説明

金属帯の表面処理皮膜付着量の測定装置及び測定方法

【課題】 金属帯の表面に形成されるPなどの軽元素を含む表面処理皮膜について、該皮膜中に含まれる軽元素の付着量を、蛍光X線分析装置を用いてオンライン分析できる付着量測定装置および測定方法を提供する。
【解決手段】 表面に皮膜が形成された走行中の金属帯の皮膜付着量測定装置であって、走行中の金属帯に近接して配置され、該金属帯表面にX線を照射し、励起・放射される蛍光X線を検出する蛍光X線測定ヘッドと、前記蛍光X線測定ヘッドを該金属帯幅方向に往復動可能に支持する支持装置と、前記蛍光X線測定ヘッドの該金属帯走行方向上流に配置され、該金属帯の形状を検出する形状センサと、前記形状センサで検出した金属帯の形状が閾値を超えたときに前記蛍光X線測定ヘッドを該金属帯幅方向端部外方または板面から離れる方向に退避させる退避装置と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛系めっき鋼板などの金属帯に施される化成処理皮膜、有機無機複合皮膜などの表面処理皮膜付着量をオンラインで蛍光X線分析法により測定する装置及び方法に関する。より具体的には、表面処理皮膜中のCaより原子番号の小さな元素(以下、軽元素と記載する)をオンラインで蛍光X線分析法により測定する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板のクロメート処理は、亜鉛の白錆を抑制する安価な防錆処理方法として幅広く使用され、近年、さらに耐指紋性、溶接性等の特性を付与した高品質のクロメート処理も行われている。クロメート処理のクロム付着量は、めっき鋼板の耐食性、耐指紋性、溶接性等の特性に影響を与える。従って、製品の品質管理上、クロム付着量は、所要の特性を発現できるように所定の範囲内に管理される必要がある。
【0003】
従来、クロム付着量は、めっき鋼板から試料片を採取し、オフラインで蛍光X線分析装置を用いて皮膜中のCrの蛍光X線強度を測定したり試料片の皮膜を化学溶解してCrを化学分析したりして求められていた。しかし、この方法は、得られる付着量は鋼板全長のごく一部分を代表する値にすぎず、また、分析に長時間を要するため、操業中に、得られた測定結果をフィードバックすることができず、厳密な付着量制御ができないという問題があった。この問題を改善するため、近年、ライン内に蛍光X線分析装置を配置し、皮膜中のCr付着量はオンラインで直接求められるようになってきた(例えば、特許文献1等参照)。
【0004】
クロメート処理液は6価クロムが含まれるため、従来から環境対策として、クロメート処理時の完全クローズドシステムによる排水処理の採用や、水洗工程を必要としない塗布型クロメート処理技術の開発が行われている。また、クロメート皮膜が微量に含有する6価クロムについても、クロム溶出を防止した有機複合被覆鋼板の開発、塗布型クロメート皮膜の難溶化の検討などが行われてきた。
【0005】
一方、環境対策面から、6価クロムを使用しないクロムフリー化成処理鋼板の開発が行われ、例えば、特許文献2、特許文献3は、下層に、クロメート皮膜に代えて、酸化物を含有するリン酸及び/又はリン酸化合物皮膜を形成し、その上層に樹脂皮膜からなる有機複合被覆を形成させる有機複合被覆鋼板を提案している。
【0006】
特許文献2、特許文献3で提案する有機複合被覆鋼板の下層皮膜はリン酸及び/又はリン酸塩を含み、軽元素のP(リン)を皮膜の主要構成元素としている。この提案に係る有機複合被覆鋼板は、従来のクロメート処理鋼板に充分代替出来る特性を有している。皮膜成分分析を迅速に行うことのできる手法として蛍光X線分析法がある。しかし、Pのような軽元素の特性X線は大気中で減衰されるため、オンラインで蛍光X線分析することはこれまで行われていない。そのため、P付着量の分析はオフラインで行わざるを得ず、処理ラインでの分析用サンプル採取時期の制約及び分析結果が得られるまでに時間遅れがあり、厳密な付着量制御ができないという問題がある。
