説明

銀微粒子の製造方法、銀微粒子、銀微粒子分散液、導電性パターン、電子デバイスおよび電子機器

【課題】所望の炭素数の化合物が核の表面に結合した銀微粒子を容易に製造し得る銀微粒子の製造方法、凝集し難い銀微粒子、銀微粒子が安定に分散した銀微粒子分散液、導電性に優れる導電性パターン、性能に優れる電子デバイスおよび電子機器を提供する。
【解決手段】本発明の銀微粒子の製造方法は、主として銀で構成される粒状の核の表面に、有機酸銀塩30が銀イオンを核側にして結合してなる原料微粒子10に、チオール化合物を接触させることにより、有機酸銀塩を形成する有機酸とチオール化合物とを置換する。これにより、核の表面に、銀メルカプチドが銀イオンを核側にして結合してなる銀微粒子が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀微粒子の製造方法、銀微粒子、銀微粒子分散液、導電性パターン、電子デバイスおよび電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀は貴金属の中では安価であり、優れた導電性や抗菌作用を有することから、電子機器の配線材料、医療機器等の抗菌材料等として使用され、この他にも幅広い分野での使用が期待されている。
特に、銀の粒子をナノサイズにまで微細化すると、融点の低下、蒸気圧の上昇、活性化等の特性変化を示したり、バルク状態では見られなかった機能なども発現するようになることが明らかとなり、その用途はさらに広がりを見せている。
【0003】
ところで、ナノサイズの銀粒子(銀微粒子)は、互いに粒子同士が接触すると、凝集して大きな粒子になり易く、極めて不安定である。
したがって、銀微粒子を工業材料として使用するには、それらが安定して存在し得る銀微粒子を製造することが必要となる。
このような銀微粒子を製造する方法としては、長鎖脂肪酸の銀塩を約250℃で熱分解させて製造する熱分解法がよく知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
この方法で製造される銀微粒子は、銀で構成される核の表面に、長鎖脂肪酸の銀塩が結合したものである。
【0004】
ところが、非特許文献1に記載の方法では、銀微粒子の製造には、250℃の高温での加熱が必要とある。
ここで、短鎖脂肪酸の銀塩は、250℃で加熱されると揮発してしまうため、この方法で使用する脂肪酸の銀塩は、長鎖のものに限られる。このため、得られる銀微粒子では、核の表面に結合する化合物の炭素数が制限され、炭素数が比較的少ない化合物が核の表面に結合した銀微粒子を得ることができない。
【0005】
【非特許文献1】長澤浩(H.Nagasawa)、他4名,「フィジカル・キャラクタリスティックス・オブ・スタビライズド・シルバー・ナノパーティクルス・フォームド・ユージング・ア・ニュー・サーマル−デコンポジッション・メソッド(Physical Characteristics of Stabilized Silver Nanoparticles Formed Using a New Thermal-Decomposition Method)」,フィズ・ステイツ・ソル・(エー)(phys. stat. sol.(a)),(ドイツ),2002年,第191巻,第1号,p.67−76
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、所望の炭素数の化合物が核の表面に結合した銀微粒子を容易に製造し得る銀微粒子の製造方法、凝集し難い銀微粒子、銀微粒子が安定に分散した銀微粒子分散液、導電性に優れる導電性パターン、性能に優れる電子デバイスおよび電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の銀微粒子の製造方法は、主として銀で構成される粒状の核の表面に、有機酸銀塩が銀イオンを前記核側にして結合してなる原料微粒子に、チオール化合物を接触させることにより、前記有機酸銀塩を形成する有機酸と前記チオール化合物とを置換することを特徴とする。
これにより、所望の炭素数の化合物が核の表面に結合した銀微粒子を容易に製造することができる。
【0008】
本発明の銀微粒子の製造方法では、前記原料微粒子と前記チオール化合物とを接触させる際の温度は、0〜50℃であることが好ましい。
これにより、有機酸とチオール化合物との置換反応を十分に進行させることができる。
本発明の銀微粒子の製造方法では、前記原料微粒子と前記チオール化合物とを接触させる際の時間は、0.1分〜100時間であることが好ましい。
これにより、有機酸とチオール化合物との置換反応を十分に進行させることができる。
【0009】
本発明の銀微粒子の製造方法では、前記チオール化合物は、その炭素数が10以下であることが好ましい。
これにより、得られる銀微粒子は、より低温での焼結が可能となるため、かかる銀微粒子を、例えば、導電性パターンの形成に用いることにより、低抵抗の導電性パターンを得ることができるようになる。
【0010】
本発明の銀微粒子の製造方法では、前記チオール化合物は、その炭素数が5以下であることが好ましい。
これにより、得られる銀微粒子は、銀を主材料とする核の性質が強く現れるようになり、極性を有する分散媒、特に、水系分散媒(水を主成分とする分散媒)への分散が可能となる。また、さらに低温での焼結が可能となる。
【0011】
本発明の銀微粒子の製造方法では、極性を有する分散媒に分散可能であることが好まし。
得られる銀微粒子を、例えば、導電性パターンの形成に適用する場合、この導電性パターンを形成するためのパターン形成用材料(銀微粒子の分散液)の調製に、水系分散媒を用いることができるため、パターン形成用材料の条件(例えば粘度、乾燥速度等)の設定が容易となる。
本発明の銀微粒子の製造方法では、用いる前記原料微粒子と前記チオール化合物との比率は、重量比で1:0.0001〜1:10であることが好ましい。
これにより、有機酸とチオール化合物とを十分に置換させることができる。
【0012】
本発明の銀微粒子の製造方法では、前記原料微粒子は、主として、銀イオンと塩を形成し得る官能基を少なくとも1つ有する有機酸と、銀の供給源となる有機銀化合物とを含有する混合物を、加熱することにより得られたものであることが好ましい。
これにより、主として有機酸と有機銀化合物とを含有する混合物を、加熱するといった簡易な工程で原料微粒子を製造することができる。したがって、原料微粒子の生産効率を向上させ、ひいては、銀微粒子の生産効率を向上させることができる。
特に、有機酸および有機銀化合物として、それぞれ、安価で入手容易なものを選択可能であり、かかる安価な化合物を選択することにより、原料微粒子の製造コストの削減を図り、ひいては、銀微粒子の製造コストの削減を図ることができる。
【0013】
本発明の銀微粒子の製造方法では、前記有機酸は、その炭素数が前記有機銀化合物の炭素数より多いことが好ましい。
