説明

鋼塊の製造方法

本発明は、鋼塊中の介在物サイズの微細化を図るものであり、溶鋼中に混濁する酸化物の組成をMgO主体とするに十分な量のMgを有する溶湯に調整するMg酸化物形成工程と、該Mg酸化物形成工程よりも雰囲気の真空度を減圧として、溶湯中のMg酸化物をMgと酸素に解離させ、Mg含有量をMg酸化物形成工程の50%以下とする解離工程を経る鋼塊の製造方法である。Mg酸化物形成工程において、一旦凝固させる工程を採用することが好ましい。すなわち、Mg酸化物形成工程を一次溶解とし、該一次溶解時の溶鋼中に混濁する酸化物の組成をMgO主体とするに十分な量のMgを有する溶湯に調整した後、凝固させ、解離工程を一次溶解時よりも真空度を減圧として再溶解し、Mg酸化物をMgと酸素に解離させ、Mg含有量を再溶解前の50%以下とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、Feを基本成分とする金属材料(Feを最も多く含有するもの)である鋼塊の製造方法に関するものであり、特に非金属介在物(以下、介在物と記す)を極めて微細に制御できる鋼塊の製造方法に関するものである。
【背景技術】
鋼中に存在する介在物は種々の機械的特性に影響を及ぼす。例えば、プレスで鋼板を打抜いたり、切削したりする場合、微細に介在物を分散させて、介在物を破壊の起点として打抜き性や切削性を向上させる技術もある。
一方、鋼中に存在する介在物は、その介在物の組成、形状、サイズが鋼材の機械的特性を劣化させることも知られている。例えば、疲労強度が求められるような用途においては介在物を起点とした材料破断の問題がある。この疲労破壊においては、介在物の大きさが大きく影響を及ぼし、介在物制御が大きな課題となっている。
自動車部材、工具鋼、構造用鋼など、特殊用途に用いられる高級部材においては、介在物を制御する方法として、例えば、アーク炉(以下AFと記す)や真空誘導溶解(以下、VIMと記す)の後、エレクトロスラグ再溶解(以下、ESRと記す)や真空アーク再溶解(以下、VARと記す)を適用して二重溶解を行うのが一般的に行われている。
VARやESRを適用して二重溶解された鋼は、均質(成分偏析が少ない)でしかも、介在物の量が少なくなると言った利点を有するものである。
上述した介在物による疲労破壊の問題に対して、厳しい要求が求められる代表的な鋼にマルエージング鋼がある。
マルエージング鋼は強靭で、かつ高強度を持つため繰返し応力が負荷される構造部材や疲労強度の必要な重要部材に使用されている。しかし部材中に大型の非金属介在物が存在すると、これを起点とした疲労破壊を生じることが広く知られており、特に高サイクル疲労破壊を生じさせないためには非金属介在物を微細に分散させる必要がある。
このような、介在物を問題視して、介在物の微細化については種々の提案がなされている。例えば本願出願人による特開平11−293407号公報や、特開2003−183765号公報がある。
【発明の開示】
従来の鋼塊中の介在物微細化方法としては、酸素や窒素などの介在物形成元素を低くしたり、再溶解の溶解条件のパラメーターを調整したりすることで介在物の微細化が図られてきた。
しかしながら、酸素や窒素の低減に関しては、成分規格上の制約、すなわちC、Alなどの脱酸元素の添加量が成分規格から制限されることや、溶解速度の制御、雰囲気の真空度など、生産量に直結するパラメーターについては、おのずとその変更に量産性の面から限界があった。そのため、実際に量産工程に適する新しい介在物微細化技術が切望されてきた。
本発明の目的は、従来よりも飛躍的に介在物サイズを微細化させることができる鋼塊の製造方法を提供することである。
本発明者らは、溶鋼中にMgを存在させることで、一旦MgO主体の酸化物を生成させた後、より高い真空度に曝すことで、溶鋼表面でMgO主体の酸化物の解離(dissociation)を促進させることができ、結果として微細な介在物を有する鋼塊を得ることができることを見いだし本発明に到達した。
すなわち、本発明は、溶鋼中に混濁する酸化物の組成をMgO主体とするに十分な量のMgを有する溶湯に調整するMg酸化物形成工程と、該Mg酸化物形成工程よりも雰囲気の真空度を減圧として、溶湯中のMg酸化物をMgと酸素に解離させ、Mg含有量をMg酸化物形成工程の50%以下とする解離工程を経る鋼塊の製造方法である。
本発明において、MgO主体の酸化物とは、酸化物の構成成分のうち、最も多い成分がMgOであるような酸化物を意味する。
また、本発明の解離工程におけるMg含有量は、好ましくはMg酸化物形成工程におけるMg含有量の20%以下、更に好ましくは10%以下である。
また、本発明において、好ましくは、Mg酸化物形成工程において一旦凝固させる工程を採用すること、すなわち、Mg酸化物形成工程を一次溶解とし、該一次溶解時の溶鋼中に混濁する酸化物の組成をMgO主体とするに十分な量のMgを有する溶湯に調整した後、凝固させるものとし、解離工程を一次溶解時よりも真空度を減圧として再溶解し、Mg酸化物をMgと酸素に解離させ、Mg含有量を再溶解前の50%以下とするものとすることが望ましい。また、このとき、再溶解は真空アーク再溶解とすることが望ましい。
