説明

金属拡張アンカー、金属拡張アンカーの施工方法

【課題】金属拡張アンカーを用いて母材に固定した取付物から、アンカーに作用する剪断力に起因するアンカーの曲げ変形を抑え、剪断剛性を向上できる技術の開発。
【解決手段】下孔111内で拡張される拡張部12を先端に有するアンカー本体14の外周に、下孔111の内壁面113に直接接する孔壁当接部14e、14fを突設した金属拡張アンカー11、および、その施工方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属拡張アンカー、金属拡張アンカーの施工方法に係り、特に、アンカーの剪断剛性を向上させることができる金属拡張アンカー、金属拡張アンカーの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート躯体等の母材への取付物(パネル、シート等を含む)の固着や、複数層からなる母材の層間結着等に用いられるアンカーとして、金属拡張アンカーが多用されている。金属拡張アンカーは、コンクリート躯体等の母材に穿孔した下孔に挿入し、先端部(拡張部)を拡張させることにより前記母材に固着される。この金属拡張アンカーとしては、芯棒打ち込み式金属拡張アンカー(例えば特許文献1)、テーパーボルト式、コーンナット式、ウェッジ式等に代表される締め付け方式アンカー(例えば、特許文献2)など、様々なものがある。
【0003】
図8は、金属拡張アンカーを用いた、母材への取付物の固定例を示す。
図8中、符号110はコンクリート躯体(母材)、120は金属拡張アンカー(以下、単に、拡張アンカー、あるいは、アンカーと称する場合がある)、130は取付物である。
図8に示すように、拡張アンカー120は、先端側に拡張部121を有し、後端側にねじ軸部122を有する構造が広く採用されており、母材110に穿孔した下孔111内で拡張部121を拡張させることで母材110に固着される。また、この拡張アンカー120を用いた、取付物130の母材110への固定は、拡張アンカー120を、取付物130に形成された貫通孔131に通しておき、取付物130を介して母材110とは反対の側に突出させたねじ軸部122に螺着したナット140の締め付けによって、取付物130を母材110に押さえ込むようにして固定することが一般的である。
なお、符号150は、ナット140と母材110との間に介挿されたワッシャである。
【特許文献1】特開2005−307637号公報
【特許文献2】特公昭59−30925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したような、拡張アンカーを用いた取付物の固定においては、例えば、取付物に母材表面に沿った方向(剪断方向。スライド方向)の変位力(外力)が作用することなどにより、アンカーに剪断力が作用することがある。
言うまでもなく、アンカーには充分な剪断剛性が確保される必要がある。
しかしながら、母材に形成するアンカー施工用の下孔は、アンカー外径よりも僅か(例えば、0.3〜0.5mm)に大きい径で形成することが一般的であり、これが剪断剛性の向上の妨げになり、結局、必要な剪断剛性の確保のために、径の太いアンカーを採用せざるを得ないと、といったケースが発生することがあった。
【0005】
すなわち、従来構成では、アンカーの拡張部以外の部分の外面(外周面)と、アンカー外径よりも大きい径で母材に穿孔した下孔の内壁面との間に隙間(図8の符号160を参照)が存在する。このような構成では、アンカーに作用する剪断力が、アンカーの前記拡張部から後端側に位置する部分(特に、下孔内に収納されている部分)に曲げ変形(撓み変形。図8中、仮想線で示したアンカー120を参照)を与える曲げ荷重として作用する。アンカーの剪断剛性は、アンカーの曲げ強度によって与えられる。
これに鑑みて、径(外径)の大きいアンカーを採用すれば、剪断荷重に対して、アンカーの曲げ変形を抑えることができる。しかしながら、径の大きいアンカーの採用は、下孔の穿孔径の増大や、コストアップ等を招くことになる。下孔の穿孔径の増大は、下孔の穿孔労力の増大にも繋がるなど、不利な点が多い。
このため、適切な対策が存在しないのが実情であった。
【0006】
本発明は、前記課題に鑑みて、下孔を大型化すること無く、剪断剛性を向上できる金属拡張アンカー、金属拡張アンカーの施工方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では以下の構成を提供する。
請求項1に係る発明は、母材に穿孔された下孔内で拡張される拡張部を先端に有するアンカー本体を具備し、さらに、前記アンカー本体の前記拡張部から後端側に離隔した位置の外周に設けられて、該アンカー本体よりも大径に形成された前記下孔の内壁面に直接接した状態で前記下孔内に収納される孔壁当接部を有することを特徴とする金属拡張アンカーを提供する。
