説明

金属プレートの接合方法及び金属プレート接合用治具

【課題】 表面において開口した内部空洞を有する複数の金属プレートの積層体を拡散接合により接合すること。
【解決手段】 第1治具61は、平面状の当接面61aを有し、側面61cにおいて開口している大気連通路61bを有し、第2治具62は、平面状の当接面62aを有する。第1治具61の当接面61aとキャビティプレート22とを当接させ、第2治具62の当接面62aとカバープレート29とを当接させることにより第1治具61と第2治具とで流路ユニット4を挟み込み、真空条件下の中で高温に加熱しながら第1治具61と第2治具62とで流路ユニット4を加圧することにより金属プレート22〜29を接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層された複数枚の金属プレートを接合する接合方法及び接合用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ノズルからインクを吐出するインクジェットヘッドとして、その内部にインク流路を含む流路ユニットが、積層状の複数枚の金属プレートにより構成されているものがある。例えば、特許文献1に記載のインクジェットヘッドは、マニホールドと、このマニホールドから圧力室を経てノズルに至る個別インク流路を含む流路ユニットを備えており、この流路ユニットは、積層状の複数枚の金属プレートが接合された積層体からなる。ここで、複数枚の金属プレートを接合する方法としては、接着剤による接着や、拡散接合等を採用することができる。
【0003】
拡散接合により接合する際には、複数枚の金属プレートを両面から平板状の治具で挟み込み、真空条件下で高温(1000℃程度)に熱しながら加圧することにより、金属プレートの接合面において金属原子を相互に拡散させて接合する。この拡散接合により接合する場合には、複数枚の金属プレートを一度に接合することができるため、工程を簡素化することが可能になる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−276562号公報(図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、複数枚の金属プレートの積層体を治具で挟み込んだときに、形成されるインク流路が密閉されると共に内部に空気が残留することがある。この積層体を加熱すると、インク流路内の空気が膨張してその内圧が高くなり、接合代に余裕のない部位で接着不良が生じてインク流路にリークが発生したり、温度分布が不均一になり歪みや撓みが生じたりすることがある。
【0006】
本発明の目的は、接合不良や歪み等を生じさせることなく複数枚の金属プレートを拡散接合により接合することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本発明の金属プレートの接合方法は、表面において開口した内部空洞を有する複数枚の金属プレートの積層体を、積層体の両面に当接する平面状の当接面を夫々有し、且つ、少なくとも一方に前記内部空洞と大気とをそれぞれ連通する大気連通路が形成された、1対の治具で挟み込む第1工程と、積層体を加熱しながらこの1対の治具により加圧して、複数枚の金属プレートを接合する第2工程とを備えている。
【0008】
これによると、金属プレートの積層体を1対の治具で挟み込んだときに、積層体の内部空洞が治具に形成された大気連通路を介して大気に連通した状態となるため、拡散接合前に、内部空洞の空気を大気連通路を介して確実に逃がすことができる。従って、積層体を加熱したときに内部空洞内の空気が膨張することがなく、金属プレートに接合不良が生じたり、積層体の温度分布が不均一になり歪みが生じたりすることを防止することができる。また、治具に大気連通路を設けているので、予め、積層体側に内部空洞を大気に連通させる大気連通路等を設ける工程が不要になり、製造工程を簡略化できる。
【0009】
また、本発明の金属プレートの接合方法において、大気連通路は、治具の当接面において、内部空洞との連通部から積層体に当接しない部分まで延びる逃がし溝により形成されていてもよい。これによると、逃がし溝を治具の当接面に容易に形成することができ、作製が容易な治具を用いて金属プレートを拡散接合することができる。
【0010】
また、本発明の金属プレートの接合方法において、大気連通路は、治具の当接面に形成された内部空洞との連通部から治具の内部において延在し、さらに、治具の積層体に当接しない部分において開口していてもよい。これによると、大気連通路は、内部空洞との連通部を除いて治具の内部に形成されているため、1対の治具で金属プレートの積層体を加圧したときに、複数枚の金属プレートが全面的に加圧されるため、その接合状態が良好となる。また、大気連通路の積層体に当接しない部分から内部空洞内の空気を確実に排出できる。
