金属オキシフッ化物の超伝導性酸化物への制御された変換
【課題】金属オキシフッ化物前駆物質被膜により、高いエピタキシャル整列、好ましくはc-軸エピタキシャル整列を有する酸化物超伝導体の厚い被膜を提供する。
【解決手段】酸化物超伝導体被膜は、厚さが1μmまでであっても、高いJcおよびc-軸エピタキシャル酸化物粒子の容積百分率が高いことを特徴とする。酸化物超伝導体製品は、金属オキシフッ化物被膜が実質的に化学量論的比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、金属オキシフッ化物被膜を提供すること;および製品が77K、ゼロ磁場で約105A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する酸化物超伝導体被膜が得られるように、温度、PH2O、PO2、およびその組合せからなる群より選択される反応パラメータを調節することによって選択される変換速度で、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換すること、によって調製される。
【解決手段】酸化物超伝導体被膜は、厚さが1μmまでであっても、高いJcおよびc-軸エピタキシャル酸化物粒子の容積百分率が高いことを特徴とする。酸化物超伝導体製品は、金属オキシフッ化物被膜が実質的に化学量論的比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、金属オキシフッ化物被膜を提供すること;および製品が77K、ゼロ磁場で約105A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する酸化物超伝導体被膜が得られるように、温度、PH2O、PO2、およびその組合せからなる群より選択される反応パラメータを調節することによって選択される変換速度で、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換すること、によって調製される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は方向性が高い酸化物超伝導性被膜に関する。本発明はさらに、金属酸化物および金属フッ化物含有被膜の酸化物超伝導性被膜への処理に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
超伝導性セラミック酸化物の発見により、これらの酸化物を高性能被膜および被覆に仕上げようとするおびただしい努力が始まった。高温超伝導性(HTSC)被膜の製造法は大きく2つの領域、すなわち物理的方法および化学的方法に分けられる。
【0003】
物理的方法には、反応性蒸着、磁電管スパッタリング、電子ビーム沈着、およびレーザー・アブレーションが含まれる。物理的沈着法は高品質の被膜を形成するが、これらの沈着技法は典型的に形成速度が非常に遅く、高真空環境を必要とするため、高価な装置を必要とする。さらに、技法は薄膜の製造に最も適している。これらの理由から、物理的沈着法は電気的または磁気的応用に必要とされる何メートルもの長さまで規模を拡大することは極めて難しい。
【0004】
化学的方法は被膜形成の際の前駆化合物の熱活性化化学反応に主に基づいている。化学的被膜製造法は、基板上に沈着され、後に熱および化学的手段によって望ましい組成および位相を有する被膜に変形される、前駆物質を含む。
【0005】
被膜は、前駆物質の被膜が高蒸気圧を有する金属有機前駆物質から沈着する金属有機化学気相成長(MOCVD)を用いて調製してもよい。金属有機溶液成長(MOD)プロセスは、凝縮相の前駆物質からの前駆物質被膜の沈着を含む。次に前駆物質被膜を加熱して、異なる熱処理において最終的にセラミックに変換させる。
【0006】
MODプロセスはセラミック被膜の沈着として工業界において広く用いられている。このプロセスは、大きいまたは連続した基板上での迅速かつ安価な被膜の沈着に理想的に適している。MODプロセスの他の長所には、金属組成物および均一性の制御が容易であること、処理時間が短いこと、機器投資費用が安いこと、および前駆物質の費用が安価であることが含まれる。
【0007】
MODプロセスでは典型的に、カルボン酸のカルボン酸金属塩、アルコキシドまたは部分的に加水分解したアルコキシドを有機溶媒に溶解し、得られた溶液をディッピングまたはスピン・コーティングによって基板上に沈着させる。これらの被覆プロセスによって生成した前駆物質被膜を、最も一般的に一連の異なる加熱段階を含む熱処理によって金属化合物含有コーティングに変化させる。化学的方法は、高速生成が可能で、用途の広い安価な被膜製造法となる一方で、それらは二次反応に非常に感受性が高く、これは最終的な超伝導特性に対して有害となる可能性がある。例えば、YBa2Cu3Oyのような材料の沈着において、そのようなプロセスは中間体として炭酸バリウム(BaCO3)を非常に形成しやすい。BaCO3が安定であることから、炭酸バリウムを分解して酸化物超伝導体を得るためには高い処理温度(>900℃)および長時間の処理時間を必要とする。極限での反応条件の結果、基板に被膜反応が起こり、酸化物超伝導体の構造不良、および酸化物超伝導体の位相の不完全な形成が起こる。
【0008】
チャンら(Chan、App. Phys. Lett. 53(15):1443(1988年10月)(非特許文献1)は、エクスサイチュー(ex situ)プロセスとしても知られるハイブリッドプロセスを開示し、これはその後従来の化学熱プロセスによって物理的沈着チャンバーの外で処理される前駆物質被膜の物理的沈着を含む。このPVDプロセス(BaF2、エクスサイチュープロセス)は沈着および変換工程を別にしている。このプロセスは正確に化学量論的に均一にCuO、Y2O3、およびBaF2が基板上で共沈着することを含む。次に水蒸気の存在下での焼なましによって、被膜を従来の加熱条件下で酸化物超伝導物質に変換する。しかし、上記の物理的沈着法にはなお限界がある。チャン(Chan)らは、焼なまし工程の際にPO2を増加させおよびPHFを減少させることによって改善した電気的性能が得られることを認めた。
【0009】
チマら(Cima)は米国特許第5,231,074号(特許文献1)において、単結晶SrTiO3およびLaAlO3上でトリフルオロ酢酸金属塩を用いたMODによって、改善した電気輸送特性を有するBaYCu3O7-x(YBCO)酸化物超伝導性被膜のMOD調製物について報告している。厚さ約0.1 μmの被膜の臨界転移温度は約90Kであり、77 Kでは106 A/cm2より大きいゼロ磁場臨界電流密度を有した。
【0010】
さらに、米国特許第5,231,074号(特許文献1)に記述されたプロセスを用いたエピタキシャルBa2YCu3O7-x被膜の超伝導性能は、被膜の厚さに依存することが判明した。電気的性能は被膜の厚さが0.1 μmから1.0μmに増加するにつれて劇的に低下する。臨界電流密度が106 A/cm2より大きいより薄い被膜はルーチンとして調製されているが、厚さが1.0 μmに近い被膜の調製に従来の化学処理技法を適用しても、このレベルの性能に近い結果は決して得られなかった。例えば、トリフルオロ酢酸金属塩を用いたMODプロセスは、Tc>92 KおよびJc>5×106 A/cm2(77K、自己磁場)の薄い(70〜80 nm)YBa2Cu3Oy(YBCO)被膜(ここでyは少なくとも77 Kの温度で超伝導性を与えるために十分な値である)を作製するために用いられている;しかし、類似の特性を有するかなり厚い被膜を調製することは不可能であった。実際に、本特許出願において記述した処理技法が開発される前に、厚さが0.5 μmより大きい高いJc被膜を生成するような、溶液に基づく沈着プロセスは示されていなかった。
【0011】
より厚い酸化物超伝導性被覆は、送電線および電力分配腺、変圧器、障害電極電流制限器、磁石、モーター、ならびに発電器のような高電流輸送能力を必要とするいずれの応用においても必要である。高い工学(または有効)臨界電流(Jc)、すなわち総電流輸送能を基板を含む導体の総断面積で除した値を得るためには、より厚い酸化物超伝導性被膜が望ましい。
【0012】
厚さが0.5 μmより大きい酸化物超伝導性被覆は高臨界電流密度を有することが望ましい。これらの厚い酸化物超伝導性被膜および優れた電気的性能を有する被覆を調製するために用いてもよい製造技法が必要である。
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,231,074号
【非特許文献1】Chan、App. Phys. Lett. 53(15):1443(1988年10月)
【発明の開示】
【0014】
発明の概要
優れた電気的特性を有する酸化物超伝導性被膜を提供することが本発明の目的である。
高いエピタキシャル整列、好ましくはc-軸エピタキシャル整列を有する酸化物超伝導体の厚い被膜を提供することが本発明のさらなる目的である。
【0015】
金属オキシフッ化物前駆物質被膜を高品質の超伝導性被膜に処理する方法を提供することが本発明のもう一つの目的である。
【0016】
高品質の比較的厚い被膜の酸化物超伝導体の製造法を提供することが本発明のさらなる目的である。
【0017】
本発明のこれらおよび他の目的は、変換速度が望ましい制御された速度で起こるように、酸化物超伝導体への金属オキシフッ化物の変換に関する反応のキネティクスを制御することによって得られる。特に、BaF2および/または金属フッ化物の消費速度を制御し、ならびにこのように特に被膜からのHFの輸送に十分な時間が得られる、および基板/被膜界面での酸化物超伝導体層の核化作用の際にHF濃度も減少させるHF放出速度を制御するような反応条件が選択される。特に、反応温度および反応に用いられる処理気体の水分含有量は、金属オキシフッ化物の酸化物超伝導体への変換速度を調節するように制御される。
【0018】
本発明は、金属酸化物の調製において加水分解時にフッ化水素を発生する化学処理システムに適用可能である。前駆物質被膜にフッ化物が存在すれば、その臨界転移温度を増加させ、したがっておそらくその臨界電流密度を増加させることが示されているフッ素を産物の酸化超伝導体に加えるというさらなる有利な作用が得られる可能性がある。本発明は、沈着および処理の際にフッ化バリウムまたは他の金属フッ化物を消費する他の被膜製造法に応用してもよい。
【0019】
本明細書において用いられる「金属オキシフッ化物」という用語は、金属、酸化物およびフッ素を含む組成物を意味する。組成物は酸素およびフッ素の双方に結合した陽イオン金属種、例えばxおよびyが金属の原子価を満足するように選択されるMOxFyを含んでもよく、または金属酸化物および金属フッ化物の混合物、例えばMOxおよびMFyを含んでもよい。
【0020】
本明細書において用いられる「水分含有量」とは、本発明の熱処理において炉に入れる時点で、用いられる処理気体に含まれる水蒸気の容積百分率を指し、またはPH2Oもしくは相対湿度(RH)と呼んでもよい。処理気体が水蒸気を含有する許容量は温度依存的であるため、相対湿度は特定の温度に対して呼んでもよい。水分含有量は本明細書において相対湿度(RH)として定義され、これは室温(RT)で炉に入れる時点での最大許容量(飽和)での処理気体における水分量に対する処理気体中の水分量(%)を表す。
【0021】
本明細書において用いられる「被覆した導体」とは、超伝導性材料がワイヤ、もしくはテープまたは他の製品の大部分を形成する基板の外面に被覆される超伝導性のワイヤ、またはテープを意味する。
【0022】
本発明の一つの局面において、酸化物超伝導体被膜を調製する方法は、金属オキシフッ化物被膜の厚さが約0.5 μmより大きいもしくはそれに等しく、実質的に化学量論的な比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む;ならびに77 K、ゼロ磁場で約105 A/cm2より大きいまたはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する酸化物超伝導性被膜が得られるように、温度、PH2O、およびその組合せからなる群より選択される反応パラメータを調整することによって選択される変換速度で、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換させる、基板上に金属オキシフッ化物被膜を提供する段階を含む。
【0023】
本発明のもう一つの局面において、金属オキシフッ化物被膜が実質的に化学量論的な比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、金属オキシフッ化物被膜を提供すること;および25℃で測定した場合に約100%未満の水分含有量を有する処理気体において、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換することによって、酸化物超伝導体被膜を基板上に調製する。
【0024】
本発明のさらにもう一つの局面において、金属オキシフッ化物被膜が実質的に化学量論的な比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、金属オキシフッ化物被膜を提供すること;および77 K、ゼロ磁場で約105 A/cm2より大きいまたはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する酸化物超伝導体被膜が得られるレベルのHF濃度を含む基質上の雰囲気を提供するように選択される反応条件下で、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換させることによって、酸化物超伝導体被膜を調製する。
【0025】
本発明のさらにもう一つの局面において、酸化物超伝導体被膜は、(a)金属オキシフッ化物被膜が実質的に化学量論的な比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、基板上に金属オキシフッ化物の被膜を提供する段階;(b)25℃で測定した場合に100%未満のRHの水分含有量を有する処理気体において、基板/被膜界面で酸化物超伝導体の層を形成するために十分な時間、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換させる段階;および(c)工程(b)の場合より大きい水分含有量を有する処理気体において酸化物超伝導体への金属オキシフッ化物を変換を完了させる段階によって調製される。好ましい態様において、基板/被膜界面で酸化物超伝導体の層を形成するために十分な時間は約15分から約2時間の範囲である。
【0026】
好ましい態様において、水分含有量は25℃で測定した場合に約95%未満の相対湿度を含み、好ましくは約50%未満、およびより好ましくは約1〜3%を含む。基板は、セラミックがSrTiO3、LaAlO3、ジルコニア、好ましくは安定化したジルコニア、MgOおよびCeO2からなる群より選択される、金属またはセラミックを含んでもよい。基板は酸化物超伝導体と実質的に格子がマッチしていてもよい。他の好ましい態様において、上記の方法はさらに酸化物超伝導体に酸素を添加するために、酸化物超伝導被膜を焼なましすることを含む。
【0027】
他の好ましい態様において、金属オキシフッ化物を変換させる条件は、25℃および700〜900℃の範囲の温度で測定した場合に95〜100%RH未満の水分含有量を有する処理気体において金属オキシフッ化物を加熱する段階、または酸化物超伝導体の位相の安定性をさらに維持しながら所定の温度で酸素含有量が可能な限り低くなるように選択される環境で加熱する段階を含む。
【0028】
好ましい態様において、金属オキシフッ化物被膜は、MOD、MOCVD、反応性蒸着、プラズマスプレー、分子ビームエピタクシー、レーザー・アブレーション、イオンビームスパッタリング、およびe-ビーム蒸着からなる群より選択される技法を用いて沈着させる、またはトリフルオロ酢酸金属塩被覆を基板上で沈着させ、金属トリフルオロ酢酸被覆を分解することによって金属オキシフッ化物被膜を形成する。多数の層を適用してもよい。好ましい態様において、酸化物超伝導体被膜は、好ましくは厚さが0.8ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しく、およびより好ましくは厚さが1.0ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しい。
【0029】
本発明のもう一つの局面において、酸化物超伝導体被膜が基板上で0.5ミクロン(μm)より大きい厚さを有する、および製品が77 Kでゼロ応用磁場において約105 A/cm2より大きいまたはこれに等しい輸送臨界電流密度(Jc)を有する、酸化物超伝導被膜が提供される。
【0030】
本発明のさらにもう一つの局面において、結晶緩衝層が酸化物超伝導体と実質的に格子が一致している、被覆した導体が77 Kの自己電磁界で約105 A/cm2より大きいまたはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する、金属中心;コアの上に存在する緩衝層;および厚さが約0.5 μmより大きいもしくはこれに等しい酸化物超伝導体被覆を含む、被覆した導体製品が提供される。
【0031】
製品は、製品が92 Kより大きい臨界転移温度(Tc)を有するという特徴をさらに有してもよい。製品はさらに、酸化物超伝導体が、ゼロ応用磁場において77Kで約105 A/cm2より大きいまたはこれに等しいJc値を提供するために十分に大きい容積百分率のc-軸エピタクシーを含むという特徴を有してもよい。製品はさらに、酸化物超伝導体が92 Kより大きいTc値を提供するように残留フッ素を含むという特徴を有してもよい。
【0032】
好ましい態様において、酸化物超伝導被覆は約0.8 μmより大きいもしくはこれに等しい厚さを有し、より好ましくは約1.0 μmより大きいもしくはこれに等しい厚さを有する。他の好ましい態様において、導体は77Kの自己電磁界において約106 A/cm2より大きいまたはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する。他の好ましい態様において、酸化物超伝導体は高度のc-軸エピタクシーを特徴とする。
【0033】
本発明のさらにもう一つの局面において、酸化物超伝導体が実質的にc-軸エピタクシーで整列している、基板を被う厚さ0.5ミクロン(μm)の被膜を有する酸化物超伝導性被膜を含む酸化物超伝導製品が提供される。
【0034】
発明の詳細な説明
本発明は、本発明の改善された電気輸送特性が、プロセスの反応キネティクスおよび得られる酸化物被膜の微小構造を制御する反応条件下で、金属オキシフッ化物被膜を酸化物超伝導体に処理することによって得てもよいことを認識する。特に、BaF2および/または他の金属フッ化物の消費速度を制御し、ならびにこのように特に被膜からのHFの輸送のために十分な時間が得られる、および基板/被膜界面での酸化物超伝導層の核化作用の際にHF濃度も減少させるHF放出速度を制御する反応速度が選択される。
【0035】