請求項2に係る発明は、前記孔壁当接部が、前記アンカー本体の長手方向の複数箇所に設けられていることを特徴とする請求項1記載の金属拡張アンカーを提供する。
請求項3に係る発明は、複数の前記孔壁当接部の内の1以上が、アンカー本体の周面に突設された突部によって形成されていることを特徴とする請求項2記載の金属拡張アンカーを提供する。
請求項4に係る発明は、前記孔壁当接部が、アンカー本体の前記拡張部よりも後端側に外挿されて、前記下孔の内壁面に直接接した状態で前記下孔内に収納される剛性スリーブであることを特徴とする請求項1又は2記載の金属拡張アンカーを提供する。
請求項5に係る発明は、さらに、前記アンカー本体の前記拡張部から後端側に延出するねじ軸部に螺着されたナットと、前記アンカー本体の内部に穿設され該アンカー本体の後端に開口する芯棒挿入孔に収納され、前記拡張部に打ち込むことで前記拡張部を拡張する芯棒とを具備することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属拡張アンカーを提供する。
請求項6に係る発明は、スリーブ打ち込み式の金属拡張アンカーであって、テーパボルトと、このテーパボルトに外挿され、母材に穿孔された下孔内で、前記テーパボルトの先端に形成されたテーパ状の拡径部に前記テーパボルトの後端側から打ち込まれることで拡張されて、前記母材に固着される拡張スリーブと、前記拡張スリーブを前記拡径部に打ち込んで拡張した後に、前記テーパボルトに後端側から外挿されて前記拡張スリーブよりも後端側に配置され、前記下孔の内壁面に直接接した状態で前記下孔内に収納される剛性スリーブと、前記剛性スリーブを前記下孔内に収納した後に、前記テーパボルトの後端側のねじ軸部の、前記下孔の開口部から突出された部分に螺着されるナットとを具備すること特徴とする金属拡張アンカーを提供する。
請求項7に係る発明は、締め付け方式の金属拡張アンカーであって、ボルトと、このボルトに外挿され、母材に穿孔された下孔内で、前記ボルトの先端に設けられているテーパ状のコーン部が押し込まれることで拡張されて、前記母材に固着されるスリーブ状の拡張部と、この拡張部よりも、前記ボルトの前記下孔に挿入される先端側とは反対の後端側にて、前記ボルトの外周に前記ボルトと一体又は別体に設けられ、前記下孔の内壁面に直接接した状態で前記下孔内に収納される孔壁当接部と、前記ボルトの後端側に設けられているねじ軸部に螺着して前記孔壁当接部よりも前記ボルトの後端側に設けられたナットとを具備することを特徴とする金属拡張アンカーを提供する。
請求項8に係る発明は、母材に穿孔された下孔内で拡張される拡張部を先端に有するアンカー本体を前記母材に形成しておいた前記下孔に挿入し、前記拡張部を拡張して前記母材に固着した後、前記アンカー本体よりも大径に形成しておいた前記下孔の内壁面に直接接して前記下孔に収納される剛性スリーブを前記アンカー本体に後端側から外挿して前記下孔に収納することを特徴とする金属拡張アンカーの施工方法を提供する。
請求項9に係る発明は、請求項6記載の金属拡張アンカーの施工方法であって、前記テーパボルトに前記拡張スリーブが外挿されてなるアンカー本体を母材に穿孔した下孔に挿入し、前記テーパボルトの先端の拡径部を前記下孔の最奥部に当接させた状態で、前記拡張スリーブを、前記テーパボルトの後端側から打ち込み棒によって前記拡径部に打ち込んで拡張させ前記アンカー本体を前記母材に固着した後、前記アンカー本体よりも大径に形成された前記下孔の内壁面に直接接して前記下孔に収納される剛性スリーブを前記アンカー本体に後端側から外挿して前記下孔に収納することを特徴とする金属拡張アンカーの施工方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属拡張アンカーのアンカー本体の外周に設けられた孔壁当接部、あるいは、スリーブ打ち込み式アンカーのテーパボルトに外挿された孔壁当接部(剛性スリーブ)が下孔内壁面に当接することで、下孔内でのアンカー本体の変位(下孔内での揺動。下孔の断面方向での変位)が抑えられる(あるいは防止される)。その結果、剪断力が作用しても、下孔内のアンカー本体の曲げ変形を抑えることができ、アンカー本体の剪断剛性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、図1、図2、図4、図5において、符号110はコンクリート躯体(母材)、111は下孔、130は取付物、131は取付物に形成された貫通孔である。
【0010】
(第1実施形態)
