説明

金属被覆物、金属配線基板及びそれらの製造方法

【課題】 煩雑な操作が不要で、基板及び金属部分をそのままリサイクルすることのできる、金属被覆物及び金属配線基板を提供すること。
【解決手段】 本発明の金属被覆物は、基板表面に剥離層が設けられ、該剥離層上にめっき促進層が設けられ、該めっき促進層上に金属層が設けられた金属被覆物であって、上記剥離層が、シリカ微粒子の多層膜からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属被覆物、金属配線基板及びそれらの製造方法に関する。更に詳細には、煩雑な操作が不要で、基板及び金属部分をそのままリサイクルすることのできる、金属被覆物及び金属配線板、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、環境問題への関心が高まってきている。このため、電子製品に用いられる金属配線基板やプリント基板等についてもリサイクルして再利用しようという要求が高まってきている。従来より、電子製品に主として使用されてきた金属配線基板は、通常は基板材料が樹脂等からなり、そのリサイクル方法としては、回路配線としての金属材料のみを回収して再利用することが行われてきた。このため、金属配線基板の金属材料を分離回収した残りの部分の絶縁材料としての樹脂については、焼却して熱エネルギーとして利用するか、粉砕して充填材として使用するか、又は場合によっては廃棄物として埋め立てられていた。
【0003】
上述したように、従来のリサイクル方法では、樹脂材料を焼却するため、COの排出が増大する、又は廃棄物が増大する等の原因となってしまうため、好ましいリサイクル方法とは言い難い。
上記問題を解決するために種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1には、廃プリント基板を少なくとも軟化可能な所定加熱温度に加熱し、ろ過することで樹脂のみを通過させて、樹脂と金属を分離回収するプリント基板のリサイクル方法が開示されており、該特許文献1においては、プリント基板の絶縁基材として特定の材料の物を用い、ろ過するフィルタの材料として特定の材料を用いることが開示されている。また、特許文献2には、樹脂性部材と、はんだが用いられているプリント基板を処理する方法が開示されており、該特許文献2においては、加熱温度に応じて樹脂性部材及びはんだを溶融軟化させて分離させている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−209425号公報
【非特許文献2】特開2003−205277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1及び2においては、操作が煩雑であるため、更に容易に電子製品の金属配線基板をリサイクルすることができる技術が望まれていた。また、上記特許文献1及び2の方法では、樹脂部材を溶融して用いるため、基板をそのまま再利用することができなかった。
従って、本発明の目的は、煩雑な操作が不要で、基板及び金属部分をそのままリサイクルすることのできる、金属被覆物及び金属配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意検討した結果、シリカ微粒子の多層膜からなる剥離層を基板上に設けることにより、上記目的を達成し得るという知見を得た。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、基板表面に剥離層が設けられ、該剥離層上にめっき促進層が設けられ、該めっき促進層上に金属層が設けられた金属被覆物であって、上記剥離層が、シリカ微粒子の多層膜からなることを特徴とする金属被覆物を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、基板表面に剥離層が設けられ、該剥離層上にめっき促進層が設けられ、該めっき促進層上に金属配線が形成された金属配線基板であって、上記剥離層が、シリカ微粒子の多層膜からなることを特徴とする金属配線基板を提供する。
また、本発明は、(a)基板を、カチオン性高分子と接触させる工程と、シリカ微粒子と接触させる工程とを繰り返すことによって、基板上に、シリカ微粒子の多層膜からなる剥離層を形成する工程;(b)正の電荷を有する官能基と、無電解めっき触媒前駆物質を吸着し得る官能基を有する共重合体高分子を、剥離層が形成された基板上に被覆して、表面修飾基板を作製する工程;(c)該高分子により修飾された表面修飾基板を、無電解めっき触媒の前駆物質を含む水溶液に浸漬して、無電解めっき触媒の前駆物質を、表面修飾基板に修飾された高分子に吸着させる工程;及び(d)上記表面修飾基板を、無電解めっき溶液に浸漬する工程を含む、金属被覆物の製造方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、(a)基板を、カチオン性高分子と接触させる工程と、シリカ微粒子と接触させる工程とを繰り返すことによって、基板上に、シリカ微粒子の多層膜からなる剥離層を形成する工程;(b)正の電荷を有する官能基と、無電解めっき触媒前駆物質を吸着し得る官能基を有する共重合体高分子を、剥離層が形成された基板上に被覆して、表面修飾基板を作製する工程;(e)該表面修飾基板に活性エネルギー線をパターン状に照射して、上記共重合体高分子を該表面修飾基板からパターン状に除去する工程;(f)上記表面修飾基板を、無電解めっき触媒の前駆物質を含む水溶液に浸漬して無電解めっき触媒の前駆物質を表面修飾基板上の高分子が残存する領域に吸着させる工程;及び(g)上記表面修飾基板を、無電解めっき溶液に浸漬する工程を含む、金属配線基板の製造方法を提供する。
また、本発明は、上記金属被覆物又は金属配線基板を、剥離水溶液に浸漬し、金属被膜又は金属微細構造物と、表面修飾基板とに分離し、分離された、金属被膜又は金属微細構造物、及び/又は、表面修飾基板を回収する方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、煩雑な操作が不要で、基板及び金属部分をそのままリサイクルすることのできる、金属被覆物及び金属配線基板が提供される。
また、本発明によれば、上記金属被覆物及び金属配線基板の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、先ず本発明の金属被覆物について説明する。
本発明の金属被覆物は、基板表面に剥離層が設けられ、該剥離層上にめっき促進層が設けられ、該めっき促進層上に金属層が設けられており、上記剥離層が、シリカ微粒子の多層膜からなる。