【特許文献1】特開平5−264481号公報
【特許文献2】特開2001−11645号公報
【特許文献3】特開2001−11656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、亜鉛系めっき鋼板などの金属帯の表面に形成されるPなどの軽元素を含む表面処理皮膜について、該皮膜中に含まれる軽元素の付着量を、蛍光X線分析装置を用いてオンライン分析できる付着量測定装置および測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の手段は次の通りである。
【0009】
第1発明は、その表面に皮膜が形成された走行中の金属帯の皮膜付着量測定装置であって、走行中の金属帯に近接して配置され、該金属帯表面にX線を照射し、励起・放射される蛍光X線を検出する蛍光X線測定ヘッドと、前記蛍光X線測定ヘッドを該金属帯幅方向に往復動可能に支持する支持装置と、前記蛍光X線測定ヘッドの該金属帯走行方向上流に配置され、該金属帯の形状を検出する形状センサと、前記形状センサで検出した金属帯の形状が閾値を超えたときに前記蛍光X線測定ヘッドを該金属帯幅方向端部外方または板面から離れる方向に退避させる退避装置と、を備えることを特徴とする付着量測定装置である。
【0010】
第2発明は、第1発明において、前記形状センサは金属帯との接触を検知する接触検知センサであることを特徴する付着量測定装置である。
【0011】
第3発明は、第1または第2発明において、前記接触検知センサの金属帯との接触検知部は、金属帯と所定間隔を設けて金属帯幅方向に張力を張って配置された線材で構成されていることを特徴する付着量測定装置である。
【0012】
第4発明は、第1〜第3発明において、前記蛍光X線測定ヘッドは金属帯との間隔が10mm以下になるように配置することを特徴する付着量測定装置である。
【0013】
第5発明は、第1〜第4発明において、前記形状の閾値は、前記蛍光X線測定ヘッドと金属帯の間隔と同じ値であることを特徴とする付着量測定装置である。
【0014】
第6発明は、その表面に皮膜が形成された走行中の金属帯の皮膜付着量測定方法であって、走行中の金属帯に近接して、該金属帯表面にX線を照射し、励起・放射される蛍光X線を検出する蛍光X線測定ヘッドを配置して金属帯表面に形成された表面処理皮膜の元素の蛍光X線を測定するとともに、前記蛍光X線測定ヘッドの該金属帯走行方向上流に配置した形状センサで該金属帯の形状を検出し、検出した該金属帯の形状が閾値を超えたときは、前記蛍光X線測定ヘッドを該金属帯幅方向端部外方または板面から離れる方向に退避させることを特徴とする付着量測定方法である。
【0015】
第7発明は、第6発明において、前記蛍光X線測定ヘッドは金属帯との間隔が10mm以下の間隔を設けて配置され、前記形状センサが走行中の金属帯に対して前記所定間隔以上の歪量を検出すると、前記蛍光X線測定ヘッドを該金属帯幅方向端部外方または板面から離れる方向に退避させることを特徴とする付着量測定方法である。
【0016】
第8発明は、第6または第7発明において、前記測定元素は、Caより原子番号の小さな元素(Caを含む)であることを特徴とする付着量測定方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、P等の軽元素を含む表面処理皮膜の付着量をオンライン分析することが可能になり、得られた測定結果をフィードバックすることで、適切な付着量制御を迅速に行うことができるようになる。また金属帯全長のごく一部分でなく、長手方向の皮膜付着量ばらつき等を容易に把握することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
