説明

金属張積層板の製造方法

【課題】 プリント配線板製造時の加熱工程での反りや寸法変化の発生を抑えることのできる金属張積層板を製造する。
【解決手段】 プリプレグと金属箔とを重ね、熱硬化性樹脂が溶融を開始するまでの圧力を0.3MPa以下として加熱加圧し、溶融開始からゲル化までは所定圧のもとに加熱加圧し、0.5〜2MPa/minで降圧した後に無圧状態で加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板等に有用な金属張積層板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、プリント配線板等のための金属張積層板の製造においては、ガラスクロス等の繊維基材にエポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸乾燥させて得たプリプレグを複数枚重ね、その最外層として銅箔等の金属を重ねて加熱加圧成形する方法がよく知られている。そしてこの方法については、金属張積層板を用いてプリント配線板を製造する際の加熱工程での反りの発生や寸法の変化、ばらつき等を抑えるための工夫が各種試みられている。たとえば成形後にアニーリング処理することや、加熱加圧成形をより低圧で行う方法等である。
【0003】
しかしながら、これらの改善策においても、多数枚の成形において加圧熱板側の製品に生じる反りを防ぐことが難しいという問題やアニーリング処理での再加熱によって製品の変色やさびの発生が見られるという問題があった。そこで、このような問題を生じさせることなく製品の反りや寸法変化を抑えるための手段として、プリプレグを構成する樹脂が溶融開始するまでは圧力0.3MPa以下で加熱加圧し、溶融開始からゲル化までは通常の所定圧力で加熱加圧し、その後は無圧状態で加熱するという方法が提案されている(特許文献1)。また、加熱温度のばらつきによる成形性の悪化や板厚のばらつきを抑えることを目的として、プリプレグ樹脂の温度や溶融粘度との関係で、成形時の昇温速度や加圧力を制御する方法(特許文献2)等も提案されている。
【0004】
だが、このような提案方法においても、プリント配線板製造時の加熱工程での反りや寸法変化を抑えることができる金属張積層板を製造するとのことは実用的に必ずしも満足できるものとなっていない。たとえば上記の特許文献1の方法には、ある程度の効果が確認されているものの、この方法においても、かえって反りや寸法変化が大きくなり製品仕様を悪くすることがある。
【特許文献1】特開平6−71773号公報
【特許文献2】特許第3382169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のとおりの背景から、従来の問題点を解消し、金属張積層板の製造において、良好な成形性のもとに、プリント配線板製造時の加熱工程での反りや寸法変化の発生をさらに効果的に抑えることのできる改善された新しい方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属張積層板の製造方法は、上記の課題を解決するものとして、以下のことを特徴としている。
【0007】
第1:繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸乾燥して得たプリプレグを複数枚重ね、さらにその外側に金属箔を重ねて、熱硬化性樹脂が溶融開始するまでの圧力を0.3MPa以下の接触圧で加熱加圧し、熱硬化性樹脂が溶融を開始しゲル化するまでは所定圧で加熱加圧した後、0.5〜2MPa/minで降圧し、無圧状態で加熱する。
【0008】
第2:上記方法において、無圧状態で加熱後の冷却速度を3℃/min以下とする。
【発明の効果】
【0009】
上記第1の発明によれば、熱硬化性樹脂のゲル化後の降圧速度を0.5〜2MPa/minの特定範囲になるように制御する特有の成形プロセスを採用することで、たとえばプリント配線板製造時の加熱工程での加熱後の反りを0.5mm以下、寸法変化を0.001未満の低レベルにまで抑えて、良好な成形性によって金属張積層板の製造を可能とする。
【0010】
また、無圧成形後の冷却速度を3℃/min以下に制御する第2の発明によれば、上記効果をより確実に安定して実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の金属張積層板の製造方法においては、繊維基材、熱硬化性樹脂、金属箔については従来公知のものをはじめとして各種のものであってよい。また、加熱、加圧のための手段も同様である。
【0012】
たとえば繊維基材としては、ガラス繊維、合成繊維、天然繊維等の積層板に使用されるもの全般のものが、また、熱硬化性樹脂については、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、フェレンオキシド樹脂、フッ素樹脂等の積層板に使用される各種のものであってよい。これらの熱硬化性樹脂は、上記の繊維基材に含浸される際に、各種の配合成分を含む組成物として適用されてよい。たとえば、硬化剤、硬化促進剤、難燃剤、無機充填材、粘度調整剤、着色剤等の配合成分が考慮されてよい。
【0013】
熱硬化性樹脂は、これら成分との組成物として繊維基材に含浸され乾燥されて半硬化の、いわゆるBステージ状態とされ、プリプレグを構成することになる。
【0014】
本発明においては、このようなプリプレグの所要な複数枚を用い、これを重ね、その外側に、銅、ニッケル等の金属や合金からなる金属箔を重ねる。熱硬化性樹脂や配合成分の含浸量、プリプレグの厚みや枚数、金属箔の種類、厚み等は積層板の用途か所要の性質に応じて、従来と同様に多様な形態のうちの一つとして選択することができる。