これにより、有機銀化合物から銀が放出される際に、有機酸が変質・劣化(分解)することを防止することができ、確実に有機酸銀塩を生成させることができる。その結果、有機酸銀塩が核の表面に十分に結合した原料微粒子を得ることができる。
【0014】
本発明の銀微粒子の製造方法では、前記有機酸は、その炭素数が10以上であることが好ましい。
これにより、より凝集し難い原料微粒子を確実に製造することができる。
本発明の銀微粒子の製造方法では、前記有機銀化合物は、その炭素数が5以下であることが好ましい。
これにより、形成された核中に、銀を放出した後の有機物やその分解物等が混入するのを防止することができる。このため、例えば、最終的に得られる銀微粒子を用いて導電性パターンを形成した場合、その抵抗率が上昇するのを防止することができる。
【0015】
本発明の銀微粒子の製造方法では、前記有機酸は、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基のうちの少なくとも1つを有するものであることが好ましい。
これらの官能基を有する有機酸は、比較的容易に銀イオンとの塩を形成することから好ましい。
本発明の銀微粒子の製造方法では、前記有機酸は、脂肪酸であることが好ましい。
脂肪酸は、銀イオンと塩を特に形成し易いことから好ましい。
【0016】
本発明の銀微粒子の製造方法では、前記有機酸は、直鎖状のものであることが好ましい。
直鎖状の有機酸を用いることにより、生成する有機酸銀塩同士の間で立体障害が生じるのを防止または低減させることができ、核の表面に有機酸銀塩をより緻密に結合させることができる。これにより、原料微粒子同士が凝集するのをより確実に防止することができる。
【0017】
本発明の銀微粒子の製造方法では、前記有機銀化合物は、脂肪酸またはその誘導体の銀塩であることが好ましい。
脂肪酸またはその誘導体の銀塩は、特に、銀を放出し易いことから好ましい。
本発明の銀微粒子の製造方法では、前記有機酸と前記有機銀化合物との混合比は、重量比で0.1:1〜100:1であることが好ましい。
これにより、得られる原料微粒子において銀と有機物との割合が適正なものとなり、原料微粒子同士が凝集するのをより確実に防止することができる。
【0018】
本発明の銀微粒子の製造方法では、前記混合物を加熱する際の雰囲気は、非酸化性雰囲気であることが好ましい。
これにより、原料の有機酸や、形成される核が酸化するのを確実に防止することができる。その結果、例えば、最終的に得られる銀微粒子を用いて導電性パターンを形成した場合、その抵抗率が上昇するのを防止することができる。
【0019】
本発明の銀微粒子は、本発明の銀微粒子の製造方法により製造されたことを特徴とする。
これにより、所望の炭素数の化合物が核の表面に結合した銀微粒子が得られる。また、凝集し難く、均一な粒径の銀微粒子が得られる。
本発明の銀微粒子は、主として銀で構成される粒状の核の表面に、銀メルカプチドが銀イオンを前記核側にして結合してなることを特徴とする。
かかる銀微粒子は、各種の用途に適用することができるが、特に、導電性パターンの形成に好適に適用される。
【0020】
本発明の銀微粒子では、導電性パターンを形成するために用いられるものであることが好ましい。
これにより、得られる導電性パターンは、抵抗率が低いものとなる。
本発明の銀微粒子では、平均粒径が、1〜100nmであることが好ましい。
これにより、得られる導電性パターンは、その緻密性がより向上し、抵抗率がより低いものとなる。
【0021】
本発明の銀微粒子では、粒度分布におけるピークの半値幅が、0.1〜3nmであることが好ましい。
これにより、得られる導電性パターンは、その緻密性がより向上し、抵抗率がより低いものとなる。
本発明の銀微粒子分散液は、本発明の銀微粒子を分散媒に分散してなることを特徴とする。
かかる銀微粒子分散液は、各種の用途に適用することができるが、特に、導電性パターンの形成に好適に適用される。
【0022】
本発明の銀微粒子分散液は、本発明の銀微粒子を、極性を有する分散媒に分散してなることを特徴とする。
かかる銀微粒子分散液は、例えば導電性パターンの形成に適用する場合、その条件(例えば粘度、乾燥速度等)の設定が容易となる。
本発明の導電性パターンは、本発明の銀微粒子を含有するパターン形成用材料を所定の形状に成膜した後、得られた膜を焼成して得られることを特徴とする。
これにより、抵抗率が低い導電性パターンが得られる。
本発明の電子デバイスは、本発明の導電性パターンを備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い電子デバイスが得られる。
本発明の電子機器は、本発明の電子デバイスを備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い電子機器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の銀微粒子の製造方法、銀微粒子、銀微粒子分散液、導電性パターン、電子デバイスおよび電子機器の好適実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の銀微粒子を示す模式図、図2は、本発明の銀微粒子の製造方法に用いる原料微粒子を示す模式図である。
図1に示すように、本発明の銀微粒子1は、主として銀で構成される粒状の核2の表面に、銀メルカプチド3が結合(被覆)してなるものである。この銀メルカプチド3は、銀イオンを核2側にして、核2の表面に結合している(銀−チオール結合を形成している)。
【0024】
ここで、本発明の銀微粒子1とは、その平均粒径(図1中、長さD)が1〜100nm程度、好ましくは1〜20nm程度のものを言う。
本発明の銀微粒子の製造方法では、このような銀微粒子1を、前記核2の表面に、有機酸銀塩30が銀イオンを核2側にして結合してなる原料微粒子10(図2参照)に、チオール化合物を接触させ、有機酸銀塩30を形成する有機酸とチオール化合物との置換反応を利用して製造する。
なお、図2には、有機酸銀塩30の一例として、脂肪酸銀塩(モノカルボン酸銀塩)を代表に示した。
【0025】
銀微粒子1は、例えば、原料微粒子10を適当な分散媒に分散させて分散液を得、この分散液中にチオール化合物を添加することにより製造することができる。
この場合、分散媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ギ酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ぺンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類(パラフィン系炭化水素類)、シクロへキサン、メチルシクロへキサン等の脂環式炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキシルベンゼン、ヘブチルベンゼン、オクチルベンゼン、ノニルベンゼン、デシルベンゼン、ウンデシルベンゼン、ドデシルベンゼン、トリデシルベンゼン、テトラデシルベンゼンのような長鎖アルキル基を有するベンゼン類(アルキルベンゼン誘導体)等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環類、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
