説明

金属微粒子とその製造方法とその含有組成物ならびにその用途

【課題】粒子サイズや吸光特性の再現性に優れた金属微粒子の製造方法とその金属微粒子、およびその含有組成物、並びにその用途を提供する。
【手段】還元力の差が大きい二種類の還元剤を用いて金属イオンの還元を二段階で行い、その第一還元工程において還元力の強い還元剤を用い、第二還元工程において還元力が弱い還元剤を用いることによって、ナノサイズの金属微粒子を製造することを特徴とする製造方法であり、好ましくは、界面活性剤を含む金属塩水溶液用い、同一容器内で二段階還元を行い、その第一還元工程の還元剤として水素化ホウ素塩、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、アスコルビン酸から選ばれる何れか1種以上を用い、第二還元工程の還元剤として特定のアルキルアミンまたはアルカノールアミンを用いる金属微粒子の製造方法、その金属微粒子、およびその含有組成物、並びにその用途。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子サイズや吸光特性の再現性に優れた金属微粒子の製造方法とその金属微粒子、およびその含有組成物、並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子の合成方法として、電気化学的方法(非特許文献1)、化学的方法(非特許文献2)、光化学的方法(非特許文献3)が知られている。また、塗料や樹脂組成物の着色材として形状が球状の貴金属微粒子を製造する方法として、貴金属の化合物を溶媒に溶解し、高分子量分散剤を添加後、還元する方法が知られている(特許文献1)。さらに、金属配線パターンを形成することを目的として、固体表面に担持させたプラズモン吸収する無機微粒子を直径100nm未満およびアスペクト比1以上に成長させた微細ロッドにして使用することが知られている(特許文献2)。
【0003】
電気化学的方法は、アノードから溶出する金属イオンを還元し、超音波照射下、界面活性剤の作用でロッド状微粒子に成長させる方法であり、電解装置、金板、白金板、銀板等の高価な通電用電極、超音波照射器などを必要とし、製造できる量は装置の大きさによって制限されるため、大量生産には不向きである。また、超音波発信機の劣化や、銀の溶出量によって金属ナノロッドのアスペクト比が左右され、再現性が不調な傾向がある。
【0004】
従来の化学的方法は、金属塩溶液に還元剤を添加して成長核となる微細な金属種を最初に生成させ、この金属種を含む溶液を別容器の成長液に定量添加してロッド形状に成長させる方法であり、最初に生成する金属種の可使時間が短く、また成長液が還元剤を含む場合、最初の還元剤と二段目の還元剤が何れも還元力が強いために金属微粒子の成長が不均一に進行し、再現性の低い金属微粒子になる。さらに、製造できる金属ナノロッド濃度も低いと云う問題がある。
【0005】
光化学的手法は界面活性剤含有溶液中の金属イオンに紫外線を長時間照射して金属ナノロッドを生成させる方法であり、紫外線露光器などの高価な機器を必要とし、また製造できるのは光照射している範囲に限定されるため、製造量に制限があり大量生産に向かない。
【0006】
特許文献1の製造方法では、還元剤としてアミン類を使用する例が示されているが、高分子量顔料分散剤と組み合わせて球状の貴金属微粒子を合成する手法であり、ロッド状の金属微粒子は得られない。また原料溶液に高分子量型の分散剤を添加しているが、これは生成した貴金属微粒子の保護コロイドとして用いられており、金属微粒子をロッド状に成長させる界面活性剤ではなく、界面活性剤と還元剤を併用することは知られていない。また、特許文献2の製造方法は、固体表面に金属微粒子を成長させるものであり、この金属微粒子が固体表面に担持した状態であるために、金属微粒子を分離した状態で利用することができず、金属微粒子を各種溶媒、バインダーに分散させることができず、塗料などの組成物として利用することができない。
【非特許文献1】Y.-Y. Yu, S.-S. Chang, C.-L. Lee, C. R. C. Wang, J. Phys. Chem. B, 101, 6661 (1997)
【非特許文献2】N. R. Jana, L. Gearheart, C. J. Murphy, Adv.Mater.Vol.13,No.18,1389(2001)
【非特許文献3】F. Kim, J. H. Song, P. Yang, J. Am. Chem. Soc., 124, 14316 (2002)
【特許文献1】特開平11−80647号公報
【特許文献2】特開2001−64794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、金属微粒子を製造する従来の方法の上記問題を解決したものであり、金属イオンを化学的に還元して金属微粒子を製造する方法において、粒子サイズや吸光特性の再現性に優れた金属微粒子の製造方法を提供するものであり、さらに該製造方法によって得た金属微粒子、およびその含有組成物、並びにその用途に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の製造方法に関する。
(1)化学的に金属イオンを還元して金属微粒子を製造する製造方法において、還元力の差が大きい二種類の還元剤を用いて金属イオンの還元を二段階で行い、その第一還元工程において還元力の強い還元剤(強還元剤と云う)を用い、第二還元工程において還元力が弱い還元剤(弱還元剤と云う)を用いることによって、ナノサイズの金属微粒子を製造することを特徴とする金属微粒子の製造方法。
(2)上記(1)の製造方法において、第一還元工程で金属塩水溶液に強還元剤を添加し、金属塩水溶液中の金属イオン量が50%〜1%になるまで還元し、次いで、第二還元工程でこの金属塩水溶液に弱還元剤を添加し、金属塩水溶液中の金属イオン量が実質的に0%になるまで還元させる金属微粒子の製造方法。
(3)上記(1)または(2)の製造方法において、界面活性剤を含む金属塩水溶液と、還元力の差が大きい二種類の還元剤とを用い、同一容器内で上記金属塩水溶液に強還元剤を加え、次いで弱還元剤を加えて金属水溶液中の金属イオンを還元することによって、ナノサイズのロッド状金属微粒子(金属ナノロッドと云う)を製造する金属微粒子の製造方法。
(4)第一還元工程の強還元剤として、水素化ホウ素塩、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、アスコルビン酸から選ばれる何れか1種以上を用い、第二還元工程の弱還元剤として、次式(1)〜(4)によって示される1種以上のアルキルアミンまたはアルカノールアミンを用いる上記(1)〜(3)の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
2NR (R:Cn2n+1、n=1〜8の整数) ・・・・式(1)
HNR2 (R:Cn2n+1、n=1〜8の整数) ・・・・式(2)