まず、本発明に係る第1実施形態の拡張アンカー(金属拡張アンカー)、拡張アンカーの施工方法を図1、図2を参照して説明する。
ここで説明する拡張アンカー11は、芯棒打ち込み式の金属拡張アンカーである。
図1は、下孔111に拡張アンカー11を挿入した状態(拡張部12を拡張する前の状態)を示す図、図2は図1の拡張アンカー11の拡張部12を拡張して拡張アンカー11を母材110に固着した状態を示す図である。
なお、拡張アンカー11について、図1、図2において下側を先端側、上側を後端側、として説明することとする。
【0011】
図1、図2に示すように、拡張アンカー11は、先端側の拡張部12及び後端側のねじ軸部13を有する外観概略丸棒状のアンカー本体14と、このアンカー本体14内に穿設された芯棒収納孔14aに挿入された芯棒15と、前記アンカー本体14に外挿されたワッシャ16と、前記ねじ軸部13に螺着されたナット17とを具備して構成されている。
ワッシャ16は、アンカー本体14の長手方向中央部の外周に突設された孔壁当接部14f(後述)と、ナット17との間に介装されている。ワッシャ16は、孔壁当接部14fの外径よりも内径が小さいリング状に形成されているため、孔壁当接部14fからアンカー本体14の先端側に抜け出すことは無い。
【0012】
前記芯棒収納孔14aは、アンカー本体14の後端に開口する開口部14bから前記拡張部12に到達されている。この芯棒収納孔14aの前記拡張部12側の先端部は、アンカー本体14の後端側から先端側に行くほど内径が縮小する、先細りのテーパ形状(テーパ部14c)に形成されている。
【0013】
前記芯棒15は、アンカー本体14内に収納される打ち込み長(棒状本体15aの長さ)が、芯棒収納孔14aの全長よりも長く確保された棒状体である。図1に示すように、打ち込み前は、フランジ状の頭部15bが形成されている基端側が、芯棒収納孔14aからアンカー本体14の基端側に突出している。図2に示すように、この芯棒15をアンカー本体14に打ち込むと、割り溝12aによって複数に分割されている拡張部12が、この芯棒15の先細りに形成された先端部である尖鋭部16bによって、押し開かれるようにして拡張される。
また、図1では、予め、芯棒収納孔14aに芯棒15が挿入された拡張アンカー11を例示したが、これに限定されず、芯棒15の挿入前の拡張アンカー11を下孔111に挿入してセットすることも可能である。
【0014】
アンカー本体14の拡張部12から後端側に離隔した2箇所には、該アンカー本体14の外周に周設されたリブ状の突部である孔壁当接部14e、14fが形成されている。孔壁当接部14e、14fは、アンカー本体14の長手方向において互いに離隔した2箇所に突設されている。
この孔壁当接部14e、14fは、アンカー本体14の外径を大きくして、アンカー本体14の周面に突出させた大径部である。孔壁当接部14e、14fの外径は、同じに揃えてある。
アンカー本体14は、この孔壁当接部14e、14fが形成されている箇所以外が、孔壁当接部14e、14fよりも小さい外径で形成してある。
【0015】
2つの孔壁当接部14e、14fの内の一方(孔壁当接部14e)は、アンカー本体14の、拡張部12とねじ軸部13との間に形成された、外周にねじ山を形成していない筒状部分である中間スリーブ部14dの外周に周設されている。
他方の孔壁当接部14fは、孔壁当接部14eからアンカー本体14の後端側に離隔した位置にて、アンカー本体14の外周に周設されている。
アンカー本体14のねじ軸部13は、孔壁当接部14fから後端側に延出する部分である。アンカー本体14の各孔壁当接部14e、14fは、拡張部12とねじ軸部13との間に突設されている。
【0016】
この孔壁当接部14e、14fは、アンカー本体14を下孔111に挿入したときに、下孔111の内壁面113に直接接した状態で前記下孔111内に収納されることで、下孔111内でのアンカー本体14の変位(下孔111の中心軸線に垂直の断面方向における変位)を規制する役割を果たす。
孔壁当接部14e、14fが下孔111内に収納されると、アンカー本体14は、該アンカー本体14の中心軸線が下孔111の断面中央部に位置合わせされた状態で下孔111内に配置される。
【0017】
次に、この拡張アンカー11を用いて、取付物130を母材110に固定する作業を説明する。
母材110には、従来通り、アンカー本体14の外径D(孔壁当接部14e、14f以外の部分の外径)よりも僅かに大きい(例えば、0.3〜0.5mm)の穿孔径φで、下孔111を穿孔する。ここで採用する拡張アンカー11は、孔壁当接部14e、14fの外径を穿孔径φに揃えたものである。
