説明

金属タンタルナノシートの製造方法と同方法により製造される金属タンタルナノシート

【課題】流動界面ゾル−ゲル法により得られる五酸化タンタルナノシートを還元して得られる金属タンタルナノシートを利用し、高比表面積の金属タンタルナノシートを提供する。
【解決手段】化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解することによりポリマー化した前駆体を水に適度な溶解性を有する溶媒に溶解し、精密にケミカルデザインされたプロセスで流動する水面上に滴下し展開する流動界面ゾル−ゲル法により製造される、厚みが制御され、均一な構造のタンタル酸化物ナノシートを、アルカリ、アルカリ土類あるいは希土類金属蒸気で還元することにより金属タンタルナノシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動界面ゾル−ゲル法を利用して得られるタンタル酸化物ナノシートをアルカリ、アルカリ土類あるいは希土類金属蒸気中で還元して得られる金属タンタルナノシートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンタル酸化物の皮膜の誘電率は約27と高いことからコンデンサ用電極材料として利用されてきているが、近年、他のコンデンサとの競合や小型化の進行にともない、さらに高容量の電解コンデンサが望まれている。従って電極材料としてのタンタル粉末に対してもこのような要求を満たす粉末の開発が求められている。
【0003】
タンタル粉末は一般的にはフッ化タンタル酸カリウムをナトリウムで還元することによって得られている。この還元で得られたタンタル粉末はさらに水洗、酸洗浄等の処理により副生した塩が除去され、さらにマグネシウムで脱酸素処理などを行い、高純度化され製品化のための元粉となる(例えば特開2002−206105号公報)。このナトリウム還元タンタル粉末は平均粒径0.3〜3.0μm程度の微粉末であり、取り扱いに不便であるので、さらに、これを真空中で熱処理して凝集させたものを解砕し、平均粒径1.0〜5.0μm程度の、多孔質で比表面積の大きい粉末にして使用される。超高容量電解コンデンサの電極材料用タンタル粉末としては、
静電容量(C)=誘電率(ε)×比表面積(S)÷皮膜厚さ(d)
であるので、できるだけ比表面積の大きい粉末の開発が必要となるのである。
【0004】
このような比表面積の大きいタンアタル粉末の製造方法として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属等によりタンタルのフッ化物や酸化物を還元して、粒子径1μm以下であり、5m/gを超えるBET比表面積を有するタンタル粉末の製造方法(特開平08−097096号公報、特表平10−504603号公報)、タンタル酸化物をアルカリ金属またはアルカリ土類金属で還元を2段階で行い、一次粒子が0.1〜1.0μmと微細であるタンタル粉末の製造方法(特開2000−119710号公報、特開2003−119506号公報、特開2004−360043号公報)、柱状のタンタル粒子が複数放射状に集合した放射状集合粒子を含むタンタル粉末を得る方法(特開2001−143970号公報)、タンタルの一次粒子に空孔形成材を添加しこれを除去することにより高容量電解コンデンサ用タンタル粉末を製造する方法(特開2001−345238号公報)、また、酸化物粒子の形態を球状、繊維状、偏平上として、これを形態を保持させたまま還元することによりタンタル粉末を製造する方法(米国特許明細書US2003/0230167 A1)などがある。
【0005】
一方、これら化学的方法に対して、粒状タンタルをスタンプするなどして鱗片状タンタルを形成させる機械的に比表面積を増加させようとする試みもあるが、一般的に化学的方法に比べ表面積は小さい。
このような種々の試みにもかかわらず、さらに高容量の電解コンデンサの要求の高まりについて、これらの粉末には限界が見えている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−206105号公報
【特許文献2】特開平08−097096号公報
【特許文献3】特表平10−504603号公報
【特許文献4】特開2000−119710号公報
【特許文献5】特開2003−119506号公報
【特許文献6】特開2004−360043号公報
【特許文献7】特開2001−143970号公報
【特許文献8】特開2001−345238号公報
【特許文献9】米国特許明細書US2003/0230167 A1
