説明

鉄ニッケル合金

次の組成(質量%で)C 0.05〜0.5%、Cr 0.2〜2.0%、Ni 33〜42%、Mn 0.1%未満、Si 0.1%未満、Mo 1.5〜4.0%、Nb 0.01〜0.5%、Al 0.1〜0.8%、Mg 0.001〜0.01%、V 最大0.1%、W 0.1〜1.5%、Co 最大2.0%、Fe 残分および製造に不可避の添加物の鉄ニッケル合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特殊な機械的性質を有する、熱膨張率の小さい鉄ニッケル合金に関する。
【0002】
ニッケル約36%を有する鉄を基礎とする合金が20〜100℃の温度範囲内で低い膨張係数を有することは、公知である。従って、この合金は、既に数十年来、温度変化の場合でも一定の長さが要求される場所、例えば精密計器、時計、バイメタルまたはカラーテレビおよびコンピューター用モニターのためのシャドーマスクに使用されている。
【0003】
大韓民国特許第100261678号公報B1の記載から、インバール(Invar)合金線材およびその製造法を確認することができる。インバール(Invar)合金は、次の組成(質量%で)ニッケル33〜38%、コバルト0.5〜1.0%、ニオブ0.01〜1.3%、モリブデン0.5〜4%、クロム0.2〜1.5%、炭素0.05〜0.35%、珪素0.1〜1.2%、マンガン0.1〜0.9%、マグネシウム最大0.1%、チタン最大0.1%、残分鉄を有し、この場合Mo+Crの総和は、1.2〜5.0%であり、ニオブと炭素とからなる総和は、0.1〜0.6%である。
【0004】
大韓民国特許第1020000042608号公報には、強靱インバール(Invar)合金線材ならびにその製造法が開示されている。使用に供される合金は、(質量%で)窒素0.1%以下、ニオブ0.01〜0.2%、炭素0.3〜0.4%、ニッケル33〜38%、モリブデン0.5〜4%、クロム0.2〜1,5%、珪素0.1〜1.2%、マンガン0.1〜0.9%、コバルト1.0〜10%ならびに必要に応じてそれぞれ0.1%までのAl、MgおよびTiの添加物、残分鉄を含む。
【0005】
これら双方の刊行物には、定義された温度範囲内での冷間/熱間引抜および灼熱のための処理パラメーターが記載されている。
【0006】
本発明の対象の目的は、特殊な機械的性質を有する、熱膨張率の小さいクリープ安定性の鉄ニッケル合金を準備することである。更に、前記合金からなる線材形の建築部材のための製造法が設けられるはずである。最後に、前記材料は、一定の用途の場合に使用可能であり、この場合この合金は、低い熱膨張係数を有するはずである。
【0007】
この目的は、次の組成の鉄ニッケル合金によって達成される:
C 0.05〜0.5%
Cr 0.2〜2.0%
Ni 33〜42%
Mn 0.1%未満
Si 0.1%未満
Mo 1.5〜4.0%
Nb 0.01〜0.5%
Al 0.1〜0.8%
Mg 0.001〜0.01%
V 最大0.1%
W 0.1〜1.5%
Co 最大2.0%
Fe 残分および製造に不可避の添加物。
【0008】
本発明の対象の好ましいさらなる実施態様は、従属請求項から確認することができる。
【0009】
本発明による鉄ニッケル合金の1つの好ましい変形は、(質量%で)次のように記載される:
C 0.1〜0.4%
Cr 0.5〜1.5%
Ni 34〜40%
Mn 0.08%未満
Si 0.08%未満
Mo 2.0%を上廻り3.5%を下廻る
Nb 0.05〜0.4%
Al 0.2〜0.5%
Mg 0.001〜0.01%を下廻る
V 最大0.1%
W 0.2〜1.0%を下廻る
Co 0〜1.0%
Fe 残分および製造に不可避の添加物。
【0010】
更に、1つの変形は、次の通りに形成される(質量%で):
C 0.15%を上廻り0.4%を下廻る
Cr 0.6〜最大1.2%
Ni 35〜40%
Mn 0.08%を下廻る
Si 0.08%を下廻る
Mo 2.0%を上廻り3.0%を下廻る
Nb 0.05〜0.3%を下廻る
Al 0.1%を上廻り0.5%を下廻る
Mg 0を上廻り0.01%を下廻る
V 最大0.1%
W 0.25〜1.0%
Co 0〜最大0.5%
B 0を上廻り0.01%を下廻る
Fe 残分および製造に不可避の添加物。
【0011】
前記合金の本発明による組成は、公知技術水準と比較して、Si含量ならびにMn含量が工業的にできるだけ少なくなるように維持されることを示す。熱膨張係数に関連して元素の珪素およびマンガンに著しく依存することは、公知である。他面、十分な加工可能性を保証するために、前記元素は、冶金学的に必要とされている。これは、殊にビレットおよび圧延ワイヤへの熱成形に関連する。
【0012】
従って、本発明による化学組成によって元素の珪素およびマンガンを十分に省略することができ、それによって熱膨張係数に対する前記元素の不利な影響を回避させることができ、同時に前記合金の良好な加工可能性が与えられる。前記の理由から、この場合、Mn+Siの総和は、(質量%で)0.2%を超えるべきではない。工業的に実現可能である限り、Mn+Siの総和は、0.1%を下廻るべきである。
