説明

金型中子の製作方法および金型中子

【課題】微細領域を有する3次元形状物の成形に際して、その成形に用いられる金型中子を効率よく製作する。
【解決手段】3次元形状物の平面投影形状に対応する形状の遮光マスク2を光透過性の基板1に形成し、基板1の一方の面に遮光マスク2を覆ってレジスト層4を形成する。グレースケールマスクを用いてレジスト層4を露光して現像することにより、本体部4aおよび平板状部4bを有する立体形状にレジスト層4を加工する。レジスト層4に対して基板1を通して露光し、レジスト層4を現像することにより、本体部4aの近傍を除くレジスト層4の平板状部4bを除去して、本体部および平板部を有する立体形状のレジスト母型を製作する。このレジスト母型を用いて、レジスト母型の立体形状を反転させた立体形状の凹部を有する電鋳スタンパーを製作する。電鋳スタンパーのパターン面を削ることにより、レジスト母型の平板部に対応する部位を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖値測定のためのプラスチック製の穿刺用針を射出成形で製作する際などに用いられる金型中子を製造するときに適用される金型中子の製作方法および金型中子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の穿刺用針としては、従来、金属製のものが多用されている(例えば、特許文献1参照)。ところが、金属製の穿刺用針だと、蚊の口吻に似せた微細領域(穿刺部)を有する3次元形状に仕上げることができないので、穿刺時の痛みを十分には軽減できないばかりか、大量消費されるため、その廃棄方法が社会問題になっている。
【0003】
そこで、こうした問題に対処すべく、プラスチック製の穿刺用針が提案されている(例えば、特許文献2参照)。このプラスチック製の穿刺用針を製作する方法としては、この穿刺用針の3次元形状を製作するのに適したグレースケールマスク(レチクル)と、厚膜のレジスト層を用いたフォトリソグラフィとを組み合わせてレジスト母型を製作し、このレジスト母型に基づいて金型中子を製作し、この金型中子を用いて穿刺用針を成形する方法(以下、製作方法1という。)が考えられる。この製作方法1を用いれば、ある程度の厚さ(例えば、50〜100μm)を有するプラスチック成形品を成形することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−38021号公報
【特許文献2】特開2002−172169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この製作方法1により、微細領域を有する3次元形状に対応する形状のレジスト母型を製作する場合、微細領域の現像が微妙であり、現像終了の瞬間を見極めるのに困難を伴う。その結果、現像に過不足が発生する恐れがあり、高精度の微細領域を有するレジスト母型、ひいては金型中子を効率よく製作することができないという課題があった。
【0006】
また、レジスト母型の製作個数が複数である場合、これらのレジスト母型に現像むらが発生し、各レジスト母型間で現像の遅速が生じる。したがって、複数個のレジスト母型で現像の終点が区々となり、これらのレジスト母型の中には、高精度の微細領域を形成できないレジスト母型が生じる。その結果、すべてのレジスト母型で高精度の微細領域が形成された金型中子を製作することができないという課題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、穿刺用針のような微細領域を有する3次元形状物の成形に際して、その成形に用いられる金型中子を効率よく製作することができ、また、レジスト母型の製作個数が複数であっても、すべてのレジスト母型で高精度の微細領域が形成された金型中子を製作することが可能な金型中子の製作方法および金型中子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る第1の金型中子の製作方法は、微細領域を有する3次元形状物(9)の成形に用いるための金型中子の製作方法であって、前記3次元形状物の平面投影形状に対応する形状の遮光マスク(2)を光透過性の基板(1)に形成し、前記基板の一方の面に前記遮光マスクを覆ってレジスト層(4)を形成し、グレースケールマスクを用いて前記レジスト層を露光して現像することにより、前記3次元形状物に対応する本体部(4a)および当該本体部の周囲に形成された平板状部(4b)を有する立体形状に当該レジスト層を加工するレジスト