説明

金属薄膜前駆体層およびその製造方法

【課題】ピンホールが少ない金属薄膜を形成できる金属薄膜前駆体層を提供すること。
【解決手段】本発明の金属薄膜前駆体層は、基材上に設けられた、金属前駆体微粒子及び有機ポリマーを含む金属薄膜前駆体層であって、下記式(1)により求めた、波長730nmの光線に対する厚さ1μmあたりの内部透過率(T1μm)が85%以下であることを特徴とする。
【数1】


(式(1)中、Tは基材のみで測定した光線透過率であり、Rは基材のみで測定した絶対反射率であり、Tは基材上に金属薄膜前駆体層を設けて測定した光線透過率であり、Rは基材上に金属薄膜前駆体層を設けて測定した絶対反射率であり、dは金属薄膜前駆体層の厚さ(μm)である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属薄膜を形成するために適した金属薄膜前駆体層及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材上に金属薄膜を形成する方法には、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、メッキ法、金属ペースト法などが知られている。
【0003】
メッキ法によると、導電性を有する基材上に、比較的容易に金属薄膜を形成することが可能であるが、絶縁基材の上に形成する場合には、導電層をはじめに形成する必要があるため、そのプロセスは煩雑なものになるという問題がある。また、メッキ法は溶液中での反応を利用するため、大量の廃液が副生し、この廃液処理に多大な手間とコストがかかるという問題がある。
【0004】
金属ペースト法は、金属フィラーを分散させた溶液を絶縁基材上に塗布し、加熱処理して金属薄膜を得る方法である。この方法によると、真空装置などの特別な装置を必要とせず、プロセスが簡易であるという利点を有するが、金属フィラーを溶融するには、通常、1000℃以上の高温を必要とする。したがって、基材はセラミック基材などの耐熱性を有するものに限られ、また、基材が熱で損傷したり、加熱により生じた残留応力により基材が損傷を受けやすいという問題がある。さらに、得られる金属薄膜の基材への密着性が充分ではない。
【0005】
一方、金属フィラーの粒径を低減することによって、金属ペーストの加熱焼成温度を低減する技術は公知であり、例えば、粒径100nm以下の金属微粒子を分散した分散液を用いて金属薄膜を直接、絶縁基材上に形成する方法が開示されている(特許文献1)。しかしながら、ここで用いられている100nm以下の金属微粒子の製造方法は、低圧雰囲気で揮発した金属蒸気を急速冷却する方法であるために、大量生産が難しく、したがって、金属フィラーのコストが高くなるという可能性が考えられる。
【0006】
金属酸化物フィラーを分散させた金属酸化物ペーストを用いて、金属薄膜を直接、絶縁基材上に形成する方法も知られている。例えば、結晶性高分子を含み、粒径300nm以下の金属酸化物を分散させた金属酸化物ペーストを加熱し、結晶性高分子を分解させて金属薄膜を得る方法が開示されている(特許文献2)。しかしながら、この方法では、300nm以下の金属酸化物を結晶性高分子中にあらかじめ分散させる必要があり、非常な手間を必要とするのに加えて、結晶性高分子を分解するのに400℃〜900℃の高温を必要とする。したがって、使用可能な基材は、その温度以上の耐熱性を必要とし、その種類に制限があるという可能性が考えられる。
【0007】
これらの課題を解決する金属薄膜の製造方法として、安価な金属酸化物フィラーを分散させた分散液を基材上に塗布し、比較的低温での加熱焼成によって金属薄膜を得るという方法(特許文献3)、金属薄膜に発生するピンホールを低減する方法(特許文献4)を開示しているが、さらに金属薄膜の厚さを1μm未満の極薄膜とした場合に発生するピンホールの低減が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2561537号公報
【特許文献2】特開平5−98195号公報
【特許文献3】国際公開第03/051562号パンフレット
【特許文献4】特開2008−257935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、極薄膜とした場合においてもピンホールが少ない金属薄膜を形成することが可能な、金属薄膜前駆体層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の問題点を解決するために鋭意検討を進めた結果、金属薄膜前駆体層の光線透過率と、それを加熱焼成して得られる金属薄膜に発生するピンホールの発生との間の相関を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0011】
本発明の金属薄膜前駆体層は、基材上に設けられた、金属前駆体微粒子及び有機ポリマーを含む金属薄膜前駆体層であって、下記式(1)により求めた、波長730nmの光線に対する厚さ1μmあたりの内部透過率(T1μm)が85%以下であることを特徴とする。
【数1】

(式(1)中、Tは基材のみで測定した光線透過率であり、Rは基材のみで測定した絶対反射率であり、Tは基材上に金属薄膜前駆体層を設けて測定した光線透過率であり、Rは基材上に金属薄膜前駆体層を設けて測定した絶対反射率であり、dは金属薄膜前駆体層の厚さ(μm)である。)
【0012】
本発明の金属薄膜前駆体層においては、前記有機ポリマーが脂肪族ポリエーテルを含むことが好ましい。
【0013】
本発明の金属薄膜前駆体層においては、前記有機ポリマーがポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコールを含むことが好ましい。
【0014】
本発明の金属薄膜前駆体層においては、金属前駆体微粒子が酸化銅微粒子であることが好ましい。
