説明

金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物およびこれを用いる金属チタン酸塩薄膜の形成方法

【課題】金属チタン酸塩薄膜前駆体の変質による結晶化温度の上昇を抑制するとともに、均質な薄膜を形成することができる均一な金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物、および、前記組成物を用いる金属チタン酸塩薄膜の形成方法を提供する。
【解決手段】金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物は、特定のチタン化合物、チタン化合物以外の金属元素(M)化合物およびα−アミノ酸を必須とする。また、金属チタン酸塩薄膜形成方法は、前記組成物を基板に塗布し、加熱することにより、前記基板上に金属チタン酸塩薄膜を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体膜、高誘電体膜、表面弾性波素子基板、周波数フィルター、光検出素子用焦電性膜、バリスター素子、ガスセンサー、湿度センサーなどに使用される金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物およびこれを用いる金属チタン酸塩薄膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸ビスマス(BiTi12)、チタン酸鉛(PbTiO)などの金属チタン酸塩は、強誘電性、圧電性、焦電性、高誘電率、半導体などの特性を示し、強誘電体ランダムアクセスメモリ用の強誘電体膜、コンデンサー用の高誘電体膜、表面弾性波素子基板、周波数フィルター、光検出素子用焦電性膜、バリスター素子、ガスセンサー、湿度センサーなどの分野で有用である。
また、近年、電子回路を構成する金属配線、透明電極などのほか、抵抗体、コンデンサーなどの受動素子膜を、インクジェット法やスクリーン印刷法により作製する検討が行われ、一部実用化されつつある。コンデンサーを構成する高誘電体膜として、上記金属チタン酸塩は有望視されている。
【0003】
このような金属チタン酸塩薄膜を形成する方法としては、スパッタリングや真空蒸着などの方法が知られているが、これらの方法では、装置が高価であるうえ、生産性が悪い、などの欠点があった。そこで、近年、金属チタン酸塩薄膜前駆体が溶解した、金属チタン酸塩薄膜前駆体溶液を基板に塗布し、加熱などにより基板上に金属チタン酸塩薄膜を形成する方法が用いられている。後者の方法によれば、金属材料の無駄をなくして効率的にかつ簡易に金属チタン酸塩薄膜を生成することができる。
例えば、特許文献1では、バリウム溶液とチタンアルコキシド溶液と加水分解抑制剤とを均一に混合して調整されるコーティング溶液を、基体に塗布し、熱処理により最終的にチタン酸バリウム薄膜を製造する方法が開示されている。
【特許文献1】特許第3161471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような、チタン酸バリウムなどの金属チタン酸塩薄膜前駆体溶液を基板に塗布し、熱処理により金属チタン酸塩薄膜を形成する方法においては、バリウムとチタンの両成分を含む金属チタン酸塩薄膜前駆体が大気中において化学的に不安定であるために、塗布前に溶液中に含まれる金属チタン酸塩薄膜前駆体が変質してしまうという問題がある。例えば、バリウム成分として、金属アルコキシドを用いた場合には、加水分解しやすく、また、水酸化物を用いた場合には、炭酸ガスを吸収して炭酸塩になり、沈殿が生じやすい。一方、チタンアルコキシドも加水分解して水酸化物となり沈殿しやすい。このように、金属チタン酸塩薄膜前駆体が変質すると、組成が不均一な混合沈殿物となり、金属チタン酸塩薄膜の生成温度が高くなったり、均質な薄膜形成が阻害される、といった問題が生じる。しかも、前記結晶化温度が高くなるほど、基板は高温に耐えうるものでなければならなくなり、使用できる基板の種類が制限される。
【0005】
特許文献1では、加水分解抑制剤として、アルカノールアミン、グリコール類およびβ−ジケトンからなる群より選ばれた1種または2種以上のものが挙げられており、該加水分解抑制剤はチタンアルコキシドのチタンイオンと反応してキレート化合物を生成することにより、チタンアルコキシド溶液を安定化するものである。しかし、前記加水分解抑制剤のみでは、バリウムアルコキシドの加水分解を十分に抑制することができず、バリウムアルコキシドの配合量を減らす必要があるために、特許文献1の方法ではバリウムアルコキシドに代えて、所定のバリウム塩を所定のカルボン酸に溶解させたバリウム溶液を用いているのである。したがって、特許文献1の方法にかかる加水分解抑制剤のみでは、金属アルコキシドの加水分解を十分に抑制することが困難であり、使用できる金属チタン酸塩薄膜前駆体溶液の組成なども限定されてしまう。
【0006】
したがって、本発明は、金属チタン酸塩薄膜前駆体の変質を十分に抑制して、変質による結晶化温度の上昇を抑制するとともに、均質な薄膜を形成することができる均一な金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物、および、前記前駆体組成物を用いる金属チタン酸塩薄膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記事実に鑑み、種々の検討を重ねた結果、特定のアミノ酸が存在する有機溶媒中では、金属チタン酸塩薄膜前駆体の溶解が極めて促進され、かつ、金属成分もチタン成分もともに均一な溶液を得ることができ、さらに、前記均一な溶液中においては、金属チタン酸塩薄膜前駆体は化学的に非常に安定し、上述した金属チタン酸塩薄膜前駆体の変質を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、チタン化合物、チタン化合物以外の金属元素(M)化合物およびα−アミノ酸を必須とする金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物であって、前記金属元素(M)がアルカリ土類金属元素、ランタノイド系金属元素、PbおよびBiからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記チタン化合物と金属元素(M)化合物との含有割合(Ti/M)が原子比で4/1〜1/4の範囲であり、前記α−アミノ酸がイミノ酸、塩基性アミノ酸、芳香族アミノ酸および含硫アミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、ことを特徴とする、金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物である。
【0008】