【特許文献10】特開2004−224623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来のタンタルの製造方法における課題に鑑み、流動界面ゾル−ゲル法により得られる五酸化タンタルナノシートを還元して得られるタンタルナノシートを利用し、高比表面積の金属タンタルナノシートを得ることが出来る金属タンタルナノシートの製造方法と同方法により製造される金属タンタルナノシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、流動界面ゾル−ゲル法で製造されるタンタル酸化物ナノシートを、アルカリ、アルカリ土類あるいは希土類金属蒸気中で還元することにより金属タンタルナノシートが得られ、上記課題を解決しうることを見いだした。
【0009】
すなわち、本発明による金属タンタルナノシートの製造方法は、化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解によりポリマー化し、このポリマーを水に対する適度な溶解性を有する溶媒を用いて所望の濃度の溶液にした後、流動界面ゾル−ゲル法でゲルナノシート化し、乾燥して得たゲルナノシートを必要に応じてタンタル酸化物ナノシート化した後、アルカリ、アルカリ土類あるいは希土類金属蒸気中で還元するものである。この場合、流動界面ゾル−ゲル法で得られたゲルナノシートをさらに酸化性雰囲気中で焼成する工程を付与する。本発明では、この製造方法により、シートの厚みが10〜1000nmの金属タンタルナノシートを得るものである。
【0010】
この金属タンタルナノシートの製造方法においてゲルナノシートの厚みを制御する手段としては、キレート化、エステル交換、アルコキシ交換、アシドリシス、酸無水物、二塩基酸との反応などにより化学修飾して加水分解速度を調整したタンタルアルコキシドを用いることによりゲルナノシートの厚みを制御すること、流動界面を形成する水に界面活性剤を添加して表面張力を制御することによりゲルナノシートの厚みを制御すること、流動界面を形成する水温を制御することによりゲルナノシートの厚みを制御すること等をあげることが出来る。
【発明の効果】
【0011】
このようにして本発明によれば、化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解することによりポリマー化した前駆体を水に適度な溶解性を有する溶媒に溶解し、精密にケミカルデザインしたプロセスで流動する水面上に滴下し展開する流動界面ゾル−ゲル法により製造される、厚みが制御され、均一な構造のタンタル酸化物ナノシートを原料にして、これを還元金属蒸気中で還元することにより、複雑な工程を経ることなく金属タンタルナノシートが大量に製造できる。この方法によれば、従来技術では製造できなかった新規な金属タンタルナノシートを市場に供給できる。また、本発明のナノシートは厚みが10〜1000nmであるため、シート内の金属タンタル粒子は極めて微細であり、従って、高比表面積の金属タンタルナノシートが得られるため、これを原料とすることで超高容量電解コンデンサが得られるという有利な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明では、流動界面ゾル−ゲル法で製造されるタンタル酸化物ナノシートを、アルカリ、アルカリ土類あるいは希土類金属蒸気中で還元することにより金属タンタルナノシートを得るものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例をあげて詳細に説明する。
【0013】
本発明の金属タンタルナノシートの出発物質である酸化物セラミックスナノシートの製造方法は、本件特許出願人によりすでに特許出願されている流動界面ゾル−ゲル法(特開2004−224623号公報)を利用することができる。すなわち、化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解によりポリマー化する工程、このポリマーを水に対する適度な溶解性を有する溶媒を用いて所望の濃度の溶液にする工程、この溶液を流動する水面上に周囲の雰囲気を制御されたノズルから精密に連続して滴下しゲルナノシートとする工程、これを回収し乾燥する工程、さらに焼成する工程からなる製造方法である。
化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解によりポリマー化する工程では、化学修飾したタンタルアルコキシドを有機溶媒中で部分加水分解によりポリマー化する。
【0014】