また、特に再溶解を適用する場合は、窒化物形成元素を鋼塊成分として含有する鋼の製造に適用することが望ましい。
本発明において、Mg酸化物形成工程の真空度は6kPa〜60kPaが好ましく、解離工程の真空度は0.6kPaよりも減圧とすることが好ましい。
また、本発明における、Mg酸化物形成工程においてMg量(MgOXI)とAl量(AlOXI)の関係が、AlOXI(mass ppm)/MgOXI(mass ppm)=5〜100となるように調整することが望ましい。
ここで、一次溶解と再溶解といった工程を経ることなく、溶湯雰囲気を自在に制御して、再溶解を用いない方法の場合、酸化物形成工程におけるMg量(MgOXI)及びAl量(AlOXI)とは、酸化物工程から解離工程に移行させるために、真空度を減圧させる直前の時点で採取したサンプル中のMg含有量及びAl含有量を示す。
また、酸化物形成工程を1次溶解とし、解離工程を再溶解とする場合には、Mg量(MgOXI)とは、1次溶解後凝固した鋼塊中のMg含有量を示す。
本発明において、上述の溶鋼中へのMgの添加は、Mg含有量がmass%で20%以下(0は含まず)を含有したNi−Mg合金として添加することが望ましい。
また、本発明においては、目的とする鋼塊成分として、Alを0.01〜6mass%含む鋼塊に適用することが望ましく、またTiを0.1〜2mass%含む鋼塊に適用することが望ましい。
具体的には例えばマルエージング鋼や金型用鋼等の工具鋼にも適用することもできる。
前記マルエージング鋼は、実質的に、mass%で、O(酸素):10ppm未満、N(窒素):15ppm未満、C:0.01%以下、Ti:0.3〜2.0%以下、Ni:8.0〜22.0%、Co:5.0〜20.0%、Mo:2.0〜9.0%、Al:0.01〜1.7%、および残部としてのFeおよび不可避不純物から成るものが望ましい。
本発明の鋼塊の製造方法は、Mg添加と特定の減圧工程の制御により、非金属介在物の大きさを飛躍的に小さくすることができ、粗大介在物が悪影響を及ぼす靭性や疲労強度といった機械的特性の改善や、鏡面加工における介在物起因の欠陥の発生といった表面清浄の改善に極めて有用な技術となる。
本発明の特徴を以下に述べる。
本発明者らは、酸化物形成能が高いMgが、真空中の蒸気圧が高いことに着目して鋼中の介在物とMgの影響を研究した。そして、一旦、MgO主体の酸化物を形成させてから、高真空に曝せば、溶鋼表面からのMg蒸発によりMgO主体の酸化物の殆どを解離消失させることができ、凝固後の鋼塊中の介在物の大きさを飛躍的に小さくできることを見いだした。
その理由は、以下のように考えられる。
MgO主体の酸化物は、鋼中の典型的な介在物として知られるAl主体の酸化物よりも酸化物形成能が高く、適量のMg合金を溶鋼中に添加すれば、MgO主体の酸化物が溶鋼中に分散して存在することになる。Mgを添加した後、このまま鋳造すると、介在物がAl主体の酸化物からMgO主体の酸化物に変わっただけで、劇的な介在物の微細化効果は得られない。
そこで、MgO主体の酸化物形成工程よりも雰囲気の真空度を減圧とした解離工程を付与する。高真空に曝すことで、蒸気圧の高い溶鋼中のMgが気相中に拡散し、溶鋼中の平衡状態が崩れ、MgO主体の酸化物の解離が進行する。このとき、解離した酸素は、溶鋼中のMgやAl等と結びつき、MgO主体の酸化物やAl主体の酸化物などを形成するのであるが、酸素の拡散は解離反応の進行に依存するため、急激な酸化物の成長とはならず、酸化物の微細な状態で凝固させ鋼塊とすることができたものと考えられる。
これに対して、従来の製法では、溶鋼中にAlなどの凝集しやすい介在物がもともと存在し、溶鋼中の流動によってこれら介在物はお互いに衝突し、次第に大型の介在物へと成長する。
本発明では、Alなどの凝集しやすい介在物を、Mg酸化物形成工程により、MgO主体の酸化物として衝突による凝集・成長を防止すると共に、更に解離工程によりMgO主体の酸化物を酸素とMgガスとに解離させ、凝固後の鋼塊中の酸化物を微細化させる。
本発明においては、溶湯中にMgO主体の酸化物が主たる介在物となるのに十分な量のMgが存在する溶鋼に調整することが必要である。
そのために添加するMg合金の量は、溶湯中のAl等の活性元素量、酸素量、硫黄(S)量から化学平衡論的にMgO主体の酸化物が形成するのに十分な量として計算することができる。
簡易的には特定の鋼種に対して、繰返し実験によってMg添加後にサンプルを採取し、凝固させた状態でMgの添加量とサンプル中の酸化物組成とを調査して決めればよい。Mgの添加方法としては、目的とする鋼の合金成分とMgの合金の形、例えばMg含有量がmass%で20%以下(0は含まず)であるNi−Mg合金形態として添加することが、添加時のMgの損失を防ぐ上で好ましい。