NR3 (R:Cn2n+1、n=1〜8の整数) ・・・・式(3)
N(ROH)3 (R:Cn2n、n=1〜8の整数) ・・式(4)
(5)上記式(1)〜(4)によって示されるアミン類の上記金属塩水溶液中の濃度が0.0001〜10mol/Lである上記(4)に記載する金属微粒子の製造方法。
(6)界面活性剤が、次式(5)によって示される実質的に還元能を有さないアンモニウム塩である上記(3)〜(5)の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
CH3(CH2)n+(CH3)3Br-(n=1〜17の整数)・・・式(5)
(7)上記式(5)によって示されるアンモニウム塩の上記金属塩水溶液中の濃度が0.01〜2.0mol/Lである上記(3)〜(6)の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
(8)第一還元工程で用いる強還元剤の添加量と、第二還元工程で用いる弱還元剤の添加量を調整することによって金属微粒子の粒子径を制御する上記(1)〜(7)の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
【0009】
また、本発明は以下の金属微粒子およびその用途に関する。
(9)上記(1)〜(8)の何れかの方法によって製造された、長軸400nm以下、短軸30nm以下であって、アスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)が1より大きいロッド状の金属微粒子。
(10)上記(1)〜(8)の何れかの方法によって製造され、かつ非水溶媒(水以外の溶媒)に親和性のある側鎖を有する非水分散剤によって表面処理された金属微粒子。
(11)上記(1)〜(8)の何れかの方法によって製造され、かつ金属微粒子表面の上記アンモニウム塩残留量が、金属微粒子100重量部に対して、15重量部以下である金属微粒子。
(12)上記(1)〜(8)の何れかの方法によって製造された金属微粒子、または上記(9)〜(11)の何れかに記載する金属微粒子を含有する組成物。
(13)金属微粒子と共に、バインダー(樹脂)および分散媒を含有する上記(12)に記載する金属微粒子含有組成物。
(14)金属微粒子と共に、染料、顔料、蛍光体、金属酸化物、金属ナノ繊維の1種、または2種以上を含有する上記(12)または(13)に記載する金属微粒子含有組成物。
(15)上記(12)〜(14)の何れかに記載した金属微粒子含有組成物によって形成された塗料組成物、塗膜、フィルム、または板材の形態を有する光吸収材。
(16)上記(1)〜(8)の何れかの方法によって製造された金属微粒子、または上記(9)〜(11)の何れかに記載する金属微粒子を含有する光学フィルター材料、配線材料、電極材料、触媒、着色剤、化粧品、近赤外線吸収剤、偽造防止インク、電磁波シールド材、表面増強蛍光センサー、生体マーカー、ナノ導波路、記録材料、記録素子、偏光材料、薬物送達システム(DDS)用薬物保持体、バイオセンサー、DNAチップ、検査薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法は、化学的に金属イオンを還元して金属微粒子を製造する製造方法において、還元力の差が大きい二種類の還元剤を用いて金属イオンの還元を二段階で行い、その第一還元工程において強還元剤を用い、第二還元工程において弱還元剤を用いるので、第一還元工程において金属イオンの多くが還元された後に、第二還元工程において金属イオンの全てが還元を完結すると共に金属微粒子の成長が進み、粒子サイズが揃った均一なナノサイズの金属微粒子を得ることができる。なお、ナノサイズの金属微粒子とは、例えば軸長が数百ナノメータ(nm)の金属微粒子である。
【0011】
本発明の製造方法によれば、例えば、界面活性剤を含む金属塩水溶液と、還元力の差が大きい二種類の還元剤とを用い、同一容器内で上記金属塩水溶液に強還元剤を加え、次いで弱還元剤を加えて金属塩水溶液中の金属イオンを還元することによって、ナノサイズのロッド状金属微粒子(金属ナノロッド)を製造することができる。具体的には、例えば、長軸400nm以下、短軸30nm以下であって、アスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)が1より大きい金属ナノロッドを得ることができる。また、同一容器内で二段階の還元を行うことによって効率よく金属微粒子を製造することができる。
【0012】
本発明の製造方法において、還元力の差が大きい二種類の還元剤を用いて金属イオンの還元を二段階還元で行うことによって、再現性の良い金属微粒子を得ることができる。さらに、この二段階還元において、第一還元工程の還元剤の添加量と、第二還元工程の還元剤の添加量を調整することによって金属微粒子の粒子径(アスペクト比)を制御することができる。
【0013】
本発明の製造方法において用いる上記界面活性剤としては、上記式(5)によって示される実質的に還元能を有さないアンモニウム塩が適当であり、このアンモニウム塩を添加した金属塩水溶液を用いることによって、金属微粒子が安定に分散した水溶液を得ることができ、効率よく金属ナノロッドを製造することができる。
【0014】
本発明の製造方法によって得た金属微粒子は、非水溶媒(水以外の溶媒)に親和性のある側鎖を有する非水分散剤によって表面処理することによって、非水溶媒中に金属微粒子が良好に分散した溶液を得ることができる。また、非水溶媒中に上記金属微粒子が分散したものは、金属微粒子含有組成物の原料として用いることができ、例えば、金属微粒子と共にバインダー(樹脂)および分散媒を含有する塗料組成物などを得ることができる。
【0015】
さらに、本発明の上記金属微粒子と共に染料、顔料、蛍光体、金属酸化物、金属ナノ繊維の1種、または2種以上を含有する金属微粒子含有組成物として利用することができる。この金属微粒子含有組成物は、塗料などの液体、塗膜、フィルム、または板材などの各種形態で利用することができる。さらに、本発明の金属微粒子含有組成物は、光吸収材や光学フィルター材料、配線材料、電極材料、触媒、着色剤、化粧品、近赤外線吸収剤、偽造防止インク、電磁波シールド材、表面増強蛍光センサー、生体マーカー、ナノ導波路、記録材料、記録素子、偏光材料、薬物送達システム(DDS)用薬物保持体、バイオセンサー、DNAチップ、検査薬などに広く利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の製造方法は、化学的に金属イオンを還元して金属微粒子を製造する方法において、還元力の差が大きい二種類の還元剤を用いて金属イオンの還元を二段階に行い、その第一還元工程において強還元剤を用い、第二還元工程において弱還元剤を用いることによって、ナノサイズの金属微粒子を製造することを特徴とする金属微粒子の製造方法である。
【0017】