層加工工程と、前記レジスト層加工工程で加工されたレジスト層に対して前記基板を通して露光し、当該レジスト層を現像することにより、前記本体部の近傍を除く前記レジスト層の平板状部を除去して、前記3次元形状物に対応する本体部および当該本体部の周囲に形成された平板部(6c)を有する立体形状のレジスト母型(6)を製作するレジスト母型製作工程と、前記レジスト母型を用いて、当該レジスト母型の立体形状を反転させた立体形状の凹部(8a)を有する電鋳スタンパー(8)を製作する電鋳スタンパー製作工程と、前記電鋳スタンパーのパターン面(8b)を削ることにより、前記レジスト母型の平板部に対応する部位を除去する電鋳スタンパー削り工程とを含む金型中子の製作方法としたことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る金型中子は、上記金型中子の製作方法によって製作された金型中子(7)としたことを特徴とする。
【0010】
なお、ここでは、本発明をわかりやすく説明するため、実施の形態を表す図面の符号に対応づけて説明したが、本発明が実施の形態に限定されるものでないことは言及するまでもない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微細領域を有する3次元形状物の成形に際して、レジスト母型となるレジスト層の現像所要時間より少し短めの現像時間で現像を停止した後、このレジスト母型を反転させて製作した電鋳スタンパーのパターン面を削り出すことにより、高精度の微細領域を有するレジスト母型を効率よく製作することができる。したがって、3次元形状物の成形に用いられる金型中子を効率よく製作することが可能となる。
【0012】
また、レジスト母型の製作個数が複数である場合には、レジスト層を現像する際に、それらのレジスト母型のうち現像速度が最も速いレジスト母型の現像所要時間を基準として全体の現像時間を少し短めに設定することにより、レジスト母型の製作個数が複数であっても、すべてのレジスト母型で高精度の微細領域が形成された金型中子を製作することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1に係る金型中子の製作方法におけるレジスト層加工工程の一部を示す図であって、(a)はガラス基板上にクロムおよびレジストが全面塗布された状態の断面図、(b)はクロム層の不要部分に対応するレジスト部分が除去された状態の断面図、(c)はクロム層の不要部分が除去された状態の断面図、(d)はガラス基板上にクロム製パターンが完成した状態の断面図、(e)はガラス基板上にクロム製パターンが完成した状態の平面図である。
【図2】同実施の形態1に係る金型中子の製作方法におけるレジスト層加工工程の残部を示す断面図であって、(a)はガラス基板上にクロム製パターンを覆ってレジストが全面塗布された状態図、(b)はレジスト層の不要部分が所定の深さまで除去された状態図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る金型中子の製作方法におけるレジスト母型製作工程を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る金型中子の製作方法における電鋳スタンパー製作工程を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る金型中子の製作方法における電鋳スタンパー削り工程を示す断面図である。
【図6】穿刺用針の斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る金型中子の製作方法におけるレジスト層加工工程を示す断面図であって、(a)はガラス基板上にクロム製パターンを覆ってレジストが全面塗布された状態図、(b)はレジスト層の不要部分が所定の深さまで除去された状態図である。
【図8】同実施の形態2に係る金型中子の製作方法におけるレジスト母型製作工程を示す断面図である。
【図9】同実施の形態2に係る金型中子の製作方法における電鋳スタンパー製作工程を示す断面図である。
【図10】同実施の形態2に係る金型中子の製作方法における電鋳スタンパー削り工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0015】
図1乃至図6は、本発明の実施の形態1に係る図である。
【0016】
この実施の形態1において、図6に示すような穿刺用針9を成形するときに用いるプラスチック射出成形用の金型中子を製作する際には、次の手順による。