本発明はさらに、高い臨界電流密度を有する非常に方向性の高い被膜を提供する処理条件下で、金属オキシフッ化物被膜を酸化物超伝導被膜に変換することが可能であると認識する。本発明の方法に従って、温度およびPH2O条件は、厚さが0.5ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しい、好ましくは厚さが0.8ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しい、および最も好ましくは厚さが1.0ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しく、ならびに臨界電流密度が少なくとも105 A/cm2および好ましくは少なくとも106 A/cm2である酸化物超伝導体被膜を提供するために、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換させる段階の間に、本明細書に記述のように選択および適用される。酸化物超伝導体はさらに、a-軸整列粒子が有意に存在しないことを特徴とする、実質的なc-軸エピタクシーを有することを特徴とする。
【0036】
先行技術において記述された被膜は高角粒界を有することが認められている。高角粒界は、被膜表面における90゜方向の異なる結晶を表し、これは高い臨界電流密度にとって有害である。多くの高角粒界を有する被膜の臨界電流密度は、それぞれの局所粒界での結合挙動が弱いために、至適以下となる。これらの弱い結合は非常に少量の電流を流した場合に限って超伝導性となる。しかし、それらは電流を増加させると抵抗性となる。高角粒界は典型的に、基板上でc-軸およびa-軸方向性の双方の確率がほぼ等しい場合に起こる。特に、より厚い被膜は、被膜表面に向かって急速に成長するa-軸方向粒子がさらに成長しやすい。本発明は高角粒界の量が、先行技術の被膜に対して有意に減少し、このように先行技術の酸化物超伝導被膜に対して有意な改善を示す被膜を提供する。
【0037】
本発明は、高い臨界電流密度を示す酸化物超伝導性の厚みのある、例えば、>0.5μmの被膜を提供する。本発明の酸化物超伝導性被膜は、基板と共に酸化物超伝導粒子の高いc-軸エピタクシーおよび105 A/cm2より大きいおよび好ましくは約106 A/cm2より大きいような、高い臨界電流密度を特徴とする。本明細書において用いられるc-軸エピタクシーとは、酸化物超伝導体のc-軸が基板表面に対して正常であるように基板および被膜の主軸が整列していることを意味する。酸化物超伝導体の他の主軸である、aおよびb(aは高温に限る)もまた、基板の主軸に関して整列する。このように、酸化物超伝導層内部で、a、bおよびc軸が整列している。同様に、本明細書において用いられる用語であるa-軸エピタクシーとは、酸化物超伝導体のa-軸が基板表面に対して正常であるように基板および被膜の主軸が整列していることを意味する。他の主軸は基板と共に整列する。好ましい態様において、被膜は、酸化物粒子のc-軸エピタクシーが有意または大部分であって、a-軸エピタクシーは少ないことを特徴とする。c-軸エピタクシーは酸化物粒子に限られることに注意。基板のそれぞれの軸に関して酸化物超伝導体aおよびbの実際の方向性は、電流輸送特性に有意な影響を及ぼさずに粒子によって異なる可能性がある。
【0038】
これは、図1および2にそれぞれ示すように、先行技術の被膜を本発明の被膜と比較することによって明らかに示される。図1は、835℃での水分飽和0.03%酸素環境下で金属オキシフッ化物被膜を加熱することによって、先行技術に従って調製される厚さ0.8 μmの酸化物超伝導体被膜表面の顕微鏡写真である。被膜はJcが1.6×104 A/cm2であった。a-軸エピタクシー粒子のモザイクは90°のネットワーク、すなわち高角粒界を形成し、これは被膜の臨界電流密度を劇的に低下させることが知られている。被膜におけるa-軸エピタクシー粒子の容積分画は実質的である。
【0039】
対照的に、本発明の酸化物超伝導体被膜は、図2に示すように、酸化物超伝導粒子のa-軸エピタクシーは有意に少ない。図2は、785℃で1.2%RH、0.1%O2の環境で加熱した本発明の厚さ1.0 μmの酸化物超伝導体被膜の顕微鏡写真である。この被膜は、基板表面に対して正常である酸化物超伝導結晶粒子の実質的なc-軸エピタクシーを特徴とする。c-軸エピタクシーは、被膜表面にモザイクまたはバスケット上の編みパターンを形成する、「端部での」a-軸エピタキシャル酸化物粒子が実質的に存在しないことによって示される。その代わりに、c-軸エピタクシーによって基板表面の平面に平面様粒子が平坦に並んでいる。被膜は90 Kより大きい臨界転移温度および少なくとも106 A/cm2の臨界電流密度(Jc)を示す。重要なことは、被膜は、被膜の厚さが1.0 μmであってもこれらの超伝導特性を有する。
【0040】
本発明は、例として示すに過ぎないが、Reが超伝導体のY、Nd、Prのような希土類元素である希土類・バリウム・銅の超伝導体ファミリー(ReBCO)、ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・銅の超伝導体ファミリー(BSCCO)、タリウム・ストロンチウム・カルシウム・バリウム・銅(TBSCCO)および水銀・バリウム・ストロンチウム・カルシウム・銅(HBSCCO)の超伝導体ファミリーである、酸化物超伝導体のような、何らかの酸化物超伝導体によって作製した超伝導性被覆および被膜を含む。好ましい態様において、方法は、yが少なくとも77Kの温度で超伝導性を与えるために十分な値である、酸化物超伝導体Ba2YCu3Oy(YBCO)を用いて行われる。
【0041】
被覆した導体製品の調製に用いられる基板は、酸化物超伝導体を調製するために用いられる処理条件および化学物質によって有害な影響を受けないいかなる基板であってもよい。基板はいかなる形状または構造であってもよい。平面または立体的であってもよく、例を示すとテープ、ワイヤ、リボンおよびシートの形のようないかなる形状であってもよい。基板は単結晶セラミック、もしくは多結晶セラミックまたは金属または他の材料であってもよい。示された態様において、基板は、酸化物超伝導体と格子がマッチしているセラミック結晶材料である。格子がマッチした基板は、酸化物超伝導体と類似の結晶格子定数を有する単結晶または多結晶セラミック材料である。適した基板にはSrTiO3、LaAlO3、ジルコニア、好ましくはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)のような安定化ジルコニア、CeO2およびMgOが含まれるがこれらに限定しない。他の適した基板には適当な格子定数を有する織り目構造がある、または織り目構造がない多結晶金属基板が含まれる。金属基板を用いた態様では、基板と酸化物超伝導層の間に緩衝層を用いることが望ましいかも知れない。適した緩衝層はジルコニア、好ましくはIBAD、YSZ、LaAlO3、SrTiO3、CeO2およびMgOを含むがこれらに限定しない。
【0042】
本発明のもう一つの態様において、被覆した導体製品は、それぞれの層が製品に望ましい特性を与えることを予期している。例えば、基礎となる基板は耐久性および/または柔軟性が得られるように選択される金属製の基板であってもよく;および基礎となる基板は酸化物超伝導体と適合する緩衝層で被覆してもよい。このような幾何学は被覆した超伝導性ワイヤまたはテープとして用いるために特に適している。図3を参考にして、被覆したワイヤは、金属製の中心100を含んでもよい。適したコア材料には、スチール、ニッケル、ニッケル合金、ならびに銅、鉄、およびモリブデンの合金が含まれるがこれらに限定しない。コアは選択的に、酸化物超伝導体の格子とマッチしてもよい。またはコアは変形した織り目構造であってもよい。コア100は、ある程度の結晶学的整列を含み、酸化物超伝導体と合理的に格子が一致している緩衝層102で被覆される。緩衝層102は、そこに沈着したエピタキシャルな酸化物超伝導層104を有する。酸化物超伝導層は望ましくは厚さが0.5ミクロン(μm)より大きいもしくはそれに等しい、好ましくは0.8ミクロン(μm)もしくはそれに等しい、および最も好ましくは1.0ミクロン(μm)もしくはそれに等しい範囲である。
【0043】
被覆した導体は、高品質の厚みのある被膜酸化物超伝導層を処理するために、本明細書に記述の方法を用いて製造してもよい。被覆した導体は図4に述べるような多様な処理技法を用いて調製してもよい。
【0044】
本発明の方法による酸化物超伝導被膜の調製をYBCOを参考にして記述する;しかし、これらの原理はいかなる酸化物超伝導体の製造にも適用してもよいと認識される。一つの態様において、本発明の酸化物超伝導体YBCO被膜は、構成成分の金属、Ba、YおよびCuの金属トリフルオロ酢酸(TFA)塩の溶液を用いて調製してもよい。これらの塩は、エステル、エーテルおよびアルコールのような有機溶媒に可溶性である。
【0045】
TFA溶液は基板上で沈着する。被覆は、スピン、スプレー、ペイントまたは前駆物質溶液への基質の液浸を含むがこれらに限定しない多くの既知の被覆法によって行ってもよい。酸化物の被膜は、リボン、ワイヤ、コイル幾何形状、およびパターン幾何形状のような平面および三次元基板を含む多様な幾何形状を有する基板上で製造してもよい。基板は、酸化物超伝導体に格子をマッチさせた多結晶基板または単結晶セラミック基板であってもよく、またはそれらは格子がマッチしていなくてもよい。本発明はエピタキシャルに整列した酸化物超伝導体被膜の形成における格子をマッチさせた基板の使用に特に適している。核化した酸化物超伝導体は、好ましくは基板の主軸と共にその主軸に整列し、それによって酸化物被膜の秩序だった結晶の成長および方向性(エピタクシー)が得られる。そのような秩序の結果、それぞれの軸が実質的に完全に整列している酸化物超伝導体が得られる。前駆物質は少なくとも0.5ミクロン(μm)の最終的な厚さを有する酸化物超伝導体を提供するために十分な単工程または多工程において適用してもよい。
【0046】
TFA前駆物質は低温(例えば、<400℃)で分解して、中間体の金属オキシフッ化化合物を形成する。バリウムを含まない、例えばYF3のような他の金属フッ化物も存在するが、フッ化物は典型的にフッ化バリウム(BaF2)として被膜内に存在する。中間体金属オキシフッ化物被膜と、物理的に沈着した被膜、例えばBaF2、Y2O3およびCuOの電子ビーム共蒸着被膜(チャンら(Chan)、上記)との類似性のために、PVDプロセスによって調製された金属オキシフッ化物被膜もまた、本発明の方法に従って処理してもよい。
【0047】
金属オキシフッ化物被膜は、おそらく水分酸化雰囲気中での反応によって、正方晶のYBCO相に変換される。最初の工程は金属オキシフッ化物前駆物質と水分との反応で、対応する金属酸化物(CuO、BaO、およびY2O3)ならびにHF(g)を形成すると思われる。HFは被膜表面への拡散によって被膜から除去して、被膜上に処理気体を流す際に被膜から輸送する。最終的な酸化物超伝導被膜は望ましくは実質的にフッ化物を含まない;しかし、被膜の中に不純物レベルが残っていることが望ましいであろう。酸化物超伝導体においてフッ化物が不純物レベル存在すれば、被膜の臨界転移温度および臨界電流密度が増加することが知られている。1993年6月の、マサチューセッツ工科大学の「化学的に由来するBa2YCu3O7-x薄膜のヘテロエピタキシャル成長(Heteroeptiaxial Growth of Chemically Derived Ba2YCu3O7-x Thin Films.)」と題するポールC. マッキンタイアー(Paul C. McIntyre)の博士論文を参照のこと。92 Kより大きい臨界転移温度が認められた。
【0048】
被膜からのフッ素の除去と同時に、および/または除去の後に正方晶のYBCO相が被膜に形成されて核化する。このように被膜において起こっている全体的な反応を等式(1)および(2)に示す、
BaF2+H2O(g) → BaO+2HF(g) (1)
3CuO+1/2 Y2O3+2BaO → YBa2Cu3O6.5 (2)
YBCOは好ましくは基板表面で形成し、それによって基板上に整列することができる。YBCOの形成は選択的に、図5に示すようにCu2+/Cu+還元に関する安定性ライン50より上であるPO2および温度で起こる(R. ベイヤース&B. T. アーン(R. Beyers and B. T. Ahn)の「超伝導セラミックス−低温物理に関する第XII回冬の会議議事録(Superconducting Ceramics - Proc. XII Winter Meeting on Low Temperature Physics)」「高温超伝導性の進歩(Progress in High Temperature Superconductivity)」第31巻、J. L. ハイラス、L.E. サンソレス、A. A. バラダレス(J. L. Heiras、L.E. Sansores、A. A. Valladares)編;World Scientific Publishing、シンガポール、1991;55頁から改変)。条件がこのラインの下であれば、すなわち還元条件であれば、Cu2+は還元されて、YBCO以外の材料が形成されるであろう。しかし、条件がこのラインより大きく上であれば、例えば過酸化であれば、YBCO(124)またはYBCO(123.5)のようなYBCO(123)以外の材料が形成されるであろう。さらに、安定性ライン50に近い処理であれば、YBCO(123)の核化および成長の際に存在する一過性の液体量を増加させ、それによってより高密度の被膜が得られる可能性がある(米国特許第5,231,074号を参照のこと)。
【0049】
YBCO相は核化して、金属オキシフッ化物被膜の厚さ全体に成長する。この核化および成長プロセスは、HFおよびBaOを生成する加水分解反応によって被膜からフッ化物の除去の後または除去と同時に起こる。得られた酸化物被膜が基板とのエピタクシーを維持するためには、YBCO相が被膜/基板界面でまず核化し、および被膜表面に向けて上方に変形し続けることが望ましいと思われる。
【0050】
本発明は、方向性が高いエピタキシャルな被膜に高い臨界電流密度を提供する条件下で、金属オキシフッ化物被膜を酸化物超伝導体被膜に変換することができることを認識する。本発明の方法に従って、温度およびPH2O条件は、厚さが0.5ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しい、好ましくは厚さが0.8ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しい、および最も好ましくは厚さが1.0ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しく、ならびに臨界電流密度が少なくとも105 A/cm2および好ましくは少なくとも106 A/cm2である酸化物超伝導被膜を提供するために、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換させる工程の間に、本明細書に記述のように選択および応用される。酸化物超伝導体はさらに実質的なc-軸エピタキシャル配列を有することを特徴とし、何らかのa-軸整列粒子が有意に存在しないことを特徴とする。
【0051】
本発明の改善した電気輸送特性は、プロセスの反応キネティクスおよび得られた酸化物被膜の微小構造を制御する反応条件下で、金属オキシフッ化物被膜を酸化物超伝導体に処理することによって得られる。特に、BaF2および/または他の金属フッ化物の消費速度を制御し、ならびにこのように特に被膜からHFを輸送するために十分な時間が得られる、および基板/被膜界面での酸化物超伝導層の核化の際にHF濃度も減少させるHF放出速度を制御する反応条件が選択される。
【0052】
被膜における金属フッ化物消費の制御は、高度に整列した酸化物超伝導被膜の産生においていくつかの有用な作用を有する可能性がある。YBCO被膜におけるBaF2の減少した消費速度は、例えば、基板の近位におけるHFの存在および/または被膜そのものにおける溶解したHFを減少させるであろう。HFは多くの基板と反応性であり、基板表面をエッチングする可能性がある。エッチングは基板の荒面仕上げを引き起こしうる。基板表面の不均一さはa-軸整列粒子の選択的成長に関連している。例えば、マッキンタイアーら(McIntyre)、J. Crystal Growth 149:64(1995)を参照のこと。さらに、被膜における溶解したHFまたはフッ化物イオンの存在は、基板での酸化物超伝導体の核化キネティクスに有害な影響を及ぼす可能性がある。したがって、変換プロセスにおけるHF濃度の減少は、基板のエッチングを減少させ、および/または基板表面での酸化物超伝導体の核化を改善して、それによって酸化物超伝導体の微小構造を改善するように作用する可能性がある。
【0053】
従来のプロセスはBaF2消費速度を制御する反応温度を用いていた。先行技術は、オキシフッ化物被膜からのフッ素の除去の際の処理気体における高い水分含有量の重要性を強調している。高いPH2Oは加水分解反応を促進すると予想される。このように、従来のプロセスでは、オキシフッ化物被膜からエピタキシャル酸化物超伝導体への変換の際の水分含有量は実際と同じくらい高く維持され、変換速度は温度によって制御される。しかし、温度は、方向性のある酸化物超伝導粒子の成長キネティクスのような変換プロセスの他の局面に影響を及ぼす。本発明は、温度の他に速度制御パラメータとして処理気体の水分含有量を用いることができることを認めた。温度は例えば、方向性がある密度の高い酸化物超伝導体被膜の成長に都合がよいように選択してもよい。温度およびPH2Oの協調的な選択によって、プロセスはより柔軟となり、より高品質の被膜を得る方法が提供される。
【0054】
本発明は、金属オキシフッ化物の酸化物超伝導体への変換の際に反応速度を管理するために調節してもよいさらなる処理変数として水分含有量を同定した。このように、BaF2消費速度を制御したいと考えている人には、今では温度を低下させる、または所定の温度において処理気体中の水蒸気量を減少させるかのいずれかの選択肢が存在する。温度は粒子の成長および被膜の密度において重要な役割を果たしていることが認識されているため、このさらなる選択肢は特に貴重である。温度が高くなればより密度の高い被膜が得られ、これは典型的によりよい電流輸送を示す。より高温での反応は、温度の上昇が望ましくないBaF2消費速度を生じる可能性があるため、厚みのある被膜に関して先行技術では(室温で水蒸気で飽和した処理気体を用いて)利用できなかった。例えば、室温で水蒸気によって飽和した処理気体下で厚みのある被膜を処理する場合、より高い処理温度、例えばYBCOに関しては835℃では、密度が高いが許容されないほど高レベルのa-軸方向性を有する粒子を含む被膜が産生されることが認められている。これらの被膜の臨界電流密度値は不良、すなわち25,000 A/cm2未満であった。
【0055】
本発明は、水分含有量を制御するさらなる処理変数を提供することによって、同時にBaF2の速度を制御しながら、望ましい密度の被膜を得るために反応温度の選択または他のそのような検討を可能にする。本発明はさらに、反応温度および水蒸気圧に及ぼす変換プロセスの相互依存性を同定して、優れた電気特性を有する厚みのある被膜を得るために望ましいそれぞれの相対レベルに関する手引きを提供する。