この工程で使用するタンタルアルコキシドは、化学修飾されたタンタルアルコキシドを用いることが好ましい。アルコキシ基は焼成により酸化物セラミックス中から除去されるため一般的には炭素数の少ないエチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル基などが好ましいが、加水分解速度を厳密に制御するために、適宜アルコキシ基を選択することにより加水分解速度を調整することもできる。その方法としては、タンタルアルコキシドをキレート化、エステル交換、アルコキシ交換、アシドリシス、酸無水物、二塩基酸との反応などにより化学修飾して加水分解速度を調整することが好ましい。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、オクタンジオール、ヘキサンジオールのようなグリコール類、アセチルアセトンのようなβ−ジケトン類、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸のようなヒドロキシカルボン酸類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチルのようなケトエステル類、ジアセトンアルコールのようなケトアルコール類のO配位タイプの配位子、エチレンジアミン、アミノアルコール、オキシキノリン、シッフベースのようなN配位タイプの配位子、シクロペンタジエニル化合物のようなC配位タイプの配位子、P、B、S配位タイプの配位子によるキレート化、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルのような有機酸エステル類によるエステル交換反応、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、n−ペンタノールのようなアルキル鎖長の長いアルコール類によるアルコキシ交換反応、酢酸、プロピオン酸、フェニル酢酸のようなカルボン酸類とのアシドリシス、無水酢酸、無水ヘプタン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸のような酸無水物との反応、アジピン酸、マレイン酸、フタル酸のような二塩基酸との反応によりタンタルアルコキシドの一部あるいは全部を加水分解速度の異なる置換機に置換することにより、さらには一部ポリマー化することにより化学修飾して加水分解速度を調整することが可能となる。置換されるアルコキシ基の割合はアルコキシ基の種類により異なるが、全アルコキシ基の5〜80%が置換されていることが好ましい。5%以下では効果が十分ではなく、80%を超えると以下の部分加水分解でポリマー化が不十分となり、ゲルナノシート化する次の工程においてゲル化しにくく好ましくない。
【0015】
このようなタンタルアルコキシドの化学修飾により、タンタルアルコキシド分子中には加水分解の速い置換基と遅い置換機が導入され、場合によっては加水分解によるポリマー化が部分的に達成されたのと同様の効果を期待できる。こうして化学修飾されたタンタルアルコキシドはエタノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、ジエチルエーテルのような水を溶解する溶媒で希釈され、これに同様の溶媒中に所望の量の水を溶解し、さらに必要に応じて塩酸などの酸触媒を加えたものを攪拌しながら加えることにより部分的に加水分解され、ポリマー化する。
【0016】
化学修飾されたタンタルアルコキシドは必ずしも希釈する必要はないが、十分な流動性を確保するために、適宜溶媒で希釈することができる。この希釈用の溶媒は脱水されていることが望ましい。
また混合する水の量はタンタルアルコキシドを部分的に加水分解する量であることが必要であり、一般的に、タンタルアルコキシドの0.5〜2倍モルの範囲で化学量論的に決定されなければならない。すなわち、本発明では、タンタルアルコキシドのポリマー化を、溶媒に可溶であることはもちろん、後述する流動する水面上に精密に連続して滴下しゲルナノシートとする工程において、ポリマー溶液と水との界面で三次元網目構造のポリマーに転換しゲルナノシートを生成するために鎖状ポリマーあるいは分岐構造を有する鎖状ポリマーとして得ることが必須である。水の量がタンタルアルコキシドの0.5倍モルより少ないと鎖状ポリマーを形成しないアルコキシドが残留し、2倍モルを超えるとゲル化するか一部無機微粒子を形成し前駆体溶液を形成しにくくなるので好ましくない。
【0017】
このように調製されたタンタルアルコキシドポリマー溶液は、次の工程に用いることができるが、鎖状ポリマーあるいは分岐構造を有する鎖状ポリマーの十分な発達と溶液の組成および濃度を厳密に制御するために減圧下で熟成および濃縮することが望ましい。熟成時間は濃縮に要する時間で十分である。濃縮温度は室温から100℃で十分であり、100℃以上では精製したポリマーがゲル化する場合があり好ましくない。