【0013】
本発明による合金が35〜38%のニッケル含量、0.6%を下廻り1.2%を上廻るクロム含量、2.1〜2.8%のモリブデン含量、0.2〜0.4%のモリブデン含量、0.2〜0.4%のアルミニウム含量ならびに0.25%を上廻り1.9%を下廻るタングステン含量を有することは、特に有利である。
【0014】
必要な場合には、なお元素ジルコニウムが0%を上廻り0.2%を下廻る含量で、および/または元素Bが0%を上廻り0.01%までの含量で本発明による合金に添加されてもよい。
【0015】
B+Zrは、個別的にかまたは一緒になって前記合金の熱成形可能性を改善する。
【0016】
更に、元素Mo+Wの総和が2.0〜4.0%であることは、好ましい。
【0017】
同様に、元素Cr+Wの総和が1.0〜2.0%であることは、機械的性質にとって好ましい。
【0018】
更に、本発明の思想は、元素Moが割り当て分だけ元素Wによって置換されていてよい。
【0019】
一面で、合金元素Mo、W、CrおよびCが十分な量で使用され、他面、(Mo+W+Cr)の割合が、炭化物固化、混晶硬化および冷間固化による計量された混合物が最終製品中に到達しうるように選択されることは、重要である。最適な割合は、14〜15の範囲内に見られる。
【0020】
W:Cr:Moの比は、本発明のもう1つの思想によれば、例えば1:2:5である。しかし、本発明による合金中の前記元素の割合は、達成しようと努力される熱膨張係数を上廻らないように予め設定されなければならない。
【0021】
本発明による合金は、20〜200℃の温度範囲内で4×10-6/K未満、殊に3.5×10-6/K未満の熱膨張係数を有する。
【0022】
更に、本発明による合金からなる建築部材をアーク炉、誘導炉または真空炉(必要に応じてVOD処理を有する)中で製造し、引続き造塊し、ビレットへ熱圧延(または熱鍛造)および予め設定可能な厚さの線材へ熱圧延し、引続き予め設定可能な直径の線材形の前製品へ引抜く方法が提案されており、この場合個々の引抜工程の間で必要に応じて灼熱工程が設定されている。冷間固化の程度は、熱膨張係数に関連して、ならびに強度に関連して商業的特性に対して決定的であるので、圧延ワイヤの直径は、場合によっては多段の中間灼熱前および中間灼熱後に十分な冷間変形がもたらされうるように調節されなければならない。
【0023】
本発明による合金は、本発明のもう1つの思想によれば、長距離送電線用の線材、殊に長距離送電線用のコア線材として使用可能である。
【0024】
更に、本発明による合金は、有利に
リードフレーム、
成形部材、殊にCFK成形部材、
チップの製造における建築部材に使用可能である。
【0025】
本発明による合金は、好ましい用途の場合には、薄板材料、棒材、ベルト材料または線材の形で存在することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の組成(質量%で)
C 0.05〜0.5%
Cr 0.2〜2.0%
Ni 33〜42%
Mn 0.1%未満
Si 0.1%未満
Mo 1.5%〜4.0%
Nb 0.01〜0.5%
Al 0.1〜0.8%
Mg 0.001〜0.01%
V 最大0.1%
W 0.1.0〜1.5%
Co 最大2.0%
Fe 残分および製造に不可避の添加物の鉄ニッケル合金。
【請求項2】
次のもの(質量%で):
C 0.1〜0.4%
Cr 0.5〜1.5%
Ni 34〜40%
Mn 0.08%未満
Si 0.08%未満
Mo 2.0%を上廻り3.5%を下廻る
Nb 0.05〜0.4%
Al 0.2〜0.5%
Mg 0.001〜0.01%を下廻る
V 最大0.1%
W 0.2〜1.0%を下廻る
Co 0〜1.0%
Fe 残分および製造に不可避の添加物を有する、請求項1記載の合金。
【請求項3】
次のもの(質量%で):
C 0.15を上廻り0.4%を下廻る
Cr 0.6〜最大1.2%
Ni 35〜40%
Mn 0.08%未満
Si 0.08%未満
Mo 2.0%を上廻り3.0%を下廻る
Nb 0.05〜0.3%を下廻る
Al 0.1を上廻り0.5%を下廻る
Mg 0.001〜0.01%を下廻る
V 最大0.1%
W 0.25〜1.0%
Co 0〜最大0.5%
Fe 残分および製造に不可避の添加物を有する、請求項1または2記載の合金。
【請求項4】
(質量%で)Ni35〜38%を有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項5】
(質量%で)0.6%を上廻り1.2%を下廻るCrを有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項6】
(質量%で)Mo2.1〜2.8%を有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項7】
