説明

金型の監視方法及び監視装置

【課題】金型周辺の可視光の影響を受けて誤判定を来たすことなく、かつ複雑・高度な照射技術を不要とすることのできる金型の監視装置を提供する。
【解決手段】成形品の排出が終了した金型105の内面から放射される赤外線IRの放射強度を二次元的に検出した赤外線撮像データを出力する赤外線撮像手段1と、成形品が残留していない金型105の内面から放射された赤外線IRの放射強度を二次元的に検出したマスタ画像データが記憶されるマスタ画像記憶手段3と、前記赤外線撮像データと前記マスタ画像データとの比較により抽出された赤外線放射強度の差により前記金型の内面における残留物の有無を判定する演算処理手段4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形後に型開きした金型の内面の状態を、赤外線を用いて撮像して監視する方法及びそれに用いる監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金型によりゴム成形品又は合成樹脂成形品を成形する場合、成形後に型開きした金型から成形品が何らかの原因により排出されないまま金型が閉じられて、次の成形工程が開始された場合はトラブルが発生することになり、最悪の場合は金型が破損するおそれもある。また、型開き後に金型から成形品が正常に排出されたとしても、バリなどがキャビティ内に残留したまま次の成形が行われた場合は、成形不良が発生してしまう。したがって、成形後に型開きして成形品を排出した後の金型の内面を監視することは重要である。
【0003】
従来から、このような金型の監視のために用いられる装置としては、型開きして成形品を排出した後の金型の内面を可視光カメラで撮像し、画像処理により金型の状態の良否(成形品の残留の有無)を判別するものが知られているが、このような可視光カメラによるものでは、金型周辺の明るさ(輝度)の影響によって誤判定を招くことがあった。また、金型内面の凹凸によってできる影を成形品と誤判定するおそれもあった。したがって、可視光カメラでの撮像により正確な判定を行うためには、照明環境を確実に整えるなど、複雑で高度な照明技術を必要とする問題があった。
【0004】
また、下記の特許文献1,2には、金型の内面に可視光以外の波長領域の電磁波を照射し、あるいは可視光及び赤外線を照射して、その反射波によって金型を監視する装置が開示されているが、このような装置においても同様に、電磁波の照射角度や金型内面の凹凸によっては、影(死角)が発生するため、その照射角度を確実に整える等、高度な照射技術を必要とする問題があった。
【特許文献1】特開2003−305748号公報
【特許文献2】特開2007−21797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、金型周辺の可視光の影響を受けて誤判定を来たすことなく、かつ複雑・高度な照射技術を不要とすることのできる金型の監視装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る金型の監視方法は、成形品の排出が終了した金型の内面から放射される赤外線の放射強度を二次元的に検出した赤外線撮像データと、成形品が残留していない金型の内面から放射された赤外線の放射強度を二次元的に検出したマスタ画像データとを比較し、その赤外線放射強度の差により前記金型の内面における残留物の有無を判定するものである。
【0007】
また、請求項2の発明に係る金型の監視装置は、成形品の排出が終了した金型の内面から放射される赤外線の放射強度を二次元的に検出した赤外線撮像データを出力する赤外線撮像手段と、成形品が残留していない金型の内面から放射された赤外線の放射強度を二次元的に検出したマスタ画像データが記憶されるマスタ画像記憶手段と、前記赤外線撮像データと前記マスタ画像データとの比較により抽出された赤外線放射強度の差により前記金型の内面における残留物の有無を判定する演算処理手段とを備えるものである。
【0008】
赤外線は絶対零度よりも高温の物体から自然に放射されており、その放射強度は物体の温度と相関関係にある。また、同じ温度であっても物体の材質によって放射エネルギは異なる。本発明はこれを利用して、金型の内面から放射される赤外線の放射強度と、金型の内面上の残留物(成形品又はバリ)から放射される赤外線の放射強度との差により残留物の有無を判定するものである。
【0009】