なお、本発明の製造方法において、強還元剤とは、塩化金酸を1μmol含有する水溶液1L中に、還元剤を5μmol添加し、常温(20℃)の条件下で、水溶液中の金イオンの全量を析出させる(金イオン量がゼロになる)時間が30分間未満となる還元力を有する還元剤を云う。一方、弱還元剤とは、上記条件下で、水溶液中の金イオンの全量を析出させる(金イオン量がゼロになる)時間が30分間以上で、かつ第一還元工程で使用する強還元剤との上記時間差が10分間以上の還元剤を云う。このような強還元剤と弱還元剤を併用することにより、金属イオンが均一に還元でき、粒子形状の再現性のある金属微粒子が得られる。
【0018】
金属イオンの化学的還元は、金属塩水溶液に還元剤水溶液を添加して行われる。この金属塩水溶液としては、例えば、塩化金酸水溶液、硝酸銀水溶液、硝酸銅水溶液などを用いることができ、これらの各種金属イオンを化学的に還元することによってナノサイズの金属微粒子を製造することができる。
【0019】
具体的には、例えば、金ナノロッドを合成するには、ハロゲン化金水溶液を用いると良い。水溶液の金濃度は、水溶液中に10〜4000μmol/Lの範囲が適当であり、100〜2500μmol/Lの濃度範囲がより好ましい。金濃度が、この量より少ないと製造効率が低下し、一方この量より多いと金属微粒子の均一な成長が妨げられ、粒子形状の再現性が低下する。
【0020】
上記金属塩水溶液は、界面活性剤を添加したものが好ましい。適当な界面活性剤を添加することによって金属微粒子間の凝集が抑制され、金属微粒子が安定に分散した水溶液を得ることができる。界面活性剤としては、次式(5)に示す四級アンモニウム塩を用いると良い。
CH3(CH2n+(CH33Br- (n=1〜17の整数)・・・式(5)
【0021】
上記四級アンモニウム塩として、具体的には、例えば、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(n=16、CT16AB)などを用いることができる。この四級アンモニウム塩は、水溶性の陽イオン型界面活性剤であり、水に溶解すると、その濃度によって様々な会合体(ミセル)を形成することが知られている。一般に、このアンモニウム塩の濃度が高くなるのに比例して、球状ミセル、棒状ミセル、板状ミセルと変化する。このアンモニウム塩濃度を調整し、上記ミセル構造の規則性を利用することによって、ロッド状の金属微粒子の生成割合を球状の金属微粒子よりも高めることができる。
【0022】
上記四級アンモニウム塩の上記金属塩水溶液中の濃度は、10mM〜2M(0.01〜2.0mol/L)が適当であり、好ましくは80mM〜800mMである。この濃度が低すぎると金属微粒子の分散安定性が低下し、また球状微粒子の生成量が増加する。一方、上記濃度が高すぎると金属塩水溶液の粘度が高くなるので取り扱い難くなる傾向があり、またコスト的に不利である。
【0023】
上記金属塩水溶液に還元剤を添加して金属イオンを還元する。還元力の差が大きい二種類の還元剤を用いて金属イオンの還元を二段階で行い、その第一還元工程において強還元剤を用い、第二還元工程において弱還元剤を用いる。第一還元工程において、強還元剤を用いることによって、短時間、例えば30分間以内で金属塩水溶液中の金属イオン量が50%〜1%になるまで還元し、好ましくは、金属イオン量が40%〜5%になるまで還元する。第一還元工程の終了時において、金属塩水溶液中の金属イオン量が50%より多いと、第二還元工程において金属イオンが均一に還元できないために生成する粒子形状の再現性が悪くなる傾向にある。一方、第一還元工程の終了時に金属イオン量が1%より少ないと、第二還元工程において金属微粒子の成長が不均一に進行し、同様に粒子形状の再現性が悪くなる傾向にある。なお、第一還元工程において弱還元剤を用いると、還元に長時間を必要とし、金属イオンが均一に還元できないために粒子形状の再現性が悪くなるので好ましくない。
【0024】
強還元剤としては、例えば、水素化ホウ素塩、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、アスコルビン酸などを用いることができる。強還元剤の金属塩水溶液への添加は、数回に分けて徐々に添加するのが、均一に還元され、粒子形状の再現性が良くなるので望ましい。上記範囲に還元反応させた後、次いで、この金属塩水溶液に弱還元剤を添加して第二還元工程を行えば良い。
【0025】
上記金属イオンの還元の進行程度は、例えば、誘導結合プラズマ分析装置を使用して、金属塩水溶液中の金属イオン量を測定することによって確認できる。また、還元の進行程度により金属塩水溶液の色が徐々に変化するので、予め還元の進行程度とそのときの色を確認しておけば、その都度、還元の進行程度を測定しなくとも、金属塩水溶液の色の変化により、第一還元工程の終了と第二還元工程に移る時期がわかる。
【0026】
例えば、1mmolの塩化金酸を含むオレンジ色の水溶液1Lに水素化ホウ素ナトリウム200μmolを添加すると、液中の金イオンが還元されて、水溶液のオレンジ色が薄れて黄色になり(還元率約30%)、さらに水素化ホウ素ナトリウム200μmolを添加すると薄い黄色となり(還元率約60%)、さらに水素化ホウ素ナトリウム200μmolを添加するとオレンジ色が薄れた状態ないし透明な状態になる(還元率約90%)。
【0027】
第一還元工程の強還元剤の添加量は、金属塩水溶液中の金属イオンを完全には還元しない程度の量、好ましくは、金属塩水溶液中の金属イオン量が50%〜1%、さらに好ましくは、金属イオン量が40%〜5%になるまで金属イオンを還元する程度の量である。具体的には、例えば、塩化金酸の還元では、塩化金酸10μmolに対して、強還元剤の添加量は、0.1〜50μmol、好ましくは、1〜10μmolが適当である。
【0028】
還元剤の添加量が過剰であると、金属イオンが急激に還元されて、プラズモン吸収を有する大きさの球状金微粒子まで成長し、第二還元工程の還元剤を添加しても反応溶液中の金属イオンがすべて消費されているため、第二還元工程でロッド状微粒子への成長が起きにくい傾向にある。一方、還元剤の添加量が過少であると、金属イオンの還元が不十分になり、第二還元工程において不均一な粒子成長となるため金属微粒子の形状の再現性が悪くなる。
【0029】
なお、非特許文献2では、水素化ホウ素ナトリウムによる第一段目の還元において、大きさが3〜4nmの金微粒子(Seed;種粒子)を生成させ(この種粒子の波長吸収効果によって溶液は赤色になる)、この種粒子を別容器に用意した金イオン水溶液中に定量添加し、この別容器で第二段階の還元を行うことによって金ナノロッドを合成している。一方、本発明の合成法は、第一還元工程で水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元を行うが、プラズモン吸収を示すサイズの球状微粒子に成長する前の段階で第一還元工程を終了し、第二還元工程ではこの反応溶液内に残存する金属イオンを緩やかに還元してロッド状微粒子へと成長させる方法である。この方法によるとロッド状微粒子の粒子サイズや形状の再現性が高く、また得られる金属微粒子の濃度も高い。
