説明

酸化チタン球状粒子及びその製造方法並びに酸化チタン球状粒子を用いた光電子デバイス

【課題】従来の中空のナノ粒子集合体に比べて光学的・電子的・光電的性質に優れ、光増感型太陽電池の光散乱層として用いることで、光吸収によって効率的にキャリアを生成させることができる単結晶の酸化チタン球状中空粒子、および、その製造技術を提供する。
【解決手段】液相中に、アナターゼ相からなるチタン原料粉末を分散させ、この液相中の原料粉末にパルスレーザー光を照射し、原料粒子を溶融及び急冷することにより、粒子の内部に単一の空隙を有する平均粒径10〜1000nmのルチル相からなる酸化チタン球状粒子を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン球状粒子及びその製造方法並びに酸化チタン球状粒子を用いた光電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無機ナノ粒子の集合体を利用して、マイクロスケールの高次の階層構造を構築するための系統的な研究が盛んになっている(非特許文献1)。このような階層構造の例として、低密度、高比表面積といった特徴をもつ球状粒子が、多くの重要な応用品(触媒、電池、除放性材料など)への適用を目指して、研究が進められている(非特許文献2)。
【0003】
球状粒子を形成する方法として、様々な方法が開発されている。多くの場合、単分散ポリマー粒子やカーボン、シリカ粒子、還元金属粒子のように硬い形状か(非特許文献3)、あるいは、ミセルマイクロエマルジョン、巨大分子、油滴、ガスバブルのような柔らかい形状の(非特許文献4)、除去可能なあるいは犠牲的に使われるテンプレートが用いられ、これらの表面に吸着や化学反応により、無機ナノ粒子を誘導して形成される。
【0004】
また、最近では、Ostwald熟成やKirkendall拡散を利用して、中空のマイクロル粒子を作製する多くのテンプレートフリーな手法が開発されてきた(非特許文献5)。このようにして、多くの様々な球状粒子が条件を制御しながら得られるようになっているが、無機球状粒子を単純な方法で得る方法はまだ開発途上である。
【0005】
無機材料として、特異的な化学的性質・物理的性質をもち、重要な半導体である酸化チタンは様々な応用、例えば、光触媒、太陽電池、電界放射、自己洗浄への適用を目指して研究が進められている。最近では、多くの酸化チタンの研究は、センサー、リチウム貯蔵、リチウムイオン電池、太陽電池、光触媒などに有効と考えられる中空球状粒子への作製にシフトしてきている。
【0006】
ところで、本発明者は、金属酸化物の原料粒子を液相中に分散させ、これに比較的弱いパルスレーザー光を照射して原料粒子をいったん溶融し、その後急冷することにより、球状ナノ粒子を得る方法を提案した(特許文献1)。しかし、この方法で得られた金属酸化物の球状ナノ粒子は、液相中の原料粉末の凝集・分散状態により、その粒子内部に空隙(ボイド)を備えた中空のものを制御して作製することはできなかった。
【0007】
また、特許文献2には、スパッタリング装置で、第一電極と第二電極に変動電圧を与え、酸素を導入して、プラズマ中でマグネシウム酸化物の単結晶球状粒子を製造する技術が開示されている。しかし、この製造方法は大型の専用装置が必要となり、この大型装置の管理維持といった面で問題がある。さらに、この特許文献2では、酸化物の種類が数多く(40種以上)挙げられているが、実施例では酸化マグネシウムの1個の例しかなく、他の酸化物において、中空の酸化物が得られているかどうか極めて疑問で、実体のないものと言わざるを得ない。また、このマグネシウム酸化物のバンドギャップは、酸化チタンのそれと大きく異なるため、同様の光電変換特性は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−74485号公報
【特許文献2】特開2010−120786号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Y. Zhou et al., Chem. Soc. 2003, 125, 14960
【非特許文献2】E. Mathlowitz et Al., Nature 1997, 386, 410
【非特許文献3】F. Caruso et Al., Science 1998, 282
【非特許文献4】Y. Hu et al., Adv. Mater. 2003, 15, 726