【0056】
PH2OおよびTの選択の他に、酸素圧(PO2)は、YBCOが熱動力学的に安定である状態において処理条件を維持するように選択される。所定の温度での処理環境において酸素レベルを変化させた場合の作用の詳細は、参照として本明細書に組み入れられる1993年6月の、マサチューセッツ工科大学の「化学的に由来するBa2YCu3O7-x薄膜のヘテロエピタキシャル成長(Heteroeptiaxial Growth of Chemically Derived Ba2YCu3O7-x Thin Films.)」と題するポールC. マッキンタイアー(Paul C. McIntyre)の博士論文および米国特許第5,231,074号にさらに詳細に記述されている。しかし、本発明の長所の一つは、温度および水蒸気圧を適切に選択すれば、先にも当てはまったように、反応をCu2+/Cu+安定性ラインに実質的に近いように行う必要がないという点である。例えば、図5において、厚さ1ミクロン(μm)のYBCO被膜は106 A/cm2の臨界電流密度を有するCu2+/Cu+安定性ラインの十分上で得られたことに留意されたい。一般に、反応温度の相対的な増加は酸素圧の相対的な増加と組み合わせて行われることが望ましい。好ましい態様において、酸化物超伝導体は700〜900℃の範囲、好ましくは700〜835℃で0.01〜10容積%O2において形成される。例えば、YBCOは約1.0%O2の酸素雰囲気中で835℃で形成してもよく;およびYBCOは約0.1%O2の酸素雰囲気中で785℃で形成してもよい。
【0057】
このように、一例として示すに過ぎないが、本発明の方法に従って、25℃で測定した場合に約1.2%の相対湿度の湿潤雰囲気中で785℃で加熱することによって、金属オキシフッ化物被膜を0.5 μmより大きい高品質のYBCO被膜に変換してもよい。または厚さが約0.5 μmより大きい高品質のYBCO被膜を、25℃で約0.6%の相対湿度を有する湿潤雰囲気中で835℃に加熱することによって得てもよい。酸素分圧は、酸化物超伝導体の熱動力学的形成に都合がよいように、上記のように選択される。
【0058】
さらに、超伝導性の厚みのある被膜を提供するために適した温度および水分含有量は、被膜の厚さと共に変化する可能性があることが認められた。このように所定の反応温度に関して、厚さ約1.0μmのオキシフッ化物被膜は望ましくは、厚さ約0.5 μmの比較可能な被膜より低い水分含有量を有する処理気体中で処理される。厚さが1.0 μmよりかなり厚い被膜は処理気体の水分含有量をより低いレベルに適切に調節して調製してもよいと予期される。
【0059】
酸化物超伝導体を形成するために用いられる処理条件は、変換工程に対して速度の制御を得るように選択すべきであるという認識は、金属オキシフッ化物被膜のBaOおよびHFへの迅速な変換を主張する先行技術の全ての教示と相反する。先行技術は、典型的に室温で(室温で典型的に100%RHに近い)水蒸気で飽和した処理気体を使用することを教えている。対照的に本発明は、さらなる処理変数として処理気体中の水分含有量を同定し、これは変換工程のキネティクス制御を認めるように減少させてもよい。
【0060】
注入した処理気体において適当な実際の水分量は反応温度の関数である。比較的高い処理温度では、注入した処理気体の適当な水分含有量は比較的少ない。水分含有量は被覆した基板を含む加熱チャンバー(炉)に気体が入る前に室温で測定する。室温での処理気体の水分含有量は典型的に100%RH未満、好ましくは約10%RH未満、およびより好ましくは約2%RH未満である。それより下では反応が自発的に進行しないようなシステムのPH2Oの下限が存在する可能性がある。正確な値は反応物質または産物の熱動力学的安定性を参考にして決定してもよい。または反応がこれ以上進行しなくなるまで所定の温度でPH2Oを低下させることによって経験的に決定してもよい。さらに、さもなければ処理時間が長すぎる可能性があるため、適当な水分レベルはそのような下限よりかなり上であってもよい。
【0061】
本発明のさらなる特徴は、BaF2消費の制御もHF形成速度を制御するという点である。フッ化水素は、対応する金属酸化物も同様に産生する反応において、金属フッ化物、特にフッ化バリウムの加水分解の際に生成する。本発明の一つの態様において、炉における基板上のHF濃度は500 一兆分率(ppt)以下であると推定される。低レベルでHFの分圧を維持する一つの技法は、その中で被覆された試料が加熱処理される炉の中に処理気体を急速に流すことである。しかし、この結果、炉および試料温度のような他の処理変数に対する制御が失われる可能性がある。低いPHFを維持する好ましいアプローチは、加水分解速度を制御することである。一つの技法は、全体的な反応速度を低下させ、それと共にHF産生を減少させるために反応温度を低下させることである。もう一つの技法は、加水分解プロセスにおける唯一の重要な水分源である処理気体の水分量を制御することである。このように、加水分解反応を制御してもよく、したがって処理気体の水分含有量を制限することによってHFの産生を調節してもよい。処理気体の水分含有量を水分が律速試薬となるように既定レベル以下に維持することによって、HF産生速度を調節してもよい。
【0062】
本発明の一つの態様において、HFの分圧が確実に100 pptと推定されるようにするために、十分に低い水分処理気体、十分に低い反応温度および十分に高い処理気体流速を組み合わせて用いる。低い水分含有量および低い反応温度の組合せは遅い反応速度を生じ、したがってHFの産生量もまた少ない。上記のように、炉の入り口での処理気体の水分含量は、反応温度785℃および835℃についてそれぞれ室温で1.2%および0.6%である。処理気体流速は空間速度約150 cm/分を与える5cm IDクオーツ炉の中を約3L/分であってもよい;しかし、流速は炉の大きさおよび形状と共に変化すると予想される。
【0063】
最終的な酸化物超伝導体被膜を得るために用いられる正確な条件は、金属有機前駆物質の特性および最終的な酸化物超伝導体に依存する。特に、特定の温度、雰囲気、加熱速度等は材料に依存するが、正確な条件は、本明細書に記述の本発明を実践することによって容易に決定されるであろう。
【0064】
本発明の方法は、得られた酸化物超伝導体被膜の密度を制御するために用いてもよい。酸化物粒子の成長キネティクスは、温度が増加するにつれて改善する。このように、高温で加熱することによって高密度被膜を得てもよい。高温での処理はまた、被膜の平均粒子径を実質的に増加させる可能性がある。処理温度を増加させても水とBaF2の反応速度が増加するため、BaF2消費の望ましい低い速度を維持するためには、処理気体中の水分レベルをそれに応じて減少させる必要がある。これらの処理修飾の影響は、図6のYBCO酸化物超伝導体被膜の顕微鏡写真を比較すると認められる。図6Aの被膜は、785℃で0.1%O2を含む1.2% RH(RT)湿潤窒素/酸素雰囲気において処理した(実施例2)。図6Bの被膜は、835℃で1.0%O2を含む0.6%RH(RT)湿潤窒素/酸素雰囲気において処理した(実施例3)。いずれの被膜も厚さ1ミクロン(μm)の場合に約106 A/cm2の臨界電流密度を有する;しかし、微小構造は有意に異なる。図6Aの被膜は図6Bの被膜よりかなり多孔性である。より高い反応温度では粒子成長が増加するために、より密度の濃い被膜が得られる。
【0065】
本発明の方法に従って、温度は水分飽和処理気体を使用できるほどで、なお本発明の優れた電気輸送特性を有する酸化物超伝導性の厚みのある被膜が得られるほど十分に低下させてもよい。本発明の方法は、低下した温度での処理を含んでもよい。より低い反応温度は反応速度を減少させ、このようにHFの産生も減少させるため、反応は処理気体中での水分減少の有無によらず行ってもよい。予想できるように、特に反応温度に関する直前の記述に関して、より低い温度での反応の結果より多孔性の被膜が得られる。図7は、室温で水分を飽和した0.01%容積O2処理気体において700℃で処理した厚さ1μmのYBCO酸化物超伝導被膜の顕微鏡写真である(実施例1)。酸化物超伝導粒子の検出可能なa-軸エピタクシーを認めなかった;しかし上記の知見と一致して、被膜はより高温で処理した被膜より明らかにより多孔性である。重要なことは、被膜は同等の厚さを有する酸化物超伝導体被膜の先行技術の性能を超える、4.0×105 A/cm2の臨界電流密度を示した。
【0066】
図8は、様々な方法で処理したBa2YCu3O7-x試料の臨界電流密度対被膜の厚さのプロットである。黒のデータポイントはRTで水分で飽和した処理気体下で調製した様々な格子をマッチさせた基板上に沈着した試料を表す。これらの従来の方法で処理した試料の電気的性能は、厚さが0.3 μmより大きい被膜を有する試料では劇的に低下する(図8参照)。白のデータポイントは本発明の方法によって処理したLaAlO3基板上に沈着した試料を表す。これらの被膜は1ミクロン(μm)もの厚さを有する被膜においても、先行技術の厚みのある被膜の試料より大きい臨界電流密度を生じる(図8参照)。
【0067】
金属オキシフッ化物被膜のいかなる沈着手段も本発明に従って用いてもよいと期待される。MOD、MOCVD、反応性蒸着、磁電管スパッタリング、e-ビーム蒸着およびレーザー・アブレーションのような物理的スパッタリング法を含むがこれらに限定しない化学および物理的沈着法は、本発明の範囲内であると予想される。このように金属オキシフッ化物被膜は上記のようにMODによって沈着してもよい、またはMOCVDによって沈着し、および本発明の低湿度熱処理によって処理してもよい。典型的に、MOCVDプロセスでは構成金属種、例えば銅およびイットリウムならびにフッ化金属、例えばフッ化バリウムもしくはフッ化イットリウムの高い蒸気圧源を化学沈着チャンバーに導入し、そこでそれらは基板上に沈着する。そのように形成された被膜を本発明の方法に従って熱処理して、酸化物超伝導体を形成してもよい。
【0068】
物理的沈着法によって沈着した金属オキシフッ化物被膜のエクスサイチュー焼なましを含むハイブリッド法もまた、本発明の実践において用いてもよいと予想される。これによって、酸化物超伝導体への変換工程から被膜沈着工程が分離され、個々の工程のよりよい制御が得られ、ならびにより高い性能およびより高い生産性の可能性が得られる。典型的に、CuO、Y2O3、およびBaF2の独立した源をe-ビーム蒸着の標的として用いて、正確な化学量論の非晶質被膜を沈着させるために沈着速度を調節する。被膜は本発明の方法に従って加熱処理してもよく、その結果、水との反応によってフッ素が除去され、その後エピタキシャルな基板上での被膜の結晶化が起こる。より低い温度での純粋な酸素におけるさらなる焼なましによって、超伝導相Ba2YCu3O7-x(YBCO)が産生される。
【0069】
本発明のもう一つの態様において、基板/被膜界面で酸化物超伝導体の薄い層を核化および増殖させるために十分な時間、金属オキシフッ化物被膜を低水分環境で処理する。しかし、この層の正確な厚さはわかっておらず、1ミクロン(μm)の10分の1(0.1)〜100分の1(0.01)であろうと推定されている。その後、処理気体の水蒸気量を増加させ、好ましくは飽和点まで増加させる。金属オキシフッ化物の酸化物超伝導体への変換が完了するまでこのプロセスを継続する。特定の様式の操作に拘束されることなく、初回酸化物超伝導層の存在は被膜そのものおよび/または基板上に残っているHFによる基板のエッチングを防止する可能性がある。またはオキシフッ化物被膜内のHF含有量が少なければc-軸方向性に都合がよい可能性がある。方向性を有する層が基板上に形成されれば、その後の酸化物超伝導体の方向性はHF濃度に依存しない可能性がある。835℃、1.0%O2、およびRTでの0.6%RHでの低湿度熱処理に関しては、15分〜1時間の処置によって十分な層が形成されることが認められている(実施例4および5)。熱処理は、他の反応条件に応じて、最も顕著には温度に応じて長くても短くてもよいと予想される;しかし、好ましい態様において、加熱時間と初回低湿度工程および第2回高湿度工程を組合せれば、低湿度熱処理のみを用いる場合より所要時間は少ない。
【0070】
作用様式によらず、および実施例4および5に示すように、最初の層を形成すると、処理気体の水分含有量は酸化物超伝導体被膜の形成に害を及ぼすことなく増加させてもよい。酸化物超伝導体初期層を形成するために限って低湿度プロセスを使用すれば、本発明の低湿度プロセスの律速特性による処理時間の減少に望ましい可能性がある。
【0071】
本出願人による試験から、フッ化水素の驚くべき量が従来の処理条件下での炉のガラスワイヤから脱着することが確立された。このフッ化水素はおそらくこれより前の被膜処理実験の際に炉のグラスワイヤによって吸着されていたと思われる。電気的性能の改善がHF形成、BaF2消費もしくはBaO形成の速度が減少した結果であるか否か、またはシステムのPHFが減少したためであるかは容易に明らかではない。加水分解速度および酸化物超伝導体の形成速度は、被膜内の大量移動が制限されること、BaF2結晶の大きさ等の多くの要因に依存するであろう。
【0072】
操作の特定の理論に制限されることなく、炉のグラスワイヤによるHFの放出によって、被膜の品質に対して有害である基板のエッチングを悪化させる。酸化物超伝導体被膜の成長に適した多くの基板はHFエッチングを受けやすい。炉内のHF濃度が上昇するにつれて、基板のエッチングは増加する。基板のHFエッチングは表面の欠陥または段差を引き起こし、これは基板上により多くのa-軸成長部位を作る(マッキンタイアーら(McIntyre)、上記参照)。この仮説は、このプロセスについて認められた現象の多くと一致する。
【0073】
この仮説は、本明細書に記述の発明の前に、より厚い被膜の製造が問題であった頃に高超伝導特性を有する被膜を産生することができる理由を説明する可能性がある。被膜の製造において、金属オキシフッ化物が基板表面に沈着する量ははるかに少なく、したがって加水分解反応ははるかに少ないHFを産生する。さらに、より厚い金属オキシフッ化物層を通じてのHFの拡散距離は、薄い層を通じての拡散の場合より大きい。炉の環境および/またはオキシフッ化物被膜に存在するHFがより少ないことは、表面のエッチングがより少ないこと、したがってa-軸酸化物粒子の成長がより少ないことを意味する。制御されない反応条件下で被膜がより厚ければ、大量のHFを産生して、基板表面を有意にエッチングすることができる所定の量をより長時間保持するであろう。表面の欠陥は望ましくないa-軸のエピタキシャルな酸化物粒子の成長を促進することがこれまでに認められている。
【0074】
仮説はさらに、従来のプロセスによる被膜の製造の際に認められた基板依存性を説明する。SrTiO3基板上で従来の方法で生成された被膜の性能はLaAlO3基板上で従来の方法で生成された被膜より厚さによる有害な影響を受けることに注意すること(図8)。いくつかの基質、例えばSrTiO3は他の基板、例えばLaAlO3よりHFエッチングまたは反応をより受けやすいと予想される。このように、有意な量のHFが生成される従来の処理の際に、HFエッチングに対して特に感受性が高いそれらの基板は、より感受性が低い基板より有意に変性するであろう。対照的に、HF分圧は基板被膜界面での超伝導酸化物の核化の際およびその前では低いレベルで維持されるため、本発明の処理では基板のHFエッチングはかなり弱められると予想される。
【0075】
本発明は説明を目的として示され、本発明を制限することを意図していない、その全ての範囲が上記の請求の範囲に述べられている以下の実施例によって記述される。
【0076】
各実施例を詳細に記述する前に、使用した試料の調製に関する一般的な記述、処理機器およびプロトコールならびに熱処理について説明する。この概要は全ての実施例に当てはまる。
【0077】
試料の調製 試料は、研磨した単結晶LaAlO3基板を混合した金属トリフルオロ酢酸(Ba、Y、およびCuをそれぞれ相対金属モル濃度2、1、および3で含む)およびメタノールの液体溶液で被覆することによって調製した。
【0078】
スピン・コーティング用の液体溶液は、金属(Ba、Y、およびCu)酢酸塩およびトリフルオロ酢酸を水中で反応させ、産物を半固体状態(ガラス状)になるまで乾燥させ、次に産物をメタノールに再溶解することによって調製した。金属酢酸塩およびトリフルオロ酢酸の化学量論的量を用いると、おそらくその結果、Ba:Y:Cuの金属比が2:1:3である、混合金属トリフルオロ酢酸のメタノールの最終溶液を得た。
【0079】
基板はより大きいLaAlO3単結晶基板をダイヤモンドワイヤ鋸で切断することによって得た。基板は厚さが0.020"(=0.508mm)で、典型的に約1/4"×1/4"(=6.35mm×6.35mm)であったが、いかなる大きさの基板、たとえ長いワイヤまたはテープであっても本発明の方法から利益が得られることは明白である。
【0080】
スピンコーティングの前に、基板を化学的および機械的に洗浄した。基板をクロロホルム、アセトン、およびメタノールでそれぞれで超音波処理して洗浄し、メタノールを含ませた糸くずの少ないティシューで拭いた。拭いた後、基板を倍率50倍の顕微鏡で光学的に調べた。残っている埃または汚れを除去するために必要であれば再度拭いた。繰り返し拭いても汚れが取れない場合は、完全な清拭段階を繰り返した。
【0081】
被覆は、感光性耐食膜スピン被覆器を用いて、フード内の温度が室温に近く、フード内の湿度が実質的に50%RH以下となるように維持される条件下で、微粒子封じ込めフードの中でスピンコーティングによって得た。まだ窯で焼いていない被膜は、湿った室温の空気(例えば50%RHより大きい)に暴露されると、基板材料から急速にデウェットすることが認められた。
【0082】
次に、試料を炉に入れて、処理域に置いた。試料のローディング技法によって試料は濾過していない室内の空気にほんの数秒間暴露された。
【0083】
処理機器およびプロトコール
スピンした被膜を超伝導被膜に変換するために用いる全ての処理工程に関して炉の構造は水平スプリット型であった。スピンした被膜をオキシフッ化物被膜に変換する処理工程に用いられる構造は、熱処理の比較的低温部分に合わせて作製した正確な温度制御を組み入れた。
【0084】
主な炉の管、直線管および炉の装備品の温度制御部分は全て、石英ガラス製であった。炉の装備品は、上に可動の珪酸プレートを有するD型の断面を有する管(「D管」)を含んだ。
【0085】
スピンした被膜をオキシフッ化物被膜に変換する処理工程の炉ガス流速制御は、手動で制御された流速計および調節されたガス圧を用いて提供された。乾燥および湿潤超高純度(UHP)分子酸素ガスを用いた。最初の速い加熱ランプ速度期間の際に、注入した炉の気体を乾燥から湿潤に切り替えた。湿潤気体への切り替えは、初回の速い加熱期間の約13分後に行った。容積流速は乾燥分子酸素に関して10±1 scfh(0.284±0.0284m3/分)、そして湿潤分子酸素に関しては容積流速は8±1scfh(0.2272±0.0284m3/分)であった。主炉管の直径は5cmであった。ガス注入口から処理域までの距離は約1.1 mであった。炉の湿潤ガスは、処理環境に注入する前に飽和するまで(室温で約95〜100%RHの範囲)室温で精製水に炉ガスを通過させることによって得た。
