説明

金属酸化物薄膜付きシートの製造方法および製造装置

【課題】
シート幅方向で蒸発した金属蒸気の量に差がある場合でも、蒸発源の幅を広げるなどの対策をとることなくシート幅方向の端部の膜厚および透過率が中央部と同等な金属酸化物薄膜付きシートを製造する方法および装置を提供する。
【解決手段】
減圧雰囲気下において、シート案内面に接触しながら搬送されているシート上に、金属材料を溶融させた蒸発源から前記シートに向けて金属蒸気を飛来させると同時に、前記金属蒸気内に酸素を導入し、前記シート上に連続的に金属酸化物薄膜を形成する金属酸化物薄膜付きシートの製造方法であって、前記酸素を、シート幅方向において異なる高さの複数箇所から前記金属蒸気に導入することを特徴とする金属酸化物薄膜付きシートの製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物薄膜の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチックフィルムに例示されるシート上に薄膜を形成することにより、フィルムコンデンサや磁気記録テープ、包装用フィルム等の素材となる金属蒸着フィルムが製造されている。この製造には、例えば真空槽内で巻状物のプラスチックフィルムを巻き出し、薄膜を形成した後に再び巻き取る巻取式蒸着装置(例えば非特許文献1)が用いられる。
【0003】
その概要を、図4を用いて説明する。図4はプラスチックフィルムなどのシート上に連続的に薄膜を形成する薄膜形成装置の構成要素を示した図である。なお、この図4は主要部のみを示し、構造物を収納する真空チャンバや中間ロールは省略してある。図4において、長尺のシート1は、原反ロール体2から繰り出され、シートの搬送方向34に沿って回転する円筒状の金属製キャンの表面であるシート案内面3に中間ローラ4、5によって所要の巻き付け角で巻付点33から剥離点32まで巻き付いた状態で搬送され、その後中間ローラ5を介して巻き取られ、巻取ロール体6を形成する。シート1がシート案内面3上に搬送される際に、マスク部材10で制限される成膜開始点30から成膜終了点31の間の領域において、坩堝7(蒸発源)の中にある蒸着材料8より蒸発した蒸気9がシート1上に付着し、シート1上に薄膜11が形成される。なお蒸発には、例えば誘導加熱や抵抗加熱の原理を利用して蒸着材料8を加熱する方式や、電子ビームを蒸着材料8に照射して加熱する方式がある。またシート案内面3は主にシート1をシワなく搬送する役目と、シート1が受けた熱負荷を効率よく逃がす役目を持つ。このため例えば公知の熱媒体の循環による温度制御により、所要の温度に制御される。また特に円筒に限らず、ベルト体の上にシートを搬送する方式も見られる。
【0004】
このような薄膜形成装置を使って、金属酸化物薄膜付きシートを形成する方法として、金属の蒸着材料を溶融し蒸発させ、その途中で酸素を導入して金属酸化物薄膜をシート上に形成する方法が知られている。
【0005】
例えば、金属酸化物薄膜付きシートとして、ガスバリア性の優れた包装用フィルムの分野で酸化アルミニウムや酸化ケイ素の膜つきシートが提案されている(例えば特許文献1、2)。特に酸化アルミの蒸着においては、金属アルミを加熱して蒸発させ、その金属蒸発雰囲気に酸素を導入して酸化膜とする方法が一般的である。こうした金属酸化物薄膜付き包装用シートでは通常5〜30nm程度の金属酸化物薄膜をプラスチックフィルムに成膜する方法が提示されている。ガスバリア性を狙うのであれば膜厚としては、5〜30nm程度で十分な機能が発揮できる。
【0006】
また、磁気記録材料に使用する強磁性体のCo、CoNi、Feを主成分とする材料の金属酸化物薄膜を得る方法では、磁気特性を良好にするために膜厚方向に金属を部分的に酸化させたり、半金属酸化物を得る方法が開示されている(例えば特許文献3)。この分野では金属を完全に酸化させ、絶縁性や透明性の膜を得る目的では用いられていない。さらに、プラスチックフィルムの片面または両面に、金属、半金属及び合金並びにこれらの酸化物及び複合物から選ばれた金属材料からなる強化膜を形成し、これを磁気記録媒体用支持体とする用途も提案されている(例えば特許文献4)。
【0007】
このように、ガスバリア性を狙うのであれば膜厚5〜30nm程度で十分な機能が発揮でき、また磁気記録材料の磁気特性を狙うのであれば、膜厚50〜300nmの薄膜の膜厚方向に部分的に酸化させることで充分な特性が得られる。しかしながら、磁気記録媒体用支持体用の強化膜として支持体強度を上げる場合、膜厚50〜300nm程度の金属酸化物薄膜を形成する必要がある場合もあり、また、かかる薄膜においては金属が薄膜の厚み方向で均一に酸化された薄膜をシート幅方向に均一に成膜する必要がある。そのため、薄膜の厚み方向の全体を酸化させるための酸化反応効率のよい金属酸化物の形成方法や幅方向に膜厚や透過率を均一に成膜する方法が必要であった。
【0008】
従来から、金属酸化物薄膜を形成するための酸素を導入する方法としていくつかの技術が提案されている。
【0009】
特許文献5には、金属材料にアルミニウムを用い、アルミニウムを加熱し発生させたアルミニウム蒸気の発生量に対して、アルミニウム蒸気の雰囲気中に導入する酸素の量をアルミニウム蒸気量の1.0〜1.5倍の範囲内に調整することで、金属蒸気と酸素の反応に必要十分な量の酸素を供給するという方法が開示されている。
【0010】
また、特許文献2には、金属材料にアルミニウムを用い、アルミニウム材料を加熱し単位時間当たりに発生させるアルミニウム蒸気の発生量A(モル/分)と単位時間当たりの導入する酸素の量B(モル/分)との比B/Aを0.1≦B/A<0.3に保持するように酸素の量Bの調節を行う方法が開示されている。この酸素量の調節方法により所望の酸素透過率、水蒸気透過率、全光線透過率を有する透明酸化アルミニウム膜を得ることができるとされている。
【0011】
しかしながら、従来技術のように発生した金属蒸気量に応じて導入する酸素の量を調節する方法では、シート幅方向の端部の膜厚が中央部に比べ薄くなる不具合や、シート幅方向の端部まで均一な膜厚の膜をつけようとするとシート幅方向端部の透過率が中央部に比べて低くなるという不具合が生じる場合があった。これは、シート幅方向端部の坩堝からの蒸気量が多いことに起因する。すなわち、一般的に坩堝のシート幅方向の幅は成膜幅に対し1からせいぜい1.5倍の長さであるが、シート幅方向の各位置に成膜される薄膜の膜厚は、その位置の直下だけではなく斜め下から飛来する蒸気も寄与する。シート端部はその斜め下から飛来する蒸気成分が少ないので、それを補うために、坩堝のシート幅方向端部を積極的に加熱して、坩堝のシート幅方向端部からの蒸発量を上げることが一般的に行われており、これが端部の蒸気量が多くなる理由である。