蛍光X線分析装置を用いたオンライン分析は、亜鉛系めっき鋼板上に形成されたクロメート処理皮膜中のCr分析等において既に実用化されている。蛍光X線分析装置を用いた分析では、X線発生装置からX線をめっき鋼板表面に照射し、めっき表面から発生する蛍光X線を、分光結晶体を介してX線検出器で検出する。その際、空気によるX線の吸収を防ぐため、雰囲気を真空状態とする。オンライン分析では、鋼板と蛍光X線測定ヘッドの間隔は30mm程度とされる。このようなオンライン分析では、軽元素では発生した蛍光X線が大気中で減衰されるため、これまでPのような軽元素のオンライン分析は困難とされていた。
【0019】
本発明者らは、前述の特許文献2、特許文献3に記載される有機複合被覆鋼板のP(リン)を皮膜の主要構成元素とする皮膜について、蛍光X線分析装置を用いて、P付着量のオンライン分析の可否、分析精度等を調査した。その結果、蛍光X線分析装置として、蛍光X線測定ヘッド内に、めっき鋼板にX線を入射するX線発生装置および前記めっき鋼板側から出てくるL系列およびK系列の蛍光X線強度を測定する半導体検出器を有する光学系とを設けて、前記蛍光X線測定ヘッド内を含む光学系のX線入・出射光路の一部または全部をX線吸収の小さいガスで満たすとともに、さらに蛍光X線測定ヘッドはめっき鋼板との間隔が10mm以下の所定間隔を設けて近接配置することで、実操業において操業管理に使用するに十分な分析精度でP付着量のオンライン分析が可能になることを見出した。本発明はこの知見に基きなされたものである。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明する。なお、以下の本発明の実施の形態は、金属帯は亜鉛系めっき鋼板を念頭において説明する。
【0021】
図1は本発明の実施の形態に係る付着量測定装置を備える鋼板の連続電気めっきラインの要部を示す概略側面図である。本実施の形態では、形状センサは接触式センサが設置され、形状測定ヘッドは鋼板幅方向端部外方に退避させる。
【0022】
図1において、1は鋼板、2は巻き戻し装置、3は入側ルーパ、4は電気めっきセクション、5は塗装セクション、6は形状検出部(形状センサ)、7は付着量測定部、8は出側ルーパ、9は巻き取り装置である。
【0023】
電気めっきセクション4は、アルカリ脱脂後酸洗処理を行う前処理部と電気亜鉛めっきを行うめっき部と後処理を行う後処理部を備える。塗装セクション5は、第1塗装部5aと第2塗装部5bを備える。第1塗装部5aは、鋼板1の表裏面の各々に塗布液を塗布する3ロールタイプのロールコータ21a、22a及び塗布した塗布液を加熱乾燥し、しかる後冷却するオーブン23aを備える。第2塗装部5bは、鋼板1の表裏面の各々に塗布液を塗布する2ロールタイプのロールコータ21b、22b及び塗布した塗布液を加熱乾燥し、しかる後冷却するオーブン23bを備える。
【0024】
付着量測定部7は、鋼板通板方向に対して、第2塗装部5bの下流に配置され、形状検出部6は、第1塗装部5aと第2塗装部5bの間に配置されている。
【0025】
図2、図3は、付着量測定部7の要部を示す図で、図2は概略側面図、図3は図2のA−A矢視図である。
【0026】
図2に示すように、デフレクターロール31、32間の鋼板1を挟む反対側に、サポートロール33a、33bが、鋼板1をパスラインより前方に押し込むように配置されている。サポートロール33a、33bの押し込み量は、当該ロールで鋼板のC反りを防止できる適宜の押し込み量とされる。蛍光X線測定ヘッド(以下、測定ヘッド)34a、34bは、各々サポートロール33a、33bに対して鋼板1を挟んだ反対側に該鋼板1に近接して所定間隔を開けて配置されている。めっき表面に形成された表面処理皮膜中の軽元素から放射される蛍光X線検出精度を確保する観点から、測定ヘッド34a、34bは鋼板との間隔が10mm以下の所定間隔を設けて近接配置される。前記所定間隔は7mm以下とすることがより好ましい。
【0027】
