説明

量子型赤外線センサ

【課題】検知すべき吸収波長帯に適したバンドギャップを有する光吸収層の材料を容易に、かつ、自由に設計することができ、InSb以外のバッファ層を用いることなく、各用途に応じた高感度な量子型赤外線センサを実現すること。
【解決手段】本発明による量子型赤外線センサを作製するための化合物半導体積層体は、基板に、n型コンタクト層、光吸収層、p型バリア層、p型コンタクト層が順次積層された積層体であって、前記光吸収層として、ノンドープまたはp型ドーピングされたInSbと、ノンドープまたはp型ドーピングされたGaSb、AlSb、AlGaSb、InAsのうちいずれか一つとが周期的に積層された超格子構造体を採用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線検知の技術分野に関し、特に長波長帯の放射エネルギーを検知するような量子型赤外線センサ、例えば人感センサや量子型赤外線ガス濃度計の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、赤外線センサは、熱型赤外線センサと量子型赤外線センサに分けられる。熱型赤外線センサは、赤外線のエネルギーを熱として利用したセンサであり、赤外線の熱エネルギーによりセンサ自体の温度が上昇し、その温度上昇による効果(抵抗変化、容量変化、起電力、自発分極)を電気信号に変換する素子である。この熱型赤外線センサには、焦電型(PZT、LiTaO3)、熱起電力型(サーモパイル、熱電対)、導電型(ボロメータ、サーミスタ)などがあり、感度に波長依存性がなく、冷却は不要である。しかし、応答速度が遅く、検出能力もあまり高くない。一方、量子型赤外線センサは、半導体に赤外線が照射されると、その光量子によって発生する電子や正孔を利用するセンサであり、光導電型(HgCdTeなど)や光起電力型(InAsなど)がある。この量子型赤外線センサは、感度の波長依存性があり、高感度で、応答速度が速いという特長があるが、冷却する必要があり、ペルチェ素子やスターリングクーラーなどの冷却機構とともに用いるのが一般的であった。
【0003】
量子型赤外線センサは、上述したように、光導電効果や光起電力効果等を利用し、赤外線を電気信号に変換する素子であり、一般に冷却して用いられるが、室温で動作可能な量子型赤外線センサも提案されている。例えば、特許文献1に記載の量子型赤外線センサは、基板上に設けられた化合物半導体層により赤外線を検知して電気信号を出力する化合物半導体センサ部と、この化合物半導体センサ部からの電気信号を演算する集積回路部とを備え、この化合物半導体センサ部と集積回路部とを同一パッケージ内に収納したものである。これにより、電磁ノイズや熱ゆらぎの影響を受けにくくするとともに、室温での検知を可能とし、モジュールの小型化を可能にしたものである。ここで、化合物半導体センサ部の光吸収層の材料は、主としてInSb、InAsSb、InAsNなどである。
【0004】
これらの量子型赤外線センサの応用例としては、人を検知することによって、照明やエアコン、TVなどの家電機器の自動オンオフを行う人感センサや、防犯用の監視センサなどが代表的な例である。最近、省エネルギーや、ホームオートメーション、セキュリテイシステム等への応用面で非常に注目されてきている。
【0005】
その他の応用例としては、量子型赤外線センサを利用した量子型赤外線ガス濃度計、すなわち、非分散赤外吸収型(Non−Dispersive Infrared)ガス濃度計(以下、NDIRガス濃度計という)が挙げられる。特許文献2に記載のNDIRガス濃度計は、複数の量子型赤外線センサ素子と、この量子型赤外線センサ素子に対して赤外線光源側に設けられ各々異なる特定の波長領域の赤外光を選択的に透過する複数の光学フィルタと、少なくとも複数の光学フィルタを保持し量子型赤外線センサ素子に対して赤外線光源側に向けて複数の貫通孔を設けた保持部材とを備える。これにより、小型、薄型でかつ簡便な素子形状を有し、測定ガスの流量変化や温度変化などの外乱変化に対して安定して測定することができるようにしたNDIRガス濃度計を実現することができる。ここで用いられている量子型赤外線センサ素子における、化合物半導体センサ部の光吸収層の材料には、主としてInSbが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/027228号
【特許文献2】国際公開第2009/148134号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、光吸収層がインジウム及びアンチモンを含む材料からなる量子型赤外線センサを用いることで、量子型赤外線センサの人感センサやNDIRガス濃度計への応用が可能となる。
【0008】
例えば、InSbを光吸収層の材料として用いた量子型赤外線センサでは、室温で約 7.3μm以下の波長の赤外線検知において感度を得ることができる。
【0009】
人感センサへ応用する場合には、人体が放出する10μm帯をピーク波長とした赤外線検知が必要なことから、光吸収層の材料としては、InSbよりもバンドギャップが小さいInAsSb混晶の方が、InSbよりも適している。
【0010】
NDIRガス濃度計の場合は、検出したいガスの種類によって、検知すべき吸収波長帯が異なっている。例えば、二酸化炭素では4.3μm帯、一酸化炭素では4.6μm帯、窒化酸化物では5.2μm帯、ホルムアルデヒドでは5.6μm帯である。すなわち、これらのガス検知のためには、InSbよりもバンドギャップが大きいInGaSb混晶、InAlSb混晶、InAlGaSb混晶の方が、InSbよりも光吸収層の材料として適している。
【0011】
以上のように、光吸収層の材料として、InSbだけでなく、InAsSb混晶、InGaSb混晶、InAlSb混晶、InAlGaSb混晶などの混晶系材料を用いることで、各用途に応じた高感度な量子型赤外線センサを自由に設計することができる。
【0012】
しかしながら、InAsSb混晶、InGaSb混晶、InAlSb混晶、InAlGaSb混晶などの混晶系材料を、GaAs基板などの格子定数が全く異なる基板上に直接形成した場合、InSbに比べて、著しく結晶性が劣化してしまうという問題がある。すなわち、GaAs基板上にInSb層を形成した場合には、とても結晶性の良いInSb層を得ることができる。しかし、InSbのうちIn元素を他の3族元素であるAlやGaで少しでも置換したり、あるいはSb元素を他の5族元素であるAsなどで少しでも置換したりすると結晶性の劣化を引き起こす。特にIn元素と他の3族元素、あるいは、Sb元素と他の5族元素の混晶比率が1に近づく中間組成領域で、結晶性の劣化は顕著となる。
【0013】
結晶性の劣化を防ぐためには、基板と混晶系材料の間に、格子定数の差を緩和する適切なバッファ層が必須である。例えば、基板上に形成した、結晶性の良いInSbをバッファ層として用い、その上に混晶系材料を形成することが考えられる。しかし、この場合においても、InSbと混晶系材料の格子定数の差が大きければ、結晶性の劣化は避けることができない。従って、InSb以外のバッファ層が必要となるが、InSb以外の混晶系材料をバッファ層として用いると、やはりその結晶性はInSbよりは必ず悪くなるため、好ましくない。InSbバッファ層上に、格子定数をInSbの値から光吸収層に用いる混晶系材料の値まで、段階的に変化させるステップグレーデッドバッファ層や、連続的に変化させながら形成するグレーデッドバッファ層を用いる方法もあるが、量子型赤外線センサに用いる、化合物半導体積層体の形成に時間を要することから、工業的に好ましくない。
【0014】
