられる。
【0026】
酵素、酵素基質、及び還元剤は、適切なフリーラジカル反応速度を可能にするのに十分な量で存在する。これは、硬化性組成物の成分を合わせ、好ましくは、約60分以下、約37℃で硬化した塊が得られるか否か(実施例の項に記載の重合試験方法により試験する)を観察することにより評価できる。
【0027】
好ましくは、オキシダーゼ酵素は、硬化性組成物に使用される重合性化合物1グラム当りの酵素が少なくとも約5単位、さらに好ましくは少なくとも約10単位、さらにより好ましくは少なくとも約20単位の量で存在する。好ましくは、オキシダーゼ酵素は、硬化性組成物に使用される重合性化合物1グラム当り約2000単位以下の量で存在する。
【0028】
好ましくは、ペルオキシダーゼ酵素は、硬化性組成物に使用される重合性化合物1グラム当りの酵素が少なくとも約25単位、さらに好ましくは少なくとも約50単位、さらにより好ましくは少なくとも約100単位の量で存在する。好ましくは、ペルオキシダーゼ酵素は、硬化性組成物に使用される重合性化合物1グラム当り約2000単位以下の量で存在する。
【0029】
好ましくは、オキシダーゼ基質は、硬化性組成物に使用される重合性化合物1グラム当りの酵素基質が少なくとも約0.15ミリグラム(mg)、さらに好ましくは少なくとも約0.25mg、さらにより好ましくは少なくとも約0.35mgの量で存在する。好ましくは、オキシダーゼ基質は、硬化性組成物に使用される重合性化合物1グラム当り約10mg以下の量で存在する。
【0030】
好ましくは、還元剤は、硬化性組成物に使用される重合性化合物1グラム当りの還元剤が少なくとも約2mg、さらに好ましくは少なくとも約10mg、さらにより好ましくは少なくとも約20mgの量で存在する。好ましくは、還元剤は、硬化性組成物に使用される重合性化合物1グラム当り約50mg以下の量で存在する。
【0031】
酵素製剤は100%もの高さの純粋な酵素を含有するように調製することができるか、又は、例えば、1%以下の非常に低レベルの酵素を含有してもよい。市販の酵素製剤は、通常、酵素を約2重量%(wt%)〜約80重量%含有する。そのため、本発明の組成物は、酵素製剤の活性、並びにその総量の両方を考慮に入れて、酵素及び酵素基質を含む。一般に、配合物は、酵素製剤の総重量ではなく、活性を基準にする。本発明の実施に使用される酵素のレベルは、酵素の酵素活性及び組成物の所望の硬化速度に依存する。
【0032】
酵素は、溶解性の形態又は固定化された形態で使用することができる。酵素の安定性及び反応性が向上するように、固定化された酵素を使用してもよい。固定化に利用できる多くの方法があり、それには、予め製造されたキャリア材料に結合させること、及び原位置(in situ)調製されるキャリアに組み込むことが挙げられる。作用(operative)結合力は、複数の弱い吸着相互作用から、強力な共有結合による単一の固着まで様々である。適切な方法は、酵素の構造及び用途に依存する。一般に、化学反応又は物理的吸収のいずれかでキャリアに固着させることにより、酵素を固定化することができ、(非特許文献1)に記載の様々な方法で使用することができる。或いは、酵素を膜又はリポソーム/ミセル内に入れて、又は、非特許文献2に記載のゾルゲルマトリックス中に入れてカプセル化することができる。
【0033】
酵素、基質、及び還元剤は、例えば、(特許文献2)(ミトラ(Mitra)ら)に記載のように、マイクロカプセル化することができる。これによって、一般に、硬化性組成物の貯蔵安定性が向上し、必要に応じて、還元剤と酵素を一緒に包装することができる。例えば、カプセル化剤を適切に選択することによって、酵素及び還元剤を重合性構成成分及び任意のフィラーと合わせ、貯蔵安定な状態に保持することができる。同様に、非水溶性カプセル化剤を適切に選択することによって、還元剤及び酵素をFAS(フルオロアルミナシリケート)ガラス及び水と合わせ、貯蔵安定な状態に維持することができる。
【0034】
好ましくは、カプセル化剤は、医学的に許容可能なポリマーで良好な皮膜形成剤である。また、カプセル化剤のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは室温より高い。
【0035】
樹脂系の構成成分は、それらが硬化性組成物の他の構成成分と混和性があるように選択される。即ち、好ましくは、樹脂系の構成成分は、組成物の他の成分(例えば、還元剤及び酵素)と合わせられるとき、実質的に沈殿しないほど、少なくとも十分な混和性がある。好ましくは、樹脂系の構成成分は、少なくとも部分的に水混和性である。樹脂系の構成成分は、モノマー、オリゴマー、ポリマー又はこれらの組合せとすることができる。
【0036】
本発明の樹脂系は、少なくとも1種類の重合性構成成分を含む。好ましくは、重合性構成成分は、エチレン性不飽和構成成分、さらに好ましくは、多官能性構成成分、さらにより好ましくは、重合性エチレン性不飽和多官能性構成成分である。
【0037】
任意に、本発明の硬化性組成物の樹脂系は、また、酸官能性構成成分を含んでもよい。エチレン性不飽和構成成分は別々の成分として存在することができるか、又は、エチレン性不飽和は、必要に応じて、酸官能性構成成分などの別の化合物の一部分として存在することができる。このように、1つの化合物が酸官能性部分とエチレン性不飽和部分を含むことができる。
【0038】