本発明の金属被覆物を構成する基板としては、従来より金属被覆物又は金属配線基板を製造するために用いられている基板を、特に制限なく用いることができる。用いられる基板としては、負のζ電位を形成するか、又は正電荷に解離する極性基を有する基板が好ましく用いられる。好ましい基板としてはオゾン処理及び/又は紫外線処理された樹脂からなる基板が挙げられる。基板としては、ポリイミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;メラミン樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;アクリル樹脂;アセタール樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;セルロース樹脂、アラミド樹脂等が挙げられる。
オゾン処理は、上記基板をオゾンガスに暴露することにより行われる。暴露時間はオゾンガスの濃度により異なるが、通常1分〜30分である。オゾン処理の際に紫外線を照射することにより、上記樹脂基板表面の酸化が促進され、暴露時間を短縮できる(例えば、表面処理技術ハンドブック −接着・塗装から電子材料まで−(ISBN4−900830−46−1)pp.526−531等参照)。
【0011】
紫外線処理に用いられる紫外線としては、酸素分子やオゾン分子と反応し、活性酸素分子や原子を形成する、波長が90nm〜310nmの紫外線が好ましい。紫外線の照射光源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、水銀キセノン灯、各種エキシマ灯、各種エキシマレーザー灯等が挙げられる。紫外線を照射する際の強度は、好ましくは0.1〜100mW/cmであり、照射時間は、好ましくは10秒から20分である。
波長が200nm未満である紫外線を照射する場合には、10〜2,000Pa程度の圧力下で行うことが好ましい。
【0012】
本発明の金属被覆物は、上記基板表面に剥離層が設けられている。
剥離層は、本発明の金属被覆物の基板と金属層とを剥離するために設けられている層であり、シリカ微粒子の多層膜からなる。本発明の金属被覆物をリサイクルする際に、シリカ微粒子を溶解させ得る水溶液に浸漬することによりシリカ微粒子を溶解させて除去することによって、基板と金属層との比重差を利用して基板と金属層とに分離することができる。剥離水溶液については後述する。
【0013】
本発明の金属被覆物の剥離層は、上述したように、金属被覆物をリサイクルする際に、溶解されて、基板と金属層とを分離するものである。上記剥離層はシリカ微粒子の多層膜からなる。キャピラリー力により、剥離水溶液がシリカ微粒子とこれに隣接するシリカ微粒子との間に形成される隙間に入り込むため、シリカ粒子の多層膜はシリカ微粒子の溶解を早める効果を奏する。このため、シリカ微粒子の粒径は10nm〜1μmであることが好ましく、50〜500nmであることが更に好ましい。シリカ微粒子の粒径が10nmより小さいと、剥離水溶液がシリカ微粒子とこれに隣接するシリカ微粒子との間に形成される隙間に入り込む速度が減少し、金属被覆物をリサイクルする際の基板と金属層との分離速度が減少する場合があり、一方、シリカ微粒子の粒径が1μmよりも大きいと、得られる金属被覆物の性能が劣る場合がある。
【0014】
上述したように、剥離層はシリカ微粒子の多層膜からなるが、シリカ微粒子からなる層と、正のζ電位を形成するか、又は正電荷に解離する極性基を有するカチオン性高分子からなる層とを含むことが好ましい。なお、シリカ微粒子からなる層とカチオン性高分子からなる層とは、複数設けられていてもよく、例えば、基板表面に設けられたカチオン性高分子からなる層、該カチオン性高分子からなる層の上に設けられたシリカ微粒子からなる層、該シリカ微粒子からなる層の上に設けられたカチオン性高分子からなる層、該カチオン性高分子からなる層の上に設けられたシリカ微粒子からなる層のように、2層のシリカ微粒子からなる層と、2層のカチオン性高分子からなる層により剥離層を形成してもよいし、3層のシリカ微粒子からなる層と、3層のカチオン性高分子からなる層により剥離層を形成してもよく、層の数に特に制限はない。
剥離層の基板から最も離れた層はシリカ微粒子からなる層である。このように一番上にシリカ微粒子からなる層が設けられることによって、剥離層は負のζ電位を形成するか、又は負電荷に解離する極性基を有することとなる。
【0015】
上記正のζ電位を形成するか、又は正電荷に解離する極性基としては、例えば、4級アンモニウム基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、ピコリニウム基、ベンゾイミダゾリウム基等が挙げられる。このような極性基を有するカチオン性高分子としては、例えば、ポリ(N,N−ジメチルジアリルアンモニウム クロリド)(PDDA)、ポリ(N−アルキルビニルピリジン ハライド)、ポリ(N−アルキルビニルイミダゾリウム ハライド)等が挙げられる。
【0016】
次に、上記剥離層上に設けられためっき促進層について説明する。めっき促進層は、正の電荷を有する官能基と、無電解めっき触媒前駆物質を吸着し得る官能基を有する共重合体高分子を含むことが好ましい。本発明の金属被覆物は、後述するように、好ましくは無電解めっきによって金属層が形成される。従って、めっき促進層には、正の電荷を有する官能基と、無電解めっき触媒前駆物質を吸着し得る官能基を有する共重合体高分子が含まれることが好ましい。
【0017】
正の電荷を有する官能基と、無電解めっき触媒前駆物質を吸着し得る官能基を有する共重合体高分子としては、例えば、ポリリジン、キチン等が挙げられる。また、下記一般式(1)で表わされる繰り返し単位と、下記一般式(2)で表わされる繰り返し単位とを含む共重合体高分子が挙げられる。
【0018】
【化1】

上記一般式(1)において、Rは水素、アルキル基、アルコキシアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、Xはハロゲンである。アルキル基としては、炭素数が1〜30個のアルキル基が挙げられ、炭素数が1〜18個のアルキル基が好ましい。ハロゲンとしては、塩素、臭素、フッ素及びヨウ素が挙げられる。
【0019】
【化2】

【0020】
上記共重合体高分子において、一般式(1)で表わされる繰り返し単位と、一般式(2)で表わされる繰り返し単位とのモル比に特に制限はないが、好ましくは1:99〜99:1であり、更に好ましくは15:85〜85:15である。また、上記共重合体高分子は、その分子量は好ましくは500〜1,000,000であり、更に好ましくは1,000〜500,000である。
【0021】
上記共重合体高分子を製造する方法に特に制限はなく、例えば、一般式(2)で表わされる繰り返し単位を有する重合体高分子を、ハロゲン化アルキル(R−X)と反応させることにより、製造することができる。
上記反応において、使用する溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等が挙げられる。また反応温度は10℃〜150℃の温度で、0.5〜48時間反応を行うことが好ましい。