【0015】
本発明の金属薄膜前駆体層においては、金属前駆体微粒子が酸化第一銅微粒子であることが好ましい。
【0016】
本発明の金属薄膜前駆体層においては、金属前駆体微粒子の1次粒子径が200nm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の金属薄膜前駆体層においては、厚さが3μm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の金属薄膜前駆体層の製造方法は、(1)金属前駆体微粒子及び有機ポリマーを含む分散液を基材上に塗布する工程と、(2)下記式(1)により求めた、波長730nmの光線に対する厚さ1μmあたりの内部透過率(T1μm)が85%以下となるまで加熱処理する工程と、を含むことを特徴する。
【数2】

(式(1)中、Tは基材のみで測定した光線透過率であり、Rは基材のみで測定した絶対反射率であり、Tは基材上に金属薄膜前駆体層を設けて測定した光線透過率であり、Rは基材上に金属薄膜前駆体層を設けて測定した絶対反射率であり、dは金属薄膜前駆体層の厚さ(μm)である。)
【0019】
本発明の金属薄膜の製造方法においては、前記工程(2)における加熱処理が酸化性雰囲気下又は不活性雰囲気下にて行われることが好ましい。
【0020】
本発明の金属薄膜の製造方法は、上記金属薄膜前駆体層の製造方法によって得られた金属薄膜前駆体層を加熱焼成し、金属薄膜にする工程を含むことを特徴する。
【0021】
本発明の金属薄膜の製造方法においては、前記金属薄膜前駆体層の加熱焼成が還元性雰囲気下又は不活性雰囲気下にて行われることが好ましい。
【0022】
本発明の金属薄膜は、上記金属薄膜前駆体層を加熱焼成することで得られたことを特徴とする。
【0023】
本発明の金属薄膜においては、体積抵抗率が1.6×10−6Ωcm以上3×10−6Ωcm未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、極薄膜とした場合においてもピンホールが少ない金属薄膜を形成することが可能な金属薄膜前駆体層を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例3において得られた、金属薄膜前駆体層における厚さ1μmあたりの内部透過率(T1μm)のスペクトルを示す図である。
【図2】実施例5〜実施例7及び比較例4において得られた、金属薄膜前駆体層における厚さ1μmあたりの内部透過率(T1μm)のスペクトルを示す図である。
【図3】実施例8、実施例9及び比較例5において得られた、金属薄膜前駆体層における厚さ1μmあたりの内部透過率(T1μm)のスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して本発明を詳細に説明する。
本発明において金属薄膜前駆体層とは、加熱などの処理によって金属薄膜に変換することが可能な層を指し、少なくとも金属前駆体微粒子及び有機ポリマーを含む。この金属薄膜前駆体層は、以下で説明する分散液を基材上に塗布することで形成することができる。
【0027】
本発明において使用する分散液は、少なくとも金属前駆体微粒子及び有機ポリマーを含有する。
【0028】
本発明に係る金属薄膜前駆体層は、下記式(1)により求めた、波長730nmの光線に対する厚さ1μmあたりの内部透過率(T1μm)が85%以下であることを特徴とする。
【0029】
【数3】

(式(1)中、Tは基材のみで測定した光線透過率であり、Rは基材のみで測定した絶対反射率であり、Tは基材上に金属薄膜前駆体層を設けて測定した光線透過率であり、Rは基材上に金属薄膜前駆体層を設けて測定した絶対反射率であり、dは金属薄膜前駆体層の厚さ(μm)である。測定における入射角は90°である。)
【0030】
上記内部透過率(T1μm)は、金属薄膜前駆体層の着色を数値化したものであり、金属薄膜前駆体層が黒化するほど値が小さくなる。本発明に係る金属薄膜前駆体層においては、内部透過率(T1μm)が小さい(金属薄膜前駆体層の色が濃い)ほど均一な金属薄膜が得られる。
【0031】
金属薄膜前駆体層は基材上に積層して形成されるため、金属薄膜前駆体層の光線透過率は、通常基材の影響を受ける可能性があるが、上記内部透過率(T1μm)とは基材による寄与を排除した値である。また同様に、表面における反射の寄与も排除した値となっている。なお、光線透過率は散乱損失分を含んでもよい。また、T及びRは金属薄膜前駆体層を形成した面から光線を入射させる方向で測定するものである。
【0032】
本発明では波長730nmの光線に対するT1μmが85%以下であることを特徴とするが、よりピンホールの少ない金属薄膜を得ることが可能であるという点から1%〜80%がより好ましく、2%〜70%がさらに好ましく、3%〜60%が特に好ましい。
【0033】
上記金属前駆体微粒子とは、加熱などの処理によって微粒子同士が相互に接合・融着して、見かけ上連続した金属(以下「凝集体」という)を形成するという性質をもつ金属化合物の微粒子である。このような金属前駆体微粒子としては、加熱などの処理によって金属を形成することが可能である限り制限は無く、金属微粒子、金属水酸化物微粒子及び金属酸化物微粒子が挙げられる。
【0034】
上記金属微粒子としては、湿式法やガス中蒸発法などの手法により形成される、1次粒径が10nm以下の金属微粒子が好ましく、特に銅微粒子が好ましい。ここで1次粒径とは凝集体を形成していない状態で測定した、微粒子の直径をいう。
【0035】
金属水酸化物微粒子としては、水酸化銅、水酸化ニッケル、水酸化コバルトなどの化合物からなる微粒子を例示できるが、特に水酸化銅微粒子が好ましい。
【0036】
