説明

重合体の製造方法、該重合体及び該重合体からなる硬化性組成物

【課題】ビニル系重合体のカップリング法、末端官能基導入法、グラフト重合体の製造法、それらの反応の改良法、及びこれらの方法により製造される重合体を提供する。
【解決手段】原子移動ラジカル重合して得られた重合体の末端ハロゲン基を、カルボン酸系基で置換することを特徴とする重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有するビニル系重合体の末端ハロゲン基とカルボン酸系基との反応に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体の成長末端同士をカップリングさせることにより、長鎖の重合体を製造することは知られている。アニオン重合の場合には、求電子性の官能基を2つ持つ化合物を添加することによりカップリングさせることができる。カチオン重合の場合には、求核性の官能基を2つ持つ化合物を添加することにより同様にカップリングさせることができる。
【0003】
一方で、末端に官能基を有する重合体は、そのもの単独で、又は、適当な硬化剤と組み合わせることによって架橋し、耐熱性、耐久性等の優れた硬化物を与えることが知られている。なかでも、末端に水酸基又は架橋性シリル基を有する重合体はそれらの代表例である。末端に水酸基を有する重合体は、多官能性のイソシアネート化合物を硬化剤として用いることにより架橋硬化する。また、架橋性シリル基を末端に有する重合体は、適当な縮合触媒の存在下、湿分を吸収することにより硬化物を与える。
【0004】
このような、水酸基又は架橋性シリル基を末端に有する重合体の主鎖骨格としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシド等のポリエーテル系重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリイソブチレン又はそれらの水素添加物等の炭化水素系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカプロラクトン等のポリエステル系重合体等が例示される。これらは、主鎖骨格と架橋形式に基づき、様々な用途に用いられている。
【0005】
上に例示したようなイオン重合や縮重合で得られる重合体において達成されるカップリング反応に対して、ラジカル重合で得られるビニル系重合体の末端同士をカップリングさせることは、まだほとんど実用化されていない。イオン重合の場合と異なり、ラジカル重合の場合は、その成長末端であるラジカル同士が直接カップリングすることは、原理的には可能であるが、ラジカル重合そのものの制御が非常に困難であるために、そのカップリングを制御することは容易でない。
【0006】
ビニル系重合体の中でも、(メタ)アクリル系重合体は、上述のポリエーテル系重合体、炭化水素系重合体又はポリエステル系重合体では得られない特性、例えば、高い耐候性、透明性等を有している。なかでも、アルケニル基や架橋性シリル基を側鎖に有する(メタ)アクリル系重合体は、高耐候性の塗料等に利用されている。その一方で、アクリル系重合体の重合制御は、その副反応のために容易ではなく、成長末端のカップリングが非常に困難である。
【0007】
カップリング反応の利点としては、鎖延長による分子量の増大、ブロックコポリマーの合成、末端官能基化ポリマーの合成等が挙げられる。カップリングを行うと、成長末端が1つのポリマーの場合、分子量は2倍になり、成長末端が2つのポリマーの場合には、原理的には分子量は無限に増大する。モノマーの逐次添加等により合成したジブロックコポリマーをカップリングさせると、ABA型のトリブロックコポリマーが合成される。官能基を持つ開始剤を用いて重合したポリマーの場合、成長末端をカップリングさせると両末端に官能基を持つポリマーが合成される。
【0008】
両末端に架橋性官能基を有するビニル系重合体は、側鎖に架橋性官能基を有するものと比較して物性の優れた硬化物を得ることができる。従って、これまで多くの研究者によって、その簡便な製造方法が検討されてきたが、それらを工業的に製造することは容易ではない。特許文献1には、連鎖移動剤としてアルケニル基含有ジスルフィドを用いることを特徴とする、両末端にアルケニル基を有する(メタ)アクリル系重合体の合成方法が開示されている。また、特許文献2には、水酸基を有するジスルフィドを用いて、両末端に水酸基を有する(メタ)アクリル系重合体を合成し、さらに水酸基の反応性を利用して両末端にアルケニル基を有する(メタ)アクリル系重合体を合成する方法が開示されている。しかしながら、これらの方法では重合体の分子量の制御は容易ではない。また、末端に確実に官能基を導入するためには、連鎖移動剤を大量に使用しなければならず、製造工程上、問題がある。
【0009】
また、これらの方法では通常のラジカル重合が用いられているため、得られる重合体の分子量、分子量分布(数平均分子量と数平均分子量の比)のコントロ−ルは困難である。
【0010】
官能基の中でも、カルボキシル基は、種々の反応性基、例えば、水酸基、アミノ基、エポキシド基等と反応することができるため、架橋性基として有効な官能基である。カルボキシル基を重合体末端に導入する方法として、官能基含有連鎖移動剤の使用が公知である。例えば、特許文献3、特許文献4には、連鎖移動剤としてメルカプトカルボン酸を用いた、カルボキシル基末端(メタ)アクリル系重合体の合成法が開示されている。
【0011】
グラフト共重合体は各種機能性材料として用いられている。ビニル系重合体を枝高分子とするグラフト共重合体の合成法として、幹高分子の重合開始点からモノマーを重合して枝高分子を成長させる重合法(合成法1)、枝高分子として末端に重合性二重結合を有する重合体(マクロモノマー)を用い、マクロモノマーの単独重合もしくは他のビニル系モノマーとの共重合により幹高分子を後から合成する方法(合成法2)などが知られている。合成法1では、過酸化ベンゾイルなどのラジカル発生剤の利用や放射線照射により幹高分子上にラジカルを発生させ、このラジカルから枝高分子を構成するビニル系モノマーの重合を開始させる。合成法1は簡便ではあるが、ビニル系モノマーの単独重合体の生成や幹高分子の分解などの副反応が避けられない。また、合成法2では、あらかじめ枝高分子が合成されるので構造の明確なグラフト共重合体が得られるという利点はあるものの、マクロモノマーの合成は容易ではなく、用いられるマクロモノマー種が限定される。
【0012】
一方、末端に官能基を有する枝高分子をあらかじめ合成し、官能基の反応性を利用して、枝重合体を幹重合体に結合させるカップリング法(合成法3)も知られている。末端に官能基を有する重合体として、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシド等のポリエーテル系重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリイソブチレン又はそれらの水素添加物等の炭化水素系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカプロラクトン等のポリエステル系重合体等の主鎖骨格を有するものが例示される。
【特許文献1】特開平5−255415号公報
【特許文献2】特開平5−262808号公報
【特許文献3】特開平8−208759号公報
【特許文献4】特許第1603919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、ビニル系重合体のカップリング法、末端官能基導入法、グラフト重合体の製造法、それらの反応の改良法、及びこれらの方法により製造される重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、原子移動ラジカル重合で得られた重合体の末端ハロゲン基を、カルボン酸系基で置換する重合体の製造方法である。
【0015】
カルボン酸系基は、カルボン酸塩基であることが好ましく、カルボン酸カリウム塩基であることがより好ましい。
【0016】
本発明における原子移動ラジカル重合は、重合触媒として遷移金属錯体を使用することができ、上記遷移金属錯体としては、周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする遷移金属錯体であることが好ましく、中でも銅、ニッケル、ルテニウム、鉄の錯体がより好ましく、特に銅錯体が好ましい。
【0017】
原子移動ラジカル重合で得られた重合体は、(メタ)アクリル酸系モノマーが重合してなるものが好ましく、中でもアクリル酸エステルモノマーが重合してなるものが好ましい。
【0018】
原子移動ラジカル重合で得られた重合体の末端ハロゲン基は、2級ハロゲン基であることが好ましい。
【0019】
本発明の製造方法は、窒素原子含有化合物存在下で実施することにより加速させることができる。窒素原子含有化合物は、脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族アミン及び複素環式窒素塩基からなる群より選択されるものであることが好ましい。更に、原子移動ラジカル重合の重合触媒の配位子として、アミン系化合物もしくはピリジン系化合物を用いる場合において、該配位子を窒素原子含有化合物として用いる方法、また、原子移動ラジカル重合の重合触媒の配位子として、アミン系化合物もしくはピリジン系化合物を用いる場合において、ビニル系モノマーの重合系に直接、カルボキシル基を有する化合物を添加することにより末端ハロゲン基のカルボン酸系基での置換反応を行う方法も有効である。
【0020】
カルボン酸系基を有する化合物としては、重合体であるもの、更に重合体の側鎖にカルボン酸系基があるもの、カルボン酸系基を有する化合物が2つ以上のカルボン酸系基を有する化合物であるもの等が用いられる。
【0021】
本発明の反応により得られる重合体としては、グラフト重合体、ゲル、カップリングされた重合体、末端官能性重合体、特にカルボン酸系基を末端に有する重合体等が挙げられる。
【0022】