測定ヘッド34aは、その下部に駆動装置35aを有する台車36aが設置され、駆動装置35aを駆動させることで、鋼板幅方向に設置されたレール37a上を移動自在である。同様に測定ヘッド34bは、その下部に駆動装置35bを有する台車36bが設置され、駆動装置35bを駆動させることで、鋼板幅方向に設置されたレール37b上を移動自在である。38a、38bはガス供給管及び制御配線用のコンベアであり、その内部にX線発生器への信号、X線検出器からの信号を送信・受信するための配線、駆動機構35a、35bを駆動させるための配線等が配置されている。図3中、二点差線で示される34a′、34a″及び34b′、34b″は各々測定ヘッド34a、34bの前進限の位置、後退限の位置を示している。
【0028】
図4は、前記付着量検出部7の要部を説明する概略図である。蛍光X線測定ヘッド11はめっき鋼板1と所要間隔を設けて配置され、該測定ヘッド11には、ガス供給装置17から当該ヘッド11内にヘリウムガスを供給する配管が接続されている。ヘリウムガスは、L系列蛍光X線に対して吸収が小さく、光路中のX線の減衰が小さい。なお、光路中のX線の減衰が小さいものであれば、他のガスであってもよく、例えば窒素ガスであってもよい。
【0029】
この蛍光X線測定ヘッド11は、箱状に形成され、X線の入射光路およびめっき鋼板1側からの蛍光X線出射光路となる部分に開口部が形成されている。
【0030】
前記蛍光X線測定ヘッド11内には光学系12が配置されている。該光学系12は、X線発生器13および半導体検出器14を有し、さらにX線発生器13から発生するX線の入射光路およびこのX線の入射によってめっき鋼板側から出てくるX線の出射光路の一部または全部をヘリウムガスで満たすようなガス通路15および16が設けられ、めっき皮膜2からのL系列蛍光X線およびK系列蛍光X線を半導体検出器14で測定する。
【0031】
半導体検出器14により測定されたL系列蛍光X線強度およびK系列蛍光X線強度はそれぞれ付着量処理演算部53に送出される。
【0032】
この付着量処理演算部53は、L系列蛍光X線強度およびK系列蛍光X線強度を取り込み、検量線法に基づいて皮膜付着量を求める。ここで、検量線法とは、予め測定条件とされる所定の入射角でX線を入射し、このX線入射によって得られる同じく測定条件とされる所定の測定角で測定される分析目的元素のL系列の蛍光X線強度の検量線を、既知のめっき鋼板における皮膜付着量をパラメータとして求めて記憶しておく。K系列の蛍光X線強度の検量線についても、同様に測定条件の下に皮膜付着量をパラメータとして求めて記憶しておく。
【0033】
この状態において半導体検出器14からのL系列蛍光X線強度およびK系列蛍光X線強度を取り込み、取り込んだX線強度と前記検量線に基き、被測定対象の皮膜中の軽元素の付着量を求める。
【0034】
図5は、図4の分析装置を用いて、めっき表面にリン酸含有皮膜を有する亜鉛めっき鋼板について、該分析装置がオンラインで使用されるのと同じ条件で、実施例1で皮膜形成するリン酸含有皮膜のP付着量とPの蛍光X線強度(L系列)の関係を調査した結果を示す。蛍光X線測定ヘッドとめっき鋼板の間隔は5mmである。P付着量とP強度との間によい相関関係が認められる。P付着量をx(mn/m2)、半導体検出装置で検出するPの蛍光X線強度をy(kcps)とすると、両者の関係式は、y=0.009x+0.2785で表される。この関係を用いて、オンラインでP強度を測定してP付着量を求めることができる。
【0035】
図6は、図4の分析装置を用いて、前記と同様にして、めっき表面にSi含有皮膜を形成した亜鉛めっき鋼板について、Si付着量とSiの蛍光X線強度(L系列)の関係を調査した結果を示す。Si付着量とSi強度の間にもよい相関関係が認められる。Si付着量x(mg/m2)、半導体検出装置で検出するSiの蛍光X線強度をy(kcps)とすると、両者の関係式は、y=0.2607x+0.0212で表される。この関係を用いて、オンラインでSi強度を測定してSi付着量を求めることができる。