従って、従来技術では、検知すべき吸収波長帯に適したバンドギャップを有する光吸収層の材料を自由に設計することができるものの、その結晶性が著しく低下してしまうために、量子型赤外線センサの出力、例えば光電流を十分に得ることができなかった。結果、各用途に応じた高感度な量子型赤外線センサを実現することができなかった。
【0015】
本発明は、上記問題を鑑みて、検知すべき吸収波長帯に適したバンドギャップを有する光吸収層の材料を容易に、かつ、自由に設計することができ、InSb以外のバッファ層を用いることなく、各用途に応じた高感度な量子型赤外線センサを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、基板と、基板上に形成され、n型ドーピングされたInSbからなるn型コンタクト層と、n型コンタクト層上に形成された光吸収層と、光吸収層上に形成され、光吸収層よりも高濃度にp型ドーピングされ、かつn型コンタクト層及び光吸収層よりも大きなバンドギャップを有するp型バリア層と、p型バリア層上に形成され、p型バリア層と同等またはそれ以上の濃度にp型ドーピングされたp型コンタクト層とを備えた量子型赤外線センサであって、光吸収層は、ノンドープまたはp型ドーピングされたInSbと、ノンドープまたはp型ドーピングされたGaSb、AlSb、AlGaSb、およびInAsのうちの何れか一つとが周期的に積層された超格子構造体からなることを特徴とする。
【0017】
本発明の一実施形態において、p型バリア層は、AlInSb層、GaInSb層、およびAlGaInSb層のうちの何れか一つであるか、または、InSb層とAlSb層とが周期的に積層された超格子構造、InSb層とGaSb層とが周期的に積層された超格子構造、およびInSb層とAlGaSb層とが周期的に積層された超格子構造のうちの何れか一つを有することを特徴とする。
【0018】
本発明の一実施形態において、p型コンタクト層は、AlInSb層、GaInSb層、AlGaInSb層のうちの何れか一つであるか、または、InSb層とAlSb層とが周期的に積層された超格子構造、InSb層とGaSb層とが周期的に積層された超格子構造、InSb層とAlGaSb層とが周期的に積層された超格子構造のうちのいずれか一つを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、検知すべき吸収波長帯に適したバンドギャップを有する光吸収層の材料を容易に、かつ、自由に設計することができる。また、InSb以外のバッファ層を用いることなく、各用途に応じた高感度な量子型赤外線センサを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による量子型赤外線センサを作製するための化合物半導体積層体の断面図である。
【図2】本発明による化合物半導体積層体を用いて作製した量子型赤外線センサの断面図である。
【図3】本発明により作製した3種類の化合物半導体積層体におけるX線回折パターンを表すグラフである。
【図4】本発明により作製した3種類の化合物半導体積層体における透過率の波長依存性を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明による量子型赤外線センサを作製するための化合物半導体積層体の断面図である。基板1の上に、n型コンタクト層2、光吸収層3、p型バリア層4、p型コンタクト層5が順次積層されている。この化合物半導体積層体は、各種の成膜方法を用いて形成される。例えば、分子線エピタキシー(MBE)法や有機金属気相エピタキシー(MOVPE)法などは好ましい方法である。これらの方法を用いて、化合物半導体積層体を形成する。
【0022】
[光吸収層]
まず、本発明において最も重要な光吸収層3について述べる。本発明では、ノンドープまたはp型ドーピングされたInSbと、ノンドープまたはp型ドーピングされたGaSb、AlSb、AlGaSb、InAsのうちいずれか一つと、が周期的に積層された超格子構造体を光吸収層3として用いる。
【0023】
従来技術であるInSbを光吸収層に用いると、GaAsなどの格子定数が全く異なる基板上に光吸収層を形成した場合でも、良質な結晶性を得ることができる。しかしながら、感度が得られる赤外線の波長帯は、InSb材料固有のパラメータであるバンドギャップで決まっているため、検知すべき吸収波長帯を自由に設計することが出来ない。
【0024】
感度が得られる赤外線の波長帯を所望のものにするための技術としては、混晶系材料を光吸収層に用いる方法が考えられる。しかしながら、混晶系材料は、GaAsなどの格子定数が全く異なる基板上に光吸収層として形成された場合、結晶性が著しく低下してしまう。結果、赤外線検出に必要な出力が十分得られなくなるという問題が生じる。
【0025】
結晶性の良いInSbをバッファ層として用い、その上に混晶系材料を形成した場合においても、InSbと混晶系材料の格子定数の差が大きければ、結晶性の劣化は避けることができない。また、結晶性劣化を回避するための技術として、格子定数をInSbの値から光吸収層に用いる混晶系材料の値まで段階的に変化させるステップグレーデッドバッファ層や、連続的に変化させながら形成するグレーデッドバッファ層を用いる方法があるが、これらの方法は形成に多大な時間を要し、製造容易性の観点から好ましくない。
【0026】
以上を踏まえ、本発明では、ノンドープまたはp型ドーピングされたInSbと、ノンドープまたはp型ドーピングされたGaSb、AlSb、AlGaSb、InAsのうちいずれか一つと、が周期的に積層された超格子構造体を、光吸収層3として用いることとした。ここで、超格子構造体において、InSbと、GaSb、AlSb、AlGaSb、InAsとの各層の膜厚の比率を変えることで、超格子構造体のバンドギャップを自由に設計することができる。すなわち、混晶系材料を用いたときと同様に、感度が得られる赤外線の波長帯を自由に設計することができる。
【0027】
InSbと、GaSb、AlSb、AlGaSb、InAsとの間には、約7%の格子定数の差があるものの、超格子構造体においては、各層の膜厚は臨界膜厚以内の数nm〜数十nmオーダーと極めて薄いため、結晶性の劣化には至らない。更に、基板上に形成した、結晶性の良いInSbをバッファ層として用い、その上に超格子構造体を形成した場合においては、超格子構造体中のGaSb、AlSb、AlGaSb、InAs各層の膜厚は臨界膜厚以内であるため、超格子構造体の格子定数はInSbとほぼ同一と考えて良い。すなわち、結晶性の良いInSbバッファ層上に、InSbと格子定数の差がほとんどない超格子構造体を形成できるため、結晶性の良い超格子構造体からなる光吸収層を得ることができ、好ましい。
【0028】
上述のように、超格子構造体を光吸収層3として用いると、検知すべき吸収波長帯に適したバンドギャップを有する光吸収層の材料を自由に設計することができ、かつ、InSb以外のバッファ層を用いることなく、各用途に応じた高感度な量子型赤外線センサを実現することができる。
【0029】
光吸収層3の膜厚は、赤外線の吸収を増やすために、なるべく厚い方が好ましい。ただし、膜厚が厚すぎると光吸収層3の形成に時間を要し、また素子分離を行うためのメサエッチング等が困難になる。このため、光吸収層3の膜厚は、0.5μm以上3μm以下が好ましい。
【0030】
光吸収層3に用いられる超格子構造体のうち、GaSb、AlSb、AlGaSb、InAsのうちのいずれか一つによる各層の膜厚は、薄すぎると膜厚の制御が困難であり、厚すぎるとInSb層に対する臨界膜厚を超えてしまうため、0.5nm以上10nm以下が好ましい。一方、InSb層の膜厚は、検知すべき吸収波長帯に応じて、適宜設計される。
【0031】