原料微粒子10とチオール化合物とを接触させる際の温度、すなわち、置換反応に際して保持する分散媒の温度は、原料微粒子10における有機酸の種類や、チオール化合物の種類等によっても若干異なり、特に限定されないが、0〜50℃であるのが好ましく、5〜30℃であるのがより好ましい。この温度が低過ぎると、有機酸とチオール化合物との置換反応が十分に進行しないおそれがあり、一方、この温度が高過ぎると、チオール化合物の種類によっては、熱分解したり、揮発したり等して、やはり有機酸とチオール化合物との置換反応が十分に進行しないおそれがある。
【0027】
また、原料微粒子10とチオール化合物とを接触させる際の時間、すなわち、置換反応に要する時間も、特に限定されないが、0.1分〜100時間であるのが好ましく、1分〜10時間であるのがより好ましい。この時間が短過ぎると、置換反応における温度等によっては、有機酸とチオール化合物との置換反応が十分に進行しないおそれがあり、一方、この時間を前記上限値を超えて長くしても、それ以上の効果の増大が期待できない。
【0028】
また、この場合、チオール化合物は、そのまま、あるいは、適当な溶媒に溶解したチオール溶液を分散液に添加することができる。後者の場合、溶媒には、分散媒と同一のもの、または、分散媒との相溶性が高いものを用いるのが好ましい。
なお、チオール化合物が常温で液体である場合、液状のチオール化合物に原料微粒子10を添加するようにしてもよい。
また、チオール化合物を原料微粒子10に接触させる方法としては、前述したような前記チオール溶液を、原料微粒子10に直接、例えば、シャワー状に供給する方法を用いることもできる。
【0029】
チオール化合物としては、特に限定されないが、例えば、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール、イソプロピルチオール、アリルチオール、アミノメタンチオール、ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、オクタデカンチオール等の脂肪族チオール類、チオフェノール、アミノチオフェノール等の芳香族チオール類、シクロヘキシルチオール等の脂環式チオール類、2−メルカプトピリジン、2−メルカプトチアゾリン等の複素環式チオール類、ビス(トリメチルシル)サルファイド、フェニルトリメチルシリルメチルサルファイド等のチオール化物類や、1,2−エタンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール等のジチオール類やポリチオール類等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
本発明によれば、有機酸と各種のチオール化合物との置換を容易かつ確実に行なうことができる。したがって、本発明によれば、従来の方法では製造し得なかった銀微粒子1、すなわち、炭素数の比較的少ない化合物が核2の表面に結合してなる銀微粒子1を容易に製造することができる。
例えば、チオール化合物として、その炭素数が10以下のものを選択することにより、得られる銀微粒子1は、より低温での焼結が可能となるため、かかる銀微粒子1を、例えば、後述するような導電性パターンの形成に用いることにより、低抵抗の導電性パターンを得ることができるようになる。
【0031】
特に、チオール化合物として、その炭素数が5以下のものを選択することにより、得られる銀微粒子1は、銀を主材料とする核2の性質が強く現れるようになり、極性を有する分散媒(極性分散媒)、特に、水系分散媒(水を主成分とする分散媒)への分散が可能となる。また、さらに低温での焼結が可能となる。
かかる銀微粒子1を、例えば導電性パターンの形成に適用する場合、この導電性パターンを形成するためのパターン形成用材料(銀微粒子1の分散液)の調製に、極性分散媒を用いることができるため、パターン形成用材料の条件(例えば粘度、乾燥速度等)の設定が容易となる。
【0032】
また、用いる原料微粒子10とチオール化合物との比率は、重量比で1:0.0001〜1:10であるのが好ましく、1:0.001〜1:5であるのがより好ましく、1:0.01〜1:1であるのがさらに好ましい。原料微粒子10とチオール化合物との使用比率を前記範囲とすることにより、有機酸とチオール化合物とを十分に置換させることができる。
【0033】
本発明において用いる原料微粒子10は、例えば、長鎖脂肪酸(高級脂肪酸)の銀塩を熱分解させる方法、主として、銀イオンと塩を形成し得る官能基を少なくとも1つ有する有機酸と、銀の供給源となる有機銀化合物とを含有する混合物を加熱する方法等により製造することができる。
後者の方法によれば、主として有機酸と有機銀化合物とを含有する混合物を、加熱するといった簡易な工程で原料微粒子10を製造することができる。したがって、原料微粒子10の生産効率を向上させ、ひいては、銀微粒子1の生産効率を向上させることができる。
特に、有機酸および有機銀化合物として、それぞれ、安価で入手容易なものを選択可能であり、かかる安価な化合物を選択することにより、原料微粒子10の製造コストの削減を図り、ひいては、銀微粒子1の製造コストの削減を図ることができる。
【0034】
以下、後者の方法、すなわち、主として、銀イオンと塩を形成し得る官能基を少なくとも1つ有する有機酸と、銀の供給源となる有機銀化合物とを含有する混合物を加熱する方法について説明する。
この方法では、前述したような混合物を加熱することにより、例えば有機銀化合物が熱分解すること等により銀(銀原子または銀イオン)が放出され、銀を主材料とする核2が形成されるとともに、有機酸のイオン交換反応により生成する有機酸銀塩30が核2の表面に結合して、原料微粒子10が得られる。
【0035】
用いる有機酸は、その炭素数が有機銀化合物の炭素数よりも多いのが好ましい。一般に、有機化合物は、炭素数が増大するのに伴って、その分解温度が上昇する傾向を示す。このため、有機酸として炭素数が有機銀化合物の炭素数よりも多いものを用いることにより、有機銀化合物から銀が放出される際に、有機酸が変質・劣化(分解)することを防止することができ、確実に有機酸銀塩30を生成させることができる。その結果、有機酸銀塩30が核2の表面に十分に結合した原料微粒子10を得ることができる。
【0036】
また、原料微粒子10を得る際に、有機酸は、加熱により溶融(溶解)し、溶融状態(液体状態)で反応の場となるため、比較的沸点の高いものが好ましい。