カルボン酸系基を有する化合物としては、また、環状酸無水物と官能基を有するアルコールとを反応させて得られた化合物が適用でき、その官能基としては、アルケニル基、水酸基、アミノ基、及びエポキシ基からなる群より選択されるものが挙げられ、その環状酸無水物としては、無水コハク酸、無水フタル酸、及び無水グルタル酸からなる群より選択されるものが挙げられる。
【0023】
本発明は、上述の本発明の製造方法により製造される重合体でもある。
【0024】
本発明の製造方法で得ることの出来る、カルボキシル基を主鎖末端に有するビニル系重合体は、これを成分とする硬化性組成物にすることができ、その他の成分としては、エポキシ基含有化合物、水酸基含有化合物、アミノ基含有化合物、イソシアネート基含有化合物が挙げられる。
【0025】
以下に末端ハロゲン基を有する、原子移動ラジカル重合で得られた重合体(以下、重合体Aと呼ぶ)と、その末端ハロゲン基を置換するカルボン酸系基を有する化合物(以下、化合物Bと呼ぶ)について説明する。
【0026】
<重合体Aの説明>
以下に末端ハロゲン基を有する原子移動ラジカル重合で得られた重合体Aについて説明する。
原子移動ラジカル重合概説
「リビングラジカル重合法」は、重合速度が高く、ラジカル同士のカップリングなどによる停止反応が起こりやすいため制御の難しいとされるラジカル重合でありながら、停止反応が起こりにくく、分子量分布の狭い(Mw/Mnが1.1〜1.5程度)重合体が得られるとともに、モノマーと開始剤の仕込み比によって分子量は自由にコントロールすることができる。
【0027】
従って「リビングラジカル重合法」は、分子量分布が狭く、粘度が低い重合体を得ることができる上に、特定の官能基を有するモノマーを重合体のほぼ任意の位置に導入することができるため、上記特定の官能基を有するビニル系重合体の製造方法としてはより好ましいものである。
【0028】
なお、リビング重合とは狭義においては、末端が常に活性を持ち続けて分子鎖が生長していく重合のことをいうが、一般には、末端が不活性化されたものと活性化されたものが平衡状態にありながら生長していく擬リビング重合も含まれる。本発明における定義も後者である。
【0029】
「リビングラジカル重合法」は近年様々なグループで積極的に研究がなされている。その例としては、たとえばジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカルソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)、1994年、116巻、7943頁に示されるようなコバルトポルフィリン錯体を用いるもの、マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1994年、27巻、7228頁に示されるようなニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いるもの、有機ハロゲン化物等を開始剤として遷移金属錯体を触媒とする「原子移動ラジカル重合」(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)などがあげられる。
【0030】
「リビングラジカル重合法」の中でも、有機ハロゲン化物あるいはハロゲン化スルホニル化合物等を開始剤として、遷移金属錯体を触媒としてビニル系モノマーを重合する「原子移動ラジカル重合法」は、上記の「リビングラジカル重合法」の特徴に加えて、官能基変換反応に比較的有利なハロゲン等を末端に有し、開始剤や触媒の設計の自由度が大きいことから、特定の官能基を有するビニル系重合体の製造方法としてはさらに好ましいものである。この原子移動ラジカル重合法としては例えばMatyjaszewskiら、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカルソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)1995年、117巻、5614頁、マクロモレキュールズ(Macromolecules)1995年、28巻、7901頁、サイエンス(Science)1996年、272巻、866頁、WO96/30421号公報、WO97/18247号公報、WO98/01480号公報,WO98/40415号公報、あるいはSawamotoら、マクロモレキュールズ(Macromolecules)1995年、28巻、1721頁、特開平9−208616号公報、特開平8−41117号公報などが挙げられる。
【0031】
また、上記のような有機ハロゲン化物あるいはハロゲン化スルホニル化合物等を開始剤として用いる通常の原子移動ラジカル重合以外に、過酸化物のような一般的なフリーラジカル重合の開始剤と銅(II)のような通常の原子移動ラジカル重合触媒の高酸化状態の錯体を組み合わせた「リバース原子移動ラジカル重合」も原子移動ラジカル重合に含まれる。
【0032】
モノマー
本発明に用いられるビニル系モノマーとしては特に限定されず、各種のものを用いることができる。例示するならば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩等のスチレン系モノマー;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等が挙げられる。これらは、単独で用いても良いし、複数を共重合させても構わない。限定はされないが、なかでも、生成物の物性等から、スチレン系モノマー及び(メタ)アクリル酸系モノマーが好ましい。より好ましくは、アクリル酸エステルモノマー及びメタクリル酸エステルモノマーであり、更に好ましくは、アクリル酸ブチルである。本発明においては、これらの好ましいモノマーを他のモノマーと共重合させても良く、その際は、これらの好ましいモノマーが重量比で40%以上含まれていることが好ましい。
【0033】
開始剤
原子移動ラジカル重合は、開始剤として一般に、有機ハロゲン化物(例えば、α位にハロゲンを有するエステル化合物や、ベンジル位にハロゲンを有する化合物)又はハロゲン化スルホニル化合物等を用いる。また、ハロゲンの代わりになる基を用いても構わない。具体的に例示するならば、
−CHX、
−C(H)(X)CH
−C(X)(CH
(ただし、上の化学式中、Cはフェニル基、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
−C(H)(X)−CO
−C(CH)(X)−CO
−C(H)(X)−C(O)R
−C(CH)(X)−C(O)R
(式中、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、または炭素数7〜20のアラルキル基、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
−C−SOX、
(上記の各式において、R、R及びXは上記と同じ)
等が挙げられる。
【0034】
リビングラジカル重合の開始剤として、重合を開始する官能基以外の官能基を有する有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物を用いることもできる。このような場合、一方の主鎖末端に官能基を、他方の主鎖末端にハロゲン基を有するビニル系重合体が製造される。このような官能基としては、アルケニル基、架橋性シリル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基等が挙げられる。
【0035】
アルケニル基を有する有機ハロゲン化物としては限定されず、例えば、一般式(1)に示す構造を有するものが例示される。
C(X)−R−R−C(R)=CH (1)
(式中、Rは水素、またはメチル基、R、Rは、同一又は異なって、水素、または、炭素数1〜20の1価のアルキル基、アリール基、またはアラルキル、または他端において相互に連結したもの、Rは、−C(O)O−(エステル基)、−C(O)−(ケト基)、またはo−,m−,p−フェニレン基、Rは直接結合、または炭素数1〜20の2価の有機基で1個以上のエーテル結合を含んでいても良い、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
【0036】
置換基R、Rの具体例としては、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。RとRは他端において連結して環状骨格を形成していてもよい。
【0037】
一般式(1)で示される、アルケニル基を有する有機ハロゲン化物の具体例としては、
XCHC(O)O(CHCH=CH
CC(H)(X)C(O)O(CHCH=CH
(HC)C(X)C(O)O(CHCH=CH
CHCHC(H)(X)C(O)O(CHCH=CH
【0038】
【化1】

【0039】
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは0〜20の整数)
XCHC(O)O(CHO(CHCH=CH
CC(H)(X)C(O)O(CHO(CHCH=CH
(HC)C(X)C(O)O(CHO(CHCH=CH
CHCHC(H)(X)C(O)O(CHO(CHCH=CH
【0040】
【化2】

【0041】
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは1〜20の整数、mは0〜20の整数)
o,m,p−XCH−C−(CH−CH=CH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−(CH−CH=CH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−(CH−CH=CH
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは0〜20の整数)
o,m,p−XCH−C−(CH−O−(CH−CH=CH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−(CH−O−(CH−CH=CH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−(CH−O−(CHCH=CH