また、上記反応で得られた共重合体高分子は、再沈殿による精製方法や透析膜による精製方法により精製することができる。
【0022】
上記共重合体高分子を用いることにより、金属被覆物を製造する際の有機物含有廃液の量を低減でき、溶剤として水を用いることを可能とするアディティブ法によって金属被覆物を製造することができる。
【0023】
本発明の金属被覆物における金属層は、後述するように、無電解めっきによって形成された層である。金属層は、例えば、周期律表第4、5、6周期に属する金属を用いることができるが、金属層を形成するためのめっき速度やめっき被膜層の性状などの観点からみて、ニッケル、コバルト、銅、銀、白金、金等が好ましい。本発明の金属被覆物の製造方法については後述する。
【0024】
次に、本発明の金属配線基板について説明する。
本発明の金属配線基板は、基板表面に剥離層が設けられ、該剥離層上にめっき促進層が設けられ、該めっき促進層上に金属配線が形成された金属配線基板である。本発明の金属配線基板は、金属配線がパターン状に形成されており、この点を除くと、上述した本発明の金属被覆物と同様である。金属配線をパターン形状に形成する方法については後述する。
本発明の金属被覆物及び金属配線基板を、剥離水溶液に浸漬して、シリカ微粒子を溶解させて除去することにより、比重差を利用して金属被覆物と基板とに分離することができる。用いられる剥離水溶液としては、シリカ微粒子を溶解することが可能な水溶液であれば特に限定はなく、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、希薄なフッ化水素酸水溶液、フッ化アンモニウム水溶液等が挙げられる。水酸化ナトリウム水溶液を使用する場合、その濃度は0.01mol/dm〜5mol/dmの水酸化ナトリウムであることが好ましい。濃度が希薄であると分離に時間を要する場合があり、濃度が濃厚でも剥離時間に対し効果がない。
【0025】
次に、本発明の金属被覆物の製造方法について説明する。
本発明の金属被覆物の製造方法は、(a)基板を、カチオン性高分子と接触させる工程と、シリカ微粒子と接触させる工程とを繰り返すことによって、基板上に、シリカ微粒子の多層膜からなる剥離層を形成する工程;(b)正の電荷を有する官能基と、無電解めっき触媒前駆物質を吸着し得る官能基を有する共重合体高分子を、剥離層が形成された基板上に被覆して、表面修飾基板を作製する工程;(c)該高分子により修飾された表面修飾基板を、無電解めっき触媒の前駆物質を含む水溶液に浸漬して、無電解めっき触媒の前駆物質を、表面修飾基板に修飾された高分子に吸着させる工程;及び(d)上記表面修飾基板を、無電解めっき溶液に浸漬する工程を含む。
【0026】
まず、工程(a)について説明する。工程(a)は、基板を、カチオン性高分子と接触させる工程と、シリカ微粒子と接触させる工程とを繰り返すことによって、基板上に、シリカ微粒子の多層膜からなる剥離層を形成する工程である。
基板としては、上述したものが用いられ、オゾン処理及び/又は紫外線処理された樹脂基板が挙げられ、該樹脂としては、ポリイミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;メラミン樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;アクリル樹脂;アセタール樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;セルロース樹脂、アラミド樹脂等が好ましく用いられる。このような基板は、負のζ電位を形成するか、又は負電荷に解離する極性基を有しており、正のζ電位を有するか、又は正電荷に解離する極性基を有するカチオン性高分子とイオン結合により結合し得る。
従って、工程(a)においては、先ず基板をカチオン性高分子と接触させ、基板表面にカチオン性高分子を結合させる工程を有する。
【0027】
この工程は、水可溶性溶媒中で実施することができる。水可溶性溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒及びアセトン等が挙げられる。カチオン性高分子と基板との接触は、カチオン性高分子を上記溶媒に溶解したカチオン性高分子溶液中に基板を振盪しながら浸漬することによって行なうことが好ましい。カチオン性高分子溶液中のカチオン性高分子の濃度は、10−5〜10−1質量%程度が好ましく、浸漬時間は1分から1時間程度が好ましい。また、カチオン性高分子溶液中への基板の浸漬は、25℃程度の温度で行うことが好ましい。
【0028】
なお、カチオン性高分子としては、上記正のζ電位を形成するか、又は正電荷に解離する極性基を有するカチオン性高分子が好ましく用いられる。正のζ電位を形成するか、又は正電荷に解離する極性基としては、例えば、4級アンモニウム基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、ピコリニウム基、ベンゾイミダゾリウム基等が挙げられる。このような極性基を有するカチオン性高分子としては、例えば、ポリ(N,N−ジメチルジアリルアンモニウム クロリド)(PDDA)、ポリ(N−アルキルビニルピリジン ハライド)、ポリ(N−アルキルビニルイミダゾリウム ハライド)等が挙げられる。
【0029】
次いで、基板を水可溶性溶媒、通常は水で洗浄した後、該基板をシリカ微粒子と接触させる工程を有する。なお、水で洗浄した後、窒素ガス等を用いて基板を乾燥させることが好ましい。シリカ微粒子と基板との接触は、水可溶性溶媒に懸濁したシリカ微粒子と基板とを接触させることによって実施することができる。シリカ微粒子としては上述したものが用いられ、シリカ微粒子を水可溶性溶媒に0.01〜5質量%程度の濃度となるように懸濁して用いる。浸漬時間は1分〜1時間程度が好ましく、浸漬温度は25℃程度が好ましい。
【0030】
工程(a)においては、上述した、基板とカチオン性高分子とを接触する工程と、シリカ微粒子と接触させる工程とを繰り返すことによって、シリカ微粒子の多層膜からなる剥離層が形成される。繰り返しの回数に特に制限はないが、シリカ微粒子の多層膜において、シリカ微粒子の層を3層形成しようとする場合には上記操作を3回繰り返すことによって工程(a)を実施し、シリカ微粒子の多層膜からなる剥離層を形成する。工程(a)によって形成された、シリカ微粒子の多層膜からなる剥離層は、最表面部分にはシリカ微粒子が存在しているため、負のζ電位を形成するか、又は負電荷に解離する極性基であるシラノール基を有することとなる。
【0031】