かかる観点からは、有機酸の炭素数は、できるだけ多い方がよい。有機酸の炭素数の具体的な値は、有機銀化合物の種類等によっても若干異なり、特に限定されないが、10以上であるのが好ましく、14〜20であるのがより好ましい。有機酸の炭素数が少な過ぎると、原料微粒子10の保存条件等によっては、原料微粒子10同士が凝集するのを十分に防止することができないおそれがあり、前述したような銀微粒子1の製造が困難となるおそれがある。一方、有機酸の炭素数が多過ぎると、生成する有機酸銀塩30同士の間で立体障害が生じ、十分な量の有機酸銀塩30を核2の表面に結合させることができないおそれがある。
【0037】
一方、有機銀化合物としては、銀を放出した後の有機物(有機銀化合物の銀以外の部分)が比較的容易に揮発・除去されるものが好ましい。これにより、形成される核2中に、銀を放出した後の有機物やその分解物等が混入を防止することができる。このため、例えば、最終的に得られる銀微粒子1を用いて後述するような導電性パターンを形成した場合、その導電性パターンの抵抗率が上昇するのを防止することができる。
【0038】
かかる観点からは、有機銀化合物の炭素数は、できるだけ少ない方がよい。有機銀化合物の炭素数の具体的な値は、特に限定されないが、5以下であるのが好ましく、2または3であるのがより好ましい。これにより、前記効果をより向上させることができる。
さて、前述したような有機酸において、銀イオンと塩を形成し得る官能基としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。これらの官能基を有する有機酸は、比較的容易に銀イオンとの塩を形成することから好ましい。
なお、有機酸は、これらの官能基を1つ有するものであってもよく、複数個有するものであってもよい。また、官能基を複数有する場合、複数の官能基は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0039】
有機酸の官能基以外の部分(主骨格)は、特に限定されず、例えば、直鎖状または分枝状の飽和炭化水素、直鎖状または分枝状不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、または、これらが組み合わされた炭化水素等が挙げられる。また、これらの炭化水素が有する水素原子の少なくとも一部は、他の原子(例えば、フッ素原子のようなハロゲン原子等)によって置換されていてもよい。
【0040】
また、官能基が導入される位置は、主骨格の末端であってもよく、途中であってもよいが、末端であるのが好ましい。これにより、生成する有機酸銀塩30を銀イオンを核2側として、核2の表面により確実に結合させることができる。その結果、前述したような有機酸とチオール化合物との置換反応をより効率よく進行させることができる。
以上のようなものの中でも、有機酸としては、脂肪酸(モノカルボン酸)が好適である。脂肪酸は、銀イオンと塩を特に形成し易いことから好ましい。
【0041】
また、有機酸としては、直鎖状のものが好ましい。直鎖状の有機酸を用いることにより、生成する有機酸銀塩30同士の間で立体障害が生じるのを防止または低減させることができ、核2の表面に有機酸銀塩30をより緻密に結合させることができる。これにより、原料微粒子10同士が凝集するのをより確実に防止することができる。
これらのことを考慮すると、有機酸としては、例えばミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の直鎖状の飽和または不飽和脂肪酸が好適である。また、これらの脂肪酸は、いずれも、安価であり、入手が容易であるという利点もある。
【0042】
なお、有機酸は、前述したもののうちの1種または任意の2種以上を組み合わせて用いることができる。
一方、有機銀化合物としては、容易に銀を放出し得るものであればよく、特に限定されないが、例えば、脂肪酸またはその誘導体の銀塩、銀を中心原子または中心イオンとする錯体またはその誘導体等が挙げられ、これらのうちの1または任意の2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
これらの中でも、有機銀化合物としては、特に、脂肪酸またはその誘導体の銀塩が好適である。脂肪酸またはその誘導体の銀塩は、特に、銀を放出し易いことから好ましい。
脂肪酸またはその誘導体の銀塩の具体例としては、例えば、酢酸銀塩、乳酸銀塩、トリフルオロ酢酸銀塩等が挙げられる。これらの脂肪酸またはその誘導体の銀塩は、いずれも、安価であり、入手が容易であることから好ましい。
【0044】
有機酸と有機銀化合物との混合比は、特に限定されないが、重量比で0.1:1〜100:1であるのが好ましく、1:1〜50:1であるのがより好ましく、1:1〜10:1であるのがさらに好ましい。これにより、得られる原料微粒子10において銀と有機物との割合が適正なものとなり、原料微粒子10同士が凝集するのをより確実に防止することができる。
【0045】
なお、混合物を加熱する際の加熱温度や加熱時間は、例えば、有機酸の融点、有機酸の沸点、有機酸の分解温度、有機銀化合物の分解温度等を考慮して適宜設定される。
また、混合物を加熱する際の雰囲気は、例えば、アルゴンガス雰囲気(不活性ガス雰囲気)、窒素ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気であるのが好ましい。これにより、原料の有機酸や、形成される核2が酸化するのを確実に防止することができる。その結果、最終的に得られる銀微粒子1を用いて、例えば、後述するような導電性パターンを形成した場合、その導電性パターンの抵抗率が上昇するのを防止することができる。
【0046】
以上のように、本発明の銀微粒子の製造方法によれば、チオール化合物の種類(炭素数)を選択することにより、核2の表面に結合する化合物の炭素数を所望のものに設定すること、特に、従来の方法では得られない炭素数が比較的少ないものに設定することが可能となる。
そして、以上のようにして製造された銀微粒子1は、核2の表面に銀メルカプチド3が結合していることにより、銀微粒子1同士が凝集するのを防止することができ、安定して存在することができる。また、銀微粒子1は、均一な粒径を有するものとなる。
このようにして得られた銀微粒子1を含む分散液は、そのまま、本発明の銀微粒子分散液とすることができる他、一旦、分散媒を除去した後、再度、除去した分散媒と同一または異なる種類の分散媒に分散させることにより、本発明の銀微粒子分散液を調整することができる。
【0047】
また、得られた銀微粒子1は、例えば、配線や電極等の導電性パターンの形成、抗菌剤、消臭剤等の各種の用途に適用することができるが、特に、導電性パターンの形成に用いるのが好ましい。前述したように、銀微粒子1は、均一な粒径を有するものとなるため、かかる銀微粒子1を用いることにより、緻密な導電性パターンを形成することができる。このため、得られる導電性パターンは、抵抗率が低いものとなる。
