説明

鉛フリー接合材料およびその製造方法

【課題】 溶湯状態から凝固に至る急速冷却を最適に制御することで、Sn相中に非常に細かい(ナノオーダー:1μm以下)にSnCu合金粒子、SnMn合金粒子が分散した組織が得られる鉛フリー接合用材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 Snと他の金属Mからなる合金であって、SnとMで構成される金属間化合物からなる相をSn基地中に1μm以下の微細粒子として分散させた状態にあることを特徴とする鉛フリー接合用材料。また、上記された金属間化合物は、SnとMとで構成される金属間化合物のうち最もSnの含有量の多い金属間化合物であることを特徴とする鉛フリー接合用材料およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛フリー接合用材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なパワーモジュールはBGA(ボールグリッドアレイ)で半導体素子を基板と接合、また半導体素子から発生する熱を逃がすための放熱板がはんだ等の接合材で取り付けられている。近年、モジュール自体の出力増大や電子制御機器が必要となる電気自動車やハイブリッド自動車用途として車載用に耐熱性、信頼性の更なる向上が求められているため、耐熱性向上には、接続材であるはんだの融点向上(高温はんだの適用)が検討されている。
【0003】
高温はんだにはPb−5Snはんだ(融点:310〜314℃)等があるが、組成より鉛を多く含む成分となっている。近年、環境の問題からRoHS指令を始めとしたPbフリー化への対応が求められており、一般的なはんだ成分としては、Sn−Ag−Cu系共晶系合金が実用化されている。他方、高温はんだについては、Au−20Sn(融点:280℃)が知られているが、Pb−Sn系はんだに対してコストや機械的特性の点で劣っているため殆ど使用されておらず、他の成分系についても実用化には至っていないため、EUが電子機器などに含まれるPbなどの特定有害物質を規制するRoHS指令においてもPb高温はんだについては除外項目となっている。そのためPbフリーの高温はんだの開発要求が高まっている。
【0004】
高温はんだ合金の開発に関しては、例えば特開2003−260587号公報(特許文献1)には、Sn−Cu系はんだが記載されている。この方法によると、Sn粉末とCu粉末とを混合した材料をはんだペーストとして用い、高温はんだ付け時には、Sn粉末が溶けてはんだ付けに寄与すると同時に、Cu粉末と反応して高融点のSn−Cu金属間化合物相が生成する。この化合物相はリフロー時には溶けずにはんだ付け部の強度を保つ働きをするものである。
【0005】
また、パワーモジュールは動作で発熱するため半導体素子の接合面には熱サイクルが加わる。そのため半導体素子と接合材界面の応力状態を制御することが重要であり、接合部の形状、接合層の厚み等を精密に制御して最適な状態になるように設計されている。そのため、溶融はんだ内部に金属の粉末を添加することで粘性を制御して接合層の厚みばらつきを抑えることなどが検討されている。例えば「Packaging of Double−sided Cooling Power Module」,15th Sympsium on ゛Microjoining and Assembly Technology in Electronics゛,P91〜94(非特許文献1)等である。
【0006】
また、発明者らは、特開2008−178909号公報(特許文献2)にて、2種類の元素A及びBからなる合金で、元素Aが元素Bより融点が高く、元素Bからなる常温安定相と元素A及びBからなる常温安定相AmBn(m,nは合金系による固有の数値)を有する合金において元素Aを元素Bからなる常温安定相中に過飽和固溶させることによって作製した接合材料を用い、過飽和固溶体が分解して常温安定相AmBnが析出する温度に保持して溶解接合させることによってPb−Sn共晶はんだやSn−Ag−Cu鉛フリーはんだのリフロー温度においても接合強度を維持できることを見出した。
【特許文献1】特開2003−260587号公報
【特許文献2】特開2008−178909号公報
