説明

金属粉末、その製造方法、及びその金属粉末からなる内部電極を含む積層セラミックキャパシタ

【課題】本発明は、積層セラミックキャパシタの内部電極に用いられる材料と、誘電層に用いられる材料との収縮率差による様々な問題を解決する。
【解決手段】表面にグラフェン131が不規則に形成された金属粉末121を、積層セラミックキャパシタの内部電極の材料として用いて、グラフェン131が形成されていない金属粉末の表面でのみネッキングが起こるようにし、金属粉末のネッキングを遅延させ、内部電極の収縮を制御することにより、内部電極の厚さを減らし、短絡及びクラックなどを減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末、その製造方法、及びその金属粉末からなる内部電極を含む積層セラミックキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
積層型セラミックキャパシタ(MLCC)は、誘電体セラミック内に内部電極を含み、これを約900℃前後の温度で焼成して製造する。
【0003】
この際、内部電極の材料としてはニッケル(Ni)粉末がもっとも多く用いられ、誘電体セラミック粉末としては、主にBaTiOが用いられる。前記内部電極を含む誘電体セラミックを同時に焼成する場合、内部電極のニッケル金属と誘電m体セラミックのBaTiO粉末との収縮率差により、ニッケル金属同士が凝集するネッキング(necking)現象が起こる。このため、内部電極と誘電層との不整合(mismatch)により、内部電極でクラックが発生したり、または剥離(Delamination)するなどの不良が誘発される。
【0004】
図1は、誘電体セラミック内に内部電極を含むMLCC構造の断面の一部を示したものである。
【0005】
これを参照すると、誘電体セラミック粉末11からなる誘電層10と、前記誘電層10内に内部電極20が積層されている構造を有するが、前記内部電極20を含む誘電体セラミックを同時に焼成する場合、収縮率の差によって内部電極の間に短絡が発生(A)し、内部電極の平滑性及び連結性が低下するという問題が発生する。
【0006】
また、前記内部電極20が誘電層10内に浸透(B)して、誘電層10の信頼性を劣化させ、破壊電圧(breakdown voltage、BDV)を低下させる原因となるため好ましくない。
【0007】
従って、このような問題を解決するための一つの方法として、内部電極の収縮率を減らすために、誘電層を構成する材料と同一のセラミック粉末を内部電極の材料であるニッケル粉末とともに共材として混合する技術が提示された。
【0008】
図2は、ニッケル内部電極に誘電体セラミック粉末を共材として混合することによる効果を示している。これを参照すると、内部電極を構成するニッケル粉末21は低温でネッキング(necking)を形成し、ニッケル粉末同士が凝集された構造を示す。ニッケル粉末の粒子同士が多くのネッキングを形成する場合、焼結が速く進行し過ぎるという問題があるため、このようなネッキングが起こらないようにする必要がある。
【0009】
これを解決するために、内部電極の収縮率を低めるための誘電体セラミック粉末共材11を添加すると、ニッケル粉末の粒子21が互いに接する接点に前記誘電体セラミック粉末共材11が位置して、ニッケル粉末のネッキングを防止し、焼結を遅延させる役割をする。また、前記添加された誘電体セラミック粉末共材11は、ニッケル粉末が内部電極を形成する際、前記ニッケル内部電極から分離されて誘電層に合流される原理である。
【0010】
しかし、上記の方法も、焼成温度が上がるにつれてその効果に限界が生じ、所望の水準まで収縮率差を調節することができないという問題があるため、内部電極の材料として用いられるニッケル粉末と誘電層を構成する誘電体セラミック粉末との収縮率差を効果的に制御するには限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】韓国公開特許第10−2009−0028007号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のように、積層セラミックキャパシタの内部電極に用いられる材料と、誘電層に用いられる材料との収縮率差による従来技術の様々な問題を解決するためのものであり、本発明の目的は、誘電層と収縮特性が類似した構造を有する金属粉末を提供することにある。
【0013】
また、本発明の他の目的は、前記金属粉末の製造方法を提供することにある。
【0014】
また、本発明のさらに他の目的は、前記金属粉末を内部電極に含む積層セラミックキャパシタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の課題を解決するための金属粉末は、金属粉末の表面に不規則に形成されたグラフェン層を含むことを特徴とする。
【0016】
前記不規則に形成されたグラフェン層を含む金属表面と、前記グラフェン層を含まない金属表面とは、焼結特性において互いに異なるものとすることができる。