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは1〜20の整数、mは0〜20の整数)
o,m,p−XCH−C−O−(CH−CH=CH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−O−(CH−CH=CH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−O−(CH−CH=CH
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは0〜20の整数)
o,m,p−XCH−C−O−(CH−O−(CH−CH=CH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−O−(CH−O−(CH−CH=CH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−O−(CH−O−(CH−CH=CH
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは1〜20の整数、mは0〜20の整数)
【0042】
アルケニル基を有する有機ハロゲン化物としてはさらに一般式(2)で示される化合物が挙げられる。
C=C(R)−R−C(R)(X)−R−R (2)
(式中、R、R、R、R、Xは上記に同じ、Rは、直接結合、−C(O)O−(エステル基)、−C(O)−(ケト基)、または、o−,m−,p−フェニレン基を表す)
【0043】
は直接結合、または炭素数1〜20の2価の有機基(1個以上のエーテル結合を含んでいても良い)であるが、直接結合である場合は、ハロゲンの結合している炭素にビニル基が結合しており、ハロゲン化アリル化物である。この場合は、隣接ビニル基によって炭素−ハロゲン結合が活性化されているので、RとしてC(O)O基やフェニレン基等を有する必要は必ずしもなく、直接結合であってもよい。Rが直接結合でない場合は、炭素−ハロゲン結合を活性化するために、RとしてはC(O)O基、C(O)基、フェニレン基が好ましい。
【0044】
式(2)の化合物を具体的に例示するならば、
CH=CHCHX、CH=C(CH)CHX、
CH=CHC(H)(X)CH、CH=C(CH)C(H)(X)CH
CH=CHC(X)(CH、CH=CHC(H)(X)C
CH=CHC(H)(X)CH(CH
CH=CHC(H)(X)C、CH=CHC(H)(X)CH
CH=CHCHC(H)(X)−COR、
CH=CH(CHC(H)(X)−COR、
CH=CH(CHC(H)(X)−COR、
CH=CH(CHC(H)(X)−COR、
CH=CHCHC(H)(X)−C
CH=CH(CHC(H)(X)−C
CH=CH(CHC(H)(X)−C
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、Rは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基)等を挙げることができる。
【0045】
アルケニル基を有するハロゲン化スルホニル化合物の具体例を挙げるならば、
o−,m−,p−CH=CH−(CH−C−SOX、
o−,m−,p−CH=CH−(CH−O−C−SOX、
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは0〜20の整数)等である。
【0046】
上記架橋性シリル基を有する有機ハロゲン化物としては特に限定されず、例えば一般式(3)に示す構造を有するものが例示される。
C(X)−R−R−C(H)(R)CH−[Si(R2−b(Y)O]−Si(R103−a(Y) (3)
(式中、R、R、R、R、R、Xは上記に同じ、R、R10は、いずれも炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、または(R’)SiO−(R’は炭素数1〜20の1価の炭化水素基であって、3個のR’は同一であってもよく、異なっていてもよい)で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、RまたはR10が2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。Yは水酸基または加水分解性基を示し、Yが2個以上存在するときそれらは同一であってもよく、異なっていてもよい。aは0,1,2,または3を、また、bは0,1,または2を示す。mは0〜19の整数である。ただし、a+mb≧1であることを満足するものとする)
【0047】
一般式(3)の化合物を具体的に例示するならば、
XCHC(O)O(CHSi(OCH
CHC(H)(X)C(O)O(CHSi(OCH
(CHC(X)C(O)O(CHSi(OCH
XCHC(O)O(CHSi(CH)(OCH
CHC(H)(X)C(O)O(CHSi(CH)(OCH
(CHC(X)C(O)O(CHSi(CH)(OCH
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、ヨウ素、nは0〜20の整数、)
XCHC(O)O(CHO(CHSi(OCH
CC(H)(X)C(O)O(CHO(CHSi(OCH
(HC)C(X)C(O)O(CHO(CHSi(OCH
CHCHC(H)(X)C(O)O(CHO(CHSi(OCH
XCHC(O)O(CHO(CHSi(CH)(OCH
CC(H)(X)C(O)O(CHO(CH−Si(CH)(OCH
(HC)C(X)C(O)O(CHO(CH−Si(CH)(OCH
CHCHC(H)(X)C(O)O(CHO(CH−Si(CH)(OCH
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、ヨウ素、nは1〜20の整数、mは0〜20の整数)
o,m,p−XCH−C−(CHSi(OCH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−(CHSi(OCH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−(CHSi(OCH
o,m,p−XCH−C−(CHSi(OCH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−(CHSi(OCH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−(CHSi(OCH
o,m,p−XCH−C−(CH−O−(CHSi(OCH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−(CH−O−(CHSi(OCH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−(CH−O−(CHSi(OCH
o,m,p−XCH−C6H−O−(CHSi(OCH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−O−(CHSi(OCH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−O−(CH−Si(OCH
o,m,p−XCH−C−O−(CH−O−(CH−Si(OCH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−O−(CH−O−(CHSi(OCH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−O−(CH−O−(CHSi(OCH
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
等が挙げられる。
【0048】
上記架橋性シリル基を有する有機ハロゲン化物としてはさらに、一般式(4)で示される構造を有するものが例示される。
(R103−a(Y)Si−[OSi(R2−b(Y)−CH−C(H)(R)−R11−C(R)(X)−R−R (4)
(式中、R、R、R、R、R、R、R10、a、b、m、X、Yは上記に同じ)
【0049】
このような化合物を具体的に例示するならば、
(CHO)SiCHCHC(H)(X)C
(CHO)(CH)SiCHCHC(H)(X)C
(CHO)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)(CH)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)(CH)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)(CH)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)(CH)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)Si(CHC(H)(X)−C
(CHO)(CH)Si(CHC(H)(X)−C
(CHO)Si(CHC(H)(X)−C
(CHO)(CH)Si(CHC(H)(X)−C
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、Rは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基)
等が挙げられる。
【0050】
上記ヒドロキシル基を持つ有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物としては特に限定されず、下記のようなものが例示される。
HO−(CH−OC(O)C(H)(R)(X)
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、Rは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、nは1〜20の整数)