上記金属酸化物微粒子としては、例えば、酸化銅、酸化銀、酸化パラジウム、酸化ニッケルなどからなる微粒子が挙げられる。これらのうち、容易に還元されて金属へ変換することが可能であるという点から、酸化銅が好ましく、酸化第一銅、酸化第二銅、その他の酸化数をもった酸化銅のいずれも使用可能である。酸化第一銅微粒子は、容易に還元が可能であるので特に好ましい。
【0037】
これらの金属酸化物微粒子は、市販品を用いてもよいし、公知の合成方法を用いて合成することも可能である。例えば、粒子径が100nm未満の酸化第一銅超微粒子の合成方法としては、アセチルアセトナト銅錯体をポリオール溶媒中にて200℃程度で加熱して合成する方法が公知である(アンゲバンテ ケミ インターナショナル エディション、40号、2巻、p.359、2001年)。
【0038】
上記の金属微粒子、金属水酸化物微粒子及び金属酸化物微粒子の中でも、容易に金属を形成できるという観点から、金属酸化物微粒子が特に好ましい。またこれら微粒子は、単一のものを用いてもよく、2種類以上を併用することも可能である。
【0039】
金属前駆体微粒子の粒子径は、分散媒への分散性、得られる金属の緻密性という観点から、一次粒子径が200nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは100nm以下、より好ましくは30nm以下である。また、分散液の粘度や取り扱い性の観点から、1次粒径は1nm以上であることが好ましい。
【0040】
分散液中の金属前駆体微粒子の割合に制限はないが、分散液総量に対して、好ましくは5重量%〜90重量%、より好ましくは10重量%〜80重量%、特に好ましくは20重量%〜50重量%である。分散液中の金属前駆体微粒子の重量がこれらの範囲にある場合には、微粒子の分散状態が良好であり、また、1回の塗布・加熱処理によって適度な厚さの金属薄膜前駆体層を得ることが容易となる。
【0041】
本発明において使用する分散液は、金属薄膜前駆体層を形成する際の成膜性を向上させるために、有機ポリマーを含有する。有機ポリマーの種類は特に制限されないが、脂肪族ポリエーテル化合物を用いると、上記の成膜性向上の効果に加え、得られる金属薄膜の電気抵抗が低下するので好ましい。脂肪族ポリエーテル化合物が成膜性を向上させ、かつ抵抗値を低減させる理由は、脂肪族ポリエーテル化合物が易分解・易焼失性バインダーとして加熱焼成中の金属薄膜前駆体微粒子の局所的な造粒を防ぐためと考えられる。
【0042】
脂肪族ポリエーテル化合物の好ましい数平均分子量は、成膜性、分解焼失の容易性、金属薄膜の体積抵抗率などの観点から好ましくは100〜10000、より好ましくは120〜2000、さらに好ましくは150〜1000の範囲である。
【0043】
脂肪族ポリエーテル化合物は、炭素数2〜炭素数6のアルキレン基及び酸素原子からなる繰り返し単位を有することが好ましい。この脂肪族ポリエーテル化合物は、2元以上のポリエーテルランダムコポリマーやポリエーテルブロックコポリマーであってもよいし、分岐構造を有するポリマーであってもよい。
【0044】
具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールのようなポリエーテルホモポリマーのほかに、エチレングリコール/プロピレングリコール、エチレングリコール/ブチレングリコールの2元コポリマー、エチレングリコール/プロピレングリコール/エチレングリコール、プロピレングリコール/エチレングリコール/プロピレングリコール、エチレングリコール/ブチレングリコール/エチレングリコールなどの直鎖状の3元コポリマーが挙げられる。ブロックコポリマーとしては、ポリエチレングリコール−block−ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール−block−ポリブチレングリコールのような2元ブロックコポリマー、さらにポリエチレングリコール−block−ポリプロピレングリコール−block−ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール−block−ポリエチレングリコール−block−ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール−block−ポリブチレングリコール−block−ポリエチレングリコールなどの直鎖状の3元ブロックコポリマーのようなポリエーテルブロックコポリマーが挙げられる。分岐構造を有するポリマーとしては、トリメチロールプロパンエトキシレート、トリメチロールプロパンプロポキシレート、ペンタエリスリトールエトキシレート、ペンタエリスリトールプロポキシレート、ジトリメチロールプロパンエトキシレート、ジトリメチロールプロパンプロポキシレート、ジペンタエリスリトールエトキシレート、ジペンタエリスリトールプロポキシレート、グリセリンエトキシレート、グリセリンプロポキシレートなどが挙げられる。
【0045】
脂肪族ポリエーテル化合物の末端の構造は、微粒子の分散性や分散媒への溶解性に悪影響を与えない限り制限は無いが、両末端にヒドロキシ基を有するものを用いれば分散液の安定性が向上する傾向があり、また少なくとも一つの末端がアルキル基を有するものを用いれば、加熱焼成時におけるポリエーテル化合物の分解・焼失性が向上し、得られる金属薄膜の体積抵抗率が下がる傾向があるので、目的に応じて使い分けることが可能である。前記アルキル基の長さは、分散液の粘度の観点から、炭素数1〜炭素数4が好ましい。
【0046】
上記有機ポリマーは、単独で用いることもでき、2種類以上を併用することもできる。
【0047】
分散液中の有機ポリマーの割合は、分散液総量に対して、好ましくは0.1重量%〜70重量%、より好ましくは1重量%〜50重量%、特に好ましくは3重量%〜20重量%である。この範囲に有機ポリマーを調整することで、分散液の粘度が好ましい範囲に保たれるので好ましい。金属前駆体微粒子に対する有機ポリマーの好ましい重量比は、用いる微粒子の種類とポリエーテル化合物の種類により異なるが、通常は0.01〜10の範囲である。この範囲にあると得られる金属薄膜の緻密性が向上し、その体積抵抗率がさらに低下する。
