説明

鉄キレート剤を含む医薬組成物

【解決手段】本発明は、鉄キレート剤を含む非経口投与のための医薬組成物を開示する。活性化合物は少なくとも部分的には徐放性形態である。好ましい粘性組成物は、リン脂質粒子等の徐放性粒子をさらに含んでもよく、粒子中には有効成分が組み込まれてもよい。該組成物は、神経内または髄腔内注入により、神経線維障害等の神経組織の治療および再生に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄キレート剤を含む医薬組成物に関する。より詳しくは、非経口投与に好適で、ゆっくりとした徐放性の組み込まれた活性化合物を提供することができる組成物に関する。さらなる様相において、本発明は、医薬組成物に組み込まれて徐放性をもたらすことが可能で、鉄キレート剤の送達に特に好適な、薬物担体に関する。さらに本発明は、そのような組成物、組成物が再構築され得る粉体およびキット、および組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄キレート剤は、長年、診断および治療に使用されてきた。鉄キレート剤は、それらの起源(合成的か生物学的に製造された分子)、水等の溶媒との相互作用(疎水性か親水性)または化学量論的相互作用等の、多数の基準を用いて分類することが可能である。治療に使用される鉄キレート剤の一例はデスフェリオキサミンである。例えば、医薬品であるデスフェラル(Desferal(登録商標))は、デスフェリオキサミンをメシル酸塩の形態で含む。
【0003】
デスフェリオキサミンは、輸血によるヘモジデリン沈着症、サラセミアメジャー、鉄芽球性貧血、自己免疫性溶血性貧血、および他の慢性貧血、随伴性疾患によって静脈切開が不可能な患者における特発性(原発性)ヘモクロマトーシス、静脈切開に耐えられない患者における遅発性皮膚ポルフィリン症に関連する鉄過剰等における、慢性的鉄過剰の治療に使用される。さらに、デスフェリオキサミンは、急性鉄中毒、アルミニウム関連骨疾患を伴う末期腎不全患者における慢性アルミニウム過剰、透析性脳症またはアルミニウム関連貧血の治療に適応される。
【0004】
より最近、鉄キレート剤は、神経変性の予防、ニューロン損傷の治療および神経再生の支援に有用である可能性が発見された。
【0005】
ベン−シャヒャー(Ben-Shachar)D.ら(J. Neurochem.、56巻、1991年、1441-1444頁)は、黒質線条体ドーパミンニューロンの、6-ヒドロキシドーパミン誘導変性が、鉄キレート剤であるデスフェリオキサミン(デスフェラル(Desferal))の投与によって遅延することを開示している。
【0006】
神経変性疾患、特にパーキンソン病の治療で、脳への直接注入の必要を避けるため、新規な鉄キレート剤が開発され、例えば国際特許WO 00/74664号に開示されたが、これは実質的に脂溶性が増していると考えられた。新規化合物の修飾された物理化学的特性に基づいて、これらが血液脳関門を通過できる可能性があり、従って、静脈内投与後、脳組織に浸透し、より実行可能で便利な治療方針が可能になることが提案された。他方で、新規な治療要素の開発が常に挑戦的で、時間および費用がかかり、最も重大なことには実質的な臨床的リスクに関連することはよく知られている。実際には、インビトロで、または前臨床試験においても有望な薬理的特長を有する新薬候補も、その後の臨床試験において安全で有効であると認められるものはほとんどない。国際特許WO 00/74664号に開示された化合物については、パーキンソン病または神経変性または神経再生の必要性に関するあらゆる他の状態の治療において本当に臨床的に有効であるかどうかは知られていない。
【0007】
神経再生における鉄キレート剤の薬効は、瘢痕の形成を阻害または遅延するそれらの能力に関係し得ることが、さらに主張されている。鉄キレート剤のこれらの臨床適用は、例えば国際特許WO 98/51708号および欧州特許EP 0 878 480号に開示されている。罹患組織への直接的局注を含む、あらゆる経口または注射可能な経路による投与が提案されている。
【0008】
新たな治療適応に鉄キレート剤を使用するためには、罹患組織および部位に直接投与可能で、過敏な組織または器官への頻繁な投与を避けるために有効性が持続し、好ましくは、公知かつ市販されている水溶液より有効性がはるかに長い処方製剤において、鉄キレート剤が提供されることが望ましい。
【0009】
鉄キレート剤の徐放性製剤を開発する幾つかの試みが知られている。例えば、ロウサー(Lowther)N.ら(Drug Dev. Ind. Pharm.、25巻、11号、1999年、1157-1166頁)は、n-デカンスルホン酸デスフェリオキサミン-Bの、油性の注射可能なデポー製剤を記載した。有効成分が懸濁形態で組み込まれる油性担体液剤は、胡麻油、オレイン酸エチル、および代表的には少なくとも1つの界面活性剤を含む。組成物の放出特性は、全てのn-デカンスルホン酸デスフェリオキサミン-Bが徐放性形態であることを示す。他方で、ツイーン(Tween(登録商標))80およびスパン(Span(登録商標))85等の組成物中の界面活性剤は、組織刺激を引き起こす可能性がある。さらに、インビトロにおいて懸濁液からの活性化合物の放出は約12時間に及んだが、非経口投与の反復を避けるためにはおそらく充分な長さではない。
【0010】
シュリッヒャー(Schlicher)E.J.ら(Int. J. Pharm. 153巻、1997年、235-245頁)は、デスフェリオキサミンの微粒子組成物を記載している。微粒子は、疎水性生分解性ポリマーであるポリラクチド-CO-グリコリドより製造した。しかしながら、記載された微粒子の薬物負荷(load)容量は、少なくとも数日間にわたって有効な活性化合物の用量を収容するには少なすぎる。さらに、ポリラクチド-CO-グリコリドは、分解して、微粒子内の微気候を実質的に酸性にし得る酸性反応産物になることが知られており、これにより酸に不安定なデスフェリオキサミンの分解を導き得る。
【0011】
米国特許US 2005/175684 A1号には、デスフェリオキサミン等の鉄キレート剤の標的化リポソーム組成物が開示されている。この組成物は、徐放性かつ持続的な活性を提供する能力がある。この組成物は、鉄キレート剤、1以上のベシクル形成脂質、および少なくとも1つの標的化剤を、鉄キレート剤をリポソームに封入するような方法で混合することによって製造される。続いて、リポソーム送達システムを、遠心分離または透析等の分離方法によって、全てのリポソーム封入されない鉄キレート剤から精製して、その結果、組成物はリポソーム形態の薬剤物質のみを含む。これらのリポソームの欠点は、表面上に標的化リガンドを有する滅菌脂質ベシクルの産業的製造が良好に確立されず、かつ非常に費用が掛かることが予想されることである。さらに、好ましい標的化リガンド、特にペプチドおよびタンパク質はしばしば免疫原性であるので、患者に副作用を引き起こしかねない。
【0012】
同様に、ポストマ(Postma)N.S.ら(J. Control. Rel.、58巻、1999年、51-60頁)は、リポソームに封入したデスフェリオキサミンを製造し試験した。2種類のリポソームを比較するが、第一の種類は体温で「液体」リポソームと説明され、一方リポソームの第二の種類は「剛体」と記載されている。両方の場合で、デスフェリオキサミンを含むリポソームを、先ず逆相蒸発法で製造し、その後遠心分離と洗浄を繰り返すことによって非リポソーム薬剤から分離する。マウスにおける生体内分布の研究により、ある程度の徐放性が実証されたが、組成物の適合性および治療の有効性は確立されていない。
【0013】
米国特許US 5,043,166号には、強い心毒性化合物であることが知られている、ドキソルビシン等のアントラサイクリン配糖体抗生物質の種類の細胞増殖抑制剤を負荷したリポソームが記載されている。リポソーム封入はそれ自体で薬剤物質の心毒性を低下させるが、この明細書では、親油性フリーラジカル消去剤と(デス)フェリオキサミン等の水溶性鉄キレート剤との共封入によって、さらなる心毒性の低下が達成され得ることが提案されている。補助化合物はインビボで薬剤物質による過酸化脂質損傷を低下させることが望まれる。さらにこの明細書では、各リポソームの、従来のフィルム法を用いた製造方法が教示されている。製造後、リポソームは濾過膜を通して押し出すことによってサイズ分けし、遠心分離、限外濾過、ゲル濾過、または最終的な組成物が封入された有効成分のみを含む効果を有するイオン交換樹脂での処理によって、封入されない有効成分を除去する。
【0014】