【0030】
第二還元工程においては、弱還元剤を用いることによって、第一還元工程においてイオン価数が減少した金属イオンを実質的に全て還元させ、生成した金属クラスターを所望の形状の微粒子に成長させる。第一還元工程が終了した段階で液中の金属イオンは、少なくとも半分以上が還元されてイオン価数が減少し、また、プラズモン吸収を生じない極微小な金属微粒子が生成している。
【0031】
例えば、塩化金酸の還元では、オレンジ色の塩化金酸水溶液は、第一還元によって金イオンが減少してオレンジ色が薄れた黄色の水溶液ないし透明な水溶液になる。これらの状態の水溶液に、弱還元剤を添加して緩やかな第二還元を行うと、急激な粒子成長を起こすことなく、金イオン還元が完結し、即ち、塩化金酸水溶液中の100%の金イオンが還元され、その後の粒子成長を制御することができ、所望の形状の金微粒子を得ることができる。
【0032】
金属微粒子は、アスペクト比に応じた波長吸収効果を有するので、液中で金属微粒子がロッド状に生成するのに伴って、溶液の色は、透明から吸収波長に応じた色調を示すようになる。
【0033】
なお、弱還元剤は、第一還元工程で強還元剤を添加後、30分間以内にするのが好ましい。強還元剤によって30分間以内に金属塩水溶液中の金属イオン量が50%〜1%になるまで金属イオンが還元されており、連続的に第二還元工程の弱還元剤を添加することで、残存する金属イオンの全量が還元されて微粒子の成長を促すことができる。
【0034】
第二還元工程で用いる弱還元剤としては、例えば、次式(1)〜(4)に示すアルキルアミンまたはアルカノールアミンを用いることができる。
2NR (R:Cn2n+1、n=1〜8の整数)・・・・・式(1)
HNR2 (R:Cn2n+1、n=1〜8の整数)・・・・・式(2)
NR3 (R:Cn2n+1、n=1〜8の整数)・・・・・・式(3)
N(ROH)3 (R:Cn2n、n=1〜8の整数)・・・式(4)
【0035】
上記アルキルアミンないしアルカノールアミンの弱い還元力をアンモニウム塩の界面活性作用の存在下で利用することによって、ロッド状微粒子が緩やかに成長する反応場を提供することができる。上記アミン類は、アルキル鎖長が長くなるにつれ疎水性の性質が強くなり、水に溶け難い性質を示すが、上記アンモニウム塩と併用し、このアンモニウム塩の乳化作用を利用して反応水溶液に混合することができる。
【0036】
上記アミン類の添加量は、例えば塩化金酸水溶液を原料とする場合、反応水溶液中で0.0001〜10mol/Lが適当であり、好ましくは、0.001〜1mol/Lが適当である。この添加量が10mol/Lより多いと、アンモニウム塩を含む反応水溶液中にアミン類が完全に溶解しないばかりでなく、金属イオンの還元反応が急激に起こり、球状微粒子の生成が多くなる傾向がある。一方、この添加量が0.0001mol/Lよりも少ないと、残存する金属イオンを完全に還元または粒子成長できず、また金属イオンを還元できても長時間かかる傾向があり、粒子形状の再現性は悪くなる傾向がある。
【0037】
上記アミン類の中では、特に、式(3)に示すトリアルキルアミンは、球状微粒子の生成を抑制し、ロッド状微粒子を優先的に生成させるので最適である。その中でも、n=1〜6のトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミンが好ましい。アルキル鎖長がこれ以上大きいと、反応水溶液中への溶解性が低下する。
【0038】
なお、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、アスコルビン酸などの従来使用されている強還元作用を有する還元剤を第二還元工程の還元剤として使用した場合は、金属イオンの還元が急速であり、比較的粒子径の大きな球状金属微粒子になる傾向が強く、ロッド状の微粒子を得ることは難しい。また、上記アミン類よりも還元力の弱い還元剤を使用した場合、金属イオンを完全に還元または粒子成長できず、また金属イオンを還元できても、長時間を有する傾向があり、粒子形状の再現性は悪くなる傾向がある。
【0039】
本発明の製造方法は、界面活性剤の濃度と種類、第一還元工程の強還元剤量と種類、第二還元工程の弱還元剤量と種類をそれぞれ調整することによって、金属微粒子の粒子径を制御することができる。また、本発明の製造方法では、従来の製造方法よりも、粒子径(例えば、ロッド状微粒子の場合は長軸の長さや短軸の長さ)の分布がシャープな微粒子を得ることが可能であり、また、同一容器内で製造することが可能であり、製造効率が高く、さらに合成の再現性が高い。
【0040】
例えば、界面活性剤の濃度を高めることによって、金属塩水溶液の粘度が高まり、金属イオンの還元反応や金属ナノロッドの成長反応が遅くなるため、大きな粒子径が成長しやすい急激な反応を抑制でき、球状微粒子の生成を抑え、ロッド状微粒子の長軸を長くすることが可能である。
【0041】
また、第一還元工程の強還元剤量を適正範囲内で多くし、金属塩水溶液中の金属イオン量が50%〜1%になる範囲で金属イオンの還元を進めると、未還元の金属イオン量が減少するので、第二還元工程において金属微粒子の収率を高めることができる。なお、還元剤の種類を変えることによっても還元力を調整することが可能である。例えば、ジメチルアミンボランは、水素化ホウ素塩と比較して還元力が強いため、少ない添加量で同等の効果を得ることができ、ナトリウムなどのように用途(例えば、配線用途)によっては敬遠される物質の使用を避けることができる。
【0042】
さらに、第二還元工程の弱還元剤量を調整することによっても、ロッド状微粒子のアスペクト比を制御することが可能である。例えば、適正範囲内でアミン量を高めることによって、第二還元工程においても金属イオンの還元による核粒子の生成が進行し、金属イオンの一部がこの核粒子の生成に費やされるので、既に生成した核粒子の成長が相対的に遅れ、長軸が比較的短いロッド状微粒子になる。一方、アミン量を減らすことによって、上記核粒子の生成量が少なくなり、長軸が比較的長いロッド状微粒子を得ることができる。また、アミン種を変えれば還元力が異なり、添加量を増減した場合と同様に形状調整が可能である。さらに、金属微粒子の製造には必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。
【0043】
本発明の製造方法は、還元力の差が大きい二種類の還元剤を用い、金属塩水溶液に最初に強還元剤を添加し、次に弱還元剤を添加する二段階の還元を同一容器内で行うことができ、操作が簡単で効率よく大量の金属ナノロッドを製造することができる。
【0044】