光吸収層3に用いられる超格子構造体の各層は、ドーピングせずに真性半導体のままでも良いし、p型にドーピングしても良い。超格子構造体の各層をp型にドーピングした場合、p型ドーピング濃度は、n型コンタクト層2及びp型バリア層4それぞれの伝導帯と、十分な伝導帯バンドオフセットを取れるように調整され、p型ドーピング濃度は1×1016/cm3以上1×1018/cm3以下が好ましい。
【0032】
p型ドーパントとしては、Be、Zn、Cd、C、Mg、Geなどが好ましく用いられる。特にZnは、InSbにおいてより活性化率が高く、かつ毒性も低いために、好ましく用いられる。
【0033】
[基板]
基板1は、一般に単結晶を成長できるものであれば特に制限されず、GaAs基板、Si基板などの単結晶基板が好ましく用いられる。また、それらの単結晶基板がドナー不純物やアクセプタ不純物によって、n型やp型にドーピングされていても良い。
【0034】
基板上に形成された複数個の量子型赤外線センサを、電極で直列接続して用いる場合、各センサは電極以外の部分では絶縁分離されている必要がある。従って、基板1は単結晶を形成できるものであって、かつ、半絶縁性か、または化合物半導体積層体部分と基板部分とが絶縁分離可能であるような基板を用いる必要がある。
【0035】
さらに、基板1として、赤外線を透過するような材料を用いることにより、赤外線を基板裏面から入射させることが可能となる。この場合、電極により赤外光が遮られることがないため、素子の受光面積をより広く取ることができ好ましい。このような基板の材料としては、半絶縁性のSiやGaAs等が好ましく用いられる。
【0036】
通常行われるように、基板表面を平坦化させ、清浄化させる目的で、基板と同じ材質の半導体を形成したものを本発明の基板1として使用しても良い。GaAs基板上にGaAs層を形成し基板1として使用することは、この最も代表的な例である。
【0037】
さらに、絶縁性の基板に化合物半導体積層体を形成した後、化合物半導体積層体を他の基板に接着剤でつけて、絶縁性基板を剥がすことも行われる。
【0038】
[n型コンタクト層]
n型コンタクト層2は、光吸収層3が赤外線を吸収することにより発生した光電流を取り出すための、電極とのコンタクト層であり、本発明ではn型ドーピングされたInSbからなる層をn型コンタクト層として用いる。
【0039】
一般に、n型コンタクト層に用いられる材料としては、InSbや、InAsSb混晶、InGaSb混晶、InAlSb混晶、InAlGaSb混晶などの混晶系材料が挙げられる。n型コンタクト層のシート抵抗は、熱ノイズであるジョンソンノイズの原因となるため、シート抵抗はできるだけ小さい方が良い。従って、n型コンタクト層には、電子移動度の大きな材料を用いることが好ましい。InSbは、GaAsなどの格子定数の全く異なる基板上にn型コンタクト層として形成された場合であっても、InAsSb混晶、InGaSb混晶、InAlSb混晶、InAlGaSb混晶などの混晶系材料に比べ結晶性が良く、非常に大きな電子移動度が得られるため、好ましい。
【0040】
また、n型コンタクト層は、基板と光吸収層との中間に形成されているため、結晶性の良い光吸収層を形成するための、バッファ層としての役割も果たす。バッファ層の材料としては、基板上に形成した場合、結晶性が良く、且つ、光吸収層との格子定数が近いものが適している。InSbは、GaAsなどの格子定数の全く異なる基板上にn型コンタクト層として形成された場合であっても、InAsSb混晶、InGaSb混晶、InAlSb混晶、InAlGaSb混晶などの混晶系材料に比べ、結晶性が良い。さらに、光吸収層3には格子定数がInSbとほぼ同一の超格子構造体を用いているため、InSbを用いることで、格子定数の差をほとんどなくすことができる。
【0041】
これらの観点から、本発明ではn型ドーピングされたInSbをn型コンタクト層として用いている。
【0042】
n型ドーピングされたInSbからなるn型コンタクト層2において、n型コンタクト層2の格子定数や結晶性に影響を与えない範囲であれば、InAsSb混晶、InGaSb混晶、InAlSb混晶、InAlGaSb混晶などの混晶系材料からなる層を1層あるいは複数層挿入しても良い。これらの層は、例えば、InSbとは格子定数の異なる層を挿入することで、縦方向に伝播する転位に対してひずみを加え、転位の伝播を横方向に逃がすことで、貫通転位を低減する目的などで挿入される。
【0043】
n型コンタクト層2の膜厚は、シート抵抗を下げるために、なるべく厚い方が好ましい。ただし、膜厚が厚すぎるとn型コンタクト層2の形成に時間を要し、かつ素子分離を行うためのメサエッチング等が困難になる。このため、n型コンタクト層2の膜厚は、0.5μm以上2μm以下が好ましい。
【0044】
n型のドーピング濃度は、光吸収層3とのポテンシャル差を大きくし、且つ、シート抵抗を下げるために、なるべく大きい方が好ましく、1×1018/cm3以上であることが好ましい。
【0045】
n型のドーパントとしては、Si、Te、Sn、S、Seなどを用いることができる。特にSnは、InSbにおいて、より活性化率が高く、シート抵抗をより下げることが可能であることから、より好ましく用いられる。
【0046】
[p型バリア層]
p型バリア層4は、光吸収層3の赤外線吸収により発生した電子が、p型バリア層4側へ拡散するのを防ぐためのバリア層である。
【0047】
電子の拡散を防ぐためには、光吸収層3よりもバンドギャップが大きな材料を用いる必要がある。このような材料としては、例えば、AlInSb混晶、GaInSb混晶、AlGaInSb混晶などの混晶系材料が挙げられる。電子の拡散を抑制する観点から見れば、バンドギャップは大きいほど良い。しかし、バンドキャップが大きすぎると、その混晶系材料の格子定数はInSbに比べ、非常に小さくなってしまう。そのため、p型バリア層と光吸収層3との間の格子定数の差が大きくなり、結晶欠陥が発生しやすくなる。その結果、結晶性の劣化を招く。従って、バンドギャップの大きさは、電子の拡散抑制の効果と、結晶性の劣化の効果との両方を考慮することにより決定される。
【0048】
p型バリア層4の膜厚は、センサの抵抗を下げるために、なるべく薄い方が良いが、電極と光吸収層3との間にトンネルリークが発生しないだけの膜厚が必要である。このため、膜厚は0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.02μm以上である。なお、膜厚の上限については、光吸収層3とp型バリア層4との格子定数の差によって決まる臨界膜厚によって制限される。
【0049】
p型バリア層4の材料として、ノンドープまたはp型ドーピングされたInSbと、ノンドープまたはp型ドーピングされたGaSb、AlSb、AlGaSbのうちいずれか一つと、が周期的に積層された超格子構造体を用いることもできる。超格子構造体中のGaSb、AlSb、AlGaSbのうちのいずれか一つによる各層の膜厚はInSbに対して臨界膜厚以内に設計するため、超格子構造体の格子定数はInSbとほぼ同一と考えて良い。光吸収層3にも格子定数がInSbとほぼ同一の超格子構造体を用いているため、光吸収層3との格子定数の差はほとんどない。よって、結晶性の劣化の恐れもなく、p型バリア層4の膜厚の上限に関しても、臨界膜厚による制限がなくなる。すなわち、p型バリア層4の材料のバンドギャップや膜厚などの設計の自由度が広がり、好ましい。
【0050】
p型バリア層4に関しては、光吸収層3の赤外線吸収により発生した電子が、p型バリア層4側へ拡散するのを防ぐことのほか、光吸収層3の赤外線吸収により発生した正孔が、p型バリア層4側へしっかり流れ込むことも重要である。そのために、p型バリア層4には十分なp型ドーピングをする必要があり、ドーピング濃度は1×1018/cm3以上が好ましい。
【0051】
p型ドーパントとしては、Be、Zn、Cd、C、Mg、Geなどが好ましく用いられる。特にZnは、InSbにおいて、より活性化率が高く、かつ毒性も低いために、好ましく用いられる。