したがって成形工程の1ショット毎、成形品の離型後の金型内面を赤外線撮像手段によって撮像し、その赤外線撮像データをマスタ画像データと比較することにより、金型上の残留物の有無を検出することが可能であり、温度、成形材料の種類に合わせて設定値を変更・登録しておくことによって、成形材料や成形温度の異なる場合の金型の監視も可能となる。
【0010】
請求項3の発明に係る金型の監視装置は、請求項2に記載の構成において、演算処理手段が、抽出された赤外線放射強度の差を、パターンマッチングにより座標出力するものである。
【0011】
このように構成することで、金型上の残留物の明確な位置座標を得ることができる。
【0012】
また、請求項4の発明に係る金型の監視装置は、請求項2に記載の構成において、演算処理手段が、金型の内面における残留物の存在を判定したときに、前記金型から前記残留物を排出する排出手段への駆動指令を出力するものである。
【0013】
このように構成することで、排出手段が駆動して金型の内面に残留した成形品又はバリを排出するので、残留物による成形工程の不具合や成形不良の発生が有効に防止される。
【0014】
また、請求項5の発明に係る金型の監視装置は、請求項2に記載の構成において、演算処理手段が、金型の内面における残留物の存在を判定したときに、警報手段への発報指令を出力するものである。
【0015】
このように構成すれば、警報手段が発報した場合には作業者が直ちに排出手段を駆動させて金型の内面に残留した成形品又はバリを排出することができるので、残留物による成形工程の不具合や成形不良の発生が有効に防止される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る金型の監視方法及び監視装置によれば、従来のような可視光により撮像するものではないので、金型周辺の明るさ(可視光)の影響を受けて誤判定を来たすことなく、しかも、反射光を利用するのではなく金型内面から放射される赤外線放射エネルギの強度分布を画像処理した赤外線撮像データにより金型内面の残留物の有無を監視するものであるため、複雑・高度な照射技術を不要とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る金型の監視方法及び監視装置の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る金型の監視装置を取り付けた射出成形装置の一部を概略的に示す斜視図、図2は、本発明に係る金型の監視装置の概略構成を示すブロック図、図3は、ゴム及び金型内面を撮像した赤外線カメラの出力レベルと温度との関係を示す線図、図4は、本発明に係る金型の監視装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【0018】
まず図1において、参照符号100は例えばゴム材料からなるシールリングなどを射出成形するための縦型の射出成形装置であって、固定盤101の下面に固定された固定金型102と、固定盤101の下方に不図示の型締め装置により上下移動可能に設けられた可動盤103上に熱盤104を介して配置され、前記固定金型102に対して進退される可動金型105と、固定金型102から所定の型開き位置まで後退(下降)した可動盤103上とその前方に設けられた成形品排出テーブル106上との間で可動金型105を熱盤104と共に水平移動させる水平移動装置107と、固定盤101上に取り付けられて、型締めされた固定金型102と可動金型105により画成される不図示のキャビティ(成形空間)内に成形用ゴム材料を充填する射出機108と、成形品排出テーブル106上の可動金型105から成形品やバリを排出させる不図示の排出装置とを備える。
【0019】
本発明に係る金型の監視装置は、固定盤101の前面にブラケット101aを介して取り付けられた中赤外線カメラ1と、図2に示されるように、撮像メモリ2と、マスタ画像データが記憶されるマスタ画像メモリ3と、各種の演算を実行する演算処理部4と、閾値などが設定され記憶される設定部5と、演算処理部4においてパターンマッチングにより抽出された赤外線放射強度の差が座標出力されるモニタ6とを備える。このうち、撮像メモリ2、マスタ画像メモリ3、演算処理部4、設定部5、モニタ6は、図1に示されるような汎用のパーソナルコンピュータPCで構成することができる。
【0020】
また、図2における参照符号110は成形装置制御部で、図1に示される射出成形装置100における不図示の型締め装置や排出装置、水平移動装置107、及び射出機108等の駆動は、この成形装置制御部110によって、所定の制御プログラムに基づいて制御されている。
【0021】