本発明においては、Mg含有量をMg酸化物形成工程の50%以下とするとしている。これは、経験値として決定したものであり、Mgを添加後に溶鋼中の介在物がMgO主体の酸化物となっていれば、鋼塊としてねらうMg含有量が鋼に対する影響の無いレベルである3〜5ppm以下程度であっても、ねらい値の倍以上のMgの添加により、解離工程後凝固させた鋼塊中の介在物の微細化に対して明確な効果を得ることが出来たためである。
解離工程のMg含有量がMg酸化物形成工程の50%を超えて残留しているようでは、Mgの解離が不十分で、解離による酸化物の微細化効果が十分に得られない。好ましくはMg含有量をMg酸化物形成工程の20%以下、更に好ましくは10%以下とする。
なお、Mgを過度に導入することは、機械的強度など鋼の主要特性に影響するため、必要且つ最小限の量にすることが好ましい。減圧又は再溶解での解離工程においても、雰囲気中にMgガスが多量に存在する状態では、解離反応が進行し難いことになる。
そのため、例えばMgO主体の酸化物形成工程における溶鋼中のMg含有量は最大で300ppm程度とし、現実的には10〜200ppm程度としておくことが望ましい。
本発明においてMgOを主体とは、酸化物組成を例えばエックス線分析装置で分析した時、酸素を除いた元素を定量分析を行い、Mgが30mass%以上検出されたものをMgOを主体と定義する。
この場合の分析は、例えばエネルギー分散型エックス線分析装置で定性/定量分析を行うことで確認することができる。
また、MgOが主体となっている介在物の比率の調査においては、特定の重量のサンプル内に存在する介在物を抽出し、例えばエネルギー分散型エックス線分析装置で定性/定量分析を行い、その比率を求めることができる。
本発明においては、溶湯雰囲気を自在に制御できれば、一次溶解と再溶解といった工程を経ることなく、本発明の方法を適用することができるが、雰囲気圧力制御は容易ではなく、低真空の真空誘導溶解等の一次溶解で一旦凝固させ、次いで解離工程となる真空アーク再溶解等の再溶解を組み合わせるのが実用的である。
特に真空アーク再溶解(VAR)は、高真空で、凝固単位が小さく解離工程で他の介在物が成長するのを抑制するのに都合がよい。さらに、VARは偏析の抑制、酸素等のガス成分の低減にも効果がある。
本発明において、解離工程としてVARなどの再溶解を適用する場合は、成分中にTiなどの窒化物形成元素を含む鋼塊に対し、酸化物の微細化効果に加えて窒化物の粗大化防止効果をも得ることができる。
本発明者らは、マルエージング鋼の窒化物のサイズについて研究した結果、窒化物のサイズは1次溶解後の鋼塊に比べて、VARなどの再溶解後の鋼塊の方が大きいことを確認した。そして、窒化物が再溶解時に成長・粗大化する原因は、再溶解時に1次溶解の鋼塊中に存在した窒化物が溶鋼中に完全に溶融しないため、凝固時に窒化物が成長・粗大化するためであることを突き止めた。
本発明では、Mg合金を添加後、凝固までの間に、窒化物の晶出または析出が生じるが、MgO主体の酸化物は、窒化物系化合物の晶出または析出の核となる傾向がある。このことにより、1次溶解の鋼塊中の窒化物は、例えばMgOを析出核として周囲に窒化物、例えばTiNが取り巻くといった窒化物−MgO複合体の形態となる。
再溶解時に溶鋼表面からMgの蒸発が盛んに生じると、窒化物−MgO複合体の一部を構成するMgO主体の酸化物がMgと酸素に解離する。そのため窒化物−MgO複合体はMgO部分が消失することにより細かく分解し、熱分解が促進して窒化物を溶鋼中に完全に溶融させることができる。
これによって、確実に窒化物を溶鋼へ溶け込ませることができ、窒化物が溶けきらずに、さらに大きな窒化物に成長・粗大化してしまうのを防止でき、結果として粗大な窒化物が存在しない鋼塊を得ることができるようになる。
特に、再溶解が凝固単位が小さいVAR等の場合、再溶解で溶けきらない窒化物系介在物の成長は大きな問題であり、本発明はその課題を解決する有効な手段となる。
窒化物系介在物を形成する元素としては、典型的には、上述したTiがあるが、他の元素としてAl、Nb、V、Cr等がある。
本発明では上述したように溶湯雰囲気のコントロールが重要である。酸化物形成工程よりも解離工程が減圧であれば解離は進行するが、量産技術として好ましい範囲は、Mg酸化物形成工程の真空度は6kPa〜60kPaであり、解離工程の真空度は0.6kPaよりも減圧とすることである。
ここで、Mg酸化物形成工程の真空度の下限として60kPaとしたのは、これを超える高い圧力では、基本的な脱ガス作用が期待できなくなるためである。また、上限値を6kPaとしたのは、これ以上の減圧雰囲気では、溶湯中にMg拡散する前に、気化してしまい、MgO主体の酸化物が形成されにくく、本発明の効果が明確でなくなるためである。
また、解離工程の真空度は可能な限り減圧雰囲気がよいが、0.6kPaを超えるような圧力では、解離反応の進行が遅く現実ではないため、0.6kPaよりも減圧とすることが好ましい。より好ましくは0.06kPa以下とする。
上述したように、溶鋼中の酸化物をMgO主体の酸化物とする条件を決定するためには、化学平衡論的に計算する手法と、サンプルを採取しながら実験的に求める方法がある。