【非特許文献1】「Packaging of Double−sided Cooling Power Module」,15th Sympsium on ゛Microjoining and Assembly Technology in Electronics゛,P91〜94
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1の発明によると、実用的に使用される粉末は10μm程度の大きさであるため、Sn粉末とCu粉末との界面に生成する金属間化合物相の組織はCu粉末の表面に形成されるため粗く、強度にばらつきが生じると共に、強度重視のためにはCu粉末を多く使用しなければならないため、Sn粉末に起因するはんだ付け特性が低下するなどの問題がある。さらに金属間化合物の生成は融液状態のSnと固体状態のCuとの拡散反応によるため強度維持に寄与するCu6 Sn5 金属間化合物相の生成速度が遅く反応させるのに時間がかかるなどの問題もある。
【0008】
さらに、接合層の厚みを制御する場合、通常のBGAはんだボールや汎用のSn−Ag−Cuはんだでは接合時には完全溶融するため、凝固後の厚みや傾きが設計値とのずれを生じ、これが熱サイクルでの信頼性を損なう可能性もある。逆に、非特許文献1のように金属粉末を溶融しているはんだに添加して溶融はんだの粘性を制御するには、溶融はんだ層への粉末添加機構がはんだ付け装置として必要となる上に、微小なパワーモジュールパッケージではBGAはんだ等が使われるが、これには適用できない問題もあった。
【0009】
また、特許文献2で上述した技術よりも優れた高温接合材料を示したが、その特許文献範囲であるSnCu合金系において、急冷プロセスであるアトマイズ粉末を用いても、高温はんだとしての強度が安定しない状態があることが分かってきた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述のような問題を解消するために、発明者らはSnCu系合金およびSnMn系合金を更に詳細に検討し、溶湯状態から凝固に至る急冷速度を適切に制御することで、特許文献2で示した急冷凝固により過飽和固溶体の有無に関わらず、Sn相中に非常に細かい(ナノオーダー:1μm以下)にSnCu合金相(Cu6 Sn5 相)が分散した組織が得られる。このようにCu6 Sn5 相をSn相中に微細に分散することより、Sn溶融時のはんだ付けに必要なぬれ性や均一溶融性に影響を及ぼさない。さらに微細分散相は表面エネルギーが高いため、はんだ付け温度に保持した場合に表面エネルギーを低下させるために、急激にCu6 Sn5 相が粗大化して明確になり、通常のはんだ付け温度以上の融点を持つCu6 Sn5 金属間化合物相が結合、粗大化する。これにより、安定した高温はんだ領域の接合強度を維持することが出来ることを見出した。
【0011】
一方、SnMn系合金についても、同様に、溶湯状態から凝固に至る急冷速度を適切に制御することで、特許文献2で示した急冷凝固により過飽和固溶体の有無に関わらず、Sn相中に非常に細かい(ナノオーダー:1μm以下)にSnMn合金粒子(MnSn2 相)が分散した組織が得られる。このようにSn相中に微細に分散することより、Sn溶融時のはんだ付けに必要なぬれ性や均一溶融性に影響を及ぼさない、さらに微細分散相は表面エネルギーが高いため、はんだ付け温度に保持した場合に表面エネルギーを低下させるために、SnMn合金粒子が急激に粗大化してSnMn合金相が明確に現れ、SnMn金属間化合物相が結合、粗大化する。これにより、安定した高温はんだ領域の接合強度を維持することが出来ることを見出した。
【0012】
その発明の要旨とするところは、
(1)Snと他の金属Mからなる合金であって、SnとMで構成される金属間化合物からなる相をSn基地中に1μm以下の微細粒子として分散させた状態にあることを特徴とする鉛フリー接合用材料。
(2)前記(1)に記載された金属間化合物はSnとMとで構成される金属間化合物のうち最もSnの含有量の多い金属間化合物であることを特徴とする鉛フリー接合用材料。
【0013】
(3)前記(1)または(2)に記載の金属MがCuまたはMnであって、該CuまたはMnとSnで構成される金属間化合物からなる相が、Cu6 Sn5 相またはMnSn2相であることを特徴とする鉛フリー接合用材料。
(4)前記(1)または(2)に記載の金属MがCuからなる合金であって、Cuが10〜38質量%で残部がSnおよび不可避的不純物からなる組成であることを特徴とする鉛フリー接合用材料。