【0018】
流動界面ゾル−ゲル法のポリマーを水に対する適度な溶解性を有する溶媒を用いて所望の濃度の溶液にする工程では、得られたポリマーを水に対する適度な溶解性を有する溶媒を用いて所望の濃度の溶液に調整する。
水に対する適度な溶解性を有する溶媒とは、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、プロパナール−1、ブタナール−1、ジエチルエーテル、エチルメチルケトン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、ニトロメタン、ジメチルスルホキシドなどであり、ポリマーの性質にもよるが、例えばイソプロパノール、あるいはイソプロパノールと1−ブタノール、エタノールと1−ブタノール、イソプロパノールとブタナール−1などの混合溶媒が一般によい結果を与える。シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなど水にほとんど不溶の溶媒も用いることができるが、このような溶媒中では基本的に流動界面でポリマーの加水分解による三次元網目構造の生成が起こらず、したがって加水分解速度の制御が著しく困難になり、ナノシートの厚みの制御ができない点で好ましくない。
【0019】
ポリマーの濃度はナノシートの厚みを制御するために厳密に制御しなければならず、1〜98%の濃度が好適である。1%以下ではではゲルナノシートの厚みが実質的に制御できなくなり、98%以上ではポリマーに起因する溶液の粘度の上昇が支配的になり、溶液が次の前駆体溶液を展開するための工程でノズルからの滴下が困難になったり、流動する界面に滴下された際に水面上に広がりにくくなるためナノシートが得られない。
【0020】
調整した前駆体溶液を流動する水面上に周囲の雰囲気を制御されたノズルから精密に連続して滴下しゲルナノシートとする工程では、流動する水面上に前駆体溶液を精密に連続して滴下しゲルナノシートとする。
この工程においては、流動する界面を形成する水の温度の制御、流動する界面を形成する水の表面張力やpHの制御、ゲルナノシートからの成分元素の溶出を制御する物質の溶解、流動する界面上の雰囲気の制御などによって前駆体溶液の展開面積を制御でき、したがってゲルナノシートの膜厚を制御できる。
【0021】
前記の工程で得られたゲルナノシートを回収し乾燥する。乾燥する温度は、室温から100℃の温度範囲でよく、乾燥する雰囲気は大気あるいは酸素雰囲気でよい。
こうして得られたゲルナノシートを本発明の製造方法における金属タンタルナノシートの原料とすることができるが、炭素含有量の低い金属タンタルナノシートを得るために、本発明による製造方法ではさらにゲルナノシートを焼成し、酸化物ナノシートに転換したものを原料として用いる法がよい。すなわち、得られたゲルナノシート中にはポリマー由来の有機物が含有されているので、ゲルナノシートから残留する有機物を除去し、炭素含有量の低い酸化物を得るために所定の温度まで焼成する。このときの昇温速度はゲルナノシートをナノシートの構造を維持させながら酸化物セラミックスに転換させるために重要であり、ゲル中に形成された金属と酸素の三次元的な結合をさらに発達させるために急激に昇温しないことが必要である。好ましくはゲル中の残留有機物が徐々に熱分解し酸化する5〜200℃/時間で昇温する。焼成温度はゲルナノシート中の炭素が酸化除去される温度以上であればよく、一般的には200℃以上であればよい。焼成する雰囲気は大気でよいが、酸化物ナノシートの緻密化を促進し、窒素含有量を低くするために、水蒸気圧を制御したり、酸素分圧を高めた雰囲気を使用することが好ましく、例えば水蒸気圧を制御した酸素雰囲気が好ましい。
【0022】
こうして得られた酸化物ゲルナノシートあるいは酸化物ナノシートを本発明の製造方法における金属タンタルナノシートの原料とすることができる。すなわち、アルカリ、アルカリ土類あるいは希土類金属蒸気中で加熱しながら還元することによって、酸化物ゲルナノシートあるいは酸化物セラミックスナノシートを金属タンタルナノシートに転換する。
【0023】