同様に、米国特許5,023,087号には種々の活性化合物に徐放性を与えるリポソームが開示されている。毒性の一部を低減することによって組成物の耐性を高めるために、保護剤としてデスフェリオキサミン等の鉄キレート剤を付加的に組み込むことが再度提案されている。さらに、リポソームは筋肉内および/または皮下投与に適している。リポソームの製造方法は、米国特許5,043,166号に教示されたものと同様である。製造方法は、封入されない活性剤から精製され、組み込まれた化合物を注射後にゆっくり放出する、薬剤および保護剤を負荷したリポソームの提供を意図する。
【0015】
従って、鉄キレート剤の非経口投与のための改良された組成物がなお必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明の目的は、既知組成物の不利点および制限を有しない、鉄キレート剤の送達に好適な医薬組成物を提供することである。別の目的は、反復投与を要せず、非経口投与に好適で、損傷した神経組織の治療に有用な、鉄キレート剤を組み込む組成物を提供することである。他の目的は、そのような組成物の製造方法、および使用に先立って再構築されて組成物を得ることが可能な粉体およびキットを対象にする。さらなる目的は、以下の記述および特許請求の範囲に基づいて明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、生理学的に許容される鉄キレート剤の群より選択される活性化合物を含む、非経口投与のための医薬組成物であって、少なくとも活性化合物の一つの画分が徐放性形態で組み込まれた組成物が提供される。この組成物は、即放性形態で組み込まれた、活性化合物の第二の画分を含むことをさらなる特徴とする。別の態様において、組成物は、室温での高粘度および粘弾性挙動をさらなる特徴とする。
【0018】
好ましい鉄キレート剤の一つはデスフェリオキサミン(DFO)であり、これはヒトの治療において有効な鉄キレート剤であることが知られており、鉄中毒の治療に使用されてきた。別の好ましい鉄キレート剤は、デスフェラシロックスである。デスフェリオキサミンおよびデスフェラシロックスは、デスフェリオキサミンの場合のメタンスルホン酸塩等、薬学的に許容される塩の形態で組み込まれ得る。
【0019】
組成物に含まれる鉄キレート剤の少なくとも一つの画分は、徐放性形態として組み込まれる。好ましい態様の一つでは、鉄キレート剤の別の画分は、即放性形態として存在する。徐放性の特徴は、高分子微粒子または脂質粒子等の徐放性粒子内に各薬剤画分を組み込むことによって達成し得る。
【0020】
好ましい態様の一つにおける組成物の特徴は、比較的、粘度が高いことであり、非経口投与用の代表的な水性組成物の粘度より実質的に高い。粘度が高いことは、組成物の投与部位での滞留時間を延ばし、それによって効果を増強するのに有用であり得る。
【0021】
該組成物は、病変内、神経内、髄腔内、くも膜下腔内または髄内投与等の、神経組織内部への直接投与に特に有用である。好ましい使用の一つは、損傷神経内への投与であり、組織再生を促進または瘢痕形成を遅延する。
【0022】
安定性の理由で、凍結乾燥粉末等の乾燥形態で組成物を提供および貯蔵することが好ましいことがある。投与に先立ち、組成物はこのような粉末から好適な液体担体で再構築され得る。粉末、および任意に液体担体は、医薬キットの一部であり得る。
【0023】
本発明は、生理学的に許容される鉄キレート剤の群より選択される活性化合物を含む、非経口投与のための医薬組成物を提供する。少なくとも活性化合物の一つの画分は徐放性形態で組み込まれる。組成物はさらに、即放性形態で組み込まれる活性化合物の第二の画分を含む。別の態様において、組成物は、室温での高粘度および粘弾性挙動をさらなる特徴とする。動粘性係数は通常用いられる粘度の形態であり、しばしば単に粘度と略される。単位は、SI単位のパスカル秒(Pa s)、またはポアズ(P)である。
【0024】
チキソトロープ液体は、剪断ひずみ率の変化に関連したものより、より長い期間にわたって、剪断ひずみ率に対して時間依存性の応答を示す。それら液体は、攪拌されている時は液化し得るが、攪拌をやめると固化し得る(または固化しない)。
【0025】
粘度、粘弾性およびチキソトロピー挙動を、ARES-ARレオメータのような回転レオメータによって測定する方法は、例えば、アルフレッドN.マーティン(Alfred N. Martin)、ジェームス・スワーブリック(James Swarbrick)およびアートゥ・キャメラタ(Arthur Cammerata)による物理薬剤学(Physical Pharmacy)において詳細に記載されている。S.R.ヴァン・トンメ(van Tomme)らは、レオロジー特性、粘度を測定する方法を記載しているが、この方法は本発明において使用することができる(生体材料(Biomaterials)、26巻(2005年)、2129-2135頁)。それぞれの開示は、参照することによって組み込まれる。
【0026】
さらなる様相において、生理学的に許容される鉄キレート剤の群から選択される活性化合物を負荷した徐放性粒子の、液体またはゲル型の水性懸濁液の形成を含む方法によって得られる、医薬組成物が提供される。この方法は、徐放性粒子に組み込まれないかまたは徐放性粒子に関連しない、溶解した活性化合物を、負荷した徐放性粒子から除去する工程がないことを、さらなる特徴とする。
【0027】
本書では、活性化合物は、体の疾病、症状および他の状態の診断、予防または治療に、または体の機能に影響を与えるのに有用な、化学的または生物学的物質または物質混合物である。本発明の組成物は、少なくとも1つ、および任意に2以上のこのような活性化合物を含む。活性化合物の同義語として使用され得る他の表現は、薬剤、薬剤物質、有効成分、活性剤等である。
【0028】
活性化合物、または、2以上の活性化合物が存在する場合は少なくとも1つの活性化合物は、生理学的に許容される鉄キレート剤である。生理学的に許容されるとは、主として、鉄キレート剤が目的の用途に照らして安全でかつ耐えられることを意味する。これは、化合物の副作用がないことを意味するものではなく、副作用が、患者が化合物から受ける利益に照らして許容されると思われることを意味する。
【0029】
キレート化剤またはキレート剤は、その分子がパートナー分子と、キレート等の複合体を形成する能力がある物質である。鉄キレート剤は、特に鉄イオンを、しばしば他の金属イオンをもキレートし、従って鉄の活性を弱める能力がある。例えば、デスフェリオキサミン等の鉄キレート剤は、鉄中毒の場合に鉄の毒性を減じるために使用することができる。
【0030】
いくつかの鉄キレート剤が知られており、治療目的で提案または使用されている。例えば、鉄キレート剤は、酵素プロリル-4-ヒロドキシラーゼの阻害剤;N-オキザログリシン;5-アリールカルボニルアミノ-または5-アリールカルバモイル-誘導体、2-カルボキシレート、2,5ジカルボキシレート、それらのエチルエステルまたはエチルアミドまたは-5-アシルスルホンアミド、2,4-ジカルボキシレート、それらのエチルエステルまたはエチルアミド、またはジメトキシエチルアミド等の、ピリジン誘導体;5 アミノ-6-(1H)-オン、1,6-ジヒドロ-2-メチル-6-オキソ-5-カルボニトリル等の、3,4ビピリジン;5,5'-ジカルボン酸またはその薬学的に許容される塩、4,4'-ジカルボン酸エチルエステルまたはエチルアミド等の、2,2'-ビピリジン;そのジエチルエステル等の3,4'-ジヒドロキシベンゾエート;プロリンおよびその構造的および機能的アナログ;β-アミノプロピルニトリル;デスフェリオキサミン;デスフェラシロックス;アントラサイクリン系;2,7,8-トリヒドロキシアントラキノン系、フィブロスタチン-C;クマリン酸またはその薬学的に許容される塩;および5-オキサプロリンの群から選択され得る。
【0031】
最近、鉄キレート剤が神経損傷の治療および神経再生の支援に有用であり得ることが発見された。この治療指標における鉄キレート剤の薬効は、それらの瘢痕形成を疎外または遅延する能力に関係すると考えられている。さらに、現在のところ、瘢痕形成に対する鉄キレート剤の阻害効果は、コラーゲン形成に関与する鉄依存性酵素、特にプロリル-4-ヒドロキシラーゼの阻害によって媒介され得ると推測されている。神経損傷の治療のための鉄キレート剤の使用は、例えば、国際特許WO 98/51708号に開示されており、その教示は参照することにより完全に本書に組み込まれる。
【0032】