一実施形態では、エチレン性不飽和構成成分は、α,β−不飽和化合物を含む。好ましいα,β−不飽和化合物は、靭性、接着性、及び固化時間などの特性を変えることができる。α,β−不飽和化合物を使用するとき、それらは好ましくは、水溶性、水混和性又は水分散性である。水溶性、水混和性、又は水分散性の(メタ)アクリレート(即ち、アクリレート及びメタクリレート)、(メタ)アクリルアミド(即ち、アクリルアミド及びメタクリルアミド)、及びウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。例としては、以下に限定されないが、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリセロールモノ−又はジ−メタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ビスGMA、エトキシル化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、及びジアセトンメタクリルアミドが挙げられる。好適なエチレン性不飽和化合物は、また、ミズーリ州セントルイス、シグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)、及び、ドイツ、ダルムシュタット、ローム・アンド・テック社(Rhom and Tech,Inc.,Darmstadt,Germany)などの様々な市販の供給源からも入手可能である。必要に応じて、α,β−不飽和化合物の混合物を使用することができる。
【0039】
本発明の好ましい組成物は、所望の硬化速度、及び硬化後の所望の全体特性を提供するのに十分な量のエチレン性不飽和構成成分を含んでもよい。好ましくは、混合されているが固化していない本発明の硬化性組成物は、(混合されているが固化していない)硬化性組成物の総重量(水を含む)を基準にして、エチレン性不飽和構成成分(好ましくは、多官能性エチレン性不飽和構成成分)を少なくとも約1重量%(wt%)、さらに好ましくは少なくとも約5重量%、最も好ましくは少なくとも約10重量%含有する。
【0040】
任意の酸官能性構成成分は、モノマー、オリゴマー、又はポリマーを含むことができ、炭素化合物、リン化合物、イオウ化合物、及びホウ素化合物のオキシ酸官能性誘導体を含むことができる。好適な酸官能性化合物には、(特許文献3)(ウィルソン(Wilson)ら)の2欄62行目〜3欄6行目に列記されるものが挙げられる。好ましい酸官能性化合物は、アクリル酸、2−クロロアクリル酸、2−シアノアクリル酸、アコニット酸、シトラコン酸、フマル酸、グルタコン酸、イタコン酸、マレイン酸、メサコン酸、メタクリル酸、及びチグリン酸などのアルケン酸(alkenoic acid)のホモポリマー及びコポリマー(即ち、2種類以上の異なるモノマーからなる)を含むポリマーである。必要に応じて、酸官能性化合物の混合物を使用することができる。
【0041】
当業者には分かるように、酸官能性構成成分は、良好な貯蔵性、操作性、及び混合特性を提供するのに十分な分子量を有していなければならない。酸官能性構成成分に好ましい分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー及びポリスチレン標準を使用して評価する時、重量平均分子量約60〜約100,000であり、約80〜約30,000が最も好ましい。
【0042】
本発明の特定の実施形態は、所望の重合特性、及び硬化後の所望の全体特性を提供するのに十分な量の酸官能性構成成分を含んでもよい。好ましくは、本発明の硬化性組成物は、硬化性組成物の総重量(水を含む)を基準にして、酸官能性構成成分を少なくとも約2重量%(wt%)、さらに好ましくは少なくとも約5重量%、最も好ましくは少なくとも約10重量%含有する。
【0043】
前述のように、代替の実施形態では、エチレン性不飽和は、酸官能性構成成分の一部分として存在することができる。例えば、グリセロールホスフェートモノメタクリレート、グリセロールホスフェートジメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートホスフェート、クエン酸ジ−又はトリ−メタクリレート、ポリ(メタ)アクリル化オリゴマレイン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリカルボキシル−ポリホスホン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリクロロリン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリスルホネート、及びポリ(メタ)アクリル化ポリホウ酸などのα,β−不飽和酸性化合物を硬化性樹脂系の構成成分として使用してもよい。これらの化合物のうち幾つかは、例えば、イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートとカルボン酸との反応生成物として得られる。酸官能性構成成分とエチレン性不飽和構成成分の両方を有する、他のこの種の化合物は、(特許文献4)(エンゲルブレヒト(Engelbrecht))、及び(特許文献5)(ミトラ(Mitra))に記載されている。エチレン性不飽和部分と酸部分の両方を含有するこのような様々な化合物を使用することができる。必要に応じて、このような化合物の混合物を使用することができる。
【0044】
エチレン性不飽和基を有する他の好適なフリーラジカル重合性化合物には、スチレン、ジアリルフタレート、ジビニルスクシネート、ジビニルアジペート、ジビニルフタレートなどのビニル化合物;例えば、(特許文献6)(グッゲンバーガー(Guggenberger)ら)、(特許文献7)(ワインマン(Weinmann)ら)、(特許文献8)(グッゲンバーガー(Guggenberger)ら)、(特許文献9)(グッゲンバーガー(Guggenberger)ら)に開示されるようなシロキサン官能性(メタ)アクリレート;並びに、例えば、(特許文献10)(フォック(Fock)ら)、(特許文献11)(グリフィス(Griffith)ら)、(特許文献12)(ヴァーゲンクネヒト(Wagenknecht)ら)、(特許文献13)(ライナース(Reiners)ら)、及び(特許文献14)(ライナース(Reiners)ら)に開示されるようなフルオロポリマー官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。必要に応じて、2種類以上のフリーラジカル重合性化合物の混合物を使用することができる。
【0045】
