説明

酸素圧縮機用部品における難燃性被膜の形成方法及び酸素圧縮機

【課題】難燃性金属の歩留りを大幅に改善でき、内径の小さい部品や複雑な形状をした部品であっても容易に被膜を形成することができる酸素圧縮機用部品における難燃性被膜の形成方法及び酸素圧縮機を提供する。
【解決手段】ロータ(インペラ7、回転軸11)と、ロータを囲む静止部品(インレット部材5、軸シールリング17)とが接触する可能性がある箇所(インレット部材5の内周面、軸シールリング17の内周面)に、難燃性金属からなる被膜21、22を電気めっきにより形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素ガスを圧縮する酸素圧縮機の部品に難燃性被膜を形成する方法及び酸素圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
空気分離プラントやその他の各種プラントでは、酸素の所要個所への送給を行なう場合等に、酸素圧縮機を用いることがある。
【0003】
かかる酸素圧縮機として遠心圧縮機(ターボ圧縮機)を用いる場合、ロータの回転軸心のふれ等により高濃度酸素の存在下でロータと静止部品とが接触する可能性がある。例えば、インペラとこれを囲むインレット部材における接触や、圧縮機ケーシングにおけるインペラの回転駆動軸が貫通する部分に設ける軸シール部における接触がある。
【0004】
ロータと静止部品との接触によって両者が擦れ合うことで摩耗粉が発生すると、高濃度の酸素の存在下で摩耗粉が燃焼することによって発火が起こる可能性がある。このため、従来の酸素圧縮機においては、インレット部材の内面や軸シール部に、難燃性金属である銀の被膜を形成することにより、ロータと静止部品が高濃度の酸素の存在下で接触して擦れ合う場合であっても、発火の発生を未然に防止できるようにしてある(例えば、下記特許文献1,2を参照)。
【0005】
【特許文献1】特許第3939814号公報
【特許文献2】特開2007−154750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、インレット部材の内面や軸シール部に銀の被膜を形成する方法として、溶射によって銀の被膜を形成する方法や、銀のプレートを母材にロウ付けする方法が採られていた。しかしながら、溶射による被膜の形成では、被膜を形成する部分の内径が小さいと溶射角度が小さくなることで密着性が悪くなり、また、被膜を形成する部分以外への銀の飛散量が多く、銀の歩留りが非常に悪いという問題がある。また、ロウ付けによる被膜の形成では、複雑な形状をした部分に対して被膜を形成することが困難あるいは不可能であるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、ロータと静止部品とが接触する可能性がある部分に対して難燃性金属の被膜を形成するに際して、難燃性金属の歩留りを大幅に改善でき、内径の小さい部品や複雑な形状をした部品であっても容易に被膜を形成することができる酸素圧縮機用部品における難燃性被膜の形成方法及び酸素圧縮機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題を解決するため、本発明の酸素圧縮機用部品における難燃性被膜の形成方法及び酸素圧縮機は、以下の技術的手段を採用する。
(1)本発明は、圧縮機ケーシング内でインペラを含むロータを回転駆動させることで酸素ガスを圧縮する酸素圧縮機の部品に難燃性被膜を形成する方法であって、前記ロータと、該ロータを囲む静止部品とが接触する可能性がある箇所に、難燃性金属からなる被膜を電気めっきにより形成する、ことを特徴とする。
【0009】
(2)また、上記の方法において、前記被膜を形成する箇所は、前記インペラを囲むインレット部材における、前記インペラの外周に位置する部分である。
【0010】
(3)また、上記の方法において、前記被膜を形成する箇所は、インペラの回転駆動軸が圧縮機ケーシングを貫通する部分に設ける軸シールリングの内周面である。
【0011】