拡張アンカー11は、取付物130の貫通孔131に通して取付物130に貫通させたアンカー本体14を、先端側から下孔111に挿入し、ワッシャ16が、母材110に当接させた取付物130の母材110とは反対側の面とナット17との間に挟み込まれるようにする。
【0018】
拡張アンカー11(詳細にはアンカー本体14)の下孔111内に挿入する埋め込み深さは、ねじ軸部13におけるナット17の螺着位置によって調整できる。
ここで、拡張アンカー11の埋め込み深さは、アンカー本体14の外周に突設されている二つの孔壁当接部14e、14fの内、アンカー本体14の後端側に位置する孔壁当接部14fが、母材110表面に開口する下孔111の開口部112内に収納されるように調整する。
但し、埋め込み深さは、孔壁当接部14fの全体が下孔111内に収納されて、下孔111から母材110表面に突出しないようにすることが好ましい。これにより、取付物130からの剪断力が孔壁当接部14fに直接作用することが回避され、取付物130からねじ軸部13に作用する剪断力を拡張アンカー11全体で負担するようになる。
【0019】
下孔111へのアンカー本体14の挿入が完了したら、ハンマー等を使って芯棒15を後端側(頭部16b側)から叩打してアンカー本体14に打ち込んで、拡張部12を拡張させ、アンカー本体14を母材110に固着する。
これにより、取付物130が母材110に固定される。
【0020】
この拡張アンカー11によれば、該拡張アンカー11を用いて母材110に固定した取付物130から剪断力が作用しても、下孔111の内壁面113に直接接する孔壁当接部14e、14fによって、アンカー本体14の曲げ変形が抑えられる。このため、拡張アンカー11の剪断剛性が向上する。
【0021】
なお、この実施形態では、アンカー本体14の長手方向の互いに離隔する2箇所に、孔壁当接部14e、14fを突設した構成を例示したが、本発明はこれに限定されず、アンカー本体の長手方向の1箇所、あるいは、3箇所以上に、孔壁当接部を突設した構成も採用可能である。但し、アンカー本体の長手方向の1箇所のみに孔壁当接部を設ける場合は、下孔111の開口部113あるいは出来るだけ開口部113から近い位置で下孔111内に収納されるように、設置位置を調整することが、剪断剛性の向上の点で有利である。
また、図1、図2では、孔壁当接部として、アンカー本体14の外周の全周にわたって周設されたリブ状の突部(横リブ)を例示したが、孔壁当接部としては、これに限定されず、例えば、図3(a)に示すように、アンカー本体14の外周の複数箇所に間隔をあけて突設した突起14g(突部。図示例は、アンカー本体14の長手方向に沿った細長の縦リブ。)等であっても良い。また、図3(b)に示すように、アンカー本体14の外周にスリーブ14h(例えば金属製のスリーブ。剛性スリーブ)を固定して、これを孔壁当接部として機能させる構成等も採用可能である。
【0022】
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態を図4、図5を参照して説明する。
ここで説明する拡張アンカー21は、スリーブ打ち込み式の金属拡張アンカーである。
図4は、下孔111に拡張アンカー21を挿入した状態(拡張部を拡張する前の状態)を示す図、図5は図4の拡張アンカー21の拡張部を拡張して拡張アンカー21を母材110に固着した状態を示す図である。
なお、拡張アンカー21について、図4、図5において下側を先端側、上側を後端側、として説明することとする。
【0023】
図4、図5に示すように、拡張アンカー21は、ねじ軸222(以下、ねじ軸部と称する)の先端に該ねじ軸部222を拡径した形状の拡径部221を有するテーパボルト22と、このテーパボルト22に外挿された拡張スリーブ23と、この拡張スリーブ23よりも後端側にてテーパボルト22に外挿される剛性スリーブ24及びワッシャ25及びスプリングワッシャ26と、テーパボルト22に螺着されるナット27とを具備した構成である。
図示例のテーパボルト22は、拡径部221以外の全体がねじ軸部222になっている構成であるが、ねじ軸部222が、テーパボルト22の後端部のみに設けられた構成であっても良い。
【0024】
剛性スリーブ24、ワッシャ25、スプリングワッシャ26は、下孔111内で、拡張スリーブ23をテーパボルト22先端のテーパ状の拡径部221に打ち込んで拡張(具体的には、拡張スリーブ23の先端側の拡張部231を拡張させる)させ母材110に固着させた後に、前記テーパボルト22に後端側から外挿される。
剛性スリーブ24は、テーパボルト22に外挿して、下孔111の開口部113に収納される。
ワッシャ25及びスプリングワッシャ26は、テーパボルト22に外挿して、取付物130の母材110とは反対側に配置される。