【0086】
炉の装備品の温度は、試料の位置の間に留置したプローブ先端を有するステンレス・スチールで外装された熱電対プローブ(直径0.032"(=0.8128mm))によってモニターした。この温度測定プローブは接地していないK型熱電対プローブ(オメガ・コーポレーションから購入)であった。プローブは炉の装備品と直接接触して、その上に試料を載せる装備の可動プレートの側に位置する。
【0087】
オキシフッ化物被膜を酸化物被膜に変換する処理の一部のための炉の構造は、以下の例外を除いて上記のシステムと類似であった。温度制御性能はよりよい高温制御ができるように調節され、試料の上流の管の長さは約0.6 mであった。同様に、試料の温度を測定するために用いられる熱電対は、直径が0.062"(=1.5748mm)で、インコネルで外装されていた。これは、先端が、その上に試料を載せる装備の可動性プレートの側で、炉の装備品と直接接触する閉鎖末端高純度Al2O3保護管において試料位置に近い先端であるが下流であるように位置した。高温の熱処理に対する炉の低いPO2気体は、処理環境に注入する前に、分析した酸素/窒素ガス混合物と超高純度窒素を混合するために電子制御マス流速制御盤を用いて調製した。炉内のガスの総流速は、熱処理の低いPO2部分のために3.0 L/分に維持した。熱処理の100%O2部分のために4scfh(=0.114m3/分)の流速を用いた。この流速は手動で制御された流速計および調節されたガス圧を用いて提供された。
【0088】
熱処理 試料は2段階で熱処理した。金属オキシフッ化物被膜は、図9に示すように、熱処理プロフィールに従って加熱することによって産生した。乾燥から湿潤酸素への切り替えは初回加熱において約13分で行ったが、炉の加熱成分の加熱に関しては炉の装備品の加熱の遅滞のために、試料温度はこの点で約50℃に過ぎなかった。湿潤ガスを用いてトリフルオロ酢酸銅の揮発を抑制した;しかし、窯に入れていない被膜は、低温で湿潤炉ガスに暴露すると、基板から急速にデウェットした。炉の装備品が約50℃である場合に、乾燥から湿潤処理環境への切り替えは、使用した装置およびプロセスであればこれらの問題に対処するために十分であることが判明した。湿潤酸素の流速は、温度がプロセスのこの部分に関する最高値(約400℃)に達するまで維持し、この時点で炉の電源および気体流速を遮断した。次に停滞した湿った酸素中の試料によって炉を冷却した。
【0089】
次に、金属トリフルオロ酢酸の分解から得たオキシフッ化物被膜は、制御されたPO2およびPH2Oの環境下で700〜835℃の範囲の温度でアニーリングすることによってBa2YCu3O7-xに変換した。このBa2YCu3O7-xへのその後の変換プロセスの詳細は以下の実施例に述べる。
【0090】
実施例1 本実験は、比較的低いアニーリング温度を用いてTFA前駆物質からのYBCO酸化物超伝導体の厚い被膜の調製について記述する。
【0091】
この熱処理の間(図10参照)、乾燥した0.01%のO2ガス混合物を初回温度が上昇する最初の3分間、処理環境に注入した。炉の加熱成分の加熱に関して炉の装備品の加熱における遅滞のために、試料の温度はこの時点でなお室温であった。次に流入気体を高湿度(RTで約95〜100%RHの範囲)の0.01%O2ガス混合物に切り替えた。湿った低いPO2雰囲気を、加熱の残りの時間を通じて試料の上に通過させ、高温を維持する最後の10分まで高温を維持した。維持温度は700℃(10℃に四捨五入して、約10℃の初期過度応答)であった。高温でのアニーリングにおいて残りの10分間に、乾燥した低いPO2気体混合物を再度使用した。アニーリング温度でこの乾燥気体を送り込んだ後、炉の装備品の温度が約525℃になるまで試料を冷却する際に、乾燥した気体混合物の流れを維持し、この時点で流れを乾燥した酸素に切り替えて、炉を室温まで冷却した。
この技法によって得られた試料は厚さが1.0ミクロン(μm)の酸化物超伝導体層を有した。臨界電流密度は1μV/cm基準を用いて測定した。被膜の臨界電流密度(Jc)は0.4×106 A/cm2であった。
【0092】
実施例2 本実験は、低湿度でアニーリングすることによってTFA前駆物質からYBCO酸化物超伝導体の厚い被膜の調製を記述する。低湿度気体は処理環境に注入する直前に高精度手動流速計を用いて乾燥気体と高湿度気体を正確に混合することによって調製した。
試料の調製、炉の装置および加熱処理は、以下の改変を除いて実施例1に記述したとおりであった。低湿度0.1%O2ガス混合物は、加熱処理の最初からアニーリング温度での最後の10分まで注入し、この時点で乾燥した0.1%O2ガス混合物を注入した。用いた湿潤ガス混合物の湿度レベルはRTで1.2%RHであった。アニーリング温度は785℃であった(5℃に概算、実質的な過剰応答はない)。本実施例のこの加熱処理を図11に示す。被膜の臨界電流密度(Jc)は1.1×106 A/cm2であった。
【0093】
実施例3 本実験も同様に、低湿度でアニーリングすることによってTFA前駆物質からYBCO酸化物超伝導体の厚い被膜の調製を記述する。
試料の調製、炉の装置および加熱処理は、以下の改変を除いて実施例2に記述したとおりであった。アニーリング温度は835℃で(5℃に概算、実質的な過剰応答はない)、湿度レベルはRTで0.6%RH、およびPO2レベルは1.0%であった。本実施例のこの加熱処理を図12に示す。被膜の臨界電流密度(Jc)は1.1×106 A/cm2であった。
【0094】
実施例4 本実験は、処理時間を短縮するために基板上に酸化物超伝導体の不動態化した層の形成を用いることによる、YBCO酸化物超伝導体の厚い被膜の調製を記述する。
試料の調製、炉の装置および熱処理は、以下の改変を除いて実施例3に記述の通りであった。高温のアニーリングは低湿度レベル(RTで0.6%RH)で1時間、高湿度レベル(RTで約95〜100%RHの範囲)で1時間、および10分の乾燥ガスの注入を含んだ。本実施例の熱処理を図13に示す。被膜の臨界電流密度(Jc)は0.9×106 A/cm2であった。
【0095】
実施例5 本実験は、処理時間を短縮するために基板上に酸化物超伝導体の不動態化した層の形成を用いることによって、YBCO酸化物超伝導体の厚い被膜の調製を記述する。
試料の調製、炉の装置および熱処理は、以下の改変を除いて実施例3に記述の通りであった。高温のアニーリングは低湿度レベル(RTで0.6%RH)で15分、高湿度レベル(RTで約95〜100%RHの範囲)で45分、および10分の乾燥ガスの注入を含んだ。本実施例の熱処理を図14に示す。被膜の臨界電流密度(Jc)は0.5×106 A/cm2であった。
【0096】
実施例6 本実施例は、本発明に従って熱処理による従来のPVD法を用いて調製した金属オキシフッ化物被膜の処置を記述する。
被膜は3つの異なる起源からのY、BaF2、およびCuの共蒸着によって調製してもよい。フッ化バリウムおよびイットリウムは電子ビームガンを用いて蒸着させてもよく、銅は抵抗性加熱源を用いて蒸着させてもよい。3つの材料源は互いに3角形の配置にあってもよく、材料源からの速度をモニターしてもよい。バックグラウンド圧力は約2×10-6トール(=2.67×10-4Pa)で、沈着の際に酸素を導入してオキシフッ化物被膜を沈着させると約5×10-5トール(=6.67×10-3Pa)のチャンバー圧が得られる。沈着は望ましい厚みの被膜が得られるまで継続してもよい。
このようにして得られた金属オキシフッ化物被膜は実施例1〜6に記述のように処理して、酸化物超伝導被膜を得てもよい。
【図面の簡単な説明】
【0097】
本発明は、本発明の説明を目的として提供するのであって、制限するためではない以下のような図面を参考にして記述する:
【図1】図1は、先行技術の酸化物超伝導性被膜の表面の顕微鏡写真である;
【図2】図2は、本発明の方法によって調製した酸化物超伝導被膜表面の顕微鏡写真である;
【図3】図3は、本発明の被覆した導体の図である;
【図4】図4は、被覆した導体を調製するために用いてもよい様々な製造プロセスのフロー・ダイヤグラムである;
【図5】図5は、YBCO酸化物超伝導体の形成に関するCu2+/Cu+安定性ラインを示すPO2対1000/T(K)のプロットである;
【図6】図6は、低密度(a)または高密度(b)被膜を得るために処理された酸化物超伝導体被膜の顕微鏡写真である;
【図7】図7は、温度を低下させて処理した酸化物超伝導体被膜の顕微鏡写真である;
【図8】図8は、様々な酸化物超伝導体被膜のJc対被膜の厚さのプロットである;
【図9】図9は、金属オキシフッ化物被膜のMOD調製に対する典型的な低温加熱処理の温度・時間プロフィールである;
【図10】図10は、酸化物超伝導体被膜のMOD調製に対する高温熱処理の重要なモニター値に基づく、温度・時間プロフィールである。
【図11】図11は、酸化物超伝導体被膜のMOD調製に対する高温熱処理の重要なモニター値に基づく、温度・時間プロフィールである。
【図12】図12は、酸化物超伝導体被膜のMOD調製に対する高温熱処理の重要なモニター値に基づく、温度・時間プロフィールである。
【図13】図13は、酸化物超伝導体被膜のMOD調製に対する高温熱処理の重要なモニター値に基づく、温度・時間プロフィールである。
【図14】図14は、酸化物超伝導体被膜のMOD調製に対する高温熱処理の重要なモニター値に基づく、温度・時間プロフィールである。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は方向性が高い酸化物超伝導性被膜に関する。本発明はさらに、金属酸化物および金属フッ化物含有被膜の酸化物超伝導性被膜への処理に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
超伝導性セラミック酸化物の発見により、これらの酸化物を高性能被膜および被覆に仕上げようとするおびただしい努力が始まった。高温超伝導性(HTSC)被膜の製造法は大きく2つの領域、すなわち物理的方法および化学的方法に分けられる。
【0003】
物理的方法には、反応性蒸着、磁電管スパッタリング、電子ビーム沈着、およびレーザー・アブレーションが含まれる。物理的沈着法は高品質の被膜を形成するが、これらの沈着技法は典型的に形成速度が非常に遅く、高真空環境を必要とするため、高価な装置を必要とする。さらに、技法は薄膜の製造に最も適している。これらの理由から、物理的沈着法は電気的または磁気的応用に必要とされる何メートルもの長さまで規模を拡大することは極めて難しい。
【0004】
化学的方法は被膜形成の際の前駆化合物の熱活性化化学反応に主に基づいている。化学的被膜製造法は、基板上に沈着され、後に熱および化学的手段によって望ましい組成および位相を有する被膜に変形される、前駆物質を含む。
【0005】
被膜は、前駆物質の被膜が高蒸気圧を有する金属有機前駆物質から沈着する金属有機化学気相成長(MOCVD)を用いて調製してもよい。金属有機溶液成長(MOD)プロセスは、凝縮相の前駆物質からの前駆物質被膜の沈着を含む。次に前駆物質被膜を加熱して、異なる熱処理において最終的にセラミックに変換させる。
【0006】
MODプロセスはセラミック被膜の沈着として工業界において広く用いられている。このプロセスは、大きいまたは連続した基板上での迅速かつ安価な被膜の沈着に理想的に適している。MODプロセスの他の長所には、金属組成物および均一性の制御が容易であること、処理時間が短いこと、機器投資費用が安いこと、および前駆物質の費用が安価であることが含まれる。
【0007】
MODプロセスでは典型的に、カルボン酸のカルボン酸金属塩、アルコキシドまたは部分的に加水分解したアルコキシドを有機溶媒に溶解し、得られた溶液をディッピングまたはスピン・コーティングによって基板上に沈着させる。これらの被覆プロセスによって生成した前駆物質被膜を、最も一般的に一連の異なる加熱段階を含む熱処理によって金属化合物含有コーティングに変化させる。化学的方法は、高速生成が可能で、用途の広い安価な被膜製造法となる一方で、それらは二次反応に非常に感受性が高く、これは最終的な超伝導特性に対して有害となる可能性がある。例えば、YBa2Cu3Oyのような材料の沈着において、そのようなプロセスは中間体として炭酸バリウム(BaCO3)を非常に形成しやすい。BaCO3が安定であることから、炭酸バリウムを分解して酸化物超伝導体を得るためには高い処理温度(>900℃)および長時間の処理時間を必要とする。極限での反応条件の結果、基板に被膜反応が起こり、酸化物超伝導体の構造不良、および酸化物超伝導体の位相の不完全な形成が起こる。
【0008】
チャンら(Chan、App. Phys. Lett. 53(15):1443(1988年10月)(非特許文献1)は、エクスサイチュー(ex situ)プロセスとしても知られるハイブリッドプロセスを開示し、これはその後従来の化学熱プロセスによって物理的沈着チャンバーの外で処理される前駆物質被膜の物理的沈着を含む。このPVDプロセス(BaF2、エクスサイチュープロセス)は沈着および変換工程を別にしている。このプロセスは正確に化学量論的に均一にCuO、Y2O3、およびBaF2が基板上で共沈着することを含む。次に水蒸気の存在下での焼なましによって、被膜を従来の加熱条件下で酸化物超伝導物質に変換する。しかし、上記の物理的沈着法にはなお限界がある。チャン(Chan)らは、焼なまし工程の際にPO2を増加させおよびPHFを減少させることによって改善した電気的性能が得られることを認めた。
【0009】
チマら(Cima)は米国特許第5,231,074号(特許文献1)において、単結晶SrTiO3およびLaAlO3上でトリフルオロ酢酸金属塩を用いたMODによって、改善した電気輸送特性を有するBaYCu3O7-x(YBCO)酸化物超伝導性被膜のMOD調製物について報告している。厚さ約0.1 μmの被膜の臨界転移温度は約90Kであり、77 Kでは106 A/cm2より大きいゼロ磁場臨界電流密度を有した。
【0010】
さらに、米国特許第5,231,074号(特許文献1)に記述されたプロセスを用いたエピタキシャルBa2YCu3O7-x被膜の超伝導性能は、被膜の厚さに依存することが判明した。電気的性能は被膜の厚さが0.1 μmから1.0μmに増加するにつれて劇的に低下する。臨界電流密度が106 A/cm2より大きいより薄い被膜はルーチンとして調製されているが、厚さが1.0 μmに近い被膜の調製に従来の化学処理技法を適用しても、このレベルの性能に近い結果は決して得られなかった。例えば、トリフルオロ酢酸金属塩を用いたMODプロセスは、Tc>92 KおよびJc>5×106 A/cm2(77K、自己磁場)の薄い(70〜80 nm)YBa2Cu3Oy(YBCO)被膜(ここでyは少なくとも77 Kの温度で超伝導性を与えるために十分な値である)を作製するために用いられている;しかし、類似の特性を有するかなり厚い被膜を調製することは不可能であった。実際に、本特許出願において記述した処理技法が開発される前に、厚さが0.5 μmより大きい高いJc被膜を生成するような、溶液に基づく沈着プロセスは示されていなかった。
【0011】
より厚い酸化物超伝導性被覆は、送電線および電力分配腺、変圧器、障害電極電流制限器、磁石、モーター、ならびに発電器のような高電流輸送能力を必要とするいずれの応用においても必要である。高い工学(または有効)臨界電流(Jc)、すなわち総電流輸送能を基板を含む導体の総断面積で除した値を得るためには、より厚い酸化物超伝導性被膜が望ましい。
【0012】
厚さが0.5 μmより大きい酸化物超伝導性被覆は高臨界電流密度を有することが望ましい。これらの厚い酸化物超伝導性被膜および優れた電気的性能を有する被覆を調製するために用いてもよい製造技法が必要である。
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,231,074号
【非特許文献1】Chan、App. Phys. Lett. 53(15):1443(1988年10月)
【発明の開示】
【0014】
発明の概要
優れた電気的特性を有する酸化物超伝導性被膜を提供することが本発明の目的である。
高いエピタキシャル整列、好ましくはc-軸エピタキシャル整列を有する酸化物超伝導体の厚い被膜を提供することが本発明のさらなる目的である。
【0015】
金属オキシフッ化物前駆物質被膜を高品質の超伝導性被膜に処理する方法を提供することが本発明のもう一つの目的である。
【0016】
高品質の比較的厚い被膜の酸化物超伝導体の製造法を提供することが本発明のさらなる目的である。
【0017】
本発明のこれらおよび他の目的は、変換速度が望ましい制御された速度で起こるように、酸化物超伝導体への金属オキシフッ化物の変換に関する反応のキネティクスを制御することによって得られる。特に、BaF2および/または金属フッ化物の消費速度を制御し、ならびにこのように特に被膜からのHFの輸送に十分な時間が得られる、および基板/被膜界面での酸化物超伝導体層の核化作用の際にHF濃度も減少させるHF放出速度を制御するような反応条件が選択される。特に、反応温度および反応に用いられる処理気体の水分含有量は、金属オキシフッ化物の酸化物超伝導体への変換速度を調節するように制御される。
【0018】
本発明は、金属酸化物の調製において加水分解時にフッ化水素を発生する化学処理システムに適用可能である。前駆物質被膜にフッ化物が存在すれば、その臨界転移温度を増加させ、したがっておそらくその臨界電流密度を増加させることが示されているフッ素を産物の酸化超伝導体に加えるというさらなる有利な作用が得られる可能性がある。本発明は、沈着および処理の際にフッ化バリウムまたは他の金属フッ化物を消費する他の被膜製造法に応用してもよい。
【0019】
本明細書において用いられる「金属オキシフッ化物」という用語は、金属、酸化物およびフッ素を含む組成物を意味する。組成物は酸素およびフッ素の双方に結合した陽イオン金属種、例えばxおよびyが金属の原子価を満足するように選択されるMOxFyを含んでもよく、または金属酸化物および金属フッ化物の混合物、例えばMOxおよびMFyを含んでもよい。
【0020】
本明細書において用いられる「水分含有量」とは、本発明の熱処理において炉に入れる時点で、用いられる処理気体に含まれる水蒸気の容積百分率を指し、またはPH2Oもしくは相対湿度(RH)と呼んでもよい。処理気体が水蒸気を含有する許容量は温度依存的であるため、相対湿度は特定の温度に対して呼んでもよい。水分含有量は本明細書において相対湿度(RH)として定義され、これは室温(RT)で炉に入れる時点での最大許容量(飽和)での処理気体における水分量に対する処理気体中の水分量(%)を表す。
【0021】
本明細書において用いられる「被覆した導体」とは、超伝導性材料がワイヤ、もしくはテープまたは他の製品の大部分を形成する基板の外面に被覆される超伝導性のワイヤ、またはテープを意味する。
【0022】