【0017】
前記金属粉末は、球形、四角形、多面体形、及び円筒形からなる群から選択される1種以上の形態を有することができるが、これに限定されるものではない。
【0018】
前記金属粉末は、Ni、Cu、Co、Fe、Pt、Au、Al、Cr、Mg、Mn、Mo、Rh、Si、Ta、Ti、W、U、V及びZrからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0019】
前記金属粉末は、積層セラミックキャパシタの内部電極として好ましく用いられることができるが、これに限定されるものではない。
【0020】
本発明の他の課題を解決するための金属粉末の製造方法は、金属粉末を積層する第1段階と、前記積層された金属粉末に炭素供給源を供給し、前記積層された金属粉末の表面を前記炭素供給源でコーティングする第2段階と、前記炭素供給源でコーティングされた金属粉末を熱処理し、前記金属粉末の表面にグラフェンを形成する第3段階と、前記金属粉末を分離する第4段階と、を含むことを特徴とする。
【0021】
前記第1段階から第3段階の各段階は、一切の撹拌を加えない状態で行われることが好ましい。
【0022】
前記第3段階の熱処理時、炭素供給源でコーティングされた金属粉末の表面にのみグラフェンが不規則に形成されることを特徴とする。
【0023】
前記金属粉末を分離する第4段階を経て、積層された金属粉末を夫々の金属粉末に分離することができる。
【0024】
前記金属粉末の分離は、カッター、超音波粉砕機、ミル類粉砕機、フリューダイザー、及びナノマイザーなどを利用することができるが、これに限定されるものではない。
【0025】
また、本発明のさらに他の課題を解決するために、金属粉末の表面に不規則に形成されたグラフェン層を含む金属粉末を利用した積層セラミックキャパシタの内部電極を提供することができる。
【0026】
また、本発明の実施形態によると、前記内部電極は、グラフェン層を含まない金属粉末、または誘電体セラミック粉末から選択される1種以上をさらに含むことができる。
【0027】
前記金属粉末は、Ni、Cu、Co、Fe、Pt、Au、Al、Cr、Mg、Mn、Mo、Rh、Si、Ta、Ti、W、U、V及びZrからなる群から選択される1種であることができるが、これに限定されるものではない。
【0028】
また、本発明は、前記内部電極を含む積層セラミックキャパシタを提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、その表面に、グラフェンが不規則に形成された金属粉末を積層セラミックキャパシタの内部電極の材料として用いて、グラフェンが形成されていない金属粉末の表面でのみネッキングが起こるようにし、金属粉末のネッキングを遅延させ、内部電極の収縮を制御することにより、内部電極の厚さを減らし、短絡及びクラックなどを減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】誘電体セラミック内に内部電極を含むMLCC構造の断面の一部を示した図面である。
【図2】ニッケル内部電極に誘電体セラミック粉末を共材として混合することによる効果を示した図面である。
【図3】本発明による金属粉末の断面及び表面の形状である。
【図4】本発明による金属粉末の製造過程を示した図面である。
【図5】本発明の一実施形態により製造された金属粉末の表面にグラフェンが不規則に形成された金属粉末のネッキング現象を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明をより詳細に説明すると次のとおりである。
【0032】
本明細書で用いられる用語は、特定の実施形態を説明するために用いられ、本発明を限定しようとするものではない。本明細書で用いられるように、単数型は、文脈上異なる場合を明白に指摘するものでない限り、複数型を含む。また、本明細書で用いられる「含む(Comprise)」及び/または「含んでいる(Comprising)」は言及された形状、数字、段階、動作、部材、要素、及び/またはこれらの組み合わせが存在することを特定するものであり、一つ以上の他の形状、数字、段階、動作、部材、要素、及び/またはこれらの組み合わせの存在または付加を排除するものではない。
【0033】
本発明は、内部電極用金属粉末、その製造方法、及びその金属粉末からなる内部電極を含む積層セラミックキャパシタに関する。
【0034】
1.内部電極用金属粉末
本発明による金属粉末は、内部電極の主材料として用いられ、誘電層を構成する誘電体セラミック材料との収縮率差を最小化することができるように、前記金属粉末の表面にグラフェンを不規則に形成した構造を有する。
【0035】
図3は、本発明による金属粉末の断面(上)及び表面(下)の形状を示している。これを参照すると、金属粉末121の表面に不規則に形成されたグラフェン層131を含む。
【0036】
従って、前記不規則に形成されたグラフェン層131を含む金属の表面と、前記グラフェン層131を含まない金属の表面とは、互いに異なる収縮特性を有する、と予想することができる。結果的に、各金属粉末で互いに異なる収縮特性を有するため、その焼結特性も異なるものとすることができる。