【非特許文献5】Yin, Y. et al., Science 2004, 304, 711
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般に、酸化チタンの中空粒子のほとんどは、ナノ粒子の集合体として形成されてきたことから、中空粒子全体として多結晶あるいは非晶質であり、ナノ粒子間の接触が不十分であることに起因して光学的・電子的・光電的性質に悪影響を与えるという大きな問題が生じる。
【0011】
本出願は、従来の中空粒子がナノ粒子の集合体として形成されているため、低密度、高比表面積ではあるが、粒子全体として多結晶あるいは非晶質であり、かつ光学的・電子的・光電的性質に劣るという問題点を解決しようとするものであり、特に、単結晶状の酸化チタン球状粒子であって、該粒子の内部に空隙を有する酸化チタン球状中空粒子を製造する技術を提供することを課題とする。
【0012】
また、光増感型太陽電池では、光吸収によって効率的にキャリアを生成させることが重要である。しかし、典型的な量子ドット増感太陽電池の配置では、薄膜層中の量子ドットは完全に可視光を吸収せず、吸収されなかった光は対極に到達するため入射太陽光が十分に利用されないという問題がある。
【0013】
本出願は、量子ドット増感太陽電池における量子ドット分散酸化チタンナノ粒子薄膜電極層中の量子ドットが入射太陽光を完全に吸収せず、十分に利用されなかったという問題点を解決しようとするものであり、特に、単結晶の酸化チタン球状粒子であって、該粒子の内部に空隙を有する酸化チタン球状粒子を量子ドット分散酸化チタンナノ粒子薄膜電極層の上部に設置した光散乱層として太陽電池に導入して、光電変換特性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、
1)単結晶の酸化チタン球状粒子であって、該粒子の平均粒径が10〜1000nmであり、該粒子の内部に単一の空隙を有することを特徴とする酸化チタン球状粒子
2)平均粒径200〜800nmであることを特徴とする上記1)記載の酸化チタン球状粒子
3)平均粒径400〜600nmであることを特徴とする上記1)記載の酸化チタン球状粒子、を提供する。
【0015】
また、本発明は、
4)液相中に、アナターゼ相からなるチタン原料粉末を分散させ、この液相中の原料粉末にパルスレーザー光を照射し、原料粒子を溶融及び急冷することにより、粒子の内部に単一の空隙を有する平均粒径10〜1000nmのルチル相からなる酸化チタン球状粒子を形成することを特徴とする酸化チタン球状粒子の製造方法
5)パルスレーザー照射光の波長を変化させることにより、粒子の粒径を制御することを特徴とする上記4)記載の酸化チタン球状粒子の製造方法
6)パルスレーザー照射光のレーザーフルーエンスを変化させることにより、粒子の粒径を制御することを特徴とする上記4)又は5)記載の酸化チタン球状粒子の製造方法
7)パルスレーザー照射光の照射時間を変化させることにより、粒子の粒径を制御することを特徴とする上記4)〜6)のいずれかに記載の酸化チタン球状粒子の製造方法
8)原料粒子を分散させる液相として、水系の溶媒、有機溶媒、イオン液体又は超臨界流体を用いることにより、粒子の粒径を制御することを特徴とする上記4)〜7)のいずれかに記載の酸化チタン球状粒子の製造方法
9)液相中の原料濃度を変化させることにより、粒子の粒径を制御することを特徴とする上記4)〜8)のいずれかに記載の酸化チタン球状粒子の製造方法、を提供する。
【0016】
また、本発明は、
10)上記1)〜3)のいずれかに記載の酸化チタン球状粒子からなる薄膜
11)上記10)記載の酸化チタン球状粒子からなる薄膜を組み込んだ光電子デバイス
12)上記10)記載の酸化チタン球状粒子からなる薄膜を光散乱層として組み込んだ太陽電池、を提供する。
【発明の効果】
【0017】
単結晶の酸化チタン球状粒子の内部に単一の空隙を有することにより、安定的な光学的・電子的・光電的性質を得ることが可能であり、また、該粒子の内部に空隙を有する酸化チタン球状粒子からなる薄膜を、光散乱層として量子ドット増感太陽電池に用いることにより、入射太陽光を十分に利用することができ、光電変換特性を向上できる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ミー散乱理論による散乱効率の計算結果のグラフである。