本発明の製造方法によれば、長軸が400nm以下であってアスペクト比が1より大きい金属ナノロッドを得ることができる。金属ナノロッドは、そのアスペクト比を調整することによって、吸収波長域が変化し、例えば、金属種が金の場合、可視光(530nm近)から近赤外域までの幅広い特定吸収波長を示す。金属ナノロッドの長軸は200nm未満が好ましい。金属ナノロッドの長軸が200nm未満であると肉眼で粒子として認識し難く、フィルターなどの用途において透明性の高い材料を得ることができる。なお、アスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)が1の場合には、実質的に球状の金属微粒子と同じ光吸収性しか得られず(金の場合は530nm付近、銀の場合は400nm付近の吸収)、可視光および近赤外光の任意の波長に対する選択的な吸収効果が得られない。
【0045】
本発明の製造方法によって、合成水溶液中に分散した金属ナノロッドを得ることができる。この金属ナノロッドを表面処理することによって、非水系溶媒中(水以外の溶媒中)に安定に分散させることができる。この表面処理方法としては、上記式(1)〜(5)以外の含窒素化合物および/または含硫黄化合物(以下、非水系分散剤と云う)を非水溶媒に溶解させ、この液を金属ナノロッド水分散液に添加して、上記非水系分散剤を金属ナノロッド表面に吸着させると良い。この表面処理によって、金属ナノロッドを非水溶媒中に抽出することができる。
【0046】
上記非水系分散剤として用いる含窒素化合物としては、数平均分子量が100〜10000、好ましくは1000〜3000であって、金属ナノロッドに吸着性の高い元素(例えば、金属が金、銀、銅の場合、窒素、硫黄のいずれか)を吸着部位として主鎖中に有し、非水溶媒に親和性のある複数の側鎖を有する分散剤が挙げられる。数平均分子量が100未満であると非水溶媒中での分散安定性が充分ではなく、10000を超えると非水溶媒中への溶解性が低下し、安定性が損なわれるばかりでなく、分散剤自体が不純物となり、金属ナノロッドの性能(例えば、電気特性)が低下する。
【0047】
このような非水系分散剤としては、市販されているものを使用することができ、例えば、ソルスパース13940、ソルスパース24000SC、ソルスパース28000、ソルスパース32000(以上、アビシア社製品)、フローレンDOPA−15B、フローレンDOPA―17(以上、共栄社化学社製品)、アジスパーPB814、アジスパーPB711(以上、味の素ファインテクノ社製品)、ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック183、ディスパービック184、ディスパービック185(以上、ビックケミー・ジャパン社製品)などが挙げられる。例えば、ソルスパース24000SCは、金属ナノロッドに対して吸着性の高い元素である窒素を吸着部位として主鎖中に多数有し、側鎖には芳香族類、ケトン類、エステル類などの非水溶媒に対して高い溶解性を有する、いわゆる「櫛型構造」の分散剤であり、金属ナノロッド表面に窒素部位で吸着した状態で非水溶媒中に安定分散することが可能である。
【0048】
非水系分散剤として用いる含硫黄化合物としては、硫黄を含み非水溶媒中に溶解可能なものであればよく、ブタンチオール、ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオールなどが挙げられる。
【0049】
上記非水系分散剤の添加量は、非水溶媒100重量部に対して0.00001〜20重量部が適当であり、好ましくは0.0001〜10重量部が好ましい。添加量が多過ぎると、コスト的に不利であり、また非水系分散剤自体が不純物となり、金属ナノロッドの性能が低下する。一方、この添加量が少なすぎると、金属ナノロッド表面に吸着する量が少ないため、金属ナノロッドの非水溶媒中での分散安定性が損なわれ、凝集しやすくなる。
【0050】
非水系分散剤を用いる表面処理の際には、上記界面活性剤を溶解ないし脱離させる溶液を併用すると良い。このような溶液としては、親水性であって、水と混合して金属ナノロッドの表面に吸着している界面活性剤の溶解度を高めるものであればよい。具体的には、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類を用いることができる。
【0051】
なお、例えば、金ナノロッド0.3重量部含有する金ナノロッド水分散液から金ナノロッドを非水溶媒に抽出するには、非水溶媒に対して金ナノロッド水分散液の容量は0.01〜10倍が適当であり、0.1〜1倍が好ましい。金属ナノロッド水分散液の容量が適当でないと金属ナノロッドが非水溶媒中に安定に抽出され難くなる。
【0052】
本発明の製造方法によって得られた金属ナノロッド水分散液中には、界面活性剤が含まれており、金属ナノロッドを回収して導電性材料などに使用した場合、界面活性剤が絶縁作用を示し、高い導電率が得られない傾向があるので、製造後は、界面活性剤を低減ないし除去するのが好ましい。一般に、金属ナノロッド100重量部に対し、界面活性剤15重量部以下、好ましくは5重量部以下まで低減させたものが導電性材料として好ましい。
【0053】
界面活性剤を低減ないし除去する方法として、(i)上記表面処理、(ii)貧溶媒添加による沈降法、(iii)遠心分離などが挙げられる。上記表面処理によれば、親水性の界面活性剤は、非水溶媒に溶解し難いため、非水溶媒中に金属ナノロッドが抽出される過程で界面活性剤が低減ないし除去される。貧溶媒添加による沈降法は、界面活性剤を溶解するが金属ナノロッド表面の非水系分散剤に対しては貧溶媒である溶液を金属ナノロッド分散液中に添加して、金属ナノロッドを沈降させ、上澄みに残存する界面活性剤を除去する方法である。遠心分離法は、金属ナノロッド分散液に遠心力をかけて金属ナノロッドを沈降させ、上澄みに残存する界面活性剤を除去する方法である。これらの方法は、2種以上を組み合わせることによって、金属ナノロッドの界面活性剤を効率的に低減ないし除去することができる。
【0054】
例えば、非水溶媒トルエンに親和性のある含窒素化合物を使用して、上記表面処理によって少量のトルエン中に金属ナノロッドを濃縮し、金属ナノロッドトルエンペーストとすると同時に界面活性剤の大部分を除去する。得られたペーストに貧溶媒であるエタノールを添加し、トルエンに親和性のある分散剤で被覆された金属ナノロッドを凝集させる。さらに、この凝集物の沈降スピードを加速するため遠心分離を行い、金属ナノロッド凝集物を短時間で沈降させる。界面活性剤は、エタノールに溶解するので上澄みのエタノール層(一部トルエン)に界面活性剤が残存し、界面活性剤を除去することができる。なお、沈降したトルエンに親和性のある分散剤で被覆された金属ナノロッドは、少量のトルエンで再分散するので、有機分を低減したペーストを作製することが可能である。
【0055】