本発明の一つの局面において、酸化物超伝導体被膜を調製する方法は、金属オキシフッ化物被膜の厚さが約0.5 μmより大きいもしくはそれに等しく、実質的に化学量論的な比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む;ならびに77 K、ゼロ磁場で約105 A/cm2より大きいまたはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する酸化物超伝導性被膜が得られるように、温度、PH2O、およびその組合せからなる群より選択される反応パラメータを調整することによって選択される変換速度で、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換させる、基板上に金属オキシフッ化物被膜を提供する段階を含む。
【0023】
本発明のもう一つの局面において、金属オキシフッ化物被膜が実質的に化学量論的な比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、金属オキシフッ化物被膜を提供すること;および25℃で測定した場合に約100%未満の水分含有量を有する処理気体において、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換することによって、酸化物超伝導体被膜を基板上に調製する。
【0024】
本発明のさらにもう一つの局面において、金属オキシフッ化物被膜が実質的に化学量論的な比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、金属オキシフッ化物被膜を提供すること;および77 K、ゼロ磁場で約105 A/cm2より大きいまたはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する酸化物超伝導体被膜が得られるレベルのHF濃度を含む基質上の雰囲気を提供するように選択される反応条件下で、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換させることによって、酸化物超伝導体被膜を調製する。
【0025】
本発明のさらにもう一つの局面において、酸化物超伝導体被膜は、(a)金属オキシフッ化物被膜が実質的に化学量論的な比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、基板上に金属オキシフッ化物の被膜を提供する段階;(b)25℃で測定した場合に100%未満のRHの水分含有量を有する処理気体において、基板/被膜界面で酸化物超伝導体の層を形成するために十分な時間、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換させる段階;および(c)工程(b)の場合より大きい水分含有量を有する処理気体において酸化物超伝導体への金属オキシフッ化物を変換を完了させる段階によって調製される。好ましい態様において、基板/被膜界面で酸化物超伝導体の層を形成するために十分な時間は約15分から約2時間の範囲である。
【0026】
好ましい態様において、水分含有量は25℃で測定した場合に約95%未満の相対湿度を含み、好ましくは約50%未満、およびより好ましくは約1〜3%を含む。基板は、セラミックがSrTiO3、LaAlO3、ジルコニア、好ましくは安定化したジルコニア、MgOおよびCeO2からなる群より選択される、金属またはセラミックを含んでもよい。基板は酸化物超伝導体と実質的に格子がマッチしていてもよい。他の好ましい態様において、上記の方法はさらに酸化物超伝導体に酸素を添加するために、酸化物超伝導被膜を焼なましすることを含む。
【0027】
他の好ましい態様において、金属オキシフッ化物を変換させる条件は、25℃および700〜900℃の範囲の温度で測定した場合に95〜100%RH未満の水分含有量を有する処理気体において金属オキシフッ化物を加熱する段階、または酸化物超伝導体の位相の安定性をさらに維持しながら所定の温度で酸素含有量が可能な限り低くなるように選択される環境で加熱する段階を含む。
【0028】
好ましい態様において、金属オキシフッ化物被膜は、MOD、MOCVD、反応性蒸着、プラズマスプレー、分子ビームエピタクシー、レーザー・アブレーション、イオンビームスパッタリング、およびe-ビーム蒸着からなる群より選択される技法を用いて沈着させる、またはトリフルオロ酢酸金属塩被覆を基板上で沈着させ、金属トリフルオロ酢酸被覆を分解することによって金属オキシフッ化物被膜を形成する。多数の層を適用してもよい。好ましい態様において、酸化物超伝導体被膜は、好ましくは厚さが0.8ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しく、およびより好ましくは厚さが1.0ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しい。
【0029】
本発明のもう一つの局面において、酸化物超伝導体被膜が基板上で0.5ミクロン(μm)より大きい厚さを有する、および製品が77 Kでゼロ応用磁場において約105 A/cm2より大きいまたはこれに等しい輸送臨界電流密度(Jc)を有する、酸化物超伝導被膜が提供される。
【0030】
本発明のさらにもう一つの局面において、結晶緩衝層が酸化物超伝導体と実質的に格子が一致している、被覆した導体が77 Kの自己電磁界で約105 A/cm2より大きいまたはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する、金属中心;コアの上に存在する緩衝層;および厚さが約0.5 μmより大きいもしくはこれに等しい酸化物超伝導体被覆を含む、被覆した導体製品が提供される。
【0031】
製品は、製品が92 Kより大きい臨界転移温度(Tc)を有するという特徴をさらに有してもよい。製品はさらに、酸化物超伝導体が、ゼロ応用磁場において77Kで約105 A/cm2より大きいまたはこれに等しいJc値を提供するために十分に大きい容積百分率のc-軸エピタクシーを含むという特徴を有してもよい。製品はさらに、酸化物超伝導体が92 Kより大きいTc値を提供するように残留フッ素を含むという特徴を有してもよい。
【0032】
好ましい態様において、酸化物超伝導被覆は約0.8 μmより大きいもしくはこれに等しい厚さを有し、より好ましくは約1.0 μmより大きいもしくはこれに等しい厚さを有する。他の好ましい態様において、導体は77Kの自己電磁界において約106 A/cm2より大きいまたはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する。他の好ましい態様において、酸化物超伝導体は高度のc-軸エピタクシーを特徴とする。
【0033】
本発明のさらにもう一つの局面において、酸化物超伝導体が実質的にc-軸エピタクシーで整列している、基板を被う厚さ0.5ミクロン(μm)の被膜を有する酸化物超伝導性被膜を含む酸化物超伝導製品が提供される。
【0034】
発明の詳細な説明
本発明は、本発明の改善された電気輸送特性が、プロセスの反応キネティクスおよび得られる酸化物被膜の微小構造を制御する反応条件下で、金属オキシフッ化物被膜を酸化物超伝導体に処理することによって得てもよいことを認識する。特に、BaF2および/または他の金属フッ化物の消費速度を制御し、ならびにこのように特に被膜からのHFの輸送のために十分な時間が得られる、および基板/被膜界面での酸化物超伝導層の核化作用の際にHF濃度も減少させるHF放出速度を制御する反応速度が選択される。
【0035】
本発明はさらに、高い臨界電流密度を有する非常に方向性の高い被膜を提供する処理条件下で、金属オキシフッ化物被膜を酸化物超伝導被膜に変換することが可能であると認識する。本発明の方法に従って、温度およびPH2O条件は、厚さが0.5ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しい、好ましくは厚さが0.8ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しい、および最も好ましくは厚さが1.0ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しく、ならびに臨界電流密度が少なくとも105 A/cm2および好ましくは少なくとも106 A/cm2である酸化物超伝導体被膜を提供するために、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換させる段階の間に、本明細書に記述のように選択および適用される。酸化物超伝導体はさらに、a-軸整列粒子が有意に存在しないことを特徴とする、実質的なc-軸エピタクシーを有することを特徴とする。
【0036】
先行技術において記述された被膜は高角粒界を有することが認められている。高角粒界は、被膜表面における90゜方向の異なる結晶を表し、これは高い臨界電流密度にとって有害である。多くの高角粒界を有する被膜の臨界電流密度は、それぞれの局所粒界での結合挙動が弱いために、至適以下となる。これらの弱い結合は非常に少量の電流を流した場合に限って超伝導性となる。しかし、それらは電流を増加させると抵抗性となる。高角粒界は典型的に、基板上でc-軸およびa-軸方向性の双方の確率がほぼ等しい場合に起こる。特に、より厚い被膜は、被膜表面に向かって急速に成長するa-軸方向粒子がさらに成長しやすい。本発明は高角粒界の量が、先行技術の被膜に対して有意に減少し、このように先行技術の酸化物超伝導被膜に対して有意な改善を示す被膜を提供する。
【0037】
本発明は、高い臨界電流密度を示す酸化物超伝導性の厚みのある、例えば、>0.5μmの被膜を提供する。本発明の酸化物超伝導性被膜は、基板と共に酸化物超伝導粒子の高いc-軸エピタクシーおよび105 A/cm2より大きいおよび好ましくは約106 A/cm2より大きいような、高い臨界電流密度を特徴とする。本明細書において用いられるc-軸エピタクシーとは、酸化物超伝導体のc-軸が基板表面に対して正常であるように基板および被膜の主軸が整列していることを意味する。酸化物超伝導体の他の主軸である、aおよびb(aは高温に限る)もまた、基板の主軸に関して整列する。このように、酸化物超伝導層内部で、a、bおよびc軸が整列している。同様に、本明細書において用いられる用語であるa-軸エピタクシーとは、酸化物超伝導体のa-軸が基板表面に対して正常であるように基板および被膜の主軸が整列していることを意味する。他の主軸は基板と共に整列する。好ましい態様において、被膜は、酸化物粒子のc-軸エピタクシーが有意または大部分であって、a-軸エピタクシーは少ないことを特徴とする。c-軸エピタクシーは酸化物粒子に限られることに注意。基板のそれぞれの軸に関して酸化物超伝導体aおよびbの実際の方向性は、電流輸送特性に有意な影響を及ぼさずに粒子によって異なる可能性がある。
【0038】
これは、図1および2にそれぞれ示すように、先行技術の被膜を本発明の被膜と比較することによって明らかに示される。図1は、835℃での水分飽和0.03%酸素環境下で金属オキシフッ化物被膜を加熱することによって、先行技術に従って調製される厚さ0.8 μmの酸化物超伝導体被膜表面の顕微鏡写真である。被膜はJcが1.6×104 A/cm2であった。a-軸エピタクシー粒子のモザイクは90°のネットワーク、すなわち高角粒界を形成し、これは被膜の臨界電流密度を劇的に低下させることが知られている。被膜におけるa-軸エピタクシー粒子の容積分画は実質的である。
【0039】
対照的に、本発明の酸化物超伝導体被膜は、図2に示すように、酸化物超伝導粒子のa-軸エピタクシーは有意に少ない。図2は、785℃で1.2%RH、0.1%O2の環境で加熱した本発明の厚さ1.0 μmの酸化物超伝導体被膜の顕微鏡写真である。この被膜は、基板表面に対して正常である酸化物超伝導結晶粒子の実質的なc-軸エピタクシーを特徴とする。c-軸エピタクシーは、被膜表面にモザイクまたはバスケット上の編みパターンを形成する、「端部での」a-軸エピタキシャル酸化物粒子が実質的に存在しないことによって示される。その代わりに、c-軸エピタクシーによって基板表面の平面に平面様粒子が平坦に並んでいる。被膜は90 Kより大きい臨界転移温度および少なくとも106 A/cm2の臨界電流密度(Jc)を示す。重要なことは、被膜は、被膜の厚さが1.0 μmであってもこれらの超伝導特性を有する。
【0040】
本発明は、例として示すに過ぎないが、Reが超伝導体のY、Nd、Prのような希土類元素である希土類・バリウム・銅の超伝導体ファミリー(ReBCO)、ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・銅の超伝導体ファミリー(BSCCO)、タリウム・ストロンチウム・カルシウム・バリウム・銅(TBSCCO)および水銀・バリウム・ストロンチウム・カルシウム・銅(HBSCCO)の超伝導体ファミリーである、酸化物超伝導体のような、何らかの酸化物超伝導体によって作製した超伝導性被覆および被膜を含む。好ましい態様において、方法は、yが少なくとも77Kの温度で超伝導性を与えるために十分な値である、酸化物超伝導体Ba2YCu3Oy(YBCO)を用いて行われる。
【0041】
被覆した導体製品の調製に用いられる基板は、酸化物超伝導体を調製するために用いられる処理条件および化学物質によって有害な影響を受けないいかなる基板であってもよい。基板はいかなる形状または構造であってもよい。平面または立体的であってもよく、例を示すとテープ、ワイヤ、リボンおよびシートの形のようないかなる形状であってもよい。基板は単結晶セラミック、もしくは多結晶セラミックまたは金属または他の材料であってもよい。示された態様において、基板は、酸化物超伝導体と格子がマッチしているセラミック結晶材料である。格子がマッチした基板は、酸化物超伝導体と類似の結晶格子定数を有する単結晶または多結晶セラミック材料である。適した基板にはSrTiO3、LaAlO3、ジルコニア、好ましくはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)のような安定化ジルコニア、CeO2およびMgOが含まれるがこれらに限定しない。他の適した基板には適当な格子定数を有する織り目構造がある、または織り目構造がない多結晶金属基板が含まれる。金属基板を用いた態様では、基板と酸化物超伝導層の間に緩衝層を用いることが望ましいかも知れない。適した緩衝層はジルコニア、好ましくはIBAD、YSZ、LaAlO3、SrTiO3、CeO2およびMgOを含むがこれらに限定しない。
【0042】
本発明のもう一つの態様において、被覆した導体製品は、それぞれの層が製品に望ましい特性を与えることを予期している。例えば、基礎となる基板は耐久性および/または柔軟性が得られるように選択される金属製の基板であってもよく;および基礎となる基板は酸化物超伝導体と適合する緩衝層で被覆してもよい。このような幾何学は被覆した超伝導性ワイヤまたはテープとして用いるために特に適している。図3を参考にして、被覆したワイヤは、金属製の中心100を含んでもよい。適したコア材料には、スチール、ニッケル、ニッケル合金、ならびに銅、鉄、およびモリブデンの合金が含まれるがこれらに限定しない。コアは選択的に、酸化物超伝導体の格子とマッチしてもよい。またはコアは変形した織り目構造であってもよい。コア100は、ある程度の結晶学的整列を含み、酸化物超伝導体と合理的に格子が一致している緩衝層102で被覆される。緩衝層102は、そこに沈着したエピタキシャルな酸化物超伝導層104を有する。酸化物超伝導層は望ましくは厚さが0.5ミクロン(μm)より大きいもしくはそれに等しい、好ましくは0.8ミクロン(μm)もしくはそれに等しい、および最も好ましくは1.0ミクロン(μm)もしくはそれに等しい範囲である。
【0043】
被覆した導体は、高品質の厚みのある被膜酸化物超伝導層を処理するために、本明細書に記述の方法を用いて製造してもよい。被覆した導体は図4に述べるような多様な処理技法を用いて調製してもよい。
【0044】
本発明の方法による酸化物超伝導被膜の調製をYBCOを参考にして記述する;しかし、これらの原理はいかなる酸化物超伝導体の製造にも適用してもよいと認識される。一つの態様において、本発明の酸化物超伝導体YBCO被膜は、構成成分の金属、Ba、YおよびCuの金属トリフルオロ酢酸(TFA)塩の溶液を用いて調製してもよい。これらの塩は、エステル、エーテルおよびアルコールのような有機溶媒に可溶性である。
【0045】
TFA溶液は基板上で沈着する。被覆は、スピン、スプレー、ペイントまたは前駆物質溶液への基質の液浸を含むがこれらに限定しない多くの既知の被覆法によって行ってもよい。酸化物の被膜は、リボン、ワイヤ、コイル幾何形状、およびパターン幾何形状のような平面および三次元基板を含む多様な幾何形状を有する基板上で製造してもよい。基板は、酸化物超伝導体に格子をマッチさせた多結晶基板または単結晶セラミック基板であってもよく、またはそれらは格子がマッチしていなくてもよい。本発明はエピタキシャルに整列した酸化物超伝導体被膜の形成における格子をマッチさせた基板の使用に特に適している。核化した酸化物超伝導体は、好ましくは基板の主軸と共にその主軸に整列し、それによって酸化物被膜の秩序だった結晶の成長および方向性(エピタクシー)が得られる。そのような秩序の結果、それぞれの軸が実質的に完全に整列している酸化物超伝導体が得られる。前駆物質は少なくとも0.5ミクロン(μm)の最終的な厚さを有する酸化物超伝導体を提供するために十分な単工程または多工程において適用してもよい。
【0046】
TFA前駆物質は低温(例えば、<400℃)で分解して、中間体の金属オキシフッ化化合物を形成する。バリウムを含まない、例えばYF3のような他の金属フッ化物も存在するが、フッ化物は典型的にフッ化バリウム(BaF2)として被膜内に存在する。中間体金属オキシフッ化物被膜と、物理的に沈着した被膜、例えばBaF2、Y2O3およびCuOの電子ビーム共蒸着被膜(チャンら(Chan)、上記)との類似性のために、PVDプロセスによって調製された金属オキシフッ化物被膜もまた、本発明の方法に従って処理してもよい。
【0047】
金属オキシフッ化物被膜は、おそらく水分酸化雰囲気中での反応によって、正方晶のYBCO相に変換される。最初の工程は金属オキシフッ化物前駆物質と水分との反応で、対応する金属酸化物(CuO、BaO、およびY2O3)ならびにHF(g)を形成すると思われる。HFは被膜表面への拡散によって被膜から除去して、被膜上に処理気体を流す際に被膜から輸送する。最終的な酸化物超伝導被膜は望ましくは実質的にフッ化物を含まない;しかし、被膜の中に不純物レベルが残っていることが望ましいであろう。酸化物超伝導体においてフッ化物が不純物レベル存在すれば、被膜の臨界転移温度および臨界電流密度が増加することが知られている。1993年6月の、マサチューセッツ工科大学の「化学的に由来するBa2YCu3O7-x薄膜のヘテロエピタキシャル成長(Heteroeptiaxial Growth of Chemically Derived Ba2YCu3O7-x Thin Films.)」と題するポールC. マッキンタイアー(Paul C. McIntyre)の博士論文を参照のこと。92 Kより大きい臨界転移温度が認められた。
【0048】
被膜からのフッ素の除去と同時に、および/または除去の後に正方晶のYBCO相が被膜に形成されて核化する。このように被膜において起こっている全体的な反応を等式(1)および(2)に示す、