【0011】
また、本発明の金属プレートの接合方法は、内部空洞が、ノズルからインクが流れるインクジェットヘッドのインク流路である場合にも適用できる。この場合、インク流路を有する金属プレートの積層体1対の治具で挟み込んだときに、インク流路が治具に形成された大気連通路を介して大気に連通した状態となるため、拡散接合前にインク流路内の空気を確実に排出でき、インク流路内の空気が膨張することにより、マニホールド等の内圧が高くなって接合不良が生じてインク流路にリークが発生したり、積層体の温度分布が不均一になり歪みが生じたりするのを防止することができる。
【0012】
このとき、インク流路は、複数のノズルに夫々連通する複数の圧力室を含み、且つ、これら複数の圧力室において夫々開口している場合には、第1工程において、治具の大気連通路を少なくとも1つの圧力室に連通させた状態で、1対の治具により積層体を挟み込んでもよい。インクを加圧するための圧力室は比較的大きい面積を有するため、第1工程において、治具の大気連通路とインク流路とを連通させるための位置合わせを容易に行うことができる。
【0013】
また、インク流路が、複数のノズルに連通する共通インク室を含み、且つ、この共通インク室において開口している場合には、第1工程において、治具の大気連通路を共通インク室に連通させた状態で1対の治具により積層体を挟み込んでもよい。一般的に、複数のノズルにインクを供給するための共通インク室は、インク流路の他の部分よりも大きい面積を有するので、第1工程において、治具の大気連通路をインク流路に連通させることがさらに容易になる。
【0014】
本発明の金属プレート接合用治具は、表面において開口した内部空洞を有する複数枚の金属プレートの積層体の両面に当接可能な平面状の当接可能平面状の当接面を有し、積層体を加熱しながら加圧して複数の金属プレートを接合するための1対の治具であって少なくとも内部空洞と大気とに夫々連通する大気連通路が形成されている。これによると、金属プレートの積層体をこの1対の治具で挟み込んだときに、積層体の内部空洞が治具に形成された大気連通路を介して大気に連通した状態となるため、拡散接合前に、内部空洞内の空気を大気連通路を介して確実に排出することができ、加熱したときに内部空洞内の空気が膨張することにより、金属プレートの接合面に接合不良が生じたり、積層体の温度分布が不均一になり歪みが生じたりするのを防止することができる。
【0015】
また、本発明の金属プレート接合用治具は、大気連通路が治具の当接面において、内部空洞との連通部から積層体に当接しない部分まで延びる逃がし溝により形成されていてもよい。これによると、逃がし溝を治具の当接面に形成することができ、治具を容易に作製することができる。また、逃がし溝の積層体に当接しない部分から内部空洞内の空気を確実に排出できる。
【0016】
また、本発明の金属プレート接合用治具は、大気連通路が治具の当接面に形成された内部空洞との連通部から治具の内部において延在し、さらに、治具の積層体に当接しない部分において開口していてもよい。これによると、大気連通路は、内部空間との連通部を除いて治具の内部に形成されるので、この1対の治具で金属プレートの積層体を加圧したときに、複数枚の金属プレートを全面的に加圧し、接合状態を良好なものにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施の形態は、インクジェットプリンタのインクジェットヘッドに本発明を適用した一例である。
【0018】
まず、図1を参照しつつ、本発明の実施形態におけるインクジェットヘッドの全体構成について説明する。図1は、本実施形態におけるインクジェットヘッド1の外観斜視図である。
【0019】
インクジェットヘッド1は、用紙に対してインクを吐出するための主走査方向に延在した矩形平面形状を有するヘッドユニット70と、ヘッドユニット70に供給されるインクの流路が形成されたベースブロック71とを備えている。ベースブロック71は、ホルダ72により支持されている。このホルダ72は、ベースブロック71を収容する把持部72aと、把持部72aの上面からベースブロック71の平面に直交する方向に沿って所定間隔をなして延出された一対の平板部材72bとを有する。
【0020】
また、ヘッドユニット70からは2枚のFPC50が引き出され、これらFPC50は、スポンジなどの弾性部材83を介して、ホルダ72の平板部材72bの表面に沿うように配置されている。そして、FPC50上には、弾性部材83と対向する位置にドライバIC80が設置されている。また、FPC50の内部には、ドライバIC80から出力された駆動信号をヘッドユニット70のアクチュエータユニット21(図2参照)に伝達するための、給電線としての導体パターンが設けられている。