特にAlが介在物として問題となる場合は、Mg酸化物形成工程においてMg量(MgOXI)と、Al量(AlOXI)の関係がAlOXI(mass ppm)/MgOXI(mass ppm)=5〜100となるように調整することが好ましい。
Mgの酸化物形成能はAlより高いため、AlOXI(mass ppm)/MgOXI(mass ppm)=100程度でMgO主体の酸化物とすることができ、AlOXI(mass ppm)/MgOXI(mass ppm)=5以上の範囲内であれば溶鋼中の酸化物をより確実にMgO主体の酸化物とすることができるためである。
この効果はAlOXI(mass ppm)/MgOXI(mass ppm)=200以下の範囲であれば少なからず得ることができるが、Mgが過度になり過ぎてAlOXI(mass ppm)/MgOXI(mass ppm)の値が5未満となると、介在物を逆に増加する可能性があり、好ましくない。
VARを適用するマルエージング鋼や、金型鋼等の工具鋼においては、1次溶解で溶鋼にMg合金をMg相当量として10〜100ppmを添加しておき、再溶解後の鋼塊で5ppm以下までMgを低減することが好ましい。
鋼塊としてねらう成分としては、Alを鋼の不純物としてではなく、積極的に添加され、介在物が発生しやすい鋼種たとえば、0.1〜6mass%含む鋼種等への適用が望ましい。ここで上限値を6mass%としたのは、汎用材料として6%程度が上限値との認識による。
また、Tiが0.1〜2mass%含む鋼種等への適用が可能である。
上述したように、特に再溶解を適用する場合に有効である。上限値を2mass%とした理由は、汎用鋼に含まれるTi量の上限値が2%程度だからである。なお、下限値を下回っても、上限値を上回っても、本発明の効果は少なからず発揮される。
本発明を適用する実用的鋼種例として、マルエージング鋼がある。特に最近では、マルエージング鋼を約0.2mm以下の薄帯として、自動車の動力伝達用ベルトとする用途がある。このように鋼の厚さが最終的に0.5mm以下となるような用途においては、例えば15μmを超えるような大きさの酸化物は高サイクル疲労破壊の起点となる危険性が高く、素材中の酸化物は概ね15μm以下とする必要がある。
また、ごく一部を除くマルエージング鋼には成分としてTiを含有するため、鋼塊中にはTiNが存在する。このTiNは形状が矩形であり、応力集中が生じやすいことや、ダークエリアと呼ばれる水素脆化領域を形成することなどから、酸化物よりも高サイクル疲労破壊に対する感受性が高く、素材中のTiNは概ね10μm以下とする必要があると言われている。そのため、本発明の製造方法に適する鋼種である。
以下、本発明に適用するマルエージング鋼の一例を説明する。
マルエージング鋼はその名が示す通り、マルテンサイト組織にエージング(時効硬化処理)を施すことで2000Mpa前後の非常に高い強度と優れた延性が得られる合金であり、Niを質量%で8〜25mass%含む、時効硬化型の超強力鋼である。
このマルエージング鋼の好ましい化学組成(mass%)は以下の通りである。
O(酸素)は、酸化物系介在物を形成する元素である。本発明では酸化物系の介在物を超微細化に制御できるが、その酸化物系介在物となる酸素の量を低減しておくのがより望ましい。そのため、Oは10ppm未満に制限するとよい。
N(窒素)は、窒化物や炭窒化物介在物を形成する元素である。本発明では窒化物系の介在物を超微細化に制御できるが、その窒化物系介在物となる窒素の量を低減しておくのがより望ましい。そのため、Nは15ppm未満に制限するとよい。
C(炭素)は、炭化物や炭窒化物を形成し、金属間化合物の析出量を減少させて疲労強度を低下させるためCの上限を0.01%以下とするとよい。
Tiは、時効処理により微細な金属間化合物を形成し、析出することによって強化に寄与する必要不可欠な元素であり、望ましくは0.3%以上を含有させるとよい。しかし、その含有量が2.0%を越えて含有させると延性、靱性が劣化するため、Tiの含有量を2.0%以下とするとよい。
Niは、靱性の高い母相組織を形成させるためには不可欠の元素である。しかし、8.0%未満では靱性が劣化する。一方、22%を越えるとオーステナイトが安定化し、マルテンサイト組織を形成し難くなることから、Niは8.0〜22.0%とするとよい。
Coは、マトリックスであるマルテンサイト組織を安定性に大きく影響することなく、Moの固溶度を低下させることによってMoが微細な金属間化合物を形成して析出するのを促進することによって析出強化に寄与する元素である。しかし、その含有量が5.0%未満では必ずしも十分効果が得られず、また20.0%を越えると脆化する傾向がみられることから、Coの含有量は5.0〜20.0%にするとよい。
Moは、時効処理により、微細な金属間化合物を形成し、マトリックスに析出することによって強化に寄与する元素である。しかし、その含有量が2.0%未満の場合その効果が少なく、また9.0%を越えて含有すると延性、靱性を劣化させる粗大析出物を形成しやすくなるため、Moの含有量を2.0〜9.0%にするとよい。