【0048】
分散液に用いる分散媒としては特に制限はなく、上記金属前駆体微粒子を分散し、かつ上記有機ポリマーを溶解しうるものであれば、水などの無機溶媒あるいは有機溶媒などどのようなものでも用いることができる。
【0049】
分散媒が多価アルコールを含有すると、加熱焼成によって金属薄膜前駆体層を金属薄膜に変換するときの成膜性を向上させるので好ましい。多価アルコールは、分子中に複数の水酸基を有する化合物である。多価アルコールの中で好ましいのは、炭素数が10以下の多価アルコールであり、その中でも、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジプロピレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールなどが特に好ましい。これらの多価アルコールは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。分散液中の多価アルコールの割合は、分散液総量に対して、好ましくは5重量%〜80重量%、より好ましくは10重量%〜70重量%である。
【0050】
上記分散液には、必要に応じ、消泡剤、レベリング剤、粘度調整剤、安定剤などの添加剤を添加してもよい。
【0051】
塗布工程における制御性やピンホールの低減などの観点から、上記分散液の表面張力は40mN/m以下であることが好ましい。
【0052】
上記分散液の製造には、粉体を液体に分散する一般的な方法を用いることができる。例えば、金属前駆体微粒子と分散媒と有機ポリマーなどの構成原料を混合した後、超音波法、ミキサー法、3本ロール法、ボールミル法で分散を施せばよい。これらの分散手段のうち、複数を組み合わせて分散を行うことも可能である。これらの分散処理は室温で行ってもよく、分散液の粘度を下げるために、加熱して行ってもよい。金属前駆体微粒子以外の構成物が固体である場合には、これらを液状になる温度に加熱しながら微粒子を加え、前記操作を行うことが好ましい。分散液が流動可能な固体となる場合には、ずり応力を加えながら分散を行うことが好ましく、3本ロール法、ミキサー法などが好ましい。
【0053】
本発明に係る金属薄膜前駆体層は、絶縁基材上に上記分散液を塗布し、さらに加熱処理することで形成される。
【0054】
絶縁基材は、有機材料及び無機材料のいずれでもよいが、金属薄膜を形成する際に加熱焼成を行うことから、耐熱性のものが好ましい。例えば、セラミックスやガラスなどの無機材料、ポリイミドフィルムなどの耐熱性樹脂が好適に用いられる。
【0055】
絶縁基材は、電気配線回路基材に通常用いられている程度の絶縁性を有するものであればよく、好ましくは、体積抵抗率として1013Ωcm以上を有するものである。
【0056】
本発明で、絶縁基材として特に好適に使用される基材は熱硬化性ポリイミドフィルムである。ポリイミドフィルムはピロメリット酸又はピロメリット酸誘導体と、芳香族ジアミンとを縮合してなるもの、例えば、カプトン(登録商標、東レ・デュポン社製)、アピカル(登録商標、カネカ社製)など、ビフェニルテトラカルボン酸又はビフェニルテトラカルボン酸誘導体と、芳香族ジアミンとを縮合してなるもの、例えば、ユーピレックス(登録商標、宇部興産社製)などである。ポリイミドフィルムの厚さは限定されないが、通常、15μm〜100μm程度のものを用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【0057】
本発明では、このような基材をそのまま用いてもよいが、金属薄膜層との密着性の向上を図るための密着層を形成してもよい。密着層としては、イミド結合及び/又はアミド結合を有する熱可塑性絶縁性樹脂層などが例示される。また、絶縁基材は、脱脂処理、酸若しくはアルカリによる化学処理、熱処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、サンドブラスト処理などの表面処理を行ってもよい。
【0058】
分散液を塗布する方法として、例えば、ディップコーティング方法、スプレー塗布方法、スピンコーティング方法、バーコーティング方法、ロールコーティング方法、インクジェット方法、コンタクトプリンティング方法、スクリーン印刷方法などが挙げられる。分散液の粘度にあわせ、最適な塗布手法を適宜選択すればよい。塗布する分散液の厚さを調整することによって、得られる金属薄膜前駆体及び金属薄膜の厚さを調整することが可能である。
【0059】
インクジェットプリンターやディスペンサーなど、ドロップオンデマンドタイプの塗布装置を用いて、分散液を回路形状に塗布すると、金属回路パターンを形成することができる。例えば、インクジェット法においては、分散液をインクジェットプリンターヘッドに入れて、ピエゾ素子などに電気駆動によって微小振動を加えることによって分散液液滴が吐出される。ディスペンサー法においては、分散液を先端に吐出針のついたディスペンサーチューブに入れ、空気圧を加えることによって分散液が吐出される。
【0060】
回路パターンは、インクジェットヘッドやディスペンサー吐出針をロボットによって平面方向に動かすことにより任意のパターンを形成することができる。これらの塗布手法においては、段差を有する基材においても、ロボットを垂直方向に動かすことで、段差に追従した回路を形成することも可能である。
【0061】
インクジェット法においては、描画される配線パターンの線幅は、インクジェットプリンターヘッドから吐出される分散液液滴サイズとその着弾パターンを制御することにより、またディスペンサー法においては吐出針から吐出される分散液の幅を吐出針の内外径や、吐出圧、描画スピードなどによってコントロールすることにより、描画される配線パターンの線幅を調整することが可能である。