本発明の製造方法によって得た金属ナノロッドは、上記非水系分散剤によって表面処理し、これに分散媒、樹脂(バインダー)を加えた金属ナノロッド含有組成物として利用することができる。この樹脂(バインダー)としては、通常塗料用や成形用に利用されている可視光線から近赤外光領域の光に対して透過性がある各種樹脂が特に制限無く使用できる。例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、等の各種有機樹脂や、ラジカル重合性のオリゴマーやモノマー(必要に応じて硬化剤やラジカル重合剤開始剤と併用する)、アルコキシシランを樹脂骨格に用いたゾルゲル溶液、などが代表的なものとして挙げられる。
【0056】
上記金属ナノロッド含有組成物において、必要に応じて配合する溶媒としては、バインダーが溶解もしくは安定に分散するような溶媒を適宜選択すればよい。例えば、具体的には、水の他に、メタノール、エタノール、プロパノール、ヘキサノール、エチレングリコール等のアルコール、エチレングリコール等のグリコール、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類、あるいはこれらの混合物が代表的なものとして挙げられる。なお、これらに限定されない。
【0057】
上記金属ナノロッド含有組成物において、金属ナノロッドの含有量は、バインダー100重量部に対して、0.01〜1900重量部が適当であり、好ましくは、光学用途であればバインダー100重量部に対して0.1〜50重量部、導電性用途であればバインダー100重量部に対して550〜1900重量部がよい。光学用途の場合、添加量がそれより少ないと吸収が少なく、目的の着色(近赤外域の場合は、透過率の低減効果)が得られない。一方、添加量がそれより多いと、金属ナノロッドどうしが凝集するので、鮮やかな波長吸収効果が得られない。導電性用途の場合は、金属ナノロッドの添加量がそれより少ないと、バインダーの絶縁効果の影響が大きく、高い導電特性が得られ難い。一方、添加量が多いと、金属ナノロッドどうしの凝集が起こりやすくので保存安定性が低下する。
【0058】
なお、金属ナノロッド表面に吸着している上記非水系分散剤の量は、金属ナノロッドに対し、光学用途の場合には5〜50wt%、好ましくは8〜30wt%がよい。この範囲以外では、金属ナノロッドどうしが凝集しやすくなる。また、導電性用途の場合は8〜15wt%が好ましく、添加量がそれ以上であると導電性が悪くなる。
【0059】
本発明の金属ナノロッド含有組成物は、目的に応じて、染料、顔料、蛍光体、金属酸化物、金属ナノ繊維の1種、または2種以上を添加してもよい。さらに必要に応じて、レべリング剤、消泡剤、その他の各種添加剤などを添加してもよい。なお、金属ナノロッドは、同一、または異なる二種ないし三種以上の金属ナノロッドを組み合わせて用いることができる。
【0060】
本発明の金属ナノロッド含有組成物は、塗料組成物、塗膜、フィルム、または板材など多様な形態で用いることができ、この光吸収材形成用組成物によって形成されたフィルター層を有する光吸収材を得ることができる。具体的には、例えば、可視光線および近赤外光を吸収したい基材に直接に塗布もしくは印刷し、可視光線・近赤外光吸収フィルターとしての硬化塗膜を形成させる。あるいは、本発明の組成物をフィルム状や板状等に形成し、その組成物を可視光線・近赤外光吸収フィルターとして可視光線・近赤外光を吸収したい基材に積層もしくは包囲する。また、本発明の組成物によって形成した上記塗膜やフィルムなどの形成物を透明なガラス製もしくはプラスチック製基材に積層させ、その積層体を可視光線・近赤外光吸収フィルターとして可視光線・近赤外光を吸収したい基材に積層もしくは包囲して用いる。上記各使用形態において、光吸収フィルターの厚さは、概ね0.01μm〜1mMが適当であり、コストや光透過性等を考慮すると0.1μm〜100μmが好ましい。
【0061】
本発明の金属ナノロッド含有組成物によって形成した塗膜やフィルム、板材などをフィルター層として有するものは、例えば、可視光・近赤外光カットフィルム、可視光・近赤外光カットフィルター、または可視光・近赤外光カットガラスなどの耐熱性に優れた光吸収材として用いることができる。
【0062】
本発明の金属ナノロッドは、金属種、粒子形、アスペクト比によってその特性が異なる。例えば、金属種が金の場合、アスペクト比に応じて530nm付近よりも長波長側でプラズモン吸収特性を有し、また金に基づく高い耐熱性、耐候性、耐薬品性を有するので、光学フィルター材料、高級着色剤、近赤外吸収剤、偽造防止インク用吸収剤、バイオセンサー、DNAチップ、表面増強蛍光センサー用増感剤などの材料として好適である。また、金は生体に安全な材料であることから、食品添加用着色剤、化粧品用着色剤、生体マーカー、薬物送達システム(DDS)用薬物保持体、検査薬などの材料として使用可能である。また、金は高い導電性を示すことから、配線材料、電極材料、電磁波シールド材料として使用可能である。この他に、ナノロッドの形状異方性に基づいて偏光材料、記録素子、ナノ導波路として使用可能である。さらに、微粒子で表面積が大きいので、触媒反応の場を提供する材料として好適である。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例および比較例によって具体的に示す。なお、以下の実施例は、金ナノロッドに関するもので、主に530nm〜1242nmの波長域における光吸収機能を示しているが、金属ナノロッドの種類や長さ、組成等の条件などを変更することによって、それ以上の高波長の波長域についても同様の光吸収機能を有することができる。なお、分光特性は日本分光株式会社製品(製品名V−570)を用いて測定した。比抵抗値は三菱化学株式会社製品(製品名ロレスタ−GP)を用いて測定した。金ナノロッドの製造条件を表1に示す。
【0064】
(実施例A−1)
300mMのヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CT16AB)水溶液10mlに、10mM硝酸銀水溶液0.2mlを添加した。銀化合物の添加は、従来の金ナノロッド合成法と同様、金ナノロッドのアスペクト比を調整する役割がある。この溶液に24mM塩化金酸水溶液を0.4ml添加して良く攪拌した。次いで、この溶液に第一還元工程の強還元剤として10mM水素化ホウ素ナトリウム水溶液を用い、水素化ホウ素ナトリウム添加量が6μmolとなるよう6回に分けて添加した。水素化ホウ素ナトリウムを添加するにつれ、金イオンが還元され、液中の金イオンと界面活性剤の錯体の色(黄色、吸収波長394nm)が薄くなり、10分間後、極わずかにオレンジ色がかった、ほぼ無色の溶液が得られた。
【0065】
この時点における金イオン還元量は90%であった。なお、この値は、別途用意した同組成の反応溶液に、強還元剤を上記と同一条件で添加し、10分間後、イオン価数0価に還元された金の沈降物と、上澄みの金イオン水溶液とに、超遠心機で遠心分離(201000g)し、誘導結合プラズマ分析装置(ICP)にて上澄みの金イオン含有量を測定して求めたものである。
【0066】
次いで、この溶液に、第二還元工程の弱還元剤としてトリエチルアミン200μmolを添加して30秒間攪拌し、その後30℃で静置した状態で48時間保管した。この結果、水溶液中の金属イオン量はゼロであり、短軸約8nm、長軸約44nm、アスペクト比約5.5の918nm付近に吸収を有する金ナノロッドが得られた(分光図1)。