【0012】
シートに到達する金属蒸気のシート幅方向の量を均一にするために、成膜幅に対し1.5倍以上に坩堝の幅を長くすることも可能であるが、シートに付着しない金属蒸気が多くなり、金属材料の使用効率の悪化にもなってしまう。更に坩堝幅が長くなった分、材料を蒸発させる為に必要なエネルギーも多くなってしまう点で好ましくない。
【0013】
また、発明者らの知見では一般的な蒸着機で、シートと同じ幅でシート幅方向に同じ量坩堝から蒸発させると、シート近傍に到達する蒸気量は中央部に対し端部で約4割少なくなる。この差を無くす為に坩堝端部の蒸発量をあげると、シート幅方向で坩堝からの高さが同じ時、シート幅方向の中央部に対し端部では金属蒸気の密度が高い状態になる。金属蒸気の密度が高くなると、酸素と金属蒸気との衝突頻度が高くなり、金属蒸気内部にまで酸素が充分浸透しなくなる。この蒸気密度が高い状態で、中央部と同じように金属の酸化反応をさせようとすると、より多い酸素が必要になるが、酸素の導入量を増やすと、シートに向かう金属蒸気の運動を導入した酸素が遮ってしまい、シートに到達する金属蒸気量が少なくなってしまう。
【0014】
従来技術では、酸素の導入量の調整については記述してあるが、シート幅方向に一様な高さに設けた酸素導入手段から酸素を導入しているので、この状態でシート幅方向の透過率を均一にしようとすると、シート幅方向の端部の金属材料の蒸発量を下げるか、シート幅方向の端部の酸素導入量を上げるかにより、端部の透過率を高くするような調整を行うことによる対応が考えられる。だが、前者の調整はシート幅方向の端部の膜厚を下げる結果になる。また後者の調整も、導入した酸素が金属蒸気をシート外部に押し出してしまい、結果として膜厚を下げる結果になる。
【0015】
このように従来技術のように、導入する酸素量を調整しても、膜厚と透過率を同時に所望の値にするのは困難であった。
【特許文献1】特開昭62−103359 号公報
【特許文献2】特開2001−192808 号公報
【特許文献3】特開昭62−275316号公報
【特許文献4】特開2003−129229号公報
【特許文献5】特開平10−046323号公報
【非特許文献1】伊保内賢他著、「ポリマーフィルムと機能性膜」、技報堂出版、1991年4月発行、p198〜203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以上説明したように従来技術では、シート幅方向に一様な高さに設けられた酸素導入手段からの酸素の量を調節するか、金属蒸気の量を調整してそれぞれ所望の特性を得てきた。しかしながら、シート幅方向の端部まで均一な膜厚で金属酸化物薄膜を成膜しようとすると、シート幅方向の中央部と端部とで、酸素と金属蒸気との反応効率に差が出来てしまい、膜厚および透過率がシート幅方向で均一な金属酸化物薄膜を成膜することが困難であった。
【0017】
そこで、本発明らは、上記問題を鑑み、シート幅方向で蒸発した金属蒸気の量に差がある場合でも、蒸発源の幅を広げるなどの対策をとることなくシート幅方向の端部の膜厚および透過率が中央部と同等な金属酸化物薄膜付きシートの製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するための本発明は、主に次の構成を特徴とするものである。
(1)減圧雰囲気下において、シート案内面に接触しながら搬送されているシート上に、金属材料を溶融させた蒸発源から前記シートに向けて金属蒸気を飛来させると同時に、前記金属蒸気内に酸素を導入し、前記シート上に連続的に金属酸化物薄膜を形成する金属酸化物薄膜付きシートの製造方法であって、前記酸素を、シート幅方向において異なる高さの複数箇所から前記金属蒸気に導入することを特徴とする金属酸化物薄膜付きシートの製造方法。
(2)前記酸素を導入する高さを、前記金属蒸気の仮想成膜レートに応じて調整する、前記(1)に記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造方法。
(3)前記酸素を導入する高さを、前記蒸発源に収容された金属材料に投入する前記シート幅方向の電力分布に応じて独立して調整する、前記(1)または(2)に記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造方法。
(4)前記シート幅方向の中央部における前記金属材料への投入電力に対し、端部における前記金属材料への投入電力が1.5倍以上である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造方法。
(5)前記シート幅方向に関して前記金属酸化物薄膜の成膜幅が500[mm]以上である、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造方法。
(6)前記酸素を導入する位置での前記金属蒸気の仮想成膜レートが1500[nm/秒]以下である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造方法。
(7)前記金属がアルミニウムであり、前記シート上に酸化アルミニウム膜を成膜する前記(1)〜(6)のいずれかに記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造方法。
(8)シートと接触しながら前記シートを搬送するシート案内面を有し、前記シート案内面の運動に伴って前記シートを搬送する搬送手段と、前記シート案内面上の前記シートに向かって金属蒸気を飛散させる蒸発源と、前記金属蒸気と混和するように酸素を導入する酸素導入手段とを備え、搬送される前記シートに減圧雰囲気下で連続的に金属酸化物薄膜を形成する金属酸化物薄膜付きシートの製造装置であって、前記酸素導入手段は、複数個の酸素導入口をシート幅方向に配列して構成し、かつ前記シート幅方向の端部の前記酸素導入口の前記蒸発源からの高さが、前記シート幅方向の中央部の前記酸素導入口の前記蒸発源からの高さよりも高いことを特徴とする金属酸化物薄膜付きシートの製造装置。