(4)また、本発明は、圧縮機ケーシング内でインペラを含むロータを回転駆動させることで酸素ガスを圧縮する酸素圧縮機において、前記ロータと、該ロータを囲む静止部品とが接触する可能性がある箇所に、電気めっきによって形成された難燃性金属からなる被膜が設けられている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ロータと静止部品とが接触する可能性がある箇所に、電気めっきにより難燃性金属の被膜を形成するので、被膜を形成する部分の内径が小さい場合や形状が複雑な場合でも、難燃性金属の被膜を所望の箇所に容易に形成することができる。また、電気めっきでは被膜形成が不要な部分にマスキングをすることで、被膜形成したい部分にのみ被膜を形成することができるので、難燃性金属の歩留りを大幅に改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る酸素圧縮機1の構成図である。図1において、酸素圧縮機1は、回転駆動されるロータ(回転軸11及びインペラ7)と、回転軸11及びインペラ7を囲む圧縮機ケーシング3とを備えている。
【0015】
回転軸11は、軸受支持部13に支持及び固定された軸受12によって回転可能に支持されている。回転軸11の先端には、ハブ8と翼9からなるインペラ7が一体的に連結されており、図示しない駆動装置によって回転軸11が回転駆動されることにより、インペラ7が回転させられる。なお、回転軸11とインペラ7は一体成形されたものでも、別部品として製作された後、適宜の連結手段により連結固定されたものであってもよい。
【0016】
圧縮機ケーシング3は、ケーシング部材4とインレット部材5とを有する。ケーシング部材4の中心部には、後述する軸シールリング17を配置するための円形開口部(符号なし)を有し、この円形開口部を回転軸11が貫通している。また、ケーシング部材4にはインペラ7を囲むように形成された環状のスクロール室6が設けられている。
【0017】
インレット部材5は、圧縮すべき酸素ガスを導入するための入口通路を形成する部材であり、ボルト等の固定手段によってケーシング部材4に固定されている。
上記の構成において、インペラ7が回転駆動されると、インレット部材5を通して酸素ガスが吸入され、インペラ7によって半径方向外側に送り出される過程で減速加圧された後、環状のスクロール室6に導入され、図示しない排出口から排出されるようになっている。
【0018】
圧縮ガスがインペラ7の背面側を通って外部に漏れ出るのを抑制すために、回転軸11とその周りを囲む静止部との間の軸方向のガス流れを抑制する軸シール部14が設けられている。軸シール部14は、軸シールリング17と、複数のラビリンス群15とを有する。
【0019】
軸シールリング17は、リング状をなし、ケーシング部材4の円形開口部の内側に支持されている。複数のラビリンス群15は、軸シールリング17に対峙する回転軸11の外周部に軸方向に間隔をおいて支持されている。個々のラビリンス群15は複数のフィンの集合体である。
【0020】
軸シールリング17の内周部において、ラビリンス群15の間には、環状のシール室18が軸方向に間隔をおいて形成されている。また軸シールリング17には、各シール室18の外周部と軸シールリング17の外周面とを連通する通路19が形成されている。ケーシング部材4には半径方向に延びる複数のキリ穴(図示せず)が、上記の複数の通路19にそれぞれ連通するように形成されている。このキリ穴を通して、シールガスを吹き込んだり、漏れガスの回収をしたり、パージしたりすることで、圧縮ガスのシールがなされる。
【0021】
上記のように構成された酸素圧縮機1において、ロータ(インペラ7及び回転軸11)の軸心のふれ等により高濃度酸素の存在下で、ロータが、これを囲む静止部品と接触する可能性がある。すなわち、図1の酸素圧縮機1では、インペラ7の外周がインレット部材5の内周面に接触したり、回転軸11(具体的にはラビリンス群15)の外周面が軸シールリング17の内周面に接触したりする可能性がある。
【0022】
このようなロータと静止部品との接触によって両者が擦れ合うことによって発生する発火を防止するため、ロータと静止部品とが接触する可能性がある箇所に、電気めっきによって形成された難燃性金属からなる被膜21、22が設けられている。図1の構成例では、インペラ7を囲むインレット部材5における、インペラ7の外周に位置する部分に、電気めっきによって形成された難燃性金属からなる被膜21が設けられている。また、軸シールリング17の内周面に電気めっきによって形成された難燃性金属からなる被膜22が設けられている。