【0036】
皮膜が複層構造皮膜で、その1の層の付着量分析を行うときは、複層構造皮膜の鋼板において、その1の層について分析対象元素について前記のような関係を求めればよい。
【0037】
本発明では、測定ヘッド11を鋼板1との間隔が10mm以下、より好ましくは7mm以下となる所定間隔を設けて近接配置する。走行中の鋼板形状は常時安定して平坦とは云えず、局部的に、中伸び、耳波等の鋼板形状の値が前記所定間隔以上となる場合がある。このような形状の劣る鋼板が付着量検出部7を通過すると、測定ヘッド11と接触して損傷させる恐れがある。従って、鋼板形状が劣る部分があるときは、該部分が付着量検出部を通過する前に測定ヘッド11を鋼板通板部分の外に確実に退避させて装置の損傷を防止することが不可欠である。本発明では、係る観点から、付着量検出部7の上流に鋼板形状を検出する形状センサと、測定ヘッド11を鋼板通板部分の外側に退避させる退避手段を備える。形状センサは鋼板形状が予め定めた閾値以上であることを検知すると、退避手段で測定ヘッド11を鋼板通板部分の外側に退避させる。このような装置を備えることで、初めて軽元素のオンライン分析を安定して行うことができる。
【0038】
鋼板形状を検出する形状センサは、センサと鋼板とを非接触で鋼板形状を検知する非接触式形状センサ、センサと鋼板を接触させて鋼板形状を検知する接触式形状センサを採用することができる。形状センサは鋼板幅方向の形状の最大値(最大歪)を検出できるものが好ましい。
【0039】
本実施の形態では、図1には、鋼板幅方向の歪の最大値を検知できる非接触式形状センサが設置されている。図7は、形状検出部(接触式形状センサ)6の要部を示す概略図である。形状センサは、めっき鋼板1がデフレクターロール41に巻きかけられている位置で、該デフレクターロール41の軸方向に延在し、鋼板面と平行で、該鋼板面と所定間隔をあけて、めっき鋼板の一方の端部外側から他方の端部外側に張られて配置されたワイヤ43と、該ワイヤ43に通電する電源装置44と、該ワイヤ43に流れる電流を計測する電流計45とを備える。ワイヤ43とめっき鋼板1の間隔は、測定ヘッド34a、34bとめっき鋼板1の間隔と同じ間隔にされている。ワイヤ43とめっき鋼板1が接触すると、電流計45で検出する電流値が変化する。電流の変化量がある閾値以上になると鋼板形状不良と判断する。
【0040】
図8は、本発明の実施の形態に係る付着量測定装置の制御系統を説明するフロー図である。図8中、51は形状演算部、52は駆動装置制御部、53は付着量処理演算部、54は集中制御盤、55は警報装置である。
【0041】
付着量処理演算部53には、第1塗装部で塗布形成する表面処理皮膜について、予め調査して求めた測定対象の軽元素の蛍光X線強度と皮膜付着量との関係、例えば、測定対象の軽元素がPである場合、図5に示すごときPの強度と付着量の関係が入力されて記憶されている。また、必要に応じて付着量の上限又は下限の閾値が設定されている。測定ヘッド34a、34bでは、X線発生器13からX線をめっき鋼板に照射し、発生した蛍光X線強度を半導体検出器14で検出する。検出したX線強度を付着量処理演算部53に送る。
【0042】
測定ヘッド34a、34bは鋼板幅方向に走行自在である。通常、測定ヘッド34a、34bを鋼板幅方向の全幅に渡り一定速度で横行を繰り返し、鋼板幅方向の付着量を測定する方法、測定ヘッド34a、34bを横行させて鋼板幅方向の3箇所(中央部及び各々の端部近傍部分)で所定時間停止して当該3箇所の付着量を測定する方法、測定ヘッド34a、34bを鋼板幅方向中央に配置して当該位置の付着量を測定する方法のいずれかの測定を行う。
【0043】