【0062】
回路形状に塗布する用途においては、塗布する分散液の線幅は、通常は1μm〜400μmの範囲であり、得られる金属配線の線幅は0.5μm〜300μmである。
【0063】
通常は、上記分散液を基材上に塗布するのみでは、波長730nmの光線に対するT1μmの値は85%より大きい。このような場合は、波長730nmの光線に対するT1μmが85%以下となるまで加熱処理を行う。ここで加熱処理とは、塗膜に含まれる分散媒を揮発させ、かつ塗膜に含まれる有機ポリマーの一部を分解揮散させ、タック性のない金属薄膜前駆体層を得る工程を指す。加熱処理は遠赤外線、赤外線、マイクロ波、電子線などの放射線加熱炉や、電気炉、オーブンなどの手段を用いることができる。雰囲気としては、大気や酸素などを含む酸化性雰囲気下、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性雰囲気下、水素、一酸化炭素などを含んだ還元性雰囲気下のいずれを用いてもよいが、好ましくは酸化性雰囲気下又は不活性雰囲気下であり、より好ましくは酸化性雰囲気下である。
【0064】
上記加熱処理時の温度は金属薄膜のピンホールの低減などの観点から80℃〜250℃が好ましく、より好ましくは100℃〜220℃、さらに好ましくは150℃〜200℃、特に好ましくは160℃〜200℃である。加熱処理時間は生産性などの観点から、通常は10秒〜1時間、好ましくは30秒〜30分、より好ましくは1分〜15分、特に好ましくは3分〜10分の範囲であり、最も好ましい範囲は4分〜7分である。該加熱処理時間は、加熱処理の方式や温度によって変動するものであり、得られる金属薄膜前駆体層の波長730nmの光線に対するT1μmが85%以下となるように適切な値を適宜設定する。
【0065】
上記加熱処理により得られた金属薄膜前駆体層において、波長730nmの光線に対するT1μmが85%以下であると、後述の加熱焼成により得られる金属薄膜のピンホールを低減することができる。この理由は明らかでないが、次のように考えられる。すなわち、加熱処理において分散媒は急速に揮発するが、有機ポリマーは塗膜内で金属前駆体微粒子とともに対流しながら緩やかに分解揮散する。この有機ポリマーの分解揮散速度や残存量を、加熱処理の方式や温度および時間を適宜設定して制御することによって、最終的に金属前駆体微粒子が密に充填した空隙の少ない構造となり、光線透過率の低い(T1μmが小さい)金属薄膜前駆体層となる。これを後述の通り加熱焼成することによって、ピンホールの少ない金属薄膜を得ることが可能となる。
【0066】
金属薄膜前駆体層の厚さを調整することによって、最終的に得られる金属配線の厚さを調整することが可能である。通常は、金属薄膜前駆体層の厚さは0.1μm〜100μmであり、好ましくは0.2μm〜10μmであり、さらに好ましくは0.3μm〜5μmである。得られる金属薄膜の厚さを1μm未満とするためには、金属薄膜前駆体層の厚さを3μm以下とすることが好ましい。
【0067】
こうして作製された金属薄膜前駆体層を加熱焼成することにより、ピンホールの少ない金属薄膜を得ることができる。ここで加熱焼成とは、金属薄膜前駆体層に残存する有機ポリマーを分解揮散させ、同時に金属前駆体微粒子の還元反応を進行させ、かつ微粒子どうしを融着させ、均一な金属薄膜へと変換する工程を指す。加熱焼成は、遠赤外線、赤外線、マイクロ波、電子線などの放射線加熱炉や、電気炉、オーブンなどの手段が用いられ、通常は100℃〜400℃、好ましく200℃〜380℃、より好ましく250℃〜350℃の範囲で行われる。
【0068】
加熱焼成の雰囲気は、不活性雰囲気下、還元性雰囲気下、酸化性雰囲気下などが例示されるが、得られる金属薄膜が酸化されやすい場合には、不活性雰囲気下や還元雰囲気下が好ましい。この際、不活性雰囲気や還元雰囲気中に酸素を2000ppm以下含んでいても構わない。金属薄膜前駆体層に含まれる有機ポリマーを分解する場合には、不活性雰囲気又は還元雰囲気中に20ppm〜2000ppmの酸素を含むことが好ましい。不活性雰囲気とは、例えば、アルゴン、窒素などの不活性ガスの雰囲気を指す。還元性雰囲気は水素や一酸化炭素などを含む雰囲気を指す。これらのうち、加熱焼成は還元性雰囲気下で行われるのが最も好ましい。
【0069】
以上の方法により、金属薄膜を得ることができる。ピンホールは膜の厚さ方向に貫通した孔であるので、金属薄膜の厚さが薄いほどピンホールの発生が起こりやすくなるが、本発明においては、厚さが1μm未満の極薄膜とした場合でもピンホールが極めて少ない金属薄膜を形成することが可能である。ピンホール数は、フレキシブル回路基板を作成した際の配線の信頼性という観点から、20cm×30cmの面積内における直径25μm以上のピンホール数として30個以下が好ましく、10個以下がより好ましい。
【0070】
さらに、本発明の構成により該金属薄膜の低体積抵抗率を達成することができ、3×10−6Ωcm未満とすることが可能である。また下限値は、例えば銅膜の場合は、純銅の体積抵抗値である1.7×10−6Ωcm以上となり、銀膜の場合は、純銀の体積抵抗値である1.6×10−6Ωcm以上となる。ここで、体積抵抗値は20℃〜25℃での値である。
【実施例】
【0071】
以下に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0072】
酸化第一銅微粒子の粒子径、各試料の光線透過率及び絶対反射率、銅薄膜の体積抵抗率及びピンホールの測定法は以下のとおりである。
【0073】
(1)酸化第一銅微粒子の粒子径
