鉄道車両用ブレーキディスク付車輪
【課題】 制動に伴うブレーキディスク1、1の熱膨張に拘らず、ボルト8及び各取付孔3、4付近に大きな応力を発生しにくくできる構造を実現する。
【解決手段】 鉄道車両用車輪2に形成した第一の取付孔3と、ブレーキディスク1、1に形成した第二の取付孔4、4とにスプリングピン5aを、これら第二の取付孔4、4に圧入した状態で挿入する。このスプリングピン5aに挿通したボルト8にナット9を螺合し緊締する事により、上記鉄道車両用車輪2とブレーキディスク1、1とを結合する。上記スプリングピン5aの軸方向中央部外周面であって、上記第一の取付孔3の内周面に対向する部分に、上記鉄道車両用車輪2の径方向内方に凹んだ凹部15を設ける。上記第一の取付孔3の中心を上記第二の取付孔4、4の中心よりも、鉄道車両用車輪2及びブレーキディスク1、1の径方向外側に位置させる。
【解決手段】 鉄道車両用車輪2に形成した第一の取付孔3と、ブレーキディスク1、1に形成した第二の取付孔4、4とにスプリングピン5aを、これら第二の取付孔4、4に圧入した状態で挿入する。このスプリングピン5aに挿通したボルト8にナット9を螺合し緊締する事により、上記鉄道車両用車輪2とブレーキディスク1、1とを結合する。上記スプリングピン5aの軸方向中央部外周面であって、上記第一の取付孔3の内周面に対向する部分に、上記鉄道車両用車輪2の径方向内方に凹んだ凹部15を設ける。上記第一の取付孔3の中心を上記第二の取付孔4、4の中心よりも、鉄道車両用車輪2及びブレーキディスク1、1の径方向外側に位置させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば新幹線の様な高速鉄道車両の制動装置を構成する鉄道車両用ブレーキディスク付車輪の改良に関し、制動時のブレーキディスクの熱膨張に拘らず、締結部材及びこの締結部材を挿通する為の孔付近に大きな応力を発生しにくくできる構造の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
新幹線等の高速鉄道車両には、通常、電気式と機械式との制動装置が使用されており、機械式としてはディスクブレーキが多く使用されている。この様にディスクブレーキを使用する高速鉄道車両で、高速から制動する場合には、通常、先ず、電気式の制動装置が作動し、所定の速度まで減速した後にディスクブレーキが作動して車両を停止させる。又、走行時に地震等、緊急事態が発生した場合には、高速走行中でもディスクブレーキが作動する場合がある。
【0003】
この様なディスクブレーキとして、従来から、鉄道車両用車輪の両側に一対のブレーキディスクを結合して成る一体型のブレーキディスク付車輪を使用する事が考えられている。この様なブレーキディスク付車輪は、鉄道車両用車輪の複数個所に形成した第一の取付孔と、各ブレーキディスクの一部でこれら各第一の取付孔に整合する複数個所に形成した第二の取付孔とに挿通したボルトとナットとを螺合し、更に緊締する事により、上記鉄道車両用車輪とブレーキディスクとを一体に結合している。
【0004】
この様なブレーキディスク付鉄道車両用車輪の場合、制動に伴う各ブレーキディスクと摩擦材との摩擦に伴う発熱により、このブレーキディスクが大きく温度上昇する。この場合でも、各ブレーキディスクとして、鉄道車両用車輪と同様に鉄系材料を使用するのであれば、高速走行中からディスクブレーキが作動する事によりブレーキディスクが大きく温度上昇する場合でも、このブレーキディスクの熱膨張が過大とはなりにくい。この為、この熱膨張に基づく、各ブレーキディスクと鉄道車両用車輪との締結部での寸法差が大きく異なる事により、ボルトとこのボルトを挿通する孔の内周付近とに突っ張りが生じると言った問題は生じにくい。又、各ブレーキディスクとして鉄系材料を使用する場合には、従来から、鉄道車両用車輪に形成した第一の取付孔の内径を、各ブレーキディスクに形成した第二の取付孔の内径と同じか、若しくは、若干大きめに設定し、これら各第二の取付孔の内径よりも僅かに小さい外径を有するボルトを、上記各第一の取付孔及び各第二の取付孔に挿通する事が行なわれている。
【0005】
一方、近年は、鉄道車両の高速化に伴い、ばね下重量を軽減する要求があり、軽量なアルミニウム合金や、軽量で且つ耐摩耗性に優れたアルミニウム合金基複合材料により、ブレーキディスクを構成する事が検討されている。アルミニウム合金基複合材料としては、例えば、アルミニウム合金にSiCの如きセラミックの粒子や繊維を分散させたものを使用する事が考えられている。
【0006】
但し、アルミニウム合金やアルミニウム合金基複合材料は、鉄系材料に比べて、熱伝導率及び熱膨張係数が高くなる。例えば、アルミニウム合金基複合材料は、鉄系材料に比べて、熱伝導率及び熱膨張係数が、それぞれ約2倍となる場合がある。この為、アルミニウム合金やアルミニウム合金基複合材料によりブレーキディスクを構成する場合には、ブレーキ負荷によりブレーキディスクが熱膨張する事に対して、適切な対策を施す事が必要になる。例えば、ブレーキディスクをアルミニウム合金製とした、一体型のブレーキディスク付車輪を使用したディスクブレーキで、高速からディスクブレーキを作動させた場合には、このブレーキディスク付車輪が400℃以上の高温となり、温度上昇によるブレーキディスクの熱膨張が著しく大きくなる場合がある。又、300km/hの高速走行時にディスクブレーキを作動させた場合には、鉄道車両用車輪とブレーキディスクとの締結部近傍での半径方向片側での熱膨張量の差が約2.5mmにも及ぶ場合がある。
【0007】
これに対して、従来から一般的に採用されている鉄道車両用車輪とブレーキディスクとの締結方式の場合、ブレーキディスクの締結部付近の熱膨張が僅かである事を前提としている。この為、熱伝導率及び熱膨張係数が大きいアルミニウム合金やアルミニウム合金基複合材料によりブレーキディスクを構成する場合には、上記熱膨張に基づく締結部での応力変動を抑える為の特別な考慮が必要になる。
【0008】
一方、特許文献1には、アルミニウム合金基複合材料製のブレーキディスクに形成した第二の取付孔の内径を、鉄道車両用車輪に形成した第一の取付孔の内径よりも大きくすると共に、これら各第一の取付孔の中心を、上記各第二の取付孔の中心よりも、鉄道車両用車輪の径方向に関して外側に位置させた状態で、ブレーキディスクと鉄道車両用車輪とを一体に結合したブレーキディスク付車輪が記載されている。そして、上記特許文献1では、この様な構造により、制動時の摩擦熱によるブレーキディスクの温度上昇に基づき、このブレーキディスクが径方向に熱膨張した場合でも、このブレーキディスクの径方向の変位を許容して第二の取付孔を保護する事ができるとされている。
【0009】
但し、この様な特許文献1に記載されたブレーキディスク付車輪の場合で、アルミニウム合金基複合材料製のブレーキディスクの熱膨張を許容する為には、このブレーキディスクに形成した各第二の取付孔の内径を、鉄道車両用車輪に形成した各第一の取付孔の内径に対して、少なくとも2mm以上は(好ましくは2.5mm以上)大きくする必要がある。そして、この様にこれら内径同士の差を大きくする構造では、それに伴ってボルトと第二の取付孔とのブレーキディスクの円周方向の隙間も少し大きくなるので、何らかの原因でボルト及びナットの締結力が低下した場合に、ディスクブレーキの作動時に鉄道車両用車輪とブレーキディスクとが互いに回転方向にずれ易くなり、ボルトがこじられて、このボルトや、このボルトを挿通する各取付孔及び各第二の取付孔の付近に大きな応力が発生し易くなり、ボルト及びナットの締結力が更に低下する事が考えられる。
【0010】
又、鉄道車両用車輪に形成した各取付孔と、ブレーキディスクに形成した各第二の取付孔と欠円筒状のスプリングピンを挿通すると共に、このスプリングピンにボルトを挿通する事により、このボルトや、このボルトを挿通する各取付孔の付近に大きな応力を生じにくくできる構造が、従来から考えられている。図11〜14は、この様にスプリングピンを使用した、従来から考えられている鉄道車両用ブレーキディスク付車輪の1例を示している。鉄道車両用ブレーキディスク付車輪は、一対のブレーキディスク1、1により、鉄道車両用車輪2をサンドイッチ状に挟持している。又、これら各ブレーキディスク1、1は、アルミニウム合金基複合材料製としている。このアルミニウム合金基複合材料は、例えば、アルミニウム合金にSiCの如きセラミックの粒子や繊維を分散させたものとする。そして、上記鉄道車両用車輪2の円周方向複数個所に形成した第一の取付孔3、3と、上記各ブレーキディスク1、1の一部でこれら各第一の取付孔3、3に整合する複数個所に形成した第二の取付孔4、4とに、軸方向全長に亙りスリット13を有する、欠円筒状のスプリングピン5、5を挿通している。これら各スプリングピン5、5の自由状態での外径は、上記各第一、第二の取付孔3、4の内径d3 、d4 (図12)よりも大きい。又、上記鉄道車両用車輪2に形成した各第一の取付孔3、3の内径d3 は、上記各ブレーキディスク1、1に形成した各第二の取付孔4、4の内径d4 よりも大きくしている(d3 >d4 )。そして、上記各スプリングピン5、5を、上記各ブレーキディスク1、1に形成した各第二の取付孔4、4に打ち込む事により、上記各スプリングピン5、5の直径方向に向いた弾力をこれら各第二の取付孔4、4に付与している。