【0051】
上記アミノ基を持つ有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物としては特に限定されず、下記のようなものが例示される。
N−(CH−OC(O)C(H)(R)(X)
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、Rは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、nは1〜20の整数)
【0052】
上記エポキシ基を持つ有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物としては特に限定されず、下記のようなものが例示される。
【0053】
【化3】

【0054】
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、Rは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、nは1〜20の整数)
【0055】
上記リビングラジカル重合において、開始剤として、2つ以上の開始点を有する有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物を用いて重合を行うと、ハロゲン基を両末端に有するビニル系重合体が得られる。この開始剤を具体的に例示すれば、
【0056】
【化4】

【0057】
(式中、Rは炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20アリール基、または炭素数7〜20アラルキル基を表す。Cは、フェニレン基を表す。nは0〜20の整数を表す。Xは塩素、臭素、またはヨウ素を表す。)
【0058】
【化5】

【0059】
(式中、Rは炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20アリール基、または炭素数7〜20アラルキル基を表す。Cは、フェニレン基を表す。nは0〜20の整数を表す。Xは塩素、臭素、またはヨウ素を表す。)
等が挙げられる。
【0060】
触媒
原子移動ラジカル重合の触媒として用いられる遷移金属錯体としては特に限定されず、PCT/US96/17780に記載されているものが利用可能である。中でも好ましいものとして、0価の銅、1価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄又は2価のニッケルの錯体が挙げられる。なかでも、銅の錯体が好ましい。1価の銅化合物を具体的に例示するならば、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅等である。また、2価の塩化ルテニウムのトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl(PPh)も触媒として好適である。ルテニウム化合物を触媒として用いる場合は、活性化剤としてアルミニウムアルコキシド類が添加される。更に、2価の鉄のビストリフェニルホスフィン錯体(FeCl(PPh)、2価のニッケルのビストリフェニルホスフィン錯体(NiCl(PPh)、及び、2価のニッケルのビストリブチルホスフィン錯体(NiBr(PBu)も、触媒として好適である。
【0061】
触媒として銅化合物を用いる場合、その配位子として、PCT/US96/17780に記載されている配位子の利用が可能である。特に限定はされないが、アミン系配位子が良く、好ましくは、2,2’−ビピリジル及びその誘導体、1,10−フェナントロリン及びその誘導体、トリアルキルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミン等の脂肪族アミン等の配位子である。本発明においては、これらの内では、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミン等の脂肪族ポリアミンが好ましい。
【0062】
本発明の脱水条件での重合という点において、末端ハロゲン基の消失は重合系中の塩基性にも影響を受けるので、アミン類、特に脂肪族アミン類を配位子として用いる場合において、本発明の効果は大きい。
【0063】
触媒は、触媒活性を持つ錯体の状態で、重合装置に加えてもよいし、触媒の前駆体である遷移金属化合物と配位子を重合装置中で混合して錯体化しても構わない。公知の原子移動ラジカル重合においては、一般にこの錯体化の操作は、開始剤を添加する前に行われる。それに対し、本発明では、配位子を開始剤を添加した後に重合系中に添加し、触媒の前駆体である遷移金属化合物と錯体化させ、触媒活性を発現し、重合を開始する、及び/または、触媒活性を制御することが開示される。
【0064】
また、本発明のニトリル系化合物存在下で重合を行う場合、開始剤を錯体形成後に添加する通常の原子移動ラジカル重合の開始方法においても、錯体前駆体遷移金属化合物とニトリル系化合物を配位子よりも先に混合しておくことが、錯体の分散性が高まるので好ましい。
【0065】
上記のような配位子を用いる量は、通常の原子移動ラジカル重合の条件では、遷移金属の配位座の数と、配位子の配位する基の数から決定され、ほぼ等しくなるように設定されている。例えば、通常、2,2’−ビピリジル及びその誘導体をCuBrに対して加える量はモル比で2倍であり、ペンタメチルジエチレントリアミンの場合はモル比で1倍である。本発明において配位子を添加して重合を開始する、及び/または、配位子を添加して触媒活性を制御する場合は、特に限定はされないが、金属原子が配位子に対して過剰になる方が好ましい。配位座と配位する基の比は好ましくは1.2倍以上であり、更に好ましくは1.4倍以上であり、特に好ましくは1.6倍以上であり、特別に好ましくは2倍以上である。
【0066】
本発明においては、ニトリル系化合物を添加する代わりに、最初からニトリル系化合物が配位した遷移金属錯体を触媒前駆体の遷移金属化合物として用いても同様の効果が得られる。このような錯体としては、特に限定はされないが、ニトリル系化合物が過剰に存在する状態に、遷移金属化合物を添加しニトリル系化合物を配位させ、過剰のニトリル系化合物を除くことにより得られる錯体が例示される。また、CuBr(NC−R)、CuCl(NC−R)(式中、Rはメチル基などの一価の有機基、nは1以上の整数)等も例示される。
【0067】
溶媒、添加剤
本発明の重合は無溶媒又は各種の溶媒中で行うことができる。上記溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0068】
これらの溶媒の中ではアプロティックな溶媒が好ましい。また、極性の高い溶媒は一般的に吸水性が高く、また、末端消失反応も速い傾向があるので、本発明の脱水条件での重合はより有効である。基準としては、25℃における比誘電率が10以上の溶媒を用いた場合が挙げられる。本発明において添加剤として用いることが提示されているニトリル系化合物は、溶媒として用いても構わない。
【0069】
これらの溶媒、あるいは他に重合系に添加される添加剤としては、触媒として用いられる金属化合物に対して配位し、触媒活性を持たない錯体を形成するが、配位子が添加されると活性な触媒となるものが好ましい。溶媒が配位性を持たない場合でも、配位子の追加による触媒活性の制御は可能であるが、配位子のない状態のCuBr等の金属化合物の分散性が不十分で、器壁に付着したりなどして、安定した活性制御が容易ではない場合がある。このような要件を満たす例として、CuBrを金属化合物として用い、溶媒としてニトリル系溶媒を用いる組み合わせが挙げられる。PCT/US96/17780においては、アセトニトリルは重合触媒の好ましい配位子として記述されているが、実際には、CuBrのアセトニトリル錯体は重合活性を持たないことが確認された。しかし、この錯体は、結晶性が高く、不均一でも適切な攪拌により、重合系中に良好に分散することが我々の研究で明らかになった。そして、ペンタメチルジエチレントリアミンなどの配位子の添加により、速やかに活性な錯体を形成し、重合を触媒する。
【0070】
分子量・分子量分布
重合体Aとしては、特に限定されないが、原子移動ラジカル重合によりよく制御されて製造されるので、分子量分布、すなわち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量と数平均分子量の比は通常は1.8未満であり、好ましくは1.7以下であり、より好ましくは1.6以下であり、さらに好ましくは1.5以下であり、特に好ましくは1.4以下であり、最も好ましくは1.3以下である。本発明でのGPC測定においては、通常、移動相としてクロロホルムを用い、測定はポリスチレンゲルカラムにておこない、数平均分子量等はポリスチレン換算で求めることができる。また、数平均分子量は特に制限はないが、500〜1,000,000の範囲が好ましく、1000〜100,000がさらに好ましい。
【0071】
末端ハロゲン基
重合体Aの末端ハロゲン基の構造は、例えば下記一般式で表される構造である。
−C(R51)(R52)(X)
(式中、R51及びR52は、ビニル系モノマーのエチレン性不飽和基に結合した基を表す。Xは、塩素、臭素又はヨウ素を表す。)
【0072】
これらの中では、R51あるいはR52のどちらかが水素の場合、すなわち、2級のハロゲン基が好ましい。これを実現するために、アクリル酸系モノマー等のモノマーを重合することが挙げられるが、重合の終期にだけ、このような末端構造となるモノマーを添加して重合する方法も挙げられる。
【0073】
<カルボン酸系基を有する化合物Bの説明>
以下に末端ハロゲン基を有する原子移動ラジカル重合で得られた重合体Aの末端ハロゲン基を置換するカルボン酸系基を有する化合物Bについて説明する。
【0074】
カルボン酸系基を有する化合物としては、重合体であるもの、更に重合体の側鎖にカルボン酸系基があるもの、カルボン酸系基を有する化合物が2つ以上のカルボン酸系基を有する化合物であるもの等が用いられる。