また、本発明は、前記金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物を基板に塗布し、加熱することにより、基板上に金属チタン酸塩薄膜を形成する、金属チタン酸塩薄膜の形成方法である。
以下、本明細書において、「チタン以外の金属元素(M)」を単に「金属元素(M)」、「チタン化合物以外の金属元素(M)化合物」を単に「金属元素(M)化合物」と表記する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属チタン酸塩薄膜前駆体の溶解性が向上し、金属成分およびチタン成分ともに均一、かつ、化学的に安定で金属チタン酸塩薄膜前駆体の変質が起き難い金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物を得ることができる。そのため、該前駆体組成物の濃度を高くしたり、添加剤の量を増やしたりすることができるとともに、有機溶媒に溶け難いことや、大気中において化学的に非常に不安定であることを理由として、従来用いられていなかった金属化合物を金属チタン酸塩薄膜前駆体として用いることもできるようになる。さらに、基板への塗布前における金属チタン酸塩薄膜前駆体の変質を抑制することができることに伴い、金属チタン酸塩薄膜の生成温度が高くなるのを防止することができる。
【0010】
上述のように、前記金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物に使用される金属チタン酸塩薄膜前駆体の種類、溶液の濃度、添加剤の量などは、様々に変化させることができ、したがって、本発明にかかる金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物を用いれば、目的や用途に応じた種々の金属チタン酸塩薄膜を形成することができる。しかも、前記金属チタン酸塩薄膜は、均質なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において金属チタン酸塩薄膜前駆体として用いられるチタン化合物および金属元素(M)化合物としては、最終的に膜として得るようにする金属チタン酸塩を、加熱による反応で生成し得る、いわゆる前駆体的な従来公知の各種チタン化合物および金属元素(M)化合物であれば、特に限定されず、例えば、有機金属化合物、無機金属化合物など、特に有機金属化合物が好ましく挙げられる。
チタン化合物の場合、前記有機金属化合物として、特に、金属アルコキシド類、金属カルボン酸塩、金属アルコキシカルボキシレートやこれらの(部分)加水分解物、(部分)加水分解縮合物などが好ましく挙げられる。
【0012】
前記金属アルコキシド類であるチタン化合物としては、例えば、Ti(OR)で表される金属アルコキシド類が挙げられ、前記Rとしては、アルキル基、アルコキシアルキル基が好ましい。
前記アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、t−ブチルなどが挙げられ、このようなアルキル基を有するアルコキシド類の好ましい例としては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシドなどが挙げられる。特に、チタンテトライソプロポキシドが好ましい。
【0013】
前記アルコキシアルキル基としては、例えば、エトキシエチル、メトキシプロピルなどが挙げられ、このようなアルキル基を有するアルコキシド類の好ましい例としては、チタンテトラエトキシエトキシド、チタンテトラメトキシプロポキシドなどが挙げられる。
前記有機金属カルボン酸塩であるチタン化合物としては、例えば、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、ナフテン酸塩およびシュウ酸塩等の1価または2価の脂肪族カルボン酸塩や芳香族カルボン酸塩、その他これら金属カルボン酸塩の塩基性塩などが挙げられる。有機溶媒への溶解力に優れる点で、炭素数3(プロピオン酸)〜炭素数6(ヘキサン酸)の飽和脂肪酸の塩が好ましい。
【0014】
チタンのこれらのカルボン酸塩は、例えば、チタンの酢酸塩またはアルコキシドをカルボン酸中で加熱処理することにより得ることができる。
前記アルコキシド類、金属カルボン酸塩、金属アルコキシカルボキシレートの(部分)加水分解縮合物であるチタン化合物としては、縮合度2〜20のものが好ましく、また、アルコキシドの縮合物(例えば、チタンテトラn−ブトキシドテトラマー)が好ましい。
金属元素(M)化合物の場合には、前記有機金属化合物として、特に、金属アルコキシド類、水酸化物、金属カルボン酸塩、金属アルコキシカルボキシレートやこれらの(部分)加水分解物、(部分)加水分解縮合物などが好ましく挙げられる。
【0015】
前記金属アルコキシド類である金属元素(M)化合物としては、例えば、M(OR)(n:金属元素Mの原子価)で表される金属アルコキシド類が挙げられ、前記Rとしては、アルキル基、アルコキシアルキル基が好ましい。
前記アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、t−ブチルなどが挙げられ、前記アルコキシアルキル基としては、例えば、エトキシエチル、メトキシプロピルなどが挙げられる。α−アミノ酸の添加効果に優れる点でアルコキシアルキル基が好ましい。
前記有機金属カルボン酸塩である金属元素(M)化合物としては、例えば、金属ギ酸塩、金属酢酸塩、金属プロピオン酸塩、金属ステアリン酸塩、金属ナフテン酸塩および金属シュウ酸塩等の1価または2価の脂肪族カルボン酸塩や芳香族カルボン酸塩、その他これら金属カルボン酸塩の塩基性塩などが挙げられる。有機溶媒への溶解力に優れる点で、炭素数3(プロピオン酸)〜炭素数6(ヘキサン酸)の飽和脂肪酸の塩が好ましい。
【0016】
前記アルコキシド類、金属カルボン酸塩、金属アルコキシカルボキシレートの(部分)加水分解縮合物である金属元素(M)化合物としては、縮合度2〜20のものが好ましく、また、アルコキシドの縮合物が好ましい。
上記した有機金属化合物以外にも、例えば、金属原子に各種の単座配位子や多座配位子が配位した錯体などを挙げることができ、これらは1種のみ用いても2種以上を併用してもよく、限定はされない。前記多座配位子としては、例えば、ジオキシ化合物、オキシオキシム類、オキシアルデヒド類およびその誘導体、ジケトン化合物、ケトエステル化合物、オキシキノン類、トロボン類、N−オキシド化合物およびその類似化合物、ヒドロキシルアミン類、オキシン類、アルジミン類、オキシアゾ化合物、ニトロソナフトール類、トリアゼン類、ビウレット類、ホルマザン類、ジチゾン類、ピグアニド類、グリオキシム類、ベンゾインオキシム類、ジアミン類、ヒドラジン誘導体ならびにジチオエーテル類等の二座配位子;アスパラギン酸およびジエチレントリアミン等の三座配位子;ポルフィン類、アザポルフィン類およびフタロシアニン類等の四座配位子;エチレンジアミン四酢酸およびトリスサリチルアルデヒドジイミン等の五座配位子;等が挙げられ、これらは1種のみ用いても2種以上を併用してもよく、限定はされない。