【0011】
又、上記各ブレーキディスク1、1の両側面のうち、上記鉄道車両用車輪2と反対側の片面の外径側半部は、制動時に摩擦材を押し付ける為の摩擦面6、6としている。又、上記各ブレーキディスク1、1の片面の内径寄り部分には環状溝7、7を、全周に亙り形成している。上記各第二の取付孔4、4の一端は、これら各環状溝7、7の底面に開口させている。
【0012】
そして、上記各スプリングピン5、5の内側にボルト8、8を挿通し、これら各ボルト8、8の頭部12、12及びこれら各ボルト8、8に螺合したナット9、9と、上記各環状溝7、7の底面との間で皿ばね10、10を、リング部材であるワッシャ11、11と共に挟持する事により、上記各ブレーキディスク1、1を上記鉄道車両用車輪2の側面に向け、弾性的に押し付けている。これにより、これら各ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2とが、一体的に結合される。
【0013】
上述の様に構成する図11〜14に示した従来のブレーキディスク付車輪の場合には、制動に伴う各ブレーキディスク1、1の熱膨張に基づく、これら各ブレーキディスク1、1と上記鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差が吸収可能となる。即ち、常温時には、図14(A)に示す様に、ボルト8及びスプリングピン5が、鉄道車両用車輪2の第一の取付孔3の内側でこの鉄道車両用車輪2の径方向内側(同図の下側)部分に存在するのに対して、制動に基づく発熱によって上記各ブレーキディスク1、1(図11〜13)が膨張した場合には、図14(B)に示す様に、上記第一の取付孔3の内側で上記鉄道車両用車輪2の径方向に関して外側(同図の上側)部分に移動する。そして、上記各ブレーキディスク1、1が更に膨張すると、図14(C)に示す様に、上記スプリングピン5が弾性的に圧縮され、このスプリングピン5から上記鉄道車両用車輪2に、直径方向の弾性が付与される。この結果、上記各第一の取付孔3と各第二の取付孔4との間での内径差(d3 −d4 )、及び、上記各スプリングピン5の弾性変形により、上記各ブレーキディスク1、1の熱膨張に基づく、これら各ブレーキディスク1、1と上記鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差が吸収可能となる。そしてこれにより、上記各ボルト8に上記熱膨張に基づいて剪断方向の過大な力が加わる事を防止でき、これら各ボルト8や、これら各ボルト8を挿通する各第一、第二の取付孔3、4付近に大きな応力が発生する事を、或る程度抑える事ができる。
【0014】
但し、上述の図11〜14に示した構造の場合には、上記熱膨張に基づく寸法差を吸収すべく、やはり上記各第一の取付孔3と各第二の取付孔4との間での内径差(d3 −d4 )を、例えば約2mm以上と、過度に大きくする必要がある。例えば、鉄道車両用車輪2の一般的な場合と同様に、各第一の取付孔3の内径d3 を27mmとした場合には、各第二の取付孔4の内径d4 を25mm以下と、過度に小さくする必要がある。この為、常温時に、これら各第二の取付孔4にその両端部を挿通した各スプリングピン5の軸方向中央部外周面と、鉄道車両用車輪2に形成した各第一の取付孔3の内周面との間に、鉄道車両用車輪2の円周方向の隙間d5 (図14(A))が形成され、しかも、この隙間d5 が、寸法交差上最大で1mm程度と、過度に大きくなる。そして、この隙間d5 の存在により、上記各ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との互いに対向する面同士が擦れ合う様に、これら各部材1、2同士が回転方向にずれる可能性がある。この様に各部材1、2同士がずれる事は、各ボルト8及び各取付孔3、4付近に大きな応力が発生したり、各ボルト8及びナット9の緊締力が低下する原因となる。この様な事情から、上述の図11〜14に示した構造の場合には、各ボルト8及び各取付孔3、4付近に大きな応力が発生する事を十分に抑えると共に、上記緊締力が低下するのを有効に防止する面から未だ改良の余地がある。
尚、本発明に関連する先行技術文献として、特許文献1の他に、特許文献2がある。
【0015】
【特許文献1】特開2000−240697号公報
【特許文献2】特開平9−100852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪は、この様な事情に鑑みて発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪は、前述の図11〜14に示した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪と同様に、鉄道車両用車輪と、この鉄道車両用車輪の両側に配置された一対のブレーキディスクとを備え、この鉄道車両用車輪に形成された複数の第一の取付孔と上記一対のブレーキディスクに形成された複数の第二の取付孔とに挿通したボルトとナットとを螺合し更に緊締する事により、上記鉄道車両用車輪と上記一対のブレーキディスクとを結合して成る。
【0018】
特に、本発明の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪に於いては、上記鉄道車両用車輪に形成された各第一の取付孔の中心を、上記各ブレーキディスクに形成された各第二の取付孔の中心よりも、上記鉄道車両用車輪及び各ブレーキディスクの径方向に関して外側に位置させている。又、上記各第一の取付孔及び各第二の取付孔に、弾性部材を挿通させている。又、これと共に、この弾性部材の内側に上記ボルトを挿通させている。そして、この弾性部材の軸方向中央部外周面であって、上記各第一の取付孔の内周面に対向する部分に、上記鉄道車両用車輪の径方向内方に凹んだ凹部を設けている。
【発明の効果】
【0019】
上述の様に構成する本発明の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪の場合、弾性部材の軸方向中央部外周面であって、各第一の取付孔の内周面に対向する部分に、鉄道車両用車輪の径方向内方に凹んだ凹部を設けている。この為、制動に伴うブレーキディスクの熱膨張に基づく、このブレーキディスクと鉄道車両用車輪との締結部での寸法差を吸収可能としつつ、各第一の取付孔と各第二の取付孔との内径同士の差を十分に小さくする事ができる。従って、これら各第二の取付孔に挿通した各スプリングピンの軸方向中央部外周面と、上記各第一の取付孔の内周面との間での、鉄道車両用車輪の円周方向の隙間を十分に小さくでき、上記各ブレーキディスクと鉄道車両用車輪とが回転方向にずれる事を十分に抑える事ができる。従って、各ボルト及び各取付孔付近に大きな応力が発生するのを十分に抑える事ができると共に、制動時に締結部を緩みにくくできる。この結果、優れた耐久性を有する鉄道車両用ブレーキディスク鉄道車両用車輪を実現して、定期検査のサイクルを長くする事が可能になる等、高速鉄道車両の安全運行に要するコストの低減に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
又、好ましくは、請求項2に記載した様に、上記凹部の、上記鉄道車両用車輪の径方向に関する凹み量の最大値を、0.5〜1.0mmとする。
この好ましい構成によれば、上記熱膨張に基づく、ブレーキディスクと鉄道車両用車輪との締結部での寸法差を、より有効に吸収できると共に、弾性部材の十分な強度をより有効に確保できる。これに対して、上記凹み量の最大値が0.5mm未満では、上記熱膨張に基づく寸法差を吸収する事が著しく困難になる。逆に、上記凹み量の最大値が1.0mmを越えると、上記弾性部材の肉厚が薄くなり過ぎ、十分な強度を確保する事が困難になる。
【0021】
又、より好ましくは、請求項3に記載した様に、上記弾性部材を、円周方向一部に軸方向のスリットを有するスプリングピンとする。
このより好ましい構成によれば、スプリングピンの直径を弾性的に大きく変化させる事ができ、上記熱膨張に基づく、ブレーキディスクと鉄道車両用車輪との締結部での寸法差を、より有効に吸収できる。この為、上記ボルト及び各取付孔付近に発生する応力を、より有効に抑える事ができる。
【0022】
又、より好ましくは、請求項4に記載した様に、ブレーキディスクの少なくとも一部をアルミニウム合金基複合材料製とする。