【0048】
この場合、銀微粒子1の平均粒径は、特に限定されないが、1〜100nmであるのが好ましく、3〜20nmであるのがより好ましい。
また、銀微粒子1の粒度分布におけるピークの半値幅も、特に限定されないが、0.1〜3nmであるのが好ましく、0.5〜2nmであるのがより好ましい。
銀微粒子1の平均粒径や粒度分布におけるピークの半値幅を前記範囲とすることにより、導電性パターンは、その緻密性がより向上し、抵抗率がより低いものとなる。
【0049】
なお、本発明の銀微粒子の製造方法によれば、このように、粒径が小さく、かつ、バラツキの少ない銀微粒子1を容易かつ確実に得ることができる。
このような導電性パターンは、銀微粒子1を含有するパターン形成用材料(本発明の銀微粒子分散液)を所定の形状に成膜した後、得られた膜を焼成して得ることができる。
ここで、パターン形成用材料を調製するために用いる分散媒としては、銀メルカプチドの炭素数に応じて選択するようにすればよく、特に限定されず、前述したような置換反応の際に用いられる分散媒の他、例えば、蒸留水、純水、イオン交換水、RO水等の各種水等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
また、パターン形成用材料の供給方法(成膜方法)としては、例えば、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、液滴吐出法(例えばインクジェット印刷法)等の各種塗布法を用いることができるが、特に、液滴吐出法が好適である。この液滴吐出法によれば、微細な形状の膜を容易かつ寸法精度よく形成することができる。
【0051】
なお、銀微粒子1の平均粒径や粒度分布におけるピークの半値幅を、前述したような範囲とすることにより、液滴吐出法によっても、吐出口においてパターン形成用材料が目詰まりするのを防止して、パターン形成用材料を安定的かつ精度よく吐出することができる。
また、膜を焼成する際の温度は、特に限定されないが、100〜350℃であるのが好ましく、120〜180℃であるのがより好ましい。
【0052】
また、焼成の際の時間も、特に限定されないが、前記温度範囲の場合、5〜100分間であるのが好ましく、10〜50分間であるのがより好ましい。
また、銀微粒子1を用いることにより、原料微粒子10をそのまま用いる場合に比べて、銀以外の有機物がより容易に除去されるので、得られる導電性パターン中における不純物含有量がより低減し、導電性パターンの抵抗率がより低いものとなる。
特に、このとき、炭素数が比較的少ないチオール化合物を置換させることにより製造された銀微粒子1を用いることにより、焼成の際に、銀以外の有機物がより確実に、導電性パターン中から除去されることになる。その結果、得られる導電性パターンは、抵抗率が特に低いものとなる。
【0053】
次に、このような導電性パターンを備える本発明の電子デバイスを、アクティブマトリックス駆動方式の透過型液晶表示装置に適用した場合を一例に説明する。
図3は、本発明の電子デバイスを透過型液晶表示装置に適用した場合の実施形態を示す分解斜視図である。
なお、図3では、図が煩雑となるのを避けるため一部の部材を省略している。また、以下の説明では、図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0054】
図3に示す透過型液晶表示装置100(以下、単に「液晶表示装置100」と言う。)は、液晶パネル(表示パネル)200と、バックライト(光源)600とを有している。
この液晶表示装置100は、バックライト600からの光を液晶パネル200に透過させることにより画像(情報)を表示し得るものである。
液晶パネル200は、互いに対向して配置された第1の基板220と第2の基板230とを有し、これらの第1の基板220と第2の基板230との間には、表示領域を囲むようにしてシール材(図示せず)が設けられている。
【0055】
そして、これらの第1の基板220、第2の基板230およびシール材により画成される空間には、電気光学物質である液晶が収納され、液晶層(中間層)240が形成されている。すなわち、第1の基板220と第2の基板230との間に、液晶層240が介挿されている。
なお、図示は省略したが、液晶層240の上面および下面には、それぞれ、例えばポリイミド等で構成される配向膜が設けられている。これらの配向膜により液晶層240を構成する液晶分子の配向性(配向方向)が規制されている。
【0056】
第1の基板220および第2の基板230は、それぞれ、例えば、各種ガラス材料等で構成されている。
第1の基板220は、その上面(液晶層240側の面)221に、マトリックス状(行列状)に配置された複数の画素電極223と、X方向に延在する信号電極224とが設けられ、1列分の画素電極223の各々が1本の信号電極224に、それぞれ、TFD素子(スイッチング素子)222を介して接続されている。
【0057】
画素電極223は、透明性(光透過性)を有する透明導電膜で構成されている。
TFD素子222は、信号電極224から引き出された引き出し部228上に、絶縁膜を介して金属層229が積層されて構成され、金属層229が画素電極223に接続されている。なお、このTFD素子222は、金属/絶縁体/金属のサンドイッチ構造を採るため、正負双方向のダイオードスイッチング特性を有することになる。
【0058】
この信号電極224および引き出し部228が、それぞれ、本発明の導電性パターンで構成されている。
なお、スイッチング素子には、TFD素子222に代わり、TFT素子を用いることもできる。
また、第1の基板220の下面には、偏光板225が設けられている。
【0059】
一方、第2の基板230は、その下面(液晶層240側の面)231に、複数の帯状をなす走査電極232が設けられている。これらの走査電極232は、信号電極224とほぼ直交するY方向に沿って、互いに所定間隔をおいてほぼ平行に配置され、かつ、画素電極223の対向電極となるように配列されている。
画素電極223と走査電極232とが重なる部分(この近傍の部分も含む)が1画素を構成し、これらの電極間で充放電を行うことにより、各画素毎に、液晶層240の液晶が駆動、すなわち、液晶の配向状態が変化する。
【0060】
走査電極232も、前記画素電極223と同様に、透明性(光透過性)を有する透明導電膜で構成されている。
各走査電極232の下面には、それぞれ、赤(R)、緑(G)、青(B)の有色層(カラーフィルター)233が設けられ、これらの各有色層233がブラックマトリックス234によって仕切られている。
【0061】
ブラックマトリックス234は、遮光機能を有し、例えば、クロム、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、亜鉛、チタンのような金属、カーボン等を分散した樹脂等で構成されている。
また、第2の基板230の上面には、前記偏光板225とは偏光軸が異なる偏光板235が設けられている。