【0021】
さらにドライバIC80の外側表面には、ヒートシンク82が密着するよう配置されており、ドライバIC80にて発生する熱がヒートシンク82に放出されるようになっている。また、ドライバIC80及びヒートシンク82の上方には、基板81が備えられており、ドライバIC80と基板81とがFPC50を介して電気的に接続されている。
【0022】
次に、図2を参照しつつ、図1に示したヘッドユニット70、ベースブロック71などの構成について、より詳細に説明する。図2は、図1のII−II線における断面図である。
【0023】
ヘッドユニット70は、インク流路が形成された流路ユニット4と、流路ユニット4の上面に接着剤を介して接着されたアクチュエータユニット21とを含んでいる。これら流路ユニット4及びアクチュエータユニット21は共に、複数の薄板を積層して互いに接着させた構成である。また、アクチュエータユニット21の上面にはFPC50が接着されている。
【0024】
流路ユニット4の上面において、アクチュエータユニット21が接着されていない部分には、ベースブロック71が固定されている。しかし、アクチュエータユニット21に対しては、所定の間隙を介してベースブロック71が対向するように構成されている。つまり、図2に示すように、ベースブロック71の下面外側には、流路ユニット4上のアクチュエータユニット21の設置位置に対応して凹部71aが設けられている。アクチュエータユニット21はFPC50と共にちょうどこの凹部71a内に配置されており、このうちFPC50が多少の余裕をベースブロック71との間に残して引き出されている。
【0025】
ベースブロック71は、例えばステンレスなどの金属材料からなり、ホルダ72の把持部72a内に接着固定されている。また、ベースブロック71には、後に詳述する、2つの略直方体の中空領域を有するインク溜まり3が設けられている。
【0026】
なお、平板部72bの表面に配置されたヒートシンク82は、シール部材84を介して、基板81及びFPC50に固定されている。また、FPC50は、シール部材85を介して、ホルダ72における把持部72a先端及び流路ユニット4上面に固定されている。
【0027】
次に、図3〜図7を参照しつつ、ヘッドユニット70について説明する。
【0028】
図3は、図2に示したヘッドユニット70の平面図である。インクの供給形態を説明する上での利便性から、ベースブロック71内に形成された流路(インク溜まり3、開口3a、開口3b)を点線で示してある。図3に示すように、ヘッドユニット70の長手方向には、2つのインク溜まり3が互いに所定間隔をなして平行に延在している。2つのインク溜まり3はそれぞれ一端に開口3aを有し、この開口3aを介してインクタンク(図示せず)に連通して常にインクで満たされている。また、各インク溜まり3には2つで1対となった開口3bが設けられている。2つのインク溜まり3に設けられた開口3bは、ヘッドユニット70の幅方向において重ならないよう、それぞれ延在方向に所定間隔をなして配置されている。
【0029】
1対の開口3bの間にはそれぞれ、台形の平面形状を有するアクチュエータユニット21が配置されている。より詳細には、各アクチュエータユニット21は、ヘッドユニット70の長手方向に沿った平行対向辺(上辺及び下辺)を持つ台形の平面形状を有して、それぞれ千鳥状に配置され、隣接する斜辺同士をヘッドユニット70の幅方向にオーバーラップしている。
【0030】
図4は、図3内に描かれた一点鎖線で囲まれた領域の拡大図である。ここでは、流路ユニット4内に形成された流路を点線で示していない。図4から、各インク溜まり3に設けられた開口3bはマニホールド5(共通インク室)に連通し、さらに各マニホールド5の先端部は2つに分岐して副マニホールド5aを形成している。また、平面視において、アクチュエータユニット21における2つの斜辺側それぞれから、隣接する開口3bから分岐した2つの副マニホールド5aが延出している。つまり、アクチュエータユニット21の平行対向辺に沿って計4つの副マニホールド5aが延在している。
【0031】
なお、流路ユニット4(図6参照)の下面において、アクチュエータユニット21と対向する領域には、インクの吐出ノズル8がマトリクス状に配列され、インク吐出領域が形成されている。なお、吐出ノズル8は、図4において部分的に示されているが、流路ユニット4の下面におけるインク吐出領域全体に配列されている。
【0032】