このより好ましい構成によれば、ブレーキディスクの少なくとも、摩擦材を押し付ける為の摩擦面を有する部分を、アルミニウム合金基複合材料製とする事により、この摩擦面の耐摩耗性(良好な摺動特性)を確保しつつ、軽量化を図る事が可能になる。
【実施例1】
【0023】
図1〜6は、本発明の実施例1を示している。尚、本実施例の特徴は、制動に伴う各ブレーキディスク1、1の熱膨張に基づく、これら各ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差を吸収可能とする、即ち、ボルト8からこのボルト8を挿入する孔に大きな力が加わる事を防止しつつ、これら各ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2とが回転方向にずれる事を十分に抑えるべく、この鉄道車両用車輪2に形成した各第一の取付孔3、及び、上記各ブレーキディスク1、1に形成した各第二の取付孔4、4に挿通する弾性部材である、スプリングピン5aの構造を工夫した点にある。本実施例に於いてその他の構造は、前述の図11〜14に示した従来から考えられている構造の場合とほぼ同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する説明並びに図示を省略若しくは簡略にし、以下、本実施例の特徴部分を中心に説明する。
【0024】
本実施例の場合、上記鉄道車両用車輪2に形成した各第一の取付孔3、及び、上記各ブレーキディスク1、1に形成した各第二の取付孔4、4に、上記スプリングピン5aを挿入している。これら各スプリングピン5aは、図2〜4に詳示する様に、ばね鋼、ステンレス鋼等の金属により欠円筒状に造ったもので、軸方向全長に亙りスリット13を有する。又、上記各スプリングピン5aの軸方向両端部外周面に、断面直線状の面取り14、14を、全周に亙り形成している。又、これら各スプリングピン5aの自由状態での外径D5aを、これら各スプリングピン5aの両端部を挿入する為の、上記各第二の取付孔4、4の内径d4 ´(図1)よりも、0.5mm程度以上大きくしている。
【0025】
特に、本実施例の場合には、上記各スプリングピン5aの軸方向中央部外周面であって、上記スリット13を円周方向両側から挟む円周方向一部に、直径方向に凹んだ凹部15を設けている。この凹部15の底面の断面形状は、図4に詳示する様に、単一の曲率中心O1 を有する円弧としており、この曲率中心O1 は、上記各スプリングピン5aの外周面で上記凹部15から円周方向に外れた部分の曲率中心O2 よりも、この凹部15と径方向反対側(図4の下側)に位置させている。そして、この凹部15の、上記各スプリングピン5aの径方向の凹み量の最大値である、スリット13を挟む両端縁部分での凹み量h15を、0.5〜1.0mmとしている。この為に、本実施例の場合には、上記凹部15の底面の曲率中心O1 を、上記各スプリングピン5aの外周面でこの凹部15から円周方向に外れた部分の曲率中心O2 よりも、この凹部15と径方向反対側に、例えば0.5mm程度ずらせている。
【0026】
そして、前記各ブレーキディスク1、1に形成した複数の第二の取付孔4、4と、前記鉄道車両用車輪2に形成した複数の第一の取付孔3とを整合させつつ、この鉄道車両用車輪2の両側面に上記各ブレーキディスク1、1の片面を重ね合わせた状態で、上記各第二の取付孔4、4及び各第一の取付孔3に上記各スプリングピン5aを挿入している。又、この状態で、これら各第二の取付孔4、4に上記各スプリングピン5aの両端部が圧入され、これら各第二の取付孔4、4にこれら各スプリングピン5aの径方向の弾力が付与される。更に、この状態で、上記各スプリングピン5aの凹部15を、上記鉄道車両用車輪2の径方向外方(図1、5、6の上方)に向けた状態として、上記各第一の取付孔3の内周面に対向させている。言い換えれば、上記各スプリングピン5aの両端部を上記各第二の取付孔4、4に圧入した状態で、上記凹部15が、上記鉄道車両用車輪2の径方向内方(図1、5、6の下方)に凹んだ状態で、上記各第一の取付孔3の内周面に対向している。
【0027】
この様に上記各スプリングピン5aの両端部を上記各第二の取付孔4、4に圧入している為、これら各スプリングピン5aの各第一の取付孔3及び各第二の取付孔4、4内での回転を防止できると共に、ボルト8及びナット12を結合する以前での上記各スプリングピン5aの各取付孔3、4からの脱落を防止でき、上記凹部15を、上記鉄道車両用車輪2の径方向外方(図1の上方)に、常に向けたままとする事ができる。又、好ましくは、上記各スプリングピン5aの上記各第二の取付孔4、4に対する締め代を、0.5〜0.7mmとする。更に、上記各スプリングピン5aの各取付孔3、4内での回転防止を図る為の手段として、これら各スプリングピン5aの外周面及び各第二の取付孔4、4の内周面の円周方向一部にキー溝を設け、これら両キー溝にピンやワッシャ11の一部を挿入する事もできる。又、上記回転防止を図る為の手段として、スプリングピン5aの端部をワッシャ11により抑え付ける事もできる。
【0028】
又、上記各スプリングピン5aの両端部を上記各第二の取付孔4、4に圧入した状態でも、これら各スプリングピン5aの、前記スリット13を挟む円周方向両端縁同士は接触させない、即ち、この円周方向両端縁同士の間に隙間16が形成された状態としている。更に、上記鉄道車両用車輪2に形成した各第一の取付孔3の中心を、上記各ブレーキディスク1、1に形成した各第二の取付孔4、4の中心よりも、上記鉄道車両用車輪2及び各ブレーキディスク1、1の径方向外側に位置させている。
【0029】
そしてこの状態で、上記各スプリングピン5aの内側にボルト8を挿通させると共に、このボルト8及びこのボルト8に螺合したナット9と、上記各ブレーキディスク1、1の他面との間で、皿ばね10、10及びワッシャ11、11を弾性的に挟持している。この構成により、上記鉄道車両用車輪2及び一対のブレーキディスク1、1が、一体的に結合される。又、上記各ボルト8の中間部で、上記各第一の取付孔3及び各第二の取付孔4、4に挿通させた部分を、これら各ボルト8の両端部の外径よりも僅かに外径を小さくした括れ部17としている。
【0030】
上述の様に構成する本実施例の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪の場合、スプリングピン5aの軸方向中央部外周面であって、各第一の取付孔3の内周面に対向する部分に、鉄道車両用車輪2の径方向に関して内方に凹んだ凹部15を設けている。この為、制動に伴うブレーキディスク1、1の熱膨張に基づく、これら各ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差を吸収可能としつつ、各第一の取付孔3と各第二の取付孔4、4との内径d3 ´、d4 ´(図1)同士の差を十分に小さくする事ができる。
【0031】
即ち、本実施例の場合、常温時には、上記各ボルト8及び各スプリングピン5aが、図5に示す様に、第一の取付孔3の内側で上記鉄道車両用車輪2の径方向中央又は内側(同図の下側)部分に存在する。又、制動に基づく発熱によって上記各ブレーキディスク1、1が膨張した場合には、図6に示す様に、上記第二の取付孔4の内側で上記各スプリングピン5aが上記鉄道車両用車輪2の径方向外側(同図の上側)部分に移動し、これら各スプリングピン5aが弾性的に圧縮される事により、これら各スプリングピン5aから上記鉄道車両用車輪2に、直径方向の弾性が付与される。この結果、上記各ブレーキディスク1、1の熱膨張に基づく、これら各ブレーキディスク1、1と上記鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差が、吸収可能となる。そしてこれにより、各ボルト8に上記熱膨張に基づく剪断方向の大きな力が加わる事を防止でき、これら各ボルト8や、これら各ボルト8を挿通する各取付孔3、4付近に大きな応力が発生するのを十分に抑える事ができる。
【0032】