次に、工程(b)について説明する。工程(b)は、正の電荷を有する官能基と、無電解めっき触媒前駆物質を吸着し得る官能基を有する共重合体高分子を、剥離層が形成された基板上に被覆して、表面修飾基板を作製する工程である。上記共重合体高分子としては、例えば、ポリリジン、キチン等が挙げられる。また、下記一般式(1)で表わされる繰り返し単位と、下記一般式(2)で表わされる繰り返し単位とを含む共重合体高分子が挙げられる。
【0032】
【化3】

上記一般式(1)において、Rは水素、アルキル基、アルコキシアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、Xはハロゲンである。アルキル基としては、炭素数が1〜30個のアルキル基が挙げられ、炭素数が1〜18個のアルキル基が好ましい。ハロゲンとしては、塩素、臭素、フッ素及びヨウ素が挙げられる。
【0033】
【化4】

【0034】
上記共重合体高分子において、一般式(1)で表わされる繰り返し単位と、一般式(2)で表わされる繰り返し単位とのモル比に特に制限はないが、好ましくは1:99〜99:1であり、更に好ましくは15:85〜85:15である。また、上記共重合体高分子は、その分子量は好ましくは500〜1,000,000であり、更に好ましくは1,000〜500,000である。
上記共重合体高分子の製造方法については上述した通りである。
【0035】
正の電荷を有する官能基と、無電解めっき触媒前駆物質を吸着し得る官能基を有する共重合体高分子を、まず水、又は水を主成分とする水と相溶性のある有機溶媒との混合液、又はこれらに電解質を溶解させた溶液から選択される溶液中に溶解し、無電解めっき促進用組成物の溶液を調製する。この無電解めっき促進用組成物溶液を調製するために用いられる水可溶性溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、及びアセトン等が挙げられる。上記の中でも好ましいものは、エチルアルコール、イソプロピルアルコール及びアセトンである。例えば、上記共重合体高分子として、上記一般式(1)で表わされる繰り返し単位と、上記一般式(2)で表わされる繰り返し単位とを含み、上記一般式(1)で表わされる繰り返し単位のモル比が30%の共重合体高分子を用いた場合、水にはほとんど溶解しないが、例えばエタノールと水との混合溶液には溶解する。共重合体高分子をエタノールと水との混合溶液に溶解する場合、エタノールの濃度によって吸着膜の厚さを調節することができる。すなわち、エタノールの溶液に溶解した場合、共重合体高分子は十分溶媒和された直線状の構造をとるため、吸着膜は薄くなり、エタノールの濃度を低くするに従って、高分子鎖が折りたたまれた構造をとるため、吸着膜が厚くなる。従って、上記工程(b)において、水と、水に可溶性溶媒の混合溶液を用いる場合には、それらの混合比を変えることによって吸着膜の厚さを調節することが可能となる。吸着膜の厚さは0.5〜20nmであることが好ましい。後述するように活性エネルギー線をパターン状に照射して、共重合体高分子を基板表面から除去した後に、原子間力顕微鏡測定を行うことにより、共重合体高分子の吸着膜の厚さを評価することができる。
【0036】
無電解めっき促進用組成物溶液中の共重合体高分子の濃度は、好ましくは0.001〜5質量%であり、更に好ましくは0.01〜1質量%である。共重合体高分子の濃度が0.001質量%未満であると、共重合体高分子が吸着しても、表面修飾基板が共重合体高分子により緻密に被覆されない場合があり、5質量%を超えると、共重合体高分子により被覆された表面修飾基板を洗浄する際に、高濃度の共重合体高分子を含有する溶液が排出され、物品利用率が低下する場合がある。無電解めっき促進用組成物には、表面修飾基板のζ電位及び基板表面に存在する極性官能基の負電荷への解離を促進するために、電解質を溶解してもよい。用いられる電解質としては、種々の無機電解質や有機電解質を挙げることができる。例えば、塩化ナトリウム等のハロゲン化アルカリ金属塩、塩化カルシウム等のハロゲン化アルカリ土類金属塩、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等が挙げられる。これらの電解質ならびに異なる誘電率の水と相溶性のある有機溶媒を該高分子溶液に共存させることによって、溶存状態での共重合体高分子のストークス半径が制御されうるので、共重合体高分子を吸着させて基板を被覆する際に、前記電解質ならびに誘電率の異なる有機溶媒は膜厚調整剤として使用することができる。
【0037】
上述のようにして調製された溶液に、工程(a)で得られた基板を配置して、共重合体高分子を該基板上に吸着させ被覆する。この操作によって、基板表面に形成された負のζ電位または負電荷と、共重合体高分子に含まれる官能基が有する正電荷との間にクーロン力が作用し、共重合体高分子が基板上に効率よくイオン結合により吸着される。吸着した共重合体高分子には、基板表面の負電荷とのクーロン力による吸着に関与しない正電荷の官能基が存在するので、結果として、共重合体高分子を被覆した表面修飾基板は、正の電荷が最表面に露出し、共重合体高分子により被覆された表面修飾基板は正のζ電位を示す。このクーロン力による吸着に関与する官能基は、1分子の共重合体高分子あたりに複数個存在するため、クーロン力の多点相互作用により共重合体高分子は前記表面修飾基板に非可逆吸着をする。ここで、非可逆吸着とは、共重合体高分子の媒質を含まない溶液を作用しても脱着しない吸着現象を示す。これに対し、例えば、一つの官能基からなる低分子化合物は可逆吸着をする。ここで、可逆吸着とは、低分子化合物の媒質を含まない溶液を作用することによって、基板表面から定量的に脱着する吸着現象を意味する。
【0038】
吸着に要する浸漬時間は、共重合体高分子の種類、濃度、用いる基板の種類によって異なるが、好ましくは5秒〜5時間であり、更に好ましくは1分〜1時間である。浸漬時間が5秒より短いと、共重合体高分子の吸着が不十分となる場合があり、5時間以上浸漬しても吸着層形成に変化がない場合がある。溶液の温度範囲は、好ましくは0℃から水溶性有機溶媒の沸点、更に好ましくは、室温から60℃の範囲である。無電解めっき促進用組成物溶液に浸漬した後の基板は、脱イオン水、あるいは該高分子の溶質を含まない水溶性有機溶媒または同じ体積比で混合した水溶性有機溶媒と脱イオン水との混合溶液を用いて洗浄し、次いで基板を風乾させる。共重合体高分子が吸着して基板上に形成する膜の膜厚は、上述したように、例えばエタノールの濃度に依存するが、通常は、0.1〜40nm程度であり、更に好ましくは0.5〜20nm程度であり、換言すれば超薄膜なものとなる。
【0039】
表面修飾基板の共重合体高分子による被覆法には、基板を該溶液に浸漬する方法の他に、基板上に無電解めっき促進用組成物の溶液をスピン塗布、流延塗布、スクリーン印刷する方法、インクジェットプリンターによる描画方法等であってもよい。これらの方法によって調製される被覆膜は、表面修飾基板との界面でのクーロン力により自発的に吸着膜となる。工業的に好ましくは、無電解めっき促進用組成物の溶液を基板上にスピン塗布した後に、共重合体高分子の媒質を含まない溶液で洗浄する方法が用いられる。更に好ましくは、該高分子の損失なく基板上に被覆でき、かつ、実質的に使用する溶媒を最小限に抑えられる浸漬法が用いられる。