カーボン蒸着された銅メッシュ上に、溶解・希釈した微粒子分散体を1滴滴下し、減圧乾燥したサンプルを作製する。透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、JEM−4000FX)を用いて観察し、視野の中から、粒子径が比較的そろっている個所を3ヶ所選択し、被測定物の粒子径測定に最も適した倍率で撮影する。各々の写真から、一番多数存在していると思われる大きさの1次粒子を3点選択し、その直径をものさしで測り、倍率をかけて一次粒子径を算出する。これらの値の平均値を粒子径とする。
【0074】
(2)光線透過率、絶対反射率及びT1μm
光線透過率は、UV−Visスペクトル測定装置(日本分光社製、V−550)を用いて測定した。絶対反射率は、反射分光膜厚計(大塚電子社製、FE−3000)を用いて測定した。厚さ1μmあたりの内部透過率(T1μm)は下記式(1)を用いて算出した。
【0075】
【数4】

(式(1)中、Tは基材のみで測定した光線透過率であり、Rは基材のみで測定した絶対反射率であり、Tは基材上に金属薄膜前駆体層を設けて測定した光線透過率であり、Rは基材上に金属薄膜前駆体層を設けて測定した絶対反射率であり、dは金属薄膜前駆体層の厚さ(μm)である。)
【0076】
(3)銅薄膜の体積抵抗率
低抵抗率計ロレスター(登録商標)(三菱化学社製、GP MCP−T600)を用い、20℃〜25℃の温度下で測定した。
【0077】
(4)ピンホール
金属薄膜の裏側から、高周波点灯蛍光灯による照明を照射し、表側に7500ビットの高速高感度ラインカメラ(マミヤ・オーピー社製)を用いてスキャンした。スキャン面積内(20cm×30cm)において、直径25μm以上のピンホール数を画像から計数した。
【0078】
[実施例1]
(酸化第一銅微粒子の合成と分散体の調製)
精製水70mlに無水酢酸銅(和光純薬工業社製)8gを加え、25℃で攪拌しながらヒドラジン対酢酸銅のモル比が1.2になるように、64重量%のヒドラジン1水和物(和光純薬工業社製)2.6mLを加えて、酸化第一銅微粒子の沈殿物を得た。得られた沈殿物は、20重量%の水を含む酸化第一銅微粒子軟凝集体(機械力等によって容易に再分散できる状態)のウエットケーキ(水分を含む塊状物)であり、酸化第一銅微粒子の一次粒径は20nmであった。
【0079】
これをジエチレングリコール100mLに超音波分散機により再分散し、次に、超遠心分離により固液分離を行って、下層に沈殿した酸化第一銅のウエットケーキを取り出した。酸化第一銅の含量は80重量%であった。
【0080】
これを再びジエチレングリコールに加えて分散処理を施し、酸化第一銅の含量が55重量%のジエチレングリコール分散体を得た。
【0081】
上記で取り出した酸化第一銅を61重量%含むウエットケーキ6.54g(酸化第一銅4.0gを含む)と2−メチル−2,4−ペンタンジオール12.3g、ポリエチレングリコール(数平均分子量400、シグマアルドリッチジャパン社製)1.2gとを混合し、超音波分散を施して酸化第一銅を20重量%含む酸化第一銅分散体を得た。
【0082】
(銅薄膜前駆体層の作製)
基材として厚さ1μmの熱可塑性ポリイミド層を積層したポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製カプトン(登録商標)150EN−C、厚さ38μm)を用い、上記酸化第一銅分散体をバーコーターで熱可塑性ポリイミド層上に塗布した。大気下、恒温器にて180℃、7分間加熱処理し、厚さ0.57μmの銅薄膜前駆体層を得た。この銅薄膜前駆体層について、厚さ1μmあたりの波長730nmにおけるT1μmを測定したところ23%であった。
【0083】
(銅薄膜の作製)
銅薄膜前駆体層付き積層体を、水素(4%)/窒素(96%)混合ガス気流下、赤外線加熱炉を用いて350℃、10分間加熱焼成を行って、銅薄膜付き積層体を得た。得られた銅薄膜のピンホール数は4個であった。また銅薄膜の体積抵抗値は2.1×10−6Ωcmであった。
【0084】
[実施例2]
酸化第一銅分散体の塗布後の加熱処理時間を6分間にしたことを除き、実施例1と同様の操作を行い、厚さ0.57μmの銅薄膜前駆体層を得た。銅薄膜前駆体層の厚さ1μmあたりの波長730nmにおけるT1μmは33%であった。また、これを加熱焼成して得られた銅薄膜のピンホール数は3個であった。銅薄膜の体積抵抗値は2.2×10−6Ωcmであった。
【0085】
[実施例3]
酸化第一銅分散体の塗布後の加熱処理時間を5分間にしたことを除き、実施例1と同様の操作を行い、厚さ0.68μmの銅薄膜前駆体層を得た。銅薄膜前駆体層の厚さ1μmあたりの波長730nmにおけるT1μmは42%であった。また、これを加熱焼成して得られた銅薄膜のピンホール数は8個であった。銅薄膜の体積抵抗値は2.0×10−6Ωcmであった。
【0086】
[実施例4]
酸化第一銅分散体の塗布後の加熱処理時間を4分間にしたことを除き、実施例1と同様の操作を行い、厚さ0.74μmの銅薄膜前駆体層を得た。銅薄膜前駆体層の厚さ1μmあたりの波長730nmにおけるT1μmは57%であった。また、これを加熱焼成して得られた銅薄膜のピンホール数は10個であった。銅薄膜の体積抵抗値は2.3×10−6Ωcmであった。
【0087】
[比較例1]
酸化第一銅分散体の塗布後の加熱処理時間を3分間にしたことを除き、実施例1と同様の操作を行い、厚さ0.83μmの銅薄膜前駆体層を得た。銅薄膜前駆体層の厚さ1μmあたりの波長730nmにおけるT1μmは88%であった。また、これを加熱焼成して得られた銅薄膜のピンホール数は40個であった。
【0088】
[比較例2]
酸化第一銅分散体の塗布後の加熱処理時間を2分間にしたことを除き、実施例1と同様の操作を行い、厚さ0.66μmの銅薄膜前駆体層を得た。銅薄膜前駆体層の厚さ1μmあたりの波長730nmにおけるT1μmは87%であった。また、これを加熱焼成して得られた銅薄膜のピンホール数は85個であった。
【0089】
[比較例3]