【0062】
このような構成の液晶パネル200では、バックライト600から発せられた光は、偏光板225で偏光された後、第1の基板220および各画素電極223を介して、液晶層240に入射する。液晶層240に入射した光は、各画素毎に配向状態が制御された液晶により強度変調される。強度変調された各光は、有色層233、走査電極232および第2の基板230を通過した後、偏光板235で偏光され、外部に出射する。これにより、液晶表示装置100では、第2の基板230の液晶層240と反対側から、例えば、文字、数字、図形等のカラー画像(動画および静止画の双方を含む)を視認することができる。
このような液晶表示装置100は、各種電子機器の表示部に用いることができる。
【0063】
図4は、本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
この図において、パーソナルコンピュータ1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示ユニット1106とにより構成され、表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。
【0064】
このパーソナルコンピュータ1100においては、表示ユニット1106が前述の液晶表示装置(電気光学装置)100を備えている。
図5は、本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
この図において、携帯電話機1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206とともに、前述の液晶表示装置(電気光学装置)100を表示部に備えている。
【0065】
図5は、本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。なお、この図には、外部機器との接続についても簡易的に示されている。
ここで、通常のカメラは、被写体の光像により銀塩写真フィルムを感光するのに対し、ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子により光電変換して撮像信号(画像信号)を生成する。
【0066】
ディジタルスチルカメラ1300におけるケース(ボディー)1302の背面には、前述の液晶表示装置100が表示部に設けられ、CCDによる撮像信号に基づいて表示を行う構成になっており、被写体を電子画像として表示するファインダとして機能する。
ケースの内部には、回路基板1308が設置されている。この回路基板1308は、撮像信号を格納(記憶)し得るメモリが設置されている。
【0067】
また、ケース1302の正面側(図示の構成では裏面側)には、光学レンズ(撮像光学系)やCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
撮影者が液晶表示装置100に表示された被写体像を確認し、シャッタボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、回路基板1308のメモリに転送・格納される。
【0068】
また、このディジタルスチルカメラ1300においては、ケース1302の側面に、ビデオ信号出力端子1312と、データ通信用の入出力端子1314とが設けられている。そして、図示のように、ビデオ信号出力端子1312にはテレビモニタ1430が、デ−タ通信用の入出力端子1314にはパーソナルコンピュータ1440が、それぞれ必要に応じて接続される。さらに、所定の操作により、回路基板1308のメモリに格納された撮像信号が、テレビモニタ1430や、パーソナルコンピュータ1440に出力される構成になっている。
【0069】
なお、本発明の電子機器は、図4のパーソナルコンピュータ(モバイル型パーソナルコンピュータ)、図5の携帯電話機、図6のディジタルスチルカメラの他にも、例えば、テレビや、ビデオカメラ、ビューファインダ型、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、タッチパネルを備えた機器(例えば金融機関のキャッシュディスペンサー、自動券売機)、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電表示装置、超音波診断装置、内視鏡用表示装置)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ、その他各種モニタ類、プロジェクター等の投射型表示装置等に適用することができる。
【0070】
また、本発明の電子デバイスは、液晶表示装置の他、例えば、有機または無機のエレクトロルミネッセンス表示装置、有機または無機の薄膜トランジスタ、電気泳動表示装置、非接触ICカード等に適用することもできる。すなわち、本発明の導電体パターンは、これらの電子デバイスが備える電極や配線等に適用することができる。
以上、本発明の銀微粒子の製造方法、銀微粒子、銀微粒子分散液、導電性パターン、電子デバイスおよび電子機器を好適実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0071】
例えば、本発明の銀微粒子の製造方法では、任意の目的の工程が1または2以上追加されてもよい。
また、本発明の銀微粒子は、前述したような製造方法(本発明の銀微粒子の製造方法)によらず、製造されたものであってもよいことは言うまでもない。
また、本発明の電子デバイスおよび電子機器では、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。
【実施例】
【0072】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
I.銀微粒子の検討
I−1.銀微粒子の製造
(実施例I−1)
まず、有機酸であるミリスチン酸[CH(CH12COOH]3.2gと、有機銀化合物である酢酸銀0.4gとを混合し、この混合物をビーカー内に投入した。
【0073】
次に、窒素ガス雰囲気中で、この混合物を攪拌しながら250℃に加熱した。その結果、混合物は溶解して濃紫色に変化した。
次に、この状態を維持しつつ、ビーカー内の内容物を7分間攪拌した後、室温の水で急冷した。
次に、内容物の温度が室温まで下がった後、ビーカー内にエタノールを投入し、30分間超音波洗浄を行った後、濾過するという操作を1サイクルとして、この操作を3サイクル繰り返し行った。
【0074】
これにより、黒紫色の粉末(原料微粒子)を得た。
次に、得られた原料微粒子0.15gをトルエン100mLに分散し、この分散液に、チオール化合物である1−デカンチオール0.15gを添加した。
次に、この混合液を、室温で1時間攪拌することにより、置換反応を行った。
次に、この反応物に、エタノールを投入し、10分間超音波洗浄を行った後、濾過した。