Alは、時効析出した強化に寄与するだけでなく、脱酸作用を持っているため、0.01%以上を含有させるとよいが、1.7%を越えて含有させると靱性が劣化することから、その含有量を1.7%以下とするとよい。
上記の元素以外は実質的にFeでよいが、例えばBは、結晶粒を微細化するのに有効な元素でるため、靱性が劣化させない程度の0.01%以下の範囲で含有させてもよい。
また、不可避的に含有する不純物元素は含有されるものである。
このうち、Si、Mnは脆化をもたらす粗大な金属間化合物の析出を促進して延性、靭性を低下させたり、非金属介在物を形成して疲労強度を低下させるので、Si、Mn共に0.1%以下に、望ましくは0.05%以下とすれば良く、また、P、Sも粒界脆化させたり、非金属介在物を形成して疲労強度を低下させるので、0.01%以下とするとよい。
また、本発明を適用する別の実用的鋼種例としてプラスチック用金型用鋼がある。
プラスチック用金型によって成形されたプラスチック製品は、外観上その表面に疵がないことが必要とされる。また、コンパクトディスクやDVD用、あるいはプラスチックレンズ用の金型では、金型成形部表面に概ね10μmを超える介在物が存在すれば、ピンホール不具合の原因となる。
従って、素材中に存在する酸化物や窒化物は10μm以下とする必要があると言われている。これら金型用鋼等の工具鋼の溶製にも本発明の適用が大変に効果的である。
本発明を適用するに好適なプラスチック用金型用鋼としては、例えばC:0.005〜0.5%、Mn:0.2〜3.0%、Si:0.1〜2.0%、Ni:1.5〜4%、Al:0.1〜2.0%を必須成分として含有し、更に必要に応じてCr:3〜8%、Cu:0.3〜3.5%、W或いは更にMoを1/2W+Moで0.1〜3%、S(硫黄):0.3%以下、Co:2%以下、Nb:0.5%以下、V:0.5%以下をの何れか一種以上を含有させてもよい。
なお、残部は実質的にFe及び不可避的不純物とするが、介在物を形成するN(窒素)及びO(酸素)については、0.01%以下にするのが好ましく、上記の元素の他、被削性改善元素を合計で約1%の範囲まで含んでもよい。
上記範囲内の組成を有する合金として、一例を示すと例えば特許第3351766号、特許第2879930号、特公昭59−37738号に記載された合金組成を有するものがある。
【図面の簡単な説明】
図1aは、本発明方法で製造したマルエージング鋼「電極」中に見られた窒化物系介在物を示す断面電子顕微鏡写真である。
図1bは、本発明方法で製造したマルエージング鋼「電極」中に見られた別の窒化物系介在物を示す断面電子顕微鏡写真である。
図1cは、本発明方法で製造したマルエージング鋼「電極」中に見られた別の窒化物系介在物を示す断面電子顕微鏡写真である。
図2は、比較方法で製造したマルエージング鋼「電極」中に見られた窒化物系介在物を示す断面電子顕微鏡写真である。
図3aは、本発明方法で製造したマルエージング鋼「電極」中から抽出したMgO型介在物の電子顕微鏡写真である。
図3bは、本発明方法で製造したマルエージング鋼「電極」中から抽出したMgO型介在物を示す電子顕微鏡写真である。
図4aは、比較方法で製造したマルエージング鋼「電極」中から抽出したAl介在物を示す電子顕微鏡写真である。
図4bは、比較方法で製造したマルエージング鋼「電極」中から抽出した「MgO−Al」型介在物を示す電子顕微鏡写真である。
図5aは、本発明方法で製造したマルエージング鋼「鋼塊」を熱間圧延、溶体化処理、冷間圧延、時効処理を行った鋼帯サンプル中に見られた酸化物系介在物の電子顕微鏡写真である。
図5bは、本発明方法で製造したマルエージング鋼「鋼塊」を熱間圧延、溶体化処理、冷間圧延、時効処理を行った鋼帯サンプル中に見られた酸化物系介在物の電子顕微鏡写真である。
図5cは、本発明方法で製造したマルエージング鋼「鋼塊」を熱間圧延、溶体化処理、冷間圧延、時効処理を行った鋼帯サンプル中に見られた酸化物系介在物の電子顕微鏡写真である。
図6aは、比較方法で製造したマルエージング鋼「鋼塊」を熱間圧延、溶体化処理、冷間圧延、時効処理を行った鋼帯サンプル中に見られた酸化物系介在物の電子顕微鏡写真である。
図6bは、比較方法で製造したマルエージング鋼「鋼塊」を熱間圧延、溶体化処理、冷間圧延、時効処理を行った鋼帯サンプル中に見られた酸化物系介在物の電子顕微鏡写真である。
図7は、本発明方法で製造したマルエージング鋼「鋼塊」を熱間圧延、溶体化処理、冷間圧延、時効処理を行った鋼帯サンプル中に見られた窒化物系介在物の電子顕微鏡写真である。
図8は、比較方法で製造したマルエージング鋼「鋼塊」を熱間圧延、溶体化処理、冷間圧延、時効処理を行った鋼帯サンプル中に見られた窒化物系介在物の電子顕微鏡写真である。
図9は、本発明方法と比較方法で得られたマルエージング鋼の疲労試験結果である。
【実施例1】
以下、実施例として、先ず最初に本発明に適用するマルエージング鋼の一例について説明する。
マルエージング鋼の代表成分に、溶鋼中のMg含有量を無添加〜200ppm程度とし、Mg含有量を6通りに変化させたVAR溶解用の1ton消耗電極をVIMで製造した(表1のNo.1〜No.6参照)。