【0052】
[p型コンタクト層]
p型コンタクト層5は、光吸収層3が赤外線を吸収することにより発生した光電流を取り出すための、電極とのコンタクト層である。p型バリア層4は、バンドギャップが大きい材料で形成されているので、一般にp型バリア層4におけるキャリア移動度は小さくなってしまう。このため、p型バリア層4上に電極を形成した場合、電極とのコンタクト抵抗が増加し、熱ノイズであるジョンソンノイズの原因となる。ここで、p型バリア層4上に、p型バリア層4よりも電気抵抗が小さいp型コンタクト層5を形成し、その上に電極を形成する構造とすることで、コンタクト抵抗を抑えることができる。また、コンタクト層の電気抵抗を小さくするために、十分なp型ドーピングを行うことが好ましい。
【0053】
p型コンタクト層5に用いられる材料としては、InSbや、InAsSb混晶、InGaSb混晶、InAlSb混晶、InAlGaSb混晶などの混晶系材料が挙げられる。p型コンタクト層5のシート抵抗は、熱ノイズであるジョンソンノイズの原因となるため、シート抵抗はできるだけ小さい方が良い。従って、p型コンタクト層5の材料は、キャリア移動度の大きな材料であることが好ましい。さらに、結晶性の良いp型コンタクト層5を得るためには、格子定数がInSbとほぼ同一の超格子構造体を用いている光吸収層3の格子定数と、p型コンタクト層5の格子定数とが近いことも重要である。InSbは、キャリア移動度が非常に大きく、且つ、光吸収層3と格子定数がほぼ同じであることから、p型コンタクト層5の材料として好ましい。
【0054】
p型コンタクト層5の材料として、ノンドープまたはp型ドーピングされたInSbと、ノンドープまたはp型ドーピングされたGaSb、AlSb、AlGaSbのうちいずれか一つと、が周期的に積層された超格子構造体を用いることもできる。超格子構造体中のGaSb、AlSb、AlGaSbのうちのいずれか一つによる各層の膜厚はInSbに対して臨界膜厚以内に設計するため、超格子構造体の格子定数はInSbとほぼ同一と考えて良い。光吸収層3にも格子定数がInSbとほぼ同一の超格子構造体を用いているため、光吸収層3との格子定数の差はほとんどない。よって、結晶性の劣化の恐れもなく、p型コンタクト層5の膜厚の上限に関しても、臨界膜厚による制限がなくなる。すなわち、p型コンタクト層5の材料のバンドギャップや膜厚などの設計の自由度が広がり、好ましい。
【0055】
p型コンタクト層5の膜厚は、シート抵抗を下げるために、なるべく厚い方が好ましい。ただし、膜厚が厚すぎるとp型コンタクト層5の形成に時間を要し、また素子分離を行うためのメサエッチング等が困難になる。このため、p型コンタクト層5の膜厚は、0.1μm以上2μm以下が好ましい。
【0056】
p型ドーパントとしては、Be、Zn、Cd、C、Mg、Geなどが好ましく用いられる。特にZnは、InSbにおいて、より活性化率が高く、かつ毒性も低いために、好ましく用いられる。
【0057】
[量子型赤外線センサの製造方法]
上述の化合物半導体積層体を用いて、量子型赤外線センサを作製する。図2は、本発明による化合物半導体積層体を用いて作製した量子型赤外線センサの断面図である。図2に示すように、基板1と、n型コンタクト層2と、光吸収層3と、p型バリア層4と、p型コンタクト層5とが順次積層された化合物半導体積層体をパッシベーション膜6が覆っている。パッシベーション膜6の一部には窓が開けられて、電極7が形成されている。
【0058】
以下に、量子型赤外線センサの作製方法の一例について述べるが、本発明は、特にこの方法に限定されるものではない。
【0059】
まず、酸またはイオンミリング法などを用いて、n型コンタクト層2とコンタクトを取るための段差形成を行う。次いで、段差形成がされた化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングを行う。次いで、SiNやSiO2などのパッシベーション膜6で、基板1及び素子分離された化合物半導体積層体の表面を覆う。次いで、パッシベーション膜6のうち電極7を形成する部分のみを窓開けし、Au/TiやAu/Cr等の電極7をリフトオフ法などで形成する。このようにして、量子型赤外線センサを作製する。また、基板1上に作製した複数の量子型赤外線センサを、電気的に直列接続する構造とすることは好ましい。このような構造とすることで、単一の量子型赤外線センサの出力を足し合わせることが可能となり、出力を飛躍的に向上させることができる。
【0060】
量子型赤外線センサは、センサから出力される電気信号を処理する集積回路部と、同一パッケージ内にハイブリッドに形成しても良い。センサと集積回路部との電気的な接続方法は、何でも良く、特に限定されない。パッケージに関しても、赤外線の透過率が高い材料であれば何でも良く、中空パッケージなどを用いても良い。また、特定の光の影響を完全に避けるため、フィルタを取り付けることもある。さらに、検知する距離や方向性を定め、集光性をより高めるためにフレネルレンズを設けることも行われる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではなく、その発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変更可能であることは言うまでもない。
【0062】
(実施例1)
まず、様々な光吸収層を用いた場合の、赤外線吸収波長帯への影響について調べた。具体的には、MBE法によりGaAs基板上にn型コンタクト層としてSnを7×1018/cm3ドーピングしたInSb層を形成し、その上に以下の3種類のいずれかによる光吸収層を形成し、その赤外線吸収波長帯を比較した。
(a)ノンドープのInSb層1μm
(b)ノンドープのIn0.75Ga0.25Sb混晶層1μm
(c)ノンドープのInSb層0.004μmとノンドープのGaSb層0.001μmの積層体を200回繰り返して形成した超格子構造体1μm
図3に、作製した3種類の化合物半導体積層体におけるX線回折パターンを示す。図3に示す各図において、横軸は入射角を表し、縦軸は回折強度を表す。図3(a)はノンドープのInSb層1μmを用いたときの回折パターンを示し、図3(b)はノンドープのIn0.75Ga0.25Sb混晶層1μmを用いたときの回折パターンを示し、図3(c)はノンドープのInSb層0.004μmとノンドープのGaSb層0.001μmの積層体を200回繰り返して形成した超格子構造体1μmを用いたときの回折パターンを示す。また、図3(d)には、これら3種類のパターンをまとめて表示した。
【0063】
図3(a)を参照すると、GaAs基板とInSbに対応する回折ピークが観測されていることがわかる。図3(b)を参照すると、GaAs基板とInSbに対応する回折ピークに加えて、In0.75Ga0.25Sb混晶層に対応する回折ピークが観測されていることがわかる。図3(c)を参照すると、GaAs基板とInSbに対応するピークに加えて、In0.75Ga0.25Sb混晶層に対応するピークと、更にそれに対して等間隔ないくつかのサテライトピークが観測されていることがわかる。すなわち、InSbとGaSbとからなる超格子構造に対応するピークが観測されている。この結果から、上記(c)の積層体において、超格子構造体を設計通り作製できていることがわかった。
【0064】
図4は、作製した3種類の化合物半導体積層体における透過率の波長依存性を示すグラフである。図4において、横軸は波長を表し、縦軸は透過率を表す。また、図4において、実線は(a)ノンドープのInSb層1μmを用いたときの透過率の波長依存性を、破線は(b)ノンドープのIn0.75Ga0.25Sb混晶層1μmを用いたときの透過率の波長依存性を、一点鎖線は(c)ノンドープのInSb層0.004μmとノンドープのGaSb層0.001μmの積層体を200回繰り返して形成した超格子構造体1μmを用いたときの透過率の波長依存性を夫々示す。透過率はフーリエ変換赤外分光光度計(Fourier Transform Infrared Spectroscopy,FTIR)を用いて求めた。