しかも、本実施例の場合には、上記各スプリングピン5aの軸方向中央部外周面であって、上記各第一の取付孔3の内周面に対向する部分に、鉄道車両用車輪2の径方向内方(図1、5、6の下方)に凹んだ凹部15を設けている。この為、この凹部15を凹ませた分だけ、上記各スプリングピン5aの軸方向中央部外周面でこの凹部15から円周方向に外れた部分を上記各第一の取付孔3の内周面に近付ける事ができる。この結果、上記各スプリングピン5aの軸方向両端部を圧入する為の各第二の取付孔4、4の内径d4 ´を、上記各第一の取付孔3の内径d3 ´に近づく様に大きくでき、各第二の取付孔4、4及び各第一の取付孔3の内径差(d3 ´−d4 ´)を十分に小さくできる。又、この内径差(d3 ´−d4 ´)を十分に小さくでき、更に、上記各ブレーキディスク1、1の熱膨張に基づく、これら各ブレーキディスク1、1と上記鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差が吸収可能となる。この為、これら各第二の取付孔4、4にその両端部を圧入した各スプリングピン5aの軸方向中央部外周面と、上記各第一の取付孔3の内周面との間での、鉄道車両用車輪2の円周方向の隙間d5 ´(図5)を十分に小さくできる。この事は、この隙間d5 ´と、前述の図11〜14に示した従来構造の場合の隙間d5 (図14(A)参照)とを比較する事でも明らかである。従って、上記各ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との互いに対向する面同士が擦れ合う様に、これら各部材1、2同士が回転方向にずれる事を十分に抑える事ができ、各ボルト8及び各取付孔3、4付近に大きな応力が発生する事を十分に抑える事ができると共に、制動時に締結部を緩みにくくできる。この結果、優れた耐久性を有する鉄道車両用ブレーキディスク付車輪を実現して、定期検査のサイクルを長くする事が可能になる等、高速鉄道車両の安全運行に要するコストの低減に寄与できる。
【0033】
又、本実施例の場合には、上記スプリングピン5aに設けた凹部15の、上記鉄道車両用車輪2の径方向の凹み量の最大値h15を0.5〜1.0mmとしている。この為、上記熱膨張に基づく、ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差を、より有効に吸収できると共に、上記スプリングピン5aの十分な強度をより有効に確保できる。これに対して、上記凹み量の最大値h15が0.5mm未満では、上記熱膨張に基づく寸法差を吸収する事が著しく困難になる。逆に、上記凹み量の最大値h15が1.0mmを越えると、上記スプリングピン5aの径方向の肉厚が薄くなり過ぎ、十分な強度を確保する事が困難になる。
【0034】
更に、本実施例の場合には、上記各第一の取付孔3と各第二の取付孔4、4に挿通する為の弾性部材として、円周方向一部に軸方向のスリット13を有するスプリングピン5aを使用している。この為、このスプリングピン5aの直径を弾性的に大きく変化させる事ができ、上記熱膨張に基づく、ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差を、より有効に吸収できる。従って、上記ボルト8及び各取付孔3、4付近に発生する応力を、より有効に抑える事ができる。
【0035】
次に、本発明者が本実施例の効果を確認すべく行なった計算結果に就いて説明する。この計算は、従来から一般的に使用されている鉄道車両用ブレーキディスク付車輪の主要寸法を基準として、前述の図11〜14に示した従来から考えられている構造(従来例)と、本実施例の構造(実施例)とで、ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との回転方向のずれ量を求めた。又、上記従来例では、ブレーキディスク1、1の熱膨張に基づく締結部での寸法差を吸収する為に、鉄道車両用車輪2に形成した各第一の取付孔3の内径d4 (図12参照)を27mmとした場合に、各ブレーキディスク1、1に形成した各第二の取付孔4、4の内径d3 (図12参照)を25mm以下と、過度に小さくする必要があった。これに対して、上記実施例の場合には、上記各第一の取付孔3の内径d3 ´(図1)を27mmとした場合でも、上記各第二の取付孔4、4の内径d4 ´(図1)を26mmと大きくでき、各第一の取付孔3の内径d3 ´に近付ける事ができる事が分かった。上記計算は、この様な内径の寸法を前提として、上記従来例と実施例とで、ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との回転方向のずれ量を求めるべく、図7に示す様に、第二の取付孔4と第一の取付孔3との、ブレーキディスク1の円周方向に関する位相が一致した状態から、第二の取付孔4が第一の取付孔3に対してこの円周方向に変位可能な長さ、即ち、各第二の取付孔4に圧入したスプリングピン5a(図1〜6)の軸方向中央部外周面が各第一の取付孔3の内周面に接するまでの長さδを求めた。この結果、上記従来例の場合には、この長さδが、交差による最大値で約1.0mmとなったのに対し、上記実施例の場合には、この長さδを、交差による最大値でも0.5mm以下と、十分に小さくできる事が分かった。これにより本実施例の場合には、ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との回転方向のずれ量を、最大でも0.5mm以下と、十分に小さくできる事を確認できた。
【実施例2】
【0036】
次に、図8〜10は、本発明の実施例2を示している。本実施例の場合には、各ブレーキディスク1の摩擦面6となる部分に、アルミニウム合金基複合材料製の円板状部材18を、アルミニウム合金製の他の部分と一体的に設けている。この円板状部材18を構成するアルミニウム合金基複合材料としては、例えば、アルミニウム合金にSiCやアルミナ等のセラミックの粒子や繊維を分散させたものを使用できる。この様なブレーキディスク1は、先ず、SiCやアルミナ等のセラミックの粒子や繊維を焼成により固めて成る、上記円板状部材18を構成する予備成形体を造った後、この予備成形体を型内の所定位置に配置し、この型内にアルミニウム合金の溶湯を注入し、この予備成形体に加圧含浸させる事により造る。尚、図8では、斜格子部分により、摩擦面6を表している。
【0037】
この様に、摩擦材を押し付ける為の摩擦面6を有する部分を、アルミニウム合金基複合材料製の円板状部材18により構成する本実施例の場合には、この摩擦面6の耐摩耗性を確保しつつ、軽量化を図る事が可能になる。
その他の構成及び作用に就いては、上述の実施例、又は前述の図11〜14に示した構造と同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する図示並びに説明を省略する。 尚、上記ブレーキディスク1は、少なくとも摩擦面6を有する部分がアルミニウム合金基複合材料製であれば良く、全体をアルミニウム合金基複合材料製とする事もできる。
【0038】
又、上述の実施例の場合には、スプリングピン5aの外周面に形成する凹部15を、断面円弧形の底面を有するものとしたが、本発明は、この様な形状の凹部15を設けた構造に限定するものではなく、凹部15として種々の形状のものを採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例1を示す、図11のA部拡大断面相当図。
【図2】実施例1を構成するスプリングピンを取り出して示す図。
【図3】図2を上方から見た図。
【図4】図2のB−B拡大断面図。
【図5】常温時の状態での図1のC−C拡大断面図。
【図6】温度上昇時での図5と同様の図。
【図7】ブレーキディスクと鉄道車両用車輪との回転方向のずれ量を説明する為の、第一の取付孔と第二の取付孔との模式図。
【図8】本発明の実施例2を構成するブレーキディスクを取り出して片半部を示す図。
【図9】図8の裏側から見た片半部を示す図。
【図10】同じくD−O−D断面図。
【図11】従来から考えられているブレーキディスク付車輪の1例を示す断面図。
【図12】図11のA部拡大断面図。
【図13】図12を右方から見た図。
【図14】常温時の状態と温度上昇時の状態とを示す、図12のE−E拡大断面図。
【符号の説明】
【0040】
1 ブレーキディスク
2 鉄道車両用車輪
3 第一の取付孔
4 第二の取付孔
5、5a スプリングピン
6 摩擦面
7 環状溝
8 ボルト
9 ナット
10 皿ばね
11 ワッシャ
12 頭部
13 スリット
14 面取り
15 凹部
16 隙間
17 括れ部
18 円板状部材
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば新幹線の様な高速鉄道車両の制動装置を構成する鉄道車両用ブレーキディスク付車輪の改良に関し、制動時のブレーキディスクの熱膨張に拘らず、締結部材及びこの締結部材を挿通する為の孔付近に大きな応力を発生しにくくできる構造の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
新幹線等の高速鉄道車両には、通常、電気式と機械式との制動装置が使用されており、機械式としてはディスクブレーキが多く使用されている。この様にディスクブレーキを使用する高速鉄道車両で、高速から制動する場合には、通常、先ず、電気式の制動装置が作動し、所定の速度まで減速した後にディスクブレーキが作動して車両を停止させる。又、走行時に地震等、緊急事態が発生した場合には、高速走行中でもディスクブレーキが作動する場合がある。
【0003】
この様なディスクブレーキとして、従来から、鉄道車両用車輪の両側に一対のブレーキディスクを結合して成る一体型のブレーキディスク付車輪を使用する事が考えられている。この様なブレーキディスク付車輪は、鉄道車両用車輪の複数個所に形成した第一の取付孔と、各ブレーキディスクの一部でこれら各第一の取付孔に整合する複数個所に形成した第二の取付孔とに挿通したボルトとナットとを螺合し、更に緊締する事により、上記鉄道車両用車輪とブレーキディスクとを一体に結合している。