好ましい態様の一つにおいては、鉄キレート剤はデスフェリオキサミン、またはその塩、誘導体、異性体または溶媒和物である。別の好ましい態様では、鉄キレート剤は、デスフェラシロックス、またはその塩、誘導体、異性体または溶媒和物である。デスフェラシロックスは、4-[3,5-ビス(2-ヒドロキシフェニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]安息香酸である。デスフェリオキサミン(N-[5-(3-[(5-アミノペンチル)-ヒドロキシカルバモイル]-プロピオンアミド)ペンチル]-3-([5-(N-ヒドロキシアセトアミド)-ペンチル]-カルバモイル)-プロピオノヒドロキサム酸)は、Fe3+の電子と配位する電子を提供する、多数のカルボニルおよびヒドロキシル基を有する。この化合物は、鉄を1:1の割合でキレートする。デスフェリオキサミンの、Fe2+等の2価イオンへの親和性は、実質的により低い。
【0033】
(モノ)メタンスルホン酸デスフェリオキサミンは、メシル酸デスフェリオキサミンとも言われるが、輸血によるヘモジデリン沈着症、サラセミアメジャー、鉄芽球性貧血、自己免疫性溶血性貧血、および他の慢性貧血、随伴性疾患によって静脈切開が不可能な患者における特発性(原発性)ヘモクロマトーシス、静脈切開に耐えられない患者における遅発性皮膚ポルフィリン症に関連する鉄過剰等における、慢性的鉄過剰の治療のための製品デスフェラル(Desferal(登録商標))の形態で市販されている。さらに、デスフェリオキサミンは、急性鉄中毒、アルミニウム関連骨疾患を伴う末期腎不全患者における慢性アルミニウム過剰、透析性脳症またはアルミニウム関連貧血の治療に適応される。
【0034】
好ましくは、メタンスルホン酸デスフェリオキサミンは、本発明の鉄キレート剤として選択される。また、デスフェリオキサミンの塩化物、スルホン酸塩、硫酸塩、メシル酸塩、n-デカンスルホン酸塩、およびエンボン酸塩等の、デスフェリオキサミン他の塩も好ましい。
【0035】
メタンスルホン酸デスフェリオキサミンは、非常に親水性が高く、高水溶性で難脂溶性である。酸性水溶液中ではやや不安定である。ヒトにおいて、筋肉注射後の血流中の見かけの半減期は、初期は約2.4時間であり、末期の半減期は約6時間である。経口投与後は吸収されにくく、経口バイオアベイラビリティは約2%しかないことが特徴である。
【0036】
メタンスルホン酸デスフェリオキサミンが鉄キレート剤として選択される場合、本発明の組成物における含有量は、好ましくは少なくとも約0.1%(w/w)であり、例えば約0.1%(w/w)〜約50%(w/w)等である。より好ましくは少なくとも約1%(w/w)であり、例えば約1%(w/w)〜約30%(w/w)等である。現在、別の好ましい含有量は、少なくとも約5%(w/w)であり、例えば約5〜約25%(w/w)等、および約20%(w/w)等である。
【0037】
任意に、組成物は1以上のさらなる有効成分を含み得る。別の活性化合物が存在する場合、そのようなさらなる化合物は、コラーゲン合成阻害剤である、コラーゲンIV、ラミニンおよび/またはエンタクチンに対する親和性を有する抗体;神経組織の成長を刺激する化合物である、SDF-1族由来のケモカイン、特にSDF-1γ、よりなる群から選択されることが好ましい。このような化合物は、鉄キレート剤の効果に対して、類似、補完性または相乗効果を生じる可能性を有していてもよく、それぞれの薬物の組み合わせは、本発明の組成物の好ましい使用の一つであるが、例えば、神経組織損傷の治療において有用であろう。
【0038】
該組成物は非経口投与に適している。本書では、非経口投与は、皮下(subdermal)、皮内、皮下(subcutaneous)、筋肉内、局所領域内、腫瘍内、腹腔内、組織(間質)内、病変内、静脈内、動脈内、神経内、髄腔内、くも膜下腔内、または髄内投与等の、あらゆる侵襲的投与経路を含む。さらに、投与は、注射、注入、挿入、または移植によって行われ得る。本発明の組成物の好ましい投与形態は、病変内、神経内、髄腔内、くも膜下腔内、または髄内注射等の、神経組織内への注射によるものである。
【0039】
組成物に組み込まれる鉄キレート剤の少なくとも一つの画分、および任意に全ての鉄キレート剤は、徐放性形態である。より好ましくは、徐放性形態の画分は、組み込まれた鉄キレート剤全量より少ない。徐放とは、本書では、あらゆるタイプの持続(slow)放出と理解され、しばしば、制御放出、持続(prolonged)放出、持続(extended)放出、遅延放出などとも言われる。長期にわたる薬剤放出の様相は、例えば、放出期間の初期により速く、終点に向かってより遅く、またはその逆等、直線性または非直線性であり得る。
【0040】
徐放性形態であることは、鉄キレート剤の各画分が、投与後、ゆっくり放出されるように製剤化および/または加工されることを意味する。徐放性の特性は、一般に知られている製剤化方法および技術によって達成され得るが、下記にいくつかをさらに記載する。
【0041】
好ましい態様の一つでは、徐放性形態の鉄キレート剤は、投与後少なくとも約24時間の期間にわたって組成物から放出される。より好ましくは、徐放性用量の画分は、少なくとも約48時間にわたり、または少なくとも約72時間にわたり、放出される。組成物が損傷した神経の治療を目的とする場合、および、単回投与で所望の治療効果を達成することを目的とする場合、鉄キレート剤は、病変の大きさおよび病変辺りの注射部位の数等の種々の要素によるが、少なくとも約4日間、または少なくとも約5日間または1週間にもわたり、放出される。さらなる態様では、放出様相を適応させて、少なくとも約2週間、3週間、または4週間にもわたって放出させる。理論に拘泥しないが、鉄キレート剤の徐放は、病変での神経組織の再生および成長を阻害しない、瘢痕形成の充分な遅延を達成するために適用され得るか、適用すべきである。
【0042】
鉄キレート剤の放出は、インビボでは簡単には測定されない。従って、薬剤放出の好ましい期間は、緩衝液または注射用水等の適切な媒質を用い、適切な方法により37℃で、インビトロで測定した放出様相を参照する。例えば、以下の方法を用いて、徐放性粒子を含む組成物からのインビトロでの放出を測定する。
【0043】
組成物のサンプル2gを、注射用水18gで希釈する。得られる分散液を、6倍量(120g)の注射用水で膜分離により洗浄し、約99.5%の遊離の、即ち、粒子に関連せず、または封入されない、有効成分を除去する。洗浄された分散液の10mlを取り、バイアル充填し、37℃でインキュベートする。バイアルをサンプル抽出し、遊離の有効成分、および、粒子に関連するかまたは封入された有効成分を分析する。
【0044】
本発明者らは、徐放性形態の鉄キレート剤の画分を提供することに加えて、ある量の即放性形態の活性化合物をも提供することが非常に有益であることを、さらに発見した。即放とは、本発明の文脈においては、投与して最初の12時間以内の放出、より好ましくは投与して最初の6時間以内の放出、さらには最初の2時間以内と理解されるべきである。特に、活性化合物の一つの画分は、投与される組成物の粘性水性液相中に溶解し、リポソーム等の徐放性粒子内に封入されないかまたは関連しない場合、即放性形態である。このような即放性形態の活性化合物の画分は、活性化合物を負荷した徐放性粒子を含む組成物が、繰り返しの洗浄および遠心分離、濾過、透析、またはクロマトグラフィー等によって、負荷した粒子から粒子に封入されない活性化合物を除去する工程なしで製造される場合、典型的には存在する。あるいは、活性化合物を負荷した徐放性粒子を既に含む組成物中に活性化合物を溶解することにより、または活性化合物を負荷した徐放性粒子を活性化合物の溶液と混合することにより、即放性画分を含む組成物を得ることが可能である。誤解を避けるためであるが、該組成物および/またはそこに含まれる徐放性粒子を濃縮する目的での単回の遠心分離工程は、溶解した活性化合物の除去または分離工程に相当しない。
【0045】
一つの態様では、組成物は、約5% (w/w)〜約80% (w/w)の、徐放性形態の組み込まれた活性化合物を含み、その結果、約20% (w/w)〜約95% (w/w)の、即放性形態の活性化合物を含む。別の態様において、徐放性画分の即放性画分に対する重量比は約1:1以下である。
【0046】
好ましい態様の別の特徴は、組成物が室温(好ましくは約20℃)で粘弾性を有するように調節されることである。粘弾性は、親水コロイドの、種々の強度のゲルを形成する能力であり、強度はその構造、濃度、イオン強度、pHおよび温度に左右される。一体となった粘度とゲル挙動は、物質の動きに対して振動力が有する効果を測定することによって調べることができる。
【0047】
理論に拘泥しないが、本発明の組成物の粘弾性および高粘度により、投与部位での滞留時間を延長することが可能であり、組成物の持続効果を増強し得ると考えられる。従って、活性剤の少なくとも一部の徐放性および注射部位での粘度による滞留は、損傷した神経または脊髄等の、治療される組織領域での持続する治療活性と相乗的に影響し得る。