【0065】
図4を参照すると、(a)ノンドープのInSb層1μmを用いた場合は、InSbのバンドギャップに対応した波長7.3μm以下の領域で、透過率が低下、すなわち、光吸収が起こっている。(b)ノンドープのIn0.75Ga0.25Sb混晶層1μmを用いた場合は、InGaSbのバンドギャップがInSbよりも大きいため、光吸収が始まる波長は短波長側にシフトし、波長5.5μm以下の領域で光吸収が起こっている。(c)ノンドープのInSb層0.004μmとノンドープのGaSb層0.001μmの積層体を200回繰り返して形成した超格子構造体1μmを用いた場合は、(b)と同様に、光吸収が始まる波長は短波長側にシフトし、波長5.5μm以下の領域で光吸収が起こっていることがわかる。すなわち、光吸収層としてInSbとGaSbとからなる超格子構造体を用いた場合、光吸収層としてInSbを用いた場合よりも、光吸収が起こる波長帯が短波長側にシフトしており、InGaSb混晶系と同様の効果を得ることができた。このような効果は、光吸収層を、ノンドープのInSb層0.008μmとノンドープのGaSb層0.002μmとからなる積層体を100回繰り返して形成した超格子構造体1μmや、ノンドープのInSb層0.016μmとノンドープのGaSb層0.004μmとからなる積層体を50回繰り返して形成した超格子構造体1μmとした場合でも同様に見ることができ、やはり、波長5.5μm以下の領域で光吸収が起こっていることがわかった。
【0066】
さらに、光吸収層を、InSbとAlSb、InSbとAlGaSb、またはInSbとInAsとからなる超格子構造体とした場合でも、InAlSb混晶、InAlGaSb混晶、InAsSb混晶などの混晶系材料と同様に、光吸収が起こる波長帯をシフトさせる効果が見られる。この波長帯は、超格子構造における材料の選定や、各層の膜厚の比率などを制御することで、自由に設計することが可能である。
【0067】
よって、光吸収層に超格子構造を用いることで、検知すべき吸収波長帯に適したバンドギャップを有する光吸収層の材料を自由に設計することができる。しかも、混晶系材料に見られるような結晶性の劣化もないことから、各用途に応じた高感度な量子型赤外線センサを実現することができる。
【0068】
これ以降、量子型赤外線センサを作製した実施例について述べる。
(実施例2)
第2の実施例について説明する。
【0069】
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上に、n型コンタクト層としてSnを7×1018/cm3ドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上に光吸収層としてノンドープのInSb層0.004μmとノンドープのGaSb層0.001μmとの積層体を400回繰り返して形成した超格子構造体2μmを成長し、この上にp型バリア層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたAl0.2In0.8Sb層0.02μmを成長し、この上にp型コンタクト層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたInSb層0.5μmを成長した。
【0070】
本実施例に係る光吸収層における透過率の波長依存性を、FTIRを用いて評価したところ、波長5.5μm以下の領域で光吸収が起こっており、InSbを光吸収層として用いた場合に比べ、ガス検出などに必要な、より短波長側での赤外線吸収感度を得ることができた。
【0071】
この化合物半導体積層体を用いて、量子型赤外線センサを作製した。
【0072】
まず、n型コンタクト層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリング法などを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及びGaAs基板に形成された化合物半導体積層体)をSiNパッシベーション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で、電極部分のみ窓明けを行った。次いで、n型コンタクト層の段差部分上及びp型コンタクト層上の2箇所に、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。
【0073】
(実施例3)
第3の実施例について説明する。
【0074】
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上に、n型コンタクト層としてSnを7×1018/cm3ドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上に光吸収層としてZnを2×1016/cm3ドーピングしたInSb層0.004μmとZnを2×1016/cm3ドーピングしたGaSb層0.001μmとの積層体を400回繰り返して形成した超格子構造体2μmを成長し、この上にp型バリア層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたAl0.2In0.8Sb層0.02μmを成長し、この上にp型コンタクト層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたInSb層0.5μmを成長した。
【0075】
本実施例に係る光吸収層における透過率の波長依存性を、FTIRを用いて評価したところ、波長5.5μm以下の領域で光吸収が起こっており、InSbを光吸収層として用いた場合に比べ、ガス検出などに必要な、より短波長側での赤外線吸収感度を得ることができた。
【0076】
この化合物半導体積層体を用いて、量子型赤外線センサを作製した。
【0077】
まず、n型コンタクト層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリング法などを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及びGaAs基板に形成された化合物半導体積層体)をSiNパッシベーション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で、電極部分のみ窓明けを行った。次いで、n型コンタクト層の段差部分上及びp型コンタクト層上の2箇所に、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。
【0078】
(実施例4)
第4の実施例について説明する。
【0079】
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上に、n型コンタクト層としてSnを7×1018/cm3ドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上に光吸収層としてZnを2×1016/cm3ドーピングしたInSb層0.003μmとZnを2×1016/cm3ドーピングしたInAs層0.001μmとの積層体を500回繰り返して形成した超格子構造体2μmを成長し、この上にp型バリア層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたAl0.2In0.8Sb層0.02μmを成長し、この上にp型コンタクト層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたInSb層0.5μmを成長した。