【0067】
(実施例A−2)
第一還元工程の強還元剤として10mM水素化ホウ素カリウム水溶液を用い、水素化ホウ素カリウム添加量が6μmolとなるように添加する以外は、実施例A−1と同様にして合成を行った。この結果、水溶液中の金属イオン量はゼロであり、短軸約7nm、長軸約34nm、アスペクト比約4.8の870nm付近に吸収を有する金ナノロッドが得られた(分光図1)。
【0068】
(実施例A−3)
第一還元工程の強還元剤として10mM水素化ホウ素リチウム水溶液を用い、水素化ホウ素リチウム添加量が6μmolとなるように添加する以外は、実施例A−1と同様にして合成を行った。この結果、水溶液中の金属イオン量はゼロであり、短軸約8nm、長軸約42nm、アスペクト比約5.3の908nm付近に吸収を有する金ナノロッドが得られた(分光図1)。
【0069】
(実施例A−4)
第一還元工程の強還元剤として10mMジメチルアミンボラン水溶液を用い、ジメチルアミンボラン添加量が2μmolとなるように添加する以外は、実施例A−1と同様にして合成を行った。この結果、水溶液中の金属イオン量はゼロであり、短軸約6nm、長軸約52nm、アスペクト比約8.6の962nm付近に吸収を有する金ナノロッドが得られた(分光図1)。
【0070】
(実施例A−5)
第一還元工程の強還元剤として10mMヒドラジン水溶液を用い、ヒドラジン添加量が1μmolとなるように添加する以外は、実施例A−1と同様にして合成を行った。この結果、水溶液中の金属イオン量はゼロであり、短軸約6nm、長軸約29nm、アスペクト比約4.8の864nm付近に吸収を有する金ナノロッドが得られた(分光図1)。
【0071】
(実施例A−6)
第一還元工程の強還元剤として10mMアスコルビン酸水溶液を用い、アスコルビン酸添加量が1μmolとなるように添加する以外は、実施例A−1と同様にして合成を行った。この結果、水溶液中の金属イオン量はゼロであり、短軸約8nm、長軸約38nm、アスペクト比約4.8の862nm付近に吸収を有する金ナノロッドが得られた(分光図1)。
【0072】
(実施例A−7)
第二還元工程の弱還元剤のトリエチルアミンを100μmol添加する以外は、実施例A−1と同様にして合成を行った。この結果、水溶液中の金属イオン量はゼロであり、短軸約9nm、長軸約90nm、アスペクト比約10.0の1084nm付近に吸収を有する金ナノロッドが得られた(分光図2)。
【0073】
(実施例A−8)
第一還元工程の強還元剤として10mM水素化ホウ素ナトリウム水溶液を用い、水素化ホウ素ナトリウム添加量が3μmolとなるように添加する以外は、実施例A−1と同様にして合成を行った。この結果、水溶液中の金属イオン量はゼロであり、短軸約5nm、長軸約19nm、アスペクト比約3.8の780nm付近に吸収を有する金ナノロッドが得られた(分光図2)。
【0074】
(実施例A−9)
第二還元工程の弱還元剤としてトリ−n−ブチルアミンを200μmol添加する以外は、実施例A−1と同様にして合成を行った。この結果、水溶液中の金属イオン量はゼロであり、短軸約8nm、長軸約102nm、アスペクト比約12.7の1242nm付近に吸収を有する金ナノロッドが得られた(分光図2)。
【0075】
(実施例A−10)
実施例A−1で製造した金ナノロッド水分散液2.5重量部に、含窒素分散剤ソルスパース24000SCを1wt%溶解したトルエン1.0重量部を添加して、3分間攪拌した。この混合液中へエタノール5.0重量部を添加し、さらに5分間攪拌し、攪拌終了後、24時間静置した。混合液は、下層が透明な水層、上層が金ナノロッドの分散したトルエン層と明確に2層分離した。上層を回収しICPにて金含有量を測定したところ、分散剤で表面処理された金属ナノロッドは非水溶媒中にほぼ抽出されていた。また、保存安定性を確認したところ、90日以上分散安定であった(表2)。
【0076】
(実施例A−11)
実施例A−1で製造した金ナノロッド水分散液2.5重量部に、含硫黄分散剤ドデカンチオールを1wt%溶解したn−ヘキサン1.0重量部を添加して3分間攪拌した。この混合液中へアセトン5.0重量部を添加し、さらに5分間攪拌し、攪拌終了後、24時間静置した。混合液は、下層が透明な水層、上層が金ナノロッドの分散したn−ヘキサン層と明確に2層分離した。上層を回収しICPにて金含有量を測定したところ、分散剤で表面処理された金属ナノロッドは非水溶媒中にほぼ抽出されていた。また、保存安定性を確認したところ、90日以上分散安定であった(表2)。
【0077】
(実施例A−12)
実施例A−1の手法で合成した金ナノロッドを実施例A−10と同じ手法でトルエンに抽出した。この金ナノロッドトルエン分散液をエバポレーターに入れてトルエンを除去し、金ナノロッドが5wt%のトルエンペーストを作製した。Tg−DTAで加熱残分を測定したところ、このペーストは25wt%の有機分(CT16AB、ソルスパース24000SC、トリエチルアミン)を含有していた。このペースト10重量部にソルスパース24000SCの貧溶媒であるエタノール10重量部を添加すると、ソルスパース24000SCと金ナノロッドの凝集物が発生した。この溶液を40000gで30分間遠心分離を行い、凝集物を沈降させ、CT16ABとトリエチルアミンを含有した上澄みのエタノール溶液を除去した。この沈降物をトルエンで再分散し、5wt%の金ナノロッドトルエン分散液を得た。Tg−DTAで加熱残分を測定したところ、このペーストは0.5wt%まで有機分が減少していた。得られた金ナノロッドトルエンペーストをバーコーター#40で塗布し、300℃で30分過熱し、加熱後の塗膜の比抵抗を測定したところ、比抵抗は5×10-6Ω・cmであった(表3)。
【0078】
(実施例A−13)
実施例A−12で得られた金ナノロッドペーストを用いて、表4に示す配合比で混合し塗料化した。金ナノロッド、バインダー、溶媒を混合して光吸収形成用組成物を調製した。この塗料をスピンコーターでそれぞれガラス基板に塗布し、5分間静置後、高圧水銀ランプにて紫外線を照射し硬化させ、光吸収材フィルターを形成した。このフィルターについて透過率を測定したところ(表4)、可視光域の透過率は、54%と高い透過性を示し、金ナノロッドのプラズモン吸収ピークである950nm付近の透過率は10%と優れたカット率を示した(分光図4)。
【0079】
(比較例B−1)
第二還元工程の還元剤として水素化ホウ素ナトリウム水溶液を用い、水素化ホウ素ナトリウム添加量が200μmolとなるように添加する以外は、実施例A−1と同様にして合成を行った。この結果、粒子径約20nmの538nm付近に吸収を有する球状金微粒子が生成し、金ナノロッドは得られなかった(分光図3)。
【0080】
(比較例B−2)