酸化第一銅分散体の塗布後の加熱処理時間を1分間にしたことを除き、実施例1と同様の操作を行い、厚さ0.75μmの銅薄膜前駆体層を得た。銅薄膜前駆体層の厚さ1μmあたりの波長730nmにおけるT1μmは92%であった。また、これを加熱焼成して得られた銅薄膜のピンホール数は105個であった。
【0090】
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例3において得られた、金属薄膜前駆体層における厚さ1μmあたりの内部透過率(T1μm)のスペクトルを図1に示す。図1に示すように、実施例1〜実施例4の金属薄膜前駆体層は、波長450nm〜波長800nmの範囲において、いずれも内部透過率(T1μm)が85%より小さいことが分かる。一方、比較例1〜比較例3の金蔵薄膜前駆体層は、特に波長700nm以上の範囲において内部透過率(T1μm)が85%より大きいことが分かる。また実施例1〜実施例4、比較例1〜比較例3の結果を表1に示す。尚、表1においては、ピンホールの数が10個以下のものをピンホールなしとし、ピンホールの数が10個を超えたものに関してピンホールありと記載した。
【0091】
【表1】

【0092】
表1に示すように、730μmの光線透過率が85%以下になるまで加熱焼成した実施例1〜実施例4の金属薄膜前駆体層に関しては、ピンホールが殆ど生じないことが分かる。一方、比較例1〜比較例3については、730μmの光線透過率が85%を超えており、ピンホールが多数性生成することが分かる。また、加熱時間と共に730μmの光線透過率T1μmが低下することが分かる。
【0093】
[実施例5]
実施例1において用いたポリエチレングリコール(数平均分子量400)の使用量を0.8g(酸化第一銅に対する重量比0.2)に、2−メチル−2,4−ペンタンジオールの使用量を12.7gに変更し、酸化第一銅分散体の塗布後の加熱処理時間を5分間にしたことを除き、実施例1と同様の操作を行い、厚さ0.53μmの銅薄膜前駆体層を得た。銅薄膜前駆体層の厚さ1μmあたりの波長730nmにおけるT1μmは36%であった。また、これを加熱焼成して得られた銅薄膜のピンホール数は5個であった。銅薄膜の体積抵抗値は2.0×10−6Ωcmであった。
【0094】
[実施例6]
酸化第一銅分散体の塗布後の加熱処理時間を4分間にしたことを除き、実施例5と同様の操作を行い、厚さ0.43μmの銅薄膜前駆体層を得た。銅薄膜前駆体層の厚さ1μmあたりの波長730nmにおけるT1μmは46%であった。また、これを加熱焼成して得られた銅薄膜のピンホール数は7個であった。銅薄膜の体積抵抗値は2.2×10−6Ωcmであった。
[実施例7]
酸化第一銅分散体の塗布後の加熱処理時間を3分間にしたことを除き、実施例5と同様の操作を行い、厚さ0.37μmの銅薄膜前駆体層を得た。銅薄膜前駆体層の厚さ1μmあたりの波長730nmにおけるT1μmは64%であった。また、これを加熱焼成して得られた銅薄膜のピンホール数は9個であった。銅薄膜の体積抵抗値は2.0×10−6Ωcmであった。
【0095】
[比較例4]
酸化第一銅分散体の塗布後の加熱処理時間を2分間にしたことを除き、実施例5と同様の操作を行い、厚さ0.63μmの銅薄膜前駆体層を得た。銅薄膜前駆体層の厚さ1μmあたりの波長730nmにおけるT1μmは88%であった。また、これを加熱焼成して得られた銅薄膜のピンホール数は35個であった。
【0096】
実施例5〜実施例7及び比較例4において得られた、金属薄膜前駆体層における厚さ1μmあたりの内部透過率(T1μm)のスペクトルを図2に示す。図2に示すように、実施例5〜実施例7の金属薄膜前駆体層は、波長450nm〜800nmの範囲において、いずれも内部透過率(T1μm)が85%より小さいことが分かる。一方、比較例4の金属薄膜前駆体層は、波長700nm以上の範囲で内部透過率(T1μm)が85%より大きいことが分かる。また実施例5〜実施例7、比較例4の結果を表2に示す。尚、表2においても表1と同様に、ピンホールの数が10個以下のものをピンホールなしとし、ピンホールの数が10個を超えたものに関してピンホールありと記載した。

【0097】
【表2】

【0098】
表2に示すように、ポリエチレングリコールの量を減少させた場合においても、実施例5から実施例7の金属薄膜前駆体層は、730μmの光線透過率が85%以下であり、ピンホールが殆ど生成しないことが分かる。一方、加熱処理の不十分な比較例4の金属薄膜前駆体層は、730μmの光線透過率が85%を超えており、ピンホールが生成した。
【0099】
[実施例8]
実施例1において用いたポリエチレングリコール(数平均分子量400)をポリエチレングリコール(数平均分子量1000、シグマアルドリッチジャパン社製)0.6g(酸化第一銅に対する重量比0.15)に変更し、2−メチル−2,4−ペンタンジオールの使用量を12.9gに変更し、酸化第一銅分散体の塗布後の加熱処理時間を5分間にしたことを除き、実施例1と同様の操作を行い、厚さ0.47μmの銅薄膜前駆体層を得た。銅薄膜前駆体層の厚さ1μmあたりの波長730nmにおけるT1μmは35%であった。また、これを加熱焼成して得られた銅薄膜のピンホール数は4個であった。銅薄膜の体積抵抗値は2.1×10−6Ωcmであった。
【0100】
[実施例9]
酸化第一銅分散体の塗布後の加熱処理時間を3分間にしたことを除き、実施例8と同様の操作を行い、厚さ0.49μmの銅薄膜前駆体層を得た。銅薄膜前駆体層の厚さ1μmあたりの波長730nmにおけるT1μmは78%であった。また、これを加熱焼成して得られた銅薄膜のピンホール数は8個であった。銅薄膜の体積抵抗値は2.1×10−6Ωcmであった。
【0101】
[比較例5]