【図2】単結晶状酸化チタン中空球状粒子のボトムアップ的なレーザー合成法の模式図である。
【図3】酸化チタン粒子のSEM写真及びX線回折パターン。同図(a),(b)は酸化チタン原料粒子である。同図(c),(d)酸化チタン球状粒子である。
【図4】酸化チタン中空球状粒子の低倍率透過型電子顕微鏡写真である。
【図5】単一の酸化チタン中空球状粒子の高分解能透過型電子顕微鏡写真である。同図(b),(c),(d)は同図(a)中に示された位置の高分解能写真であり、挿入図は高速フーリエ変換パターンである。
【図6】(a)中空球状粒子サイズのレーザーフルーエンスと照射時間に対する依存性である。(b)アセトン中、レーザー波長532nmで20分間照射したときの典型的な生成物の形態である。(c)水中、レーザー波長355nmで10分間照射したときの典型的な生成物である。(d)アセトン中、レーザー波長355nmで20分間照射(フルーエンス133mJ/pulse・cm)したときの典型的な生成物である。
【図7】(a)可視紫外光領域の規格化した消光スペクトルである。(b)消光スペクトルピーク位置と中空球状粒子サイズとの関係である。
【図8】(a)酸化チタン中空球状粒子による光散乱層を組み込んだ量子ドット増感太陽電池の構造模式図である。(b)酸化チタン中空球状粒子層で覆われた量子ドット増感酸化チタン光電極断面の走査型電子顕微鏡写真である。(c)酸化チタン中空球状粒子層の有無による太陽電池の電流電圧特性と量子効率スペクトルの比較である。(d)量子効率の酸化チタン中空球状粒子層の厚さ依存性である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の酸化チタン球状粒子は、ルチル相からなる単結晶状の酸化チタン球状粒子である。この単結晶の球状粒子の平均粒径は10〜1000nmの範囲にあり、好適には平均粒径200〜800nmとすることができる。そして、この単結晶の球状粒子の内部に単一の空隙(「ボイド」又は「空間部」とも称する。)を有する。これが本願発明の大きな特徴の一つである。そして、この単結晶の酸化チタンの平均粒径を、400〜600nmとすることもできる。粒子サイズが大きくなりすぎると、粒子全体の熱容量が大きくなるため、投入したエネルギーが粒子全体を溶かすために必要なエネルギーに達しなくなり、粒子の成長過程(溶けた粒子に別の粒子が取り込まれる過程)が起こり難くなる。一方、粒子サイズが小さくなりすぎると、小さい粒子は光の吸収効率が大きくないため溶融が難しくなる。
【0020】
下記に示す製造工程において、空隙部を持つ単結晶酸化チタン球状粒子、またはこの空隙部を持つ球状粒子と中実の(中が詰まった)粒子が混在した単結晶酸化チタン球状粒子が得られる。
このような空隙部を持つ単結晶の酸化チタン球状粒子の形成は、酸化チタン原料粉末を液相に分散させたときの凝集状態に依存すしやすい。特に緩い凝集状態を引き起こすことが有効である。例えば、分散時によく使用される超音波印加の状況を弱くしたり、非常に微量に液中に存在させた(していた)イオン、界面活性剤や安定化剤などが凝集状態をわずかに変化させたり、異なる誘電率を有する液体を用いることで凝集状態を制御することが有効である。
【0021】
本願発明の酸化チタン球状粒子の製造に際しては、液相中に酸化チタン原料粉末を分散させ、この液相中の原料粉末にパルスレーザー光を照射し、原料粒子を溶融させると共に、該液相中で急冷して作製する。
これによって、平均粒径10〜1000nmの単結晶の酸化チタンであり、かつ該粒子の内部に単一の空隙を内包する球状粒子が得られる。
【0022】
酸化チタン球状粒子の製造において、パルスレーザー照射光のレーザーフルーエンスを変化させること、パルスレーザー照射光の照射時間を変化させること、原料粒子を分散させる液相として、水系の溶媒、有機溶媒、イオン液体又は超臨界流体を用いること、および液相中の原料濃度を変化させることにより、粒子の粒径を制御することができる。これらは、いずれも単独で、又は複合させることができる。
【0023】
本発明は、上記酸化チタン球状粒子からなる薄膜を形成し、またこの酸化チタン球状粒子からなる薄膜を組み込んだ光電子デバイス、特に酸化チタン球状粒子からなる薄膜を光散乱層として組み込んだ太陽電池を作製することができる。
図1に、酸化チタン粒子においてミー散乱に理論による散乱効率の計算結果をグラフに示す。この場合、サブミクロンサイズの粒子では、非中空粒子よりも中空粒子の方が、散乱効率が高いことが確認できる。