【0004】
この様なブレーキディスク付鉄道車両用車輪の場合、制動に伴う各ブレーキディスクと摩擦材との摩擦に伴う発熱により、このブレーキディスクが大きく温度上昇する。この場合でも、各ブレーキディスクとして、鉄道車両用車輪と同様に鉄系材料を使用するのであれば、高速走行中からディスクブレーキが作動する事によりブレーキディスクが大きく温度上昇する場合でも、このブレーキディスクの熱膨張が過大とはなりにくい。この為、この熱膨張に基づく、各ブレーキディスクと鉄道車両用車輪との締結部での寸法差が大きく異なる事により、ボルトとこのボルトを挿通する孔の内周付近とに突っ張りが生じると言った問題は生じにくい。又、各ブレーキディスクとして鉄系材料を使用する場合には、従来から、鉄道車両用車輪に形成した第一の取付孔の内径を、各ブレーキディスクに形成した第二の取付孔の内径と同じか、若しくは、若干大きめに設定し、これら各第二の取付孔の内径よりも僅かに小さい外径を有するボルトを、上記各第一の取付孔及び各第二の取付孔に挿通する事が行なわれている。
【0005】
一方、近年は、鉄道車両の高速化に伴い、ばね下重量を軽減する要求があり、軽量なアルミニウム合金や、軽量で且つ耐摩耗性に優れたアルミニウム合金基複合材料により、ブレーキディスクを構成する事が検討されている。アルミニウム合金基複合材料としては、例えば、アルミニウム合金にSiCの如きセラミックの粒子や繊維を分散させたものを使用する事が考えられている。
【0006】
但し、アルミニウム合金やアルミニウム合金基複合材料は、鉄系材料に比べて、熱伝導率及び熱膨張係数が高くなる。例えば、アルミニウム合金基複合材料は、鉄系材料に比べて、熱伝導率及び熱膨張係数が、それぞれ約2倍となる場合がある。この為、アルミニウム合金やアルミニウム合金基複合材料によりブレーキディスクを構成する場合には、ブレーキ負荷によりブレーキディスクが熱膨張する事に対して、適切な対策を施す事が必要になる。例えば、ブレーキディスクをアルミニウム合金製とした、一体型のブレーキディスク付車輪を使用したディスクブレーキで、高速からディスクブレーキを作動させた場合には、このブレーキディスク付車輪が400℃以上の高温となり、温度上昇によるブレーキディスクの熱膨張が著しく大きくなる場合がある。又、300km/hの高速走行時にディスクブレーキを作動させた場合には、鉄道車両用車輪とブレーキディスクとの締結部近傍での半径方向片側での熱膨張量の差が約2.5mmにも及ぶ場合がある。
【0007】
これに対して、従来から一般的に採用されている鉄道車両用車輪とブレーキディスクとの締結方式の場合、ブレーキディスクの締結部付近の熱膨張が僅かである事を前提としている。この為、熱伝導率及び熱膨張係数が大きいアルミニウム合金やアルミニウム合金基複合材料によりブレーキディスクを構成する場合には、上記熱膨張に基づく締結部での応力変動を抑える為の特別な考慮が必要になる。
【0008】
一方、特許文献1には、アルミニウム合金基複合材料製のブレーキディスクに形成した第二の取付孔の内径を、鉄道車両用車輪に形成した第一の取付孔の内径よりも大きくすると共に、これら各第一の取付孔の中心を、上記各第二の取付孔の中心よりも、鉄道車両用車輪の径方向に関して外側に位置させた状態で、ブレーキディスクと鉄道車両用車輪とを一体に結合したブレーキディスク付車輪が記載されている。そして、上記特許文献1では、この様な構造により、制動時の摩擦熱によるブレーキディスクの温度上昇に基づき、このブレーキディスクが径方向に熱膨張した場合でも、このブレーキディスクの径方向の変位を許容して第二の取付孔を保護する事ができるとされている。
【0009】
但し、この様な特許文献1に記載されたブレーキディスク付車輪の場合で、アルミニウム合金基複合材料製のブレーキディスクの熱膨張を許容する為には、このブレーキディスクに形成した各第二の取付孔の内径を、鉄道車両用車輪に形成した各第一の取付孔の内径に対して、少なくとも2mm以上は(好ましくは2.5mm以上)大きくする必要がある。そして、この様にこれら内径同士の差を大きくする構造では、それに伴ってボルトと第二の取付孔とのブレーキディスクの円周方向の隙間も少し大きくなるので、何らかの原因でボルト及びナットの締結力が低下した場合に、ディスクブレーキの作動時に鉄道車両用車輪とブレーキディスクとが互いに回転方向にずれ易くなり、ボルトがこじられて、このボルトや、このボルトを挿通する各取付孔及び各第二の取付孔の付近に大きな応力が発生し易くなり、ボルト及びナットの締結力が更に低下する事が考えられる。
【0010】
又、鉄道車両用車輪に形成した各取付孔と、ブレーキディスクに形成した各第二の取付孔と欠円筒状のスプリングピンを挿通すると共に、このスプリングピンにボルトを挿通する事により、このボルトや、このボルトを挿通する各取付孔の付近に大きな応力を生じにくくできる構造が、従来から考えられている。図11〜14は、この様にスプリングピンを使用した、従来から考えられている鉄道車両用ブレーキディスク付車輪の1例を示している。鉄道車両用ブレーキディスク付車輪は、一対のブレーキディスク1、1により、鉄道車両用車輪2をサンドイッチ状に挟持している。又、これら各ブレーキディスク1、1は、アルミニウム合金基複合材料製としている。このアルミニウム合金基複合材料は、例えば、アルミニウム合金にSiCの如きセラミックの粒子や繊維を分散させたものとする。そして、上記鉄道車両用車輪2の円周方向複数個所に形成した第一の取付孔3、3と、上記各ブレーキディスク1、1の一部でこれら各第一の取付孔3、3に整合する複数個所に形成した第二の取付孔4、4とに、軸方向全長に亙りスリット13を有する、欠円筒状のスプリングピン5、5を挿通している。これら各スプリングピン5、5の自由状態での外径は、上記各第一、第二の取付孔3、4の内径d3 、d4 (図12)よりも大きい。又、上記鉄道車両用車輪2に形成した各第一の取付孔3、3の内径d3 は、上記各ブレーキディスク1、1に形成した各第二の取付孔4、4の内径d4 よりも大きくしている(d3 >d4 )。そして、上記各スプリングピン5、5を、上記各ブレーキディスク1、1に形成した各第二の取付孔4、4に打ち込む事により、上記各スプリングピン5、5の直径方向に向いた弾力をこれら各第二の取付孔4、4に付与している。
【0011】
又、上記各ブレーキディスク1、1の両側面のうち、上記鉄道車両用車輪2と反対側の片面の外径側半部は、制動時に摩擦材を押し付ける為の摩擦面6、6としている。又、上記各ブレーキディスク1、1の片面の内径寄り部分には環状溝7、7を、全周に亙り形成している。上記各第二の取付孔4、4の一端は、これら各環状溝7、7の底面に開口させている。
【0012】
そして、上記各スプリングピン5、5の内側にボルト8、8を挿通し、これら各ボルト8、8の頭部12、12及びこれら各ボルト8、8に螺合したナット9、9と、上記各環状溝7、7の底面との間で皿ばね10、10を、リング部材であるワッシャ11、11と共に挟持する事により、上記各ブレーキディスク1、1を上記鉄道車両用車輪2の側面に向け、弾性的に押し付けている。これにより、これら各ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2とが、一体的に結合される。
【0013】
上述の様に構成する図11〜14に示した従来のブレーキディスク付車輪の場合には、制動に伴う各ブレーキディスク1、1の熱膨張に基づく、これら各ブレーキディスク1、1と上記鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差が吸収可能となる。即ち、常温時には、図14(A)に示す様に、ボルト8及びスプリングピン5が、鉄道車両用車輪2の第一の取付孔3の内側でこの鉄道車両用車輪2の径方向内側(同図の下側)部分に存在するのに対して、制動に基づく発熱によって上記各ブレーキディスク1、1(図11〜13)が膨張した場合には、図14(B)に示す様に、上記第一の取付孔3の内側で上記鉄道車両用車輪2の径方向に関して外側(同図の上側)部分に移動する。そして、上記各ブレーキディスク1、1が更に膨張すると、図14(C)に示す様に、上記スプリングピン5が弾性的に圧縮され、このスプリングピン5から上記鉄道車両用車輪2に、直径方向の弾性が付与される。この結果、上記各第一の取付孔3と各第二の取付孔4との間での内径差(d3 −d4 )、及び、上記各スプリングピン5の弾性変形により、上記各ブレーキディスク1、1の熱膨張に基づく、これら各ブレーキディスク1、1と上記鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差が吸収可能となる。そしてこれにより、上記各ボルト8に上記熱膨張に基づいて剪断方向の過大な力が加わる事を防止でき、これら各ボルト8や、これら各ボルト8を挿通する各第一、第二の取付孔3、4付近に大きな応力が発生する事を、或る程度抑える事ができる。