【0048】
組成物の動粘性は、室温で約5 mPa*s以上、または、約10 mPa*s以上、さらには20 mPa*sであることが好ましい。さらなる態様において、組成物の動粘性は、約50 mPa*s以上であり、または約100 mPa*s以上である。
【0049】
組成物は、さらに、粘弾性ゲルとして製剤化されるが、このことは、粘度が非常に高いので、わずかなせん断力のみが作用する場合、物質が弾性固体のように振舞い、せん断力が降伏点として規定した閾値を超過する場合には粘性液体のように振舞うことを意味する。ゲルは、限定された、通常かなり小さい降伏応力を伴う、半固体系である。
【0050】
粘度の増加による薬効は、組成物を適応して、せん断薄化(シヤスィニング(shear-thinning))挙動を有することにより、さらに増強される可能性がある。せん断薄化(シヤスィニング)とは、物質がせん断応力の増加に応じて、粘度が小さくなることを意味する。また、せん断薄化(シヤスィニング)は、時に偽塑性挙動とも言われる。投与目的において、粘性液体または降伏点を超えるゲルのせん断薄化(シヤスィニング)挙動は、組成物が過度の力を要せずに容易かつ迅速に注射できることを意味するので、非常に有用である。水系におけるせん断薄化(シヤスィニング)挙動は、(任意に架橋した)ポリアクリレート、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、またはアルギナート等の、ある賦形剤によって誘導されることが知られている。
【0051】
別の様相において、組成物は好ましくはせん断薄化(シヤスィニング)性であり、同時にチキロトロピックであり、このことは、せん断応力を適用した後に、元来の粘度またはゲル強度が回復するのに時間がかかることを意味する。このような挙動は、再度理論に拘泥しないが、例えば、反対に荷電した成分間、例えば、分子、コロイド、粒子等の間の静電相互作用を用いることによって達成され得る。例えば、メシル酸デスフェリオキサミン等の陽イオンキレート剤塩を、例えばホスファチジルグリセロール等の陰イオン性に荷電した脂質等の、陰イオン性荷電粒子と組み合わせ得る。デスフェリオキサミンと脂質または脂質粒子との間の静電相互作用は、少なくとも部分的には適応されたせん断応力で妨害される可能性があり、せん断応力の除去後、流れている状態から回復することにより相互作用が再度形成され、粘度が増加し得ると考えられる。再度であるが、このような挙動は、投与部位での滞留時間が長いが、なおシリンジに充填しやすい、即ち比較的注射が容易な、高粘度組成物、さらには静止時にゲル様の組成物の投与を可能にするために、有用であり得る。
【0052】
本発明によれば、組成物中に組み込まれた鉄キレート剤の用量の少なくとも一画分は、徐放性形態である。製剤化の熟練者には、徐放性形態の鉄キレート剤を製剤化する、多数の技術が知られている。例えば、ゲル製剤は、徐放性の活性化合物を提供し得る。種々の種類の注射可能なゲル組成物が過去に記載されており、鉄キレート剤を組み込むために使用および適応され得る。
【0053】
知られている概念の一つでは、高分子ゲル製剤は、高せん断薄化(シヤスィニング)およびチキソトロピックとなるように設計される。投与前にせん断応力を適用することによって、これらのゲルの粘度を実質的に低下させ、相対的に細い針での注射が可能になり、一方、ゲル強度は投与後に回復する。別の概念によれば、液体組成物は、投与後に、pH、温度、イオン強度等の環境の変化に応じてゲルを形成するように製剤化される。第三のアプローチでは、非水性溶媒を含む液体高分子製剤が注射される。投与に際して、溶媒は注射部位から拡散し、高分子性粒子が沈積するか、ゲルが形成する。生分解性の注射可能なゲルが、A.ハテフィ(Hatefi)ら、ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース(Journal of Controlled Release) 80巻 (2002年)、9-28頁において詳細に論じられたが、この文献は参照することにより、本書に組み込まれる。
【0054】
注射可能なゲルの別のタイプは、添加剤であるイソ酪酸酢酸スクロースに基づいて製剤化され得る。各添加剤および製剤技術は、セイバー(登録商標)(SaberTM)として知られている。組成物は、投与のために液体状態であることから、初めに、少量の薬学的に許容される有機溶媒を含む。投与後、溶媒は組成物から迅速に吸収され、その後組成物は固まってゲルとなる。
【0055】
組成物が、ゲル形態または投与時にゲルに変換される液体の形態であるように選択される場合、組み込まれる鉄キレート剤は、ゲル中の活性化合物の拡散が遅いため、初期にはゆっくりと放出される。活性化合物と、ゲルまたはあらゆるその成分とのさらなる相互作用が、鉄キレート剤の放出をさらに遅くし得る。
【0056】
別の具体例によれば、鉄キレート剤の少なくとも一つの画分は、徐放性粒子の内部に製剤化されるか、徐放性粒子内に封入されるか、または徐放性粒子と関連する。好ましくは、この画分の用量は、例えば総用量の約5〜約80%(w/w)等、組み込まれる全用量よりも少ない。他の態様において、徐放性粒子内部に組み込まれるか徐放性粒子に関連する画分の用量は、約10〜約50%(w/w)、または約15〜約30%(w/w)である。
【0057】
本書では、粒子は、その形状、組成、または内部形態にかかわらず、固体、半固体または液体物質の小さな物と定義される。コロイドのサイズ範囲の小さい粒子については、固体、液体および半固体状態の間の明確な区別は可能または適当でないかもしれない。本発明の組成物において徐放性粒子として有用な粒子は、以下の1つ以上に相当し得る:高分子、脂質、または糖脂質の微粒子またはナノ粒子、リポソーム、ニオソーム、ミセル、逆ミセル、および架橋ミセル。
【0058】
本書では、微粒子は、その組成、幾何学的形状、または内部構造にかかわらず、約0.1μm〜約1,000μm、通常は約1μm〜約500μmの範囲の、重量または容量平均径を有する、実質的に固体または半固体粒子として定義される。例えば、球形の微粒子は、しばしばミクロスフェアと呼ばれるが、マイクロカプセル等の単なるカプセル構造として、微粒子という用語に包含される。上記で定義したような微粒子を記述する同義語が、他にいくつか存在し得る。
【0059】
ナノ粒子は、通常、約1〜約1,000nmの範囲の、数−、重量−または容量平均径を有するあらゆる粒子として理解される。再度であるが、この用語は、その組成、幾何学的形状、または内部構造にかかわらず用いられる。ナノスフェアおよびナノカプセルは、ナノ粒子の例である。
【0060】
液体粒子は、組成によって特徴付けられる粒子のカテゴリーである。そのサイズにより、脂質粒子もまた、ミクロまたはナノ粒子として分類され得る。脂質粒子は、特定の形態を必要としない。
【0061】
リポソームは、脂質粒子の一種に相当する。より正確には、リポソームは種々のサイズおよび構造の、人工脂質二分子膜小胞である。単層ベシクル(小胞)は、水性空隙を取り囲む1枚の脂質二重層によって規定されるリポソームである。対照的に、オリゴ−または多層ベシクルは、何枚かの膜を含む。代表的には、膜はおよそ3〜5nmの厚さであり、天然または合成起源のリン脂質等の、両親媒性脂質から成る。任意に、膜の特性は、ステロールまたはコール酸誘導体等の他の脂質を組み込むことによって修飾される。相転移温度の低い(即ち、体温未満の)リン脂質による、特に柔軟な膜を有するリポソームは、時にトランスフェルソームと称される。
【0062】
リポソームは、その直径および二分子膜の数によって、多重膜ベシクル(MLV、2以上の二分子膜、代表的には約150〜200nm以上)、小さな一枚膜ベシクル(SUV、一枚の二分子膜、代表的には約100nm未満)、多胞ベシクル(MVV、一つの大きなベシクル内部にいくつかの小胞(ベシクル)構造)、および大きな一枚膜ベシクル(LUV、一枚の二分子膜、代表的には約100nmより大きい)にも分類され得る。
【0063】
好ましい態様の一つにおいて、有効成分は、粘弾性ゲルの形態である水相中に分散されたベシクル形成脂質の内部に封入されるか、ベシクル形成脂質に関連する。いずれかまたは全てのベシクル形成脂質が、実際にゲル型組成物においてリポソームの形態で存在することは必須ではないことに注目すべきである。例えば、脂質は、コロイド構造に関連する活性化合物の分子に徐放性効果を奏する能力もある、リポソーム以外のコロイド構造を形成し得る。任意に、ゲル型組成物は、脂質ベシクルおよび他のコロイド構造をも同時に含み得る。