【0017】
まず、形状モデリング工程で、成形すべき穿刺用針9の3次元形状を3次元CAD(計算機支援設計)でモデリングする。この3次元CADとしては、例えば、富士通株式会社製のICAD/SX-UPを使用することができる。
【0018】
次に、座標群抽出工程に移行し、穿刺用針9の3次元形状のサーフェスデータの3次元座標群を抽出する。すなわち、先ほどモデリングした穿刺用針9の3次元形状よりサーフェスデータを作成し、これを所定の縦横サイズ(例えば、0.5μm×0.5μm)のメッシュで切り出した後、それぞれの位置でのZ座標を取り出し、(X,Y,Z)座標群、つまり3次元座標群を作成する。
【0019】
その後、グレースケールマスク作製工程に移行し、穿刺用針9の3次元形状のサーフェスデータの3次元座標群に基づいてグレースケールマスクを作製する。すなわち、先ほど抽出した3次元座標群のZ座標に所定の関数を乗じてグレースケール値(透過率)を算出する。この関数は、後述するレジスト層形成工程で使用するレジストの感度と、投影レンズの光学特性とに基づくものである。次に、このグレースケール値に基づき、穿刺用針9の3次元形状の所定の倍率(例えば、25倍)の元グレースケールマスクをレーザープロッタで描画する。このとき、一辺が所定の長さ(例えば、12.5μm)の正方形領域を1階調領域とし、その開ロ面積比を元グレースケールマスクのその位置(例えば、(25X,25Y))におけるグレースケール値とする。そして、この元グレースケールマスクより、縮小投影型露光装置(例えば、株式会社ニコン製のi線ステッパーNSR-I12型)を用いて所定の縮小率(例えば、1/5)で縮小露光し、穿刺用針9の3次元形状の所定の倍率(例えば、5倍)のグレースケールマスクを作製する。
【0020】
次に、レジスト層加工工程に移行し、以下に述べるようにして、穿刺用針9の3次元形状に対応する本体部4aと平板状部4bとを有するレジスト層4を形成する。
【0021】
まず、図1(a)に示すように、ガラス基板1上に、その全面にわたってクロムを所定の厚さT1(例えば、T1=0.2〜0.3μm)だけ塗布してクロム層2を形成した後、このクロム層2上に、その全面にわたってポジ型またはネガ型のレジストを所定の厚さT2(例えば、T2=0.5〜1μm)だけ塗布してレジスト層3を形成する。次に、図1(b)に示すように、クロム層2の不要部分に対応するレジスト層3部分を露光・現像して除去する。その後、図1(c)に示すように、クロム層2上に残ったレジスト層3をマスクとして利用することにより、クロム層2の不要部分をエッチングで除去する。次に、図1(d)に示すように、クロム層2上に残ったレジスト層3を薬品(剥離剤)により除去する。最後に、図1(e)に示すように、ガラス基板1上の2箇所にアライメントマーク5を作成する。これで、ガラス基板1上に、穿刺用針9の平面投影形状に対応する形状のクロム層2が形成されるとともに、2つのアライメントマーク5が作成された状態となる。次に、図2(a)に示すように、ガラス基板1上に、その全面にわたってポジ型のレジストをクロム層2が覆われる形で所定の厚さT3(例えば、T3=110μm)だけ塗布してレジスト層4を形成する。その後、先ほど作製したグレースケールマスクを用いてフォトリソグラフィで、図2(b)に示すように、レジスト層4を所定の深さD1(例えば、D1=90μm)まで露光して現像する。すなわち、縮小投影型露光装置(例えば、株式会社ニコン製のg線ステッパーNSR-G8型)により、先ほど作製したグレースケールマスクを用いて所定の縮小率(例えば、1/5)で所定の露光時間(例えば、45秒)だけ縮小露光した後、有機系現像液を用いて所定の現像時間(例えば、25分)だけ現像する。すると、レジスト層4は、穿刺用針9に対応する本体部4aおよび本体部4aの周囲に所定の厚さT4(例えば、T4=20μm)で形成された平板状部4bを有する立体形状に加工された状態となる。このとき、ガラス基板1上の2つのアライメントマーク5を基準として露光位置を決定することにより、レジスト層4の加工を精度よく迅速に行うことができる。
【0022】
こうして、穿刺用針9の3次元形状に対応する本体部4aと平板状部4bとを有するレジスト層4が形成されたところで、レジスト母型製作工程に移行し、図3に示すように、このレジスト層4に対して、所定の露光時間(例えば、4分)だけガラス基板1の裏側からガラス基板1を通して平行光を照射して露光した後、このレジスト層4を所定の現像時間だけ現像する。ここで、所定の現像時間とは、レジスト層4の現像所要時間より少し短めの現像時間を意味する。すると、レジスト層4は、本体部4aの近傍を除いて平板状部4bが除去される。その結果、穿刺用針9の3次元形状に対応する本体部6aおよび本体部6aの周囲に所定の厚さT5(例えば、T5=5μm)で形成された平板部6cを有する立体形状に加工されたレジスト母型6が得られる。