このような空隙部を持つ単結晶の酸化チタン球状粒子は、光散乱層として量子ドット増感太陽電池に用いることにより、入射太陽光を再度量子ドット増感酸化チタンナノ粒子電極層に戻してやることにより有効に利用することができ、光電変換特性を向上できる効果を有する。
【実施例】
【0024】
実施例を具体的に説明するが、以下の説明は理解し易くするものであり、この説明により発明の本質が制限されるものではない。すなわち、発明に含まれる他の態様または変形を含有するものである。
【0025】
(材料の合成)
Nd:YAGレーザー(Quanta Ray、スペクトラフィジックス社製、パルス幅10ns,繰り返し周波数30Hz)をパルスレーザー照射用の光源として用いた。
1mgの市販の酸化チタンナノ粒子(Aldrich,25nmサイズ,粉末)を、まず4mlのアセトン(99.5%,和光純薬)中に超音波分散した。
分散液は密封した反応容器中に移し、これに非集光レーザービーム(133mJ/pulse・cm,波長 355nm)を30分間照射した。レーザー照射後、遠心分離により集められた粒子は希塩酸(3.5wt%)で数回洗浄し、回収した。
【0026】
レーザーのフルーエンスや照射時間がサイズ変化に及ぼす影響を調べるためにアセトン(0.2mg/ml)中の酸化チタンナノ粒子に、非集光のレーザービーム(67,83,100,117,133mJ/pulse・cm,波長 355nm)を20分〜30分間照射した。
次に、球状粒子生成に及ぼす液相の影響を調べるため、水(ミリポア,0.2mg/ml)中に分散させた酸化チタンナノ粒子に、非集光レーザー光(133mJ/pulse・cm,波長 355nm)を20分間照射した。
【0027】
球状粒子生成に及ぼす原料濃度の影響は、アセトン(99.5%,和光純薬)中に異なる濃度(0.0625,0.125,0.25,0.5,1mg/ml)の酸化チタンナノ粒子を分散させたものに、非集光レーザー光(133mJ/pulse・cm、波長 355nm)を照射することにより調べた。
【0028】
得られた粒子の結晶相、形態、微構造は、X線回折、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡でそれぞれ分析した。球状粒子の動的光散乱測定は、マルバーン社製Zetasizer Nano ZSを用いた。アセトン中に分散させたサブミクロン球状粒子分散液の光学消光スペクトルは可視紫外分光光度計(島津UV−2100PC)により測定した。
【0029】
太陽電池作製とその特性評価の方法は、以下の通りである。
10μm厚で大きさが5×5mmメソポーラス酸化チタン膜は、FTOガラス基板上に酸化チタンナノ粒子のペーストをスクリーンプリントし、これを500℃で1時間熱処理することで得た。これを利用してCdS/CdSe量子ドットで修飾したSiOで増感した酸化チタン膜を作製した。
【0030】
続いて、酸化チタン球状粒子(作製条件:アセトン中、133mJ/pulse・cm,波長 355nm、30分間、0.2mg/ml)からなる散乱層は、濃縮酸化チタン球状粒子水溶液(2.625mg/ml)を量子ドット増感酸化チタンメソポーラス膜電極上に設置した中心部に穴(5×5mm)が開いた四角いマスク内に滴下し、その後自然乾燥させることで得た。酸化チタン球状粒子散乱層の厚さは、異なる体積(6〜26.7μL)の濃縮酸化チタン球状粒子水溶液を滴下することで制御した。
【0031】
量子ドット増感光陰極は対極の白金コートFTOガラスでサンドイッチし、30μmのスペーサーによりシールされた。0.5M NaS,0.125M S,0.2M KClを含むポリサルファイド水溶液を電解質として用いた。
【0032】
個々の太陽電池の電気的特性及び光電特性は100mWcm−2で模擬AM1.5太陽光照射を行いながら照射した。光源は200Wキセノンランプ電源(Model XPS 200,Solar Light Co.,アメリカ)を備えた紫外太陽光照射シミュレータ(Model 16S,Solar Light Co.,アメリカ)を用いた。
【0033】
図2は、室温での酸化チタンコロイド粒子へのパルスレーザー光照射による単結晶状球状粒子の生成を模式的に示したものである。高濃度のコロイド溶液のため、ナノ粒子は強く凝集して一つの構造体を形作るが、この際ナノ粒子間に多くの空隙(ボイド)が存在するものと考えられる。
