説明

金属膜を有する成形用フィルム及びその製造方法

【課題】インモールド成形や基材に積層させて行なわれるブロー成形及びプレス成形によって成形品を形成する際に、表面に金属膜を形成した熱可塑性樹脂フィルムを成形品の急激な曲面に使用しても、金属薄膜が屈曲に追随させられるようにすること
【解決手段】金属膜が真空蒸着法によって形成されたSn−Zn合金薄膜であって、そのSn組成を33〜96原子パーセントとした

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に金属膜を形成した熱可塑性樹脂からなる成形用フィルムに関するものであり、屈曲追随性が要求されるインモールド成形、真空成形或いは基材に積層させて行なわれるブロー成形やプレス成形において使用される。
【背景技術】
【0002】
インサート成形法やインモールド成形法などにより樹脂成形品の小さなアール曲面や複雑な凹凸面などの急激な曲面を有する箇所を形成する、いわゆる深絞り加工において、その曲面に金属光沢を与えるために金属薄膜を設けた樹脂フィルムが利用され、樹脂成形品と一体化されている。
金属薄膜がインジウムなどで形成されている場合には深絞り加工に十分対応させることができるが、製品のコスト面を考慮すると、高価な金属を使用できないことになる。
【0003】
特許文献1においては、高分子樹脂製フィルム(基材)の一方の面に導電性・紫外線遮断・赤外線遮断などの機能を発揮する樹脂層を設け、他方の面にスズ、インジウム、アルミニウム、亜鉛、金、銀、銅、チタン、ニッケルやこれらの合金を用いた蒸着層を積層させた積層体が開示されていて、前記の深絞り加工をする際に用いても、金属蒸着層やベースフィルムがその曲がり方に追従させられることが記載されている。
【0004】
しかしながら、この文献には、上記に列挙した金属が利用できる可能性が記載されているだけで、蒸着膜を形成する合金については、金属の組合せ、その組成比率などについて何一つ開示されていないから、合金蒸着膜に関する先行技術として位置づけることはできない。
【0005】
また、非特許文献1では、錫−亜鉛合金を用いて電気めっきを行なった場合に、めっき層が展延性にすぐれ二次加工性が高いことが記載され、錫の組成比率が70%前後で最も高い耐食性を示すことが示されている。
【0006】
しかしながら、電気めっきは電解溶液中に対象物を陰極として通電し、陽極側から遊離した金属原子を対象物の表面に析出させるため、金属膜の組織は緻密で安定したものとなるから、しっかりとした金属光沢を得ようとするといきおい膜厚が大きくなってしまうことになる。
したがって、電気めっきによってフィルム上に金属膜を形成したとしても、インモールド成形や基材に積層させて行なわれるブロー成形及びプレス成形などにおける急激な曲面に追随させることは期待できず、無理に形成しても確実に金属膜にクラックが発生し、金属光沢を付与できない不都合がある。
しかも、合成樹脂フィルムに電気めっきを施す場合には、あらかじめ真空蒸着法などの乾式めっきによってフィルム上に導電層を形成した上でめっきを施すことになるから、膜厚は一層大きくならざるを得ないことになる。
【0007】
発明者らは、Sn(スズ)が安価で比較的粘りのある金属薄膜であること、並びにSn−Zn合金からなる金属膜が展延性にすぐれている点に着目し、インモールド成形、真空成形、ブロー成形、プレス成形などを行なう際のいわゆる深絞り加工に適応できる合金薄膜について鋭意研究した結果、本発明を完成したものである。
【特許文献1】特開2007−216608号公報
【非特許文献1】全国鍍金工業組合連合会HP「めっきってなんですか」欄
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、インモールド成形や基材に積層させて行なわれるブロー成形及びプレス成形によって成形品を形成する際に、表面に金属膜を形成した熱可塑性樹脂フィルムを成形品の急激な曲面に使用しても、金属薄膜が屈曲に追随させられるようにすることを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この技術的課題を解決するための第一の技術的手段は成形用フィルムに関するものであり、(イ)金属膜が真空蒸着法によって形成されたSn−Zn合金薄膜であって、(ロ)そのSn組成を33〜96原子パーセントとしたこと、である。
第二の技術的手段は、上記の合金薄膜の膜厚を200〜516Åとしたことである。
また、第三の技術的手段は上記の成形用フィルムを製造する方法に関するもので、SnとZnを異なる坩堝に投入し、各坩堝への投入電力を制御しながらフィルムに真空蒸着させて合金薄膜を形成すること、である。
【0010】
第一の技術的手段において、熱可塑性樹脂フィルムの表面に形成されるSn−Zn合金薄膜は、Sn組成が33〜96原子パーセントの範囲となっているから、極めて安定した合金組織を得ることができ、成形品の急激な曲面に使用しても曲げに対して良好な追随性を発揮させることができ、色彩も青みがかった金属光沢を発揮させることができる。
Sn−Zn合金薄膜におけるSn組成が32.6原子パーセントより小さくなると金属組織の安定度が変化して屈曲に対する追随性が悪くなり、また、95.5原子パーセントより大きくなると屈曲に対する追随性が悪くなると共に金属色がSn単独で薄膜を形成した場合と同様のものとなる。
【0011】
合金薄膜は真空蒸着法によって形成されているから、電気めっきの場合に比べて合金薄膜が柔らかく形成され、しかもその膜厚が200Å〜516Åと、電気めっきの場合に比べて1/10〜1/100程度の薄さとなるから、前記安定した組織の形成と相まって曲げに対する追随性を高めることができる。
合金薄膜が516Åより厚肉になると、追随性が不安定となり屈曲時におけるクラックが発生し易くなり、また200Åより薄肉になると合金薄膜が透け或いは金属光沢に黒ずみが生じることになる。
【0012】
なお、Sn組成が33〜48原子パーセントの範囲にある合金薄膜では、合金薄膜の膜厚が大きくて金属の追随性も良好であるから、成形性がよくきれいな金属光沢がえられることになる。
【0013】