【0023】
こうしてレジスト母型6が得られたところで、電鋳スタンパー製作工程に移行し、図4に示すように、このレジスト母型6を用いて、レジスト母型6の立体形状を反転させた立体形状の凹部8aを有する電鋳スタンパー8を製作する。すなわち、レジスト母型6に電極膜を作成し、通常のスルファミンニッケル浴による電鋳(電気鋳造)を行い、所定の厚さT6(例えば、T6=1.5mm程度)の電鋳スタンパー8を製作する。
【0024】
こうして電鋳スタンパー8が得られたところで、電鋳スタンパー削り工程に移行し、この電鋳スタンパー8の裏面を加工して金型取付時の裏面精度を得た後、電鋳スタンパー8の表面、つまりパターン面8bをラップ盤(図示せず)で所定のラップ量D2(例えば、D2=5μm)だけ削る。すると、図5に示すように、電鋳スタンパー8の凹部8aのうち、レジスト母型6の平板部6cに対応する部位が除去され、これが金型中子7となる。
【0025】
なお、電鋳スタンパー8のパターン面8bを削る際には、小さいサイズ(例えば、10mm角)の平面皿を用いて、このパターン面8bを部分ラップする。この部分ラップとは、スモールツール方式によるNC(数値制御)ラップを意味する。その結果、電鋳スタンパー8がその内部応力によって反りを生じていても、電鋳スタンパー8のパターン面8bを高精度に削ることができる。
【0026】
ここで、金型中子7の製作作業が終了する。こうして製作された金型中子7を金型(図示せず)に組み込むことにより、所定の立体形状をもつキャビティが形成される。
【0027】
以上のように、この実施の形態1では、穿刺用針9の成形に際して、レジスト母型6となるレジスト層4の現像所要時間より少し短めの現像時間で現像を停止した後、このレジスト母型6を反転させて製作した電鋳スタンパー8のパターン面8bを削り出す。したがって、穿刺用針9の3次元形状に対応する高精度の微細領域を有するレジスト母型6を効率よく製作することができる。その結果、穿刺用針9の成形に用いられる金型中子7を効率よく製作することが可能となる。
[発明の実施の形態2]
【0028】
図7乃至図10は、本発明の実施の形態2に係る図である。
【0029】
この実施の形態2において、図6に示すような穿刺用針9を2個同時に成形するときに用いるプラスチック射出成形用の金型中子を製作する際には、次の手順による。
【0030】
まず、形状モデリング工程で、上述した実施の形態1における手順に準じて、成形すべき穿刺用針9の3次元形状を3次元CADでモデリングする。
【0031】
次に、座標群抽出工程に移行し、上述した実施の形態1における手順に準じて、穿刺用針9の3次元形状のサーフェスデータの3次元座標群を抽出する。
【0032】
その後、グレースケールマスク作製工程に移行し、上述した実施の形態1における手順に準じて、穿刺用針9の3次元形状のサーフェスデータの3次元座標群に基づいてグレースケールマスクを作製する。
【0033】
次に、レジスト層加工工程に移行し、前記クレースケールマスクを通してレジスト層4を露光することにより、穿刺用針9の3次元形状に対応する本体部4aと平板状部4bとを有するレジスト層4を形成する。上記一連の工程を露光位置を変えて行なうことにより、2個の穿刺用針9に対応したレジスト層4を形成する。さらに、上述した実施の形態1における手順に準じて、ガラス基板1上に、穿刺用針9の平面投影形状に対応する形状のクロム層2を形成するとともに、2つのアライメントマーク(図示せず)を作成した後、図7(a)に示すように、ガラス基板1上に、その全面にわたってポジ型のレジストをクロム層2が覆われる形で塗布してレジスト層4を形成する。その後、先ほど作製したグレースケールマスクを用いてフォトリソグラフィで、図7(b)に示すように、レジスト層4を露光して現像する。すると、レジスト層4は、2つの穿刺用針9に対応する2つの本体部4aおよびこれらの本体部4aの周囲に形成された平板状部4bを有する立体形状に加工された状態となる。このとき、ガラス基板1上の2つのアライメントマークを基準として露光位置を決定することにより、レジスト層4の加工を精度よく迅速に行うことができる。
【0034】