原料として酸化物ゲルナノシートあるいは酸化物セラミックスナノシートのいずれを用いるかについては所望する金属タンタルナノシートにより異なる。一般的にタンタル酸化物ナノシートはゲルナノシートも含め、熱処理温度が低いほど非晶質構造であり、熱処理温度が高くなるにつれて結晶化し、従って、酸化物ナノシートを形成するタンタル酸化物結晶粒は大きくなる。後述するように還元されて精製する金属タンタルナノシート中の金属タンタル粒子はタンタル酸化物結晶粒の大きさに依存するので、比表面積の大きなナノシートを得たければ低温で処理した酸化物ナノシートを用いればよいが、後述する還元温度も低くする必要があり、結果として還元に長時間を要する。また、ゲルナノシートは、炭素残留量が一般的に多いので、還元して得られる金属タンタルナノシート中の炭素含有量が多くなる傾向にあるので、ゲルナノシートを高温水中でさらに処理し、ゲルナノシート中の有機成分をできるだけ除去することが好ましい。
【0024】
酸化物ゲルナノシートあるいは酸化物ナノシートを還元する方法は公知の方法を用いることができるが、特に、還元金属としてアルカリ、アルカリ土類あるいは希土類金属蒸気を用いる方法が好適である。
アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウムなど、アルカリ土類としては、マグネシウム、カルシウムなど、希土類金属としては、イットリウム、ランタン、セリウムなどを用いることができ、これらの混合物も用いることができ、例えば、セリウム族希土類元素の混合物であるミッシュメタルなども好適に使用できる。
【0025】
本発明方法における還元反応速度は、還元金属であるアルカリ、アルカリ土類あるいは希土類金属とタンタル酸化物ナノシートを直接接触させる方法に比べマイルドであり、ナノシートの形態を保持する上でははるかに有利である。反応速度は、還元金属蒸気圧と温度によって決まるので、還元金属の加熱温度と蒸気温度を制御することにより安定して制御でき、急激な反応による発熱を起こさず反応を進めることができる。
【0026】
一般に、還元金属の蒸気圧は、加熱温度が高いほど高いので、使用する還元金属の融点以上で、しかも還元速度が実質的に実用的である温度に加熱することが必要であり、加熱温度が低すぎると、還元終了までの時間が非常に長くなる。また、加熱温度が高すぎると、蒸気圧が高くなりすぎ、反応が早く起こりすぎるため異常に発熱し好ましくない。還元金属の加熱温度は、適切な蒸気圧が得られるように、用いるアルカリ、アルカリ土類あるいは希土類金属に応じて適宜選択すればよい。例えば、還元金属がマグネシウムの場合には、その溶融温度は約650℃であり、十分な蒸気圧を得るためには800℃以上の加熱温度とすることが好ましい。また、原料として用いるタンタル酸化物ナノシートの熱処理温度が低く、酸化物結晶粒子が小さい場合、結晶成長を進めないために低温で還元することが必要であり、低温でも蒸気圧の高い例えばナトリウムのようなアルカリ金属を用いることが好適である。
【0027】
また、還元により得られる金属タンタルナノシートは1500℃を超える温度では焼結して粗大化するのでタンタル酸化物付近の温度は1500℃以下とする必要があり、従って還元金属の加熱温度も1500℃以下とする。
タンタル酸化物の還元は不活性ガスあるいは減圧下で行うことが必要である。不活性ガスとしては、窒素あるいはアルゴンなどを用いることができる。また、還元金属であるアルカリ、アルカリ土類あるいは希土類金属の量は、タンタル酸化物が五酸化タンタル、Ta、であると仮定して酸素原子を十分酸化物として除去できる量が必要であり、化学両論量、好ましくはその1.3倍量以上とすることが好ましい。
このような還元反応は、例えば、還元金属の蒸気を反応容器内に均一に拡散させて行うことができ、生成した還元金族の酸化物を酸洗浄により除去し、さらに水洗、乾燥することにより高純度の金属タンタルナノシートを得ることができる。
【0028】
以上の製造方法により製造される金属タンタルナノシートは原料である酸化物ナノシートの形態を保持したまま金属タンタルに還元されるため、厚みが10〜1000nmで制御できる。図1に1000℃で熱処理されたタンタル酸化物ナノシートの還元前後のSEM写真を示す。また、図2に1000℃で熱処理されたタンタル酸化物ナノシートのX線回折と還元された金属タンタルナノシートのX線回折の結果を示す。
【0029】
本製造方法では厚みが10〜1000nmで制御された金属タンタルナノシートが得られるが、その厚みのみならず、金属タンタルナノシート中の金属タンタル粒子の大きさはタンタル酸化物ナノシート中のタンタル酸化物粒子の大きさに依存するため、最終的に、金属タンタルナノシートの比表面積は、原料酸化物ナノシートの厚みと熱処理温度、還元温度によって厳密に制御できる。そして原料酸化物ナノシートの比表面積は5〜250m/gと広範囲に制御できることが知られており、従って、金属タンタルナノシートの比表面積も同様に広範囲に制御できると期待される。このような金属タンタルナノシートは、超高容量電解コンデンサの電極材料用タンタル粉末に代わる次世代タンタルコンデンサ用原料として期待される。