(9)前記複数個の酸素導入口の前記蒸発源からの高さを、前記シート幅方向において、独立して変更可能な機構を有する前記(8)に記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造装置。
(10)前記蒸発源に収容されている金属を蒸発させるために投入する電力を、前記蒸発源のシート幅方向に分割して投入でき、分割で投入する各電力を独立して調整可能な機構を有する前記(8)または(9)に記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造装置。
(11)前記蒸発源が、シート幅方向に対して、前記金属酸化物薄膜の成膜幅の1.0〜1.3倍の幅を有する前記(8)〜(10)のいずれかに記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造装置。
(12)前記蒸発源からの前記酸素導入口の高さが、前記シート幅方向の中央部に対して端部では1.1〜1.7倍の高さである前記(8)〜(11)のいずれかに記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造装置。
(13)前記蒸発源に収容されている金属を加熱する電子銃を備えている(8)〜(12)のいずれかに記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造装置。
【0019】
ここで、本発明において適用されるシートとして、代表的なものには、プラスチックフィルムや紙等のシートがある。特にプラスチックフィルムは本発明において好適に用いられる。プラスチックフィルムの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類や、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、アラミド、ナイロンなどの高分子プラスチックフィルムが例示できる。また、プラスチックフィルムは単層でもよく、また2層以上の積層体フィルムでもよい。
【0020】
本発明において、金属酸化物薄膜付きシートの製造方法としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法が挙げられる。中でも真空蒸着法は、金属酸化物薄膜を比較的広い幅で成膜する方法として広く適用されており、好適である。真空蒸着法の蒸発源においては、材料を加熱する方法として、誘導加熱方式の他、抵抗加熱方式、電子ビーム加熱方式などあるが、いずれでも適用可能である。特に電子ビーム加熱方式は、シート幅方向において均一な膜厚分布になるように、シート幅方向の蒸発量に制御しやすいため、均一な金属酸化物薄膜を得る方法として最も適した方式である。
【0021】
本発明において「シート案内面」とは、シート上に薄膜を形成する際に、シートの薄膜形成面とは反対の面に接触しながらシートを搬送する薄膜形成装置の構成要素をいう。この「シート案内面」は主にシートをシワなく搬送する役目と、シートが受けた熱を効率よく逃がす役目を持つ。代表的なものとしては、後述する図1に示すように円筒形状のもので、軸を中心に回転しながらシートを搬送するものがある。また特に円筒形状に限らず、ベルト体の上にシートを搬送する方式のものも知られているが、本発明においてはいずれのものでも有効である。
【0022】
本発明においては、金属材料を蒸発させて、その蒸気雰囲気に酸素を導入して金属酸化物の薄膜を設ける。その金属材料としては、目的の特性が得られれば特に問わないが、アルミおよび/または銅を主体とする材料が、融点も低温であり、安価な材料であるため好適に用いられる。また酸化アルミ膜、酸化銅膜はその特性上、ガスバリア性、剛性、熱膨張特性、生産性などが良好であり好ましく用いられる。その他の材料としては、Zn、Sn、Ni、Ag、Co、Fe、Mn、Mg、In、Tiなどの金属も挙げられる。これらの材料の中には酸化物が半導体の性能を有するものとなるSn、Mg、Inなどの材料、またはこれらの合金材料もあるが、薄膜付きシートの用途によって適宜選択されるものであり、本発明の適用を限定するものではない。
【0023】
本発明において「蒸発源」とは、薄膜の材料となる金属材料を溶融させる容積部分を指す。この蒸発源の周囲に金属材料を収容する容器、断熱材、材料供給装置、加熱用ヒータなどが配置されるが、この蒸発源を加熱する方式により、適宜好適なものが選択されるものであり、特に限定するものではない。
【0024】
本発明において、シート幅方向とは、搬送されるシートの搬送方向に対してシート平面上を通り、直交する方向のことをいう。
【0025】
本発明において、「金属蒸気」とは、蒸発源で金属材料が加熱され蒸発した蒸気のことで、シート上に金属酸化物薄膜を形成する際に到来し付着する金属酸化物薄膜の形成材料のことをいう。
【0026】
本発明において、「酸素導入口」とは、金属蒸気内に酸素を導入するための開口部分のことをいう。酸素導入口に関しては、所望する酸素の指向性や向きなどによって、その形状や高さを決定すればよく、また、シート幅方向及び搬送方向での位置も適宜決定すればよい。また、かかる酸素導入口を設ける部材、すなわち、酸素導入口の位置までの供空する配管に関しても、所望する酸素の指向性や向きなどによって、その形状や材質を選べばよい。そして、「酸素を導入する高さ」および「酸素を導入する位置」とは、かかる酸素導入口等から酸素が金属蒸気雰囲気内に導入される高さ、位置をいう。
【0027】
本発明において、「電子銃」とは金属材料に対して電子を電位差により加速させ高いエネルギーを持った状態で金属材料に照射するものであり、金属材料を溶融し金属蒸気を発生させるための装置である。
【0028】
本発明において、「膜厚」とは、シート面に対して直交する方向に付着する金属酸化物薄膜の厚さのことをいう。
【0029】
本発明において、「成膜幅」とはシート上に幅方向で金属酸化物薄膜が堆積付着するシート幅方向の長さのことで実際に成膜が行われる幅のことをいう。
【0030】
本発明において「金属蒸気の仮想成膜レート」とは、蒸発源とシート案内面との間における金属蒸気が飛来する単位時間あたりの量を指す。具体的には、蒸発源からのある高さに仮想的にシートを配置したときに、シートに金属酸化物薄膜が堆積していく速度のことで、単位は[nm/秒]で表せる。
【0031】