【0080】
本実施例に係る光吸収層における透過率の波長依存性を、FTIRを用いて評価したところ、波長10μm以下の領域で光吸収が起こっており、InSbを光吸収層として用いた場合に比べ、人感センサなどに必要な、より長波長側での赤外線吸収感度を得ることができた。
【0081】
この化合物半導体積層体を用いて、量子型赤外線センサを作製した。
【0082】
まず、n型コンタクト層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリング法などを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及びGaAs基板に形成された化合物半導体積層体)をSiNパッシベーション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で、電極部分のみ窓明けを行った。次いで、n型コンタクト層の段差部分上及びp型コンタクト層上の2箇所に、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。
【0083】
(実施例5)
第5の実施例について説明する。
【0084】
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上に、n型コンタクト層としてSnを7×1018/cm3ドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上に光吸収層としてZnを2×1016/cm3ドーピングしたInSb層0.004μmとノンドープのGaSb層0.001μmとの積層体を400回繰り返して形成した超格子構造体2μmを成長し、この上にp型バリア層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたAl0.2In0.8Sb層0.02μmを成長し、この上にp型コンタクト層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたInSb層0.5μmを成長した。
【0085】
本実施例に係る光吸収層における透過率の波長依存性を、FTIRを用いて評価したところ、波長5.5μm以下の領域で光吸収が起こっており、InSbを光吸収層として用いた場合に比べ、ガス検出などに必要な、より短波長側での赤外線吸収感度を得ることができた。
【0086】
この化合物半導体積層体を用いて、量子型赤外線センサを作製した。
【0087】
まず、n型コンタクト層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリング法などを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及びGaAs基板に形成された化合物半導体積層体)をSiNパッシベーション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で、電極部分のみ窓明けを行った。次いで、n型コンタクト層の段差部分上及びp型コンタクト層上の2箇所に、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。
【0088】
(実施例6)
第6の実施例について説明する。
【0089】
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上に、n型コンタクト層としてSnを7×1018/cm3ドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上に光吸収層としてZnを2×1016/cm3ドーピングしたInSb層0.008μmとノンドープのGaSb層0.002μmとの積層体を200回繰り返して形成した超格子構造体2μmを成長し、この上にp型バリア層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたAl0.2In0.8Sb層0.02μmを成長し、この上にp型コンタクト層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたInSb層0.5μmを成長した。
【0090】
本実施例に係る光吸収層における透過率の波長依存性を、FTIRを用いて評価したところ、波長5.5μm以下の領域で光吸収が起こっており、InSbを光吸収層として用いた場合に比べ、ガス検出などに必要な、より短波長側での赤外線吸収感度を得ることができた。
【0091】
この化合物半導体積層体を用いて、量子型赤外線センサを作製した。
【0092】
まず、n型コンタクト層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリング法などを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及びGaAs基板に形成された化合物半導体積層体)をSiNパッシベーション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で、電極部分のみ窓明けを行った。次いで、n型コンタクト層の段差部分上及びp型コンタクト層上の2箇所に、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。
【0093】
(実施例7)
第7の実施例について説明する。
【0094】
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上に、n型コンタクト層としてSnを7×1018/cm3ドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上に光吸収層としてZnを2×1016/cm3ドーピングしたInSb層0.016μmとノンドープのGaSb層0.004μmとの積層体を100回繰り返して形成した超格子構造体2μmを成長し、この上にp型バリア層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたAl0.2In0.8Sb層0.02μmを成長し、この上にp型コンタクト層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたInSb層0.5μmを成長した。
【0095】
本実施例に係る光吸収層における透過率の波長依存性を、FTIRを用いて評価したところ、波長5.5μm以下の領域で光吸収が起こっており、InSbを光吸収層として用いた場合に比べ、ガス検出などに必要な、より短波長側での赤外線吸収感度を得ることができた。
【0096】
この化合物半導体積層体を用いて、量子型赤外線センサを作製した。
【0097】
まず、n型コンタクト層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリング法などを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及びGaAs基板に形成された化合物半導体積層体)をSiNパッシベーション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で、電極部分のみ窓明けを行った。次いで、n型コンタクト層の段差部分上及びp型コンタクト層上の2箇所に、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。
【0098】
(実施例8)
第8の実施例について説明する。
【0099】