【0040】
次に、工程(c)について説明する。
工程(c)は、上記共重合体高分子により修飾された表面修飾基板を、無電解めっき触媒の前駆物質を含む水溶液に浸漬して無電解めっき触媒の前駆物質を表面修飾基板に修飾された共重合体高分子に吸着させる工程である。
工程(c)において用いられる無電解触媒の前駆物質としては、例えば酸化数が2価のPd2+イオンを含むパラジウム化合物である、PdCl、Pd(OCOCH、(NHPdCl、Pd(NO、NaPdCl、Pd(OCOCF、KPdCl、Pd(CN)Cl等が挙げられる。
【0041】
上記無電解めっき触媒の前駆物質を溶解する溶媒としては、上記工程(a)において共重合体高分子を溶解するのに用いたものを用いることができる。また、無電解めっき触媒の前駆物質を含む水溶液中の無電解めっき触媒物質の濃度は、10−5〜10−1質量%であることが好ましく、10−4〜10−2質量%であることが更に好ましい。また、上記無電解めっき触媒の前駆物質の水溶液に表面修飾基板を浸漬する時間は、共重合体高分子、無電解めっき触媒の前駆物質の種類、濃度、表面修飾基板の種類によって異なるが、好ましくは1分〜1時間であり、更に好ましくは3〜30分であり、最も好ましくは5〜10分である。浸漬時間が1分より短いと、無電解めっき触媒物質の吸着が不十分となる場合があり、1時間以上浸漬しても吸着層形成に変化がない場合がある。溶液の温度範囲は、好ましくは0℃から水溶性有機溶媒の沸点、更に好ましくは、室温から60℃の範囲である。無電解めっき触媒の前駆物質の水溶液に浸漬した後の基板は、脱イオン水、あるいは該高分子の溶質を含まない水溶性有機溶媒または同じ体積比で混合した水溶性有機溶媒と脱イオン水との混合溶液を用いて洗浄し、次いで基板を風乾させる。
【0042】
次いで、工程(d)について説明する。工程(d)は、上記表面修飾基板を、無電解めっき溶液に浸漬する工程である。無電解めっき溶液としては、各種金属塩を含んでなる、従来公知の無電解めっき溶液を用いることができる。無電解めっき溶液には、還元剤、錯化剤、pH調製剤、緩衝剤、安定剤等を含有させてもよい。
上記金属塩としては、周期律表第4、5、6周期に属する金属を用いることができるが、めっき速度やめっき被膜層の性状などの観点からみて、ニッケル、コバルト、銅、銀、白金、金等の塩が好ましい。
【0043】
還元剤としては、例えば、次亜リン酸ナトリウム、抱水ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ホルムアルデヒド、ロッシェル塩、ブドウ糖が挙げられる。好ましくは、次亜リン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0044】
錯化剤としては、例えば、アンモニア、クエン酸塩、酒石酸塩、乳酸塩等が用いられる。また、pH調製剤としては、酢酸塩、プロピオン酸塩、アンモニウム塩が用いられる。また、安定剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性の各種の界面活性剤等が用いられる。
【0045】
無電解めっき溶液中の金属塩の濃度は、好ましくは10−3〜10mol/dmであり、更に好ましくは10−2〜10−1mol/dmである。また、無電解めっき溶液に表面修飾基板を浸漬する時間は、無電解めっき触媒の前駆物質、無電解めっき溶液中の金属塩の種類、濃度等によってことなるが、好ましくは1分〜12時間であり、更に好ましくは10分〜8時間であり、最も好ましくは30分〜6時間である。浸漬時間が1分より短いと、めっきが不十分となる場合があり、12時間以上浸漬してもめっきの形成に変化がない場合がある。溶液の温度範囲は、好ましくは10〜90℃であり、更に好ましくは25〜80℃である。
【0046】
本発明は、上述の金属被覆物の製造方法によって得られた金属被覆物をも含有するものである。上述の金属被覆物の製造方法によって得られた金属被覆物は、例えば各種表示素子、バッテリー電極、太陽電池、集積回路、電磁波シールド材料、各種微小なマイクロ発熱体、マイクロ流路電極、細胞への物質を導入するための導電性チューブ材料、微小磁気ヘッド等として用いることができる。また、得られた金属被覆物は、例えば水酸化ナトリウム等の剥離水溶液によって、基板と金属部分とに容易に分離され、これらの基板及び金属部分は、そのままで再利用することができる。
【0047】
次に、本発明の金属配線基板の製造方法について説明する。
本発明の金属配線基板の製造方法は、(a)基板を、カチオン性高分子と接触させる工程と、シリカ微粒子と接触させる工程とを繰り返すことによって、基板上に、シリカ微粒子の多層膜からなる剥離層を形成する工程;(b)正の電荷を有する官能基と、無電解めっき触媒前駆物質を吸着し得る官能基を有する共重合体高分子を、剥離層が形成された基板上に被覆して、表面修飾基板を作製する工程;(e)該表面修飾基板に活性エネルギー線をパターン状に照射して、上記高分子を該表面修飾基板からパターン状に除去する工程;(f)上記表面修飾基板を、無電解めっき触媒の前駆物質を含む水溶液に浸漬して無電解めっき触媒の前駆物質を表面修飾基板上の高分子が残存する領域に吸着させる工程;及び(g)上記表面修飾基板を、無電解めっき溶液に浸漬する工程を含む。
【0048】
上記工程(a)及び(b)については、上述した金属被覆物の製造方法と同様である。
工程(e)について説明する。工程(e)は、工程(b)で共重合体高分子により被覆された基板表面に、活性エネルギー線をパターン状に照射して、共重合体高分子を基板表面から除去する工程である。この工程により、共重合体高分子の結合が切断され、活性エネルギー線に暴露された共重合体高分子は基板から脱イオン水により脱着する。
工程(e)において用いられる活性エネルギー線としては、酸素分子と反応し、オゾン分子、活性酸素分子や原子を形成する、波長が310nm以下の紫外線が挙げられる。照射光源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、水銀キセノン灯、キセノンエキシマー灯、ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー、Fエキシマレーザー、各種レーザー等が挙げられる。パターン形成を行うためには、金属製又は石英製のフォトマスク越しにこれらの活性エネルギー線を照射すればよい。各種レーザーを用いる場合には、走査露光によって回路パターンを形成することができる。この照射により、露光部分のみにおいて、オゾン分子や活性酸素原子によって共重合体高分子の酸化的な分解反応が進行し、1分子の共重合体高分子あたりの正電荷を有する官能基の数が減少した潜像が、表面修飾基板の照射部領域に形成される。上述の活性エネルギー線照射後、基板を、水、又は水を主成分とする水と相溶性のある有機溶媒との混合溶液、又はこれらに電解質を溶解させた溶液により洗浄することが好ましい。洗浄することによって、活性エネルギー線に暴露された共重合体高分子が基板から脱着する。