【0075】
カルボン酸系基を有する化合物としては、また、環状酸無水物と官能基を有するアルコールとを反応させて得られたものが提示され、その官能基としては、アルケニル基、水酸基、アミノ基、エポキシ基からなる群より選択されるものが挙げられ、その環状酸無水物としては、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸からなる群より選択されるものが挙げられる。
【0076】
カルボン酸系基本発明のカルボン酸系基としては、カルボン酸、カルボン酸塩が挙げられ、カルボン酸塩が好ましい。
カルボン酸塩基は次の一般式で示される。
−C(O)−O
{Mは、アルカリ金属イオン又は4級アンモニウムイオンを表す。}
【0077】
はカルボン酸塩の対カチオンであり、Mの種類としてはアルカリ金属イオン、具体的にはリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、および4級アンモニウムイオンが挙げられる。4級アンモニウムイオンとしてはテトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、トリメチルベンジルアンモニウムイオン、トリメチルドデシルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンおよびジメチルピペリジニウムイオン等が挙げられる。これらの内では限定はされないが、ナトリウムイオン、カリウムイオンが好ましく、中でもカリウムイオンがより好ましい。
【0078】
カルボン酸塩基の前駆体として、カルボン酸基が用いられる。
カルボン酸基を塩基に作用させることによって、カルボン酸塩基を調製することができる。作用させる塩基としては各種のものを使用できる。例示すると、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、カリウム−tert−ブトキシド等の金属アルコキシド;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物;水素化ナトリウム、水素化カリウム等の水素化物;メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムヘキサメチルジシラジド等の有機リチウム化合物;アンモニウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン等のアミン類;ピリジン、ピコリンなどのピリジン系化合物等のピリジン系化合物、等が挙げられる。
【0079】
上記前駆化合物と塩基の中和に用いられる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;水等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、二種類以上の溶媒を混合して用いてもよい。
【0080】
が4級アンモニウムイオンであるものについては、カルボン酸基にアルキルアミン、又はピリジン系化合物を直接作用させることにより得られるが、Mがアルカリ金属イオンであるものを調製した後に、4級アンモニウムハライドを作用させることによっても得ることができる。4級アンモニウムハライドとしては、テトラメチルアンモニウムハライド、テトラエチルアンモニウムハライド、トリメチルベンジルアンモニウムハライド、トリメチルドデシルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド等が例示される。
【0081】
カルボン酸系基を有する重合体カルボン酸系基を有する化合物としては、それが重合体であるもの、更に重合体の側鎖にカルボン酸系基があるものが挙げられる。
【0082】
重合体の側鎖にカルボン酸系基があるものは、カルボキシル基もしくは酸無水物の構造を有するビニル系重合体に塩基を作用させることにより調製できる。このようなビニル系重合体として、例えば、(メタ)アクリル酸;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル;桂皮酸等のカルボキシル基もしくは酸無水物の構造を有するビニル系モノマーの重合体、もしくはこれらのビニル系モノマーを構成単位のうちの一つとするビニル系共重合体が挙げられる。
【0083】
カルボン酸系基を末端に有する重合体としては、ポリエステルや、t−ブチル基やシリル基等の保護基で保護したカルボン酸基を有する開始剤から原子移動ラジカル重合等により重合した重合体を脱保護した重合体等が挙げられる。
【0084】
複数のカルボン酸系基を有する化合物
カルボン酸系基を有する化合物が2つ以上のカルボン酸系基を有する化合物であるものとしては、下記一般式で示されるカルボン酸塩が挙げられる。
30−{C(O)−O
(式中、R30は直接結合、または、1つ以上のエーテル結合またはエステル結合を含んでいてもよい炭素数1〜20のn価の有機基を表す。Mはアルカリ金属イオン又は4級アンモニウムイオン)
【0085】
上記一般式において、R30は直接結合、または1つ以上のエーテル結合またはエステル結合を含んでいてもよい炭素数1〜20のn価の有機基である。また、R30は不飽和二重結合またはベンゼン環を含んでいてもよい。R30は水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等の官能基で置換されていてもよい。具体例としては、直接結合;−CH−、−CH(CH)−、−C(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−(nは5〜20の整数);−CH−CH(OH)−、−CH(OH)−CH(OH)−、−CH=CH−等の2価の有機基が挙げられる。さらに以下に示される多価有機基も具体例として挙げられる。
【0086】
【化6】

【0087】
上記一般式で示されるカルボン酸塩の前駆化合物として、1分子内に2個以上のカルボキシル基を有する多価カルボン酸が用いられる。具体例として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、HOC−(CH−COH(nは5〜20の整数)、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。さらに、以下に示される多価カルボン酸を用いることができる。
【0088】
【化7】

【0089】
さらに、上記前駆体として、上記多価カルボン酸の無水物、および、これらのハロゲン化物等を用いることもできる。
【0090】
官能基を有するカルボン酸塩化合物
官能基を有するカルボン酸塩化合物としては特に限定されないが、例えば、下記一般式で表される官能基Yを有する化合物が挙げられる。
−C(O)−R40−Y
{式中、R40は、直接結合または1個以上のエーテル結合又はエステル結合を含んでいてもよい炭素数1〜20の2価の有機基を表す。Yは、水酸基(−OH)、アミノ基(−NH)、カルボキシル基(−COH)、カルボキシレート基(−CO)又は−C(R)=CH(Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基又は炭素数7〜10のアラルキル基を表す)で表されるアルケニル基である。Mは、アルカリ金属イオン又は4級アンモニウムイオンを表す。}
【0091】
40の具体例としては、直接結合または1つ以上のエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1〜20の2価の有機基である。炭素数1〜20の2価の有機基の具体例としては、−CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−(nは5〜20の整数)等のアルキレン基である。また、R41は不飽和二重結合またはベンゼン環を含んでいてもよい。また、R41はエーテル結合、エステル結合、アミド結合を含んでいてもよい。
は前記と同じ。
【0092】
上記一般式で示されるカルボン酸塩の前駆化合物として、官能基Y12を有するカルボン酸が用いられる。Y12は、水酸基(−OH)、アミノ基(−NH)、カルボキシル基(−COH)、又は−C(R)−CH(Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基又は炭素数7〜10のアラルキル基を表す)で表されるアルケニル基である。
【0093】
水酸基含有カルボン酸化合物としては特に限定されないが、例えば、以下に示す化合物が用いられる。
HO−(CH−COH(nは、1〜20の整数を表す。)、HC−CH(OH)−COH、HC−CH(OH)CH−COH、o−,m−,p−HO−C−COH、o−,m−,p−HO−(CH−C−(CH−CO2H、(n、mは0〜14の整数で、n+m≦14を表す。)等が挙げられる。
【0094】
アミノ基含有カルボン酸化合物としては特に限定されないが、従来公知のアミノ酸が用いられてよい。具体例として
N−(CH−COH(nは、1〜20の整数を表す。)、HC−CH(NH)−COH、HC−CH(NH)CH−COH、C−CH(NH)−COH等が挙げられる。
【0095】
アルケニル基含有カルボン酸化合物としては特に限定されないが、例えば、以下に示す化合物が用いられる。具体例としては、HC=CH−C(O)−OH、HC=C(CH)−C(O)−OH、HC=CH−CH−C(O)−OH、HC=CH−(CH−C(O)−OH(nは、0〜20の整数を表す。)、HC=CH−(CH−OC(O)−(CH−C(O)−OH(m及びnは、同一又は異なって、0〜19の整数を表す。)、o−,m−,p−HC=CH−C−C(O)−OH、o−,m−,p−HC=CH−CH−C−C(O)−OH、o−,m−,p−HC=CH−CH−O−C−C(O)−OH、o−,m−,p−HC=CH−(CH−OC(O)−C−C(O)−OH(nは、0〜13の整数を表す。)等が挙げられる。
【0096】