付着量処理演算部53は、測定ヘッド34a、34bから送られてきたX線強度信号を処理し、記憶されているX線強度と付着量との関係に基き、皮膜付着量を演算して求める。求めた付着量は、集中制御盤54に出力して表示する。また、求めた付着量が上限閾値又は下限閾値を外れた場合は警報装置55に信号を送り、付着量が閾値範囲を外れたことを音声及び/又は表示灯で操作員に知らしめる。
【0044】
形状センサ6の電流計45で計測した電流値は形状演算部51に送られる。形状演算部51は、電流値が予め定めた閾値以上であるか否かを判定し、電流値が閾値を下回るとワイヤ43と鋼板1が接触したと判定し、判定結果を駆動装置制御部52に出力する。駆動装置制御部52は駆動装置35a、35bを駆動させて測定ヘッド34a、34bを鋼板端部外方の後退限34a″、34b″まで移動させる。測定ヘッド34a、34bを退避させる鋼板形状の閾値は、鋼板と測定ヘッドの間隔と同じ値に設定する。また、警報装置55に信号を送り、測定ヘッド34a、34bの退避限への退避を音声及び/又は表示灯で操作員に知らしめる。形状センサと鋼板が接触していないことを確認したら捜査員が付着量測定を再開する。
【0045】
なお、形状センサ6と付着量測定部7の鋼板通板方向の間隔は、駆動装置35a、35bが測定ヘッド34a、34bを各々の退避限34a″、34b″まで移動させるのに要する応答時間と、鋼板走行速度とを考慮して、形状センサ6で検知した形状不良部位が付着量測定部7に到達する前に、測定ヘッド34a、34bが退避限34a″、34b″に移動可能な適宜間隔に設定される。鋼板走行速度はめっきセクションの処理能力、塗装セクションの処理能力に対応して変化するので、形状不良部位の走行位置のトラッキングを行い、そのトラッキング情報に基づき測定ヘッド34a、34bを退避させるタイミングを決定することが有利である。上記条件が満たされ、また、形状検出部6通過後に鋼板形状不良を発生させることがなれば、形状検出部6の配置場所は特に限定されない。前述の実施の形態では、形状センサ6は第2塗装部の上流に設けたが、第2塗装部の下流に設けてもよい。
【0046】
以上説明した発明の実施の形態では、形状センサは接触式センサであったが、形状センサは非接触式センサであってもよい。非接触式形状センサとしては、鋼板がデフレクターロールに巻きかけられている位置で、鋼板の一方の端部外側に、鋼板に近接させて鋼板面に平行に鋼板の他方の端部側に向かってレーザ光を照射する投光器と、鋼板の他方の端部外側にレーザ光を受光するCCDカメラを用いた受光器とを配置し、受光器で受光する受光量に基き、鋼板形状(基準パスラインからの鋼板の変位量)を計測することができる。
【0047】
また、測定ヘッドは鋼板幅方向端部の外側に退避させたが、測定ヘッドを、鋼板面と直角方向、または鋼板面に対して鋼板走行方向の斜め上方、または斜め下方に、板面から離れる方向に移動させる退避方式であってもよい。
【0048】
図9は、測定ヘッド11を、鋼板面に対して直角方向に退避させる装置の構成例である。台車36上に、測定ヘッド11を鋼板面と直角方向にスライド可能に保持する摺動部材61と、測定ヘッド11を鋼板面と直角方向に前進または後退させるモータとギア機構を内蔵する駆動装置62が配置されている。測定ヘッド11の前進位置は、皮膜分析を行うための所定位置である。測定ヘッド11の後退位置は、鋼板の形状不良の際に測定ヘッド11と鋼板との接触を回避できる適宜の位置である。皮膜付着量分析の際は、測定ヘッド11は前進位置に配置され、形状センサ6が鋼板の形状不良を検知すると、駆動装置制御部からの指令に基き、駆動装置62を駆動して、測定ヘッド11に連結されている軸63を後退させ、測定ヘッド11を後退位置に移動する。本装置では、測定ヘッド11を退避させる時間、または退避させ測定ヘッド11を測定位置に復帰させるための時間を短縮でき、したがって、皮膜付着量分析を行えない鋼板長を短くできる利点がある。必要に応じて、測定ヘッドを該めっき鋼板幅方向端部外方に対比させる方式と板面から離れる方向に退避させる方式を併用してよい。