【0014】
但し、上述の図11〜14に示した構造の場合には、上記熱膨張に基づく寸法差を吸収すべく、やはり上記各第一の取付孔3と各第二の取付孔4との間での内径差(d3 −d4 )を、例えば約2mm以上と、過度に大きくする必要がある。例えば、鉄道車両用車輪2の一般的な場合と同様に、各第一の取付孔3の内径d3 を27mmとした場合には、各第二の取付孔4の内径d4 を25mm以下と、過度に小さくする必要がある。この為、常温時に、これら各第二の取付孔4にその両端部を挿通した各スプリングピン5の軸方向中央部外周面と、鉄道車両用車輪2に形成した各第一の取付孔3の内周面との間に、鉄道車両用車輪2の円周方向の隙間d5 (図14(A))が形成され、しかも、この隙間d5 が、寸法交差上最大で1mm程度と、過度に大きくなる。そして、この隙間d5 の存在により、上記各ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との互いに対向する面同士が擦れ合う様に、これら各部材1、2同士が回転方向にずれる可能性がある。この様に各部材1、2同士がずれる事は、各ボルト8及び各取付孔3、4付近に大きな応力が発生したり、各ボルト8及びナット9の緊締力が低下する原因となる。この様な事情から、上述の図11〜14に示した構造の場合には、各ボルト8及び各取付孔3、4付近に大きな応力が発生する事を十分に抑えると共に、上記緊締力が低下するのを有効に防止する面から未だ改良の余地がある。
尚、本発明に関連する先行技術文献として、特許文献1の他に、特許文献2がある。
【0015】
【特許文献1】特開2000−240697号公報
【特許文献2】特開平9−100852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪は、この様な事情に鑑みて発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪は、前述の図11〜14に示した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪と同様に、鉄道車両用車輪と、この鉄道車両用車輪の両側に配置された一対のブレーキディスクとを備え、この鉄道車両用車輪に形成された複数の第一の取付孔と上記一対のブレーキディスクに形成された複数の第二の取付孔とに挿通したボルトとナットとを螺合し更に緊締する事により、上記鉄道車両用車輪と上記一対のブレーキディスクとを結合して成る。
【0018】
特に、本発明の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪に於いては、上記鉄道車両用車輪に形成された各第一の取付孔の中心を、上記各ブレーキディスクに形成された各第二の取付孔の中心よりも、上記鉄道車両用車輪及び各ブレーキディスクの径方向に関して外側に位置させている。又、上記各第一の取付孔及び各第二の取付孔に、弾性部材を挿通させている。又、これと共に、この弾性部材の内側に上記ボルトを挿通させている。そして、この弾性部材の軸方向中央部外周面であって、上記各第一の取付孔の内周面に対向する部分に、上記鉄道車両用車輪の径方向内方に凹んだ凹部を設けている。
【発明の効果】
【0019】
上述の様に構成する本発明の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪の場合、弾性部材の軸方向中央部外周面であって、各第一の取付孔の内周面に対向する部分に、鉄道車両用車輪の径方向内方に凹んだ凹部を設けている。この為、制動に伴うブレーキディスクの熱膨張に基づく、このブレーキディスクと鉄道車両用車輪との締結部での寸法差を吸収可能としつつ、各第一の取付孔と各第二の取付孔との内径同士の差を十分に小さくする事ができる。従って、これら各第二の取付孔に挿通した各スプリングピンの軸方向中央部外周面と、上記各第一の取付孔の内周面との間での、鉄道車両用車輪の円周方向の隙間を十分に小さくでき、上記各ブレーキディスクと鉄道車両用車輪とが回転方向にずれる事を十分に抑える事ができる。従って、各ボルト及び各取付孔付近に大きな応力が発生するのを十分に抑える事ができると共に、制動時に締結部を緩みにくくできる。この結果、優れた耐久性を有する鉄道車両用ブレーキディスク鉄道車両用車輪を実現して、定期検査のサイクルを長くする事が可能になる等、高速鉄道車両の安全運行に要するコストの低減に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
又、好ましくは、請求項2に記載した様に、上記凹部の、上記鉄道車両用車輪の径方向に関する凹み量の最大値を、0.5〜1.0mmとする。
この好ましい構成によれば、上記熱膨張に基づく、ブレーキディスクと鉄道車両用車輪との締結部での寸法差を、より有効に吸収できると共に、弾性部材の十分な強度をより有効に確保できる。これに対して、上記凹み量の最大値が0.5mm未満では、上記熱膨張に基づく寸法差を吸収する事が著しく困難になる。逆に、上記凹み量の最大値が1.0mmを越えると、上記弾性部材の肉厚が薄くなり過ぎ、十分な強度を確保する事が困難になる。
【0021】
又、より好ましくは、請求項3に記載した様に、上記弾性部材を、円周方向一部に軸方向のスリットを有するスプリングピンとする。
このより好ましい構成によれば、スプリングピンの直径を弾性的に大きく変化させる事ができ、上記熱膨張に基づく、ブレーキディスクと鉄道車両用車輪との締結部での寸法差を、より有効に吸収できる。この為、上記ボルト及び各取付孔付近に発生する応力を、より有効に抑える事ができる。
【0022】
又、より好ましくは、請求項4に記載した様に、ブレーキディスクの少なくとも一部をアルミニウム合金基複合材料製とする。
このより好ましい構成によれば、ブレーキディスクの少なくとも、摩擦材を押し付ける為の摩擦面を有する部分を、アルミニウム合金基複合材料製とする事により、この摩擦面の耐摩耗性(良好な摺動特性)を確保しつつ、軽量化を図る事が可能になる。
【実施例1】
【0023】
図1〜6は、本発明の実施例1を示している。尚、本実施例の特徴は、制動に伴う各ブレーキディスク1、1の熱膨張に基づく、これら各ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差を吸収可能とする、即ち、ボルト8からこのボルト8を挿入する孔に大きな力が加わる事を防止しつつ、これら各ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2とが回転方向にずれる事を十分に抑えるべく、この鉄道車両用車輪2に形成した各第一の取付孔3、及び、上記各ブレーキディスク1、1に形成した各第二の取付孔4、4に挿通する弾性部材である、スプリングピン5aの構造を工夫した点にある。本実施例に於いてその他の構造は、前述の図11〜14に示した従来から考えられている構造の場合とほぼ同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する説明並びに図示を省略若しくは簡略にし、以下、本実施例の特徴部分を中心に説明する。
【0024】
本実施例の場合、上記鉄道車両用車輪2に形成した各第一の取付孔3、及び、上記各ブレーキディスク1、1に形成した各第二の取付孔4、4に、上記スプリングピン5aを挿入している。これら各スプリングピン5aは、図2〜4に詳示する様に、ばね鋼、ステンレス鋼等の金属により欠円筒状に造ったもので、軸方向全長に亙りスリット13を有する。又、上記各スプリングピン5aの軸方向両端部外周面に、断面直線状の面取り14、14を、全周に亙り形成している。又、これら各スプリングピン5aの自由状態での外径D5aを、これら各スプリングピン5aの両端部を挿入する為の、上記各第二の取付孔4、4の内径d4 ´(図1)よりも、0.5mm程度以上大きくしている。
【0025】
特に、本実施例の場合には、上記各スプリングピン5aの軸方向中央部外周面であって、上記スリット13を円周方向両側から挟む円周方向一部に、直径方向に凹んだ凹部15を設けている。この凹部15の底面の断面形状は、図4に詳示する様に、単一の曲率中心O1 を有する円弧としており、この曲率中心O1 は、上記各スプリングピン5aの外周面で上記凹部15から円周方向に外れた部分の曲率中心O2 よりも、この凹部15と径方向反対側(図4の下側)に位置させている。そして、この凹部15の、上記各スプリングピン5aの径方向の凹み量の最大値である、スリット13を挟む両端縁部分での凹み量h15を、0.5〜1.0mmとしている。この為に、本実施例の場合には、上記凹部15の底面の曲率中心O1 を、上記各スプリングピン5aの外周面でこの凹部15から円周方向に外れた部分の曲率中心O2 よりも、この凹部15と径方向反対側に、例えば0.5mm程度ずらせている。