中赤外線カメラ1は、請求項2に記載された赤外線撮像手段に相当するものであって、水平移動装置107により成形品排出テーブル106上に熱盤104と共に押し出されて成形品の排出が終了した可動金型105の内面(上面)から放射される赤外線(輻射熱)IRの放射強度、特に波長が2〜8μの中赤外線領域の赤外線放射強度を二次元の赤外線撮像データとして撮像するものである。
【0022】
詳しくは、中赤外線カメラ1は、可動金型105の内面から放射される中赤外線を集光して結像する集光レンズ11と、結像された中赤外光を検出する多数の中赤外線検出素子が二次元(例えば160×120画素)で配置された中赤外線センサ部12と、この中赤外線センサ部12からの中赤外線強度データを二次元的に並べて赤外線撮像データを生成する信号処理部13と、撮像のコントラスト値及びブライトネス値を調整するための調整部14とを有する。
【0023】
撮像メモリ2は、中赤外線カメラ1(信号処理部13)から演算処理部4に送信された赤外線撮像データを一時的に記憶するものである。
【0024】
マスタ画像メモリ3は、請求項2に記載されたマスタ画像記憶手段に相当するものであって、通常の成形工程と同程度の温度(例えば200℃)に加熱された可動金型105の内面(成形品が存在しない状態)から放射される赤外線IRの放射強度を中赤外線カメラ1であらかじめ撮像したマスタ画像データが記憶されるものである。
【0025】
演算処理部4は、請求項2に記載された演算処理手段に相当するものであって、撮像メモリ2に一時的に記憶された赤外線撮像データと、マスタ画像メモリ3に記憶されたマスタ画像データとの比較により赤外線放射強度の差を抽出し、この差によって、可動金型105の内面における残留物の有無を判定するものである。このため、可視光あるいは可視光以外の電磁波を照射してその反射光により撮像する場合のような照射手段や、可視光を用いる場合のような照明手段は不要である。
【0026】
詳しくは、物体からの赤外線放射エネルギEは、ステファンボルツマンの法則により、次式
E=εσT
(ε:放射率、σ:ステファンボルツマン定数、T:絶対温度)
で表される。ここで放射率εは物質による固有の値を有し、例えばゴムの放射率は約0.8であるのに対し、クロム系のめっき処理が施された可動金型105の内面の放射率は0.1程度であり、すなわち絶対温度Tが同じでも、赤外線放射エネルギEの差は著しく大きい。このため、中赤外線カメラ1による撮像では、可動金型105の内面は暗く、可動金型105の内面に残留したゴム片は明るく写ることになる。
【0027】
そこで、中赤外線カメラ1の調整部14において、可動金型105とゴム片の明暗が最もはっきり写るようにコントラスト値及びブライトネス値を調整し、その設定値を固定しておき、図3に例示するように、あらかじめ成形品(ゴム)及び可動金型105の温度と、これら成形品(ゴム)及び可動金型105の内面からの赤外線放射エネルギによる中赤外線カメラ1の出力レベルとの相関を取り、その出力レベルの差が明確に出るように、適切な閾値を設定して設定部5に記憶しておく。
【0028】
例えば図3の例において、コントラスト値を4、ブライトネス値を+30に設定(C4/B+30)した場合、金型温度が175〜225℃において、金型の画像における赤外線カメラ出力は50〜60程度で推移し、ゴム片の画像における赤外線カメラ出力は140〜175程度で推移していることがわかる。したがってこの場合は、金型の赤外線カメラ出力とゴム片の赤外線カメラ出力の差は90〜115であり、したがって例えば閾値を80程度に設定しておけば、金型温度の変動があっても、出力の差の判定により、金型上のゴム片の有無を確実に判定できることになる。
【0029】
以下、本発明に係る金型の監視装置による処理の流れを、図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0030】
まず、射出成形装置100における成形工程が終了し、型開きにより可動盤103によって所定の型開き位置まで後退(下降)した可動金型105が、水平移動装置107によって成形品排出テーブル106上へ熱盤104と共に押し出され、不図示の排出装置によって可動金型105から成形品が排出され、そのときの制御信号である離型完了端信号が、ステップS1において成形装置制御部110から演算処理部4に入力されると、ステップS2において、撮像メモリ2が初期化される。
【0031】
次ステップS3では、成形品の排出が完了した可動金型105の内面(上面)から放射される赤外線(中赤外線)IRの放射強度が、その上方に取り付けられた中赤外線カメラ1によって撮像され、ステップS4において、その撮像データが撮像メモリ2に記憶される。