VIMでは真空度13.3kPaにおいて、溶鋼中に95mass%Ni−5mass%Mg合金によるMgの添加を行ない、その後、鋳型内で凝固させ、VARに供する1次溶解電極を製造した。また比較材としてVIMでMg微量添加もしくは無添加の条件で製造した消耗電極も製造した。
さらに、Mg添加による窒化物や炭窒化物への影響を明確にするため、窒素濃度を5ppmと10ppmに調整した消耗電極を6本(表1のNo.7〜No.12参照)製造し、VARを行なった。
これらVIMで製造した電極を同一条件の下でVARを用いて再溶解し、鋼塊を製造した。VARの鋳型はそれぞれ同一のものを用い、真空度は1.3Pa、投入電流は鋼塊の定常部で6.5kAで溶解した。
以上、表1は、VIMで製造した消耗電極及びその電極をVARにて真空再溶解して得られた鋼塊の化学組成を示している。No.7〜No.12がMg添加による窒化物や炭窒化物への影響を見たものである。
なお、消耗電極は「電極」として、VAR後のものは「鋼塊」として示した。
また、「電極」の値が本発明のMg酸化物形成工程の値に対応し、「鋼塊」の値が本発明の解離工程の値に対応する。

先ず、「電極」から介在物観察用の試験片を採取し、介在物の調査を行った。
介在物の確認は2通りの方法で行い、介在物の断面形態の観察は「電極」からブロックを切出して、断面を電子顕微鏡観察を行った。一例として図1a、図1b、図1c(図中、各写真の右下部分に概略四角形の複数の点が直線状に並んでいるが、これは寸法を示すものである。すなわち、複数点のうち両端に位置する点の間の距離が併記した数値5μmであることを示す。その他の図も同様である。)に本発明例試料No.2から採取した介在物のうち、典型的な窒化物系介在物の電子顕微鏡写真を幾つか示す。
一方、比較例試料No.5の「電極」からブロックを切出して、断面を電子顕微鏡観察を行った。一例として図2に典型的な窒化物系介在物の電子顕微鏡写真を示す。
図1a〜1c、図2から、本発明方法を適用した介在物は、比較的大きなMgOを核として、その周囲をTiNが取り囲んだような形態となっているような形態をとることが分かる。
なお、本発明方法を適用した「電極」からは、図1a〜図1cのようにMgOが比較的大きな面積率で核として存在している窒化物系介在物を多く見ることができた。この傾向は本発明製造方法を適用した介在物特有のものと考えられる。
MgOが主体の介在物の比率を調査する方法は、「電極」から採取した試験片の重量を1gずつ10個を採取し、EBBM(Electron Beam Button Melting)法を用いて、サンプルの金属片を加熱・溶解して金属球とし、金属球表面に浮上した比重の軽い介在物を調査する方法を採用した。
なお、上述のサンプルの重量は、その量が多ければ多いほど正確となる一方で、確認の作業に多大な時間が必要になることから、必要最低限の重量のサンプルで調査するのが現実的であるため、合計10gを採取した。
次に、EBBM法で金属球表面に浮上させた酸化物系介在物のうち、5μm以上のものを1個ずつエネルギー分散型エックス線分析装置で定量分析を行い、MgOが主体となっているものが、全体の80%であることを確認した。
EBBM法で抽出した介在物の電子顕微鏡写真を図3a、図3b、図4a、図4bに示す。図3a、図3bはNo.2の本発明でMgO型の介在物、図4は比較例であり、図4a、図4bはAlが凝集した介在物、図4bはスピネル「MgO−Al」型の介在物である。
次に、VAR後の鋼塊を1250℃×20時間のソーキングを行なった後、熱間鍛造を行なって熱間鍛造品とした。
次に、これら材料に熱間圧延、820℃×1時間の溶体化処理、冷間圧延、820℃×1時間の溶体化処理と480℃×5時間の時効処理を行ない、厚み0.5mmのマルエージング鋼帯を製造した。
No.1〜No.6のマルエージング鋼帯の両端部から横断試料を100g採取し、混酸溶液で溶解後、フィルターでろ過し、フィルター上の酸化物からなる残渣をSEMで観察を行ない、酸化物系非金属介在物の組成及びサイズを測定した。
これらの非金属介在物のサイズ測定にあたっては非金属介在物に外接する円の直径を非金属介在物の最大長さとした。この結果を表2に示す。

(*注:ここで、アルミナ系介在物とは、スピネル(MgO−Al)、Alを意味する。)
表2から、鋼塊Mgの値が添加Mg相当量の50%以下となっているロットではマルエージング鋼帯中には20μmを越える酸化物系非金属介在物がなくなり、電極Mg含有量が多くなるに従いその大きさが小さくなる傾向が伺える。
また、今回の評価で観察された鋼塊の酸化物系非金属介在物の組成は本発明によるものではスピネル(MgO−Al)系酸化物とMgO主体の酸化物となっており、比較例のものではAl主体の酸化物であった。
なお、本発明において、「電極」の酸化物系介在物が、再溶解後にスピネル系介在物に変化した理由として、電極中に存在したMgOは蒸発するが、蒸発しない一部のMgOは、MgとOとに分解してスピネル型の酸化物系非金属介在物となるか、僅かにMgOとして残存したものである。