図5は、図4内に描かれた一点鎖線で囲まれた領域の拡大図である。この図は、アクチュエータユニット21の端部近傍を拡大したものであるが、図面をわかりやすくするために、アクチュエータユニット21に隠れて見えないはずのアパーチャ12から圧力室10を介してノズル8に至る個別のインク流路が実線で描かれている。なお、流路ユニット4内に形成されている副マニホールド5aは点線で示されている。図5に示すように、アクチュエータユニット21の表面には、多数の個別電極35(後述)が配置されている。圧力室10と個別電極35とは、互いに重なる関係に配置され流路ユニット4の表面に沿って相互に隣接するよう形成されている。
【0033】
また、図5に示すように、圧力室10と副マニホールド5aとは、アパーチャ12を介して連通している。アパーチャ12は、図4に示すように、その一端を副マニホールド5aの領域に、他端を略菱形である圧力室10の鋭角部に、それぞれ配置されている。
【0034】
なお、図5から、1つの圧力室10に対して2つのアパーチャ12が重なり合うように配置されているのがわかる。これは、流路ユニット4内において、圧力室10とアパーチャ12とを異なる高さに設けたことにより実現されたものである。これにより、圧力室10を高密度に配列することが可能になると共に、比較的小さな占有面積のインクジェットヘッド1で高解像度の画像形成を実現することが可能になっている。
【0035】
本実施の形態において、圧力室10は、ヘッドユニット70の長手方向(第1配列方向)と幅方向からやや傾いた方向(第2配列方向)との2方向に、マトリクス状に形成されている。
【0036】
また、インクの吐出ノズル8は、図5に示すように、副マニホールド5aの範囲外で且つ略菱形の各圧力室10における一つの鋭角にほぼ対応する部分に配置されている。本実施形態において、吐出ノズル8は第1配列方向において50dpiで配列され、圧力室10は第2配列方向において各アクチュエータユニット21に対応する領域内に最大で12個含まれるように配列されている。そして、第2配列方向に配列された12個の圧力室10における第1配列方向を占める長さは、第1配列方向に隣接する2つの圧力室10の占める長さ(ピッチ)に相当するようになっている。つまり、第1配列方向に隣接する2つの圧力室10において、それぞれの鋭角部に配置された吐出ノズル8間の範囲内には、インクジェットヘッド1の幅方向に12個の吐出ノズル8が存在している。尚、アクチュエータユニット21の斜辺部(図3参照)では、インクジェットヘッド1の幅方向に対向するアクチュエータユニット21の斜辺部と相補関係となることで、上記条件を満たしている。
【0037】
したがって、本実施形態におけるインクジェットヘッド1によると、インクジェットヘッド1に対する用紙の副走査方向(図3参照)への相対的な移動に伴って、マトリクス状に配列された多数の吐出ノズル8から順次インク滴を吐出させることで、主走査方向に600dpiで印刷を行うことができる。
【0038】
以上に述べたように、本実施形態のインクジェットヘッド1には、インクタンク(図示せず)からマニホールド5、副マニホールド5a、アパーチャ12及び圧力室10を経て、先細形状の吐出ノズル8の先端に形成された吐出ノズル8に至る、インク流路32(図5参照)が形成されている。
【0039】
次に、図6を参照しつつ、ヘッドユニット70の断面構成についてより詳細に説明する。図6は、図5におけるヘッドユニット70のVI−VI線断面図である。
【0040】
図6に示すように、流路ユニット4は、アクチュエータユニット21との接合側から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャプレート24、サプライプレート25、マニホールドプレート26、27、28、カバープレート29、ノズルプレート30を構成する計9枚の金属プレートが積層されたものである。これら金属プレートは、例えばステンレス等の金属からなる。
【0041】
流路ユニット4における最上層のキャビティプレート22は、圧力室10に対応する略菱形の開口が多数設けられた金属プレートである。ベースプレート23は、キャビティプレート22に形成された各圧力室10と下層のプレートに形成されたアパーチャ12との連絡孔、及び、圧力室10から吐出ノズル8への連絡孔が設けられた金属プレートである。アパーチャプレート24は、アパーチャ12、及び、ベースプレート23に形成された連絡孔と連通する吐出ノズル8への連絡孔が設けられた金属プレートである。サプライプレート25は、アパーチャ12と下層のプレートに形成された副マニホールド5aとの連絡孔、及び、アパーチャプレート24に形成された連絡孔と連通する吐出ノズル8への連絡孔が設けられた金属プレートである。マニホールドプレート28は、副マニホールド5a、及び、サプライプレート25に形成された連絡孔と連通する吐出ノズル8への連絡孔が設けられた金属プレートである。カバープレート29は、マニホールドプレート26、27、28の連絡孔より小さな吐出ノズル8への連絡孔が設けられた金属プレートである。ノズルプレート30は、インクの吐出ノズル8が多数設けられた金属プレートである。なお、インク吐出領域は、アクチュエータユニット21に対応して形成された吐出ノズル8が分布する領域に相当する。