【0049】
波長200nm未満の遠紫外線を照射するには、10〜2000Pa程度の圧力下で照射することが好ましい。
【0050】
本発明の金属配線基板の製造方法においては、上記工程(d)に続いて工程(f)及び工程(g)を実施する。この工程(f)及び(g)については、それぞれ、上述した金属被覆物の製造方法における工程(c)及び(d)と同様である。
本発明の金属配線基板の製造方法においては、上記工程(f)において、無電解めっき触媒の前駆物質は、工程(e)において活性エネルギー線が照射されて基板上の共重合体高分子が除去された領域以外、すなわち、基板上の共重合体高分子が残存する未露光部領域にのみ吸着する。
【0051】
本発明は、上述の金属配線基板の製造方法によって得られた金属配線基板をも含有するものである。上述の金属配線基板の製造方法によって得られた金属配線基板は、例えば各種表示素子、バッテリー電極、太陽電池、集積回路、電磁波シールド材料、各種微小なマイクロ発熱体、マイクロ流路電極、細胞への物質を導入するための導電性チューブ材料、微小磁気ヘッド等として用いることができる。また、得られた金属配線基板は、例えば水酸化ナトリウム等の剥離水溶液によって、基板と金属部分とに容易に分離され、これらの基板及び金属部分は、そのままで再利用することができる。
【0052】
次に、本発明の金属被膜又は金属微細構造物、及び/又は、表面修飾基板を回収する方法について説明する。
本発明の金属被膜又は金属微細構造物、及び/又は、表面修飾基板を回収する方法は、上述した本発明の金属被覆物、又は金属配線基板を、剥離水溶液に浸漬し、金属被膜又は金属微細構造物と表面修飾基板とに分離し、分離された金属被膜又は金属微細構造物、及び/又は、表面修飾基板を回収するものである。用いられる剥離水溶液としては、シリカ微粒子を溶解することが可能な水溶液であれば特に限定はなく、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、希薄なフッ化水素酸水溶液、フッ化アンモニウム水溶液等が挙げられる。水酸化ナトリウム水溶液を使用する場合、その濃度は0.01mol/dm〜5mol/dmの水酸化ナトリウムであることが好ましい。濃度が希薄であると分離に時間を要する場合があり、濃度が濃厚でも剥離時間に対し効果がない。
【0053】
本発明の金属被膜又は金属微細構造物、及び/又は、表面修飾基板を回収する方法で用いられる金属被覆物又は金属配線基板は、シリカ微粒子の多層膜からなる剥離層を有している。従って、本発明の金属被覆物又は金属配線基板を、シリカ微粒子を溶解することができる水溶液に浸漬することによりシリカ微粒子が溶解して除去される。そして、比重差を利用し、金属被膜又は金属微細構造物と基板とに分離することができる。本発明の金属被覆物及び金属配線基板を構成する剥離層はシリカ微粒子を含んでおり、剥離水溶液が、シリカ微粒子とこれに隣接するシリカ微粒子との間に入り込みながらシリカ微粒子を溶解し、金属被膜又は金属微細構造物と表面修飾基板とを容易に分離することが可
能となる。
上記の金属被膜又は金属微細構造物、及び/又は、表面修飾基板を回収する方法によって得られた表面修飾基板は、例えば、水等の溶媒によって洗浄するだけで、金属被覆物や金属配線基板を製造するための基板として用いることができる。
上記表面修飾基板を回収する方法によれば、表面修飾基板、及び、金属被膜又は金属微細構造物をそのままでリサイクルすることができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、かかる実施例に限定されないことはいうまでもない。
なお、以下に示す基板のζ電位の値は、25±1℃の温度、pH7の条件で10mmol/dmの塩化ナトリウム水溶液中で測定した値であり、標準モニター粒子(大塚電子製)を用いてレーザーゼータ電位計(大塚電子製ELS-8000)により測定した値である。また、以下に示す基板の接触角の値は、脱イオン水に対する接触角の値である。
【0055】
実施例1
ポリ(4−ビニルピリジン)2.0g、1−ブロモデカン 3.5g、2−プロパノール 125mlを混合し、105℃の温度で24時間加熱還流を行った。反応溶液を500mlの酢酸エチルに滴下して再沈殿を行った。次いで、吸引ろ過を行い、得られた粉末を再度5mlのエタノールに溶解し、500mlの酢酸エチルで再沈殿を行い、次いで吸引ろ過を行った。再沈殿及び吸引ろ過を再度繰り返して行い、100℃の温度で14時間乾燥を行い、白色粉末の生成物5.5gを得た。
【0056】
得られた生成物を、DMSO−d/CDCl(v/v=1:1)中でH−NMRにより同定した。H−NMRのチャートを図1に示す。図1に示すように、H−NMRは、8.3ppm及び6.8ppmにピリジル基のα位及びβ位に由来するプロトンのピークが観察され、8.9ppm及び7.6ppmにピリジニウム基のα位及びβ位に由来するプロトンのピークが観察された。ピリジル基のα位のプロトンと4級化されたピリジニウム基のβ位のプロトンの積分比を比較することにより4級化率を算出したところ、ピリジニウム基の導入率が30%のポリ(1−ドデシル−4−ビニルピリジニウム ブロミド−co−4−ビニルピリジン)(以下、共重合体1という)であることがわかった。
【0057】
実施例2
ポリエチレンテレフタレート(PET)基板に、キセノンエキシマフォトランプ(UER20−172A、ウシオ電機社製)からの172nmの紫外線を圧力1000Paの下で15分間照射した。紫外線照射後のPET基板の接触角は30±5°であり、ζ電位は−64±2mVであった。次いで、ポリ(N,N−ジメチルジアリルアンモニウム クロリド)(PDDA、Mw=400,000〜500,000)を10−2mol/dmの濃度で含有する、PDDA水溶液を準備し、このPDDA水溶液に上述した紫外線照射したPET基板を浸漬し、30℃の温度で10分間、100回/分で振盪させた。
【0058】
振盪終了後、PET基板を取り出し、脱イオン水で洗浄し、窒素ガスを用いて乾燥した後、シリカ微粒子(粒子径:200nm、シーホースターKE−P30、日本触媒社製)を1質量%の濃度で含有する水にPET基板を浸漬し、30℃の温度で10分間、100回/分で振盪させた。振盪終了後、PET基板を取り出し、脱イオン水で洗浄し、窒素ガスを用いて乾燥した。次いで、上述と同じ手順でPDDA水溶液にPET基板を浸漬し、その後、上述と同様にPET基板を洗浄した後、シリカ微粒子を含有する水に浸漬した。さらに、PDDA水溶液にPET基板水溶液の浸漬及びシリカ微粒子を含む溶液への浸漬を2回繰り返し、基板表面がシリカ微粒子からなる多層膜を形成した。得られたPET基板基板のζ電位は、−24±4mVであった。