カルボキシル基又はカルボキシレート基を有するカルボン酸塩化合物の前駆体としては特に限定されないが、例えば2価カルボン酸化合物などが用いられる。具体例として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、HOC−(CH−COH(nは5〜20の整数)、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの2価カルボン酸が挙げられる。また、これらのハロゲン化物や無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等の環状無水物も使用されてよい。
【0097】
<環状酸無水物と官能基を有するアルコールとを反応させて得られたカルボン酸系基を有する化合物>
環状酸無水物に官能基を有するアルコールを作用させることにより容易に開環し、前駆体であるカルボン酸化合物が得られる。環状酸無水物としては特に限定されないが、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、無水フタル酸等が挙げられる。これらのうち、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水フタル酸が好ましく、無水フタル酸が特に好ましい。
【0098】
上記の官能基を有するアルコール類としては特に限定されないが、例えば下式に示される化合物である。
HO−R−Z
(式中、Rは炭素数1〜20の2価の有機基、Zは官能基を表す。)
【0099】
官能基Zは、特に限定されないが、例えばアルケニル基{−C(R’)=CH;R’は水素またはメチル基}、水酸基、アミノ基、エポキシ基等である。官能基を有するアルコール類の具体例としては、例えばアリルアルコール、ブテニルアルコール、ペンテニルアルコール、ヘキセニルアルコール等のアルケニル基を有するアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサンジオール等のジオール類;エタノールアミン、アミノプロパノール、アミノブタノール等のアミノ基を有するアルコール類;グリシドール等のエポキシ基を有するアルコール類が例示される。
【0100】
アミノ基、水酸基を持つ化合物を重合体末端に反応させる場合には、そのまま反応させても構わないが、それらの基が重合体末端に影響を与える場合があるので、その場合には保護基をつけた化合物を用いても構わない。保護基としては、アセチル基、シリル基、アルコキシ基などが挙げられる。
【0101】
上記カルボン酸化合物に塩基を作用させることによりアルカリ金属塩またはアンモニウム塩が得られる。
アルカリ金属塩を調製する方法は、既述の通りである。
【0102】
<カルボン酸塩基とハロゲン基の量比(カップリング)>
カップリング反応を実施する際において、カルボン酸塩の使用量は、ハロゲン末端量に対するカルボン酸塩基量が等量以下になるような量が好ましい。カルボン酸塩の使用量が等量以上である場合、重合体末端同士のカップリング反応が充分に進行せず、末端にカルボキシレート基を有する重合体を生じることがある。末端にカルボキシレート基を有する重合体を得ることを目的とする場合には、等量以上の使用は適当であるが、そうでない場合には、等量以上の使用は避ける。上記使用量が少量の場合には、カップリングできない重合体末端が出てくることになるが、一部だけをカップリングさせる目的なら問題はない。よって、上記一般式(3)で表されるカルボン酸塩の使用量は、ハロゲン末端量に対するカルボキシレート基量で、0.5〜1.0倍が好ましく、0.8〜1.0倍がより好ましく、0.9〜1.0倍が更に好ましい。ただし、複数のカルボン酸塩基を有する化合物の溶解性が低い場合、1つめのカルボン酸塩基が反応した後、重合体と結合することにより溶解性が高まり、2つめ以降の基の反応性が高まることがある。この場合には、等量以上のカルボン酸塩を使用しても、うまくカップリングが進行することができる。
【0103】
<カルボン酸塩基とハロゲン基の量比(グラフト)>
重合体Bの使用量は、重合体Bのカルボキシレート基量が重合体Aのハロゲン基量に対して等量以上になるような量が好ましい。等量よりも少ない場合、重合体Aの一部が未反応のまま残存することになるためである。一方、カルボキシレート基量をハロゲン基量よりも過剰にすることによって、未反応のカルボキシレート基を親水性基として共重合体中に残すことができる。すなわち、カルボキシレート基量とハロゲン基量の比を調節することによって両親媒性高分子の合成が可能である。
【0104】
<反応条件>
重合体Aの末端ハロゲンの変換反応に用いられる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;水等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、二種類以上の溶媒を混合して用いてもよい。反応温度は特に限定されないが、0〜150℃が好ましい。
【0105】
<窒素原子含有化合物存在下での反応>
カルボン酸塩は一般的な有機溶媒に対して溶解性が低いため、溶媒によっては重合体末端の置換反応が全く進行しないもしくは反応が著しく遅いなどの問題が生じる。この問題を解決する方法として、我々は鋭意検討の結果、反応系中に窒素原子含有化合物を共存させることにより、この反応を加速することができることを見出した。
【0106】
窒素原子含有化合物としては特に限定されないが、例えば、アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン等の脂肪族アミン;ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルシクロヘキシルアミン、メチルジシクロヘキシル等の脂環族アミン;ジメチルアニリン、ジエチルアニリン等の芳香族アミン;メチルピラゾール、フェニルピラゾール、メチルイミダゾール、フェニルイミダゾール、ピリジン、ピコリン等の複素環式窒素塩基などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0107】
重合体Aの末端変換反応は、精製した後に得られる重合体Aにカルボキシレート基を有する化合物および窒素原子含有化合物を作用させることにより行うことができるが、重合体Aを製造するための重合系中にカルボキシレート基を有する化合物および窒素原子含有化合物を直接添加することによって行うこともできる。すなわち、重合体Aの単離精製工程を省くことが可能である。
【0108】
アミン系化合物もしくはピリジン系化合物を配位子とするアトムトランスファーラジカル重合を用いて重合体Aを製造する場合においては、該配位子を窒素原子含有化合物としてそのまま用いることができる。アミン系化合物もしくはピリジン系化合物としては特に限定されないが、既に述べたものが使用されてよい。また、この場合においても、重合系中で直接変換反応を行うこともできる。重合系中において直接変換反応を行う場合にはカルボキシレート基を有する化合物を直接重合系に添加すればよいが、反応加速のため、窒素原子含有化合物すなわち配位子を反応系中に追加することは何ら問題はない。
【0109】
<重合体>
本発明の製造方法により得られる重合体としては、グラフト重合体、ゲル、カップリングされた重合体、末端官能性重合体、特にカルボン酸系基を末端に有する重合体等が挙げられる。
【0110】
具体的に例を示すと、一般式(5)で示される基を分子鎖内部に有する、ビニル系重合体が挙げられる。
30−{C(O)−O−C(R51)(R52)−CH−A} (5)
{式中、R51、R52及びR30は前記に同じ。ただし、nは1以上の整数である。Aはビニル系重合体を表す。}
一般式に示されるカルボン酸塩において、R30の具体例としては上記したものがすべて使用できる。
【0111】
カルボン酸系基を末端に有する重合体としては、次の一般式で示される末端構造を有するビニル系重合体が挙げられる。
−CH−C(R51)(R52)−O−C(O)−R53−C(O)OH
(式中、R51あるいはR52は、前記におなじ。R53は直接結合または炭素数1〜20の2価の有機基を表す。)
【0112】
上記一般式において、R53は直接結合または炭素数1〜20の2価の有機基である。炭素数1〜20の2価の有機基の具体例としては、−CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−(nは5〜20の整数)等のアルキレン基である。また、R53は不飽和二重結合またはベンゼン環を含んでいてもよい。また、R53はエーテル結合、エステル結合、アミド結合を含んでいてもよい。また、R53は水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等の官能基で置換されていてもよい。
【0113】
<カルボキシル基を末端に有する重合体を成分とする硬化性組成物>
本発明の製造方法で製造された、末端にカルボキシル基を有するビニル系重合体は、これを成分とする硬化性組成物にすることができる。
【0114】
この硬化性組成物は以下の2成分:
末端にカルボキシル基を有するビニル系重合体、及び
カルボキシル基と反応しうる官能基を2個以上有する化合物、
を必須成分とするものである。
【0115】
第一の成分の末端にカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系重合体は単独で用いても2種類以上を混合して用いてもよい。
【0116】
第二の成分のカルボキシル基と反応しうる官能基を2個以上有する化合物としては、特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂等のエポキシ基含有化合物、多官能アルコール類等の水酸基含有化合物、多官能アミン類等のアミノ基含有化合物、多価イソシアネート化合物等のイソシアネート基含有化合物等が挙げられる。
【0117】