こうして、2つの穿刺用針9の3次元形状に対応する2つの本体部4aと平板状部4bとを有するレジスト層4が形成されたところで、レジスト母型製作工程に移行し、上述した実施の形態1における手順に準じて、図8に示すように、このレジスト層4に対して、所定の露光時間(例えば、4分)だけガラス基板1の裏側からガラス基板1を通して平行光を照射して露光した後、このレジスト層4を所定の現像時間だけ現像する。すると、レジスト層4は、本体部4aの近傍を除いて平板状部4bが除去される。その結果、2つの穿刺用針9の3次元形状に対応する2つの本体部6aおよび各本体部6aの周囲に所定の厚さT7で形成された平板部6cを有する立体形状に加工された2つのレジスト母型6が得られる。なお、各レジスト母型6において、その平板部6cの厚さT7は現像むらに起因して互いに微妙に異なる可能性がある。
【0035】
ここで、所定の現像時間とは、2つのレジスト母型6のうち現像速度が速いレジスト母型6の平板部6cが消失するのに要する時間より少し短い時間を意味する。すると、これらのレジスト母型6は、各レジスト母型6間で現像の遅速が生じたとしても、図8に示すように、薄い平板部6cが残った状態となる。
【0036】
次に、電鋳スタンパー製作工程に移行し、上述した実施の形態1における手順に準じて、これらのレジスト母型6を用いて、図9に示すように、2つのレジスト母型6の立体形状を反転させた立体形状の2つの凹部8aを有する電鋳スタンパー8を製作する。
【0037】
最後に、電鋳スタンパー削り工程に移行し、上述した実施の形態1における手順に準じて、この電鋳スタンパー8の裏面を加工して金型取付時の裏面精度を得た後、部分ラップにより、電鋳スタンパー8の表面、つまりパターン面8bをラップ盤(図示せず)で削る。
【0038】
このとき、電鋳スタンパー8のパターン面8bのラップ量は、2つの凹部8aのうち、レジスト母型6の平板部6cに対応する部位が深い凹部8a(図9では、左側の凹部8a)に合わせる。すると、電鋳スタンパー8は、図10に示すように、2つの凹部8aにおいて、レジスト母型6の平板部6cに対応する部位が除去され、これが金型中子7となる。
【0039】
また、電鋳スタンパー8のパターン面8bは部分ラップによって削られるので、電鋳スタンパー8がその内部応力によって反りを生じていても、電鋳スタンパー8のパターン面8bを高精度に削ることができる。
【0040】
ここで、金型中子7の製作作業が終了する。こうして製作された金型中子7を金型(図示せず)に組み込むことにより、所定の立体形状をもつキャビティが形成される。
【0041】
以上のように、この実施の形態2では、レジスト母型6の製作個数が2である場合に、レジスト層4を現像するに際して、それらのレジスト母型6のうち現像速度が速いレジスト母型6の現像所要時間を基準として全体の現像時間を少し短めに設定する。したがって、レジスト母型6の製作個数が2であっても、2つのレジスト母型6で高精度の微細領域が形成された金型中子7を製作することが可能となる。
[発明のその他の実施の形態]
【0042】
なお、上述した実施の形態1では、レジスト母型6の製作個数が1である場合について説明し、上述した実施の形態2では、レジスト母型6の製作個数が2である場合について説明した。しかし、レジスト母型6の製作個数が3以上(例えば、4、8など)である場合に本発明を同様に適用することも勿論できる。レジスト母型6の製作個数が3以上である場合には、レジスト層4を現像するに際して、それらのレジスト母型6のうち現像速度が最も速いレジスト母型6の現像所要時間を基準として全体の現像時間を少し短めに設定する。したがって、レジスト母型6の製作個数が3以上であっても、すべてのレジスト母型6で高精度の微細領域が形成された金型中子7を製作することが可能となる。
【0043】
また、上述した実施の形態1、2では、レジスト母型6から直接的に電鋳スタンパー8を製作する場合について説明した。しかし、レジスト母型6を用いてフォトポリマー(図示せず)を製作した後、このフォトポリマーを用いて電鋳スタンパー8を製作するようにしても構わない。この場合、レジスト母型6が1回しか使えないという制限を受けても、電鋳スタンパー8の製作を工業的に効率よく行うことが可能となる。
【0044】
さらに、上述した実施の形態1、2では、射出成形用の金型中子7について説明したが、射出成形以外のプラスチック成形(例えば、押し出し成形、ブロー成形、圧縮成形、真空成形など)に用いられる金型中子7に本発明を同様に適用することも可能である。
【0045】