これにより、黒紫色の粉末(銀超微粒子)を得た。
(実施例I−2〜実施例I−8)
表1に示す有機酸、有機銀化合物およびチオール化合物を用いた以外は、前記実施例I−1と同様にして、銀微粒子を得た。
【0075】
【表1】

【0076】
(実施例I−9)
ミリスチン酸[CH(CH12COOH]7.5gと水酸化ナトリウム1.2gを、100mLの純水を収納したビーカー内に投入し、80℃で加熱しつつ攪拌を行って分散させた。
次に、この分散液に硝酸銀5.2gを加え、攪拌した。これにより、混合液は、下部の透明な溶液と上部の白濁したクリーム状の物質とに分離した。
【0077】
次に、上部のクリーム状の物質のみを取り出し、純水で洗浄した後、乾燥することにより、白い粉末(ミリスチン酸銀)を得た。
次に、このミリスチン酸銀の粉末を、窒素ガス雰囲気中で、250℃で1時間加熱した。これにより、ミリスチン酸銀が溶融して紫色に変色した。
次に、この溶融液を冷却し、室温まで下がった後、ビーカー内にメタノールを投入することにより過剰なミリスチン酸を溶解し、30分間超音波洗浄を行った後、濾過するという操作を1サイクルとして、この操作を3サイクル繰り返し行った。
これにより、黒紫色の粉末(原料微粒子)を得た。
【0078】
次に、得られた原料微粒子0.15gをトルエン100mLに分散し、この分散液に、チオール化合物である1−デカンチオール0.15gを添加した。
次に、この混合液を、室温で1時間攪拌することにより、置換反応を行った。
次に、この反応物に、エタノールを投入し、10分間超音波洗浄を行った後、濾過した。
これにより、黒紫色の粉末(銀超微粒子)を得た。
(実施例I−10〜実施例I−16)
表2に示す脂肪酸およびチオール化合物を用いた以外は、前記実施例I−9と同様にして、銀微粒子を得た。
【0079】
【表2】

【0080】
(比較例I−1)
チオール化合物との置換反応を省略した以外は、前記実施例I−9と同様にして、銀微粒子を得た。
すなわち、前記実施例I−9の途中段階で得られた原料微粒子を、そのまま銀微粒子とした。
【0081】
(比較例I−2)
チオール化合物との置換反応を省略した以外は、前記実施例I−10と同様にして、銀微粒子を得た。
すなわち、前記実施例I−10の途中段階で得られた原料微粒子を、そのまま銀微粒子とした。
【0082】
(比較例I−3)
チオール化合物との置換反応を省略した以外は、前記実施例I−11と同様にして、銀微粒子を得た。
すなわち、前記実施例I−11の途中段階で得られた原料微粒子を、そのまま銀微粒子とした。
【0083】
I−2.評価
I−2−A.原料微粒子の評価
各実施例で製造された原料微粒子について、それぞれ、紫外可視吸収スペクトルおよび赤外吸収スペクトルの測定を行った。
なお、紫外可視吸収スペクトルの測定は、原料微粒子をトルエンに分散させた分散液について行った。
【0084】
各実施例の原料微粒子について、紫外可視吸収スペクトルの観測を行ったところ、いずれも波長424nmに、銀微粒子の表面プラズモンに起因する極大が観測された。
また、赤外吸収スペクトルの観測では、1562cm−1と1409cm−1付近とに、それぞれ、カルボン酸(COO)の伸縮吸収に起因する赤外線の吸収ピークが認められた。一方、カルボキシル基(COOH)に特徴的な、C=O伸縮に起因する赤外線の吸収ピーク(1700cm−1付近)は、観測されなかった。
【0085】
これらの結果から、各実施例で得られた原料微粒子は、いずれも、銀で構成される核の表面に、脂肪酸銀塩が結合して被覆されていることが確認された。また、脂肪酸の不純物は混在していないことが確認された。
また、透過型電子顕微鏡によって得られた写真像から粒度分布を調べ、その平均粒径およびピークの半値幅をそれぞれ計測した。
【0086】
I−2−B.銀微粒子の評価
各実施例で製造された銀微粒子について、それぞれ、前記原料微粒子と同様にして、紫外可視吸収スペクトルおよび赤外吸収スペクトルの測定を行った。
なお、実施例I−6および実施例I−14で製造された銀微粒子については、それぞれ、エタノール/ヘキサンの1:1混合溶媒に分散させた分散液について紫外可視吸収スペクトルの測定を行った。
【0087】
各実施例の銀微粒子について、紫外可視吸収スペクトルの観測を行ったところ、いずれも波長430nmに、銀微粒子の表面プラズモンに起因する極大が観測された。
また、赤外吸収スペクトルの観測では、1562cm−1と1409cm−1付近とに、それぞれ、カルボン酸(COO)の伸縮吸収に起因する赤外線の吸収ピークが観測されず、Ag−Sに隣接したメチル基のCH面外変角の吸収に起因するピーク(1420cm−1付近)が観測された。
【0088】
これらの結果から、各実施例で得られた銀微粒子は、いずれも、銀で構成される核の表面が脂肪酸銀塩により被覆された原料微粒子の、脂肪酸がチオール化合物により置換されたものであることが確認された。
また、透過型電子顕微鏡によって得られた写真像から粒度分布を調べ、その平均粒径およびピークの半値幅をそれぞれ計測した。
各銀微粒子の平均粒径およびピークの半値幅の計測結果を、各原料微粒子の平均粒径およびピークの半値幅の計測結果と併せて、それぞれ表3に示す。
【0089】
【表3】

【0090】
表3に示すように、チオール化合物による置換により、銀微粒子は、粒径のバラツキが小さくなる傾向を示した。
また、実施例I−1〜実施例I−8で得られた銀微粒子は、いずれも、同じチオール化合物でと置換して得られた銀微粒子(実施例I−9〜実施例I−16で得られた銀微粒子)よりも粒径のバラツキが小さいものであった。
【0091】
II.配線(導電性パターン)の検討
II−1.配線の形成
(実施例II−1)
まず、前記実施例I−1で製造された銀微粒子を、キシレンに20wt%となるように分散させ、さらにドデシルベンゼンを添加することにより、インク(パターン形成用材料)を調製した。
【0092】
なお、調製されたインクの粘度は、2mPa・sであった。
次に、このインクを、ガラス基板上に、インクジェット装置を用いて、ライン状のパターンで吐出した後、100℃で乾燥することにより成膜した。さらに、この膜上に同様に膜を形成する操作を繰り返して行った。
次に、得られた膜を250℃で30分間焼成を行うことにより、表面に存在するチオール化合物を分解・除去し、核同士を焼結させた。
以上の工程により、線幅:50μm×厚さ:1μmの配線を形成した。
(実施例II−2〜実施例II−16、比較例II−1〜比較例II−3)
銀微粒子、分散媒および焼成条件を表4に示すように変更した以外は、それぞれ、前記実施例II−1と同様にして、配線を形成した。
II−2.配線の評価
各実施例および各比較例で形成した配線について、それぞれ、抵抗率を測定した。
その結果を表4に示す。
【0093】
【表4】

【0094】
表4に示すように、各実施例で形成された配線は、いずれも抵抗率が低い値であった。