【0037】
従って、前記金属粉末を積層セラミックキャパシタの内部電極の材料として用いる場合、誘電体セラミック粉末との収縮率差を改善し、焼結特性を向上させることができる効果を有する。
【0038】
前記金属粉末は、Ni、Cu、Co、Fe、Pt、Au、Al、Cr、Mg、Mn、Mo、Rh、Si、Ta、Ti、W、U、V及びZrからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0039】
前記金属粉末の表面に不規則に形成されるグラフェン層の厚さは、1μm以下が適当であり、数nmがさらに好ましい。前記グラフェン層の厚さは、炭素供給源の含量及び熱処理条件などを変化させることにより調節することができる。
【0040】
本発明における「グラフェン層」は、炭素が六角形の板状構造で連結されたグラフェンシートと類似した結合構造を有し、グラフェンが適切な結合角を維持しながら曲がっている球形、円筒形、多面体形などを有することができる。
【0041】
従って、本発明による前記金属粉末は、球形、四角形、多面体形、及び円筒形からなる群から選択される1種以上の形態を有することができるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
最終的に製造される金属粉末は、内部の金属粉末の形状によって決定することができる。従って、最終の金属粉末の形態に応じて、前記内部金属粉末の形態を選択して製造することができる。
【0043】
2.内部電極用金属粉末の製造方法
本発明による内部電極用金属粉末の製造方法は、金属粉末を積層する第1段階と、前記積層された金属粉末に炭素供給源を供給し、前記積層された金属粉末の表面を、前記炭素供給源でコーティングする第2段階と、前記炭素供給源でコーティングされた金属粉末を熱処理し、前記金属粉末の表面にグラフェンを形成する第3段階と、前記金属粉末を分離する第4段階と、を含む。
【0044】
図4は、金属粉末の製造過程を示しており、これを参照して説明する。
【0045】
まず、第1段階では、金属粉末121を積層する。各金属粉末121は金属の特性上、一定に積層することができる。この際の重要な点は、金属粉末121に、一切の撹拌や外部からの如何なる条件も加えないことである。即ち、金属粉末121が積層された形態を維持するようにすることが好ましい。
【0046】
第2段階では、前記積層された金属粉末121に炭素供給源140を供給し、前記積層された金属粉末121の表面を前記炭素供給源140でコーティングする。図4に示すように、前記炭素供給源140を供給すると、積層された金属粉末121の間の空間や最外殻の表面が、前記炭素供給源140によりコーティングされる。
【0047】
この際に供給される炭素供給源140は、後工程である熱処理によってグラフェンを形成できるものであれば、その材料は特に限定されない。例えば、両親媒性高分子、液晶高分子、伝導性高分子のような炭素含有高分子、アルコール系有機溶媒などの液相炭素系物質、メタン、エタン、アセチレンなどの気相炭素系物質などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
前記第2段階を経る過程でも、金属粉末121に一切の撹拌や外部からの如何なる条件も加えない。これは、供給された炭素供給源と相接する選択的な領域にのみ、炭素供給源がコーティングされるようにするためである。
【0049】
第3段階では、前記炭素供給源140でコーティングされた金属粉末121を熱処理し、前記金属粉末の表面にグラフェン131を形成する。前記熱処理条件は、400〜1500℃の不活性雰囲気または還元雰囲気で、0.1〜10時間行うことが好ましい。
【0050】
前記熱処理は、誘導加熱、輻射熱、レーザー、IR、マイクロ波、プラズマ、UV及び表面プラズモン加熱からなる群から選択される1種以上の方法で行なうことができるが、これに限定されるものではない。
【0051】
このような熱処理により、前記炭素供給源の炭素成分を除いた他の成分は全て蒸発し、前記炭素成分のみが互いに結合して立体形状のグラフェンを形成する。
【0052】
最後の第4段階では、前記金属粉末を分離させる。
【0053】
前記金属粉末の分離は、カッター、超音波粉砕機、ミル類粉砕機、フリューダイザー、ナノマイザーなどを利用することができるが、これに限定されるものではない。
【0054】
前記金属粉末を分離する第4段階を経て、積層された金属粉末121を夫々の金属粉末に分離することができる。
【0055】
上記のような一連の過程を経ると、図4に示すように、金属粉末121の表面の一部のみにグラフェン131が不規則に形成される。従って、グラフェン131が形成された金属粉末121の表面と、グラフェン131が形成されていない金属粉末121の表面とは、その収縮特性が異なる。
【0056】