この真空再溶解時に新たに生成される(MgO−Al)のスピネル型介在物は、Mg添加による電極酸素濃度の低減効果、真空溶解時のMg蒸発に伴うMgOの分解によって、20μm以下の微細な介在物となり、新たにAl介在物として生成されるものでも、O量の低減により20μm以下の微細なものとなったものと考えられる。
図5a、図5b、図5cに本発明の典型的な酸化物系介在物の電子顕微鏡写真を示す。図5aはMgO介在物、図5bは(MgO−Al)のスピネル型介在物、図5cはAl系介在物の凝集体である。
図6a、図6bに示したのは、比較例の典型的な酸化物系介在物の電子顕微鏡写真であり、図6aはAl系介在物、図6bは「MgO−Al」のスピネル型介在物であり、本発明の介在物と比較して大きなものとなっている。なお、本実施例では0.5mm鋼帯中のサンプルを用いて介在物を調査したが、「鋼塊」の段階と比較して、介在物形態、組成、大きさには変化は特に見られないものである。
次に、試料No.7〜No.12のマルエージング鋼帯の両端部から横断試料を100g採取し、混酸溶液または臭素メタノール溶液等で溶解後、フィルターでろ過し、フィルター上の酸化物からなる残渣をSEMで観察を行ない、酸化物系非金属介在物のサイズを測定した。
さらに、窒化物や炭窒化物を詳細に評価するため10g採取して、混酸溶液または臭素メタノール溶液等で溶解後、フィルターのろ過面積を小さくして窒化物や炭窒化物の密集度をあげ、SEMで10000個の窒化物や炭窒化物を観察し最大のサイズを測定した。
窒化物等は矩形形状であるため、長辺aと短辺bを測定し、面積a×bに相当する円の直径をその最大長さとした。なお、酸化物系非金属介在物は、上記同様に非金属介在物に外接する円の直径を非金属介在物の最大長さとした。測定結果を表3に示す。

表3から、酸化物に関しては、表2に示したNo.1〜No.6の調査結果同様に鋼塊Mgの値が添加Mg相当量の50%以下となっているロットではマルエージング鋼帯中には20μmを越える酸化物系非金属介在物がなくなっていることがわかる。また、窒化物等の最大長さについては、電極窒素濃度5ppmのとき、Mg添加により窒化物等のサイズは2〜3μm微細になり、電極窒素濃度10ppmのとき、Mg添加により窒化物等のサイズは3〜4μm微細になっていることがわかる。
図7に本発明例試料No.8の窒化物系介在物の電子顕微鏡写真を、図8に比較例試料No.11の窒化物系介在物の電子顕微鏡写真を示す。
次に、上記の「鋼塊」から疲労試験用のサンプルを採取した。
サンプルは、本発明例試料No.7と比較例試料No.11の試験片を1250℃×20時間のソーキングを行なった後、熱間鍛造を行なって、直径15mmの棒材とした。次に、棒材を820℃×0.5時間の溶体化処理後、480℃×3時間の時効処理を行い、試料No.7と比較材No.11の各々10本の超音波疲労試験片を作製した。
この超音波疲労試験片を、超音波疲労試験機にて、応力振幅400MPaで疲労試験を行った。疲労試験は、20kHzの振動速度の運転期間が80ms、冷却のための停止が190msとなるように行い、試験片が破断するまで繰返した。破断した試験片の破断起点部を視察した結果、試験片は介在物を起点に疲労亀裂が進展し、破断に至ったことが確認された。
そこで、介在物が破断の起点となった試片について、介在物の最大長さをSEM観察により測定した。起点となった介在物の最大長さと、破断した時の疲労試験の繰返し回数をプロットしたものを図9に示す。
図9から、起点となった介在物の最大長さが酸化物については概ね15μmを、窒化物については概ね10μm超える場合は、破断寿命は10回程度しかないが、起点となった介在物の最大長さが酸化物については概ね15μm以下、窒化物については概ね10μm以下の場合は、介在物の最大長さが小さくなるに従い、破断寿命が急激に長くなり、10回以上となることが分かる。
そして、本発明例試料No.7では、平均破断寿命は10回以上と長寿命であったが、比較例試料No.11では、平均破断寿命は10回となり、明らかに本発明による介在物微細化が疲労寿命延長に効果があることが確認された。
【実施例2】
以下、本発明に適用するプラスチック用金型用鋼の一例を説明する。
プラスチック金型用鋼では組織中の介在物をスピネル(MgO−Al)系酸化物もしくはMgO主体の酸化物へ改質しているので、上述した通りのピンホール欠陥の無い、磨き性に優れた金型用鋼とすることができる。
まず、VIMにてプラスチック金型の代表的成分に、溶鋼中のMg含有量を無添加〜200ppm程度とし、Mg含有量を調整した、表4の組成を有する1ton消耗電極(残部:Feおよび不可避的不純物)を溶製した。
VIMでは真空度13.3kPaにおいて、溶鋼中にNi−Mg合金によるMgの添加を行ない、その後鋳型内で凝固させ、VARに供する1次溶解電極を製造した。
また比較材としてVIMでMg微量添加もしくは無添加の条件で製造した消耗電極も製造した。