また、本発明の硬化性組成物は、フィラーを含有することもできる。フィラーは、歯科修復組成物に現在使用されているフィラーなどの医療用途及び歯科用途に使用される組成物に組み込むのに好適な様々な材料のうちの1つ以上から選択されてもよい。フィラーは、好ましくは微粉砕されている。フィラーは、単一モード又は複数モード(例えば、2つのモード)の粒度分布を有することができる。好ましくは、フィラーの最大粒度(粒子の最大寸法、典型的には直径)は、約10μm未満、さらに好ましくは約2.0μm未満である。好ましくは、フィラーの平均粒度は約3.0μm未満であり、さらに好ましくは約0.6μm未満である。
【0046】
フィラーは、無機材料とすることができる。これはまた、樹脂系に不溶性で、任意に無機フィラーを含有する架橋された有機材料とすることもできる。いかなる場合でも、フィラーは無毒であり、口内で使用するのに好適でなければならない。フィラーは、放射線不透過性又は放射線透過性とすることができる。また、フィラーは水に実質的に不溶性である。
【0047】
好適な無機フィラーの例は、以下に限定されないが、石英;窒化物(例えば、窒化ケイ素);例えば、Ce、Sb、Sn、Ba、Zn及びAlに由来するガラス;長石;ホウケイ酸ガラス;カオリン;タルク;チタニア;(特許文献15)(ランドクレーフ(Randklev))に記載のものなどの低モース硬度のフィラー;及び、コロイド及びサブミクロンシリカ粒子(例えば、オハイオ州アクロン、デグサ社(Degussa Corp.,Akron,OH)から商品名エーロシル(AEROSIL)で入手可能なもの(「OX50」、「130」、「150」及び「200」シリカを含む)、及びイリノイ州タスコラ、カボット社(Cabot Corp.,Tuscola,IL)製のCAB−O−SIL M5シリカなどの熱分解法シリカ)を含む、天然材料又は合成材料である。好適な有機フィラー粒子の例には、フィラーを含有する又はフィラーを含有しない微粉状ポリカーボネート、及びポリエポキシドなどが挙げられる。
【0048】
好ましい非酸反応性フィラー粒子は、石英、サブミクロンシリカ、及び、(特許文献16)(ランドクレーフ(Randklev))に記載の種類の非ガラス質微粒子である。有機材料及び無機材料から製造されるコンビネーションフィラーと同様に、これらの非酸反応性フィラーの混合物も想到される。
【0049】
また、フィラーと樹脂との結合を向上させるため、フィラー粒子の表面をカップリング剤で処理することもできる。好適なカップリング剤の使用には、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、及びγ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0050】
また、フィラーは、酸反応性フィラーとすることもできる。酸反応性フィラーは、典型的には、酸官能性樹脂構成成分と組み合わせて使用され、非反応性フィラーと組み合わせて使用されても、又は非反応性フィラーと組み合わせて使用されなくてもよい。また、必要に応じて、酸反応性フィラーは、フッ化物放出特性を有することもできる。好適な酸反応性フィラーには、金属酸化物、ガラス、及び金属塩が挙げられる。好ましい金属酸化物には、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、及び、酸化亜鉛が挙げられる。好ましいガラスには、ホウ酸ガラス、リン酸ガラス、及びフルオロアルミノシリケート(「FAS」)ガラスが挙げられる。FASガラスが特に好ましい。FASガラスは、好ましくは、ガラスを硬化性組成物の構成成分と混合すると、硬化した歯科組成物が形成されるように、十分な溶離性カチオンを含有する。また、ガラスは、好ましくは、硬化した組成物が抗う蝕性を有するように十分な溶離性フッ化物イオンも含有する。FASガラス製造業者に周知の技術を使用して、フッ化物、アルミナ、及び、他のガラス形成成分を含有する溶融物からガラスを製造することができる。FASガラスは、好ましくは、他のセメント構成成分と好都合に混合することができ、得られる混合物が口内で使用されるとき良好に機能するように、十分に微粉砕された粒子の形態である。
【0051】
好ましくは、FASガラスの平均粒度(典型的には、直径)は、例えば、沈降分析器を使用して測定する場合、約10μm以下、さらに好ましくは約5μm以下である。好適なFASガラスは当業者に周知であり、様々な市販の供給源から入手可能であり、多くは、ビトレマー(VITREMER)、ビトレボンド(VITREBOND)、リライXルーティング・セメント(RELY X LUTING CEMENT)、及びケタック−フィル(KETAC−FIL)(ミネソタ州セントポール、3M ESPEデンタル・プロダクツ(3M ESPE Dental Products,St.Paul,MN))、フジII(FUJI II)、GCフジLC(GC FUJI LC)及びフジIX(FUJI IX)(日本、東京、株式会社ジーシー(G−C Dental Industrial Corp.,Tokyo,Japan))、及びケムフィル・スーペリア(CHEMFIL Superior)(ペンシルバニア州ヨーク、デンツプライ・インターナショナル(Dentsply International,York,PA))の商品名で市販されているものなどの、現在入手可能なグラスアイオノマーセメント中に見出される。必要に応じて、フィラーの混合物を使用することができる。
【0052】
FASガラスに、任意に表面処理を施すことができる。好適な表面処理には、以下に限定されないが、酸洗浄(例えば、リン酸を用いる処理)、ホスフェートを用いる処理、酒石酸などのキレート剤を用いる処理、及び、シラン、又は、酸性若しくは塩基性シラノール溶液を用いる処理が挙げられる。望ましくは、処理溶液又は処理されたガラスのpHは中性又は中性付近に調節されるが、それは、これによって硬化性組成物の貯蔵安定性を増大できるからである。
【0053】
特定の組成物では、酸反応性及び非酸反応性フィラーの混合物を同じ部又は異なる部のいずれかで使用することができる。
【0054】