【0014】
(5)前記(1)または(2)に記載の金属MがMnからなる合金であって、Mnが4〜18質量%で残部がSnおよび不可避的不純物からなる組成であることを特徴とする鉛フリー接合用材料。
(6)前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の合金組成の溶湯を急冷凝固させることにより、Cu6 Sn5 相またはMnSn2 相を1μm以下の微細相としてSn中に分散させたことを特徴とする鉛フリー接合用材料の製造方法。
(7)急冷速度が100℃/秒以上であることを特徴とする、前記(6)に記載の鉛フリー接合用材料の製造方法にある。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明により、SnCu合金またはSnMn合金と急冷を利用することにより、従来のPb−5Snなどが用いられていた高温はんだ付けに対応できる鉛フリーはんだ成分であり、かつ、はんだ付け部の強度にばらつきがなく、しかも強度安定性とはんだ付け特性とのバランスに優れた経済性や高温はんだとしての基本特性に優れた鉛フリーはんだを製造することが出来る極めて優れた効果を奏するものである。
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、CuとSnの2元系平衡状態図、図2は、MnとSnの2元系平衡状態図である。この図1、2に示す平衡状態図において、Snと隣り合う位置にリフロー温度以上の融点の金属間化合物Cu6 Sn5 を示す金属Cuを用いてSnCu合金、またはSnと隣り合う位置にリフロー温度以上の融点の金属間化合物MnSn2 を示す金属Mnを用いてSnMn合金を製造する。急冷プロセスではない方法を用いた場合、この合金はCu含有量またはMn含有量に応じて平衡状態図通りの割合でSnとCu6 Sn5 金属間化合物またはSnとMnSn2 金属間化合物の二相組織になる。
【0017】
しかし、アトマイズ法やメルトスパン法などの急冷プロセスで、かつ溶融状態から凝固に至る冷却速度を制御することによって合金を作製することにより、特許文献2で示した急冷凝固による過飽和固溶体の有無に関わらず、Cu6 Sn5 相またはMnSn2 相が成長せず通常の顕微鏡観察で検出するのが困難な1μm以下の非常に細かいCu6 Sn5 相またはMnSn2 相がSn中に分散した組織となる。この効果は、凝固するときの冷却速度に強く影響を受けるため、アトマイズ法やメルトスパン法などの急冷速度が高いプロセスを用いると共に、100℃/秒以上の冷却速度を確保する必要がある。メルトスパン法では冷却速度100℃/秒を容易に確保できるため問題ない。アトマイズ法では噴霧媒体(ガス種)、噴霧圧力、噴霧温度、溶融金属の滴下量(ルツボノズル直径)に左右されるが、50μm以下の粉末であれば冷却速度100℃/秒以上を確保できる。
【0018】
はんだ用材料としては、上記急冷プロセスによって製造された合金は、ナノオーダーのCuSn合金の金属間化合物Cu6 Sn5 相やSnMn合金の金属間化合物MnSn2 相がSn相中に分散した組織となっている。この状態で提供した場合、基材のSnによるはんだ付け性にCu6 Sn5 相やMnSn2 相は影響を及ぼすことなく、均一でぬれ性の良いはんだ付けが可能となる。
【0019】
更に、はんだ付け時の加熱により、Sn中のCu6 Sn5 やMnSn2 微細分散相は表面エネルギーが高いため、表面エネルギーを低下させるために、Cu6 Sn5 合金相やMnSn2 合金相が急激に粗大化するとともに、Cu6 Sn5 金属間化合物相やMnSn2金属間化合物相が結合し溶融Sn中に分散した状態となる。この状態から凝固すれば高融点を持つCu6 Sn5 やMnSn2 が結合した中にSnが分散した混在組織となり、はんだ全体として高温強度を安定して保持できる。また、はんだ付け時には、この液相中に固体の金属間化合物相が分散することで、溶融はんだ状態での粘性を制御できる。これが本発明の基本的な考え方である。
【0020】