上記の技術的手段において使用する熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルメタアクリレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリウレタンフィルム、塩化ビニルフィルムなどが使用できる。
【0014】
真空蒸着法では、供給されるフィルムに連続的に蒸着させてこれを巻き取る方式の他、一枚ずつフィルムに蒸着を施すようにしてもよい。後者の場合、フィルムを自転させながら公転させて金属膜が均一に形成されるようにすることが望ましい。
なお、Sn、Znの金属原子は、厚さ方向、幅方向及び長さ方向において均一であることが望ましいが、それぞれが偏析してもその粒径が大きくなければ、必ずしも完全な均一性を要求しなければならないものでもない。
【0015】
第三の技術的手段では、第一の技術的手段における合金薄膜が、SnとZnを異なる坩堝に入れ、各坩堝への投入電力を制御しながらフィルムに真空蒸着(以下二元蒸着法という。)させて形成されているから、各金属の蒸発の調整が自在となり、組成を安定させた合金薄膜を形成することができる。
この方法では、Sn、Znをそれぞれ入れた坩堝を複数用意し、フィルム上に形成される合金薄膜をより均一なものに仕上げられるように配置することが望ましく、そうすることによって、供給されるフィルムに連続して合金薄膜を形成して巻き取る方式にとって最適のものとなる。
【発明の効果】
【0016】
熱可塑性樹脂フィルムの表面に形成した金属薄膜が屈曲に追随してクラックを発生させない結果、これを成形品の急激な曲面に使用しても、それらの面に良好な金属光沢を付与することができる。
また、高価な金属を使用しなくてもよいから、製品のコストダウンを図ることができる。
【実施例】
【0017】
(合金薄膜の形成)
本実施例においては、厚さ50μmの易成形用ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡(株)製のソフトシャイン(登録商標)A1535)を使用し、Sn−Zn合金の組成及び膜厚を変えた合金薄膜を真空蒸着法によって形成した。
真空蒸着法は二元蒸着法により行った。各蒸発源のフィラメントはタングステン製コニカルバスケット形状を使用し、投入電力の調整はスライダックにて電圧を調整する方法によった。
なお、フィルムを固定する基板は、回転させることによって組成分布が均一になるようにし、膜厚はシャッターの開閉時間で蒸着時間を調整した。
【0018】
(合金組成の測定)
株式会社島津製作所のXRF−1700を使用して蛍光X線のカウント数測定(ファンダメンタルパラメーター法)により、重量%から原子%へ変換して合金の組成を求めた。具体的には下記の手順によった。
Sn原子相当数=Sn重量比/118(Sn原子量)
Zn原子相当数=Zn重量比/65(Zn原子量)
Sn原子%=[Sn原子相当数/(Sn原子相当数+Zn原子相当数)]×100
Zn原子%=[Zn原子相当数/(Sn原子相当数+Zn原子相当数)]×100
【0019】
(膜厚測定法)
単独金属の膜厚=光学密度(OD値)×金属遮蔽係数 によって求めた。
金属の遮蔽係数はSn=260:Zn=130であるから、
合金の膜厚=光学密度(OD値)×[Sn原子%×260+Zn原子%×130]
として計算した。
【0020】
(成形性の評価)
Sn−Zn合金薄膜を形成したフィルムに対し、図1に示した成形機を用いてフィルムの屈曲試験を行なった。
この成形機は、プレート1上にロータリーポンプ3に連結させた成形容器2を配置した構成のもので、プレート1を約120℃に加熱し、その上に得られたフィルム5を載せて十分加熱した後、容器2をフィルム5に密着させ、ポンプ3作動させて50L/minの速度で容器2内を減圧し、フィルム5を吸引することによって球面状に変形させ成形品5aを得た。
顕微鏡を用いてこの成形品を600倍に拡大し、金属膜の状態を目視して下記ランクによって評価した。
ランク 評 価 基 準
1 幅2μm以上のクラックが縦横(格子状)に発生
2 幅2μm未満のクラックが縦横(格子状)に発生
3 幅1μm未満のクラックが部分的に発生
4 原子粒形の変形(塑性変形の限界)が認められるがクラックは認はられない
5 原子の粒形の変形は認められずクラックも認められない
【0021】
表−1は、上記にしたがった実施例及び比較例並びにその評価結果をまとめた一覧表である。
(表−1)

なお、図2は、上記の評価結果の分布を示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】フィルムの屈曲試験を行なう成形機の概略説明図
【図2】実施例及び比較例の評価結果の分布図
【符号の説明】
【0023】
1プレート、 2成形容器、 3ロータリーポンプ、 5合金薄膜を形成したフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に金属膜を形成した熱可塑性樹脂からなる成形用フィルムにおいて、金属膜が真空蒸着法によって形成されたSn−Zn合金薄膜であって、そのSn組成を33〜96原子パーセントとした深絞り加工を可能とした成形用フィルム。
【請求項2】
合金薄膜の膜厚が200〜516Åである請求項1に記載の深絞り加工を可能とした成形用フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の合金薄膜を形成するに際し、SnとZnを異なる坩堝に入れ、各坩堝への投入電力を制御しながらフィルムに真空蒸着させる成形用フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−99881(P2010−99881A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271770(P2008−271770)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(592197197)中井工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】