本発明において「金属を溶融する幅」とは、坩堝内の金属材料を実質的に加熱している領域のシート幅方向の長さを指す。坩堝内の金属材料を全てではなく一部のみにエネルギーを投入し加熱している場合は、そのエネルギーを投入している領域のシート幅方向の長さを指す。また抵抗加熱蒸着や誘導加熱蒸着で多くみられるように、複数の坩堝をシート幅方向に並べて配置している場合は、実際にエネルギーを投入して加熱している坩堝の内、シート幅方向の両端の坩堝の外縁間の長さを指す。
【0032】
本発明において「成膜レート」とは、シート成膜領域において、シート表面に金属酸化物が堆積していく速度のことを指し、具体的にはシートの搬送速度をv[m/秒]、シート表面に堆積した金属酸化物薄膜の膜厚をd[nm]、シート成膜領域のシート搬送方向の長さをL[m]としたときに、次式で表される値のことを指す。
【0033】
(成膜レート)[nm/秒]=(v×d)/L (1)
なお、「シート成膜領域」とは、シート案内面上を搬送されるシートのうち、蒸発源から飛来し該シート上に金属蒸気が堆積する領域を言う。一般的な巻取式蒸着機では、シート案内面と蒸発源の間は、シート表面に金属蒸気が飛来する領域を制限し、余分な場所に金属蒸気が付着しないように、マスクと呼ばれる開口部が設けられ、その開口部に金属蒸気が飛来することでシート上に成膜される。この開口部のシート搬送方向の長さがシート成膜領域の長さである。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、後述の実施例と比較例との対比からも明らかなように、金属酸化物薄膜のシート幅方向における膜厚および透過率が、ともに均一な金属酸化物薄膜付きシートを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の最良の実施形態の例を巻取式真空蒸着装置に適用した場合を例にとって、図面を参照しながら説明する。
【0036】
図1は、本発明の製造装置を示す巻取式蒸着装置の概略断面図であり、主要部のみを示し、構造物を収納する真空チャンバや中間ロールは省略してある。酸素導入口においても、シート幅方向に存在する複数の酸素導入口12a〜fの高さのみを平面的に示し、酸素導入口までの酸素を送る配管等の構成要素や、酸素導入口の開口面の角度は省略してある。また図2は、図1の右手から見た装置の概略構成図である。そして、これらの装置は、例えば図6に示すような真空チャンバ41内に配置される。
【0037】
図1において、長尺のシート1は、原反ロール体2から繰り出され、シートの走行方向34に沿って回転する円筒状の金属製キャンの表面であるシート案内面3に中間ローラ4、5によって所要の巻き付け角で巻き付いた状態で搬送され、巻取ロール体6に巻き取られる。シート1がシート案内面3上を搬送される際には、蒸発源7の中にある金属材料8より蒸発した金属蒸気9がシート1に向かって飛来するとともに、酸素導入口12a〜fより金属蒸気9の雰囲気中に酸素ガスが導入されることにより、シート1の表面に金属酸化物が付着し、図2に示すようにシート1上に金属酸化物薄膜11が形成される。なお、シート案内面3の表面など余分な場所に金属酸化物の付着を防ぐためにマスク部材10を設けている。
【0038】
このような工程は図6に示す真空チャンバ内で減圧雰囲気下で行われる。真空チャンバ41は、概ねシートの巻取り巻出しを行う巻取室41aと蒸着を行う成膜室41bに分かれており、それぞれ巻取室用真空ポンプ42aおよび成膜室用真空ポンプ42bによって減圧される。真空ポンプには、粗引き用ポンプと高真空ポンプを併用し、高真空に到達させることも好ましい。成膜する際の成膜室41bの圧力は7×10−2[Pa]以下であることが好ましい。圧力が高くなると蒸発した金属蒸気が不安定になりシート幅方向で均一に付かなくなってしまう場合がある。一方、巻取室は、成膜室の圧力を維持するのに影響がない範囲で、10−2〜10[Pa]程度に調整するのが一般的である。
【0039】
金属の溶融方法としては、減圧下で高周波誘導加熱法、抵抗加熱法、電子銃による電子ビーム法、レーザアブレーション法などが挙げられる。金属酸化物薄膜11の厚膜化のためには、高周波誘導加熱法、電子ビーム法が好ましく用いられ、高融点材料、例えば1500℃以上の融点材料であれば電子ビーム法が好ましく用いられる。
【0040】
またシート案内面3は、主にシート1をシワ無く搬送する役目と、シート1が蒸着の際に蒸発源7から受ける輻射熱による熱負荷を効率よく逃がす役目を持つ。シート案内面3を有する冷却キャンはエチレングリコールやシリコーンオイルなどの冷媒を利用して、しばしば−20℃程度に冷却される。また特に円筒に限らず、ベルト体の上にシート1を搬送する方式もみられる。
【0041】
さらに詳しくは、図3に、金属蒸気が飛散している部位を拡大し、各構成部材の配置等の位置関係を分かりやすく説明するための模式図を示す。蒸発源7の中に金属材料8を入れ、図示していない加熱方法で加熱して金属材料8を溶融し、液体の状態とする。さらに加熱すると蒸発源7から金属蒸気9が蒸発しはじめる。こうして蒸発させた金属蒸気9がシート案内面3に沿わせたシート1に向けて飛来する。蒸発源7からシート案内面3までの間に酸素導入口12a〜fから投入された酸素ガスが存在することで、金属蒸気10と酸素ガスが混和、酸化反応し、シート1の表面に金属酸化物薄膜11が形成される。
【0042】
このような本発明と図4に記載した先行技術の装置との大きな相違点は、本発明が図1に示すようにシート幅方向の中央部と端部で高さを変えて複数箇所から酸素を導入する点である。
【0043】
金属酸化物薄膜を形成する際にシート幅方向に均一な膜厚にするには、前述のようにシート幅方向の端部では中央部に比べて金属蒸気を多く蒸発させる。この状態で、図5に示すように幅方向で同じ高さに酸素導入口を並べる方法で酸素を導入して透過率をシート幅方向で均一にしようとすると、シート幅方向の端部の酸素の導入量を上げるか、金属蒸気の量を減らすなどの対策をとることが考えられるが、この調整ではどちらも結局シート幅方向端部の膜厚が下がってしまい、シート幅方向で均一な膜厚及び透過率を得ることは困難であった。
【0044】