SnCu系合金中のCu含有量は10〜38重量%が最適である。その理由は、はんだ付けに寄与するSn固溶体量とはんだ付け後の強度維持に寄与するCu6 Sn5 金属間化合物量とのバランスで決定される。発明者らはCu含有量の範囲について詳細に検討した結果、Cu量が38重量%を超えると急冷法であっても、1μm以下ではなく粗大化したCu6 Sn5 金属間化合物生成量が大幅に多くなり、はんだ付けに寄与するSn固溶体量が減少し、良好なはんだ付けが困難となるため、その上限を38重量%とした。またCu量が10%未満では、Sn中に1μm以下で分散するCu6 Sn5 相の両方が十分ではなく、はんだ付け後の強度維持に寄与するCu6 Sn5 金属間化合物量が十分に確保できない。以上より、Cu量の範囲を10〜38%とした。好ましくは15〜32%とする。
【0021】
一方、 SnMn系合金中のMn含有量は4〜18重量%が最適である。その理由は、はんだ付けに寄与するSn固溶体量とはんだ付け後の強度維持に寄与するMnSn2 金属間化合物量とのバランスで決定される。発明者らはMn含有量の範囲について詳細に検討した結果、Mn量が18重量%を超えると急冷法であっても、1μm以下ではなく粗大化したMnSn2 金属間化合物生成量が大幅に多くなり、はんだ付けに寄与するSn固溶体量が減少し、良好なはんだ付けが困難となるため、その上限を18重量%とした。またMn量が4%未満では、Sn中に1μm以下で分散するMnSn2 相の両方が十分ではなく、はんだ付け後の強度維持に寄与するMnSn2 金属間化合物量が十分に確保できない。以上より、Mn量の範囲を4〜18%とした。好ましくは8〜15%とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
SnCu系においては、Sn−(10〜38重量%)Cu合金をアトマイズ法やメルトスパン法および水中紡糸法などの急冷法によって作製し、溶融金属の冷却速度を100℃/以上を確保する。そのときの形状については特に限定するものではなく、粉末、線、棒、薄帯、板等でもよい。
【0023】
急冷する方法は上述したように、アトマイズ法やメルトスパン法などがあるが、特に、ヘリウムガスアトマイズ法やメルトスパン法が急冷手段としては有効である。しかし、ディスクアトマイズやアルゴンアトマイズ、窒素ガスアトマイズは、はんだ粉末を量産的に製造する手段としては非常に有効であり、その冷却速度はアトマイズされた後の粉末粒径に依存するため、手段であっても50μm以下の細粒については、溶融金属の冷却速度を100℃/以上を確保でき、本発明の範疇に帰属するものである。また、例えば水中紡糸法によれば線材が得られ、中紡糸法と矯正または引抜き加工をすれば棒線が得られる。
【0024】
以下に急冷箔帯にて、本発明の挙動を説明する。
図3は、SEMにてメルトスパン法によるSn−Cu組成例の合金の急冷箔帯断面を示す電子顕微鏡写真である。このSEMにてメルトスパン法によるSnCu組成例の合金の急冷箔帯断面を観察した所、図のように組織は均一組織となっている。しかし、表面ミリングを施し、更に高分解能を有する電子顕微鏡にて観察を行った結果、ナノオーダー(1μm以下)の微細なCu6 Sn5 相が分散していることが分かった。
【0025】
すなわち、図4は、表面ミリングを施し、更に高分解能を有する電子顕微鏡にて観察を行った結果の電子顕微鏡写真である。この図に示すように、Cu6 Sn5 相(模様がある部位、平均300nm相)とSn相(ミリングが進み穴状になった部位)とが1μm以下で混在している組織となっている。
【0026】
分散しているナノオーダーの微細なCu6 Sn5 相組織は、比表面積が大きいために表面エネルギーが高く不安定になる。そのため、ミクロンオーダーやミリオーダーの組織に比べて表面エネルギーを下げるために熱的安定性が無く、粗大化しやすい傾向がある。そのため、図5に示すように、227℃の液相線以下で、固体状態である180℃、10分加熱においても、通常の凝固組織では時間が必要な固相状態での拡散が進み、Cu6 Sn5 相の粗大化が起こる。すなわち、図5は、Cu6 Sn5 相がSn相中に粗大化している組織となっていることを示す電子顕微鏡写真である。この図からも分かるように、全体が溶融していないにも関わらず、Cu6 Sn5 相がSn相中に粗大化している組織となっている。
【0027】