ナット27は、拡張スリーブ23の拡張完了後、剛性スリーブ24、ワッシャ25、スプリングワッシャ26をテーパボルト22に外挿した後に、テーパボルト22の後端側からねじ軸部222に螺着する。ナット27を締め付けることで、取付物130が、ワッシャ25及びスプリングワッシャ26を介して伝達されるナット27からの押圧力によって母材110に押さえ込まれるようにして固定される。
【0025】
拡張スリーブ23の先端部は、割り溝232によって複数に分割されており、テーパボルト22先端の拡径部221に打ち込まれることで拡張される拡張部231を構成している。
拡径部221は、テーパボルト22の後端側から先端側に行くにしたがって径が増大するテーパ状に形成されており、拡張スリーブ23は、テーパボルト22の後端側から拡径部221に打ち込まれることで、先端の拡張部231が拡張される。
また、拡張スリーブ23は、テーパボルト22の下孔111内に収納される埋め込み長と、下孔111内に剛性スリーブ24を収納するための空間を確保すること、とに鑑みて、適切な長さのものを使用する。拡張スリーブ23の拡径部221への打ち込みを完了したときには(図5参照)、テーパボルト22に外挿して拡張スリーブ23から拡張アンカー21の後端側に離隔した位置に配置される剛性スリーブ24全体を収納できる収納スペースが下孔111内に確保される。
【0026】
剛性スリーブ24は、例えば金属等の剛性の高い材料で形成されている。
この剛性スリーブ24は、本発明に係る孔壁当接部として機能するものである。
剛性スリーブ24の内径はねじ軸部222の外径に揃えられており、剛性スリーブ24の外径は拡張スリーブ23の外径よりも僅かに大きく(例えば、0.2〜2.0mm)形成される下孔111の穿孔径(内径)に揃えられている。このため、この剛性スリーブ24は、下孔111内に収納されることで、下孔111内でのテーパボルト22の変位(下孔111の中心軸線に垂直の断面方向における変位)を規制する役割を果たす。
【0027】
次に、この拡張アンカー21を用いて、取付物130を母材110に固定する作業(金属拡張アンカーの施工方法)について説明する。
母材110には、拡張スリーブ23の外径の外径D2よりも僅かに大きい(例えば、0.2〜2.0mm)の穿孔径φ2で、下孔111を穿孔する。
次いで、下孔111内を清掃した後、テーパボルト22に拡張スリーブ23を外挿してなるアンカー本体21Aを先端側から下孔111に挿入する。
なお、下孔111に挿入するアンカー本体21Aは、このとき、剛性スリーブ24、ワッシャ25、スプリングワッシャ26、ナット27を設けていないものである。
【0028】
次いで、スリーブ状の打ち込み棒28(図4参照)を用いて、下孔111に挿入されたアンカー本体21Aの拡張スリーブ23を、非貫通孔である下孔111の最奥部に突き当てたテーパボルト22先端の拡径部221に打ち込んで拡張させる。これにより、アンカー本体21Aを母材110に固着する。
打ち込み棒28は、下孔111の内壁面113と、拡張スリーブ23の後端から延出するテーパボルト22のねじ軸部222との間の隙間に挿入される。
【0029】
アンカー本体21Aの母材110への固着が完了したら、テーパボルト22に後端から剛性スリーブ24を外挿し、下孔111に押し込む。
剛性スリーブ24は、全体を、下孔111の開口部112(あるいは、下孔111において開口部112に出来るだけ近い位置)に収納することが、拡張アンカー21の剪断剛性の向上の点で好ましい。
下孔111に収納された剛性スリーブ24は、孔111の内壁面113と、拡張スリーブ23の後端から延出するテーパボルト22のねじ軸部222との間の隙間に圧入されて嵌り込んで、下孔111における収納位置が容易にはずれないが、接着剤等でテーパボルト22に固定するなどによって、収納位置のずれを防止しても良い。
【0030】
剛性スリーブ24を下孔111に収納したら、テーパボルト22の、下孔111から母材110外側に突出されたねじ軸部222に、取付物130、ワッシャ25、スプリングワッシャ26を外挿し、さらに、ねじ軸部222にナット27を螺着して締め付ける。これにより、取付物130が、ワッシャ25及びスプリングワッシャ26を介して作用するナット27からの押圧力によって、母材110に押し付けられるようにして固定される。
【0031】
この実施形態では、母材110に固定した取付物130から拡張アンカー21に剪断力が作用しても、下孔111の内壁面113に直接接する孔壁当接部として機能する剛性スリーブ24によって、アンカー本体21A(具体的にはテーパボルト22)の曲げ変形が抑えられるため、拡張アンカー21の剪断剛性が向上する。