第二還元工程の弱還元剤を添加しない以外は実施例A−1と同様にして金属イオンを還元して合成を行った。この結果、粒子径約15nmの528nmに吸収を有する球状金微粒子が生成し、金ナノロッドは得られなかった(分光図3)。
【0081】
(比較例B−3)
実施例1で製造した金ナノロッド水分散液2.5重量部に、トルエン1重量部を添加して3分間攪拌した。この混合液にエタノール5.0重量部を添加し、5分間攪拌し、攪拌終了後、24時間静置した。金属ナノロッドは、非水溶媒中に殆ど抽出されず、金ナノロッドに吸着していたCT16ABがエタノールによって、金ナノロッド表面から脱離・溶解したため、金ナノロッドどうしが凝集し、容器底に塊状で沈降し、水、非水溶媒中には再分散しなかった(表2)。
【0082】
(比較例B−4)
実施例A−10で抽出した金ナノロッドトルエン分散液からエバポレーターでトルエンを除去し、金ナノロッドが5wt%のトルエンペーストを作製した。Tg−DTAで加熱残分を測定したところ、このペーストは25wt%の有機分(CT16AB、ソルスパース24000SC、トリエチルアミン)を含有していた。この金ナノロッドトルエンペーストをバーコーター#40で塗布し、300℃で30分過熱し、加熱後の塗膜の比抵抗を測定したところ、導電性は確認されなかった(表3)。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実施例A−1〜実施例A−6の分光図
【図2】実施例A−1、実施例A−7〜実施例A−9の分光図
【図3】比較例B−1、比較例B−2の分光図
【図4】実施例A−13の分光図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的に金属イオンを還元して金属微粒子を製造する製造方法において、還元力の差が大きい二種類の還元剤を用いて金属イオンの還元を二段階で行い、その第一還元工程において還元力の強い還元剤(強還元剤と云う)を用い、第二還元工程において還元力が弱い還元剤(弱還元剤と云う)を用いることによって、ナノサイズの金属微粒子を製造する金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法において、第一還元工程で金属塩水溶液に強還元剤を添加し、金属塩水溶液中の金属イオン量が50%〜1%になるまで還元し、次いで、第二還元工程でこの金属塩水溶液に弱還元剤を添加し、金属塩水溶液中の金属イオン量が実質的に0%になるまで還元させる金属微粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2の製造方法において、界面活性剤を含む金属塩水溶液と、還元力の差が大きい二種類の還元剤とを用い、同一容器内で上記金属塩水溶液に強還元剤を加え、次いで弱還元剤を加えて金属水溶液中の金属イオンを還元することによって、ナノサイズのロッド状金属微粒子(金属ナノロッドと云う)を製造する金属微粒子の製造方法。
【請求項4】
第一還元工程の強還元剤として水素化ホウ素塩、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、アスコルビン酸から選ばれる何れか1種以上を用い、第二還元工程の弱還元剤として次式(1)〜(4)によって示される1種以上のアルキルアミンまたはアルカノールアミンを用いる請求項1〜3の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
2NR (R:Cn2n+1、n=1〜8の整数) ・・・・式(1)
HNR2 (R:Cn2n+1、n=1〜8の整数) ・・・・式(2)
NR3 (R:Cn2n+1、n=1〜8の整数) ・・・・式(3)
N(ROH)3 (R:Cn2n、n=1〜8の整数) ・・式(4)
【請求項5】
上記式(1)〜(4)によって示されるアミン類の上記金属塩水溶液中の濃度が0.0001〜10mol/Lである請求項4に記載する金属微粒子の製造方法。
【請求項6】
界面活性剤が、次式(5)によって示される実質的に還元能を有さないアンモニウム塩である請求項3〜5の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
CH3(CH2)n+(CH3)3Br-(n=1〜17の整数)・・・式(5)
【請求項7】
上記式(5)によって示されるアンモニウム塩の上記金属塩水溶液中の濃度が0.01〜2.0mol/Lである請求項3〜6の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
【請求項8】
第一還元工程で用いる強還元剤の添加量と、第二還元工程で用いる弱還元剤の添加量を調整することによって金属微粒子の粒子径を制御する請求項1〜7の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかの方法によって製造された、長軸400nm以下、短軸30nm以下であって、アスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)が1より大きいロッド状の金属微粒子。
【請求項10】
請求項1〜8の何れかの方法によって製造され、かつ非水溶媒(水以外の溶媒)に親和性のある側鎖を有する非水分散剤によって表面処理された金属微粒子。
【請求項11】
請求項1〜8の何れかの方法によって製造され、かつ金属微粒子表面の上記アンモニウム塩残留量が、金属微粒子100重量部に対して、15重量部以下である金属微粒子。
【請求項12】
請求項1〜8の何れかの方法によって製造された金属微粒子、または請求項9〜11の何れかに記載する金属微粒子を含有する組成物。
【請求項13】
金属微粒子と共に、バインダー(樹脂)、および分散媒を含有する請求項12に記載する金属微粒子含有組成物。
【請求項14】
金属微粒子と共に、染料、顔料、蛍光体、金属酸化物、金属ナノ繊維の1種、または2種以上を含有する請求項12または13に記載する金属微粒子含有組成物。
【請求項15】
請求項12〜14の何れかに記載した金属微粒子含有組成物によって形成された塗料組成物、塗膜、フィルム、または板材の形態を有する光吸収材。
【請求項16】
請求項1〜8の何れかの方法によって製造された金属微粒子、または請求項9〜11の何れかに記載する金属微粒子を含有する光学フィルター材料、配線材料、電極材料、触媒、着色剤、化粧品、近赤外線吸収剤、偽造防止インク、電磁波シールド材、表面増強蛍光センサー、生体マーカー、ナノ導波路、記録材料、記録素子、偏光材料、薬物送達システム(DDS)用薬物保持体、バイオセンサー、DNAチップ、検査薬。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−169544(P2006−169544A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359190(P2004−359190)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】