他の好適なフィラーは、(特許文献17)(チャン(Zhang)ら)、並びに、(特許文献18)(ウー(Wu)ら)、(特許文献19)(チャン(Zhang)ら)、(特許文献20)(ウィンディッシュ(Windisch)ら)、(特許文献21)(チャン(Zhang)ら)に開示されている。他の好適なフィラーは、これらの公報に引用されている参考文献に記載されている。
【0055】
フィラーの量は、硬化前に望ましい混合特性及び操作性、及び硬化後に良好な性能を有する硬化性組成物を提供するのに十分な量でなければならない。好ましくは、フィラーは、硬化性組成物の総重量(水を含む)の約90重量%以下、さらに好ましくは約85重量%以下、最も好ましくは約80重量%以下である。好ましくは、フィラーは、硬化性組成物の総重量(水を含む)の少なくとも約1重量%、さらに好ましくは少なくとも約5重量%、最も好ましくは少なくとも約30重量%である。
【0056】
硬化性組成物に光開始剤を添加することもできるが、必ずしも必要ではない。光開始剤は、好適な波長及び強度の光に曝露されると重合性構成成分のフリーラジカル架橋を促進できるものでなければならない。また、好ましくは、典型的な歯科条件でその貯蔵及び使用が可能になるほど十分な貯蔵安定性があり、望ましくない着色がない。可視光線光開始剤が好ましい。光開始剤は、好ましくは樹脂系と混和性があり、さらに好ましくは水溶性又は水混和性である。極性基を有する光開始剤は、通常、十分な程度の水溶性、又は水混和性を有する。光開始剤は単独で使用できることも多いが、典型的には好適な供与体化合物又は好適な促進剤(例えば、アミン、過酸化物、リン化合物、ケトン、及びα−ジケトン化合物)と組み合わせて使用される。
【0057】
可視光線誘発性、及び紫外線誘発性の好適な開始剤が当業者に周知である。可視光線誘発性の好ましい開始剤には、カンファーキノン、ジアリールヨードニウムの単塩又は金属錯塩、発色団で置換されたハロメチル−s−トリアジン及びハロメチルオキサジアゾールが挙げられる。可視光線誘発性の特に好ましい光開始剤には、カンファーキノンなどのα−ジケトン、ジフェニルヨードニウムクロライド、ジフェニルヨードニウムブロミド、ジフェニルヨードニウムヨージド、又はジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェートなどのジアリールヨードニウム塩の組合せが挙げられる。紫外線誘発性の好ましい重合開始剤には、任意に重合性のあるアミンが挙げられる。
【0058】
使用される場合、光開始剤は、所望の光重合速度を提供するのに十分な量で存在しなければならない。この量は、一部には、光源、放射エネルギーに曝露される組成物の層の厚さ、及び光開始剤の吸光係数に依存する。
【0059】
混合されているが固化していない本発明の光硬化性(photocurable)組成物は、(混合されているが固化していない)硬化性組成物の総重量(水を含む)を基準にして少なくとも約0.01重量%、さらに好ましくは少なくとも約0.1重量%含む。好ましくは、混合されているが固化していない本発明の光硬化性(photocurable)組成物は、(混合されているが固化していない)硬化性組成物の総重量(水を含む)を基準にして約5重量%以下、さらに好ましくは約2重量%以下含む。
【0060】
本発明の組成物は、典型的には水を含有する。任意に、最終使用者が本発明の開始剤系及び組成物に水を添加することができる。水は蒸留水、脱イオン水、又は単なる水道水とすることができる。一般に、脱イオン水が好ましい。
【0061】
水の量は、適切な操作性と混合特性を提供し、イオンの輸送、特に、フィラー−酸反応におけるイオンの輸送を可能にするのに十分でなければならない。好ましくは、水は、硬化性組成物を形成するのに使用される成分の総重量の少なくとも約1重量%、さらに好ましくは少なくとも約5重量%である。好ましくは、水は、硬化性組成物を形成するのに使用される成分の総重量の約75重量%以下、さらに好ましくは約50重量%以下である。
【0062】
任意に、硬化性組成物は、また、溶媒(例えば、アルコール)、又は、水以外の希釈剤を含有してもよい。これらの補助溶媒(cosolvents)は、少なくとも部分的に、水混和性であり、これには、例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールが挙げられる。
【0063】
補助溶媒の量は、組成物構成成分の十分な溶解と反応性を提供するのに十分でなければならない。好ましくは、補助溶媒は、硬化性組成物を形成するのに使用される成分の総重量の少なくとも約1重量%、さらに好ましくは少なくとも約5重量%である。好ましくは、補助溶媒は、硬化性組成物を形成するのに使用される成分の総重量の約75重量%以下、さらに好ましくは約50重量%以下である。
【0064】
必要に応じて、本発明の硬化性組成物は、顔料、禁止剤、促進剤、粘度調整剤、界面活性剤、薬剤(即ち、所望される身体的又は生理学的変化を引き起こすことができる活性化合物)及び、当業者に明らかな他の成分などの任意の添加剤を含有することができる。添加される薬剤から起こり得る、所望される例示的な変化には、ホワイトニング、染み漂白、染み除去、再石灰化してフルオロアパタイトを形成すること、プラーク除去、及び歯石除去が挙げられる。好適な薬剤の例には、以下に限定されないが、過酸化水素、過酸化カルバミド、フッ化ナトリウム、一リン酸ナトリウム、ピロホスフェート、クロルヘキシジン、ポリホスフェート、トリクロサン、治療用酵素、及びこれらの組合せが挙げられる。他の有用な薬剤には、抗炎症剤、抗菌剤、及び軟組織の疾患を処置する他の試剤(例えば、歯周炎の処置剤)が挙げられる。過度の実験をすることなく所望の結果が達成されるように、当業者は、このような添加剤の選択及び量を選択することができる。
【0065】
治療用酵素の例には、被験者の口内(例えば、口腔プラーク及び唾液中)で有害な炭水化物、蛋白質、脂質、及び/又は細菌基質の(例えば、触媒作用による)分解を引き起こすものが挙げられる。好ましい酵素群は、殺菌性の生成物(例えば、H)を生成する。さらに、酵素は、酵素の治療機能を向上させる1種類以上の酵素基質を含有してもよい。
【0066】