【0017】
前記無機金属化合物としては、例えば、金属硫酸塩、金属炭酸塩、金属硝酸塩、金属ハロゲン化物などの無機塩や、金属アンミン錯体等が挙げられ、なかでも、低温で酸根が膜に残留し難い点で、金属硝酸塩、金属炭酸塩および金属アンミン錯体等が好ましい。
チタン化合物の場合には、上記に例示した化合物のうち、特に、チタンのアルコキシド類、カルボン酸塩、チタンアルコキシカルボキシレートが好ましい。金属元素(M)化合物の場合には、上記に例示した化合物のうち、本発明の方法により得られる金属チタン酸塩薄膜において金属チタン酸塩以外の成分を加熱により容易に除去できる点で、特に、金属アルコキシド類、金属カルボン酸塩、金属アルコキシカルボキシレート、金属水酸化物が好ましい。また、チタン化合物、金属元素(M)化合物のいずれの場合においても、前記加熱の温度が低く、低温で金属チタン酸塩結晶を生成し易い点で、(金属)アルコキシド類、(金属)カルボン酸塩、(金属)アルコキシカルボキシレートおよびこれらの(部分)加水分解縮合物が好ましく、特に(金属)アルコキシド類およびその(部分)加水分解縮合物が好ましい。
【0018】
金属元素(M)は、アルカリ土類金属元素、ランタノイド系金属元素、PbおよびBiからなる群より選ばれる少なくとも1種である。前記金属元素(M)からなる金属元素(M)化合物として、特に、バリウム化合物、ストロンチウム化合物、ビスマス化合物、鉛化合物およびランタン化合物が好ましい。また、アルカリ土類金属からなる金属元素(M)化合物は、変質しやすく、特に、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムからなる金属元素(M)化合物は変質しやすいため、従来の技術で安定な金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物を得ることは困難であった。本発明によれば、前記変質を抑制することができることから、アルカリ土類金属、特に、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムを金属元素(M)として用いる場合に、本発明にかかる金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物または金属チタン酸塩薄膜の形成方法を用いる意義が大きい。前記した金属元素(M)化合物をチタン化合物とともに用いることで、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどの金属チタン酸塩薄膜を形成するための金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物が得られる。
【0019】
金属元素(M)化合物として特に好ましいものを、金属元素(M)の種類毎に分けて以下に例示する。
金属元素(M)がマグネシウムである場合、ジメトキシマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、ジ−i−プロポキシマグネシウム、ジ−n−プロポキシマグネシウム、ジ−n−ブトキシマグネシウム、ジ−i−ブトキシマグネシウム、ビス(ジピバロイルメタナト)マグネシウムなどのアルコキシド類:酢酸マグネシウム、蓚酸マグネシウムなどのカルボン酸塩:水酸化マグネシウム、硝酸マグネシウムなどが好ましい。
金属元素(M)がカルシウムである場合、ジメトキシカルシウム、ジエトキシカルシウム、ジ−i−プロポキシカルシウム、ジ−n−プロポキシカルシウム、ジ−n−ブトキシカルシウム、ジ−i−ブトキシカルシウム、ジ−sec−ブトキシカルシウムなどのアルコキシド類:酢酸カルシウム、蓚酸カルシウムなどのカルボン酸塩:水酸化カルシウムなどが好ましい。
【0020】
金属元素(M)がストロンチウムである場合、ジメトキシストロンチウム、ジエトキシストロンチウム、ジ−i−プロポキシストロンチウム、ジ−n−プロポキシストロンチウム、ジ−n−ブトキシストロンチウム、ビス(ジピバロイルメタナト)ストロンチウムなどのアルコキシド類:酢酸ストロンチウム、蓚酸ストロンチウムなどのカルボン酸塩:水酸化ストロンチウム、硝酸ストロンチウムなどが好ましい。
金属元素(M)がバリウムである場合、ジメトキシバリウム、ジエトキシバリウム、ジ−i−プロポキシバリウム、ジ−n−プロポキシバリウム、ジ−n−ブトキシバリウム、ジ−i−ブトキシバリウム、ジ−sec−ブトキシバリウム、ジ−t−ブトキシバリウムなどのアルコキシド類:酢酸バリウム、蓚酸バリウムなどのカルボン酸塩:水酸化バリウム、硝酸バリウム、炭酸バリウムなどが好ましい。
【0021】
金属元素(M)がランタンである場合、トリ−i−プロポキシランタン、トリス(ジピバロイルメタナト)ランタンなどのアルコキシド類:酢酸ランタン、蓚酸ランタンなどのカルボン酸塩などが好ましい。
金属元素(M)がビスマスである場合、トリ−i−プロポキシビスマス、トリ−t−アミロキシビスマス、トリス(ジピバロイルメタナト)ビスマスなどのアルコキシド類:塩基性酢酸ビスマスなどのカルボン酸塩:硝酸ビスマスなどが好ましい。
金属元素(M)が鉛である場合、ジ−i−プロポキシ鉛、ビス(ジピバロイルメタナト)鉛などのアルコキシド類:酢酸鉛、蓚酸鉛などのカルボン酸塩:硝酸鉛などが好ましい。
【0022】
チタン化合物と金属元素(M)化合物との含有割合(Ti/M)は、原子比で4/1〜1/4の範囲である。
金属チタン酸塩薄膜前駆体(チタン化合物および金属元素(M)化合物)の含有割合(金属チタン酸塩薄膜の場合は金属チタン酸塩換算で)は、限定されるものではないが、基板への良好な塗工性が得られるものであることが好ましい。かかる観点から、例えば、金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物全体に対する金属チタン酸塩薄膜前駆体中の金属元素総量の含有割合が、金属原子換算で、0.001〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.005〜5重量%、さらに好ましくは0.05〜5重量%である。前記含有割合が0.001重量%未満であると、得られる膜の膜厚が薄すぎて金属チタン酸塩の機能が充分に発揮されないおそれがあり、10重量%を超えると、膜厚均一性や結晶性の低い膜となるおそれがある。
【0023】
本発明にかかる金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物には、イミノ酸、塩基性アミノ酸、芳香族アミノ酸および含硫アミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも一種のα−アミノ酸が含まれる。
前記イミノ酸としては、特に限定されないが、例えば、プロリン、ヒドロキシプロリンなどが挙げられる。特にプロリンが好ましい。