【0042】
これら9枚の金属プレート22〜30を、図6に示したインク流路32が形成されるよう、互いに位置合わせして積層することにより、流路ユニット4が構成されている。インク流路32は、副マニホールド5aから上方へ向かい、アパーチャ12にて水平に延在し、それからさらに上方に向かい、圧力室10において再び水平に延在し、それからしばらくアパーチャ12から離れる方向に斜め下方に向かってから垂直下方に吐出ノズル8へと向かう。
【0043】
次に、図7を参照しつつ、流路ユニット4のキャビティプレート22に積層されたアクチュエータユニット21の構成について説明する。図7は図6のアクチュエータユニット21の拡大断面図である。
【0044】
図7に示すように、アクチュエータユニット21には、4枚の連続平板層である圧電シート41、42、43、44が積層されている。これら圧電シート41、42、43、44のそれぞれは、加工性に富み且つ強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。これら圧電シート41〜44は、圧電素子を構成するものであり、1つのインク吐出領域に対応して形成された多数の圧力室10に跨って配置されている。これにより、圧電素子の機械的剛性が高く保たれると共に、インクジェットヘッド1におけるインク吐出性能の応答性が高まるようになっている。
【0045】
最上層の圧電シート41上には、圧力室10に対向して個別電極35が形成されている。また、図7に示すように、最上層の圧電シート41とその下側の圧電シート42との間、及び、圧電シート43とその下側の圧電シート44との間には、シート全面に形成された共通電極34a、34bが夫々介在している。尚、圧電シート42と圧電シート43の間には電極が配置されていない。これら個別電極35及び共通電極34a、34bは共に、例えばAg−Pd系などの金属材料からなり、後に詳述するように、圧電シート41〜44に電界を印加して変形させることにより圧力室10の容積を変化させるためのものである。
【0046】
個別電極35は、図5に示したように、圧力室10とほぼ相似である略菱形の平面形状を有している。略菱形の個別電極35における鋭角部の一方は延出され、その先端に、個別電極35と電気的に接続された、円形のランド部36が設けられている。ランド部36は、図7に示すように、個別電極35における延出部表面上に形成されている。ランド部36の材質は、例えばガラスフリットを含む金である。ランド部36は、FPC50を介してドライバIC80に接続され、ドライバIC80により個別電極35に駆動電圧が印加される。
【0047】
図7に示すように、ランド部36が、圧力室10の一端部に相当する位置に設けられている。圧電シート41〜44の積層方向において、個別電極35の射影領域は圧力室10の領域に含まれるよう配置されているが、上記のランド部36の射影領域は圧力室10の領域に含まれていない。つまり、ランド部36は、キャビティプレート22に形成され、圧力室10を画定するとともに隣接する圧力室10から隔離する桁部に対向して配置されている。
【0048】
尚、図4及び図5に示すように、アクチュエータユニット21の外縁近傍には、接地用電極38が多数離隔配置されている。この接地用電極38は図7には示されていないが、アクチュエータユニット21最上層の圧電シート41表面に印刷されており、いずれも圧電シート41に形成されたスルーホールを介して共通電極34aに接続されている。そしてこの共通電極34aともう一方の共通電極34bとが、圧電シート42、43に形成されたスルーホールを介して接続されている。
【0049】
また、図示されていないが、FPC50には、後述するドライバIC80と接続された配線である導体パターン53以外に、接地用電極38と接続される接地用端子を有し且つ接地するための配線である導体パターンが設けられている。FPC50の接地用端子(図示せず)と接地用電極38とが接合されると、接地用電極38に接続された共通電極34a、34bが全ての圧力室10に対応する領域において等しくグランド電位に保たれるようになっている。
【0050】
ここで、本実施形態におけるアクチュエータユニット21の駆動方法について述べる。
【0051】