【0049】
本発明によれば、P、Siなどの軽元素を含む皮膜の付着量を、蛍光X線分析装置を用いてオンライン分析が可能になる。鋼板を走行させながら付着量測定を迅速に行うことができ、測定結果を塗装工程にフィードバックすることで、従来に比べて厳密かつ迅速な付着量制御が可能になる。
【0050】
塗装速度を高めると付着量ばらつきが大きくなる傾向がある。そのため、これまで、付着量範囲外れの発生を防止する観点から塗装速度は低めに設定して操業していたが、本発明によれば、厳密な付着量制御が可能になるので、塗装速度を高めることが可能になり、生産性の向上にも寄与する。
【実施例1】
【0051】
本発明の実施例について説明する。図1の電気亜鉛めっきラインで、厚さ0.4〜2.3mm×幅910〜1880mmの範囲内にある鋼板に電気亜鉛めっきを施し、次いで第1塗装部で、第一リン酸:0.01mol/l、コロイダルシリカ:0.01mol/l、及びMg:0.01mol/lを含有する、pH3の処理液を塗布し、しかる後に焼き付け処理を行い、P付着量の目標範囲が45〜65mg/m2であるリン酸含有皮膜を有する表面処理鋼板を製造し、オフラインの蛍光X線分析装置で形成された皮膜のP付着量を測定した。
【0052】
本発明法では、オンライン分析装置の測定ヘッド11、形状センサ6のワイヤ43は、各々最大装入厚さの鋼板(板厚2.3mm)に対する間隔が5mmとなる位置に配置し、ライン内に配置された分析装置で検出されるP付着量に基き、該P付着量が45〜65mg/m2の範囲内となるように各ロールの回転数、塗液濃度等の塗布条件を調整した。Pの蛍光X線強度とP付着量の関係は、図1に示した関係を用いた。
【0053】
オフラインの蛍光X線分析装置でのP付着量の測定結果に基きP付着量を調整した従来法ではP付着量の目標範囲外れの発生割合は0.5%であったが、本発明法ではP付着量の目標範囲外れは発生しなかった。また、本発明法では、鋼板の形状不良部分があっても、形状センサ6が鋼板の形状不良を検知し、測定ヘッド11を鋼板端部の外側に退避させたので測定ヘッド11損傷のトラブルは発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、P、Siなどの軽元素を含む皮膜の付着量を、蛍光X線分析装置を用いてオンライン分析するための装置、オンライン分析する方法として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態に係る付着量測定装置を備える鋼板の連続電気めっきラインの要部を示す概略側面図である。
【図2】付着量測定部の要部を概略側面図である。
【図3】図2のA−A矢視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る付着量測定装置の付着量検出部7の要部を説明する概略図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る蛍光X線分析装置の蛍光X線測定ヘッドとめっき鋼板の間隔を5mmとしたときのP付着量と蛍光X線強度の関係を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る蛍光X線分析装置の蛍光X線測定ヘッドとめっき鋼板の間隔を5mmとしたときのSi付着量と蛍光X線強度の関係を示す図である。
【図7】形状検出部の要部を示す概略図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る付着量測定装置の制御方法を説明するフロー図である。
【図9】測定ヘッドを、鋼板面の直角方向に退避させる装置の要部構成例を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 鋼板(めっき鋼板)
2 巻き戻し装置
3 入側ルーパ
4 電気めっき部
5 塗装部