前記塩基性アミノ酸としては、特に限定されないが、例えば、リシン、ヒドロキシリシン、ヒスチジン、アルギニンなどが挙げられる。
前記芳香族アミノ酸としては、特に限定されないが、例えば、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンなどが挙げられる。
【0024】
前記含硫アミノ酸としては、特に限定されないが、例えば、システイン、シスチン、メチオニンなどが挙げられる。
前記アミノ酸は、限定されるものではないが、例えば、金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物中に、金属チタン酸塩薄膜前駆体中の金属原子総量(Ti+M)に対するモル比で0.1〜10倍含有されていることが好ましく、より好ましくは0.2〜5倍である。前記含有割合が0.1倍未満であると、溶媒効果、安定化効果が不十分となるおそれがあり、10倍を超えると、金属チタン酸塩薄膜に欠陥が生じるおそれがある。
本発明にかかる金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲で、必要に応じ、反応促進剤などの添加剤を、複数種類使用してもよい。
【0025】
前記反応促進剤としては、特に限定されないが、例えば、過酸化水素などの酸化剤などが挙げられる。
本発明にかかる金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物として、有機溶媒を用いた金属チタン酸塩薄膜前駆体溶液が例示できる。前記有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、炭化水素類など従来公知の有機溶媒を用いることができ、特に限定されないが、例えば、以下に示す有機溶媒が好ましく使用される。すなわち、金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物中での金属チタン酸塩薄膜前駆体の溶解性、均一化の促進や経時安定性の向上という、本発明にかかる効果を重視する場合には、グリコールやグリコール誘導体(例えば、グリコールが有する二つのヒドロキシル基の1つまたは両方が置換されたエーテル、エステル、エーテルエステルなど)を有機溶媒として使用することが好ましい。特に、チタン化合物または金属元素(M)化合物としてカルボン酸塩を用いた場合にその効果が大きい。前記グリコールやグリコール誘導体としては、1分子中のエーテル鎖、エステル鎖の総炭素数が4以上であるグリコールやその誘導体、ポリグリコールやその誘導体(例えば、ジエチレングリコールジアセテートなど)を使用することが好ましい。
【0026】
より具体的には、前記グリコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのモノアルキレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコールが好ましく挙げられ、その誘導体として、モノアルキレングリコールのモノアルキルエーテル、ジアルキルエーテルなどのエーテル類、モノ酢酸エステル、ジ酢酸エステル、モノアルキルモノ酢酸エステルや、ポリアルキレングリコールのモノアルキルエーテル、ジアルキルエーテルなどのエーテル類、モノ酢酸エステル、ジ酢酸エステル、モノアルキルモノ酢酸エステルが好ましく挙げられる。中でも好ましいのは、モノアルキレングリコールの誘導体であり、特にモノアルキルエーテルが好ましい。
【0027】
グリコール、グリコール誘導体を、有機溶媒の一部として用いる場合、特に限定するわけではないが、例えば、有機溶媒全体に対して1〜80重量%用いることが好ましく、特に5重量%以上用いることが好ましい。
分子内にπ電子を有するπ電子含有化合物も金属チタン酸塩薄膜前駆体の溶解性、均一化の促進や経時安定性の向上の点において好ましく使用でき、特に、チタン化合物または金属元素(M)化合物としてカルボン酸塩、アルコキシド類、アルコキシカルボキシレートを用いた場合に効果が大きい。特に限定するわけではないが、例えば、ベンゼン、スチレン、キシレン、トルエン、ナフタレン、ビフェニルなどの芳香族炭化水素、フェノールなどの芳香族アルコール、ベンジルアルコールなどの芳香環を有する脂肪族アルコールなどが好ましく例示でき、特に、ベンジルアルコールが好ましい。
【0028】
分子内にπ電子を有するπ電子含有化合物を用いる場合、特に限定するわけではないが、例えば、金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物中の金属原子総量に対して0.5倍モル以上用いることが好ましく、特に2倍モル以上用いることが好ましい。
カルボン酸も金属チタン酸塩薄膜前駆体の溶解性、均一化の促進や経時安定性の向上の点において好ましく使用でき、特に、チタン化合物、金属元素(M)化合物としてカルボン酸塩、アルコキシド類、アルコキシカルボキシレートを用いた場合に効果が大きい。特に限定するわけではないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ステアリン酸、ナフテン酸およびシュウ酸等の1価または2価の脂肪族カルボン酸塩や芳香族カルボン酸塩、その他オキシカルボン酸やアミノカルボン酸などが挙げられる。好ましくは炭素数1〜18の脂肪族カルボン酸(特に、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、へプタン酸、ラウリル酸、ステアリン酸)であり、より好ましくは炭素数3以上の脂肪族カルボン酸、特に炭素数3(プロピオン酸)〜5の飽和脂肪酸である。
【0029】
カルボン酸を用いる場合、特に限定するわけではないが、例えば、金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物中の金属原子総量に対して0.1〜20倍モル用いることが好ましく、特に1〜10倍モル用いることが好ましい。
また、有害性の低減を重視する場合には、有機溶媒としてエタノールを使用することが好ましく、低温で溶媒残留のない金属チタン酸塩薄膜の形成を重視する場合には、メタノール、エタノールおよびイソプロパノール等の低沸点溶媒を使用することが好ましい。耐熱性の高い基板を用いる場合には、高沸点溶媒を溶媒成分として含有させることにより、結晶性に優れた膜が得られやすく、好ましく採用される。
【0030】
有機溶媒は1種または2種以上を組み合わせて用いても良く、例えば、前記各有機溶媒の利点を生かして、次のように2種以上組み合わせれば、より一層好ましい有機溶媒となる。すなわち、有害性のないエタノールや用いる基板の耐熱性に適した沸点を持つ有機溶媒を主として用い、残部に金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物中での金属チタン酸塩薄膜前駆体の溶解性、均一化を促進するグリコール、グリコール誘導体、π電子含有化合物、カルボン酸などを用いることにより、各有機溶媒の利点を併有した有機溶媒とすることができる。