【0064】
リポソームおよび他の脂質粒子を製造し、有効成分を組み込む、種々の方法が通常使用され、それらの方法としては、フィルム法、超音波処理、界面活性剤透析、エタノール注射、エーテル注入、逆相蒸発、押出し、および高圧ホモジナイズ法が挙げられる。これらの方法、得られる産物およびそれらの特性は、制御薬物送達辞典(Encyclopedia of controlled drug delivery)(ジョン・ウイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)、1999年)の1巻、461-492頁の、カービー(Kerby)らのリポソーム(Liposomes)により詳細に記載されており、参照することにより、本書に組み込まれる。
【0065】
脂質ナノ粒子は、しばしば固体脂質ナノ粒子(SLN)と呼ばれるが、ベシクル(小胞)構造を持たないコロイド粒子である。脂質ナノ粒子は、脂質または糖脂質添加剤を基礎とし、種々の脂溶性または水難溶性活性化合物を負荷することができる。これらの粒子を製造する、通常の方法の一つは、高圧ホモジナイズ法である。
【0066】
ミセル、逆ミセルおよび混合ミセルは、種々の形状および代表的には約5〜約100nmの長さまたは直径を有する、特に小さなコロイド構造であり、界面活性剤等の両親媒性分子の関連により形成される。リポソームと対照的に、これらの構造は、より不安定で拡散時に分解される傾向がある単分子層を基礎とする。ミセルは架橋されて安定なナノ粒子を形成し得る。ミセルについてのさらなる詳細は、例えば、国際特許WO 02/085337号および欧州特許EP-A 730 860号に開示されており、これらの教示は参照することにより本書に組み込まれる。
【0067】
ニオソームは、ベシクル(小胞)膜が、イオン成分の代わりに、非イオン性両親媒性化合物で大部分が構成されること以外は、リポソームに類似したコロイド構造である。
【0068】
好ましくは、徐放性粒子の平均径は、本発明の組成物中に存在する場合、約50nm〜約100μm、より好ましくは約100nm〜約50μmより選択される。本書では、平均粒子径は、特に明記しない場合、レーザー回折または光子相関分光法または同等の方法によって測定した、試料の数平均径を示す。
【0069】
粒子が、鉄キレート剤の少なくとも一つの画分の徐放性を提供するために選択される場合、これらの粒子が少なくとも部分的に水で構成される液相中に分散されることも好ましい。水に加えて、液相は、1以上の薬学的に許容される溶媒、例えばエタノール、アセトン、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、酢酸エチル、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、またはジメチルホルムアミド等の、さらなる液体成分を含み得る。しかし、より好ましくは、液体は水のみである。一方、水相は、溶質、および任意に、例えば、溶解した有効成分、溶解した賦形剤、または懸濁した有効成分等の、他の粒子を含み得る。
【0070】
好ましい態様の一つにおいて、組成物は脂質粒子を含み、これは任意にリポソームである。これらの脂質粒子は、好ましくは平均径が約100nm〜約10μmであり、少なくとも非凝集形態である。別の態様では、平均径は約5μm未満である。
【0071】
脂質粒子は、好ましくは、両親媒性脂質で構成されるか、両親媒性脂質を基礎とする。リン脂質は好適な両親媒性脂質の例である。脂質粒子を構成するのに有用なリン脂質には、例えば、レシチン、水和レシチン、ホスファチジルコリン、水和ホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジラウリロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、(1-ミリストイル-2-パルミトイル)(1-パルミトイル-2-ミリストイル)ホスファチジルコリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ジオレイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジン酸、およびジパルミトイルホスファチジン酸が挙げられる。レシチンはリン脂質の混合物であり、通常、卵黄または大豆等の天然源から抽出され;また、通常、相当量の非リン脂質成分をも含有する。ホスファチジルコリンは、代表的には、レシチン由来のリン脂質の抽出画分の1つであり、主としてホスファチジルコリンを含み、卵黄由来の場合、通常多量の1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリンを共に含む。
【0072】
別の好ましい態様において、脂質粒子は、少なくとも1つの両性イオン性リン脂質および少なくとも1つの負に荷電したリン脂質を含む。これは、鉄キレート剤がデスフェリオキサミン、またはそのメシル酸塩等のデスフェリオキサミンの塩である場合に、特に有用である。有用な両性イオン性リン脂質は、例えば、ホスファチジルコリンまたはホスファチジルコリンの混合物である。有用な負に荷電したリン脂質は、また一例であるが、ホスファチジルグリセロールまたはホスファチジルグリセロールの混合物である。両性イオン性リン脂質と負に荷電したリン脂質との割合は、約1:9〜約9:1より任意に選択し得る。より好ましくは、約2:8〜約8:2であり、別の態様によれば、約4:6〜約6:4、例えば1:1である。
【0073】
理論に拘泥しないが、負に荷電したリン脂質は、正に荷電したデスフェリオキサミンと相互作用し、徐放性特性に寄与する可能性があり、また、おそらく組成物の粘度を増し、せん断薄化(シヤスィニング)および/またはチキソトロピックレオロジカル挙動を与え得ると考えられる。
【0074】
組成物中の粒子の含量は、組成物中に存在する鉄キレート剤の少なくとも一つの画分を結合し、封入し、または組み込んで、徐放性特性を与えるのに適切であるように選択されるべきである。粒子のサイズ、構造および組成によって、粒子は考慮されるべき活性化合物を負荷する種々の能力をも有し得る。代表的には、粒子は、組成物の約0.1%〜約35%(w/w)、好ましくは約10%〜約30%(w/w)、例えば、約15%、約20%、または約25%(w/w)等に相当するであろう。このことは、粒子が脂質またはリン脂質粒子である場合、かつ/または、鉄キレート剤がデスフェリオキサミンまたはその塩である場合、特に好ましい。
【0075】
現在のところ好ましい特異的な態様の一つにおいて、組成物は、約5%〜約30%(w/w)のデスフェリオキサミン塩と、約1%〜約20%(w/w)の平均径約200nm〜約5μmのリン脂質粒子を含む水性組成物であり、ここで、デスフェリオキサミン塩の少なくとも一つの画分はリン脂質ベシクルに関連し、かつ、リン脂質ベシクルは、ホスファチジルコリン等の両性イオン性リン脂質およびホスファチジルグリセロール等の負に荷電したリン脂質を含む。
【0076】
粒子の薬剤負荷量は、鉄キレート剤および粒子の性質によって、約1%〜約50%(w/w)の範囲内であり得る。特に有用な範囲は、約5%〜約25%(w/w)であり、または、特に、粒子が脂質粒子である場合、および/または、鉄キレート剤がデスフェリオキサミンまたはその塩である場合、約10%〜約20%(w/w)である。
【0077】
この文脈において、薬剤負荷量は、粒子の重量に対する、粒子内に封入されるか組み込まれるか、粒子に関連するか、または結合する、重量基準の活性化合物量である。薬剤負荷量は、粒子が分散されている液相より、例えば穏やかな遠心分離、クロマトグラフィー、濾過、膜分離、接線流濾過、または透析等によって粒子を分離し、粒子中および液相中の有効成分の量を分析することによって、測定することが可能である。
【0078】
本発明の組成物は非経口投与を目的とし、特に、病変内、神経内、髄腔内、くも膜下腔内、または髄内投与等の、神経組織内への注射を目的とするので、無菌であり、内毒素を含まないことが必要である。さらに、組成物は生理学的に許容されるpHおよび浸透圧を有することが好ましい。pHは、選択された鉄キレート剤によって、約3〜約8の間に調整され得る。可能ならいつでも、pHは約4〜約7.5の範囲内に調整されるべきであり、これは鉄キレート剤としてデスフェリオキサミンが選択された場合においても好ましい範囲である。
【0079】