BaF2+H2O(g) → BaO+2HF(g) (1)
3CuO+1/2 Y2O3+2BaO → YBa2Cu3O6.5 (2)
YBCOは好ましくは基板表面で形成し、それによって基板上に整列することができる。YBCOの形成は選択的に、図5に示すようにCu2+/Cu+還元に関する安定性ライン50より上であるPO2および温度で起こる(R. ベイヤース&B. T. アーン(R. Beyers and B. T. Ahn)の「超伝導セラミックス−低温物理に関する第XII回冬の会議議事録(Superconducting Ceramics - Proc. XII Winter Meeting on Low Temperature Physics)」「高温超伝導性の進歩(Progress in High Temperature Superconductivity)」第31巻、J. L. ハイラス、L.E. サンソレス、A. A. バラダレス(J. L. Heiras、L.E. Sansores、A. A. Valladares)編;World Scientific Publishing、シンガポール、1991;55頁から改変)。条件がこのラインの下であれば、すなわち還元条件であれば、Cu2+は還元されて、YBCO以外の材料が形成されるであろう。しかし、条件がこのラインより大きく上であれば、例えば過酸化であれば、YBCO(124)またはYBCO(123.5)のようなYBCO(123)以外の材料が形成されるであろう。さらに、安定性ライン50に近い処理であれば、YBCO(123)の核化および成長の際に存在する一過性の液体量を増加させ、それによってより高密度の被膜が得られる可能性がある(米国特許第5,231,074号を参照のこと)。
【0049】
YBCO相は核化して、金属オキシフッ化物被膜の厚さ全体に成長する。この核化および成長プロセスは、HFおよびBaOを生成する加水分解反応によって被膜からフッ化物の除去の後または除去と同時に起こる。得られた酸化物被膜が基板とのエピタクシーを維持するためには、YBCO相が被膜/基板界面でまず核化し、および被膜表面に向けて上方に変形し続けることが望ましいと思われる。
【0050】
本発明は、方向性が高いエピタキシャルな被膜に高い臨界電流密度を提供する条件下で、金属オキシフッ化物被膜を酸化物超伝導体被膜に変換することができることを認識する。本発明の方法に従って、温度およびPH2O条件は、厚さが0.5ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しい、好ましくは厚さが0.8ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しい、および最も好ましくは厚さが1.0ミクロン(μm)より大きいもしくはこれに等しく、ならびに臨界電流密度が少なくとも105 A/cm2および好ましくは少なくとも106 A/cm2である酸化物超伝導被膜を提供するために、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換させる工程の間に、本明細書に記述のように選択および応用される。酸化物超伝導体はさらに実質的なc-軸エピタキシャル配列を有することを特徴とし、何らかのa-軸整列粒子が有意に存在しないことを特徴とする。
【0051】
本発明の改善した電気輸送特性は、プロセスの反応キネティクスおよび得られた酸化物被膜の微小構造を制御する反応条件下で、金属オキシフッ化物被膜を酸化物超伝導体に処理することによって得られる。特に、BaF2および/または他の金属フッ化物の消費速度を制御し、ならびにこのように特に被膜からHFを輸送するために十分な時間が得られる、および基板/被膜界面での酸化物超伝導層の核化の際にHF濃度も減少させるHF放出速度を制御する反応条件が選択される。
【0052】
被膜における金属フッ化物消費の制御は、高度に整列した酸化物超伝導被膜の産生においていくつかの有用な作用を有する可能性がある。YBCO被膜におけるBaF2の減少した消費速度は、例えば、基板の近位におけるHFの存在および/または被膜そのものにおける溶解したHFを減少させるであろう。HFは多くの基板と反応性であり、基板表面をエッチングする可能性がある。エッチングは基板の荒面仕上げを引き起こしうる。基板表面の不均一さはa-軸整列粒子の選択的成長に関連している。例えば、マッキンタイアーら(McIntyre)、J. Crystal Growth 149:64(1995)を参照のこと。さらに、被膜における溶解したHFまたはフッ化物イオンの存在は、基板での酸化物超伝導体の核化キネティクスに有害な影響を及ぼす可能性がある。したがって、変換プロセスにおけるHF濃度の減少は、基板のエッチングを減少させ、および/または基板表面での酸化物超伝導体の核化を改善して、それによって酸化物超伝導体の微小構造を改善するように作用する可能性がある。
【0053】
従来のプロセスはBaF2消費速度を制御する反応温度を用いていた。先行技術は、オキシフッ化物被膜からのフッ素の除去の際の処理気体における高い水分含有量の重要性を強調している。高いPH2Oは加水分解反応を促進すると予想される。このように、従来のプロセスでは、オキシフッ化物被膜からエピタキシャル酸化物超伝導体への変換の際の水分含有量は実際と同じくらい高く維持され、変換速度は温度によって制御される。しかし、温度は、方向性のある酸化物超伝導粒子の成長キネティクスのような変換プロセスの他の局面に影響を及ぼす。本発明は、温度の他に速度制御パラメータとして処理気体の水分含有量を用いることができることを認めた。温度は例えば、方向性がある密度の高い酸化物超伝導体被膜の成長に都合がよいように選択してもよい。温度およびPH2Oの協調的な選択によって、プロセスはより柔軟となり、より高品質の被膜を得る方法が提供される。
【0054】
本発明は、金属オキシフッ化物の酸化物超伝導体への変換の際に反応速度を管理するために調節してもよいさらなる処理変数として水分含有量を同定した。このように、BaF2消費速度を制御したいと考えている人には、今では温度を低下させる、または所定の温度において処理気体中の水蒸気量を減少させるかのいずれかの選択肢が存在する。温度は粒子の成長および被膜の密度において重要な役割を果たしていることが認識されているため、このさらなる選択肢は特に貴重である。温度が高くなればより密度の高い被膜が得られ、これは典型的によりよい電流輸送を示す。より高温での反応は、温度の上昇が望ましくないBaF2消費速度を生じる可能性があるため、厚みのある被膜に関して先行技術では(室温で水蒸気で飽和した処理気体を用いて)利用できなかった。例えば、室温で水蒸気によって飽和した処理気体下で厚みのある被膜を処理する場合、より高い処理温度、例えばYBCOに関しては835℃では、密度が高いが許容されないほど高レベルのa-軸方向性を有する粒子を含む被膜が産生されることが認められている。これらの被膜の臨界電流密度値は不良、すなわち25,000 A/cm2未満であった。
【0055】
本発明は、水分含有量を制御するさらなる処理変数を提供することによって、同時にBaF2の速度を制御しながら、望ましい密度の被膜を得るために反応温度の選択または他のそのような検討を可能にする。本発明はさらに、反応温度および水蒸気圧に及ぼす変換プロセスの相互依存性を同定して、優れた電気特性を有する厚みのある被膜を得るために望ましいそれぞれの相対レベルに関する手引きを提供する。
【0056】
PH2OおよびTの選択の他に、酸素圧(PO2)は、YBCOが熱動力学的に安定である状態において処理条件を維持するように選択される。所定の温度での処理環境において酸素レベルを変化させた場合の作用の詳細は、参照として本明細書に組み入れられる1993年6月の、マサチューセッツ工科大学の「化学的に由来するBa2YCu3O7-x薄膜のヘテロエピタキシャル成長(Heteroeptiaxial Growth of Chemically Derived Ba2YCu3O7-x Thin Films.)」と題するポールC. マッキンタイアー(Paul C. McIntyre)の博士論文および米国特許第5,231,074号にさらに詳細に記述されている。しかし、本発明の長所の一つは、温度および水蒸気圧を適切に選択すれば、先にも当てはまったように、反応をCu2+/Cu+安定性ラインに実質的に近いように行う必要がないという点である。例えば、図5において、厚さ1ミクロン(μm)のYBCO被膜は106 A/cm2の臨界電流密度を有するCu2+/Cu+安定性ラインの十分上で得られたことに留意されたい。一般に、反応温度の相対的な増加は酸素圧の相対的な増加と組み合わせて行われることが望ましい。好ましい態様において、酸化物超伝導体は700〜900℃の範囲、好ましくは700〜835℃で0.01〜10容積%O2において形成される。例えば、YBCOは約1.0%O2の酸素雰囲気中で835℃で形成してもよく;およびYBCOは約0.1%O2の酸素雰囲気中で785℃で形成してもよい。
【0057】
このように、一例として示すに過ぎないが、本発明の方法に従って、25℃で測定した場合に約1.2%の相対湿度の湿潤雰囲気中で785℃で加熱することによって、金属オキシフッ化物被膜を0.5 μmより大きい高品質のYBCO被膜に変換してもよい。または厚さが約0.5 μmより大きい高品質のYBCO被膜を、25℃で約0.6%の相対湿度を有する湿潤雰囲気中で835℃に加熱することによって得てもよい。酸素分圧は、酸化物超伝導体の熱動力学的形成に都合がよいように、上記のように選択される。
【0058】
さらに、超伝導性の厚みのある被膜を提供するために適した温度および水分含有量は、被膜の厚さと共に変化する可能性があることが認められた。このように所定の反応温度に関して、厚さ約1.0μmのオキシフッ化物被膜は望ましくは、厚さ約0.5 μmの比較可能な被膜より低い水分含有量を有する処理気体中で処理される。厚さが1.0 μmよりかなり厚い被膜は処理気体の水分含有量をより低いレベルに適切に調節して調製してもよいと予期される。
【0059】
酸化物超伝導体を形成するために用いられる処理条件は、変換工程に対して速度の制御を得るように選択すべきであるという認識は、金属オキシフッ化物被膜のBaOおよびHFへの迅速な変換を主張する先行技術の全ての教示と相反する。先行技術は、典型的に室温で(室温で典型的に100%RHに近い)水蒸気で飽和した処理気体を使用することを教えている。対照的に本発明は、さらなる処理変数として処理気体中の水分含有量を同定し、これは変換工程のキネティクス制御を認めるように減少させてもよい。
【0060】
注入した処理気体において適当な実際の水分量は反応温度の関数である。比較的高い処理温度では、注入した処理気体の適当な水分含有量は比較的少ない。水分含有量は被覆した基板を含む加熱チャンバー(炉)に気体が入る前に室温で測定する。室温での処理気体の水分含有量は典型的に100%RH未満、好ましくは約10%RH未満、およびより好ましくは約2%RH未満である。それより下では反応が自発的に進行しないようなシステムのPH2Oの下限が存在する可能性がある。正確な値は反応物質または産物の熱動力学的安定性を参考にして決定してもよい。または反応がこれ以上進行しなくなるまで所定の温度でPH2Oを低下させることによって経験的に決定してもよい。さらに、さもなければ処理時間が長すぎる可能性があるため、適当な水分レベルはそのような下限よりかなり上であってもよい。
【0061】
本発明のさらなる特徴は、BaF2消費の制御もHF形成速度を制御するという点である。フッ化水素は、対応する金属酸化物も同様に産生する反応において、金属フッ化物、特にフッ化バリウムの加水分解の際に生成する。本発明の一つの態様において、炉における基板上のHF濃度は500 一兆分率(ppt)以下であると推定される。低レベルでHFの分圧を維持する一つの技法は、その中で被覆された試料が加熱処理される炉の中に処理気体を急速に流すことである。しかし、この結果、炉および試料温度のような他の処理変数に対する制御が失われる可能性がある。低いPHFを維持する好ましいアプローチは、加水分解速度を制御することである。一つの技法は、全体的な反応速度を低下させ、それと共にHF産生を減少させるために反応温度を低下させることである。もう一つの技法は、加水分解プロセスにおける唯一の重要な水分源である処理気体の水分量を制御することである。このように、加水分解反応を制御してもよく、したがって処理気体の水分含有量を制限することによってHFの産生を調節してもよい。処理気体の水分含有量を水分が律速試薬となるように既定レベル以下に維持することによって、HF産生速度を調節してもよい。
【0062】
本発明の一つの態様において、HFの分圧が確実に100 pptと推定されるようにするために、十分に低い水分処理気体、十分に低い反応温度および十分に高い処理気体流速を組み合わせて用いる。低い水分含有量および低い反応温度の組合せは遅い反応速度を生じ、したがってHFの産生量もまた少ない。上記のように、炉の入り口での処理気体の水分含量は、反応温度785℃および835℃についてそれぞれ室温で1.2%および0.6%である。処理気体流速は空間速度約150 cm/分を与える5cm IDクオーツ炉の中を約3L/分であってもよい;しかし、流速は炉の大きさおよび形状と共に変化すると予想される。
【0063】
最終的な酸化物超伝導体被膜を得るために用いられる正確な条件は、金属有機前駆物質の特性および最終的な酸化物超伝導体に依存する。特に、特定の温度、雰囲気、加熱速度等は材料に依存するが、正確な条件は、本明細書に記述の本発明を実践することによって容易に決定されるであろう。
【0064】
本発明の方法は、得られた酸化物超伝導体被膜の密度を制御するために用いてもよい。酸化物粒子の成長キネティクスは、温度が増加するにつれて改善する。このように、高温で加熱することによって高密度被膜を得てもよい。高温での処理はまた、被膜の平均粒子径を実質的に増加させる可能性がある。処理温度を増加させても水とBaF2の反応速度が増加するため、BaF2消費の望ましい低い速度を維持するためには、処理気体中の水分レベルをそれに応じて減少させる必要がある。これらの処理修飾の影響は、図6のYBCO酸化物超伝導体被膜の顕微鏡写真を比較すると認められる。図6Aの被膜は、785℃で0.1%O2を含む1.2% RH(RT)湿潤窒素/酸素雰囲気において処理した(実施例2)。図6Bの被膜は、835℃で1.0%O2を含む0.6%RH(RT)湿潤窒素/酸素雰囲気において処理した(実施例3)。いずれの被膜も厚さ1ミクロン(μm)の場合に約106 A/cm2の臨界電流密度を有する;しかし、微小構造は有意に異なる。図6Aの被膜は図6Bの被膜よりかなり多孔性である。より高い反応温度では粒子成長が増加するために、より密度の濃い被膜が得られる。
【0065】
本発明の方法に従って、温度は水分飽和処理気体を使用できるほどで、なお本発明の優れた電気輸送特性を有する酸化物超伝導性の厚みのある被膜が得られるほど十分に低下させてもよい。本発明の方法は、低下した温度での処理を含んでもよい。より低い反応温度は反応速度を減少させ、このようにHFの産生も減少させるため、反応は処理気体中での水分減少の有無によらず行ってもよい。予想できるように、特に反応温度に関する直前の記述に関して、より低い温度での反応の結果より多孔性の被膜が得られる。図7は、室温で水分を飽和した0.01%容積O2処理気体において700℃で処理した厚さ1μmのYBCO酸化物超伝導被膜の顕微鏡写真である(実施例1)。酸化物超伝導粒子の検出可能なa-軸エピタクシーを認めなかった;しかし上記の知見と一致して、被膜はより高温で処理した被膜より明らかにより多孔性である。重要なことは、被膜は同等の厚さを有する酸化物超伝導体被膜の先行技術の性能を超える、4.0×105 A/cm2の臨界電流密度を示した。
【0066】
図8は、様々な方法で処理したBa2YCu3O7-x試料の臨界電流密度対被膜の厚さのプロットである。黒のデータポイントはRTで水分で飽和した処理気体下で調製した様々な格子をマッチさせた基板上に沈着した試料を表す。これらの従来の方法で処理した試料の電気的性能は、厚さが0.3 μmより大きい被膜を有する試料では劇的に低下する(図8参照)。白のデータポイントは本発明の方法によって処理したLaAlO3基板上に沈着した試料を表す。これらの被膜は1ミクロン(μm)もの厚さを有する被膜においても、先行技術の厚みのある被膜の試料より大きい臨界電流密度を生じる(図8参照)。
【0067】
金属オキシフッ化物被膜のいかなる沈着手段も本発明に従って用いてもよいと期待される。MOD、MOCVD、反応性蒸着、磁電管スパッタリング、e-ビーム蒸着およびレーザー・アブレーションのような物理的スパッタリング法を含むがこれらに限定しない化学および物理的沈着法は、本発明の範囲内であると予想される。このように金属オキシフッ化物被膜は上記のようにMODによって沈着してもよい、またはMOCVDによって沈着し、および本発明の低湿度熱処理によって処理してもよい。典型的に、MOCVDプロセスでは構成金属種、例えば銅およびイットリウムならびにフッ化金属、例えばフッ化バリウムもしくはフッ化イットリウムの高い蒸気圧源を化学沈着チャンバーに導入し、そこでそれらは基板上に沈着する。そのように形成された被膜を本発明の方法に従って熱処理して、酸化物超伝導体を形成してもよい。
【0068】
物理的沈着法によって沈着した金属オキシフッ化物被膜のエクスサイチュー焼なましを含むハイブリッド法もまた、本発明の実践において用いてもよいと予想される。これによって、酸化物超伝導体への変換工程から被膜沈着工程が分離され、個々の工程のよりよい制御が得られ、ならびにより高い性能およびより高い生産性の可能性が得られる。典型的に、CuO、Y2O3、およびBaF2の独立した源をe-ビーム蒸着の標的として用いて、正確な化学量論の非晶質被膜を沈着させるために沈着速度を調節する。被膜は本発明の方法に従って加熱処理してもよく、その結果、水との反応によってフッ素が除去され、その後エピタキシャルな基板上での被膜の結晶化が起こる。より低い温度での純粋な酸素におけるさらなる焼なましによって、超伝導相Ba2YCu3O7-x(YBCO)が産生される。
【0069】
本発明のもう一つの態様において、基板/被膜界面で酸化物超伝導体の薄い層を核化および増殖させるために十分な時間、金属オキシフッ化物被膜を低水分環境で処理する。しかし、この層の正確な厚さはわかっておらず、1ミクロン(μm)の10分の1(0.1)〜100分の1(0.01)であろうと推定されている。その後、処理気体の水蒸気量を増加させ、好ましくは飽和点まで増加させる。金属オキシフッ化物の酸化物超伝導体への変換が完了するまでこのプロセスを継続する。特定の様式の操作に拘束されることなく、初回酸化物超伝導層の存在は被膜そのものおよび/または基板上に残っているHFによる基板のエッチングを防止する可能性がある。またはオキシフッ化物被膜内のHF含有量が少なければc-軸方向性に都合がよい可能性がある。方向性を有する層が基板上に形成されれば、その後の酸化物超伝導体の方向性はHF濃度に依存しない可能性がある。835℃、1.0%O2、およびRTでの0.6%RHでの低湿度熱処理に関しては、15分〜1時間の処置によって十分な層が形成されることが認められている(実施例4および5)。熱処理は、他の反応条件に応じて、最も顕著には温度に応じて長くても短くてもよいと予想される;しかし、好ましい態様において、加熱時間と初回低湿度工程および第2回高湿度工程を組合せれば、低湿度熱処理のみを用いる場合より所要時間は少ない。