本発明にかかる金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物は、特に限定するわけではないが、例えば、有機溶媒にα−アミノ酸を溶解させたのち、チタン化合物および金属元素(M)化合物を混合し、撹拌することにより調製することが好ましい。撹拌する際、常温でも良いが、50℃以上に加熱することで、α−アミノ酸の添加効果を短時間で得ることができ、好ましい。チタン化合物、金属元素(M)化合物が、カルボン酸塩または水酸化物である場合やα−アミノ酸として塩基性アミノ酸、芳香族アミノ酸、含硫アミノ酸を用いる場合には、加熱することが好ましい。その加熱温度の上限としては、α−アミノ酸の分解温度以下であることが好ましく、例えば300℃以下である。前記したカルボン酸やπ電子含有化合物などの添加剤を使用する場合には、予め有機溶媒に溶解させておくことが好ましい。
【0031】
本発明の方法に用い得る基板の材質としては、限定されず、例えば、酸化物、窒化物、炭化物等のセラミクス、ガラスなどの無機物;PET、PBT、PENなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、アモルファスポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、アラミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶ポリマーなどの耐熱性樹脂のほか、従来公知の(メタ)アクリル樹脂、PVC樹脂、PVDC樹脂、PVA樹脂、EVOH樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、PTFE、PVF、PGF、ETFE等のフッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂等の各種樹脂、および、これら各種樹脂(フィルム、シート等)にアルミニウム、アルミナ、シリカなどを蒸着したもの;銀や銅やシリコン等の各種金属類;ガラス繊維コンポジットエポキシ樹脂およびシリカコンポジットエポキシ樹脂などの有機質無機質コンポジット類;などが好ましく挙げられる。また、前記基板の材質は、機能面においても、限定はされず、例えば、光学的には透明、不透明;電気的には絶縁体、導電体、p型またはn型の半導体、低誘電体または高誘電体;磁気的には磁性体、非磁性体;など、用途・使用目的等に応じて選択すればよい。
【0032】
本発明の金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物を用いることにより、金属チタン酸塩薄膜の生成温度が高くなることを防止することはできるが、それでもやはり、基板として樹脂を用いる場合には、耐熱性の樹脂が好ましく、ポリイミド等の絶縁特性に優れた樹脂がさらに好ましい。
基板の形状・形態としては、例えば、フィルム状(シート状を含む)、板状、繊維状、積層体状などが挙げられ、用途・使用目的等に応じて選択すればよく、限定はされないが、小型化・軽量化等を考慮するとフィルム状等が好ましい。
基板としては、銅貼りフィルムや、ガラスエポキシ積層基板、ビルドアップ積層基板などのプリント配線基板に例示される、いわゆる2次加工品も用いることができる。
【0033】
金属チタン酸塩を基板上に成膜させる方法としては、特に限定されないが、基材上に金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物を塗布し、加熱する方法が挙げられ、基板への塗布方法としては、スクリーン印刷法により金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物を基板に塗る方法のほかに、金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物を噴霧するスプレーコーティング法、金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物に基板を浸漬した後引き上げるディップコーティング法、基板をスピンさせて塗膜の厚みの均一化と薄膜化を図るスピンコーティング法、インクジェットヘッドノズルから金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物を吐出するインクジェット法などがある。中でも、スプレーコーティング法が好適である。
【0034】
基材上に金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物を塗布する前に、基材を予め加熱しておいても良く、その場合の加熱温度としては50〜500℃が好ましく、100〜350℃がより好ましく、特に100〜200℃が好ましい。
本発明にかかる金属チタン酸塩薄膜の形成方法では、金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物を基板に塗布し、加熱処理するものであるが、前記加熱処理の温度としては、特に限定されないが、金属チタン酸塩を結晶化させるために、例えば、200〜1500℃とする。好ましくは、500〜1400℃である。基材上に金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物を塗布する前に、基材を予め加熱しておいた場合であっても、最終的には、金属チタン酸塩を結晶化させるための前記加熱処理温度で加熱処理することが好ましい。
【0035】
本発明にかかる金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物から得ることのできる金属チタン酸塩は、前記したチタン化合物や金属元素(M)化合物に含まれるTiと金属元素(M)を必須の金属成分とする金属チタン酸塩であり、好ましくは、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸カルシウム(CaTiO)、チタン酸マグネシウム(MgTiO)、チタン酸ビスマス(BiTi12)、チタン酸鉛(PbTiO)、チタン酸ランタン(LaTi)などが例示できる。中でも、特に、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸鉛、チタン酸ランタンが好ましい。
【0036】
また、上記金属チタン酸塩は、Tiと金属元素(M)のみを金属成分とする金属チタン酸塩に限られるものではなく、TiやBa、Srなどの金属元素(M)の一部を他の金属元素で置換してなる化合物も包含される。例えば、チタン酸バリウムを例に挙げれば、Baの一部をSrやCaなどの2価の金属元素で置換した化合物(例えば、SrBa1−xBaTiO(0<x<1))や、Tiの一部をZr、Sn、Hfなどの4価の金属元素で置換した化合物が挙げられる。さらに、Tiや金属元素(M)の一部を異なる原子価の金属元素で置換し、不定比組成にしてなる、いわゆる、原子価制御された金属チタン酸塩も包含される。例えば、チタン酸バリウムにおけるBa(2価)の一部をLa、Ceなどの3価の金属元素あるいはK、Naなどの1価の金属元素で置換した化合物、Ti(4価)の一部をTaなどの5価の金属元素あるいは3価の金属元素で置換した化合物なども例示できる。