従って、グラフェン131が形成された金属粉末121でのネッキング現象を示した図5のように、グラフェン131が形成されていない金属粉末121の表面でのみネッキングが起こるようにし、金属粉末121のネッキングを遅延させ、内部電極の収縮を制御することにより、内部電極の厚さを減らし、短絡及びクラックなどを減少させることができる。
【0057】
3.積層セラミックキャパシタ
本発明の積層セラミックキャパシタは、金属粉末の表面に不規則に形成されたグラフェン層を含む金属粉末を利用した内部電極を含んで構成することができる。
【0058】
また、前記内部電極には、内部電極の材料として通常的に用いられる純粋金属粉末または誘電体セラミック粉末をさらに含むことができる。
【0059】
前記金属粉末は、Ni、Cu、Co、Fe、Pt、Au、Al、Cr、Mg、Mn、Mo、Rh、Si、Ta、Ti、W、U、V及びZrからなる群から選択される1種以上であることができるが、これに限定されるものではない。
【0060】
また、前記誘電体セラミック粉末は、ボディー材料として用いられる誘電体セラミック材料と同一のものを用いることが好ましい。
【0061】
本発明の積層セラミックキャパシタで用いられるボディー材料、外部電極などは、通常の材料を用いることができ、その材料及び製造方法は特に限定されない。
【符号の説明】
【0062】
10 誘電層
11 誘電体セラミック粉末共材
20 内部電極
21、121 金属粉末
131 グラフェン
140 炭素供給源
A 内部電極の短絡
B 内部電極の誘電層への浸透

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末の表面に不規則に形成されたグラフェン層を含む金属粉末。
【請求項2】
前記不規則に形成されたグラフェン層を含む金属の表面と、前記グラフェン層を含まない金属の表面とは、焼結特性において互いに異なる請求項1に記載の金属粉末。
【請求項3】
前記金属粉末は、球形、四角形、多面体形、及び円筒形からなる群から選択される1種以上の形態を有する請求項1に記載の金属粉末。
【請求項4】
前記金属粉末は、Ni、Cu、Co、Fe、Pt、Au、Al、Cr、Mg、Mn、Mo、Rh、Si、Ta、Ti、W、U、V及びZrからなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の金属粉末。
【請求項5】
前記金属粉末は、積層セラミックキャパシタの内部電極に用いられる請求項1に記載の金属粉末。
【請求項6】
金属粉末を積層する第1段階と、
前記積層された金属粉末に炭素供給源を供給し、前記積層された金属粉末の表面を前記炭素供給源でコーティングする第2段階と、
前記炭素供給源でコーティングされた金属粉末を熱処理し、前記金属粉末の表面にグラフェンを形成する第3段階と、
前記金属粉末を分離する第4段階と、
を含む金属粉末の製造方法。
【請求項7】
前記第1段階から第3段階の各段階は、一切の撹拌を加えない状態で行われる請求項6に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項8】
前記第3段階の熱処理時、炭素供給源でコーティングされた金属粉末の表面にのみグラフェンが不規則に形成される請求項6に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項9】
前記金属粉末を分離する第4段階を経て、積層された金属粉末が夫々の金属粉末に分離される請求項6に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項10】
前記金属粉末の分離は、カッター、超音波粉砕機、ミル類粉砕機、フリューダイザー、及びナノマイザーから選択される一つの方法を利用する請求項6に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項11】
金属粉末の表面に不規則に形成されたグラフェン層を含む金属粉末を含む積層セラミックキャパシタの内部電極。
【請求項12】
前記内部電極は、グラフェン層を含まない金属粉末、または誘電体セラミック粉末から選択される1種以上をさらに含む請求項11に記載の積層セラミックキャパシタの内部電極。
【請求項13】
前記金属粉末は、Ni、Cu、Co、Fe、Pt、Au、Al、Cr、Mg、Mn、Mo、Rh、Si、Ta、Ti、W、U、V及びZrからなる群から選択される1種以上である請求項12に記載の積層セラミックキャパシタの内部電極。
【請求項14】
請求項11に記載の内部電極を含む積層セラミックキャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−40403(P2013−40403A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−163430(P2012−163430)
【出願日】平成24年7月24日(2012.7.24)
【出願人】(594023722)サムソン エレクトロ−メカニックス カンパニーリミテッド. (1,585)
【Fターム(参考)】