浸透圧は、特に、デスフェリオキサミンまたはその塩等の、浸透圧が高い活性鉄キレート剤が高濃度必要とされる場合には、おそらく生理学的な値に調整することはできない。他方で、耐性の理由で、浸透圧は、目下、約1000 mOsmol/kg以下、例えば約400〜約800 mOsmol/kg等であることが好ましい。他方で、浸透圧は、現在、特に病変内、神経内、髄腔内、くも膜下腔内の、ある投与形態に関して耐性であることは現在のところ知られておらず、1000 mOsmol/kgより高い浸透圧でも許容される可能性がある。
【0080】
組成物は、1以上のさらなる添加剤を含み得るが、添加剤は、好ましくは、非経口投与形態に薬学的に許容される添加剤から選択される。例えば、組成物は、1以上のpH調整剤、浸透圧剤、増粘剤、ゲル化剤、抗酸化剤、ラジカル捕捉剤、保存料、界面活性剤、安定剤、溶媒、増量剤、凍結乾燥防止剤を含み得る。このような添加剤の例は、本発明の技術分野の当業者に一般的に知られている。
【0081】
さらなる添加剤の中で好ましいものは、特に塩基およびアルカリ緩衝塩より選択されるpH調整剤、および増粘剤である。また、さらなる添加剤の中で好ましいものは、要すれば、安定剤、凍結乾燥防止剤、および増量剤である。
【0082】
組成物の所望の製品性能および保管寿命を達成するため、または、組成物が保管期間を長くするために凍結乾燥が可能であるように、安定剤が必要とされる場合、このような安定剤は、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の糖類または糖アルコール類;または、デキストランまたはポリデキストラン等の多糖類;または、グリシン等の天然または合成アミノ酸;または、オリゴ−およびポリペプチドを含む、水溶性ペプチドの群より選択され得る。これらの安定剤のいくつかは、凍結乾燥組成物において、増量剤および凍結乾燥防止剤の機能も有することに注目すべきである。
【0083】
本発明の組成物は、種々の方法で製造され得る。組成物が高分子ゲルとして設計される場合、例えば、鉄キレート剤、および任意にさらなる添加剤の存在下、ラクチド−グリコリド共重合体等のそれぞれのポリマーを、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、ジアセチン、トリブチリン、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、トリエチルグリセリド、リン酸トリエチル、フタル酸ジエチル、酒石酸ジエチル、ポリブテン、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、オクタノール、乳酸エチル、プロピレングリコール、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、ブチロラクトン、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、グリセロールホルマール、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、カプロラクタム、デシルメチルスルホキシド、オレイン酸、1-ドデシルアザシクロヘプタン-2-オン、またはそれらの混合物等の、好適な薬学的に許容される有機溶媒と混合することによって製造され得る。
【0084】
注射可能なゲルの製造は、A.ハテフィ(Hatefi)ら、ジャーナル・オブ・コントロールドリリース(Journal of Controlled Release)、80巻(2002年)、9-28頁に、さらに記載されている。
【0085】
組成物が、ラクチド−グリコリド共重合体または同様に疎水性の生分解性微粒子等の、高分子徐放性微粒子を含むように設計される場合、微粒子は、例えば、溶媒留去または溶媒抽出等の、充分に記載されている、乳剤から作られる微粒子形成方法によって製造され得る。好ましくは、鉄キレート剤および任意にさらなる添加剤を含む内部水相、高分子および任意にさらなる添加剤を含む有機相、および、通常少なくとも1つの界面活性剤または高分子安定剤を含む水性連続相より、w/o/w型の二重乳剤が製造される。この二重乳剤の有機相より、その後、有機溶媒を抽出および/または留去によって除去し、ポリマーを固化して微粒子とする。
【0086】
高分子微粒子を製造する別の方法としては、噴霧乾燥、噴霧凍結乾燥、超臨界流体処理、噴霧凝固、静電集合、乳化重合、および相分離またはコアセルベーションが挙げられる。微粒子の製造方法は、制御薬物送達辞典(Encyclopedia of Controlled Drug Delivery)(E.マティオヴィツ(Mathiowitz)編、ジョン・ウイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)、1999年)の2巻、493-546頁の、E.マテオヴィツの微小封入(Microencapsulation)に詳細がさらに記載されており、参照することにより本書に組み込まれる。
【0087】
微粒子は、追加量の有効成分を、粒子を懸濁して投与する水性担体および任意にさらなる添加剤と混合することが可能であり、追加量の有効成分は、好ましくは微粒子に組み込まれた有効成分と同じであるが、任意には異なる化合物でもよい。鉄キレート剤がデスフェリオキサミンであり、微粒子が、そのまま酸性反応産物に分解される、ポリラクチド、ポリグリコリドまたはラクチド−グリコリド共重合体より製造される場合、酸に不安定な活性化合物の分解を避けるために、少なくとも1つのpH調節性または緩衝性添加剤を組み込むことが好ましいかもしれない。
【0088】
リポソーム等の脂質粒子の製造方法もまた、種々知られており、例えば、制御薬物送達辞典(Encyclopedia of Controlled Drug Delivery) (ジョン・ウイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)、1999年)の1巻、461-492頁においてカービー(Kerby)らのリポソーム(Liposomes)に記載されたものが挙げられ、これは参照することにより本書に組み込まれる。
【0089】
本発明によれば、組成物は、徐放性粒子として脂質粒子またはリポソームを含むように設計される場合、任意に水性分散液を形成するためのさらなる有効成分および/または非有効成分の存在下、1以上の粒子形成脂質、鉄キレート剤、および水を混合することによって製造することが好ましい。続いて、ウルトラトゥラックス(Ultraturrax(登録商標))または高圧ホモジナイザー等の好適な均一化手段を用いて、分散液を均一化し得る。均一化は、好ましくは高温で実施され、例えば、粒子形成のために選択された脂質の相転移温度の範囲を超える温度、または溶融温度範囲を越える温度等で実施される。
【0090】
従って、均一化温度は脂質の選択に応じて選ぶが、脂質が固体ではなく流体または液体状態であることを確認して選び得る。代表的には、温度は約0℃〜約75℃の範囲内であろうが、これは現在のところ非経口投与において薬学的に許容されると思われる多くのリン脂質が対象となるであろう。より好ましくは、温度は約20℃〜約70℃である。
【0091】
脂質粒子が鉄キレート剤の1画分のみを組み込むか結合するように設計される場合、組成物中の活性化合物の残りの画分は、粒子分散液の脂質連続相中に、溶解するか、溶解および懸濁される。
【0092】
組成物は非経口投与を意図しているので、無菌形態で供給されなければならない。これは、予め滅菌した装置、成分、および容器を用いて、無菌処理することによって達成され得る。あるいは、組成物は最終容器中で滅菌され、これは仮に実現可能である場合、好ましい選択肢である。加熱滅菌が可能でない場合、照射殺菌が好ましい。例えば、組成物は、少なくとも約15kGy、好ましくは約35kGy以上、例えば約25kGy等の用量を用いて、γ線照射によって滅菌され得る。
【0093】
製品の安定性の理由で、組成物を室温または2℃〜8℃等の冷蔵庫で保管する場合には、商業的に許容される保管寿命を達成することは実現可能でないかもしれない。この場合、組成物は、例えば−20℃の温度で凍結および保管され得る。
【0094】
別の好ましい態様において、組成物は、投与の前に液体組成物に再構築される粉体として設計される。この選択肢もまた、即使用できる組成物の安定性が限られていることに関連する問題を克服し得る。本書では、粉体は、空気中または他の気相中に浮遊する多数の細かい粒子から成る、実質的に乾燥した物質である。粉体は、凍結乾燥剤の場合によくあることだが、凝集して多孔性固体形態であり得る。この形態において、粉体はもはや自由遊動性ではないが、なお本書で規定した通りの粉体に相当する。
【0095】