【0037】
本発明の方法により形成される上記の如き金属チタン酸塩の薄膜は、生成させた金属チタン酸塩の種類により各種機能性膜として有用なものとなる。例えば、チタン酸バリウムやチタン酸ストロンチウム等は、高誘電体膜として有用である。
本発明の金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物および金属チタン酸塩薄膜の形成方法は、電子機器や半導体実装基板を製造するプロセスにおいて、高誘電体膜、強誘電体膜等の機能性金属チタン酸塩薄膜を形成させるために、好ましく採用することができる。
例えば、半導体実装基板の製造プロセスにおいては、アルミナ基板、ポリイミド基板およびガラスエポキシ積層基板等の絶縁性基板にAgおよびCu等の金属配線やLSI等の半導体部品が実装されてなる実装基板に、チタン酸バリウム等の高誘電体素子膜などを形成する場合に、好ましく採用できる。
【0038】
また、PETフィルムやガラス等の一部にAg電極などの電極配線が形成されてなる基板に、金属膜とチタン酸バリウム膜の積層によりコンデンサー素子を形成する場合(例えば、表面に金属膜が形成されている基板にチタン酸バリウム膜等の高誘電体膜を形成する場合)に、好ましく採用できる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は下記実施例に限定されるものではない。以下では、便宜上、「重量部」を単に「部」と、「重量%」を単に「%」と記すことがある。
実施例および比較例における評価方法を以下に示す。
<化学的安定性>
各実施例、比較例で得られた組成物に関して、化学的安定性を以下の基準により評価した。
組成物を孔径0.4μmのメンブレンフィルターでろ過したのち、密栓可能なガラス容器に捕集し、経時変化を評価した。具体的には、密栓したガラス容器中で静置し、白濁物の生成の有無を経時的に目視により確認し、以下の基準により評価した。
【0040】
ランクA:3日後、白濁物の生成は認められない。
ランクB:1日後には白濁物の生成は認められないが、3日後には白濁物の生成が認められる。
ランクC:1日後に白濁物の生成が認められる。
〔実施例1〕
<組成物の調製と評価>
撹拌器、添加口、温度計、還流冷却器、窒素ガスパージ口を備えた内容積200mLのガラス製反応器を準備した。α−アミノ酸としてL−プロリン0.23g(2.0×10−3mol)を、有機溶媒としての無水エタノール100mlに加え、反応器に仕込んだのち、反応器内を窒素ガスでパージし、これを撹拌することで、L−プロリンが溶解した均一溶液を得た。
【0041】
次に、前記均一溶液をさらに撹拌しながら、添加口より、チタン化合物としてチタンテトライソプロポキシド0.57g(2.0×10−3mol)、バリウムジイソプロポキシド0.51g(2.0×10−3mol)を順次加えたのち、常温で12時間撹拌することにより黄色を呈する透明溶液からなる金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物(A)を得た。
前記金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物(A)全量に対して、同量の無水エタノールを加え、これを金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物(A−1)とした。
前記組成物(A)および組成物(A−1)について、上述の基準により化学的安定性を評価したところ、いずれの組成物もランクAであった。
【0042】
<金属チタン酸塩薄膜の形成>
150℃に加熱したガラス基板上にスプレーガンで、前記方法により調製した組成物(A−1)を塗布し、薄膜が形成された薄膜付ガラス板(A−1−f)を作成した。
得られた薄膜付ガラス板(A−1−f)を600℃の温度で2時間加熱処理することにより、加熱処理された薄膜付ガラス板を得た。
薄膜付ガラス板(A−1−f)およびこれを600℃で加熱処理した薄膜付ガラス板に関し、X線回折分析(XRD)を行った。
その結果、薄膜付ガラス板(A−1−f)では、ガラス基板の回折ピーク以外は観察されなかった。一方、薄膜付ガラス板(A−1−f)を600℃で加熱処理した薄膜付ガラス板では、チタン酸バリウム(BaTiO)に帰属される回折ピークが観察された。
【0043】
600℃での加熱処理により得られた薄膜付ガラス板に関するXRDパターンを図1に示す。
〔実施例2〕
実施例1において、L−プロリンを2.3g、チタンテトライソプロポキシドを5.7g、バリウムジイソプロポキシドを5.1gに代えた以外は同様にして、金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物(B)を得た。
得られた金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物(B)を、エタノールと2−(2−ブトキシエトキシ)エタノールの1:1混合溶媒で希釈し、Ti濃度0.01mol/Lの金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物(B−1)を得た。
【0044】
前記組成物(B)および組成物(B−1)について、上述の基準により化学的安定性を評価したところ、いずれの組成物もランクAであった。
350℃に加熱したガラス基板上にスプレーガンで、前記方法により調製した組成物(B−1)を塗布し、薄膜が形成された薄膜付ガラス板(B−1−f)を作成した。
得られた薄膜付ガラス板(B−1−f)を550℃、650℃の各温度で2時間加熱処理することにより、各温度で加熱処理された薄膜付ガラス板を得た。
薄膜付ガラス板(B−1−f)およびこれを各温度で加熱処理した薄膜付ガラス板に関し、X線回折分析(XRD)を行った。
【0045】
その結果、薄膜付ガラス板(B−1−f)では、ガラス基板の回折ピーク以外は観察されなかった。一方、薄膜付ガラス板(B−1−f)を550℃で加熱処理した薄膜付ガラス板では、チタン酸バリウム(BaTiO)に帰属される回折ピークと、回折強度は弱いが中間層と推定される回折線(BaTiOCOと推定される)が観察された。650℃で加熱処理した薄膜付ガラス板では、チタン酸バリウム(BaTiO)に帰属される回折ピークが観察されたが、前記550℃で加熱処理した薄膜付ガラス板で観察された中間層と推定される回折線は観察されなかった。
550℃、650℃での加熱処理により得られた薄膜付ガラス板に関するXRDパターンを図2に示す。
【0046】