次に、本発明の具体例を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
1モルのペンタエトキシタンタルを過剰の2−プロパノールに溶解し、加熱しながら減圧下で濃縮してペンタ−2−プロポキシタンタルを得た。これを1モルの3−オキソブタン酸エチルでキレート化し、発熱がおさまってから、攪拌しながら塩酸とエタノールの混合液に溶解した1.35モルの水を加え部分加水分解を行った。さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で60℃まで加熱し濃縮して、粘稠な生成物を得た。これにイソプロパノールを加え、75重量%溶液を調整した。
【0031】
この溶液を酸化物セラミックスナノシート製造装置を用いて、流動界面ゾル−ゲル法により、ノズル周囲の雰囲気を窒素雰囲気として、23℃に制御した流動する水面上に12mgの液滴で正確に滴下し、ゲルナノシートを作製した。得られたゲルナノシートを100℃で3時間、大気中で乾燥し、その後200℃/時の昇温速度で大気中で1000℃まで加熱し、1時間保持して焼成し、厚みがおよそ90nmのタンタル酸化物ナノシートを得た。
【0032】
このタンタル酸化物ナノシートを横型環状炉内にタンタル製反応容器を配置し、この反応容器の一方に還元金属を入れたタンタル製トレイを置き、他方に5gのタンタル酸化物ナノシートを厚さ3cmになるように入れたタンタル製トレイを配置して収納した。還元金属は、タンタル酸化物ナノシートに対して酸素原子を酸化物として除去できる量の1.4倍量とした。反応容器に蓋をした後、アルゴンガス雰囲気中で表1に示す温度まで加熱し、4時間保持した。冷却後、タンタル製トレイからナノシートを取り出し、生成した還元金属の酸化物を除去するために1Mの塩酸に浸漬し,酸洗浄した後、水洗し乾燥した。このようにして得られたナノシートについて含有酸素量とBET比表面積の値を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
このように本発明では、酸化物ナノシートの形状を保持したまま金属タンタルナノシートに還元されるため、シートの厚みが約90nmの金属タンタルナノシートが得られた。そして、この金属タンタルナノシート中にはシート厚みより小さい粒径(SEM観察の結果から8〜20nm)の結晶粒が観測され、そのためにBET比表面積が極めて高い金属タンタルナノシートが得られたと推定された。
【実施例2】
【0035】
1モルのペンタエトキシタンタルを0.8モルの3−オキソブタン酸エチル(Lと略記する)でキレート化し、これに1モルの2−プロパノールと1−ブタノールを加え、加熱しながら減圧下で濃縮してTaL(OC(O)(O)を得た。これに、攪拌しながら塩酸とエタノールの混合液に溶解した1.35モルの水を加え部分加水分解を行った。さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で60℃まで加熱し濃縮して、粘稠な生成物を得た。これにイソプロパノールを加え、90重量%溶液を調整した。
【0036】
この溶液を酸化物セラミックスナノシート製造装置を用いて、流動界面ゾル−ゲル法により、ノズル周囲の雰囲気を窒素雰囲気として、界面活性剤としてポリオキシエチルフェニルエーテルを水1Lに対して0.085g溶解して水の表面張力を制御した水を用いて、流動する水面上に14mgの液滴で正確に滴下し、ゲルナノシートを作製した。水の温度は、27、32、34℃に制御して3種類の膜厚に制御した。得られたゲルナノシートを80℃で12時間、大気中で乾燥し、その後200℃/時の昇温速度で酸素雰囲気中で800℃まで加熱し、1時間保持して焼成しタンタル酸化物ナノシートを得た。
【0037】
このタンタル酸化物ナノシートを実施例1と同様の方法で、マグネシウムで1100℃で6時間還元した。冷却後、タンタル製トレイからナノシートを取り出し、生成した還元金属の酸化物を除去するために1Mの塩酸に浸漬し,酸洗浄した後、水洗し乾燥した。このようにして得られたナノシートについて含有酸素量とBET比表面積の値を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
このように、本発明では、酸化物ナノシートの形状を保持したまま金属タンタルナノシートに還元されるため、シートの厚みが約200〜500nmで制御された金属タンタルナノシートが得られた。
【実施例3】
【0040】