このような酵素は、口内で普通のpHで実質的に活性であることが好都合である。典型的には、これは、pH5.0〜pH9.0、さらに典型的にはpH6.0〜pH8.5、さらにより典型的にはpH6.4〜pH7.5である。ある条件では、pHは、それよりも顕著に低い場合があり、このため様々な酵素の使用が可能である。オキシドレダクターゼ及びヒドロラーゼ酵素は、本発明で使用するのに有用な種類の酵素である。オキシドレダクターゼ酵素は、国際生化学・分子生物学連合(the International Union of Biochemistry and Molecular Biology)(IUBMB)の推奨(1992年)による酵素分類番号E.C.1に分類されるものである。これらは、酸素還元反応(即ち、レドックス反応)を触媒する。オキシドレダクターゼ酵素群に入るものには、オキシダーゼ酵素、ペルオキシダーゼ酵素、及びラッカーゼ酵素がある。オキシダーゼ酵素は、電子受容体としてOに作用し、過酸化水素を生成することにより、基質の酸化を触媒する。このような酵素は、酵素分類E.C.1.1.3、E.C.1.2.3、E.C.1.3.3、E.C.1.4.3、E.C.1.5.3、E.C.1.7.3、E.C.1.8.3、E.C.1.9.3に分類される。例としては、以下に限定されないが、グルコースオキシダーゼ、スクロースオキシダーゼ、ラクテートオキシダーゼ、(S)−2−ヒドロキシ酸オキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、L−又はD−アミノ酸オキシダーゼ、キシリトールオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、グリコレートオキシダーゼ、L−ソルボースオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、グロノラクトンオキシダーゼが挙げられる。対応する酵素基質には、以下に限定されないが、β−D−グルコース、スクロース、ラクテート、(S)−2−ヒドロキシ酸、広いスペクトルの炭水化物(D−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノース、マルトース、ラクトース、及びセロビオースなどを含む)、L−又はD−アミノ酸、キシリトール、キサンチン、α−ヒドロキシ酸、L−ソルボース、一級アルコール、及びL−グロノ−1,4−ラクトンが挙げられる。ペルオキシダーゼ酵素は、電子受容体として過酸化物に作用する。これらには、酵素分類E.C.1.11に分類される酵素が挙げられる。異なる種類のペルオキシダーゼ酵素は供与体分子によって区別され、それらは供与体分子から電子を取り去って過酸化水素に供与する。本発明では、ペルオキシダーゼは、供与体分子からフリーラジカルを生成するのに使用される。供与体分子は、典型的には、このようなフリーラジカルを生成する際、ペルオキシダーゼの基質の役割をすることができる。例としては、以下に限定されないが、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、大豆ペルオキシダーゼ、ポリフェノールペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、L−アスコルビン酸ペルオキシダーゼ、クロロペルオキシダーゼ、及びヨウ化物ペルオキシダーゼが挙げられる。対応する酵素基質には、以下に限定されないが、過酸化水素、並びにポリフェノール、マンガン(II)、アスコルビン酸、塩化物及びヨウ化物などの電子供与体分子が挙げられる。ラッカーゼ酵素は、Oに作用し、過酸化物を全く必要とせずに水を生成する。これらには、酵素分類E.C.1.10.3に分類される酵素が挙げられる。対応する基質には、以下に限定されないが、O−及びP−キノール、アミノフェノール及びフェニレンジアミンが挙げられる。ヒドロラーゼ酵素は、国際生化学・分子生物学連合(the International Union of Biochemistry and Molecular Biology)(IUBMB)の推奨(1992年)による酵素分類番号E.C.3に分類される。ヒドロラーゼ酵素群に入るものには、プロテアーゼ酵素、カルボヒドラーゼ酵素、及びリパーゼ酵素がある。好ましいヒドロラーゼ酵素はプロテアーゼである。プロテアーゼ酵素は、蛋白質を分解又は加水分解する役割をする。このような酵素は、分類E.C.3.4.21、E.C.3.4.22、E.C.3.4.23、E.C.3.4.24に分類される。例としては、以下に限定されないが、トリプシン、パパイン、パンクレアチン、ペプシン(例えば、ペプシンA、ペプシンB)、キモシン、カテプシンE、ガストリクシン、カテプシンD、フィテプシン(phytepsin)、シプロシン(cyprosin)、カルドシン(cardosin)A、カルドシン(cardosin)B、ネフェンテシン(nephentesin)、ニューロスポラペプシン(neurosporapepsin)、サッカロペプシン(saccharopepsin)、レニン、プラスメプシン、ロードルーラペプシン(rhodorulapepsin)、アクロシクリンドロペプシン(acrocyclindropepsin)、ピクノポロペプシン(pycnoporopepsin)、フィサロペプシン(physaropepsin)、アスペルギロペプシン、ペニシロペプシン(penicillopepsin)、リゾプスペプシン(rizopuspepsin)、ミューコールペプシン(mucorpepsin)、ポリプロップペプシン(polyproppepsin)、カンジダパラプシン(candidaparapsin)、カンジダペプシン(candidapepsin)、ヤプシン(yapsin)1、ヤプシン(yapsin)2、ヤプシン(yapsin)3、シュードモナスペプシン(pseudomonaspepsin)、キサンツホルノンペプシン(xanzhornonpepsin)、サーモプシン、サイタリドペプシン(scytalidopepsin)、アリューレイン(aleurain)、オンプチン(omptin)、リソソーム(lysosomale)、カルボキシペプチダーゼA、カテプシンA、リソソームプロ−Xカルボキシペプチダーゼ(lysosomale pro−X carboxypeptidase)、アスパラギニルエンドペプチダーゼ、y−グルタミルヒドロラーゼ、バシラスペプスタチン非感受性酸エンドペプチダーゼ(bacillus pepstatin insensitive acid endopeptidase)、カルボキシペプチダーゼ及びインスリン分解酵素(insulysin)が挙げられる。