しかしながら本発明者らは、上記のように膜厚および透過率が均一にできない理由は、中央部と端部では金属蒸気の密度に差があるためであることを見いだした。そこで、本発明においては、端部では中央部に比べて蒸発源からの高さが高い所に酸素導入口を設け、中央部と同じ蒸気密度の高さから酸素を導入し、シート幅方向において金属蒸気と酸素を同様に反応させることで膜厚及び透過率が均一な金属酸化物薄膜を得る。すなわち、本発明者らは、蒸気密度に応じてシート幅方向の酸素導入口の位置を調整し、導入する酸素量をシート幅方向で調整することで、より膜厚及び透過率がより均一な金属酸化物が得られることを見出した。
【0045】
酸素を導入する高さ、すなわち蒸発源からの酸素導入口の高さについては、シート幅方向の金属蒸気の仮想成膜レートの違いによって、シート幅方向で適した位置が異なるので、それぞれ独立して調整できることが好ましい。
【0046】
また、シート幅方向で金属蒸気の仮想成膜レートを変えようとすると幅方向の中央部と端部では電力値に差が生じるので、その電力値の分布に応じて酸素を導入する高さ、すなわち蒸発源からの酸素導入口の高さを調整できるようにすることも好ましい。例えば、図6において酸素導入口を有する導入管15が分岐部16から容易に着脱可能な構造になっていて、先述の成膜レートや飛来速度が違う条件の蒸着を行う際に、長さの違う導入管に変更する構成が挙げられる。
【0047】
更に、成膜中に金属酸化物薄膜付きシートの透過率を測定し、透過率に基づいて導入する酸素量をシート幅方向で独立して調整することが好ましい。本発明によれば、シート幅方向で膜厚及び透過率が均一な金属酸化物薄膜を得ることができるが、更に精度の良い金属酸化物薄膜を得るための微調整として、導入する酸素量をシート幅方向で調整することが好ましい。後述するように、投入する電力をシート幅方向で調整するという方法もあるが、導入する酸素量をシート幅方向で調整する方が簡単で行いやすい。
【0048】
蒸発源に投入する電力に関しては、シート幅方向で膜厚を均一にできるように、電力をシート幅方向で分割して投入し、シート面における仮想成膜レートが一定になるようにすることが好ましい。このシート幅方向の電力分布の調整を容易にする方法として、シート幅方向に長手で一体型の坩堝を配置し、かつ電子銃で坩堝内の金属材料を該電力分布を制御しながら加熱する方法が好適である。
【0049】
また、蒸発源に投入する電力に関しては、シート幅方向の中央部を基準としたとき端部は1.5倍以上であることが好ましい。1.5倍未満では端部の膜厚を補う為の金属蒸気を蒸発させることが難しい場合がある。
【0050】
上記のような本発明によれば、成膜幅に対して1.0〜1.3倍の幅で金属を溶融するような場合であっても、金属酸化物薄膜のシート幅方向における膜厚および透過率を均一なものとすることが可能である。金属を溶融する幅が成膜幅方向より小さい場合は、シートの幅方向端部まで充分に成膜出来ない場合があり好ましくない。また成膜幅に対して金属を溶融する幅が1.3倍を超えると、シート幅方向で蒸発量を変えること無く均一に金属酸化物薄膜を付けられるようになるが、金属を溶融する幅が大きくなった分だけ材料および材料を溶融するためのエネルギーが多く必要になる。そして金属を溶融する幅とシートの幅との差が大きくなるので、シートに付着しない金属蒸気による材料の使用効率の悪化の影響が大きくなるので好ましくない。したがって、本発明においては、成膜幅に対して1.0〜1.3倍の幅で金属を溶融することが好ましい。なお、図3に金属蒸気が飛翔している部分の拡大図を示し、成膜幅17、金属溶融幅18を示す。
【0051】
さらに、本発明は、金属酸化物薄膜を成膜する幅(成膜幅18)がシート幅方向に500[mm]以上である場合に特に効果を発揮でき、好ましい。シート幅が狭いと蒸気密度に差が生じない場合があるからである。
【0052】
また、シートと蒸発源との距離が300〜800[mm]の範囲であるとき、本発明は特に効果を発揮できるので好ましい。蒸発源から上方に飛散する金属蒸気はシートと蒸発源との距離が長いほど拡散していくので距離が短いと拡散せず導入口の高さを調整しても効果が得られない場合があるので、300[mm]以上が好ましい。また、800[mm]よりも長すぎると蒸気が拡散しすぎてしまい所望の膜厚が得にくくなる。
【0053】
さらに本発明者らは、酸素を導入するのに最適な金属蒸気密度、および蒸発源の大きさやシートの成膜領域の大きさ、蒸発源とシートとの距離から、蒸発源からの高さと金属蒸気密度の関係を導き、酸素導入口の適した高さを求めることを検討した。その結果、金属酸化物薄膜の成膜レートが400[nm/秒]以上である成膜条件においては、シートの成膜領域と蒸発源との間の領域において、金属蒸気の仮想成膜レートが1500[nm/秒]以下となる領域に酸素が導入されるよう、酸素導入口の高さをシート幅方向において異ならせ、かかる導入口の高さの金属蒸気に向けて酸素を導入することが有効であることを見出した。金属蒸気の仮想成膜レートが1500[nm/秒]より大きくなる領域(すなわち蒸発源からの高さが低い位置)に酸素を導入すると、金属蒸気密度が大きいため、金属蒸気内に充分酸素が浸透せず、膜厚方向に不均一な酸化度の薄膜を形成してしまう場合がある。さらに好ましくは、金属蒸気の仮想成膜レートが1000〜1500[nm/秒]の範囲となる領域に酸素を導入した方がよい。金属蒸気の仮想成膜レートが1000[nm/秒]より小さくなる領域では、金属蒸気密度が比較的希薄で、導入した酸素が金属蒸気と反応する確率が小さくなり、酸化反応に使われない酸素が増え、成膜室の圧力が上がってしまう場合がある。
【0054】
なお、本発明において金属蒸気の仮想成膜レートを求める方法としては、シートの成膜領域のうち、蒸発源との距離が最短となる直線上に、水晶発振式の膜厚計を配置させてその飛来速度を直接測定する方法を採用することができる。また、金属蒸気の仮想成膜レートは蒸発源からの高さが高くなるほど低減する。
【0055】
また、金属蒸気の仮想成膜レートが1500[nm/秒]以下となる蒸発源からの高さY[m]を求める方法としては、蒸発源からシート案内面との最短距離をh[m]、金属蒸気の仮想成膜レート」を求める蒸発源からの高さをY[m]としたとき、次式で求めることもできる。
【0056】
Y[m]≧(d×v×h)/(1500×L) (2)
したがって、まずシート幅方向の中央部における酸素導入口の高さYを式(2)の関係を満たすようにし、さらにシート幅方向の端部における酸素導入口の高さをそれよりも高くして、それら高さの異なる複数個の酸素導入口から酸素を導入してもよい。
【0057】