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上に、n型コンタクト層としてSnを7×1018/cm3ドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上に光吸収層としてZnを2×1016/cm3ドーピングしたInSb層0.039μmとノンドープのAlSb層0.001μmとの積層体を50回繰り返して形成した超格子構造体2μmを成長し、この上にp型バリア層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたAl0.2In0.8Sb層0.02μmを成長し、この上にp型コンタクト層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたInSb層0.5μmを成長した。
【0100】
本実施例に係る光吸収層における透過率の波長依存性を、FTIRを用いて評価したところ、波長5.5μm以下の領域で光吸収が起こっており、InSbを光吸収層として用いた場合に比べ、ガス検出などに必要な、より短波長側での赤外線吸収感度を得ることができた。
【0101】
この化合物半導体積層体を用いて、量子型赤外線センサを作製した。
【0102】
まず、n型コンタクト層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリング法などを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及びGaAs基板に形成された化合物半導体積層体)をSiNパッシベーション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で、電極部分のみ窓明けを行った。次いで、n型コンタクト層の段差部分上及びp型コンタクト層上の2箇所に、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。
【0103】
(実施例9)
第9の実施例について説明する。
【0104】
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上に、n型コンタクト層としてSnを7×1018/cm3ドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上に光吸収層としてZnを2×1016/cm3ドーピングしたInSb層0.019μmとノンドープのAl0.5Ga0.5Sb層0.001μmとの積層体を100回繰り返して形成した超格子構造体2μmを成長し、この上にp型バリア層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたAl0.2In0.8Sb層0.02μmを成長し、この上にp型コンタクト層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたInSb層0.5μmを成長した。
【0105】
本実施例に係る光吸収層における透過率の波長依存性を、FTIRを用いて評価したところ、波長5.5μm以下の領域で光吸収が起こっており、InSbを光吸収層として用いた場合に比べ、ガス検出などに必要な、より短波長側での赤外線吸収感度を得ることができた。
【0106】
この化合物半導体積層体を用いて、量子型赤外線センサを作製した。
【0107】
まず、n型コンタクト層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリング法などを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及びGaAs基板に形成された化合物半導体積層体)をSiNパッシベーション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で、電極部分のみ窓明けを行った。次いで、n型コンタクト層の段差部分上及びp型コンタクト層上の2箇所に、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。
【0108】
(実施例10)
第10の実施例について説明する。
【0109】
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上に、n型コンタクト層としてSnを7×1018/cm3ドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上に光吸収層としてノンドープのInSb層0.004μmとZnを2×1016/cm3ドーピングしたGaSb層0.001μmとの積層体を400回繰り返して形成した超格子構造体2μmを成長し、この上にp型バリア層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたAl0.2In0.8Sb層0.02μmを成長し、この上にp型コンタクト層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたInSb層0.5μmを成長した。
【0110】
本実施例に係る光吸収層における透過率の波長依存性を、FTIRを用いて評価したところ、波長5.5μm以下の領域で光吸収が起こっており、InSbを光吸収層として用いた場合に比べ、ガス検出などに必要な、より短波長側での赤外線吸収感度を得ることができた。
【0111】
この化合物半導体積層体を用いて、量子型赤外線センサを作製した。
【0112】
まず、n型コンタクト層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリング法などを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及びGaAs基板に形成された化合物半導体積層体)をSiNパッシベーション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で、電極部分のみ窓明けを行った。次いで、n型コンタクト層の段差部分上及びp型コンタクト層上の2箇所に、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。
【0113】
(実施例11)
第11の実施例について説明する。
【0114】
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上に、n型コンタクト層としてSnを7×1018/cm3ドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上に光吸収層としてZnを2×1016/cm3ドーピングしたInSb層0.004μmとノンドープのGaSb層0.001μmとの積層体を400回繰り返して形成した超格子構造体2μmを成長し、この上にp型バリア層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたInSb層0.003μmとZnを1×1019/cm3ドーピングしたAlSb層0.001μmとの積層体を5回繰り返して形成した超格子構造体0.02μmを成長し、この上にp型コンタクト層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたInSb層0.5μmを成長した。
【0115】
本実施例に係る光吸収層における透過率の波長依存性を、FTIRを用いて評価したところ、波長5.5μm以下の領域で光吸収が起こっており、InSbを光吸収層として用いた場合に比べ、ガス検出などに必要な、より短波長側での赤外線吸収感度を得ることができた。
【0116】
この化合物半導体積層体を用いて、量子型赤外線センサを作製した。
【0117】