これにより、はんだ付け時の保持時間が短い場合でも、例えばリフロー加熱のパターンのような250℃で30秒保持して空冷するといった短時間熱処理でも、十分な高融点金属間化合物を形成することが出来る。図6は、Snが液相となったため、Cu6 Sn5 相が粗大化し、Sn中に高融点金属間化合物が形成している状態を示す電子顕微鏡写真である。この図に示すように、短時間加熱でも、Snが液相となったため、Cu6 Sn5 相が一気に粗大化し、Sn中に高融点金属間化合物が形成されている。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について実施例により具体的に説明する。
表1は、CuSn系合金について、また、表2は、SnMn系合金について、それぞれ、はんだ付け時のぬれ性とはんだ付け後の250℃再加熱時のはんだ付け部強度を記した組成の比較表である。製法については、急冷箔帯は、単ロール液体急冷法にて目的組成の溶湯を回転銅ロールに押し付け目的の箔帯を作製している。粉末は窒素を噴霧ガスとして用い、溶湯温度を目的組成の融点より300℃上まで加熱し、噴霧圧0.45MPaにて急冷粉末を得た。これを篩い分級により目的粒度の粉末を得ている。通常凝固材は、目的組成の凝固材を粉砕処理にて実施例の比較材を得ている。なお、粒径については累積体積50%の平均粒径D50にて表記している。得られた粉末は、常温樹脂に埋め込み可能後、湿式研磨にて断面出しおよび鏡面仕上げを行い、電子顕微鏡観察試料とした。電子顕微鏡観察前にArイオンによりミリング処理を行い、表面研磨の影響層を除去した。高分解能電子顕微鏡はフィールドエミッション型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用い、本発明鋼の内部組織を観察した。
【0029】
表1、2中、はんだ付け時のぬれ性の評価については、Cu板上、またはMn板上にはんだを塗布した状態で加熱後のはんだ塗布部の変化を確認し、◎:ぬれ性が優れている(はんだが十分に広がる)、○:ぬれ性が良い(はんだが広がる)、×:ぬれ性が悪い(はんだが塗布状態から広がらない)とした。また、250℃加熱時の粘性についての評価については、厚み1mmのCu板同士、またはMn板同士を50μmのはんだ層の間隔で配置できる冶具を用いて位置決めし、これで接合を実施した場合に、接合後のCu位置変化、またはMn位置変化(はんだ相の厚みばらつき)を測定した。
◎:ばらつきが±1μm未満、○:ばらつきが±5μm未満、×:ばらつきが±5μm以上で評価した。また、250℃再加熱時の強度評価は、○強度が優れている、×強度がない(せん断強度測定限界以下≒0MPa)。
【0030】
【表1】

表1に示すように、No.1〜7は本発明例であり、No.8〜13は比較例である。
【0031】
比較例No.8およびNo.9は本発明例No.1およびNo.2と同一組成であるが、急冷凝固を施していないため、組織中にCu6 Sn5 相を1μm以下で微細分散させることが出来ず、粗大なCu6 Sn5 相とさらにCu3 Sn相が形成されており、ぬれ性を確保するSn相が均一分散できていない。そのため、はんだ付け時のぬれ性が悪い。比較例No.10はSnが100%の成分組成のものであり、250℃加熱時は完全に液相となるため粘性のばらつきが大きく、かつ金属間化合物の生成もないため250℃再加熱時の強度がない。
【0032】
比較例No.11は本発明鋼No.4と同一組成でありガスアトマイズにより粉末を得ているが、粒度が大きいため冷却速度100℃/sを確保できず、組織中にCu6 Sn5相を1μm以下で微細分散させることが出来ず、粗大なCu6 Sn5 相とさらにCu3 Sn相が形成されており、ぬれ性を確保するSn相が均一分散できていない。そのため、はんだ付け時のぬれ性が確保できない。比較例No.12はCuが55%、Snが45%の成分組成のものであり、このものは、はんだ付けぬれ性が悪く、溶合しないため強度の測定が出来なかった。
【0033】
比較例No.13はCuが60%、Snが40%の成分組成のものであり、このものは、比較例No.12と同様に、はんだ付けぬれ性が悪く、溶合しないため強度の測定が出来なかった。これに対し、本発明例No.1〜7はいずれも本発明の条件とする成分組成を満足していることから、はんだ付けぬれ性、250℃加熱時の粘性、および250℃再加熱時の強度について優れていることが分かる。
【0034】
【表2】

表2に示すように、No.1〜5は本発明例であり、No.6〜11は比較例である。