【0070】
作用様式によらず、および実施例4および5に示すように、最初の層を形成すると、処理気体の水分含有量は酸化物超伝導体被膜の形成に害を及ぼすことなく増加させてもよい。酸化物超伝導体初期層を形成するために限って低湿度プロセスを使用すれば、本発明の低湿度プロセスの律速特性による処理時間の減少に望ましい可能性がある。
【0071】
本出願人による試験から、フッ化水素の驚くべき量が従来の処理条件下での炉のガラスワイヤから脱着することが確立された。このフッ化水素はおそらくこれより前の被膜処理実験の際に炉のグラスワイヤによって吸着されていたと思われる。電気的性能の改善がHF形成、BaF2消費もしくはBaO形成の速度が減少した結果であるか否か、またはシステムのPHFが減少したためであるかは容易に明らかではない。加水分解速度および酸化物超伝導体の形成速度は、被膜内の大量移動が制限されること、BaF2結晶の大きさ等の多くの要因に依存するであろう。
【0072】
操作の特定の理論に制限されることなく、炉のグラスワイヤによるHFの放出によって、被膜の品質に対して有害である基板のエッチングを悪化させる。酸化物超伝導体被膜の成長に適した多くの基板はHFエッチングを受けやすい。炉内のHF濃度が上昇するにつれて、基板のエッチングは増加する。基板のHFエッチングは表面の欠陥または段差を引き起こし、これは基板上により多くのa-軸成長部位を作る(マッキンタイアーら(McIntyre)、上記参照)。この仮説は、このプロセスについて認められた現象の多くと一致する。
【0073】
この仮説は、本明細書に記述の発明の前に、より厚い被膜の製造が問題であった頃に高超伝導特性を有する被膜を産生することができる理由を説明する可能性がある。被膜の製造において、金属オキシフッ化物が基板表面に沈着する量ははるかに少なく、したがって加水分解反応ははるかに少ないHFを産生する。さらに、より厚い金属オキシフッ化物層を通じてのHFの拡散距離は、薄い層を通じての拡散の場合より大きい。炉の環境および/またはオキシフッ化物被膜に存在するHFがより少ないことは、表面のエッチングがより少ないこと、したがってa-軸酸化物粒子の成長がより少ないことを意味する。制御されない反応条件下で被膜がより厚ければ、大量のHFを産生して、基板表面を有意にエッチングすることができる所定の量をより長時間保持するであろう。表面の欠陥は望ましくないa-軸のエピタキシャルな酸化物粒子の成長を促進することがこれまでに認められている。
【0074】
仮説はさらに、従来のプロセスによる被膜の製造の際に認められた基板依存性を説明する。SrTiO3基板上で従来の方法で生成された被膜の性能はLaAlO3基板上で従来の方法で生成された被膜より厚さによる有害な影響を受けることに注意すること(図8)。いくつかの基質、例えばSrTiO3は他の基板、例えばLaAlO3よりHFエッチングまたは反応をより受けやすいと予想される。このように、有意な量のHFが生成される従来の処理の際に、HFエッチングに対して特に感受性が高いそれらの基板は、より感受性が低い基板より有意に変性するであろう。対照的に、HF分圧は基板被膜界面での超伝導酸化物の核化の際およびその前では低いレベルで維持されるため、本発明の処理では基板のHFエッチングはかなり弱められると予想される。
【0075】
本発明は説明を目的として示され、本発明を制限することを意図していない、その全ての範囲が上記の請求の範囲に述べられている以下の実施例によって記述される。
【0076】
各実施例を詳細に記述する前に、使用した試料の調製に関する一般的な記述、処理機器およびプロトコールならびに熱処理について説明する。この概要は全ての実施例に当てはまる。
【0077】
試料の調製 試料は、研磨した単結晶LaAlO3基板を混合した金属トリフルオロ酢酸(Ba、Y、およびCuをそれぞれ相対金属モル濃度2、1、および3で含む)およびメタノールの液体溶液で被覆することによって調製した。
【0078】
スピン・コーティング用の液体溶液は、金属(Ba、Y、およびCu)酢酸塩およびトリフルオロ酢酸を水中で反応させ、産物を半固体状態(ガラス状)になるまで乾燥させ、次に産物をメタノールに再溶解することによって調製した。金属酢酸塩およびトリフルオロ酢酸の化学量論的量を用いると、おそらくその結果、Ba:Y:Cuの金属比が2:1:3である、混合金属トリフルオロ酢酸のメタノールの最終溶液を得た。
【0079】
基板はより大きいLaAlO3単結晶基板をダイヤモンドワイヤ鋸で切断することによって得た。基板は厚さが0.020"(=0.508mm)で、典型的に約1/4"×1/4"(=6.35mm×6.35mm)であったが、いかなる大きさの基板、たとえ長いワイヤまたはテープであっても本発明の方法から利益が得られることは明白である。
【0080】
スピンコーティングの前に、基板を化学的および機械的に洗浄した。基板をクロロホルム、アセトン、およびメタノールでそれぞれで超音波処理して洗浄し、メタノールを含ませた糸くずの少ないティシューで拭いた。拭いた後、基板を倍率50倍の顕微鏡で光学的に調べた。残っている埃または汚れを除去するために必要であれば再度拭いた。繰り返し拭いても汚れが取れない場合は、完全な清拭段階を繰り返した。
【0081】
被覆は、感光性耐食膜スピン被覆器を用いて、フード内の温度が室温に近く、フード内の湿度が実質的に50%RH以下となるように維持される条件下で、微粒子封じ込めフードの中でスピンコーティングによって得た。まだ窯で焼いていない被膜は、湿った室温の空気(例えば50%RHより大きい)に暴露されると、基板材料から急速にデウェットすることが認められた。
【0082】
次に、試料を炉に入れて、処理域に置いた。試料のローディング技法によって試料は濾過していない室内の空気にほんの数秒間暴露された。
【0083】
処理機器およびプロトコール
スピンした被膜を超伝導被膜に変換するために用いる全ての処理工程に関して炉の構造は水平スプリット型であった。スピンした被膜をオキシフッ化物被膜に変換する処理工程に用いられる構造は、熱処理の比較的低温部分に合わせて作製した正確な温度制御を組み入れた。
【0084】
主な炉の管、直線管および炉の装備品の温度制御部分は全て、石英ガラス製であった。炉の装備品は、上に可動の珪酸プレートを有するD型の断面を有する管(「D管」)を含んだ。
【0085】
スピンした被膜をオキシフッ化物被膜に変換する処理工程の炉ガス流速制御は、手動で制御された流速計および調節されたガス圧を用いて提供された。乾燥および湿潤超高純度(UHP)分子酸素ガスを用いた。最初の速い加熱ランプ速度期間の際に、注入した炉の気体を乾燥から湿潤に切り替えた。湿潤気体への切り替えは、初回の速い加熱期間の約13分後に行った。容積流速は乾燥分子酸素に関して10±1 scfh(0.284±0.0284m3/分)、そして湿潤分子酸素に関しては容積流速は8±1scfh(0.2272±0.0284m3/分)であった。主炉管の直径は5cmであった。ガス注入口から処理域までの距離は約1.1 mであった。炉の湿潤ガスは、処理環境に注入する前に飽和するまで(室温で約95〜100%RHの範囲)室温で精製水に炉ガスを通過させることによって得た。
【0086】
炉の装備品の温度は、試料の位置の間に留置したプローブ先端を有するステンレス・スチールで外装された熱電対プローブ(直径0.032"(=0.8128mm))によってモニターした。この温度測定プローブは接地していないK型熱電対プローブ(オメガ・コーポレーションから購入)であった。プローブは炉の装備品と直接接触して、その上に試料を載せる装備の可動プレートの側に位置する。
【0087】
オキシフッ化物被膜を酸化物被膜に変換する処理の一部のための炉の構造は、以下の例外を除いて上記のシステムと類似であった。温度制御性能はよりよい高温制御ができるように調節され、試料の上流の管の長さは約0.6 mであった。同様に、試料の温度を測定するために用いられる熱電対は、直径が0.062"(=1.5748mm)で、インコネルで外装されていた。これは、先端が、その上に試料を載せる装備の可動性プレートの側で、炉の装備品と直接接触する閉鎖末端高純度Al2O3保護管において試料位置に近い先端であるが下流であるように位置した。高温の熱処理に対する炉の低いPO2気体は、処理環境に注入する前に、分析した酸素/窒素ガス混合物と超高純度窒素を混合するために電子制御マス流速制御盤を用いて調製した。炉内のガスの総流速は、熱処理の低いPO2部分のために3.0 L/分に維持した。熱処理の100%O2部分のために4scfh(=0.114m3/分)の流速を用いた。この流速は手動で制御された流速計および調節されたガス圧を用いて提供された。
【0088】
熱処理 試料は2段階で熱処理した。金属オキシフッ化物被膜は、図9に示すように、熱処理プロフィールに従って加熱することによって産生した。乾燥から湿潤酸素への切り替えは初回加熱において約13分で行ったが、炉の加熱成分の加熱に関しては炉の装備品の加熱の遅滞のために、試料温度はこの点で約50℃に過ぎなかった。湿潤ガスを用いてトリフルオロ酢酸銅の揮発を抑制した;しかし、窯に入れていない被膜は、低温で湿潤炉ガスに暴露すると、基板から急速にデウェットした。炉の装備品が約50℃である場合に、乾燥から湿潤処理環境への切り替えは、使用した装置およびプロセスであればこれらの問題に対処するために十分であることが判明した。湿潤酸素の流速は、温度がプロセスのこの部分に関する最高値(約400℃)に達するまで維持し、この時点で炉の電源および気体流速を遮断した。次に停滞した湿った酸素中の試料によって炉を冷却した。
【0089】
次に、金属トリフルオロ酢酸の分解から得たオキシフッ化物被膜は、制御されたPO2およびPH2Oの環境下で700〜835℃の範囲の温度でアニーリングすることによってBa2YCu3O7-xに変換した。このBa2YCu3O7-xへのその後の変換プロセスの詳細は以下の実施例に述べる。
【0090】
実施例1 本実験は、比較的低いアニーリング温度を用いてTFA前駆物質からのYBCO酸化物超伝導体の厚い被膜の調製について記述する。
【0091】
この熱処理の間(図10参照)、乾燥した0.01%のO2ガス混合物を初回温度が上昇する最初の3分間、処理環境に注入した。炉の加熱成分の加熱に関して炉の装備品の加熱における遅滞のために、試料の温度はこの時点でなお室温であった。次に流入気体を高湿度(RTで約95〜100%RHの範囲)の0.01%O2ガス混合物に切り替えた。湿った低いPO2雰囲気を、加熱の残りの時間を通じて試料の上に通過させ、高温を維持する最後の10分まで高温を維持した。維持温度は700℃(10℃に四捨五入して、約10℃の初期過度応答)であった。高温でのアニーリングにおいて残りの10分間に、乾燥した低いPO2気体混合物を再度使用した。アニーリング温度でこの乾燥気体を送り込んだ後、炉の装備品の温度が約525℃になるまで試料を冷却する際に、乾燥した気体混合物の流れを維持し、この時点で流れを乾燥した酸素に切り替えて、炉を室温まで冷却した。
この技法によって得られた試料は厚さが1.0ミクロン(μm)の酸化物超伝導体層を有した。臨界電流密度は1μV/cm基準を用いて測定した。被膜の臨界電流密度(Jc)は0.4×106 A/cm2であった。
【0092】
実施例2 本実験は、低湿度でアニーリングすることによってTFA前駆物質からYBCO酸化物超伝導体の厚い被膜の調製を記述する。低湿度気体は処理環境に注入する直前に高精度手動流速計を用いて乾燥気体と高湿度気体を正確に混合することによって調製した。
試料の調製、炉の装置および加熱処理は、以下の改変を除いて実施例1に記述したとおりであった。低湿度0.1%O2ガス混合物は、加熱処理の最初からアニーリング温度での最後の10分まで注入し、この時点で乾燥した0.1%O2ガス混合物を注入した。用いた湿潤ガス混合物の湿度レベルはRTで1.2%RHであった。アニーリング温度は785℃であった(5℃に概算、実質的な過剰応答はない)。本実施例のこの加熱処理を図11に示す。被膜の臨界電流密度(Jc)は1.1×106 A/cm2であった。
【0093】
実施例3 本実験も同様に、低湿度でアニーリングすることによってTFA前駆物質からYBCO酸化物超伝導体の厚い被膜の調製を記述する。
試料の調製、炉の装置および加熱処理は、以下の改変を除いて実施例2に記述したとおりであった。アニーリング温度は835℃で(5℃に概算、実質的な過剰応答はない)、湿度レベルはRTで0.6%RH、およびPO2レベルは1.0%であった。本実施例のこの加熱処理を図12に示す。被膜の臨界電流密度(Jc)は1.1×106 A/cm2であった。
【0094】
実施例4 本実験は、処理時間を短縮するために基板上に酸化物超伝導体の不動態化した層の形成を用いることによる、YBCO酸化物超伝導体の厚い被膜の調製を記述する。
試料の調製、炉の装置および熱処理は、以下の改変を除いて実施例3に記述の通りであった。高温のアニーリングは低湿度レベル(RTで0.6%RH)で1時間、高湿度レベル(RTで約95〜100%RHの範囲)で1時間、および10分の乾燥ガスの注入を含んだ。本実施例の熱処理を図13に示す。被膜の臨界電流密度(Jc)は0.9×106 A/cm2であった。
【0095】
実施例5 本実験は、処理時間を短縮するために基板上に酸化物超伝導体の不動態化した層の形成を用いることによって、YBCO酸化物超伝導体の厚い被膜の調製を記述する。
試料の調製、炉の装置および熱処理は、以下の改変を除いて実施例3に記述の通りであった。高温のアニーリングは低湿度レベル(RTで0.6%RH)で15分、高湿度レベル(RTで約95〜100%RHの範囲)で45分、および10分の乾燥ガスの注入を含んだ。本実施例の熱処理を図14に示す。被膜の臨界電流密度(Jc)は0.5×106 A/cm2であった。
【0096】
実施例6 本実施例は、本発明に従って熱処理による従来のPVD法を用いて調製した金属オキシフッ化物被膜の処置を記述する。
被膜は3つの異なる起源からのY、BaF2、およびCuの共蒸着によって調製してもよい。フッ化バリウムおよびイットリウムは電子ビームガンを用いて蒸着させてもよく、銅は抵抗性加熱源を用いて蒸着させてもよい。3つの材料源は互いに3角形の配置にあってもよく、材料源からの速度をモニターしてもよい。バックグラウンド圧力は約2×10-6トール(=2.67×10-4Pa)で、沈着の際に酸素を導入してオキシフッ化物被膜を沈着させると約5×10-5トール(=6.67×10-3Pa)のチャンバー圧が得られる。沈着は望ましい厚みの被膜が得られるまで継続してもよい。
このようにして得られた金属オキシフッ化物被膜は実施例1〜6に記述のように処理して、酸化物超伝導被膜を得てもよい。
【図面の簡単な説明】
【0097】
本発明は、本発明の説明を目的として提供するのであって、制限するためではない以下のような図面を参考にして記述する:
【図1】図1は、先行技術の酸化物超伝導性被膜の表面の顕微鏡写真である;
【図2】図2は、本発明の方法によって調製した酸化物超伝導被膜表面の顕微鏡写真である;
【図3】図3は、本発明の被覆した導体の図である;
【図4】図4は、被覆した導体を調製するために用いてもよい様々な製造プロセスのフロー・ダイヤグラムである;
【図5】図5は、YBCO酸化物超伝導体の形成に関するCu2+/Cu+安定性ラインを示すPO2対1000/T(K)のプロットである;
【図6】図6は、低密度(a)または高密度(b)被膜を得るために処理された酸化物超伝導体被膜の顕微鏡写真である;
【図7】図7は、温度を低下させて処理した酸化物超伝導体被膜の顕微鏡写真である;
【図8】図8は、様々な酸化物超伝導体被膜のJc対被膜の厚さのプロットである;
【図9】図9は、金属オキシフッ化物被膜のMOD調製に対する典型的な低温加熱処理の温度・時間プロフィールである;
【図10】図10は、酸化物超伝導体被膜のMOD調製に対する高温熱処理の重要なモニター値に基づく、温度・時間プロフィールである。
【図11】図11は、酸化物超伝導体被膜のMOD調製に対する高温熱処理の重要なモニター値に基づく、温度・時間プロフィールである。
【図12】図12は、酸化物超伝導体被膜のMOD調製に対する高温熱処理の重要なモニター値に基づく、温度・時間プロフィールである。
【図13】図13は、酸化物超伝導体被膜のMOD調製に対する高温熱処理の重要なモニター値に基づく、温度・時間プロフィールである。
【図14】図14は、酸化物超伝導体被膜のMOD調製に対する高温熱処理の重要なモニター値に基づく、温度・時間プロフィールである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、酸化物超伝導体被膜を調製する方法:
金属オキシフッ化物が約0.5 μmより大きいもしくはこれに等しい厚さを有し、実質的に化学量論的比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、基板上に金属オキシフッ化物被膜を提供する段階;および
77K、ゼロ磁場で約105 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する酸化物超伝導体被膜が得られるように、温度、PH2O、およびその組合せからなる群より選択される反応パラメータを調節することによって選択される変換速度で、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換させる段階。
【請求項2】
以下の段階を含む、酸化物超伝導体被膜を調製する方法:
金属オキシフッ化物被膜が実質的に化学量論的な比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、基板上に金属オキシフッ化物被膜を提供する段階;および
25℃で測定した場合に約100%RH未満の水分含有量を有する処理気体において金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換する段階。
【請求項3】
以下の段階を含む、酸化物超伝導体被膜を調製する方法:
実質的に化学量論的比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、金属オキシフッ化物被膜を提供する段階;および
77K、ゼロ磁場で約105 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する酸化物超伝導体被膜を提供するレベルのHF濃度を含む基板上の雰囲気を提供するように選択される反応条件下で、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換させる段階。
【請求項4】
以下の段階を含む、酸化物超伝導体被膜を調製する方法:
(a)金属オキシフッ化物が、実質的に化学量論的比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、基板上に金属オキシフッ化物被膜を提供する段階;