【0032】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を、図6を参照して説明する。
ここでは、本発明を締め付け方式の金属拡張アンカーに適用した一例として、ウェッジ式の金属拡張アンカー(以下、拡張アンカーとも言う)を説明する。
図6は、下孔111に挿入した拡張アンカー31を母材110に固着した状態を実線で示す。図6中、仮想線は、下孔111に挿入した拡張アンカー31の拡張部を拡張する前の状態を示す。
なお、拡張アンカー31について、図6において下側を先端側、上側を後端側、として説明することとする。
【0033】
拡張アンカー31は、ボルト32と、このボルト32に外挿されたスリーブ状の拡張部33と、ボルト32の下孔111に挿入される先端側とは反対の後端側に形成されたねじ軸部321に螺着されたナット34と、前記ねじ軸部321に外挿して前記ナット34よりも前記ボルト32の先端側に設けられたワッシャ35及びスプリングワッシャ36とを具備して構成されている。
【0034】
ボルト32は、後端側にねじ軸部321が形成されている棒状のボルト本体部322と、このボルト本体部322よりも細い(後述する孔壁当接部326を除く部分の外径よりも細い)軸状に形成され、ボルト本体部322の先端から突出する首部323と、この首部323の先端に形成されたテーパ状のコーン部324とを具備する。
ボルト本体部322の先端部は、首部323との間に段差をなしている。
コーン部324は、首部323の先端を太く形成した部分であり、ボルト本体部322に近い側ほど径が小さく、ボルト本体部322から遠い部分ほど径が大きいテーパ形状に形成されている。
前記拡張部33は、首部323に外装されている。この拡張部33は、外径が、ボルト本体部322の外径(後述する孔壁当接部326を除く部分の外径D3。以下も同じ)と揃えられている。また、拡張部33の内径は、コーン部324の最大外径よりも小さい。このため、拡張部33は、ボルト本体部322の先端部(ストッパ部325)とコーン部324とによって、ボルト32から離脱しないように抜け止めされている。
【0035】
コーン部324は、図6のように下孔111に挿入してセットした拡張アンカー31のナット34を締め付けたときに、前記拡張部33の内側に押し込まれて、前記拡張部33を拡張させる。
この拡張アンカー31は、取付物130の貫通孔131に貫通させて、先端側を下孔111に挿入し、ワッシャ35を取付物130に当接させた状態で、ナット34を締め付け操作することで、拡張部33が拡張されて、母材110に固着される。なお、スプリングワッシャ36は、ワッシャ35とナット34との間に介装する。
【0036】
孔壁当接部326は、首部323からボルト32の後端側に離隔した位置にて、ボルト本体部322の外周面に突設(周設)された突部である。
この拡張アンカー31を施工する際に母材110に穿設する下孔111は、従来通り、ボルト本体部322の外径D3より僅かに大きい内径φ3で形成する。
孔壁当接部326は、下孔111の内壁面113に直接接した状態で前記下孔111内に収納される。
この孔壁当接部326としては、ボルト本体部322の外周の全周にわたって延在するリブ状(図6)の他、例えば、図3に例示したような複数の突起などであっても良い。
また、孔壁当接部326としては、ボルト本体部322に外挿してボルト本体部322に固定した剛性スリーブ(ボルトとは別体の孔壁当接部)などであっても良い。
【0037】
この実施形態においても、母材110に固定した取付物130から拡張アンカー31に剪断力が作用しても、下孔111の内壁面113に直接接する孔壁当接部によって、アンカー(具体的にはボルト32)の曲げ変形が抑えられるため、拡張アンカー31の剪断剛性が向上する。
【0038】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態を、図7を参照して説明する。
第4実施形態では、芯棒打ち込み式の金属拡張アンカー(以下、拡張アンカーとも言う)に、孔壁当接部として、剛性スリーブを適用した例を示す。
図7に示す拡張アンカー41では、第1実施形態の拡張アンカー11のアンカー本体11の孔壁当接部14fを省略し、前記孔壁当接部14fと拡張部12との間に位置する孔壁当接部14eから後端側全体をねじ軸部43とした構造のアンカー本体42を採用している。また、孔壁当接部として、アンカー本体42のねじ軸部43に外挿される剛性スリーブ44を採用している。
拡張アンカー41のアンカー本体42以外の構成は、第1実施形態の拡張アンカー11と同様であり、共通部分には共通の符号を付し、説明を省略する。