これらVIMで製造した電極を同一条件の下でVARを用いて再溶解し、鋼塊を製造した。VARの鋳型はそれぞれ同一のものを用い、真空度は1.3Pa、投入電流は鋼塊の定常部で6.5KAで溶解した。
得られた鋼塊を断面寸法400mm×50mmのスラブに鍛伸後、熱処理を施し、スラブ幅方向中心部から50mm×50mmの試験片を切りだし、所定の硬さのマルテンサイト組織に調整して、供試材とした。ここで熱処理は、硬さ40HRC±5を得るように、焼入れは1000℃で1時間加熱してから空冷し、その後焼戻しとして520℃から580℃の20℃刻みの適正温度で1時間加熱後空冷するものである。

そして、これら供試材について、介在物サイズおよび磨き性を評価した。介在物については上記マルエージング鋼と同様の酸抽出処理により各TPの試料を溶解し、フィルターろ過して得られた介在物長さをSEMにて観察した。
磨き性の評価は、供試材をグラインダー→ペーパー→ダイヤモンドコンパウンド方式にて#3000レベル、および#6000レベルに鏡面仕上げを行い、10倍の拡大鏡を用いて微細なピット発生個数をカウントして評価した。
評価基準は非検面積2500mmにおいて、ピット数4個未満のものを◎、4〜7個未満のものを○、7〜10個未満のものを△、それ以上のものを×とした。以上の評価結果を表5に示す。

表5の結果より、本発明材はプラスチック金型用鋼の優れた磨き性に対して明らかな効果があることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
本発明の鋼塊は鋼塊中に存在する非金属介在物を微細に分散させることができ、高サイクル疲労強度が問題となるマルエージング鋼、介在物による鏡面磨き性が問題となる金型鋼などの他、介在物のサイズが問題となる鋼全般の製造方法として有効である。


【図2】







【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼中に混濁する酸化物の組成をMgO主体とするに十分な量のMgを有する溶湯に調整するMg酸化物形成工程と、該Mg酸化物形成工程よりも雰囲気の真空度を減圧として、溶湯中のMg酸化物をMgと酸素に解離させ、Mg含有量をMg酸化物形成工程の50%以下とする解離工程を経る鋼塊の製造方法。
【請求項2】
Mg酸化物形成工程を一次溶解とし、該一次溶解時の溶鋼中に混濁する酸化物の組成をMgO主体とするに十分な量のMgを有する溶湯に調整した後、凝固させるものとし、解離工程を一次溶解時よりも真空度を減圧として再溶解し、Mg酸化物をMgと酸素に解離させ、Mg含有量を再溶解前の50%以下とするものとする請求項1に記載の鋼塊の製造方法。
【請求項3】
再溶解は真空アーク再溶解である請求項2に記載の鋼塊の製造方法。
【請求項4】
窒化物形成元素を鋼塊成分として含有する請求項2または請求項3に記載の鋼塊の製造方法。
【請求項5】
Mg酸化物形成工程の真空度は6kPa〜60kPaであり、解離工程の真空度は0.6kPaよりも減圧とする請求項1から請求項4までの何れか1項に記載された鋼塊の製造方法。
【請求項6】
Mg酸化物形成工程においてMg量(MgOXI)とAl量(AlOXI)との関係が、AlOXI(mass ppm)/MgOXI(mass ppm)=5〜100となるように調整する請求項1から請求項5までの何れか1項に記載された鋼塊の製造方法。
【請求項7】
溶鋼中へのMgの添加は、Mg含有量がmass%で20%以下(0は含まず)を含有したNi−Mg合金としての添加である請求項1から請求項6までの何れか1項に記載された鋼塊の製造方法。
【請求項8】
鋼塊はAlを0.01〜6mass%含む鋼塊である請求項1から請求項7までの何れか1項に記載された鋼塊の製造方法。
【請求項9】
鋼塊はTiを0.1〜2mass%含む鋼塊である請求項1から請求項8までの何れか1項に記載された鋼塊の製造方法。
【請求項10】
鋼塊はマルエージング鋼である請求項1から請求項9までの何れか1項に記載された鋼塊の製造方法。
【請求項11】
鋼塊は工具鋼である請求項1から請求項9までの何れか1項に記載された鋼塊の製造方法。
【請求項12】
前記マルエージング鋼は、実質的に、mass%で、O(酸素):10ppm未満、N(窒素):15ppm未満、C:0.01%以下、Ti:0.3〜2.0%以下、Ni:8.0〜22.0%、Co:5.0〜20.0%、Mo:2.0〜9.0%、Al:0.01〜1.7%、および残部としてのFeおよび不可避不純物から成る請求項10に記載された鋼塊の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/035798
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514523(P2005−514523)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006287
【国際出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】