また、各薄膜付ガラス板に関し、ラマンスペクトル測定を行った。結果を図3に示す。
550℃で加熱処理した薄膜付ガラス板、650℃で加熱処理した薄膜付ガラス板では、正方晶に帰属されるスペクトル(185、264、308、520、720cm−1)と、六方晶に帰属されるスペクトル(155、639cm−1)のいずれもが観察され、これらの薄膜付ガラス板では、正方晶BaTiOと六方晶BaTiOが混在していることが確認された。
さらに、各薄膜付ガラス板に関し、SEMで薄膜表面を観察した結果、650℃で加熱処理した薄膜付ガラス板では約20〜80nmのグレインからなることが確認され、この結果より、650℃で加熱処理した薄膜付ガラス板は、約20〜80nmのBaTiO結晶粒からなる薄膜であることが分かった。
【0047】
〔実施例3〕
撹拌器、添加口、温度計、還流冷却器、窒素ガスパージ口を備えた内容積1Lのガラス製反応器を準備し、有機溶媒として無水エタノール1000部、α−アミノ酸としてメチオニン6.0部を反応器に仕込んだのち、反応器内を窒素ガスでパージし、これを撹拌することで、メチオニンが溶解した均一溶液を得た。
次に、前記均一溶液をさらに撹拌しながら、添加口より、チタン化合物としてチタンテトライソプロポキシド5.7部、金属元素(M)化合物としてバリウムジイソプロポキシド5.1部を順次加えたのち、常温で12時間撹拌することにより黄色を呈する透明溶液からなる金属チタン酸塩(BaTiO)薄膜前駆体組成物(C)を得た。
【0048】
〔実施例4〕
実施例3において、メチオニンが溶解した均一溶液にさらにベンジルアルコール43部を配合した以外は同様にして、金属チタン酸塩(BaTiO)薄膜前駆体組成物(D)を得た。
〔実施例5〕
実施例3において、チタン化合物および金属元素(M)化合物の添加後の撹拌を、100℃で12時間行うようにしたこと以外は同様にして、金属チタン酸塩(BaTiO)薄膜前駆体組成物(E)を得た。
【0049】
〔実施例6〜9〕
実施例5におけるα−アミノ酸、金属元素(M)化合物の種類および量を、表1に示すものに変更したこと以外は同様にして、金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物(F)〜(I)(F:SrTiO用、G:CaTiO用、H:LaTi用、I:BiTi12用)を得た。なお、表1中、含有量に関する数値はすべて重量部を意味する。
【0050】
【表1】

【0051】
〔比較例1〕
実施例3において、α−アミノ酸を用いなかったこと以外は同様にして、組成物(J)を得た。
〔比較例2〜4〕
実施例3において、α−アミノ酸の種類および量を、表2に示すものに変更したこと以外は同様にして、組成物(K)〜(M)を得た。
【0052】
【表2】

【0053】
<組成物の評価>
実施例3〜9、比較例1〜4の各組成物(C)〜(M)について、それぞれ、化学的安定性を上述した基準により評価した。結果は以下の通りである。
(評価結果)
実施例3 (組成物(C)) :ランクB
実施例4〜9(組成物(D)〜(I)):ランクA
比較例1〜4(組成物(J)〜(M)):ランクC
〔実施例10〜11〕
実施例3において、メチオニンを表3に示すα−アミノ酸に代え、無水メタノールを表3に示す有機溶媒に代え、チタン化合物および金属元素(M)化合物の添加後の撹拌濃度および撹拌時間を表3に示す濃度に代えた以外は同様にして、金属チタン酸(BaTiO)塩薄膜前駆体組成物(N)、(O)を得た。
【0054】
前記組成物(N)、(O)について、上述の基準により化学的安定性を評価したところ、いずれの組成物もランクAであった。
【0055】
【表3】

【0056】
〔実施例12〕
<チタン化合物含有溶液の調製>
攪拌機、添加口、温度計、還流冷却器、窒素パージ口を備えた内容積が約1Lの耐熱ガラス製反応器を準備し、有機溶媒としてn−プロパノール1000部、α−アミノ酸としてフェニルアラニン3.3部を仕込んだ後、反応器内を窒素ガスでパージするとともに、攪拌することにより、フェニルアラニンが溶解した均一溶液を得た。
次に、均一溶液に、チタンテトライソプロポキシド11.4部を加えることにより混合物を得た後、80℃で12時間攪拌し、孔径0.4μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、チタン化合物含有溶液(TI)を得た。
【0057】
IPC分析した結果、チタン化合物含有溶液(TI)における、Ti濃度は、0.189%であった。
<バリウム化合物含有溶液の調製>
攪拌機、添加口、温度計、還流冷却器、窒素パージ口を備えた内容積が約1Lの耐熱ガラス製反応器を準備し、有機溶媒としてn一プロパノール1000部、α一アミノ酸としてフェニルアラニン0.17部を仕込んだ後、反応器内を窒素ガスでパージするとともに、攪拌することにより、フェニルアラニンが溶解した均一溶液を得た。
次に、溶液を撹拌しながら、添加口より、酢酸バリウム0.26部を加えることにより混合物を得た後、150℃で12時間攪拌し、この溶液を孔径0.4μmのメンブレンフィルターでろ過することにより、バリウム化合物含有溶液(BA−1)を得た。
【0058】
IPC分析した結果、バリウム化合物含有溶液(BA−1)におけるBa濃度は、0.007%であった。
ろ過前の溶液には、目視により、一部、白色固形物が認められた。
<組成物の調製>
チタン化合物含有溶液(TI)10部とバリウム化合物含有溶液(BA−1)790部を混合することにより、Ti濃度:0.0024%、Ba濃度:0.0068%である、チタン酸バリウム薄膜前駆体組成物(P)を得た。
〔実施例13〕
<バリウム化合物含有溶液の調製>
実施例12において、さらにプロピオン酸0.15部を用いた以外は同様にして、バリウム化合物含有溶液(BA−2)を得た。
【0059】
ろ過前の溶液は目視によって固形物を認めることはできず、ろ過後のバリウム化合物含有溶液(BA−2)のBa濃度は0.014%であった(Ba濃度はIPC分析による)。
<組成物の調整>
チタン化合物含有溶液(TI)10部とバリウム化合物含有溶液(BA−2)395部を混合することにより、Ti濃度:0.0047%、Ba濃度:0.013%である、チタン酸バリウム薄膜前駆体組成物(Q)を得た。
〔実施例14〕
実施例12において、フェニルアラニンの代わりに、L−プロリン0.23部を用いた以外は同様にして、バリウム化合物含有溶液(BA−3)を得た。
【0060】
ろ過前の溶液は目視によって、一部、白色固形物が認められ、ろ過後のバリウム化合物含有溶液(BA−3)のBa濃度は0.01%であった(Ba濃度はIPC分析による)。
チタン化合物含有溶液(TI)10部と、バリウム化合物含有溶液(BA−3)542部を混合することにより、Ti濃度:0.0034%、Ba濃度:0.0098%である、チタン酸バリウム薄膜前駆体組成物(R)を得た。
〔実施例15〕
実施例14において、さらにプロピオン酸0.15部を用いた以外は同様にして、バリウム化合物含有溶液(BA−4)を得た。