【0023】
上記の難燃性金属としては、銀や金などの貴金属類やこれらの合金がある。このような難燃性金属からなる被膜21、22は、ミリ単位の厚さとなるように形成し、1.5mm〜3.0mm程度の厚さとなるように形成するのが好ましい。すなわち厚めっきするのがよい。この場合、2mm以上の厚さとなるように被膜21、22を形成すると、万一、インペラ7や回転軸11(具体的にはラビリンス群15)が、軸心の振れ等により、インペラ7の翼9やラビリンス群15が被膜21、22に食い込むようになるとしても、インペラ7の翼9やラビリンス群15がインレット部材5や軸シールリング17の基材まで達するようになる事態を未然に防止できる。
【0024】
図2は、上記のインレット部材5に難燃性金属からなる被膜21を形成する方法を説明する図である。図2において、めっき槽24の中に、めっきする金属(難燃性金属)を薬品で溶解しためっき液25が入れられている。めっき液25の中には、インレット部材5と電極26aが浸けられている。インレット部材5と電極は、それぞれ図示しないジグで支持されている。
【0025】
電極26aは、インレット部材5において被膜21を形成すべき箇所の形状に倣った形状をしており、インレット部材5の内周面に対面する状態で配置されている。図2において、電極26aは、全体で一つのリング状をなす形状となっているが、複数枚の電極板をリング状に並べたものであってもよい。あるいは、電極26aを一本の棒状電極とし、これをインレット部材5の中央部に挿入してもよい。
【0026】
インレット部材5はめっき電源27のプラス極に接続され、電極26aはめっき電源27のマイナス極に接続されている。インレット部材5において、被膜の形成が不要な部分にはマスキングが施されている。
【0027】
このような状態で、インレット部材5をカソードとし、電極26aをアノードとして、両者間を通電することにより、めっき液25中の難燃性金属がインレット部材5の内周面に堆積し、これにより難燃性金属からなる被膜21が形成される。これにより所要の厚さの被膜を形成したら、洗浄や仕上げ研磨等の後処理を行う。
【0028】
図3は、上記の軸シールリング17に難燃性金属からなる被膜22を形成する方法を説明する図である。図3において、めっき槽24、めっき液25及びめっき電源27は、図2に示したものと同じである。めっき液25の中には、軸シールリング17と電極26bが浸けられている。軸シールリング17と電極26bは、それぞれ図示しないジグで支持されている。
【0029】
電極26bは、軸シールリング17の内周面の形状に倣った中空円筒型であり、軸シールリング17の内周面に対面する状態で配置されている。図3において、電極26bは、全体で一つの中空円筒型をなす形状となっているが、複数枚の電極板を円筒型に並べたものであってもよい。あるいは、電極26bを一本の棒状電極とし、これを軸シールリング17の中央部に挿入してもよい。
【0030】
軸シールリング17はめっき電源27のプラス極に接続され、電極26bはめっき電源27のマイナス極に接続されている。軸シールリング17において、被膜の形成が不要な部分にはマスキングが施されている。
【0031】
このような状態で、軸シールリング17をカソードとし、電極26bをアノードとして、両者間を通電することにより、めっき液25中の難燃性金属が軸シールリング17の内周面に堆積し、これにより難燃性金属からなる被膜22が形成される。これにより所要の厚さの被膜を形成したら、洗浄や仕上げ研磨等の後処理を行う。
【0032】
軸シールリング17の内周面に被膜22を形成する際に、シール室18となる溝を形成した状態の軸シールリング17を用意し、これの所要箇所にマスキングして上述した電気めっきにより難燃性金属の被膜22を形成してもよいが、この場合、溝の角や凹凸が被膜の形成に悪影響を与える可能性がある。したがって、図3のように、シール室18となる溝を形成する前の軸シールリング17の内周面に被膜22を形成した後に、シール室18となる溝を形成するのがよい。