【0059】
次いで、実施例1で得られた共重合体1を10−2mol/dm−3の濃度で含有する、水−エタノール混合溶液(v/v=40:60)(以下、共重合体溶液Aという)を準備し、この共重合体溶液Aに、上述のようにして得られた、シリカ微粒子からなる多層膜が形成されたPET基板基板基板を浸漬し、30℃の温度で1時間、100回/分で振盪させた。浸漬終了後、水−エタノール混合溶液(v/v=40:60)で基板を洗浄し、窒素ガスを用いて乾燥し、共重合体1で表面被覆されたPET基板を得た。共重合体1で表面被覆されたPET基板のζ電位は、28±1mVであった。
次いで、得られた、共重合体1で被覆されたPET基板の上に、石英製クロム蒸着フォトマスクを配置し、Xeエキシマ−フォトランプからの172nmの紫外線を圧力100Paの下、20分間露光し、基板上に共重合体1の光パターンを形成させた。
【0060】
一方、5.6×10−3mol/dm濃度のPdCl、4.0×10−4mol/dm濃度のHClを含有し、pH2.2を呈する水溶液を調製し、一日静置して触媒化溶液Bを調製した。また、2.4×10−2mol/dm濃度のCuSO・5HO、0.50mol/dm濃度のHBO、0.27mol/dm濃度のNaHPO・HO、2.0×10−3mol/dm濃度のNiSO・6HO、5.2×10−2mol/dm濃度のNa・6HOを含む水溶液を調製し、少量のNaOHを加えてpH9を呈する水溶液を調製し、一日静置して無電解銅めっき溶液Cを調製した。
【0061】
次いで、上述のようにして得られた共重合体1で被覆されたPET基板を触媒化溶液Bに室温で5分間浸漬し、次いで、5.0×10−2mol/dm濃度のNaHPO・HO水溶液で3秒間洗浄した。洗浄後、更に、無電解銅めっき溶液Cに60℃で4時間浸漬した。4時間経過後、基板を取り出し、脱イオン水で洗浄した後、窒素ガスにより乾燥を行い、共重合体1が残存する未露光部にフォトマスクの形状に従って、銅が析出した銅配線基板を得た。4端子法により測定した銅配線の抵抗率は4.5×10−5Ω・cmであった。得られた銅配線基板の写真を図2(a)及び(b)に示す。図2(a)は、得られた銅配線基板の写真であり、図2(b)は、図2(a)の拡大写真である。図2(a)及び(b)に示すように、PET基板上に、共重合体1が残存する未露光部にフォトマスクのパターン形状に従って銅めっきが施されていることがわかる。
【0062】
実施例3
ポリエチレンテレフタレート基板に代え、ポリイミド(PI)基板を用いた以外は、実施例2と同様に操作を行い、共重合体1が残存する未露光部にフォトマスクの形状に従って、銅が析出した銅配線基板を得た。得られた銅配線基板を図3に示す。図3は、得られた銅配線基板の写真である。図3に示すように、PI基板に、フォトマスクのパターン形状に従って銅めっきが施されていることがわかる。
【0063】
実施例4
10gのビニルシクロヘキセンジオキシド(VCD、Polysciences, Inc.製)、6.0gのポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(DER、Polysciences, Inc.製)、26gのノネニルスクシン酸無水物(NSA、Polysciences, Inc.製)、及び0.4gのジメチルアミノエタノール(DMAE、Polysciences, Inc.製)を含有する混合溶液を調製した。次いで、この混合溶液をPET基板上にバーコーターを用いて塗布し、塗膜を形成させた。塗膜が形成されたPET基板を80℃の温度で8時間加熱し、PET基板上にエポキシ樹脂膜を形成させた。このエポキシ樹脂膜が形成されたPET基板を基板として用いた以外は、実施例2と同様に操作を行い、共重合体1が残存する未露光部にフォトマスクの形状に従って、銅が析出した銅配線基板を得た。図示していないが、基板に、フォトマスクのパターン形状に従って銅めっきが施されていることがわかる。
【0064】
実施例5
実施例2で得られたPET基板の銅配線基板を、水酸化ナトリウムを1.0mol/dmの濃度で含有する水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、30℃の温度で、10分間、100回/分で振盪させた。10分間の振盪により、銅配線基板は、PET基板部と銅配線部に分離した。分離されたPET基板を脱イオン水で洗浄した後にζ電位を測定した結果、分離されたPET基板のζ電位は−20±3mVであった。PET基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、PET基板の表面にはシリカ微粒子が存在していなかった。分離されたPET基板に、圧力1000Paの下で、実施例2で用いたキセノンエキシマランプからの172nmの紫外線を5分間照射した。紫外線照射されたPET基板のζ電位は−65±3mVであり、銅配線作製前の実施例2で示した紫外線処理したPET基板のζ電位−64±2mVと、ほぼ同等の値であった。この結果は、分離されたPET基板が、金属配線を製造するための基板として再利用が可能であることを示す。
【0065】
実施例6
実施例5で分離後、回収したPET基板を紫外線処理したPET基板を用いた以外は、実施例2と同様に操作を行い、共重合体1が残存する未露光部にフォトマスクの形状に従って、銅が析出した銅配線基板を得た。得られた銅配線基板を図4に示す。図4は、得られた銅配線基板の写真である。図4に示すように、PET基板に、フォトマスクのパターン形状に従って銅めっきが施されていることがわかる。
【0066】
実施例7
実施例3で得られたPI基板の銅配線基板を用いた以外は実施例5と同様に、水酸化ナトリウムを1.0mol/dmの濃度で含有する水酸化ナトリウム水溶液にPI基板の銅配線基板を浸漬し、30℃の温度で、10分間、100回/分で振盪させた。10分間の振盪により、銅配線基板は、PI基板部と銅配線部に分離することができた。
【0067】
実施例8
実施例4で得られたエポキシ樹脂膜が形成されたPET基板の銅配線基板を用いた以外は、実施例5と同様に水酸化ナトリウムを1.0mol/dmの濃度で含有する水酸化ナトリウム水溶液に上記銅配線基板を浸漬し、30℃の温度で、10分間、100回/分で振盪させた。10分間の振盪により、銅配線基板は、PET基板部と銅配線部に分離することができた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】共重合体高分子(共重合体1)のH−NMRのチャートを示す図である。
【図2】本発明の方法により得られた銅配線基板の写真である。