また、実施例II−1〜実施例II−8で形成された配線は、いずれも、同じチオール化合物でと置換して得られた銀微粒子を用いて形成された配線(実施例II−9〜実施例II−16で形成された配線)よりも抵抗率が小さいものであった。
これに対して、各比較例で形成された配線は、いずれも、各実施例に比べて、抵抗率が明らかに高い値を示した。
【0095】
この結果は、用いた銀微粒子の粒径のバラツキに大きな原因があるものと推察される。 また、炭素数が特に少ない化合物が核の表面に結合してなる銀微粒子を用いて形成された配線(実施例II−4および実施例II−12で形成された配線)は、特に、抵抗率が低いものであった。
これは、配線の形成の際に行われる焼成により、核の表面に結合したチオール化合物が効率よく除去され、配線中の不純物含有量が少なくなることが要因であると考えられる。
【0096】
また、各実施例では、いずれも、各比較例に比べて低温での焼成により配線を形成することが可能であった。
また、有機酸として、カルボン酸に代えて、各種スルホン酸、各種リン酸を用いて、有機銀化合物として、カルボン酸銀塩に代えて、各種銀錯体を用いて、前記実施例I−1〜実施例I−8と同様にして、銀微粒子を製造し、かかる銀微粒子を用いて配線を形成した。そして、銀微粒子および配線について、前記と同様にして評価を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の銀微粒子を示す模式図である。
【図2】本発明の銀微粒子の製造方法に用いる原料微粒子を示す模式図である。
【図3】本発明の電子デバイスを透過型液晶表示装置に適用した場合の実施形態を示す分解斜視図である。
【図4】本発明の電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
【図6】本発明の電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0098】
1……銀微粒子 10……原料微粒子 2……核 3……銀メルカプチド 30……有機酸銀塩 100‥‥液晶表示装置 200‥‥液晶パネル 220‥‥第1の基板 221‥‥上面 222‥‥TFD素子 223‥‥画素電極 224‥‥信号電極 225‥‥偏光板 228‥‥引き出し部 229‥‥金属層 230‥‥第2の基板 231‥‥下面 232‥‥走査電極 233‥‥有色層 234‥‥ブラックマトリックス 235‥‥偏光板 240‥‥液晶層 600‥‥バックライト 1100‥‥パーソナルコンピュータ 1102‥‥キーボード 1104‥‥本体部 1106‥‥表示ユニット 1200‥‥携帯電話機 1202‥‥操作ボタン 1204‥‥受話口 1206‥‥送話口 1300‥‥ディジタルスチルカメラ 1302‥‥ケース(ボディー) 1304‥‥受光ユニット 1306‥‥シャッタボタン 1308‥‥回路基板 1312‥‥ビデオ信号出力端子 1314‥‥データ通信用の入出力端子 1430‥‥テレビモニタ 1440‥‥パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として銀で構成される粒状の核の表面に、有機酸銀塩が銀イオンを前記核側にして結合してなる原料微粒子に、チオール化合物を接触させることにより、前記有機酸銀塩を形成する有機酸と前記チオール化合物とを置換することを特徴とする銀微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記原料微粒子と前記チオール化合物とを接触させる際の温度は、0〜50℃である請求項1に記載の銀微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記原料微粒子と前記チオール化合物とを接触させる際の時間は、0.1分〜100時間である請求項1または2に記載の銀微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記チオール化合物は、その炭素数が10以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の銀微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記チオール化合物は、その炭素数が5以下である請求項1ないし4のいずれかに記載の銀微粒子の製造方法。
【請求項6】
極性を有する分散媒に分散可能である請求項5に記載の銀微粒子の製造方法。
【請求項7】
用いる前記原料微粒子と前記チオール化合物との比率は、重量比で1:0.0001〜1:10である請求項1ないし6のいずれかに記載の銀微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記原料微粒子は、主として、銀イオンと塩を形成し得る官能基を少なくとも1つ有する有機酸と、銀の供給源となる有機銀化合物とを含有する混合物を、加熱することにより得られたものである請求項1ないし7のいずれかに記載の銀微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記有機酸は、その炭素数が前記有機銀化合物の炭素数より多い請求項8に記載の銀微粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の銀微粒子の製造方法により製造されたことを特徴とする銀微粒子。
【請求項11】
主として銀で構成される粒状の核の表面に、銀メルカプチドが銀イオンを前記核側にして結合してなることを特徴とする銀微粒子。
【請求項12】
導電性パターンを形成するために用いられるものである請求項10または11に記載の銀微粒子。
【請求項13】
平均粒径が、1〜100nmである請求項12に記載の銀微粒子。
【請求項14】
粒度分布におけるピークの半値幅が、0.1〜3nmである請求項12または13に記載の銀微粒子。
【請求項15】
請求項10ないし14のいずれかに記載の銀微粒子を分散媒に分散してなることを特徴とする銀微粒子分散液。
【請求項16】
請求項5または6に記載の銀微粒子を、極性を有する分散媒に分散してなることを特徴とする銀微粒子分散液。
【請求項17】
請求項11ないし14のいずれかに記載の銀微粒子を含有するパターン形成用材料を所定の形状に成膜した後、得られた膜を焼成して得られることを特徴とする導電性パターン。
【請求項18】
請求項17に記載の導電性パターンを備えることを特徴とする電子デバイス。
【請求項19】
請求項18に記載の電子デバイスを備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−89818(P2006−89818A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−278473(P2004−278473)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】