【0032】
次に、ステップS5では、演算処理部4は、撮像メモリ2に記憶された赤外線撮像データと、マスタ画像メモリ3に記憶されたマスタ画像データとの比較により、赤外線放射強度の差を抽出する。
【0033】
そしてステップS5で抽出された差が、設定部5に設定された閾値未満であれば、可動金型105上に残留物がないと判定され(ステップS6=YES)、演算処理部4から監視完了信号が成形装置制御部110へ出力されるので(ステップS7)、射出成形装置100は次の成形工程を開始する。
【0034】
また、ステップS5で抽出された差が、可動金型105の画像の座標内で検出され、かつ設定部5に記憶された閾値以上であれば、可動金型105上に残留物が存在すると判定される(ステップS6=NO)。
【0035】
この場合は、ステップS8において、残留物の位置が演算処理部4から成形装置制御部110へパターンマッチングにより座標出力されるので、ゴムバリなどの残留物の位置を座標として捉えることができる。
【0036】
そして、ステップS9において、残留物排出指令信号が成形装置制御部110へ出力され、不図示の排出装置によってステップS8の座標にて残留物排出動作が行われる。そしてステップS10での残留物排出動作完了信号を受けて、処理はステップS2へリターンし、上述したステップS2〜S6の動作を経て残留物の有無の判定が繰り返される。
【0037】
したがって、判定ステップS6がYESにならない限り、射出成形装置100が型締め動作を開始するようなことはないので、バリなどの残留物による成形工程の不具合や成形不良の発生が有効に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る金型の監視装置を取り付けた射出成形装置の一部を概略的に示す斜視図である。
【図2】本発明に係る金型の監視装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】ゴム及び金型内面を撮像した赤外線カメラの出力レベルと温度との関係を示す線図である。
【図4】本発明に係る金型の監視装置の処理動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0039】
1 中赤外線カメラ(赤外線撮像手段)
2 撮像メモリ
3 マスタ画像メモリ(マスタ画像記憶手段)
4 演算処理部(演算処理手段)
100 射出成形装置
105 可動金型(金型)
110 成形装置制御部
PC パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品の排出が終了した金型の内面から放射される赤外線の放射強度を二次元的に検出した赤外線撮像データと、成形品が残留していない金型の内面から放射された赤外線の放射強度を二次元的に検出したマスタ画像データとを比較し、その赤外線放射強度の差により前記金型の内面における残留物の有無を判定することを特徴とする金型の監視方法。
【請求項2】
成形品の排出が終了した金型の内面から放射される赤外線の放射強度を二次元的に検出した赤外線撮像データを出力する赤外線撮像手段と、成形品が残留していない金型の内面から放射された赤外線の放射強度を二次元的に検出したマスタ画像データが記憶されるマスタ画像記憶手段と、前記赤外線撮像データと前記マスタ画像データとの比較により抽出された赤外線放射強度の差により前記金型の内面における残留物の有無を判定する演算処理手段とを備えることを特徴とする金型の監視装置。
【請求項3】
演算処理手段が、抽出された赤外線放射強度の差を、パターンマッチングにより座標出力することを特徴とする請求項2に記載の金型の監視装置。
【請求項4】
演算処理手段が、金型の内面における残留物の存在を判定したときに、前記金型から前記残留物を排出する排出手段への駆動指令を出力することを特徴とする請求項2に記載の金型の監視装置。
【請求項5】
演算処理手段が、金型の内面における残留物の存在を判定したときに、警報手段への発報指令を出力することを特徴とする請求項2に記載の金型の監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−23239(P2010−23239A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183861(P2008−183861)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】