【0033】
上述した本発明によれば、ロータと静止部品とが接触する可能性がある箇所に、電気めっきによって、難燃性金属からなる被膜21、22を形成するので、被膜21、22を形成する部分であるインレット部材5や軸シールリング17の内周面の内径が小さい場合や形状が複雑な場合でも、難燃性金属の被膜を所望の箇所に容易に形成することができる。また、電気めっきでは被膜の形成が不要な部分にマスキングをすることで、被膜を形成したい部分にのみ被膜を形成することができるので、難燃性金属の歩留りを大幅に改善できる。
【0034】
なお、上記の実施形態では、静止部品であるインレット部材5の内周面に難燃性金属からなる被膜21を形成したが、ロータであるインペラ7の翼9の外周部に難燃性金属からなる被膜を形成してもよく、あるいは、インレット部材5の内周面と翼9の外周部の両方に難燃性金属からなる被膜を形成してもよい。
【0035】
また、上記の実施形態では、静止部品である軸シールリング17の内周面に難燃性金属からなる被膜22を形成したが、ロータである回転軸11側に配置されたラビリンス群15の外周部に難燃性金属からなる被膜を形成してもよく、あるいは、軸リールシング17の内周面とラビリンス群15の外周部の両方に難燃性金属からなる被膜を形成してもよい。
【0036】
また、上記の実施形態では、静止側に軸シールリング17を設け、回転側にラビリンス群15を設けた構成としたが、静止部にラビリンス群を設け、回転側に軸シールリングを設けた構成としてもよい。この場合、ラビリンス群の内周部と軸シールリングの外周面の一方または両方に難燃性金属からなる被膜を形成してよい。
【0037】
上記において、本発明の実施形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る酸素圧縮機の構成図である。
【図2】インレット部材に難燃性金属からなる被膜を形成する方法を説明する図である。
【図3】軸シールリングに難燃性金属からなる被膜を形成する方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0039】
1 酸素圧縮機
3 圧縮機ケーシング
4 ケーシング部材
5 インレット部材
6 スクロール室
7 インペラ
8 ハブ
9 翼
11 回転軸
12 軸受
13 軸受支持部
14 軸シール部
15 ラビリンス群
17 軸シールリング
18 シール室
19 通路
21、22 難燃性金属からなる被膜
24 めっき槽
25 めっき液
26a、26b 電極
27 めっき電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機ケーシング内でインペラを含むロータを回転駆動させることで酸素ガスを圧縮する酸素圧縮機の部品に難燃性被膜を形成する方法であって、
前記ロータと、該ロータを囲む静止部品とが接触する可能性がある箇所に、難燃性金属からなる被膜を電気めっきにより形成する、ことを特徴とする酸素圧縮機用部品における難燃性被膜の形成方法。
【請求項2】
前記被膜を形成する箇所は、前記インペラを囲むインレット部材における、前記インペラの外周に位置する部分である、請求項1記載の酸素圧縮機用部品における難燃性被膜の形成方法。
【請求項3】
前記被膜を形成する箇所は、インペラの回転駆動軸が圧縮機ケーシングを貫通する部分に設ける軸シールリングの内周面である、請求項1又は2記載の酸素圧縮機用部品における難燃性被膜の形成方法。
【請求項4】
圧縮機ケーシング内でインペラを含むロータを回転駆動させることで酸素ガスを圧縮する酸素圧縮機において、
前記ロータと、該ロータを囲む静止部品とが接触する可能性がある箇所に、電気めっきによって形成された難燃性金属からなる被膜が設けられている、ことを特徴とする酸素圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−77831(P2010−77831A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244503(P2008−244503)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】