【0061】
ろ過前の溶液は目視によって固形物を認めることはできず、ろ過後のバリウム化合物含有溶液(BA−4)のBa濃度は0.014%であった(Ba濃度はIPC分析による)。
チタン化合物含有溶液(TI)10部と、バリウム化合物含有溶液(BA−4)395部を混合することにより、Ti濃度:0.0047%、Ba濃度:0.013%である、チタン酸バリウム薄膜前駆体組成物(S)を得た。
〔実施例16〕
実施例14において、さらにヘキサン酸0.9部を用いた以外は同様にして、バリウム化合物含有溶液(BA−5)を得た。
【0062】
ろ過前の溶液は目視によって固形物を認めることはできず、ろ過後のバリウム化合物含有溶液(BA−5)のBa濃度は0.014%であった(Ba濃度はIPC分析による)。
チタン化合物含有溶液(TI)10部と、バリウム化合物含有溶液(BA−5)395部を混合することにより、Ti濃度:0.0047%、Ba濃度:0.013%である、チタン酸バリウム薄膜前駆体組成物(T)を得た。
〔実施例17〕
実施例14において、n−プロパノール1000部に代えて、ベンジルアルコール100部とn−プロパノール900部を用いた以外は同様にして、バリウム化合物含有溶液(BA−6)を得た。
【0063】
ろ過前の溶液は目視によって固形物を認めることはできず、ろ過後のバリウム化合物含有溶液(BA−6)のBa濃度は0.014%であった(Ba濃度はIPC分析による)。
チタン化合物含有溶液(TI)10部と、バリウム化合物含有溶液(BA−4)395部を混合することにより、Ti濃度:0.0047%、Ba濃度:0.013%である、チタン酸バリウム薄膜前駆体組成物(U)を得た。
<組成物の評価>
実施例12〜17にかかるチタン酸バリウム薄膜前駆体組成物(P)〜(U)について、それぞれ、化学的安定性を上述した基準により評価した。その結果、いずれもランクAであった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明にかかる金属チタン酸塩薄膜形成方法は、例えば、強誘電膜、高誘電体膜、表面弾性波素子基板、周波数フィルター、光検出素子用焦電性膜、バリスター素子、ガスセンサー、湿度センサーなどとして機能する金属チタン酸塩薄膜を形成する方法として好適に使用できる。
また、本発明にかかる金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物は、前記本発明にかかる方法の実施に好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例1における600℃での加熱処理により得られた薄膜付ガラス板に関するXRDパターンを示すグラフである。
【図2】実施例2における550℃、650℃での加熱処理により得られた各薄膜付ガラス板に関するXRDパターンを示すグラフである。
【図3】実施例2における550℃、650℃での加熱処理により得られた各薄膜付ガラス板に関するラマンスペクトルを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン化合物、チタン化合物以外の金属元素(M)化合物およびα−アミノ酸を必須とする金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物であって、前記金属元素(M)がアルカリ土類金属元素、ランタノイド系金属元素、PbおよびBiからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記チタン化合物と金属元素(M)化合物との含有割合(Ti/M)が原子比で4/1〜1/4の範囲であり、前記α−アミノ酸がイミノ酸、塩基性アミノ酸、芳香族アミノ酸および含硫アミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、ことを特徴とする、金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物。
【請求項2】
前記チタン化合物がチタンテトライソプロポキシドである、請求項1に記載の金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物。
【請求項3】
前記金属チタン酸塩がチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸鉛およびチタン酸ランタンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載の金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物。
【請求項4】
前記金属元素(M)化合物がバリウム化合物、ストロンチウム化合物、ビスマス化合物、鉛化合物およびランタン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1から3までのいずれかに記載の金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物。
【請求項5】
前記金属元素(M)化合物がアルコキシド類である、請求項1から4までのいずれかに記載の金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物。
【請求項6】
前記α−アミノ酸がプロリンである、請求項1から5までのいずれかに記載の金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物。
【請求項7】
有機溶媒を含む金属チタン酸塩薄膜前駆体溶液である、請求項1から6までのいずれかに記載の金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物。
【請求項8】
前記有機溶媒の一部として、グリコール、グリコール誘導体および/またはπ電子含有化合物が用いられている、請求項7に記載の金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれかに記載の金属チタン酸塩薄膜前駆体組成物を基板に塗布し、加熱することにより、前記基板上に金属チタン酸塩薄膜を形成する、金属チタン酸塩薄膜の形成方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−73705(P2009−73705A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245864(P2007−245864)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年3月21日 社団法人 日本セラミックス協会発行の「2007年年会 講演予稿集」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】