本発明においては、上述したように成膜幅18が500[mm]以上である場合、シートと蒸発源との距離が300〜800[mm]の範囲で、シート幅方向に関する蒸発源の金属溶融部の長さが成膜幅の1.0〜1.3倍であることが好ましいが、シート幅方向に膜厚をより均一にするためには、シート幅方向の中央部に対して端部の金属蒸気の蒸発量を増やすことも好ましい。具体的に本発明者らの知見によれば、成膜幅の中心からシート幅方向の距離をC[mm]、成膜幅をZ[mm]、金属溶融部の長さをX[mm]としたとき、C[mm]が式(4)に示される範囲で金属蒸気の蒸発量を増やせば、膜厚をシート幅方向により均一にすることができる。
【0058】
(X/2)×h×200≦C≦(Z/2) (4)
そして、シート幅方向に関して成膜幅の中心における酸素導入口の蒸発源からの高さYは、上述したように式(2)の関係を満たすようにし設定することが好ましいが、シート幅方向に関して成膜幅の中心からの距離がC[mm]の位置における酸素導入口の蒸発源からの高さY[mm]は、かかる成膜幅の中心における酸素導入口の蒸発源からの高さY[mm]を基準として、式(5)により決めることが好ましい。
【0059】
≧Y×(4C×10−6−2C×10−4+1.1) (5)
そして、上記条件の場合、Y[mm]はY[mm]に対し1.1〜1.7倍の範囲内となる。
【0060】
本発明は、従来の方法では膜厚方向に均一な酸化度を形成しにくかった比較的膜厚の厚い成膜に特に有効であるが、具体的には膜厚50[nm]以上の金属酸化物薄膜の形成により好適である。一方膜厚が300[nm]よりも厚くなると、薄膜の厚み方向の均一性において酸化反応以外の要素が主要因となるため、本発明の効果が薄くなり好適な対象とはいえなくなる。また酸化金属薄膜が堆積する速度のパラメータとして、シートの搬送速度[m/分]と薄膜の膜厚[nm]をかけた、ダイナミックレート[nm・m/分]というパラメータが用いられるが、膜厚50〜300[nm]の金属酸化物薄膜を成膜する場合、このダイナミックレートにおいては10000〜30000[nm・m/分]が本発明に好適な成膜条件となる。低速でかつ蒸着する膜厚が薄い場合は、金属蒸気の蒸気量や、酸素の量を調節することで、所望の膜厚は得られるが、膜厚が厚く、シートの搬送速度を上げ蒸着の高速化を図る場合は、シート幅方向での透過率が不均一になりやすいため、本発明を用いることで高速でかつ膜厚および透過率がシート幅方向で均一な膜を得ることができると考えられる。具体的には、例えばシート幅方向に関して透過率が所望の値に対して±10[%]以内に収められた、シート幅方向でばらつきの少ない膜をえることができる。
【実施例】
【0061】
本実施例で用いた測定法を下記に示す。
【0062】
(金属酸化物薄膜の厚み測定方法)
下記条件にて断面観察を行い、得られた合計9点の厚み[nm]の平均値を算出し、酸化アルミニウム膜の厚み[nm]とした。
測定装置:透過型電子顕微鏡(TEM)H−7100FA型 日立製
測定条件:加速電圧 100kV
測定倍率:20万倍
試料調整:超薄膜切片法
観察面 :TD−ZD断面
測定回数:1視野につき3点、3視野を測定した。
測定位置:シート幅方向の9点等分割
(金属酸化物薄膜付シートの全光線透過率)
スガ試験機株式会社製の”ヘーズコンピュータHZ−1”装置にて、サンプルをセットして、全光線透過率を測定した。5回の測定を行い、その平均値を本実施形態における全光線透過率とした。
【0063】
[実施例1]
金属材料にアルミニウムを、シートに厚さ4.3[μm]に製膜したポリエステルフィルム(東レ株式会社製「ルミラー」)を用い、図6の装置を利用して、酸化アルミニウム膜付きシートを製造した。
【0064】
なお、その際の酸素導入口12−g〜lの位置及び酸素導入口まで酸素を導く導入管13を、図7に示す。図7は図6を右手方向からみたもので酸素導入部分を拡大したものである。また、以下に成膜条件を示す。
【0065】
<蒸着条件>
・蒸発源に対する投入電力の分割:シート幅方向10分割による10点制御
・金属酸化物薄膜の膜厚:100[nm]
・金属材料:アルミニウム
・蒸発源:アルミナ坩堝
・蒸発源とシート案内面との最短距離:600[mm]
・蒸発源加熱方式:電子銃
・坩堝の容積部分の大きさ:
(シート搬送方向)150[mm]
(シート幅方向) 1500[mm]
(深さ) 50[mm]
・電子銃の出力電力:60[kW]
・シート搬送方向のマスクの開口長さ:350[mm]
・シート幅方向のマスクの開口部の長さ:1000[mm]
・シート案内面を構成する円筒形冷却キャン
(直径)1000[mm]
(内部)シート案内面の表面の温度を調整するための媒体を循環し、装置外部の冷媒循環装置から一定温度の媒体を導入。
【0066】
(シート案内面内部に流す媒体温度)―20[℃]
<シート条件>
・成膜幅:1000[mm]
・未蒸着シートの幅方向の長さ:1050[mm]
・シートの搬送速度:120[m/分]
<酸素導入口条件>
・シート幅方向の中央部の酸素導入口12−i、jの蒸発源からの高さ:160[mm]
・シート幅方向の端部の酸素導入口12−h、kの蒸発源からの高さ:270[mm]
・シート幅方向の端部の酸素導入口12−g、lの蒸発源からの高さ:320[mm]
・各酸素導入口の内径および形状:直径4[mm]の円(内側断面積:約12.6[mm])
・ シート幅方向の中央部の酸素導入口12−i、jを備える導入管13の長さ:130[mm]
・ シート幅方向の端部の酸素導入口12−h、kを備える導入管13の長さ:250[mm]
・ シート幅方向の端部の酸素導入口12−g、lを備える導入管13の長さ:300[mm]
・酸素導入口を備える導入管13の材質:ステンレス
・酸素導入口の向き:冷却キャンの最下点に向く
・両端の酸素導入口12−g、lの距離:945[mm]
・酸素導入口を有する導入管13を設けた位置:蒸発源のシート搬送方向に対して巻出側および巻取側
<金属酸化物薄膜の形成>
未蒸着のシートロールを図6のように原反ロール体2にセットし、巻出側中間ローラ4、シート案内面3、巻取側中間ローラ5にフィルム1を沿わせて巻取ロール体6にフィルム端部を固定しセットした。装置には蒸発源7が蒸発源の長手方向がフィルム幅方向と同じになるように配置され、これに金属材料8である金属アルミニウム20[kg]を入れた。その後、真空チャンバ41内の成膜室41b及び巻取室41aを減圧し、成膜室41b内の真空圧力を5×10−3[Pa]まで排気した。その後、シャッタ装置51を閉じた状態でアルミニウム8を電子銃加熱方式によって完全に溶融させた。投入した電力は75[kW]であった。アルミ材料が全て溶融したことを確認した後、電子銃の電力量を微調整し約60[kW]にした。その後シート案内面3と中間ローラ4、5の速度設定によりフィルムの搬送速度を120[m/分]にしシャッタ装置51を開き蒸着を開始した。