これらのプロテアーゼのうち、カルドシン(cardosin)A、カンジダパラプシン、シュードモナペプシン(pseudomonapepsin)、及びペプシン(特にペプシンA)を使用するのが好ましい。プロテアーゼに対応する基質は、様々な蛋白質及びペプチドである。プロテアーゼを亜鉛と組み合わせて使用し、抗プラーク機能を向上させることができる。カルボヒドラーゼ酵素は、炭水化物を分解又は加水分解する役割をする。このような酵素は、分類E.C.3.2.1に分類される。例としては、以下に限定されないが、デキストラナーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、ラクターゼ、インベルターゼ、アミログルコシダーゼ、及びリゾチームが挙げられる。カルボヒドラーゼ酵素に対応する基質には、以下に限定されないが、デキストラン、セルロース、澱粉、オリゴ糖類、β−D−グルコシド、ラクトース、スクロース、多糖類、及び細菌細胞壁が挙げられる。リパーゼ酵素は、脂肪物質(例えば、脂肪酸及び脂肪酸エステルなど)を分解又は加水分解する役割をする。このような酵素は、分類E.C.3.1.1及びE.C.3.1.4に分類される。例としては、以下に限定されないが、リパーゼ4000、リパーゼB、リパーゼ448、胃リパーゼ、すい臓リパーゼ、及び植物リパーゼが挙げられる。リパーゼ酵素に対応する基質は、様々な脂肪及び油である。酵素と任意の基質の様々な組合せを使用して治療機能を向上させることができる。例としては、様々なオキシドレダクターゼ酵素とそれに対応する基質の組合せ;グルコースオキシダーゼ、グルコース、及びチオシアネートの組合せ;並びに、グルコースオキシダーゼ/グルコースデヒドロゲナーゼとグルコースの組合せが挙げられる。
【0067】
本発明の組成物は、重合反応中と組成物が硬化した後の両方の硬化性組成物の適切な特性バランスを提供するように調整される。これらの特性には、重合速度及び硬化性組成物の構成成分の貯蔵安定性が含まれる。例えば、硬化性組成物は、好ましくは約6分以下、さらに好ましくは約4分未満、さらにより好ましくは約2分未満の硬化時間を有する。
【0068】
本発明の硬化性組成物は、2部からなる粉末/液体系、ペースト/液体系、及びペースト/ペースト系を含む様々な形態で供給することができる。それぞれが粉末、液体、ゲル、又はペーストの形態である複数部の組合せ(即ち、2部以上の組合せ)を使用する他の形態も可能である。複数部からなる系では、1部は、典型的にはオキシダーゼ酵素を含有し、別の部は、典型的には、オキシダーゼ酵素基質を含有する。
【0069】
後述のように、組成物の内容物が包装されるキットに硬化性組成物の構成成分を含めることができ、必要とされるまで構成成分の貯蔵が可能である。
【0070】
硬化性組成物の構成成分は、歯科組成物として使用されるとき、慣用的な技術を使用して混合し、臨床に用いることができる。(組成物中に光開始剤が含まれていなければ)キュアリングライトは必要ではない。組成物は、象牙質及び/又はエナメル質に非常によく接着することができる。任意に、硬化性組成物が使用される歯牙組織にプライマー層を使用することができる。また、組成物は非常に良好な長期フッ化物放出を提供することもできる。従って、本発明の組成物は、光又は他のキュア用外部エネルギーを適用することなく塊状にキュアすることができ、前処理を必要とせず、改善された曲げ強さを含む改善された物理的特性を有し、抗う蝕効果のため高濃度のフッ化物を放出するグラスアイオノマーセメント又は接着剤を提供してもよい。
【0071】
本発明の組成物は、フィラーを含有しても、又はフィラーを含有しなくてもよい様々な歯科材料として使用されるように、特によく調製される。それらは、歯に隣接して分配された(即ち、歯科材料を歯と一時的に又は永久に結合する又は触れる状態で接触して配置した)後でキュアされる、フィラーを少量含有するコンポジット(組成物の総重量を基準にして最大約25重量%までのフィラー)、又は、フィラーを含有しない組成物である、シーラント又は接着剤に使用することができる。それらは、典型的にはフィラーを含有する(好ましくは、約25重量%より多く、約60重量%までのフィラーを含有する)組成物であるセメントに使用することができる。それらは、歯に隣接して配置された後で重合されるコンポジットを含む修復材(充填材など)に使用することもできる。それらは、また、最終用途(例えば、歯冠、ブリッジ、ベニア、インレー、アンレーなど)のため、歯に隣接して配置される前に成形及び重合される補綴物に使用することもできる。歯科医又は他の使用者は、このような予め形成された物品を注文にぴったり合う形状に研磨又はその他の方法で形成することができる。
【0072】
組成物は、慣用的な光硬化性(light−curable)セメントのキュアの達成が困難な場合がある臨床用途に特に有用である。このような用途には、以下に限定されないが、深部修復、大きい歯冠の形成(large crown build−ups)、歯内修復、歯科矯正ブラケット(例えば、ペースト部分をブラケットに予め塗布することができ、液体部分を後で歯にはけ塗りすることができる、予めコーティングされるブラケットを含む)、バンド、バッカルチューブ、及び、他のデバイスの装着、金属歯冠又は他の光不透過性補綴デバイスの歯への合着、並びに、口内のアクセス不可能な領域における他の修復用途が挙げられる。
【実施例】
【0073】
本発明の目的及び利点を以下の実施例でさらに説明するが、これらの実施例で引用される特定の材料及び量、並びに他の条件及び詳細は、本発明を不当に限定するものと見なされるべきではない。別途明記されなければ、部及びパーセンテージは全て、重量を基準にしており、水は全て脱イオン水であり、分子量は全て重量平均分子量である。