【図3】本発明の方法により得られた銅配線基板の写真である。
【図4】本発明の方法により得られた銅配線基板の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に剥離層が設けられ、該剥離層上にめっき促進層が設けられ、該めっき促進層上に金属層が設けられた金属被覆物であって、
上記剥離層が、シリカ微粒子の多層膜からなることを特徴とする金属被覆物。
【請求項2】
上記シリカ微粒子の多層膜が、シリカ微粒子からなる層と、正のζ電位を形成するか、又は正電荷に解離する極性基を有するカチオン性高分子からなる層とを含む、請求項1に記載の金属被覆物。
【請求項3】
上記シリカ微粒子の平均粒子径が10nm〜1μmである、請求項1又は2に記載の金属被覆物。
【請求項4】
上記基板が、オゾン処理及び/又は紫外線処理されたポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、アラミド樹脂又はエポキシ樹脂である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属被覆物。
【請求項5】
上記めっき促進層に、下記一般式(1)で表わされる繰り返し単位と、下記一般式(2)で表わされる繰り返し単位とを含む共重合体高分子を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属被覆物。
【化1】

@0001
(上記式中、Rは水素、アルキル基、アルコキシアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、Xはハロゲンである。)
【化2】

@0002
【請求項6】
基板表面に剥離層が設けられ、該剥離層上にめっき促進層が設けられ、該めっき促進層上に金属配線が形成された金属配線基板であって、
上記剥離層が、シリカ微粒子の多層膜からなることを特徴とする金属配線基板。
【請求項7】
上記シリカ微粒子の多層膜が、シリカ微粒子からなる層と、正のζ電位を形成するか、又は正電荷に解離する極性基を有するカチオン性高分子からなる層とを含む、請求項6に記載の金属配線基板。
【請求項8】
上記シリカ微粒子の平均粒子径が10nm〜1μmである、請求項6又は7に記載の金属配線基板。
【請求項9】
上記基板が、オゾン処理及び/又は紫外線処理されたポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、アラミド樹脂又はエポキシ樹脂である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の金属配線基板。
【請求項10】
上記めっき促進層に、下記一般式(1)で表わされる繰り返し単位と、下記一般式(2)で表わされる繰り返し単位とを含む共重合体高分子を含有する、請求項6〜9のいずれか1項に記載の金属配線基板。
【化3】

@0003
(上記式中、Rは水素、アルキル基、アルコキシアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、Xはハロゲンである。)
【化4】

@0004
【請求項11】
(a)基板を、カチオン性高分子と接触させる工程と、シリカ微粒子と接触させる工程とを繰り返すことによって、基板上に、シリカ微粒子の多層膜からなる剥離層を形成する工程;
(b)正の電荷を有する官能基と、無電解めっき触媒前駆物質を吸着し得る官能基を有する共重合体高分子を、剥離層が形成された基板上に被覆して、表面修飾基板を作製する工程;
(c)該高分子により修飾された表面修飾基板を、無電解めっき触媒の前駆物質を含む水溶液に浸漬して、無電解めっき触媒の前駆物質を、表面修飾基板に修飾された高分子に吸着させる工程;及び
(d)上記表面修飾基板を、無電解めっき溶液に浸漬する工程を含む、金属被覆物の製造方法。
【請求項12】
正の電荷を有する官能基と、無電解めっき触媒前駆物質を吸着し得る官能基を有する共重合体高分子が、下記一般式(1)で表わされる繰り返し単位と、下記一般式(2)で表わされる繰り返し単位とを含む共重合体高分子である、請求項11に記載の金属被覆物の製造方法。
【化5】

@0005
(上記式中、Rは水素、アルキル基、アルコキシアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、Xはハロゲンである。)
【化6】

@0006
【請求項13】
(a)基板を、カチオン性高分子と接触させる工程と、シリカ微粒子と接触させる工程とを繰り返すことによって、基板上に、シリカ微粒子の多層膜からなる剥離層を形成する工程;
(b)正の電荷を有する官能基と、無電解めっき触媒前駆物質を吸着し得る官能基を有する共重合体高分子を、剥離層が形成された基板上に被覆して、表面修飾基板を作製する工程;
(e)該表面修飾基板に活性エネルギー線をパターン状に照射して、上記共重合体高分子を該表面修飾基板からパターン状に除去する工程;
(f)上記表面修飾基板を、無電解めっき触媒の前駆物質を含む水溶液に浸漬して無電解めっき触媒の前駆物質を表面修飾基板上の高分子が残存する領域に吸着させる工程;及び
(g)上記表面修飾基板を、無電解めっき溶液に浸漬する工程を含む、金属配線基板の製造方法。
【請求項14】
正の電荷を有する官能基と、無電解めっき触媒前駆物質を吸着し得る官能基を有する共重合体高分子が、下記一般式(1)で表わされる繰り返し単位と、下記一般式(2)で表わされる繰り返し単位とを含む共重合体高分子である、請求項11に記載の金属配線基板の製造方法。
【化7】

@0007
(上記式中、Rは水素、アルキル基、アルコキシアルキル基、アラルキル基又はアリール基であり、Xはハロゲンである。)
【化8】

@0008
【請求項15】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属被覆物、又は請求項6〜10のいずれか1項に記載の金属配線基板を、剥離水溶液に浸漬し、金属被膜又は金属微細構造物と、表面修飾基板とに分離する工程を含む、表面修飾基板を回収する方法。
【請求項16】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属被覆物、又は請求項6〜10のいずれか1項に記載の金属配線基板を、剥離水溶液に浸漬し、金属被膜又は金属微細構造物と、表面修飾基板とに分離する工程を含む、金属被膜又は金属微細構造物を回収する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−240222(P2006−240222A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62184(P2005−62184)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】