【0026】
そして、前記各ブレーキディスク1、1に形成した複数の第二の取付孔4、4と、前記鉄道車両用車輪2に形成した複数の第一の取付孔3とを整合させつつ、この鉄道車両用車輪2の両側面に上記各ブレーキディスク1、1の片面を重ね合わせた状態で、上記各第二の取付孔4、4及び各第一の取付孔3に上記各スプリングピン5aを挿入している。又、この状態で、これら各第二の取付孔4、4に上記各スプリングピン5aの両端部が圧入され、これら各第二の取付孔4、4にこれら各スプリングピン5aの径方向の弾力が付与される。更に、この状態で、上記各スプリングピン5aの凹部15を、上記鉄道車両用車輪2の径方向外方(図1、5、6の上方)に向けた状態として、上記各第一の取付孔3の内周面に対向させている。言い換えれば、上記各スプリングピン5aの両端部を上記各第二の取付孔4、4に圧入した状態で、上記凹部15が、上記鉄道車両用車輪2の径方向内方(図1、5、6の下方)に凹んだ状態で、上記各第一の取付孔3の内周面に対向している。
【0027】
この様に上記各スプリングピン5aの両端部を上記各第二の取付孔4、4に圧入している為、これら各スプリングピン5aの各第一の取付孔3及び各第二の取付孔4、4内での回転を防止できると共に、ボルト8及びナット12を結合する以前での上記各スプリングピン5aの各取付孔3、4からの脱落を防止でき、上記凹部15を、上記鉄道車両用車輪2の径方向外方(図1の上方)に、常に向けたままとする事ができる。又、好ましくは、上記各スプリングピン5aの上記各第二の取付孔4、4に対する締め代を、0.5〜0.7mmとする。更に、上記各スプリングピン5aの各取付孔3、4内での回転防止を図る為の手段として、これら各スプリングピン5aの外周面及び各第二の取付孔4、4の内周面の円周方向一部にキー溝を設け、これら両キー溝にピンやワッシャ11の一部を挿入する事もできる。又、上記回転防止を図る為の手段として、スプリングピン5aの端部をワッシャ11により抑え付ける事もできる。
【0028】
又、上記各スプリングピン5aの両端部を上記各第二の取付孔4、4に圧入した状態でも、これら各スプリングピン5aの、前記スリット13を挟む円周方向両端縁同士は接触させない、即ち、この円周方向両端縁同士の間に隙間16が形成された状態としている。更に、上記鉄道車両用車輪2に形成した各第一の取付孔3の中心を、上記各ブレーキディスク1、1に形成した各第二の取付孔4、4の中心よりも、上記鉄道車両用車輪2及び各ブレーキディスク1、1の径方向外側に位置させている。
【0029】
そしてこの状態で、上記各スプリングピン5aの内側にボルト8を挿通させると共に、このボルト8及びこのボルト8に螺合したナット9と、上記各ブレーキディスク1、1の他面との間で、皿ばね10、10及びワッシャ11、11を弾性的に挟持している。この構成により、上記鉄道車両用車輪2及び一対のブレーキディスク1、1が、一体的に結合される。又、上記各ボルト8の中間部で、上記各第一の取付孔3及び各第二の取付孔4、4に挿通させた部分を、これら各ボルト8の両端部の外径よりも僅かに外径を小さくした括れ部17としている。
【0030】
上述の様に構成する本実施例の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪の場合、スプリングピン5aの軸方向中央部外周面であって、各第一の取付孔3の内周面に対向する部分に、鉄道車両用車輪2の径方向に関して内方に凹んだ凹部15を設けている。この為、制動に伴うブレーキディスク1、1の熱膨張に基づく、これら各ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差を吸収可能としつつ、各第一の取付孔3と各第二の取付孔4、4との内径d3 ´、d4 ´(図1)同士の差を十分に小さくする事ができる。
【0031】
即ち、本実施例の場合、常温時には、上記各ボルト8及び各スプリングピン5aが、図5に示す様に、第一の取付孔3の内側で上記鉄道車両用車輪2の径方向中央又は内側(同図の下側)部分に存在する。又、制動に基づく発熱によって上記各ブレーキディスク1、1が膨張した場合には、図6に示す様に、上記第二の取付孔4の内側で上記各スプリングピン5aが上記鉄道車両用車輪2の径方向外側(同図の上側)部分に移動し、これら各スプリングピン5aが弾性的に圧縮される事により、これら各スプリングピン5aから上記鉄道車両用車輪2に、直径方向の弾性が付与される。この結果、上記各ブレーキディスク1、1の熱膨張に基づく、これら各ブレーキディスク1、1と上記鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差が、吸収可能となる。そしてこれにより、各ボルト8に上記熱膨張に基づく剪断方向の大きな力が加わる事を防止でき、これら各ボルト8や、これら各ボルト8を挿通する各取付孔3、4付近に大きな応力が発生するのを十分に抑える事ができる。
【0032】
しかも、本実施例の場合には、上記各スプリングピン5aの軸方向中央部外周面であって、上記各第一の取付孔3の内周面に対向する部分に、鉄道車両用車輪2の径方向内方(図1、5、6の下方)に凹んだ凹部15を設けている。この為、この凹部15を凹ませた分だけ、上記各スプリングピン5aの軸方向中央部外周面でこの凹部15から円周方向に外れた部分を上記各第一の取付孔3の内周面に近付ける事ができる。この結果、上記各スプリングピン5aの軸方向両端部を圧入する為の各第二の取付孔4、4の内径d4 ´を、上記各第一の取付孔3の内径d3 ´に近づく様に大きくでき、各第二の取付孔4、4及び各第一の取付孔3の内径差(d3 ´−d4 ´)を十分に小さくできる。又、この内径差(d3 ´−d4 ´)を十分に小さくでき、更に、上記各ブレーキディスク1、1の熱膨張に基づく、これら各ブレーキディスク1、1と上記鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差が吸収可能となる。この為、これら各第二の取付孔4、4にその両端部を圧入した各スプリングピン5aの軸方向中央部外周面と、上記各第一の取付孔3の内周面との間での、鉄道車両用車輪2の円周方向の隙間d5 ´(図5)を十分に小さくできる。この事は、この隙間d5 ´と、前述の図11〜14に示した従来構造の場合の隙間d5 (図14(A)参照)とを比較する事でも明らかである。従って、上記各ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との互いに対向する面同士が擦れ合う様に、これら各部材1、2同士が回転方向にずれる事を十分に抑える事ができ、各ボルト8及び各取付孔3、4付近に大きな応力が発生する事を十分に抑える事ができると共に、制動時に締結部を緩みにくくできる。この結果、優れた耐久性を有する鉄道車両用ブレーキディスク付車輪を実現して、定期検査のサイクルを長くする事が可能になる等、高速鉄道車両の安全運行に要するコストの低減に寄与できる。
【0033】
又、本実施例の場合には、上記スプリングピン5aに設けた凹部15の、上記鉄道車両用車輪2の径方向の凹み量の最大値h15を0.5〜1.0mmとしている。この為、上記熱膨張に基づく、ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差を、より有効に吸収できると共に、上記スプリングピン5aの十分な強度をより有効に確保できる。これに対して、上記凹み量の最大値h15が0.5mm未満では、上記熱膨張に基づく寸法差を吸収する事が著しく困難になる。逆に、上記凹み量の最大値h15が1.0mmを越えると、上記スプリングピン5aの径方向の肉厚が薄くなり過ぎ、十分な強度を確保する事が困難になる。
【0034】
更に、本実施例の場合には、上記各第一の取付孔3と各第二の取付孔4、4に挿通する為の弾性部材として、円周方向一部に軸方向のスリット13を有するスプリングピン5aを使用している。この為、このスプリングピン5aの直径を弾性的に大きく変化させる事ができ、上記熱膨張に基づく、ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との締結部での寸法差を、より有効に吸収できる。従って、上記ボルト8及び各取付孔3、4付近に発生する応力を、より有効に抑える事ができる。
【0035】