パルスレーザー光照射により十分なエネルギーを凝集体が吸収すると、短時間(ナノ秒のオーダー)に凝集体の温度は融点をはるかに超えた温度にまで到達する。その後、溶融粒子は周りの液相により冷却され、粒子は再凝固する。
【0034】
ユニークな選択的パルス加熱により、凝集体表面は急速に加熱され、不定形から球状に変化する。この間の急速な温度上昇により、内部の孤立した空隙は顕著に膨張し、内部のナノ粒子は溶融した表面に接近する。凝集体内部の空隙は表面の急速な固化により外に逃げることができない。表面エネルギーを減少させるため、ばらばらに存在した空隙は徐々に凝集して一つの大きな空隙を形成する。
【0035】
この過程は、Kirkendall効果の場合と同様であり、図2のように模式的に表される。間欠的なレーザー加熱により粒子全体が融解するため、酸化チタンナノ粒子は外に向かって拡散し、これとバランスするように空孔の内部に向かった流れが生じ、最終的には安定な固体/気体界面を形成する。
多数回のパルス加熱サイクルにより、球状粒子全体が酸化チタンの融点以上で溶融、冷却時に固化・再結晶化を繰り返すことで結晶性球状粒子が得られる。
【0036】
図3は、原料と本発明の方法で得られた酸化チタン球状粒子の比較をしたものである。図3aは、酸化チタン原料ナノ粒子(Aldrich,25nm)の走査型電子顕微鏡像であり、ナノ粒子は強く凝集している。
図3aの左下の挿入図は、一つのナノ粒子凝集体を示したものである。対応するX線回折パターン(図3b)から原料はアナターゼ相であり、比較的広いピーク幅から粒子サイズは小さいことが分かる。
【0037】
波長355nmの非集光レーザー光(133mJ/pulse・cm)を用いてアセトン中に分散したナノ粒子に30分間照射すると多くの球状粒子が生成した(図3c)。
500nmサイズの単一粒子の走査型電子顕微鏡写真(図3c左下の挿入図)から粒子は真球状であり、平滑な表面をもち、ナノ粒子から組み上がった粒子とは形態的に異なることが分かった。
【0038】
400個以上の粒子のサイズ分布から(図3c右上の挿入図)、得られた球状粒子は平均サイズが540nmであった。図3dに示された粒子のXRDパターンからレーザー照射後の粒子はルチル相に変わったことがわかる。
明らかに減少した回折ピーク幅(図3d)を原料のデータ(図3b)と比較すると、得られた球状粒子はもはや原料ナノ粒子の集合体ではないことを示している。
【0039】
透過型電子顕微鏡により得られた球状粒子の微細構造をさらに分析した。興味深いことに、これらの球状粒子は多くは中空粒子であるが(図4)、中空部分は粒子の中心では必ずしもなく、ランダムに分布していた(図5a)。
球状粒子のサイズは数百nmであることから高分解能透過型電子顕微鏡像は粒子の端でしか観察することはできない。球状粒子の端からの格子像(図5b)は、酸化チタンルチル相(110)面の面間隔に対応していた。
また、図5bの挿入図の対応するフーリエ変換パターンは中空粒子の単結晶的構造を示していた。中空粒子の端の数カ所をランダムにチェックしたところ、共鳴高速フーリエ変換パターンと格子像(図5b、5c、5d)からその単結晶性が確認された。
【0040】
入射レーザーフルーエンスを変化させることにより得られる酸化チタン球状粒子のサイズを制御できることも分かってきた。図6aはレーザーフルーエンス変化による酸化チタン球状粒子サイズ変化を示したものである。50mJ/pulse・cmのフルーエンスで酸化チタンナノ粒子にレーザー光を照射した時は形態に変化がなかったことから、25nmの平均粒子サイズは原料とほぼ同じものと考えられる。
【0041】
波長355nmの非集光レーザー光(67〜133mJ/pulse・cm)で20分間照射後、得られた粒子は球状になり、平均サイズは255〜442nmとなった。他の条件は変えずに、照射時間を30分間に延ばしたとき、平均粒子サイズは295〜483nmへと少し大きくなった。このような、フルーエンスと時間に依存したサイズの増加は以前の結果と同様であった(特許文献2)。
【0042】
レーザー波長や液相、原料粒子の濃度が酸化チタン球状粒子の合成に影響を及ぼす。波長355nmの非集光レーザー光を用いた場合低フルーエンス(例えば67mJ/pulse・cm)でも球状粒子の生成が認められた。
しかし、波長532nmの非集光レーザー光の場合333mJ/pulse・cmを超えるフルーエンスによってのみ酸化チタン球状粒子が生成した(図6b)。