エポキシ樹脂としては限定されないが従来公知のものを使用されてよい。具体例としては、ビスフェノールAまたはビスフェノールFとエピクロルヒドリンとからの反応生成物を基礎とするエポキシド樹脂;多価脂肪族アルコール、例えば1,4−ブタンジオール、またはポリアルキレングリコール、例えばプロピレングリコールのジグリシジルエーテルもしくはポリグリシジルエーテル;脂肪式ポリオール、例えば2,2−ビス(p−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパンのジグリシジルエーテルまたはポリグリシジルエーテル;多価フェノール、例えばレソルシン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジブロモフェニル)−プロパンのジグリシジルエーテルもしくはポリグリシジルエーテル;酸性条件下に得られる、フェノールとホルムアルデヒドの縮合生成物、例えばフェノール−ノボラックおよびクレゾール−ノボラックのジグリシジルエーテルまたはポリグリシジルエーテル;多価カルボン酸、例えばフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸のポリグリシジルエーテル;アミン、アミドおよび複素環式窒素塩基のN−グリシジル誘導体、例えば:N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−ビス−(p−アミノフェニル)−メタン、トリグリシジルイソシアヌレート、N,N’−ジグリシジルエチレン尿素、N,N’−ジグリシジル−5,5−ジメチル−ヒダントイン、N,N’−ジグリシジル−5,5−ジメチル−6−イソプロピル−5,6−ジヒドロウラシル等が挙げられる。
【0118】
反応温度は特に限定されないが、0〜200℃で行うことができ、好ましくは50〜150℃である。硬化を促進するために、従来公知な触媒が使用されてよい。特に有利な触媒としては、第4アンモニウム化合物または第4ホスホニウム化合物、例えばテトラメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムクロリドまたはテトラブチルホスホニウムアセテートである。
【0119】
多官能アルコール類としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリゴール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの脂肪族グリコール、1,4−シクロヘキサングリコールなどの脂環族グリコール、キシリレングリコール、1,4−ジハイドロオキシエチルベンゼン、水添ビスフェノールAなどの芳香族グリコール等が挙げられる。
【0120】
反応温度は特に限定されないが、0〜200℃で行うことができ、好ましくは50〜150℃である。
【0121】
多官能アミン類としては特に限定されないが、1,4−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン、1,2−ジアミノ−2−メチルプロパン、1,5−ジアミノペンタン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族アミン;メタキシリレンジアミン、o,m,p−フェニレンジアミン、o−トリジン、m−トルイレンジアミン、ジアミノナフタレン、メチレンジアニリン、ジアミノベンゾフェノン等の芳香族アミンが挙げられる。
【0122】
反応温度は特に限定されないが、0〜200℃で行うことができ、好ましくは50〜150℃である。
【0123】
多価イソシアネート化合物としては限定されないが従来公知のものが使用されてよい。例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、一方社油脂製B−45のごときトリイソシアネート、等のイソシアネート化合物、スミジュールN(住友バイエルウレタン社製)のごときビュレットポリイソシアネート化合物、デスモジュールIL、HL(バイエルA.G.社製)、コロネートEH(日本ポリウレタン工業社製)のごときイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物、スミジュールL(住友バイエルウレタン社製)のごときアダクトポリイソシアネート化合物、コロネートHL(日本ポリウレタン社製)のごときアダクトポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。また、ブロックイソシアネートを使用しても構わない。これらは単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0124】
反応温度は特に限定されないが、0〜200℃で行うことができ、好ましくは20〜150℃である。
【0125】
本発明の組成物である末端にカルボキシル基を有するビニル系重合体と2個以上のイソシアネート基を有する化合物の硬化反応を促進させるために、必要に応じて、有機スズ化合物や3級アミン等の公知の触媒を添加してもよい。有機スズ化合物の具体例としては、オクチル酸スズ、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズメルカプチド、ジブチルスズチオカルボキシレート、ジブチルスズジマレエート、ジオクチルスズチオカルボキシレート等が挙げられる。また、3級アミン系触媒としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロパン1,3−ジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサン1,6−ジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジプロピレントリアミン、テトラメチルグアニジン、トリエチレンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、N−メチルモルホリン、1,2−ジメチルイミダゾール、ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノエトキシエタノール、N,N,N’−トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、N−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、エチレングリコールビス(3−ジメチル)アミノプロピルエーテル等が例示される。
【0126】
本発明の上記2つの成分、および必要に応じて硬化触媒を混合し硬化させれば、深部硬化性に優れた均一な硬化物が得られる。
【0127】
本発明において製造された重合体は、プラスティック成形材料、プラスティック耐衝撃改良剤、潤滑油物性改良剤、熱可塑性エラストマー等に利用できる。また、末端に官能基を有する重合体の場合、その官能基をそのまま利用したり、縮合性のシリル基等の他の官能基に変換したりして架橋反応を起こすことにより、硬化物にすることができる。この具体的な用途を挙げるならば、シーリング材、接着剤、粘着材、弾性接着剤、塗料、粉体塗料、発泡体、電気電子用ポッティング材、フィルム、ガスケット、各種成形材料、人工大理石等である。
【発明の効果】
【0128】
本発明によれば、重合体末端をカルボン酸塩で置換することにより、従来困難であったラジカル重合性モノマーの重合体のカップリングを簡便に行うことができ、また、本発明により重合体末端に官能基を有するビニル系重合体の製造が簡便にできる。同様に、末端にハロゲンを有するビニル系重合体とカルボキシレート基を側鎖に有する重合体において、末端ハロゲンをカルボキシレート基で変換することによってビニル系重合体を枝高分子とするグラフト共重合体の製造が簡便にできる。また、これまで製造するのが困難であった、主鎖末端にカルボキシル基を高い比率で有するビニル系重合体を簡便に得ることができ、その重合体を成分とする硬化性組成物は、ゴム弾性などの優れた特性を有する硬化物を与える。また、環状無水カルボン酸を利用することにより、これまで製造するのが困難であった、主鎖末端に官能基を高い比率で有するビニル系重合体を簡便に得ることができる。本発明の置換反応において、窒素原子含有化合物存在下で反応を行うことによって、変換反応を加速することができる。また、ビニル系重合体を製造するための重合系中で直接、変換反応を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0129】
以下に、この発明の具体的な実施例を比較例と併せて説明するが、この発明は、下記実施例に限定されない。
下記実施例中、「数平均分子量」および「分子量分布(重量平均分子量と数平均分子量の比)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出した。ただし、GPCカラムとしてポリスチレン架橋ゲルを充填したもの、GPC溶媒としてクロロホルムを用いた。
【0130】
製造例1 Br基末端ポリ(アクリル酸ブチル)の合成例(1)
還流管および攪拌機付きの2Lのセパラブルフラスコに、CuBr(5.54g、38.6mmol)を仕込み、反応容器内を窒素置換した。アセトニトリル(73.8mL)を加え、オイルバス中70℃で30分間攪拌した。これにアクリル酸ブチル(132g)、2−ブロモプロピオン酸メチル(14.4mL、0.129mol)、ペンタメチルジエチレントリアミン(4.69mL、0.022mol)を加え、反応を開始した。70℃で加熱攪拌しながら、アクリル酸ブチル(528g)を90分かけて連続的に滴下し、更に80分間加熱攪拌した。反応混合物をトルエンで希釈し、活性アルミナカラムを通した後、揮発分を減圧留去することにより片末端Br基ポリ(アクリル酸ブチル)(重合体[1])を得た。重合体[1]の数平均分子量は5800、分子量分布は1.14であった。
【0131】
製造例2 多価カルボン酸塩の合成例
t−ブトキシカリウム(7.68g、68.4mmol)をメタノール(100mL)に溶解させた後、アジピン酸(5.0g、34.2mmol)を添加した。反応溶液をしばらく室温で攪拌した後、濃縮乾燥させることによりアジピン酸二カリウム塩を得た。
【0132】