(質量%で)Al0.2〜0.4%を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項8】
(質量%で)0.25%を上廻り1.0%を下廻るWを有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項9】
必要に応じて(質量%で)0%を上廻り0.2%を下廻るZrおよび/または0%を上廻り0.01%までのBの添加剤を有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項10】
Mo+Wの総和(質量%で)が2.0〜4.0%である、請求項1から9までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項11】
Mo+Wの総和(質量%で)が2.2〜3.5%である、請求項1から10までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項12】
Cr+Wの総和(質量%で)が1.0〜2.0%である、請求項1から11までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項13】
Si+Mnの総和(質量%で)が0.2%を下廻る、請求項1から13までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項14】
Si+Mnの総和(質量%で)が0.1%以下である、請求項13記載の合金。
【請求項15】
(Mo+W+Cr)/Cの比が13.5〜15.5である、請求項1から14までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項16】
元素Moが割り当て分だけ元素Wによって置換されている、請求項1から15までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項17】
20〜200℃の温度範囲内で4×10-6/K未満、殊に3.5×10-6/K未満の熱膨張係数を有する、請求項1から17までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項18】
請求項1から17までのいずれか1項に記載の合金から線材形の建築部材を製造する方法において、溶融液をインゴットに鋳造し、このインゴットをビレットへ圧延し、このビレットを予め設定可能な直径の線材へ引き抜き、この場合個々の引抜工程の間で必要に応じて灼熱工程にもたらし、線材形の前製品をアルミ化し、この前製品を最終寸法で引き抜くことを特徴とする、請求項1から17までのいずれか1項に記載の合金から線材形の建築部材を製造する方法。
【請求項19】
長距離送電線用の線材としての請求項1から17までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項20】
長距離送電線用のコア線材としての請求項1から17までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項21】
リードフレームのための請求項1から17までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項22】
成形部材、殊にCFK成形部材における請求項1から17までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項23】
チップの製造における建築部材のための請求項1から17までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項24】
基礎材料は、薄板、棒材、線材またはベルトの形で存在する、請求項1から23までのいずれか1項に記載の合金の使用。

【公表番号】特表2011−523436(P2011−523436A)
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507788(P2011−507788)
【出願日】平成21年4月29日(2009.4.29)
【国際出願番号】PCT/DE2009/000610
【国際公開番号】WO2009/135469
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(399009918)ティッセンクルップ ファオ デー エム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (20)
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp VDM GmbH
【住所又は居所原語表記】Plettenberger Strasse 2 D−58791 Werdohl Germany
【Fターム(参考)】