アクチュエータユニット21における圧電シート41〜44の分極方向はその厚み方向であり、いわゆるユニモルフタイプの構成である。先ず、ドライバIC80を制御することにより、FPC50を介して、個別電極35を正又は負の所定電位とする。例えば電界と分極とが同方向であれば、活性層である圧電シート41が分極方向と直角方向に縮み、その他の圧電シート42〜44は電界の影響を受けないため自発的には縮まない。このとき圧電シート41と下層の圧電シート42〜44との間では分極方向への歪みに差が生じ、圧電シート41〜44全体に非活性側、即ち圧力室10側に凸となる変形(ユニモルフ変形)が生じる。すると圧力室10の容積が低下してインクの圧力が上昇し、図5に示した吐出ノズル8からインクが吐出される。その後、個別電極35への駆動電圧の印加が停止されれば、圧電シート41〜44は元の形状に戻って圧力室10の容積も元の容積に戻り、マニホールド5側からインクが吸い込まれる。
【0052】
また、例えば電界と分極とが逆方向であれば、活性層である圧電シート41が分極方向と直角方向に伸び、圧電シート41〜44は圧電横効果により圧力室側に凹となるように湾曲する。すると圧力室10の容積が増加してマニホールド5側からインクが吸い込まれる。その後、個別電極35への駆動電圧の印加が停止されると、圧電シート41〜44は元の形状に戻って圧力室10の容積も元の容積に戻り、吐出ノズル8からインクが吐出される。
【0053】
他の駆動方法としては、予め個別電極35に電圧を印加しておき、吐出要求があるごとに一旦電圧の印加を停止し、その後所定のタイミングにて再び電圧を印加する方法もある。この場合、電圧の印加が停止されたタイミングで圧電シート41〜44が元の形状に戻ることにより、圧力室10の容積は初期状態(予め電圧が印加された状態)と比較して増加し、マニホールド5側からインクが吸い込まれる。その後再び電圧が印加されたタイミングで圧電シート41〜44が圧力室10側へ凸となるように変形し、圧力室10の容積低下によりインクへの圧力が上昇し、吐出ノズル8からインクが吐出される。
【0054】
次にインクジェットヘッドの製造方法について説明する。まず、流路ユニット4を構成する金属プレート22〜30のうち、ノズルプレート30を除く8枚の金属プレートを拡散接合により接合する。
【0055】
金属プレート22〜29を拡散接合するには、図8に示すように、金属プレート22〜29を位置合わせして積層させ、後述の第1治具61、第2治具62をキャビティプレート22、カバープレート29に夫々当接させる。つまり、金属プレート22〜29の積層体を第1治具61と第2治具62とで挟み込む(第1工程)。
【0056】
次に、第1治具61と第2治具62とで挟み込んだ金属プレート22〜29の積層体を炉に入れ真空ポンプ等により炉内を大気圧以下に排気にし、1000℃程度に加熱しながら、第1治具61及び第2治具62により金属プレート22〜29の積層体を積層方向に加圧する(第2工程)。これにより、金属プレート22〜29の接合面において金属原子が互いに拡散し、これにより金属プレート22〜29が接合される。なお、より確実な接合をするためには、真空ポンプにより炉内を真空状態となるまで排気しておくことが好適である。
【0057】
ここで、金属プレート22〜29を挟み込んだ、第1治具61及び第2治具62について説明する。第1治具61及び第2治具62は、セラミックス材料からなる矩形の板状体であり、板状体の一表面に夫々、キャビティプレート22及びカバープレート29に当接する平面状の当接面61a及び62aを有する。
【0058】
さらに、第1治具61には、大気連通路61bが設けられている。大気連通路61bは、第1治具61の当接面61aの一部が開口した開口部61dから内部に垂直に延び、その途中で当接面61aに平行な方向に曲がり、第1治具61の側面61cにおいて開口している。本実施の形態においては、開口部61dが本願の連通部に相当する。尚、大気連通路61bは、第1治具61のキャビティプレート22が当接していない領域であればどこで開口していてもよく、例えば、第1治具61の当接面61aと反対側の面や、当接面61aのうちキャビティプレート22と当接しない部分において開口していてもよい。
【0059】
第1工程においては、図8のように、キャビティプレート22の圧力室10の1つと第1治具61の開口部61dとが連通するように位置合わせしながらキャビティプレート22と第1治具61の当接面61aとを当接させ、キャビティプレート30と第2治具62の当接面62aとを当接させている。
【0060】
従って、インク流路32は大気連通路61bを介して大気に連通しており、炉の中を真空状態にするときに、インク流路32内を確実に真空状態にすることができる。このため、積層体を加熱する段階でインク流路32内部の空気が膨張することにより、インク流路内の内圧が上昇し金属プレートに接合不良が生じ流路リークが発生したり、金属プレート22〜29の温度分布が不均一になり流路ユニットに歪みが発生したりするのを防止することができる。
【0061】