【0074】
【表1】


略称/定義

【0075】
重合試験方法
以下の重合試験方法(PTM)は、特定の還元剤がオキシダーゼ、オキシダーゼ基質、ペルオキシダーゼ及び水の存在下で重合性材料の重合を開始できるか否かを評価するように設計された。
【0076】
PEGDMA−S1(1.0g)を室温(約22℃)で2ドラムのガラスバイアル瓶に移した後、評価する還元剤(5.6×10−5モル)を添加した。ポリエチレン張りの15ミリメートル(mm)のネジ蓋でバイアル瓶を密封し、2つの構成成分を混合する。還元剤は少なくとも部分的にPEGDMA−Sに溶解できなければならない。混合後、以下の構成成分、即ち、グルコース−S(0.2ml)、GOx−S(0.1ml)、及びペルオキシダーゼ−S(0.1ml)を60秒以内、撹拌しながら逐次、添加する。ペルオキシダーゼ−Sの添加後、バイアル瓶に蓋をし、混合物のゲル化(即ち、重合及び硬化)が起こるまで、30秒間手で振って構成成分を混合する。混合物が室温で約60秒以内にゲル化し始めない場合は、バイアル瓶を37℃のオーブンに移し、最大約60分までゲル化が起こるか定期的に観察する。混合物の完全な又は部分的なゲル化が室温で迅速に、又は37℃で60分以内に観察される場合、評価される還元剤は、オキシダーゼ、オキシダーゼ基質、ペルオキシダーゼ、及び水を含有する開始剤系に有用であると考えられる。
【0077】
実施例1
室温(約22℃)で表1に列記される構成成分、即ち、PEGDMA−S1、水、NaTS、グルコース−S、GOx−S、及びペルオキシダーゼ−Sをこの順にガラスバイアル瓶に入れて合わせることにより一連の組成物(サンプル1〜15)を調製した。構成成分を合わせた後、サンプル1は即時にゲル化した(即ち、重合して硬い固体になった)が、サンプル2〜15はゲル化しなかった(最大約60分までの間、硬化の徴候は見られなかった)。
【0078】
サンプル1だけが以下の5つの構成成分、即ち、グルコース、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、還元剤(NaTS)、及び重合性構成成分(PEGDMA)を全て含有したことに留意する。
【0079】
【表2】

【0080】
実施例2
室温で以下の構成成分、即ち、PEGDMA−S2(1g)、NaTS(0.01g)、グルコース−S(0.2ml)、GOx−S(0.1ml)、及びペルオキシダーゼ−S(0.1ml)を列記した順にガラスバイアル瓶に入れて合わせることにより組成物(サンプル16)を調製した。第2の組成物(サンプル17)は、酵素を含有せず(GOx又はペルオキシダーゼを含有しない)、水(0.4ml)を添加したこと以外、サンプル16のように調製した。
【0081】
構成成分を合わせた後、サンプル16は数秒以内にゲル化した(即ち、硬化した)が、サンプル17は流体溶液のままであり、重合は認められなかった。
【0082】
実施例3
室温で以下の構成成分、即ち、PEGDMA−S3(1g)、NaTS(0.01g)、グルコース−S(0.2ml)、GOx−S(0.1ml)、及びペルオキシダーゼ−S(0.1ml)を列記した順にガラスバイアル瓶に入れて合わせることにより、組成物(サンプル18)を調製した。第2の組成物(サンプル19)は、酵素を含有せず(GOx又はペルオキシダーゼを含有しない)、水(0.4ml)を添加したこと以外、サンプル18のように調製した。
【0083】
構成成分を合わせた後、サンプル18は約5分でゲル化した(即ち、硬化した)が、サンプル19は流体溶液のままであり、重合は認められなかった。
【0084】
実施例4
室温(約22℃)で以下の構成成分、即ち、PEGDMA−S1(1g)、還元剤又は電子供与体(表2に列記されている量のNaTS、又はRA1〜RA16)、グルコース−S(0.2ml)、GOx−S(0.1ml)、及びペルオキシダーゼ−S(0.1ml)を列記した順にガラスバイアル瓶に入れて合わせることにより一連の組成物(サンプル20〜37)を調製した。各サンプルについて、バイアル瓶に蓋をし、液体混合物のキュア又はゲル化(即ち、硬化)が起こるまで、30秒間手で振って構成成分を混合する。サンプルが室温で約60秒以内にキュアし始めなかった場合は、それらを37℃のオーブンに移し、最大約30分までキュア又はゲル化が起こるか定期的に観察した。還元剤又は電子供与体構成成分の具体的な量及びゲル化の結果の評価を表2に記載する。
【0085】
【表3】

【0086】
実施例5
ガラスバイアル瓶中の蒸留水(3.5ml)/THF(1.5ml)にMMA(2.86g、28.6mmol)を溶解させた溶液に、室温で以下の構成成分、即ち、NaTS(0.02g)、グルコース−S(0.3ml)、GOx−S(0.2ml)、及びペルオキシダーゼ−S(0.2ml)を逐次的に添加した。ペルオキシダーゼ−Sの添加後、バイアル瓶に蓋をし、30秒間手で振って構成成分を混合する。混合物は水のような低粘度の二成分溶液を形成したのが観察された。次いで、バイアル瓶を37℃のオーブンに入れ、定期的に観察した。約30分後、二成分溶液の界面に小さい透明層が現れ、少量の透明な物質が下層に観察されたという点で、ポリマー形成の徴候があった。約48時間室温で放置した後、分離した透明物質層がバイアル瓶中に観察された。NaTS、グルコース、グルコースオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼの開始剤系がMMAモノマーを重合させたということが結論付けられた。
【0087】
実施例6