また、上述した実施の形態1、2では、グレースケールマスク作製工程において、レーザープロッタで元グレースケールマスクを描画する場合について説明したが、レーザープロッタの代わりに電子線描画装置を用いて元グレースケールマスクを描画するようにしてもよい。
【0046】
また、上述した実施の形態1、2では、レジスト母型製作工程において、露光時の照度分布の均一化を目的としてガラス基板1の裏側から平行光を照射する場合について説明した。しかし、露光時の照度分布を均一化するための手法を併用する場合や、露光時の照度分布を均一化する必要がない場合には、平行光に代えて拡散光を照射するようにしても構わない。
【0047】
また、上述した実施の形態1、2では、微細領域を有する3次元形状物として穿刺用針9を例にとって説明したが、穿刺用針9以外の3次元形状物(例えば、採液流路を有する穿刺用針、中に薬品を入れるための生分解性プラスチック製の容器、微細な自由立体形状のコネクタ、MEMS(メムス、Micro Electro Mechanical Systems)部品等)の成形に本発明を同様に適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、血糖値測定やインシュリン投与、点滴、輸血のために用いられるプラスチック製の穿刺用針(採液流路の有無を問わない。)など各種の医療用デバイスを製作する際に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1……ガラス基板(基板)
2……クロム層(遮光マスク)
3、4……レジスト層
4a……本体部
4b……平板状部
5……アライメントマーク
6……レジスト母型
6a……本体部
6c……平板部
7……金型中子
8……電鋳スタンパー
8a……凹部
8b……パターン面
9……穿刺用針(3次元形状物)
D1……レジスト層の露光・現像深さ
D2……ラップ量
T1……クロム層の厚さ
T2、T3……レジスト層の厚さ
T4……平板状部の厚さ
T5、T7……平板部の厚さ
T6……電鋳スタンパーの厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細領域を有する3次元形状物の成形に用いるための金型中子の製作方法であって、
前記3次元形状物の平面投影形状に対応する形状の遮光マスクを光透過性の基板に形成し、前記基板の一方の面に前記遮光マスクを覆ってレジスト層を形成し、グレースケールマスクを用いて前記レジスト層を露光して現像することにより、前記3次元形状物に対応する本体部および当該本体部の周囲に形成された平板状部を有する立体形状に当該レジスト層を加工するレジスト層加工工程と、
前記レジスト層加工工程で加工されたレジスト層に対して前記基板を通して露光し、当該レジスト層を現像することにより、前記本体部の近傍を除く前記レジスト層の平板状部を除去して、前記3次元形状物に対応する本体部および当該本体部の周囲に形成された平板部を有する立体形状のレジスト母型を製作するレジスト母型製作工程と、
前記レジスト母型を用いて、当該レジスト母型の立体形状を反転させた立体形状の凹部を有する電鋳スタンパーを製作する電鋳スタンパー製作工程と、
前記電鋳スタンパーのパターン面を削ることにより、前記レジスト母型の平板部に対応する部位を除去する電鋳スタンパー削り工程と
を含むことを特徴とする金型中子の製作方法。
【請求項2】
前記レジスト母型の製作個数が複数であり、
前記レジスト母型製作工程において、前記レジスト層を現像する際に、その現像時間を前記複数個のレジスト母型のうち現像速度が最も速いレジスト母型の平板部が消失するのに要する時間以下とすることを特徴とする請求項1に記載の金型中子の製作方法。
【請求項3】
前記電鋳スタンパー削り工程において、
前記電鋳スタンパーのパターン面を部分ラップすることにより、当該パターン面を削ることを特徴とする請求項1または2に記載の金型中子の製作方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の金型中子の製作方法によって製作されたことを特徴とする金型中子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−62853(P2011−62853A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213558(P2009−213558)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】