粉体を製造するため、組成物は上述の方法によって液体またはゲル様形態に製造され、その後、凍結乾燥等によって乾燥する。この態様によれば、組成物が増量剤、凍結乾燥助剤および/または安定剤として働く少なくとも1つの添加剤をさらに含むことは、有用であると思われる。好ましくは、この少なくとも1つの添加剤は、組成物の連続液相に溶解する。添加剤は、好ましくは、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、キリシトール等の糖または糖アルコール;デキストランまたはポリデキストラン等の多糖類;グリシン等の天然または合成アミノ酸;およびゼラチン等の、オリゴ−およびポリペプチドを含む水溶性ペプチドの群から選択される。
【0096】
乾燥工程を、残留水分含有量が約5%(w/w)未満、より好ましくは約3%(w/w)未満であるような方法で実施することは、さらに好ましい。さらなる具体例において、残留水分含有量は約2%(w/w)未満である。このような残留水分含有量は、当技術分野における当業者に一般的に知られている通り、乾燥温度または期間等の製造パラメータを選択することによって達成され得る。
【0097】
粉体は、医薬品キットの一部として提供され得る。粉体の他に、このようなキットは、粉体から注射用組成物を再構築するための滅菌液を含み得る。
【0098】
本書の上記で述べた通り、本発明の組成物は、病変内、神経内、髄腔内、くも膜下腔内、および/または髄内注射等の、神経組織の損傷または炎症部位内への直接注射に特に有用である。このような投与は、ヒトまたは動物における神経外傷性および/または神経変性症状に関連した、急性または慢性疾病または状態の治療に、非常に有望である。このような疾病または状態は、任意に軸索損傷、脊髄損傷、脳損傷、末梢神経損傷、多発性硬化症、脳卒中、および中枢神経系の腫瘍切除に起因する、ニューロンの外傷性損傷または炎症に関連し得る。
【0099】
好ましい態様の一つにおいて、組成物は、脊髄または末梢神経損傷の治療に使用される。組成物の(病変当り)一回の投与が、神経の成長および/または再生効果に充分な期間、瘢痕阻害の所望の効果を提供するのに充分であり得ることが分かった。大きな病変に対しては、2箇所以上の注射部位を選択してより病変全体に及ぶことが有用であり得るが、本発明によれば、なお一回のみの投与として考えられる。組成物の長期継続する効果は、代表的には繰り返しの投与が必要とされないので、特に有益である。
【0100】
また、投与容量が治療効果を増強するために選択され得ることも分かっている。好ましくは、組成物は、病変の容量の約30%〜約150%の範囲の容量が注射される。より好ましくは、注射容量は、病変容量の約50%〜約100%であり、約70%等である。この態様を実施するために、病変容量を予測または測定しなければならない。病変容量の好ましい定量方法は、核磁気共鳴画像法によるものである。
【実施例】
【0101】
本発明を以下の実施例によってさらに説明する。
実施例1:メシル酸デスフェリオキサミンの粘性ゲル様組成物の製造
メシル酸デスフェリオキサミン(70g)、卵フォスファチジルコリン(17.5g)、および卵フォスファチジルグリセロール(17.5g)を秤量し、注射用水(245g)と混合した。粗混合物を水浴中、約60℃に加熱した。続いて、混合物を、高速ホモジナイザー(ウルトラテュラックス(Ultraturrax(登録商標)))を用いて均質化した。分散液は乳様であり、外見は白色またはオフホワイトであることが観察された。リン脂質に封入または関連しない、全ての溶解したメシル酸デスフェリオキサミンを除去するための洗浄または分離工程は実施しなかった。均質化された分散液を6mlのバイアルに充填し、アルミニウムキャップで栓をした。その後、バイアルを、用量25kGyのガンマ線照射によって滅菌した。
【0102】
組成物のサンプルをレーザー回折(マルヴェルン・マスターサイザー(Malvern Mastersizer(R)))によって分析したところ、平均粒子サイズは約70μmであった。PHは約4.9であり、浸透圧は1005 mOsmol/kgであった。組成物は高粘性であり、粘度は約65mPa*sであった。
【0103】
実施例2:メシル酸デスフェリオキサミン組成物の製造
実施例1に従って、有効成分の含量を低くし、2つの脂質の割合を変えて(3:1)、脂質粒子を含むメシル酸デスフェリオキサミン組成物を製造した。ここでも、リン脂質に封入または関連しない、全ての溶解したメシル酸デスフェリオキサミンを除去するための洗浄または分離工程は実施しなかった。
【0104】
実施例3:インビボでの効果の比較
4匹の雌ウイスター系ラット(200-250g)に、スコウテン(Scouten)ワイヤーナイフ(コプフ・インストルメンツ(Kopf Instruments))によって規定の機械的脊髄損傷を与えた。その後、容量20μlの実施例1で製造した組成物を、ハミルトンシリンジを用いて、各ラットの病変に注射した。
【0105】
7日後、ラットを解剖し、病変を調べた。処置したラットは全て、瘢痕形成の阻害が見られた。標識したコラーゲン抗体を含有する試薬に曝露することによって、病変に抗体が存在しないことがわかった(図3c参照)。対照的に、メシル酸デスフェリオキサミンを含まない、等価の水性脂質粒子組成物を与えられた対照動物では瘢痕が形成され、瘢痕は標識したコラーゲン抗体によって視覚化することができた(図3a参照)。通常、瘢痕は、治療しない場合、約7日間以内に形成されると予測される。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1a】図1は、プラセボ(a)、低粘度で粘弾性挙動を有しない組成物(b)、および徐放性形態で組み込まれた活性化合物の画分および即放性形態で組み込まれた活性化合物の第二の画分を含有し、高粘度および粘弾性挙動を有する本発明の組成物(c)による、7日間の処置をした後のラットの脊髄病変を示す。
【図1b】図1は、プラセボ(a)、低粘度で粘弾性挙動を有しない組成物(b)、および徐放性形態で組み込まれた活性化合物の画分および即放性形態で組み込まれた活性化合物の第二の画分を含有し、高粘度および粘弾性挙動を有する本発明の組成物(c)による、7日間の処置をした後のラットの脊髄病変を示す。
【図1c】図1は、プラセボ(a)、低粘度で粘弾性挙動を有しない組成物(b)、および徐放性形態で組み込まれた活性化合物の画分および即放性形態で組み込まれた活性化合物の第二の画分を含有し、高粘度および粘弾性挙動を有する本発明の組成物(c)による、7日間の処置をした後のラットの脊髄病変を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理学的に許容される鉄キレート剤の群より選択される活性化合物を含む、非経口投与のための医薬組成物であって、活性化合物の第一の画分が徐放性形態で組み込まれ、活性化合物の第二の画分が即放性形態で組み込まれる、組成物。
【請求項2】
生理学的に許容される鉄キレート剤の群より選択される活性化合物を含む、非経口投与のための医薬組成物であって、活性化合物の少なくとも一つの画分が徐放性形態で組み込まれ、組成物が室温で高粘度および粘弾性挙動を有する、組成物。
【請求項3】
請求項1または2の組成物であって、鉄キレート剤が、プロリル-4-ヒロドキシラーゼ阻害剤であるN-オキサログリシン; 5-アリールカルボニルアミノ-または5-アリールカルバモイル-誘導体、2-カルボキシレート、2,5ジカルボキシレート、それらのエチルエステルまたはエチルアミドまたは-5-アシルスルホンアミド、2,4ジカルボキシレート、それらのエチルエステルまたはエチルアミド、またはジメトキシエチルアミド等のピリジン誘導体; 5アミノ-6-(1H)-オン, 1,6-ジヒドロ-2-メチル-6-オキソ-5-カルボニトリル等の3,4ビピリジン; 5,5'-ジカルボン酸またはその薬学的に許容される塩、4,4'-ジカルボン酸エチルエステルまたはエチルアミド等の2,2'-ビピリジン;ジエチルエステル等の3,4'-ジヒドロキシベンゾエート;プロリンおよびその構造的および機能的アナログ;β-アミノプロピルニトリル;デスフェリオキサミン;デスフェラシロックス;アントラサイクリン;2,7,8-トリヒドロキシアントラキノンであるフィブロスタチン-C;クマリン酸またはその薬学的に許容される塩;および5-オキサプロリンの群より選択される、組成物。
【請求項4】
前項のいずれかの組成物であって、コラーゲン合成阻害剤である、コラーゲンIV、ラミニンおよび/またはエンタクチンに対する親和性を有する抗体;神経組織の成長を刺激する化合物である、SDF-1族由来のケモカイン、特にSDF-1γ、より任意に選択されるさらなる活性化合物を含む、組成物。
【請求項5】
前項のいずれかの組成物であって、鉄キレート剤が、デスフェリオキサミン、 デスフェラシロックス、またはそれらの塩、誘導体、異性体、または溶媒和物である、組成物。