【0015】
上記のように重ね合わせた後に加熱加圧して積層成形するが、繊維基材と熱硬化性樹脂、そして金属箔の熱膨張率と弾性率の差から、加熱加圧により成形後の積層板には反りや寸法変化が生じやすい。このため、本発明においては、この成形を、上記のように、以下のプロセスと条件で行う。
【0016】
A:熱硬化性樹脂が溶融を開始するまでの圧力は0.3MPa以下の接触圧で加熱加圧する。
【0017】
B:熱硬化性樹脂が溶融を開始しゲル化するまでは所定圧で加熱加圧する。
【0018】
C:その後0.5〜2MPa/minで降圧する。
【0019】
D:無圧状態で加熱する。
【0020】
プロセスAにおいては無圧状態として加熱することが本来的には望ましいが、加熱するためには上下に配置する熱板を接触させる必要があることから、この熱伝達を行うための最小の圧力として0.3MPa以下とする。これによって、熱膨張率と弾性率の異なる物質の接触による応力を低減する。
【0021】
次のプロセスBにおいては、熱硬化性樹脂が溶融して、塑性変形しゲル化するまでの流動状態においては、熱硬化性樹脂の種類や粘度等に応じて加圧力が必要とされる。また、ゲル硬化のための所要の加熱が必要とされる。
【0022】
たとえば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であり、ガラスクロス、銅箔を用いた積層板においては、板厚1.2〜2mm程度の場合には、たとえば、100℃〜180℃、2〜10MPaの加熱加圧を10〜30分間程度行うことになる。
【0023】
なお、上記のプロセスAおよびBにおいては、公知の手段によって、たとえばソリキッドメータ等によって温度による粘度変化を測定し、これにより溶融の開始やゲル化を判断することができる。
【0024】
このプロセスBの後にプロセスDの無圧状態での加熱まで移行させるが、この移行は、プロセスCとして、0.5〜2MPa/minの範囲の降圧条件で行うことが必要である。
【0025】
降圧速度が2MPa/minを超える速い条件では急激な応力変化により積層板の反りが大きくなる。一方、0.5MPa/min未満の遅い条件では、樹脂硬化が進みすぎて、プロセスDでの無圧下の加熱によっても反りや寸法変化を抑えることは難しく、かえって悪くなる。
【0026】
そしてプロセスDの無圧下での加熱は、上記のプロセスBでの温度の範囲と同様とする。このプロセスDも本発明においては欠かせない。
【0027】
なお、本発明では、このプロセスDの後の冷却速度を3℃/min以下とすることで、積層板の冷却時の表裏の温度差を極力小さくし、高分子の組成を均一にすることができる。このため、さらに反りや寸法変化の抑制効果を確実なものとする。実際には、この冷却速度は、生産性の観点から0.5℃/min以上とすることが考慮される。冷却速度が3℃/min以下の場合には、上記のプロセスCとの相乗効果が得られることになる。
【0028】
そこで、以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん本発明は以下の例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
(1)樹脂ワニスの調製
以下の組成(重量部)のワニスを調製した。
【0030】
エポキシ当量500のビスフェノールA型エポキシ樹脂(150部)
ジシアンジアミド(3部)
2−エチル−4−メチルイミダゾール(0.1部)
メチルエチルケトン(30部)
DMF(10部)
ジメチルセルソルブ(10部)
(2)含浸と乾燥
上記の樹脂ワニスを2116タイプのガラスクロスに含浸させ、160℃で7分間乾燥し、樹脂含浸率50%のプリプレグを得た。
【0031】
(3)成形
上記プリプレグを2枚重ね、その両側に厚み18μmの銅箔を重ねて、
a:プレス圧0.3MPa、175℃で樹脂が溶融を開始するまで保持し、
b:樹脂が溶融を開始したら175℃の温度のままゲル硬化するまで、プレス圧5MPaとして加熱加圧した。
【0032】
c:ゲル硬化後、表1に示した降圧速度で降圧し、
d:無圧状態で175℃の温度で20分間加熱した。
【0033】
e:その後、表1に示した冷却速度で降温させた。
【0034】
(4)評価
上記のプロセスにより得られた銅張積層板について250×250mmの試験片を作成し、プリント配線板製造時の加熱工程に相当する140℃で30分間加熱後の反りと寸法変化を測定した。
【0035】
反りは、四隅の最大はね上がりをダイヤルゲージで測定した。また、寸法変化は、常態での測定値を基準とし、加熱後の変化率を求めた。
【0036】
その結果も表1に示した。
【0037】
本発明の実施例においては反り、寸法変化ともに顕著に抑えられていることが確認された。
【0038】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸乾燥して得たプリプレグを複数枚重ねて、さらにその外側に金属箔を重ね、熱硬化性樹脂が溶融を開始するまでは圧力0.3MPa以下の接触圧で加熱加圧し、熱硬化性樹脂が溶融を開始しゲル化するまでは所定圧で加熱加圧した後、0.5〜2MPa/minで降圧し、無圧状態で加熱することを特徴とする金属張積層板の製造方法。
【請求項2】
無圧状態で加熱後の冷却の速度を3℃/min以下とすることを特徴とする請求項1に記載の金属張積層板の製造方法。

【公開番号】特開2008−80560(P2008−80560A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260984(P2006−260984)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】