【0067】
まず、シート幅方向でアルミニウム膜の膜厚が均一になるように光学モニタ52で透過率を観測しながらシートの幅方向に膜厚が均一になるように、金属材料8への投入電力の分布をシート幅方向で調節した。光学モニタ52はシート幅方向に11カ所付いておりこの11個の透過率が0.05[%]になるように調整した。なお、この0.05[%]の透過率は金属アルミニウム薄膜の膜厚60[nm]の目安である。この状態で真空計の圧力は2.0×10−2 [Pa]であった。その後、酸素導入口12g〜12lから酸素を導入した。最初は各酸素導入口12g〜12lから25[l/分]で酸素を導入し、そこからフィルム幅方向に11カ所の光学モニタの出力が全て30%になるように電子銃の電力分布を調整した。この状態で11000m分のフィルム巻取搬送を行い、酸化アルミニウム膜付きフィルムを形成した。蒸着の終了の際はシャッタ装置51を閉じ、酸素の導入を停止し、金属材料8への電力投入も停止した。その後フィルムの搬送を止め真空チャンバ41内を放圧した。
【0068】
蒸着終了後、取り出したシートを透過率計で計測した結果、透過率は、シート幅方向での平均値が約53[%]となっており、最大が57[%]、最小が49[%]と、ばらつきが10[%]の範囲内で、ほぼ均一であった。その後透過型電子顕微鏡で観察した結果、酸化アルミニウム薄膜の膜厚は、シート幅方向の9点等分割されたいずれの区画においても100±10[nm]の範囲内であった。かかる9点等分割された各区画における酸化アルミニウム薄膜の膜厚を図10に示す。
【0069】
[実施例2]
図8、図9に示す装置を利用し酸素導入口条件を以下に示すように変更した以外は実施例1と同様に成膜を行った。なお、本実施例では、一本の管状部材に複数の酸素導入口12−m〜oを設け、それらが適した高さで開口するようにした。
【0070】
<酸素導入口条件>
・シート幅方向の中央部の酸素導入口12−mの蒸発源からの高さ:160[mm]
・シート幅方向の端部の酸素導入口12−nの蒸発源からの高さ:270[mm]
・シート幅方向の端部の酸素導入口12−oの蒸発源からの高さ:320[mm]
・各酸素導入口の内径および形状:直径2[mm]の円(内側断面積:約3.14[mm])
・酸素導入口を備える管状部材20の材質:ステンレス
・隣接する酸素導入口間の距離:105[mm]
・酸素導入口を有する管状部材20を設けた位置:蒸発源のシート搬送方向に対して巻出側および巻取側
蒸着終了後、取り出したシートを透過率計で計測した結果、透過率は、シートの幅方向での平均値が約53[%]となっており、最大が59[%]、最小が49[%]と、ばらつきが10[%]の範囲内で、ほぼ均一であった。その後透過型電子顕微鏡で観察した結果、酸化アルミニウム薄膜の膜厚は、シート幅方向の9点等分割されたいずれの区画においても100±10[nm]の範囲内であった。かかる9点等分割された各区画における酸化アルミニウム薄膜の膜厚を図11に示す。
【0071】
[比較例1]
酸素導入口の蒸発源からの高さをシート幅方向で同じ高さにした以外は実施例1と同じ条件、同じ方法で成膜を行った。なおシート幅方向の酸素導入口の蒸発源からの高さは160[mm]で統一した。
【0072】
蒸着終了後、取り出したシートを透過率計で計測した結果、透過率は、シートの幅方向での平均値が約63[%]となっており、最大が75[%]、最小が53[%]と、ばらつきが10[%]の範囲内に収まらず、特に端部の透過率が高かった。その後、透過型電子顕微鏡で観察した結果、シート幅方向の9点等分割された区画における酸化アルミニウム薄膜の膜厚のばらつきは、85±20[nm]の範囲内であった。シート幅方向の端部の膜厚が薄いという結果が見られた。また、かかる9点等分割された各区画における酸化アルミニウム薄膜の膜厚を図12に示す。
【0073】
[比較例2]
図4、図5に示す装置を利用し、酸素導入口条件を以下に示すように変更した以外は実施例1と同様に成膜を行った。なお、本実施例では、一本の管状部材20に複数の酸素導入口21を設け、それらが同じ高さで開口するようにした。
・シート幅方向の酸素導入口21の蒸発源からの高さ:160[mm]
・酸素導入口21の内径および形状:直径2[mm]の円(内側断面積:約3.14[mm])
・酸素導入口21を備える管状部材20の材質:ステンレス
・隣接する酸素導入口間の距離:15[mm]
・酸素導入口21を有する管状部材20を設けた位置:蒸発源のシート搬送方向に対して巻出側および巻取側
蒸着終了後、取り出したシートを透過率計で計測した結果、透過率は、シートの幅方向での平均値が約63[%]となっており、最大が78[%]、最小が54[%]と、ばらつきが10[%]の範囲内に収まらず、特に端部の透過率が高かった。その後透過型電子顕微鏡で観察した結果、シート幅方向の9点等分割された区画における酸化アルミニウム薄膜の膜厚のばらつきは92±12[nm]の範囲内であった。かかる9点等分割された各区画における酸化アルミニウム薄膜の膜厚を図13に示す。
【0074】
実施例1、2と比較例1、2とを比較すると、シート幅方向で均一な透過率および膜厚になっており、端部の膜厚も良好になっているのがわかる。すなわち、従来技術にかかる態様では、中央部と比較して端部の膜厚が所望の膜厚に対して約30[%]薄いのに対し、本発明にかかる態様では、シート幅方向端部の膜厚も所望の膜厚に対して薄くなっておらず、本発明の効果を確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、金属酸化物薄膜付きシートの製造に好適であるが、金属材料と反応性ガスを反応させた薄膜をシート上に蒸着する方法にも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施形態の概略断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の別の概略断面図である。