また、キャビティプレート22と第1治具61の当接面61aとを当接させるとき、圧力室10は比較的大きい面積を有するため、圧力室10と第1治具61の開口部61dとの位置合わせを容易に行うことができる。
【0062】
また、大気連通路61bの開口部61d以外の部分は第1治具61の内部に設けられているので、治具61、62で金属プレート22〜29を加圧したとき、金属プレート22〜29が全面的に加圧されるため接合状態が良好となる。さらに、大気連通路61bを第1治具61に設けることにより、金属プレート22〜29の一部に大気に連通させる大気連通路などを設ける工程が不要になるので、製造工程を簡略化できる。
【0063】
尚、第1治具61及び第2治具62は板状体であるので、金属プレートの積層体を1対の治具で挟み込んだものを複数積み重ね、加熱しながら両側から積層方向に加圧することにより複数の積層体を同時に製造することができる。この場合は、大気連通路61bは第1治具61の当接面61aと反対側の面よりも第1治具61の側面において開口していることが好ましい。
【0064】
このように金属プレート22〜29を接合した後で、カバープレート29の下面にノズルプレート30を接着剤等により接着する。さらに、図7に示すように、キャビティプレート22に形成された夫々の圧力室10同士を仕切る壁部の部分の上面に接着剤層gを転写等の適宜の方法で形成した上で、アクチュエータユニット21をその上からセラミックヒータを押し当てて押圧・加熱することにより流路ユニット4と接着する。このとき、アクチュエータユニット21上の個別電極35とこれに対応する圧力室10とが対向するように位置合わせされる。
【0065】
次に、本実施の形態に種々の変更加えた変更形態について説明する。但し、本実施の形態と同一の構成を有するものは、同一の符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0066】
1]図9に示すように、第1治具63の当接面63aの一部が開口し、圧力室10の1つに対向する領域から金属プレート22〜29が当接しない部分にまで延びた逃がし溝63aが形成されていてもよい(変更形態1)。この場合、逃がし溝63aによりインク流路と大気とが連通しているので、拡散接合の前に真空ポンプ等によりインク流路内を真空状態にすることができる。このため、加熱したときにインク流路内の空気が膨張することにより、流路リークが発生して接合不良が生じたり、金属プレート22〜29の温度分布が不均一になり流路ユニット4に歪みが発生したりするのを防止することができる。また、逃がし溝63bは当接面63aに形成されるので、逃がし溝63aを容易に形成することができる。
【0067】
2]カバープレート29を省略、又は、後で別工程により接合する場合には、マニホールドプレート28が第2治具66に当接することになる。この場合、図10に示すように、第2治具66に当接面66aの一部が開口した開口部66dが内部に垂直に延在し、途中で当接面66aに平行な方向に曲がり、第2治具66の側面66cにおいて開口した大気連通路66bが設けられていてもよい(変更形態2)。この場合には、キャビティプレート22と第1治具65の当接面65aとを当接させ、副マニホールド5a(共通インク室)と開口部66dとが連通するように位置合わせしながらマニホールドプレート28と第2治具66の当接面66aとを当接させることにより、積層された7枚の金属プレート22〜27を第1治具65及び第2治具66で挟み込み、金属プレート22〜28を加熱・押圧することにより拡散接合を行う。このとき、副マニホールド5aは大気連通路66bを介して大気に連通しているので、拡散接合を行う前にインク流路32内を真空状態にすることができる。また、副マニホールド5aは図3及び図4に示すように圧力室10よりも大きい面積を有するため、第2治具66の当接面66aとマニホールドプレート28との当接の際に、副マニホールド5aと第2治具66の開口部66dとを連通させる位置合わせがさらに容易になる。また、この場合は、拡散接合により金属プレート22〜28を接合させた後にカバープレート29及びノズルプレート30を接合する。尚、変更形態2では、第2治具66の側面において大気連通路66bを開口しているが、大気連通路66bは第2治具66のマニホールドプレート28が当接しない領域であればどこで開口していてもよく、例えば、第2治具66の当接面66aと反対側の面や当接面66aのうちマニホールドプレート28が当接していない部分で開口していてもよい。
【0068】
また、金属プレート22〜29の一部のみを接合する場合にも本発明の接合方法を適用することができる。さらに、本発明の金属プレートの接合方法及び接合用治具の適用は、インクジェットヘッドに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本実施の形態に係るインクジェットの外観斜視図である。