まず、n型コンタクト層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリング法などを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及びGaAs基板に形成された化合物半導体積層体)をSiNパッシベーション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で、電極部分のみ窓明けを行った。次いで、n型コンタクト層の段差部分上及びp型コンタクト層上の2箇所に、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。
【0118】
(実施例12)
第12の実施例について説明する。
【0119】
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上に、n型コンタクト層としてSnを7×1018/cm3ドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上に光吸収層としてZnを2×1016/cm3ドーピングしたInSb層0.004μmとノンドープのGaSb層0.001μmとの積層体を400回繰り返して形成した超格子構造体2μmを成長し、この上にp型バリア層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたInSb層0.001μmとZnを1×1019/cm3ドーピングしたAl0.5Ga0.5Sb層0.001μmとの積層体を10回繰り返して形成した超格子構造体0.02μmを成長し、この上にp型コンタクト層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたInSb層0.5μmを成長した。
【0120】
本実施例に係る光吸収層における透過率の波長依存性を、FTIRを用いて評価したところ、波長5.5μm以下の領域で光吸収が起こっており、InSbを光吸収層として用いた場合に比べ、ガス検出などに必要な、より短波長側での赤外線吸収感度を得ることができた。
【0121】
この化合物半導体積層体を用いて、量子型赤外線センサを作製した。
【0122】
まず、n型コンタクト層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリング法などを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及びGaAs基板に形成された化合物半導体積層体)をSiNパッシベーション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で、電極部分のみ窓明けを行った。次いで、n型コンタクト層の段差部分上及びp型コンタクト層上の2箇所に、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。
【0123】
(実施例13)
第13の実施例について説明する。
【0124】
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上に、n型コンタクト層としてSnを7×1018/cm3ドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上に光吸収層としてZnを2×1016/cm3ドーピングしたInSb層0.004μmとノンドープのGaSb層0.001μmとの積層体を400回繰り返して形成した超格子構造体2μmを成長し、この上にp型バリア層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたInSb層0.001μmとZnを1×1019/cm3ドーピングしたAl0.5Ga0.5Sb層0.001μmとの積層体を10回繰り返して形成した超格子構造体0.02μmを成長し、この上にp型コンタクト層としてZnを1×1019/cm3ドーピングしたInSb層0.004μmとZnを1×1019/cm3ドーピングしたGaSb層0.001μmとの積層体を100回繰り返して形成した超格子構造体0.5μmを成長した。
【0125】
本実施例に係る光吸収層における透過率の波長依存性を、FTIRを用いて評価したところ、波長5.5μm以下の領域で光吸収が起こっており、InSbを光吸収層として用いた場合に比べ、ガス検出などに必要な、より短波長側での赤外線吸収感度を得ることができた。
【0126】
この化合物半導体積層体を用いて、量子型赤外線センサを作製した。
【0127】
まず、n型コンタクト層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリング法などを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体積層体に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及びGaAs基板に形成された化合物半導体積層体)をSiNパッシベーション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で、電極部分のみ窓明けを行った。次いで、n型コンタクト層の段差部分上及びp型コンタクト層上の2箇所に、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。
【符号の説明】
【0128】
1 基板
2 n型コンタクト層
3 光吸収層
4 p型バリア層
5 p型コンタクト層
6 パッシベーション膜
7 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成され、n型ドーピングされたInSbからなるn型コンタクト層と、
前記n型コンタクト層上に形成された光吸収層と、
前記光吸収層上に形成され、前記光吸収層よりも高濃度にp型ドーピングされ、かつ前記n型コンタクト層及び前記光吸収層よりも大きなバンドギャップを有するp型バリア層と、
前記p型バリア層上に形成され、前記p型バリア層と同等またはそれ以上の濃度にp型ドーピングされたp型コンタクト層と
を備えた量子型赤外線センサであって、
前記光吸収層は、ノンドープまたはp型ドーピングされたInSbと、ノンドープまたはp型ドーピングされたGaSb、AlSb、AlGaSb、およびInAsのうちの何れか一つとが周期的に積層された超格子構造体からなることを特徴とする量子型赤外線センサ。
【請求項2】
前記p型バリア層は、AlInSb層、GaInSb層、およびAlGaInSb層のうちの何れか一つであるか、または、InSb層とAlSb層とが周期的に積層された超格子構造、InSb層とGaSb層とが周期的に積層された超格子構造、およびInSb層とAlGaSb層とが周期的に積層された超格子構造のうちの何れか一つを有することを特徴とする請求項1に記載の量子型赤外線センサ。
【請求項3】
前記p型コンタクト層は、AlInSb層、GaInSb層、AlGaInSb層のうちの何れか一つであるか、または、InSb層とAlSb層とが周期的に積層された超格子構造、InSb層とGaSb層とが周期的に積層された超格子構造、InSb層とAlGaSb層とが周期的に積層された超格子構造のうちのいずれか一つを有することを特徴とする請求項1または2に記載の量子型赤外線センサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−209357(P2012−209357A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72621(P2011−72621)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(303046277)旭化成エレクトロニクス株式会社 (840)
【Fターム(参考)】