【図3】本発明の一実施形態における蒸気の飛翔部位の拡大図である。
【図4】従来技術の金属酸化物薄膜付きシートの製造方法の概略構成図である。
【図5】図4における酸素導入口部分の拡大図である。
【図6】本発明の一実施形態の概略断面図である。
【図7】図6に実施形態における別の概略断面図である。
【図8】本発明における一実施形態の概略図である。
【図9】本発明における構成の別の一例の概略図である。
【図10】実施例1における膜厚測定の結果である。
【図11】実施例2における膜厚測定の結果である。
【図12】比較例1における膜厚測定の結果である
【図13】比較例2における膜厚測定の結果である。
【符号の説明】
【0077】
1 シート
2 原反ロール体
3 シート案内面
4 中間ローラ(巻出側)
5 中間ローラ(巻取側)
6 巻取ロール体
7 蒸発源
8 金属材料(蒸着材料)
9 金属蒸気(蒸気)
10 マスク部材
11 金属酸化物薄膜(薄膜)
12a〜o 酸素導入口
13 酸素導入口を設けた導入管
14 酸素導入方向
15 酸素導入口を設けた導入管
16 酸素分岐部
17 成膜幅
18 金属溶融幅
20 ピンホール型酸素導入口を設けた管状部材
21 ピンホール型酸素導入口
30 成膜開始点
31 成膜終了点
32 剥離点
33 巻付点
34 シート搬送方向
41 真空チャンバ
41a 巻取室
41b 成膜室
42 真空ポンプ
42a 巻取室用真空ポンプ
42b 成膜室用真空ポンプ
43 バルブ
44 ガスボンベ
45 減圧弁
46 ガス流量調整器
51 シャッタ装置
52 光学モニタ
61 アルミニウム蒸気の蒸気量の増加開始位置
62 アルミニウム蒸気の蒸発量の増加範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧雰囲気下において、シート案内面に接触しながら搬送されているシート上に、金属材料を溶融させた蒸発源から前記シートに向けて金属蒸気を飛来させると同時に、前記金属蒸気内に酸素を導入し、前記シート上に連続的に金属酸化物薄膜を形成する金属酸化物薄膜付きシートの製造方法であって、前記酸素を、シート幅方向において異なる高さの複数箇所から前記金属蒸気に導入することを特徴とする金属酸化物薄膜付きシートの製造方法。
【請求項2】
前記酸素を導入する高さを、前記金属蒸気の仮想成膜レートに応じて調整することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造方法。
【請求項3】
前記酸素を導入する高さを、前記蒸発源に収容された金属材料に投入する前記シート幅方向の電力分布に応じて独立して調整することを特徴とする請求項1または2に記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造方法。
【請求項4】
前記シート幅方向の中央部における前記金属材料への投入電力に対し、端部における前記金属材料への投入電力が1.5倍以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造方法。
【請求項5】
前記シート幅方向に関して前記金属酸化物薄膜の成膜幅が500[mm]以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造方法。
【請求項6】
前記酸素を導入する位置での前記金属蒸気の仮想成膜レートが1500[nm/秒]以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造方法。
【請求項7】
前記金属がアルミニウムであり、前記シート上に酸化アルミニウム膜を成膜することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造方法。
【請求項8】
シートと接触しながら前記シートを搬送するシート案内面を有し、前記シート案内面の運動に伴って前記シートを搬送する搬送手段と、前記シート案内面上の前記シートに向かって金属蒸気を飛散させる蒸発源と、前記金属蒸気と混和するように酸素を導入する酸素導入手段とを備え、搬送される前記シートに減圧雰囲気下で連続的に金属酸化物薄膜を形成する金属酸化物薄膜付きシートの製造装置であって、前記酸素導入手段は、複数個の酸素導入口をシート幅方向に配列して構成し、かつ前記シート幅方向の端部の前記酸素導入口の前記蒸発源からの高さが、前記シート幅方向の中央部の前記酸素導入口の前記蒸発源からの高さよりも高いことを特徴とする金属酸化物薄膜付きシートの製造装置。
【請求項9】
前記複数個の酸素導入口の前記蒸発源からの高さを、前記シート幅方向において、独立して変更可能な機構を有すること特徴とする請求項8に記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造装置。
【請求項10】
前記蒸発源に収容されている金属を蒸発させるために投入する電力を、前記蒸発源のシート幅方向に分割して投入でき、分割で投入する各電力を独立して調整可能な機構を有することを特徴とする請求項8または9に記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造装置。
【請求項11】
前記蒸発源が、シート幅方向に対して、前記金属酸化物薄膜の成膜幅の1.0〜1.3倍の幅を有することを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造装置。
【請求項12】
前記蒸発源からの前記酸素導入口の高さが、前記シート幅方向の中央部に対して端部では1.1〜1.7倍の高さであることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造装置。
【請求項13】
前記蒸発源に収容されている金属を加熱する電子銃を備えていることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の金属酸化物薄膜付きシートの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−263740(P2009−263740A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116727(P2008−116727)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】