また、アンカー本体42の内、第1実施形態の拡張アンカー11のアンカー本体11と共通の部分には共通の符号を付し、説明を省略する。
【0039】
この拡張アンカー41は、アンカー本体42の後端側からねじ軸部43に外挿される剛性スリーブ44を、アンカー本体42(詳細にはねじ軸部43)の外周面と下孔111内面との間の隙間に介装することで、剛性スリーブ44を孔壁当接部として機能させて、アンカーの剪断剛性を高めることができる。
剛性スリーブ44をねじ軸部43に外挿する作業は、拡張アンカー41を下孔111に挿入する前でも良いし、下孔111に挿入した後でも良い。
【0040】
剛性スリーブ44は、下孔111に嵌め込むようにして収納されることで、下孔111内での位置ずれを生じない。
この拡張アンカー41によれば、孔壁当接部として、アンカー本体42(詳細にはねじ軸部43)に外挿する剛性スリーブ44のアンカー本体42の長手方向における位置設定の自由度が大きいため、施工現場において、拡張アンカー41の母材110に対する埋め込み深さ等に応じた位置設定が可能である、といった利点がある。
なお、剛性スリーブ44の下孔111内における収納位置は、拡張部12からの距離を大きく確保できるところであることが好ましく(但し、全体が下孔111内に収納されて、下孔111から突出しないようにすることが好ましい)、例えば、下孔111の開口部112あるいはその近傍であることが好ましい。
【0041】
なお、この拡張アンカー41においても、孔壁当接部14eとして、リブ状の突部以外に、例えば、図3(a)、(b)に例示したような突起14gや、アンカー本体に固定したスリーブ14h等を採用できることは、第1実施形態と同様である。
また、この拡張アンカー41では、孔壁当接部14eを省略することも可能である。
【0042】
アンカーとは別体になっている剛性スリーブを、拡張アンカーに外挿して、下孔内面と拡張アンカー外面との間の隙間に介装し、孔壁当接部として機能させる構成は、芯棒打ち込み式アンカーに限定されず、例えば、締め付け方式の金属拡張アンカー等についても適用可能である。
例えば、上述の第4実施形態の拡張アンカー31の孔壁当接部326に代えて、ボルト本体部322に外挿した剛性スリーブを孔壁当接部として機能させても良い。
【0043】
なお、本発明の適用対象の締め付け方式の金属拡張アンカーとしては、ウェッジ式に限定されず、例えば、テーパボルト式等であっても良い。
本発明は、上述した芯棒打ち込み式、スリーブ打ち込み式といった、打ち込み式の金属拡張アンカー、締め付け方式の金属拡張アンカー以外の、各種の金属拡張アンカーに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態の拡張アンカーを示す図であって、母材に穿孔した下孔にアンカー本体を挿入した状態を示す断面図である。
【図2】図1の拡張アンカーの拡張部を拡張させて、アンカー本体を母材に固着した状態を示す断面図である。
【図3】(a)、(b)は、本発明の第1実施形態の拡張アンカーに適用可能な孔壁当接部の別態様を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態の拡張アンカーを示す図であって、母材に穿孔した下孔にアンカー本体を挿入した状態を示す断面図である。
【図5】図4の拡張アンカーの拡張部を拡張させて、アンカー本体を母材に固着した状態を示す断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態の拡張アンカーを示す図であって、拡張部を拡張させて、母材に固着した状態を示す断面図である。
【図7】本発明の第4実施形態の拡張アンカーを示す図であって、拡張部を拡張させて、母材に固着した状態を示す断面図である。
【図8】従来例の拡張アンカーを用いて取付物を母材に固定した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0045】
11…金属拡張アンカー、12…拡張部、13…ねじ軸部、14…アンカー本体、14a…芯棒収納孔、14b…開口部、14e、14f…孔壁当接部、14g…孔壁当接部(突起)、14h…孔壁当接部(スリーブ)、15…芯棒、16…ワッシャ、17…ナット、21…金属拡張アンカー、21A…アンカー本体、22…テーパボルト、221…拡径部、222…ねじ軸部、23…拡張スリーブ、231…拡張部、24…孔壁当接部(剛性スリーブ)、25…ワッシャ、26…スプリングワッシャ、27…ナット、28…打ち込み棒、31…金属拡張アンカー、32…ボルト、321…ねじ軸部、324…コーン部、326…孔壁当接部、33…拡張部、34…ナット、35…ワッシャ、41…金属拡張アンカー、42…アンカー本体、43…ねじ軸部、44…剛性スリーブ、110…母材、111…下孔、112…開口部、113…内壁面、130…取付物、131…貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材に穿孔された下孔内で拡張される拡張部を先端に有するアンカー本体を具備し、