1モルのペンタエトキシタンタルを0.8モルの3−オキソブタン酸エチルでキレート化し、これに2モルの1−ブタノールを加え、35℃で加熱しながら減圧下で濃縮した。濃縮物に攪拌しながら塩酸とエタノールの混合液に溶解した1.35モルの水を加え部分加水分解を行った。さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で65℃まで加熱し濃縮して、粘稠な生成物を得た。これにイソプロパノールを加え、95重量%溶液を調整した。
【0041】
この溶液を酸化物セラミックスナノシート製造装置を用いて、流動界面ゾル−ゲル法により、ノズル周囲の雰囲気を窒素雰囲気として、23℃に制御した流動する水面上に12mgの液滴で正確に滴下し、ゲルナノシートを作製した。ゲルナノシートを80℃の水中でゲル化をさらに進めるために24時間保持した。得られたゲルナノシートを80℃で12時間、大気中で乾燥した。その後200℃/時の昇温速度で酸素中で所定の温度まで加熱し、1時間保持して焼成し、厚みがおよそ80nmのタンタル酸化物ナノシートを得た。
ゲルナノシート及びタンタル酸化物ナノシートを実施例1と同様の方法でマグネシウムで所定温度で所定時間還元した。冷却後、タンタル製トレイからナノシートを取り出し、生成した還元金属の酸化物を除去するために1Mの塩酸に浸漬し,酸洗浄した後、水洗し乾燥した。このようにして得られたナノシートについて含有酸素量とBET比表面積の値を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
試料14の金属タンタルナノシートを、1250℃及び1350℃で30分間焼結して成型密度がそれぞれ5.33、6.57g・cmの陽極体を作製しCV値を測定したところ、それぞれ129000、158000μFV/gとなり、極めて高容量のコンデンサが製造できることが分かった。この理由は、BET比表面積が極めて高い金属タンタルナノシートを原料としたことによると推定された。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施例による金属タンタルナノシートの製造方法において、1000℃で熱処理されたタンタル酸化物ナノシートの還元前後のSEM写真である。
【図2】本発明の一実施例による金属タンタルナノシートの製造方法において、1000℃で熱処理されたタンタル酸化物ナノシートのX線回折チャートと還元された金属タンタルナノシートのX線回折チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学修飾したタンタルアルコキシドを部分加水分解によりポリマー化し、このポリマーを水に対する適度な溶解性を有する溶媒を用いて所望の濃度の溶液にした後、流動界面ゾル−ゲル法でゲルナノシート化し、乾燥して得たゲルナノシートを必要に応じてタンタル酸化物ナノシート化した後、アルカリ、アルカリ土類あるいは希土類金属蒸気中で還元することを特徴とする金属タンタルナノシートの製造方法。
【請求項2】
流動界面ゾル−ゲル法で得られたゲルナノシートをさらに酸化性雰囲気中で焼成する工程を付与することを特徴とする請求項1記載の金属タンタルナノシートの製造方法。
【請求項3】
キレート化、エステル交換、アルコキシ交換、アシドリシス、酸無水物、二塩基酸との反応などにより化学修飾して加水分解速度を調整したタンタルアルコキシドを用いてゲルナノシートの厚みを制御することを特徴とする請求項1記載の金属タンタルナノシートの製造方法。
【請求項4】
流動界面を形成する水に界面活性剤を添加して表面張力を制御することによりゲルナノシートの厚みを制御することを特徴とする請求項1または3に記載の金属タンタルナノシートの製造方法。
【請求項5】
流動界面を形成する水温を制御することによりゲルナノシートの厚みを制御することを特徴とする請求項1、3または4に記載の金属タンタルナノシートの製造方法。
【請求項6】
シートの厚みが10〜1000nmであることを特徴とする請求項1〜5記載の製造方法により製造される金属タンタルナノシート。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−249449(P2006−249449A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−63416(P2005−63416)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(503032588)株式会社アート科学 (12)
【出願人】(504106505)財団法人日立地区産業支援センター (3)
【Fターム(参考)】