(b)25℃で測定した場合に100%RH未満の水分含有量を有する処理気体において、基板/被膜界面で酸化物超伝導体の層を形成するために十分な時間、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換する段階;および
(c)段階(b)より大きい水分含有量を有する処理気体において金属オキシフッ化物の酸化物超伝導体への変換を完了する段階。
【請求項5】
基板/被膜界面で酸化物超伝導体の層を形成するために十分な時間が約15分〜約2時間の範囲である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
酸化物超伝導体被膜が77K、ゼロ磁場で約105 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する、請求項2記載の方法。
【請求項7】
酸化物超伝導体被膜が77K、ゼロ磁場で約106 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項8】
水分含有量が25℃で測定した場合に約100%未満の相対湿度を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
水分含有量が25℃で測定した場合に約50%未満の相対湿度を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項10】
水分含有量が25℃で測定した場合に約3%未満の相対湿度を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項11】
水分含有量が25℃で測定した場合に約1%未満の相対湿度を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項12】
基板が金属を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項13】
基板がセラミックを含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項14】
セラミックがSrTiO3、LaAlO3、ジルコニア、安定化ジルコニア、MgOおよびCeO2からなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
基板が酸化物超伝導体と実質的に格子がマッチしている、請求項1または2記載の方法。
【請求項16】
酸化物超伝導体被膜に酸素添加するために、酸化物超伝導体をアニーリングする段階をさらに含む請求項1または2記載の方法。
【請求項17】
金属オキシフッ化物を変換させる条件が、25℃で測定した場合に、約100%RH未満の水分含有量を有する処理気体において、金属オキシフッ化物被膜を700〜835℃の範囲の温度で加熱する段階を含む、請求項3記載の方法。
【請求項18】
金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換する条件が、酸化物超伝導相の安定性をなおも維持しながら酸素含有量が所定の温度で可能な限り低くなるように選択される環境下で加熱することを含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項19】
金属オキシフッ化物被膜が有機金属蒸着法を用いて蒸着される、請求項1または2記載の方法。
【請求項20】
金属オキシフッ化物被膜がMOD、MOCVD、反応性蒸着、プラズマ・スプレー、分子ビームエピタクシー、レーザー・アブレーション、イオンビーム・スパッタリングおよびe-ビーム蒸着からなる群より選択される技法を用いて蒸着される、請求項1または2記載の方法。
【請求項21】
基板上にトリフルオロ酢酸金属塩被覆を蒸着させる段階と、
トリフルオロ酢酸金属塩被覆を分解して金属オキシフッ化物被膜を形成する段階とをさらに含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項22】
トリフルオロ酢酸金属塩の多数の層を基板に適用する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
酸化物超伝導体被膜が0.8ミクロン(μm)より大きい、もしくはこれに等しい厚さを有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項24】
酸化物超伝導体被膜が1.0ミクロン(μm)より大きい、もしくはこれに等しい厚さを有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項25】
77K、ゼロ応用磁場で約105 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい輸送臨界電流密度(Jc)を有する、基板上に蒸着された0.5ミクロン(μm)より大きい厚さを有する酸化物超伝導体被膜を含む酸化物超伝導体製品。
【請求項26】
以下を含む、被覆された導体製品:
金属コア;
コア上に蒸着した緩衝層;および
結晶緩衝層が酸化物超伝導体と格子が実質的にマッチしており、被覆された導体が77K、自己磁場で約105 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい臨界電流密度を示し、厚さが約0.5 μmより大きいもしくはこれに等しい酸化物超伝導体被覆。
【請求項27】
製品が92 Kより大きい臨界転移温度(Tc)を有することをさらに特徴とする、請求項25または26記載の製品。
【請求項28】
酸化物超伝導体が、77 K、ゼロ応用磁場において105 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しいJc値を提供するようにc-軸エピタクシーの十分に高い容積百分率を含むことをさらに特徴とする、請求項25または26記載の製品。
【請求項29】
酸化物超伝導体が92 Kより大きいTc値を提供するように残留フッ化物を含むことをさらに特徴とする、請求項25または26記載の製品。
【請求項30】
コアがスチール、ニッケル合金、鉄、モリブデン、銀およびその組合せからなる群より選択される、請求項25または26記載の製品。
【請求項31】
緩衝層が、ジルコニア、安定化ジルコニア、SrTiO3、LaAlO3、MgOおよびCeO2からなる群より選択されるセラミックを含む、請求項25または26記載の製品。
【請求項32】
酸化物超伝導体被覆が約0.8 μmより大きい、またはこれに等しい厚さを有する、請求項25または26記載の製品。
【請求項33】
酸化物超伝導体被覆が約1.0 μmより大きい、またはこれに等しい厚さを有する、請求項25または26記載の製品。
【請求項34】
導体が77K、自己磁場で約106 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい臨界電流密度を有する、請求項25または26記載の製品。
【請求項35】
酸化物超伝導体が高度のc-軸エピタクシーを特徴とする、請求項25または26記載の製品。
【請求項36】
酸化物超伝導体が、酸化物超伝導体ファミリーBi-Sr-Ca-Cu-O、Re-Ba-Cu-O(Reは希土類元素)、Hg-Bi-Sr-Ca-Cu-OおよびTh-Bi-Sr-Ca-Cu-Oの酸化物からなる群より選択される、請求項25または26記載の製品。
【請求項37】
酸化物超伝導体が、Reが希土類元素であるRe-Ba-Cu-Oを含む、請求項25または26記載の製品。
【請求項38】
実質的にc-軸にエピタキシャルに整列しており、基板上に蒸着された0.5ミクロン(μm)より大きい厚さを有する酸化物超伝導体被膜を含む、酸化物超伝導体製品。
【請求項1】
以下の段階を含む、酸化物超伝導体被膜を調製する方法:
金属オキシフッ化物が約0.5 μmより大きいもしくはこれに等しい厚さを有し、実質的に化学量論的比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、基板上に金属オキシフッ化物被膜を提供する段階;および
77K、ゼロ磁場で約105 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する酸化物超伝導体被膜が得られるように、温度、PH2O、およびその組合せからなる群より選択される反応パラメータを調節することによって選択される変換速度で、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換させる段階。
【請求項2】
以下の段階を含む、酸化物超伝導体被膜を調製する方法:
金属オキシフッ化物被膜が実質的に化学量論的な比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、基板上に金属オキシフッ化物被膜を提供する段階;および
25℃で測定した場合に約100%RH未満の水分含有量を有する処理気体において金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換する段階。
【請求項3】
以下の段階を含む、酸化物超伝導体被膜を調製する方法:
実質的に化学量論的比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、金属オキシフッ化物被膜を提供する段階;および
77K、ゼロ磁場で約105 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する酸化物超伝導体被膜を提供するレベルのHF濃度を含む基板上の雰囲気を提供するように選択される反応条件下で、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換させる段階。
【請求項4】
以下の段階を含む、酸化物超伝導体被膜を調製する方法:
(a)金属オキシフッ化物が、実質的に化学量論的比率で酸化物超伝導体の構成金属元素を含む、基板上に金属オキシフッ化物被膜を提供する段階;
(b)25℃で測定した場合に100%RH未満の水分含有量を有する処理気体において、基板/被膜界面で酸化物超伝導体の層を形成するために十分な時間、金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換する段階;および
(c)段階(b)より大きい水分含有量を有する処理気体において金属オキシフッ化物の酸化物超伝導体への変換を完了する段階。
【請求項5】
基板/被膜界面で酸化物超伝導体の層を形成するために十分な時間が約15分〜約2時間の範囲である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
酸化物超伝導体被膜が77K、ゼロ磁場で約105 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する、請求項2記載の方法。
【請求項7】
酸化物超伝導体被膜が77K、ゼロ磁場で約106 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい輸送臨界電流密度を有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項8】
水分含有量が25℃で測定した場合に約100%未満の相対湿度を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
水分含有量が25℃で測定した場合に約50%未満の相対湿度を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項10】
水分含有量が25℃で測定した場合に約3%未満の相対湿度を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項11】
水分含有量が25℃で測定した場合に約1%未満の相対湿度を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項12】
基板が金属を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項13】
基板がセラミックを含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項14】
セラミックがSrTiO3、LaAlO3、ジルコニア、安定化ジルコニア、MgOおよびCeO2からなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
基板が酸化物超伝導体と実質的に格子がマッチしている、請求項1または2記載の方法。
【請求項16】
酸化物超伝導体被膜に酸素添加するために、酸化物超伝導体をアニーリングする段階をさらに含む請求項1または2記載の方法。
【請求項17】
金属オキシフッ化物を変換させる条件が、25℃で測定した場合に、約100%RH未満の水分含有量を有する処理気体において、金属オキシフッ化物被膜を700〜835℃の範囲の温度で加熱する段階を含む、請求項3記載の方法。
【請求項18】
金属オキシフッ化物を酸化物超伝導体に変換する条件が、酸化物超伝導相の安定性をなおも維持しながら酸素含有量が所定の温度で可能な限り低くなるように選択される環境下で加熱することを含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項19】
金属オキシフッ化物被膜が有機金属蒸着法を用いて蒸着される、請求項1または2記載の方法。
【請求項20】
金属オキシフッ化物被膜がMOD、MOCVD、反応性蒸着、プラズマ・スプレー、分子ビームエピタクシー、レーザー・アブレーション、イオンビーム・スパッタリングおよびe-ビーム蒸着からなる群より選択される技法を用いて蒸着される、請求項1または2記載の方法。
【請求項21】
基板上にトリフルオロ酢酸金属塩被覆を蒸着させる段階と、
トリフルオロ酢酸金属塩被覆を分解して金属オキシフッ化物被膜を形成する段階とをさらに含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項22】
トリフルオロ酢酸金属塩の多数の層を基板に適用する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
酸化物超伝導体被膜が0.8ミクロン(μm)より大きい、もしくはこれに等しい厚さを有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項24】
酸化物超伝導体被膜が1.0ミクロン(μm)より大きい、もしくはこれに等しい厚さを有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項25】
77K、ゼロ応用磁場で約105 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい輸送臨界電流密度(Jc)を有する、基板上に蒸着された0.5ミクロン(μm)より大きい厚さを有する酸化物超伝導体被膜を含む酸化物超伝導体製品。
【請求項26】
以下を含む、被覆された導体製品:
金属コア;
コア上に蒸着した緩衝層;および
結晶緩衝層が酸化物超伝導体と格子が実質的にマッチしており、被覆された導体が77K、自己磁場で約105 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい臨界電流密度を示し、厚さが約0.5 μmより大きいもしくはこれに等しい酸化物超伝導体被覆。
【請求項27】
製品が92 Kより大きい臨界転移温度(Tc)を有することをさらに特徴とする、請求項25または26記載の製品。
【請求項28】
酸化物超伝導体が、77 K、ゼロ応用磁場において105 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しいJc値を提供するようにc-軸エピタクシーの十分に高い容積百分率を含むことをさらに特徴とする、請求項25または26記載の製品。
【請求項29】
酸化物超伝導体が92 Kより大きいTc値を提供するように残留フッ化物を含むことをさらに特徴とする、請求項25または26記載の製品。
【請求項30】
コアがスチール、ニッケル合金、鉄、モリブデン、銀およびその組合せからなる群より選択される、請求項25または26記載の製品。
【請求項31】
緩衝層が、ジルコニア、安定化ジルコニア、SrTiO3、LaAlO3、MgOおよびCeO2からなる群より選択されるセラミックを含む、請求項25または26記載の製品。
【請求項32】
酸化物超伝導体被覆が約0.8 μmより大きい、またはこれに等しい厚さを有する、請求項25または26記載の製品。
【請求項33】
酸化物超伝導体被覆が約1.0 μmより大きい、またはこれに等しい厚さを有する、請求項25または26記載の製品。
【請求項34】
導体が77K、自己磁場で約106 A/cm2より大きい、もしくはこれに等しい臨界電流密度を有する、請求項25または26記載の製品。
【請求項35】
酸化物超伝導体が高度のc-軸エピタクシーを特徴とする、請求項25または26記載の製品。
【請求項36】
酸化物超伝導体が、酸化物超伝導体ファミリーBi-Sr-Ca-Cu-O、Re-Ba-Cu-O(Reは希土類元素)、Hg-Bi-Sr-Ca-Cu-OおよびTh-Bi-Sr-Ca-Cu-Oの酸化物からなる群より選択される、請求項25または26記載の製品。
【請求項37】
酸化物超伝導体が、Reが希土類元素であるRe-Ba-Cu-Oを含む、請求項25または26記載の製品。
【請求項38】
実質的にc-軸にエピタキシャルに整列しており、基板上に蒸着された0.5ミクロン(μm)より大きい厚さを有する酸化物超伝導体被膜を含む、酸化物超伝導体製品。
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1】
【図2】
【図6】
【図7】
【図4】
【図5】
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【図10】
【図11】
【図12】
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【図2】
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【図7】
【公開番号】特開2009−35479(P2009−35479A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234788(P2008−234788)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【分割の表示】特願平11−504767の分割
【原出願日】平成10年6月17日(1998.6.17)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【分割の表示】特願平11−504767の分割
【原出願日】平成10年6月17日(1998.6.17)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】
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