【図2】図1のII−II線における断面図。
【図3】図2のヘッドユニットの拡大平面図である。
【図4】図3の一点鎖線で囲まれた部分の拡大平面図である。
【図5】図4の一点鎖線で囲まれた部分拡大平面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】図6のアクチュエータユニットの拡大断面図である。
【図8】図6の流路ユニットの接合方法を表した断面図である。
【図9】変更形態1の図8相当の断面図である。
【図10】変更形態2の図8相当の断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 インクジェットヘッド
4 流路ユニット
5 マニホールド
5a 副マニホールド
21 アクチュエータユニット
22 キャビティプレート
23 ベースプレート
24 アパーチャプレート
25 サプライプレート
26、27、28 マニホールドプレート
29 カバープレート
30 ノズルプレート
61 第1治具
61a 当接面
61b 大気連通路
62 第2治具
62a 当接面
63 第1治具
63a 当接面
63b 逃がし溝
65 第1治具
65a 当接面
66 第2治具
66a 当接面
66b 大気連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面において開口した内部空洞を有する複数枚の金属プレートの積層体を、前記積層体の両面に当接する平面状の当接面を夫々有し、且つ、少なくとも一方に前記内部空洞と大気とに夫々連通する大気連通路が形成された、1対の治具で挟み込む第1工程と、
前記積層体を加熱しながら前記1対の治具により加圧して、前記複数枚の金属プレートを接合する第2工程と、
を備えたことを特徴とする金属プレートの接合方法。
【請求項2】
前記大気連通路は、前記治具の前記当接面において、前記内部空洞との連通部から前記積層体に当接しない部分まで延びる逃がし溝により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属プレートの接合方法。
【請求項3】
前記大気連通路は、前記治具の前記当接面に形成された前記内部空洞との連通部から前記治具の内部において延在し、さらに、前記治具の前記積層体に当接しない部分において開口していることを特徴とする請求項1に記載の金属プレートの接合方法。
【請求項4】
前記内部空洞は、ノズルから吐出されるインクが流れる、インクジェットヘッドのインク流路であることを特徴とする請求項1〜3に記載の金属プレートの接合方法。
【請求項5】
前記インク流路は、複数の前記ノズルに夫々連通する複数の圧力室を含み、且つ、これら複数の圧力室において夫々開口しており、
前記第1工程において、前記治具の前記大気連通路を少なくとも1つの前記圧力室に連通させた状態で、前記1対の治具により前記積層体を挟み込むことを特徴とする請求項4に記載の金属プレートの接合方法。
【請求項6】
前記インク流路は、複数の前記ノズルに連通する共通インク室を含み、且つ、この共通インク室において開口しており、
前記第1工程において、前記治具の前記大気連通路を前記共通インク室に連通させた状態で、前記1対の治具により前記積層体を挟み込むことを特徴とする請求項4に記載の金属プレートの接合方法。
【請求項7】
表面において開口した内部空洞を有する複数の金属プレートの積層体の両面に当接可能な平面状の当接面を夫々有し、前記積層体を加熱しながら加圧して前記複数の金属プレートを接合するための1対の治具であって、
少なくとも一方に、前記内部空洞と大気とに夫々連通する大気連通路が形成されていることを特徴とする金属プレート接合用治具。
【請求項8】
前記大気連通路は、前記治具の前記当接面において、前記内部空洞との連通部から前記積層体に当接しない部分まで延びる逃がし溝により形成されていることを特徴とする請求項7に記載の金属プレートの接合用治具。
【請求項9】
前記大気連通路は、前記治具の前記当接面に形成された前記内部空洞との連通部から前記治具の内部において延在し、さらに、前記治具の前記積層体に当接しない部分において開口していることを特徴とする請求項7に記載の金属プレート接合用治具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−187784(P2006−187784A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1046(P2005−1046)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】