アナターゼのバンドギャップが3.2eVであることを考えれば、紫外光レーザー(355nm)の光学吸収が有効であることは明らかである。
【0043】
水中で同様にして得られた球状酸化チタンコロイド溶液を、分析のためにシリコン基板上に滴下・乾燥させると、常に球状粒子を覆う薄膜が観察された(図6c)。
この薄膜は水を含んだ溶媒の場合にレーザー照射により形成されることから水酸化チタンのゲル状物質と考えられた。
このゲル状薄膜は希塩酸(3.5wt%)によって除去された。アセトン中であっても微量の混入した水の存在のため、このようなゲル状薄膜の生成が起こることから、得られた酸化チタン球状粒子の塩酸洗浄が必要となる。
【0044】
原料粒子の濃度も球状粒子の形態に影響を及ぼす。濃度が高いほど球状粒子サイズは増加する。しかし、さらに高い濃度の原料コロイド溶液(例えば1mg/ml,図6d)を用いると、粒子同士の融合によって生じたと思われる不定形の非球状粒子が観測されるようになる。その理由は入射レーザーフルーエンスによって構造全体を溶融して球状構造を形成させることができないためである。
【0045】
図7aは、図6aに示された異なるサイズの酸化チタン球状粒子分散液から得られた消光スペクトルである。410nm以下の吸収は、バンドギャップエネルギー,3.02eVに対応したルチル相の光学吸収である。得られた粒子分散液の消光ピーク位置は明らかに粒子サイズの増加とともに440nmから760nmレッドシフトしたが、ピーク幅もこれとともに増加した。
【0046】
ナノ粒子の場合、レッドシフトとピーク幅の増加はともにナノ粒子サイズの増加によって引き起こされることが知られている。しかし、図7aに示された消光ピークのレッドシフトはバンド間吸収によるものではない。なぜなら、得られた酸化チタン球状粒子の消光ピークは410nmよりも大きいからである。
この現象は粒子サイズが入射光の波長相当になったときに起こる共鳴散乱によるものだと説明できる。この考えは、なぜピーク位置がレッドシフト(大きい粒子が長い波長の光を散乱する)を示すかも説明できる。ピーク幅の広がりは得られたサブミクロン球状粒子の広いサイズ分布に起因すると考えることができる。
【0047】
図7bは、消光ピークと平均粒子サイズの関係を示したものであり、ほぼ線形の関係にあった。図7bに示された回帰直線からその傾きは1.5であった。このように平均サイズd粒子は1.5dの波長で共鳴吸収を起こすことになるが、この係数値は理論計算の結果2dよりも小さかった。この原因は今のところはっきりしないが、球状粒子の広いサイズ分布によるものかもしれない。
【0048】
典型的な量子ドット増感太陽電池の配置では、膜厚と光浸透深さが、高効率太陽電池の構築に非常に重要になる。薄膜デバイスでは、光によって生成したキャリアの効率的な電荷移動と電解質中でのレドックス対拡散に関して有利である。
しかし、薄膜層中の量子ドットは完全に可視光を吸収しない。吸収されなかった光は対極に到達し入射太陽光が十分に利用されないことになる。
【0049】
酸化チタン酸化チタンサブミクロン球状粒子分散液の光散乱特性の結果から、酸化チタン球状粒子(平均サイズ483nm)を薄膜化して散乱層を量子ドット増感太陽電池に導入して光電変換特性向上が可能かどうか検討した。
図8aに示されるように、酸化チタン球状粒子を被覆した量子ドット増感酸化チタンナノ粒子薄膜を白金被覆ガラスとFTOガラスを対電極としてサンドイッチセル中にシールした。太陽光が量子ドット増感増感酸化チタンメソポーラス薄膜通過した後、余った光は光散乱効果により後方散乱され量子ドットによる二次的な吸収を引き起こす。
【0050】
図8bは、酸化チタン球状粒子によって覆われた量子ドット増感太陽電池の断面写真を示す。この場合では、6μm厚のCdS/CdSe量子ドットで増感された酸化チタンナノ粒子薄膜が1.5μm厚の酸化チタン球状粒子層により被覆されている。
酸化チタン球状粒子層をもつ量子ドット増感太陽電池は標準AM1.5模擬太陽光照射下でアパーチャーサイズ0.25cmの領域で電流電圧特性を測定することにより評価した。散乱層の有無の場合の典型的な試料の電流電圧特性曲線を、図8cに示す。
【0051】
散乱層なしの酸化チタン電極では短絡電流密度11mAcm−2、エネルギー変換密度2.31%であったが、散乱層有りの酸化チタン電極では電流密度が11.5mAcm−2で変換効率が2.58%であった。この結果は変換効率の10%増加を意味している。