ガラスバイアル瓶中の蒸留水(3.5ml)/THF(1.5ml)にHEMA(3.66g、28.2mmol)を溶解させた溶液に、室温で以下の構成成分、即ち、NaTS(0.02g)、グルコース−S(0.3ml)、GOx−S(0.2ml)、及びペルオキシダーゼ−S(0.2ml)を逐次的に添加した。ペルオキシダーゼ−Sの添加後、バイアル瓶に蓋をし、30秒間手で振って構成成分を混合すると水のような低粘度の均一な溶液が得られた。次いで、バイアル瓶を37℃のオーブンに入れ、定期的に観察した。約5分後、溶液の粘度が顕著に上昇したという点で、ポリマー形成の徴候があった。約30分後、溶液の粘度は、バイアル瓶を逆さまにした時、液体が非常にゆっくり流動するようなものであった。約48時間室温で放置した後、溶液はさらに濃くなり、相は、厚い透明な液体の上層とゴム状の固体の下層に分離した。NaTS、グルコース、グルコースオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼの開始剤系がHEMAモノマーを重合させたということが結論付けられた。
【0088】
本発明に対する様々な修正及び変更は、本発明の範囲及び精神を逸脱することなく当業者に明らかである。本発明は、本明細書に記載の例示的な実施形態及び実施例によって不当に限定されるものではなく、このような実施例及び実施形態は、以下のように本明細書に記載される特許請求の範囲によってのみ限定されるものとする本発明の範囲に関する例証としてのみ表される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシダーゼ及びペルオキシダーゼ、
オキシダーゼ基質、及び、
分子量約400のポリエチレングリコールジメタクリレート、水、グルコース、グルコースオキシダーゼ、及びホースラディッシュペルオキシダーゼの混合物を、約60分以下、約37℃で少なくとも部分的に硬化させる還元剤、
を含む、フリーラジカル開始剤系。
【請求項2】
前記還元剤が、スルフィン酸塩、アスコルビン酸、アミノ酸(システイン、N−フェニルグリシン、ヒスタジンからなる群から選択される)、バルビツル酸誘導体、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の開始剤系。
【請求項3】
前記オキシダーゼが、グルコースオキシダーゼ、ラクテートオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グリコレートオキシダーゼ、グロノラクトンオキシダーゼ、L−ソルボースオキシダーゼ、(S)−2−ヒドロキシ酸オキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、及びこれらの組合せを含む、請求項1又は2に記載の開始剤系。
【請求項4】
前記ペルオキシダーゼが、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ポリフェノールペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、大豆ペルオキシダーゼ、クロロペルオキシダーゼ、又はこれらの組合せを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の開始剤系。
【請求項5】
前記オキシダーゼ基質が、グルコース、ラクテート、ヘキソース、グロノラクトン、L−ソルボース、(S)−2−ヒドロキシ酸、キサンチン、又はこれらの組合せを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の開始剤系。
【請求項6】
酸素をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の開始剤系。
【請求項7】
重合性構成成分を含む樹脂系、及び、
請求項1〜6のいずれか1項に記載のフリーラジカル開始剤系、
を含む、硬化性組成物。
【請求項8】
前記重合性構成成分が、エチレン性不飽和構成成分を含む、請求項7に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
前記エチレン性不飽和構成成分が、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、又はこれらの組合せを含む、請求項8に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
水をさらに含む、請求項7〜9のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
補助溶媒をさらに含む、請求項10に記載の硬化性組成物。
【請求項12】
2部からなる形態である、請求項7〜11のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項13】
歯科用シーラント、修復材、硬組織及び/又は軟組織コーティング、補綴デバイス、セメント、接着剤、又は歯周処置剤としての、請求項7〜12のいずれか1項に記載の硬化性組成物の使用。
【請求項14】
(a)重合性構成成分を含む樹脂系と、(b)前記組成物を硬化させるのに有効な条件下で請求項1〜6のいずれか1項に記載のフリーラジカル開始剤系、を合わせることを含む、硬化した組成物の調製法。
【請求項15】
前記組成物を硬化させるのに有効な条件が約0℃〜約60℃の温度を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が約25℃の温度で約120分未満で硬化するように、前記重合性構成成分と前記フリーラジカル開始剤系が選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記歯科材料が、シーラント、修復材、コーティング、補綴デバイス、セメント、接着剤、又は歯周処置剤である、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2006−514707(P2006−514707A)
【公表日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−565153(P2004−565153)
【出願日】平成15年11月26日(2003.11.26)
【国際出願番号】PCT/US2003/038147
【国際公開番号】WO2004/060324
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】