次に、本発明者が本実施例の効果を確認すべく行なった計算結果に就いて説明する。この計算は、従来から一般的に使用されている鉄道車両用ブレーキディスク付車輪の主要寸法を基準として、前述の図11〜14に示した従来から考えられている構造(従来例)と、本実施例の構造(実施例)とで、ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との回転方向のずれ量を求めた。又、上記従来例では、ブレーキディスク1、1の熱膨張に基づく締結部での寸法差を吸収する為に、鉄道車両用車輪2に形成した各第一の取付孔3の内径d4 (図12参照)を27mmとした場合に、各ブレーキディスク1、1に形成した各第二の取付孔4、4の内径d3 (図12参照)を25mm以下と、過度に小さくする必要があった。これに対して、上記実施例の場合には、上記各第一の取付孔3の内径d3 ´(図1)を27mmとした場合でも、上記各第二の取付孔4、4の内径d4 ´(図1)を26mmと大きくでき、各第一の取付孔3の内径d3 ´に近付ける事ができる事が分かった。上記計算は、この様な内径の寸法を前提として、上記従来例と実施例とで、ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との回転方向のずれ量を求めるべく、図7に示す様に、第二の取付孔4と第一の取付孔3との、ブレーキディスク1の円周方向に関する位相が一致した状態から、第二の取付孔4が第一の取付孔3に対してこの円周方向に変位可能な長さ、即ち、各第二の取付孔4に圧入したスプリングピン5a(図1〜6)の軸方向中央部外周面が各第一の取付孔3の内周面に接するまでの長さδを求めた。この結果、上記従来例の場合には、この長さδが、交差による最大値で約1.0mmとなったのに対し、上記実施例の場合には、この長さδを、交差による最大値でも0.5mm以下と、十分に小さくできる事が分かった。これにより本実施例の場合には、ブレーキディスク1、1と鉄道車両用車輪2との回転方向のずれ量を、最大でも0.5mm以下と、十分に小さくできる事を確認できた。
【実施例2】
【0036】
次に、図8〜10は、本発明の実施例2を示している。本実施例の場合には、各ブレーキディスク1の摩擦面6となる部分に、アルミニウム合金基複合材料製の円板状部材18を、アルミニウム合金製の他の部分と一体的に設けている。この円板状部材18を構成するアルミニウム合金基複合材料としては、例えば、アルミニウム合金にSiCやアルミナ等のセラミックの粒子や繊維を分散させたものを使用できる。この様なブレーキディスク1は、先ず、SiCやアルミナ等のセラミックの粒子や繊維を焼成により固めて成る、上記円板状部材18を構成する予備成形体を造った後、この予備成形体を型内の所定位置に配置し、この型内にアルミニウム合金の溶湯を注入し、この予備成形体に加圧含浸させる事により造る。尚、図8では、斜格子部分により、摩擦面6を表している。
【0037】
この様に、摩擦材を押し付ける為の摩擦面6を有する部分を、アルミニウム合金基複合材料製の円板状部材18により構成する本実施例の場合には、この摩擦面6の耐摩耗性を確保しつつ、軽量化を図る事が可能になる。
その他の構成及び作用に就いては、上述の実施例、又は前述の図11〜14に示した構造と同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する図示並びに説明を省略する。 尚、上記ブレーキディスク1は、少なくとも摩擦面6を有する部分がアルミニウム合金基複合材料製であれば良く、全体をアルミニウム合金基複合材料製とする事もできる。
【0038】
又、上述の実施例の場合には、スプリングピン5aの外周面に形成する凹部15を、断面円弧形の底面を有するものとしたが、本発明は、この様な形状の凹部15を設けた構造に限定するものではなく、凹部15として種々の形状のものを採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例1を示す、図11のA部拡大断面相当図。
【図2】実施例1を構成するスプリングピンを取り出して示す図。
【図3】図2を上方から見た図。
【図4】図2のB−B拡大断面図。
【図5】常温時の状態での図1のC−C拡大断面図。
【図6】温度上昇時での図5と同様の図。
【図7】ブレーキディスクと鉄道車両用車輪との回転方向のずれ量を説明する為の、第一の取付孔と第二の取付孔との模式図。
【図8】本発明の実施例2を構成するブレーキディスクを取り出して片半部を示す図。
【図9】図8の裏側から見た片半部を示す図。
【図10】同じくD−O−D断面図。
【図11】従来から考えられているブレーキディスク付車輪の1例を示す断面図。
【図12】図11のA部拡大断面図。
【図13】図12を右方から見た図。
【図14】常温時の状態と温度上昇時の状態とを示す、図12のE−E拡大断面図。
【符号の説明】
【0040】
1 ブレーキディスク
2 鉄道車両用車輪
3 第一の取付孔
4 第二の取付孔
5、5a スプリングピン
6 摩擦面
7 環状溝
8 ボルト
9 ナット
10 皿ばね
11 ワッシャ
12 頭部
13 スリット
14 面取り
15 凹部
16 隙間
17 括れ部
18 円板状部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両用車輪と、この鉄道車両用車輪の両側に配置された一対のブレーキディスクとを備え、この鉄道車両用車輪に形成された複数の第一の取付孔と上記一対のブレーキディスクに形成された複数の第二の取付孔とに挿通したボルトとナットとを螺合し更に緊締する事により、上記鉄道車両用車輪と上記一対のブレーキディスクとを結合して成る鉄道車両用ブレーキディスク付車輪に於いて、
上記鉄道車両用車輪に形成された各第一の取付孔の中心を、上記各ブレーキディスクに形成された各第二の取付孔の中心よりも、上記鉄道車両用車輪及び各ブレーキディスクの径方向に関して外側に位置させており、上記各第一の取付孔及び各第二の取付孔に弾性部材を挿通させると共に、この弾性部材の内側に上記ボルトを挿通させており、この弾性部材の軸方向中央部外周面であって、上記各第一の取付孔の内周面に対向する部分に、上記鉄道車両用車輪の径方向内方に凹んだ凹部を設けている事を特徴とする鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項2】
上記凹部の、上記鉄道車両用車輪の径方向に関する凹み量の最大値を0.5〜1.0mmとした、請求項1に記載した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項3】
弾性部材が、円周方向一部に軸方向のスリットを有するスプリングピンである、請求項1又は2に記載した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項4】
ブレーキディスクの少なくとも一部をアルミニウム合金基複合材料製とした、請求項1〜3の何れか1項に記載した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項1】
鉄道車両用車輪と、この鉄道車両用車輪の両側に配置された一対のブレーキディスクとを備え、この鉄道車両用車輪に形成された複数の第一の取付孔と上記一対のブレーキディスクに形成された複数の第二の取付孔とに挿通したボルトとナットとを螺合し更に緊締する事により、上記鉄道車両用車輪と上記一対のブレーキディスクとを結合して成る鉄道車両用ブレーキディスク付車輪に於いて、
上記鉄道車両用車輪に形成された各第一の取付孔の中心を、上記各ブレーキディスクに形成された各第二の取付孔の中心よりも、上記鉄道車両用車輪及び各ブレーキディスクの径方向に関して外側に位置させており、上記各第一の取付孔及び各第二の取付孔に弾性部材を挿通させると共に、この弾性部材の内側に上記ボルトを挿通させており、この弾性部材の軸方向中央部外周面であって、上記各第一の取付孔の内周面に対向する部分に、上記鉄道車両用車輪の径方向内方に凹んだ凹部を設けている事を特徴とする鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項2】
上記凹部の、上記鉄道車両用車輪の径方向に関する凹み量の最大値を0.5〜1.0mmとした、請求項1に記載した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項3】
弾性部材が、円周方向一部に軸方向のスリットを有するスプリングピンである、請求項1又は2に記載した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項4】
ブレーキディスクの少なくとも一部をアルミニウム合金基複合材料製とした、請求項1〜3の何れか1項に記載した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−329315(P2006−329315A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−153456(P2005−153456)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】
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