【請求項6】
請求項5の組成物であって、デスフェリオキサミンの塩が、メタンスルホン酸塩(メシル酸塩)、n-デカンスルホン酸塩、スルホン酸塩、硫酸塩、塩化物、およびエンボン酸塩よりなる群から選択される、組成物。
【請求項7】
請求項6の組成物であって、デスフェリオキサミン塩を約0.1%〜約50%(w/w)、好ましくは約1%〜約30%(w/w)含む、組成物。
【請求項8】
前項のいずれかの組成物であって、徐放性形態で組み込まれる活性化合物の画分が、組成物中の活性化合物の全含有量の約5%〜約80%(w/w)である、組成物。
【請求項9】
前項のいずれかの組成物であって、徐放性形態で組み込まれる活性化合物が、37℃でのインビトロの放出試験で測定して、少なくとも48時間、より好ましくは少なくとも1週間の間、組成物から放出される、組成物。
【請求項10】
前項のいずれかの組成物であって、水相中に分散される徐放性粒子を含み、この粒子が組成物に含まれる活性化合物の少なくとも一部を負荷する、組成物。
【請求項11】
請求項10の組成物であって、粒子が約1%(w/w)〜約50%(w/w)の有効成分を含む、組成物。
【請求項12】
請求項10または11の組成物であって、粒子が、高分子、脂質または糖脂質の微粒子またはナノ粒子、リポソーム、ニオソーム、ミセル、逆ミセル、および架橋ミセルから選択される、組成物。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれかの組成物であって、粒子が、約50nm〜約100μm、好ましくは約100nm〜約50μmの範囲の平均径を有する、組成物。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれかの組成物であって、活性化合物がイオン的に帯電した化合物であり、粒子がイオン的に帯電した賦形剤を含み、かつ活性化合物の電荷とイオン的に帯電した賦形剤の電荷が逆である、組成物。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれかの組成物であって、粒子が主として、リン脂質ベシクル等のリン脂質粒子である、組成物。
【請求項16】
請求項15の組成物であって、リン脂質粒子が、レシチン、水和レシチン、ホスファチジルコリン、水和ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、およびホスファチジルグリセロールより選択される、1以上の天然または合成リン脂質を含む、組成物。
【請求項17】
請求項16の組成物であって、リン脂質ベシクルが両性イオン性リン脂質と負に荷電したリン脂質とを約1:9〜約9:1の割合で含む、組成物。
【請求項18】
前項のいずれかの組成物であって、せん断薄化(シェアスィニング)および/またはチキソトロピック挙動を有する、組成物。
【請求項19】
前項のいずれかの組成物であって、pHが約4.0〜約7.5であり、および/または、浸透圧が約1000 mOsmol/kg以下である、組成物。
【請求項20】
前項のいずれかの組成物であって、pH調整剤、浸透剤、増粘剤、ゲル化剤、抗酸化剤、ラジカル捕捉剤、保存料、界面活性剤、安定剤、溶媒、増量剤、凍結乾燥防止剤の群から選択される少なくとも一つの添加剤をさらに含む、組成物。
【請求項21】
請求項20の組成物であって、安定剤が、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の糖類または糖アルコール類;デキストランまたはポリデキストラン等の多糖類;グリシン等の天然または合成アミノ酸;およびオリゴ−およびポリペプチドを含む水溶性ペプチドより選択される、組成物。
【請求項22】
約5%〜約30%(w/w)のデスフェリオキサミン塩および約1%〜約20%(w/w)の平均径約100nm〜約50μmのリン脂質粒子を含む、非経口投与のための水溶性医薬組成物であって、少なくともデスフェリオキサミン塩の画分はリン脂質ベシクルに関連し、リン脂質ベシクルは両性イオン性リン脂質および負に荷電したリン脂質を含む、組成物。
【請求項23】
生理学的に許容される鉄キレート剤の群より選択される活性化合物を含む、非経口投与のための医薬組成物であって、該組成物が、活性化合物を負荷した徐放性粒子の水性懸濁液を形成または提供する工程を含み、徐放性粒子に組み込まれない溶解した活性化合物を徐放性粒子から分離する工程を避ける方法によって得られる、組成物。
【請求項24】
請求項23の組成物であって、粘弾性ゲルの形態である、組成物。
【請求項25】
請求項1に記載の医薬組成物の製造方法であって、活性化合物を負荷した徐放性粒子の水性懸濁液を形成または提供する工程を含み、水性懸濁液は、該徐放性粒子に組み込まれない溶解した活性化合物をさらに含み、徐放性粒子に組み込まれない溶解した活性化合物を徐放性粒子から分離する工程がないことをさらなる特徴とする、方法。
【請求項26】
請求項15の組成物の製造方法であって、
(a)キレート剤、両性イオン性リン脂質、負に荷電したリン脂質、水、および任意にさらなる添加剤を混ぜ合わせて混合物を形成する工程、および
(b)両性イオン性リン脂質および負に荷電したリン脂質の相転移温度より高い温度で混合物を均質化して、リン脂質ベシクルを含む均質化された分散液を得る工程
を含む、方法。
【請求項27】
請求項26の方法であって、工程(b)で得たリン脂質ベシクルを、分散液中に存在し、リン脂質ベシクルに組み込まれないか関連しない、すべての鉄キレート剤から分離する工程を含まないことをさらなる特徴とする、方法。
【請求項28】
請求項26または27の方法であって、工程(b)で得た均質化した分散液を、好ましくはγ線等の放射線によって、滅菌する工程(c)をさらに含む、方法。
【請求項29】
請求項1〜22のいずれかに記載の医薬組成物の製造のための粉体であって、活性化合物、少なくとも1つの固体の添加剤、および約5%(w/w)以下の残留水または溶媒を含む、組成物。
【請求項30】
請求項29の粉体であって、請求項1〜22のいずれかの組成物を凍結乾燥することによって得られる、粉体。
【請求項31】
請求項1〜22のいずれかに記載の医薬組成物の製造のためのキットであって、請求項29または30の粉体、および任意に粉体から組成物を再構築するための液体を含む、キット。
【請求項32】
病変内、神経内、髄腔内、くも膜下腔内、および/または髄内投与のための医薬を製造するための、請求項1〜22のいずれかの組成物の使用。
【請求項33】
神経外傷性および/または神経変性症状に関連する急性または慢性疾病および状態の治療用薬剤の製造のための、請求項1〜22のいずれかの組成物の使用。
【請求項34】
請求項33の使用であって、疾病および状態が、任意に軸索損傷、脊髄損傷、脳損傷、末梢神経損傷、多発性硬化症、脳卒中、および中枢神経系の腫瘍切除に起因する、ニューロンの外傷性損傷または炎症より選択される、使用。
【請求項35】
任意に軸索損傷、脊髄損傷、脳損傷、末梢神経損傷、多発性硬化症、脳卒中、および中枢神経系の腫瘍切除等に起因する、ニューロンの外傷性損傷または炎症等の、神経外傷性および/または神経変性症状に関連する急性または慢性疾病または状態に冒された、ヒトまたは動物の治療方法であって、該方法が、ヒトまたは動物に、請求項1〜22のいずれかの組成物を病変内、神経内、髄腔内、くも膜下腔内、および/または髄内投与することを含む、方法。
【請求項36】
請求項35の方法であって、投与される組成物の容量が、核磁気共鳴画像法によって測定した病変容量の約30〜150%、より好ましくは約50〜100%である、方法。
【請求項37】
請求項35または36の方法であって、大量の組成物の単回投与を含む、方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【公表番号】特表2009−507006(P2009−507006A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528537(P2008−528537)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【国際出願番号】PCT/EP2006/065952
【国際公開番号】WO2007/026028
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(508064632)ノイラクソ ビオファルマソイティカルス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【Fターム(参考)】