【0035】
比較例No.6およびNo.7は本発明例No.1およびNo.2と同一組成であるが、急冷凝固を施していないため、組織中にMnSn2 相を1μm以下で微細分散させることが出来ず、ぬれ性を確保するSn相が均一分散できていない。そのため、はんだ付け時のぬれ性が悪い。比較例No.8はSnが100%の成分組成のものであり、250℃加熱時は完全に液相となるため粘性のばらつきが大きく、かつ金属間化合物の生成もないため250℃再加熱時の強度がない。
【0036】
比較例No.9は本発明鋼No.4と同一組成でありガスアトマイズにより粉末を得ているが、粒度が大きいため冷却速度100℃/sを確保できず、組織中にMnSn2 相を1μm以下で微細分散させることが出来ず、ぬれ性を確保するSn相が均一分散できていない。そのため、はんだ付け時のぬれ性が確保できない。比較例No.10はMnが25%、Snが75%の成分組成のものであり、このものは、はんだ付けぬれ性が悪く、溶合しないため強度の測定が出来なかった。
【0037】
比較例No.11はMnが40%、Snが60%の成分組成のものであり、このものは、比較例No.10と同様に、はんだ付けぬれ性が悪く、溶合しないため強度の測定が出来なかった。これに対し、本発明例No.1〜5はいずれも本発明の条件とする成分組成を満足していることから、はんだ付けぬれ性、250℃加熱時の粘性、および250℃再加熱時の強度について優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】CuとSnの2元系平衡状態図である。
【図2】MnとSnの2元系平衡状態図である。
【図3】SEMにてメルトスパン法によるSn−Cu組成例の合金の急冷箔帯断面を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】表面ミリングを施し、更に高分解能を有する電子顕微鏡にて観察を行った結果の電子顕微鏡写真である。
【図5】Cu6 Sn5 相がSn相中に粗大化している組織となっていることを示す電子顕微鏡写真である。
【図6】Snが液相となったため、Cu6 Sn5 相が粗大化し、Sn中に高融点金属間化合物が形成している状態を示す電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Snと他の金属Mからなる合金であって、SnとMで構成される金属間化合物からなる相をSn基地中に1μm以下の微細粒子として分散させた状態にあることを特徴とする鉛フリー接合用材料。
【請求項2】
請求項1に記載された金属間化合物は、SnとMとで構成される金属間化合物のうち最もSnの含有量の多い金属間化合物であることを特徴とする鉛フリー接合用材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属MがCuまたはMnであって、該CuまたはMnとSnで構成される金属間化合物からなる相が、Cu6 Sn5 相またはMnSn2 相であることを特徴とする鉛フリー接合用材料。
【請求項4】
請求項1または2に記載の金属MがCuからなる合金であって、Cuが10〜38質量%で残部がSnおよび不可避的不純物からなる組成であることを特徴とする鉛フリー接合用材料。
【請求項5】
請求項1または2に記載の金属MがMnからなる合金であって、Mnが4〜18質量%で残部がSnおよび不可避的不純物からなる組成であることを特徴とする鉛フリー接合用材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の合金組成の溶湯を急冷凝固させることにより、Cu6 Sn5 相またはMnSn2 相を1μm以下の微細相としてSn中に分散させたことを特徴とする鉛フリー接合用材料の製造方法。
【請求項7】
急冷速度が100℃/秒以上であることを特徴とする、請求項6に記載の鉛フリー接合用材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−41979(P2011−41979A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161578(P2010−161578)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】