実施例1 カルボン酸塩基の導入
還流管付きフラスコに、製造例1で得られた重合体[1]、過剰量の製造例2で得られたアジピン酸二カリウム塩、ジメチルアセトアミドを仕込み、100℃で10時間以上加熱攪拌した。反応溶液を減圧濃縮し、トルエンで希釈した。不溶部をろ過し、ろ液を減圧濃縮することにより重合体を得た。HNMR分析、GPC測定の結果、重合体[1]の末端Br基が変換され、重合体末端にカルボン酸塩基が導入されたことがわかった。
【0133】
実施例2 Br基末端重合体のカップリング
還流管付き500mLフラスコに、製造例1で得られた重合体[1](10g)、製造例2で得られたアジピン酸二カリウム塩(191mg)、ジメチルアセトアミド(10mL)を仕込み、70℃で5時間加熱攪拌した。アジピン酸二カリウム塩(540mg)を追加し、100℃で更に10時間加熱攪拌した。反応溶液を減圧濃縮し、トルエンで希釈した。不溶部をろ過し、ろ液を減圧濃縮することにより重合体を得た。HNMR分析によりBr基が変換されたことを確認した。また、GPC測定により高分子量体の生成(ピークトップ分子量=12500)が確認された。以上のことから、Br基末端どうしがカップリングされたことがわかった。
【0134】
実施例3 グラフト共重合体の合成
製造例1で得られた重合体[1](5g)、ポリ(アクリル酸ナトリウム)(5g;和光純薬製)をよく混合し、150℃で1時間加熱した。未反応の重合体[1]をアセトンで抽出することによりグラフト共重合体を得た。グラフト共重合体はアセトンには不溶であったが、水によく分散した。
【0135】
製造例3 アルケニル基を有するカルボン酸塩の合成
水酸化カリウムの1/2Nエタノ−ル溶液(200mL)にウンデシレン酸(18.8g、0.102mol)を撹拌しながら0℃でゆっくり滴下した。揮発分を減圧下留去することにより粗生成物を得た。粗生成物をアセトンで洗浄後、減圧下加熱することにより下式に示すウンデシレン酸のカリウム塩の白色固体を得た(8.88g、収率88%)。
CH=CH−(CH−CO
【0136】
製造例4 Br基末端ポリ(アクリル酸ブチル)の合成例(2)
100mLのガラス反応容器に、アクリル酸ブチル(20.0mL、17.9g、0.140mol)、CuBr(0.625g、4.36mmol)、ペンタメチルジエチレントリアミン(0.91mL、0.755g、4.36mmol)、およびアセトニトリル(5mL)を仕込み、冷却後減圧脱気したのち窒素ガスで置換した。よく撹拌した後、2−ブロモプロピオン酸メチル(0.973mL、1.456g、8.72mmol)を添加した。70℃で加熱撹拌しながら、30mLのアクリル酸ブチルを少しずつ滴下し、反応させた。混合物を活性アルミナで処理した後、揮発分を減圧下加熱して留去した。生成物を酢酸エチルに溶解させ、2%塩酸、ブラインで洗浄した。有機層をNaSOで乾燥し、揮発分を減圧下加熱して留去することにより、末端にハロゲン基を有する重合体(重合体[2])を得た。重合体の数平均分子量は5270、分子量分布は1.08であった。
【0137】
実施例4 アミン添加による置換反応加速の例(1)
製造例4で得られた重合体[2](1.5g)、製造例3で得られたウンデシレン酸のカリウム塩(615mg、0.277mmol)、トリエチルアミン(12.7mg、0.126mmol)及び、アセトニトリル(0.84mL)を仕込み、70℃で12時間加熱撹拌した。混合物に酢酸エチルを加えて不溶分を濾別した後、濾液を水で洗浄した。有機層を濃縮することにより重合体を得た。末端臭素の変換率は49%であった。
【0138】
実施例5 アミン添加による置換反応加速の例(2)
実施例4においてトリエチルアミンの代わりにテトラメチルエチレンジアミン(14.5mg、0.125mmol)を用い、それ以外は同様の操作を行った。得られた重合体の末端臭素の変換率は58%であった。
【0139】
比較例1 アミン添加による置換反応加速の比較例
比較例として窒素原子含有化合物なしで反応を行った。実施例4においてアミンなしの条件で同様の操作を行った。得られた重合体の末端臭素の変換率は15%であった。
【0140】
製造例5 環状酸無水物と官能基を有するアルコールの反応
100mLの三口丸底フラスコに、還流管をつけ、窒素雰囲気下で反応容器に無水フタル酸(4.0g、13.5mmol)、アリルアルコール(4.58mL)を仕込み、90℃で30分間攪拌させた。未反応のアリルアルコールを減圧下留去し、フタル酸モノアリルエステルを得た(収量5.66g)。
カリウムメトキシド(1.70g)をメタノール(20mL)に溶解させ、上記カルボン酸(5.00g)を加え、室温でよく攪拌した。揮発分を減圧下留去することによりカルボン酸カリウム塩を得た。
【0141】
実施例6 環状酸無水物と官能基を有するアルコールとの反応により得られるカルボン酸塩を用いた重合体末端Br基の変換例
CuBr(0.625)を触媒、ペンタメチルジエチレントリアミン(0.83mL)を配位子、ジエチル−2,5−ジブロモアジペート(1.57g)を開始剤として70℃でアクリル酸ブチルを重合し、数平均分子量10900、分子量分布1.12の両末端に臭素基を持つポリ(アクリル酸ブチル)を得た。
次に、上記重合体(8.1g)、製造例5で得られたカルボン酸カリウム塩(0.333g)、及び、ジメチルアセトアミド(16.2mL)を仕込み、窒素雰囲気下、70℃で0.5時間反応させた。混合物に酢酸エチルを加えて水洗した。有機層を濃縮することにより、重合体を得た。重合体1分子当たりに導入されたアルケニル基は、HNMR分析より、1.44個であった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明によれば、重合体末端をカルボン酸塩で置換することにより、従来困難であったラジカル重合性モノマーの重合体のカップリングを簡便に行うことができ、また、本発明により重合体末端に官能基を有するビニル系重合体の製造が簡便にできる。同様に、末端にハロゲンを有するビニル系重合体とカルボキシレート基を側鎖に有する重合体において、末端ハロゲンをカルボキシレート基で変換することによってビニル系重合体を枝高分子とするグラフト共重合体の製造が簡便にできる。また、これまで製造するのが困難であった、主鎖末端にカルボキシル基を高い比率で有するビニル系重合体を簡便に得ることができ、その重合体を成分とする硬化性組成物は、ゴム弾性などの優れた特性を有する硬化物を与える。また、環状無水カルボン酸を利用することにより、これまで製造するのが困難であった、主鎖末端に官能基を高い比率で有するビニル系重合体を簡便に得ることができる。本発明の置換反応において、窒素原子含有化合物存在下で反応を行うことによって、変換反応を加速することができる。また、ビニル系重合体を製造するための重合系中で直接、変換反応を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子移動ラジカル重合で得られた重合体の末端ハロゲン基を、カルボン酸系基で置換する重合体の製造方法であって、
窒素原子含有化合物の存在下で置換反応させる重合体の製造方法。
【請求項2】
窒素原子含有化合物は、脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族アミン及び複素環式窒素塩基からなる群より選択されるものである請求項1記載の重合体の製造方法。
【請求項3】
原子移動ラジカル重合は、触媒の配位子として、アミン系化合物もしくはピリジン系化合物を使用し、かつ、該配位子を窒素原子含有化合物として用いる請求項1または2に記載の重合体の製造方法。
【請求項4】
原子移動ラジカル重合は、ビニル系モノマーを重合するものであり、かつ、カルボン酸系基での置換は、重合系に直接、カルボキシル基を有する化合物を添加することにより置換反応を行うものである請求項3に記載の重合体の製造方法。
【請求項5】
原子移動ラジカル重合で得られた重合体の末端ハロゲン基を、カルボン酸系基で置換する重合体の製造方法であって、
カルボン酸系基での置換は、カルボン酸系基を有する化合物を使用するものであり、かつ、前記カルボン酸系基を有する化合物は、重合体である重合体の製造方法。
【請求項6】
カルボン酸系基を有する化合物は、重合体の側鎖にカルボン酸系基を有するものである請求項5記載の重合体の製造方法。
【請求項7】
置換反応により生成する重合体が、グラフト重合体である請求項6記載の重合体の製造方法。
【請求項8】
置換反応により生成する重合体が、ゲルである請求項6記載の重合体の製造方法。
【請求項9】
原子移動ラジカル重合で得られた重合体の末端ハロゲン基を、カルボン酸系基で置換する重合体の製造方法であって、
カルボン酸系基での置換は、カルボン酸系基を有する化合物を使用するものであり、かつ、前記カルボン酸系基を有する化合物は、環状酸無水物と官能基を有するアルコールとを反応させて得られた化合物である重合体の製造方法。
【請求項10】
官能基は、アルケニル基、水酸基、アミノ基、及びエポキシ基からなる群より選択されるものである請求項9記載の重合体の製造方法。
【請求項11】
環状酸無水物は、無水コハク酸、無水フタル酸、及び無水グルタル酸からなる群より選択されるものである請求項9または10記載の重合体の製造方法。
【請求項12】
環状酸無水物は、無水フタル酸である請求項11記載の重合体の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載された重合体の製造方法により製造されることを特徴とする重合体。

【公開番号】特開2007−46067(P2007−46067A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316173(P2006−316173)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【分割の表示】特願平11−153710の分割
【原出願日】平成11年6月1日(1999.6.1)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】