さらに、前記アンカー本体の前記拡張部から後端側に離隔した位置の外周に設けられて、該アンカー本体よりも大径に形成された前記下孔の内壁面に直接接した状態で前記下孔内に収納される孔壁当接部を有することを特徴とする金属拡張アンカー。
【請求項2】
前記孔壁当接部が、前記アンカー本体の長手方向の複数箇所に設けられていることを特徴とする請求項1記載の金属拡張アンカー。
【請求項3】
複数の前記孔壁当接部の内の1以上が、アンカー本体の周面に突設された突部によって形成されていることを特徴とする請求項2記載の金属拡張アンカー。
【請求項4】
前記孔壁当接部が、アンカー本体の前記拡張部よりも後端側に外挿されて、前記下孔の内壁面に直接接した状態で前記下孔内に収納される剛性スリーブであることを特徴とする請求項1又は2記載の金属拡張アンカー。
【請求項5】
さらに、前記アンカー本体の前記拡張部から後端側に延出するねじ軸部に螺着されたナットと、前記アンカー本体の内部に穿設され該アンカー本体の後端に開口する芯棒挿入孔に収納され、前記拡張部に打ち込むことで前記拡張部を拡張する芯棒とを具備することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属拡張アンカー。
【請求項6】
スリーブ打ち込み式の金属拡張アンカーであって、
テーパボルトと、
このテーパボルトに外挿され、母材に穿孔された下孔内で、前記テーパボルトの先端に形成されたテーパ状の拡径部に前記テーパボルトの後端側から打ち込まれることで拡張されて、前記母材に固着される拡張スリーブと、
前記拡張スリーブを前記拡径部に打ち込んで拡張した後に、前記テーパボルトに後端側から外挿されて前記拡張スリーブよりも後端側に配置され、前記下孔の内壁面に直接接した状態で前記下孔内に収納される剛性スリーブと、
前記剛性スリーブを前記下孔内に収納した後に、前記テーパボルトの後端側のねじ軸部の、前記下孔の開口部から突出された部分に螺着されるナットとを具備すること特徴とする金属拡張アンカー。
【請求項7】
締め付け方式の金属拡張アンカーであって、
ボルトと、
このボルトに外挿され、母材に穿孔された下孔内で、前記ボルトの先端に設けられているテーパ状のコーン部が押し込まれることで拡張されて、前記母材に固着されるスリーブ状の拡張部と、
この拡張部よりも、前記ボルトの前記下孔に挿入される先端側とは反対の後端側にて、前記ボルトの外周に前記ボルトと一体又は別体に設けられ、前記下孔の内壁面に直接接した状態で前記下孔内に収納される孔壁当接部と、
前記ボルトの後端側に設けられているねじ軸部に螺着して前記孔壁当接部よりも前記ボルトの後端側に設けられたナットとを具備することを特徴とする金属拡張アンカー。
【請求項8】
母材に穿孔された下孔内で拡張される拡張部を先端に有するアンカー本体を前記母材に形成しておいた前記下孔に挿入し、前記拡張部を拡張して前記母材に固着した後、
前記アンカー本体よりも大径に形成しておいた前記下孔の内壁面に直接接して前記下孔に収納される剛性スリーブを前記アンカー本体に後端側から外挿して前記下孔に収納することを特徴とする金属拡張アンカーの施工方法。
【請求項9】
請求項6記載の金属拡張アンカーの施工方法であって、
前記テーパボルトに前記拡張スリーブが外挿されてなるアンカー本体を母材に穿孔した下孔に挿入し、前記テーパボルトの先端の拡径部を前記下孔の最奥部に当接させた状態で、前記拡張スリーブを、前記テーパボルトの後端側から打ち込み棒によって前記拡径部に打ち込んで拡張させ前記アンカー本体を前記母材に固着した後、
前記アンカー本体よりも大径に形成された前記下孔の内壁面に直接接して前記下孔に収納される剛性スリーブを前記アンカー本体に後端側から外挿して前記下孔に収納することを特徴とする金属拡張アンカーの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−198572(P2007−198572A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20967(P2006−20967)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(390022389)サンコーテクノ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】