6 形状検出部(形状センサ)
7 付着量測定部
8 出側ルーパ
9 巻き取り装置
11 蛍光X線測定ヘッド(測定ヘッド)
12 光学系
13 X線発生器
14 半導体検出器
15、16 ガス通路
17 ガス供給装置
31、32 デフレクターロール
33a、33b サポートロール
34a、34b 蛍光X線測定ヘッド
35a、35b 駆動装置
36a、36b 台車
37a、37b レール
38a、38b コンベア
41 デフレクターロール
42 支持装置
43 ワイヤ
44 電源装置
45 電流計
46 線材の固定装置
51 形状演算
52 駆動装置制御部
53 付着量処理演算部(信号処理・解析装置)
54 集中制御盤
55 警報装置
61 摺動部材
62 駆動装置
63 軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その表面に皮膜が形成された走行中の金属帯の皮膜付着量測定装置であって、走行中の金属帯に近接して配置され、該金属帯表面にX線を照射し、励起・放射される蛍光X線を検出する蛍光X線測定ヘッドと、前記蛍光X線測定ヘッドを該金属帯幅方向に往復動可能に支持する支持装置と、前記蛍光X線測定ヘッドの該金属帯走行方向上流に配置され、該金属帯の形状を検出する形状センサと、前記形状センサで検出した金属帯の形状が閾値を超えたときに前記蛍光X線測定ヘッドを該金属帯幅方向端部外方または板面から離れる方向に退避させる退避装置と、を備えることを特徴とする付着量測定装置。
【請求項2】
前記形状センサは金属帯との接触を検知する接触検知センサであることを特徴する請求項1記載の付着量測定装置。
【請求項3】
前記接触検知センサの金属帯との接触検知部は、金属帯と所定間隔を設けて金属帯幅方向に張力を張って配置された線材で構成されていることを特徴する請求項1または請求項2記載の付着量測定装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3において、前記蛍光X線測定ヘッドは金属帯との間隔が10mm以下になるように配置することを特徴する付着量測定装置。
【請求項5】
前記形状の閾値は、前記蛍光X線測定ヘッドと金属帯の間隔と同じ値であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの項記載の付着量測定装置。
【請求項6】
その表面に皮膜が形成された走行中の金属帯の皮膜付着量測定方法であって、走行中の金属帯に近接して、該金属帯表面にX線を照射し、励起・放射される蛍光X線を検出する蛍光X線測定ヘッドを配置して金属帯表面に形成された表面処理皮膜の元素の蛍光X線を測定するとともに、前記蛍光X線測定ヘッドの該金属帯走行方向上流に配置した形状センサで該金属帯の形状を検出し、検出した該金属帯の形状が閾値を超えたときは、前記蛍光X線測定ヘッドを該金属帯幅方向端部外方または板面から離れる方向に退避させることを特徴とする付着量測定方法。
【請求項7】
請求項6において、前記蛍光X線測定ヘッドは金属帯との間隔が10mm以下の間隔を設けて配置され、前記形状センサが走行中の金属帯に対して前記所定間隔以上の歪量を検出すると、前記蛍光X線測定ヘッドを該金属帯幅方向端部外方または板面から離れる方向に退避させることを特徴とする付着量測定方法。
【請求項8】
前記測定元素は、Caより原子番号の小さな元素(Caを含む)であることを特徴とする請求項6または請求項7記載の付着量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−208013(P2006−208013A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16412(P2005−16412)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】