両方の場合の量子収率スペクトルを散乱層の有無による酸化チタン電極の光電変換特性を比較するために測定した。散乱層有りの太陽電池の場合大きな量子収率(図8cの挿入図)を示した。さらに、散乱層がある太陽電池の量子収率スペクトルは赤外領域までテールを引くようになり、これは酸化チタンサブミクロン球状粒子の広い範囲での光散乱に起因するものと考えられた。
【0052】
量子ドット増感酸化チタンメソポーラス薄膜電極上に落とした酸化チタン球状コロイド溶液の体積が太陽電池効率に影響を及ぼすことが明らかとなった(図8d)。
コロイド溶液の体積を変化させると散乱層の厚さが異なることになることから、この現象は定性的に後方散乱光のトラッピングと散乱層によって引き起こされる電解質溶液中のレドックス対の電荷移動障壁とのバランスによるものと考えられる。
【0053】
すなわち、厚い光散乱層は強い後方散乱効果を持つが電解質への光誘起電子移動を強くブロックすることになる。加えて酸化チタン粒子の広いサイズ分布は広波長範囲の可視光を散乱して有効利用することを容易にする。効率は散乱層の球状粒子サイズの最適化によって改善されるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
単結晶の酸化チタン球状粒子の内部に単一の空隙を有することにより、安定的な光学的・電子的・光電的性質を得ることが可能であり、該粒子の内部に空隙を有する酸化チタン球状粒子からなる高屈折率の薄膜を形成することにより、光散乱層として入射太陽光を十分に利用することができ、光電変換特性を向上できるので、太陽電池、ディスプレー用フィルターとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶の酸化チタン球状粒子であって、該粒子の平均粒径が10〜1000nmであり、該粒子の内部に単一の空隙を有することを特徴とする酸化チタン球状粒子。
【請求項2】
平均粒径200〜800nmであることを特徴とする請求項1記載の酸化チタン球状粒子。
【請求項3】
平均粒径400〜600nmであることを特徴とする請求項1記載の酸化チタン球状粒子。
【請求項4】
液相中に、アナターゼ相からなるチタン原料粉末を分散させ、この液相中の原料粉末にパルスレーザー光を照射し、原料粒子を溶融及び急冷することにより、粒子の内部に単一の空隙を有する平均粒径10〜1000nmのルチル相からなる酸化チタン球状粒子を形成することを特徴とする酸化チタン球状粒子の製造方法。
【請求項5】
パルスレーザー照射光の波長を変化させることにより、粒子の粒径を制御することを特徴とする請求項4記載の酸化チタン球状粒子の製造方法。
【請求項6】
パルスレーザー照射光のレーザーフルーエンスを変化させることにより、粒子の粒径を制御することを特徴とする請求項4又は5記載の酸化チタン球状粒子の製造方法。
【請求項7】
パルスレーザー照射光の照射時間を変化させることにより、粒子の粒径を制御することを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の酸化チタン球状粒子の製造方法。
【請求項8】
原料粒子を分散させる液相として、水系の溶媒、有機溶媒、イオン液体又は超臨界流体を用いることにより、粒子の粒径を制御することを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の酸化チタン球状粒子の製造方法。
【請求項9】
液相中の原料濃度を変化させることにより、粒子の粒径を制御することを特徴とする請求項4〜8のいずれかに記載の酸化チタン球状粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれかに記載の酸化チタン球状粒子からなる薄膜。
【請求項11】
請求項10記載の酸化チタン球状粒子からなる薄膜を組み込んだ光電子デバイス。
【請求項12】
請求項10記載の酸化チタン球状粒子からなる薄膜を光散乱層として組み込んだ太陽電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−43788(P2013−43788A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180904(P2011−180904)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】