酸化第一銅分散体の塗布後の加熱処理時間を2分間にしたことを除き、実施例8と同様の操作を行い、厚さ0.73μmの銅薄膜前駆体層を得た。銅薄膜前駆体層の厚さ1μmあたりの波長730nmにおけるT1μmは87%であった。また、これを加熱焼成して得られた銅薄膜のピンホール数は50個であった。
【0102】
実施例8、実施例9及び比較例5において得られた、金属薄膜前駆体層における厚さ1μmあたりの内部透過率(T1μm)のスペクトルを図3に示す。図3に示すように、実施例8、実施例9の金属薄膜前駆体層は、波長450nm〜800nmの範囲において、いずれも内部透過率(T1μm)が85%より小さいことが分かる。一方、比較例5の金属薄膜前駆体層は、波長730nm付近の範囲で内部透過率(T1μm)が85%より大きいことが分かる。また実施例8、実施例9、比較例5の結果を表3に示す。尚、表3においては、ピンホールの数が10個以下のものをピンホールなしとし、ピンホールの数が10個を超えたものに関してピンホールありと記載した。
【0103】
【表3】

【0104】
表3に示すように、分子量が高いポリエチレングリコールを使用し、更にポリエチレングリコールの量を削減した場合においても、実施例8、実施例9の金属薄膜前駆体層は、730μmの光線透過率が85%以下であり、ピンホールが生成しないことが分かる。一方、加熱処理時間の短い比較例5の金属薄膜前駆体層は、730μmの光線透過率が85%を超えており、ピンホールが生成した。
【0105】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態における数値や成分についてこれに限定されず、適宜変更して実施することが可能である。その他、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の金属薄膜前駆体層は、加熱焼成により生成する金属薄膜に発生するピンホールの数がきわめて少ないため、フレキシブル回路基板材料などの材料として好適に使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設けられた、金属前駆体微粒子及び有機ポリマーを含む金属薄膜前駆体層であって、下記式(1)により求めた、波長730nmの光線に対する厚さ1μmあたりの内部透過率(T1μm)が85%以下であることを特徴とする、金属薄膜前駆体層。
【数1】

(式(1)中、Tは基材のみで測定した光線透過率であり、Rは基材のみで測定した絶対反射率であり、Tは基材上に金属薄膜前駆体層を設けて測定した光線透過率であり、Rは基材上に金属薄膜前駆体層を設けて測定した絶対反射率であり、dは金属薄膜前駆体層の厚さ(μm)である。)
【請求項2】
前記有機ポリマーが脂肪族ポリエーテルを含むことを特徴とする請求項1に記載の金属薄膜前駆体層。
【請求項3】
前記有機ポリマーがポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコールを含むことを特徴とする請求項1に記載の金属薄膜前駆体層。
【請求項4】
金属前駆体微粒子が酸化銅微粒子であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の金属薄膜前駆体層。
【請求項5】
金属前駆体微粒子が酸化第一銅微粒子であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の金属薄膜前駆体層。
【請求項6】
金属前駆体微粒子の1次粒径が200nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の金属薄膜前駆体層。
【請求項7】
厚さが3μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の金属薄膜前駆体層。
【請求項8】
(1)金属前駆体微粒子及び有機ポリマーを含む分散液を基材上に塗布する工程と、
(2)下記式(1)により求めた、波長730nmの光線に対する厚さ1μmあたりの内部透過率(T1μm)が85%以下となるまで加熱処理する工程と、を含むことを特徴する、金属薄膜前駆体層の製造方法。
【数2】

(式(1)中、Tは基材のみで測定した光線透過率であり、Rは基材のみで測定した絶対反射率であり、Tは基材上に金属薄膜前駆体層を設けて測定した光線透過率であり、Rは基材上に金属薄膜前駆体層を設けて測定した絶対反射率であり、dは金属薄膜前駆体層の厚さ(μm)である。)
【請求項9】
前記工程(2)における加熱処理が酸化性雰囲気下又は不活性雰囲気下にて行われることを特徴とする請求項8記載の金属薄膜前駆体層の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載の金属薄膜前駆体層の製造方法によって得られた金属薄膜前駆体層を加熱焼成し、金属薄膜にする工程を含むことを特徴する金属薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記金属薄膜前駆体層の加熱焼成が還元性雰囲気下又は不活性雰囲気下にて行われることを特徴とする請求項10に記載の金属薄膜の製造方法。
【請求項12】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の金属薄膜前駆体層を加熱焼成することで得られたことを特徴とする金属薄膜。
【請求項13】
体積抵抗率が1.6×10−6Ωcm以上3×10−6Ωcm未満であることを特徴とする、請求項12に記載の金属薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−61012(P2011−61012A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209212(P2009−209212)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】