説明

鋼床版のデッキ内の亀裂の探傷のための探触子ホルダ、探傷装置及び探傷方法

【課題】高架構造物等の鋼床版に使用されるデッキ下面に超音波探触子を当てて、このデッキ下面とトラフリブとの溶接箇所からデッキ内へと進展する亀裂を探傷する超音波探傷において、亀裂により発生するエコーを精度良く検出し、かつ検査作業を容易化する。
【解決手段】デッキ100の下面に配置した集束型超音波探触子20からデッキ100の内部へと斜めに入射される集束された超音波ビーム21が、所定深さ以上の亀裂122を直射するように、所定深さと超音波ビームの入射角とに応じて溶接部から集束型超音波探触子20までの離間距離を定め、この離間距離を保ちつつ集束型超音波探触子20をリブ101の延在方向に沿ってスライドさせながら超音波ビーム21をデッキ100へ入射させて、所定の閾値より大きいエコー信号が検出される範囲を深い亀裂が存在する範囲として検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波探傷方法及び超音波探傷装置に関する。より詳しくは、高架構造物等の鋼床版に使用されるデッキとその下面に溶接されるリブとの溶接箇所からデッキ内へと進展する亀裂を検出するための超音波探傷方法及び超音波探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、一般的な鋼橋の構造を説明する斜視図である。鋼床版は、デッキ100の下面に縦リブ101や横リブ102を設けて補強するとともに上面に舗装105を施したものであり、縦桁104、横桁103を介して主桁106で支持される構造となっている。現在採用されている縦リブ101の多くはトラフ形状を成しており、このような縦リブ101をデッキ100の下面に溶接することにより鋼床版の剛性が高められている。以下、縦リブのことを「トラフリブ」と称することがある。
【0003】
鋼床版は通行車両からの荷重を繰り返し受けており、ある程度の供用年数が経過すると、デッキ100とトラフリブ101との溶接部などに疲労亀裂が発生する。
鋼床版の上面には舗装105が施されているため、鋼床版の点検は一般にデッキ100の下面から実施される。デッキ100とトラフリブ101と溶接線に発生した亀裂の多くはトラフリブ101とデッキ100との溶接ルート部から発生し,溶接ビード表面に貫通したものである。デッキ100とトラフリブ101との溶接線に発生する亀裂を図2の(A)に示す。参照符号120にて示す部分が溶接ビード表面に貫通した亀裂であり、このような亀裂は目視や、磁粉探傷試験によって発見することができる。またこの亀裂はデッキからトラフリブを引き剥がす損傷となるが、適切な補修により亀裂の進展を防止すれば重大な損傷に至る危険性は少ない。
【0004】
【非特許文献1】有馬敬育 他2名、”鋼床版デッキプレート進展亀裂の超音波探傷法に関する実験的検討”、土木学会第60回年次学術講演会講演概要集、社団法人土木学会、平成17年9月、p.329−330
【特許文献1】特開2004−333387
【特許文献2】特開2006−343154
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では鋼床版部の舗装打換え工事において、鋼床版上面にデッキ100を貫通する亀裂損傷が発見された。このような亀裂を図2の(A)の参照符号121に示す。この亀裂はトラフリブ溶接線に沿って発生し、亀裂の進展の程度によってはデッキの陥没に至る重大な損害を引き起こすおそれがある。このため補修方法や補強方法について現在検討が進められている。
その後の調査により、デッキ100を貫通する亀裂は、ビード貫通亀裂120と同様にトラフリブ101とデッキ100との溶接ルート部から発生していることが確認された。この亀裂はデッキ下面ではトラフリブの内面側にあるため、ビード貫通亀裂120のように目視による点検や磁粉探傷試験で発見することはできない。
【0006】
このような状況の下で、デッキ100内へ進展する亀裂を超音波探傷試験で探傷する探傷方法の確立が急がれている。図2の(B)は、デッキ100内へ進展する超音波で探傷する方法として考案された2つの案を説明する図である。参照符号20はデッキ100の下面にあてられた超音波探触子を示し、110はデッキ100とトラフリブ101との間の溶接ビードを示し、111はデッキ100とトラフリブ101との溶接ルート部を示し、122はデッキ100内へ進展する亀裂を示す。
デッキ100の上面から超音波で探傷するためにはデッキ100上の舗装105等を除去する必要がある。したがって、定期的に亀裂の有無を検査する方法としては、デッキ100の上面から超音波で探傷する方法は採用しがたい。
【0007】
デッキ100方向に発生した亀裂をデッキ100の下面側から超音波で探傷する方法としては、表面波を用いる方法と一回反射法が考えられる。前者はクリーピング波やSH波等の表面波を被検査領域に向けて伝搬させ(矢印130)、亀裂122で反射したエコー波を検出することによってデッキ100の下面の浅い領域において亀裂の有無を判定する方法である。後者は、超音波をデッキ100の上面で反射させてから被検査領域を狙う方法である。
しかしながら表面波を用いる方法では、溶接ルート部111からも反射エコーを生じる。そして溶接ルート部111は位置的に亀裂122に近いことから亀裂122からのエコーと溶接ルート部111の反射エコーとの区別が難しく、亀裂122からのエコーを精度良く検出することが困難であった。また一回反射法においても、デッキ100の上面の腐食により余計なエコーが生じ、溶接ルート部111からの反射エコーも生じるため、亀裂122によるエコーの検出を精度良く検出することが困難であった。
【0008】
本発明は、これら従来の超音波探傷法における問題点に鑑みてなされたものであり、デッキ下面に超音波探触子を当ててデッキとトラフリブとの溶接箇所からデッキ内へと進展する亀裂の有無を検出する超音波探傷において、亀裂により発生するエコーを精度良く検出し、かつ検査作業を容易化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、デッキとトラフリブとの溶接箇所からデッキ内へと進展する亀裂のうちある程度の深さ以上の亀裂を検査対象とし、集束させた超音波ビームをある程度以上進展した亀裂部分へ直射することによって亀裂によるエコーの検出精度を高める。
本発明による探傷方法では、集束させた超音波ビームをデッキ下面から斜めに入射させるが、探触子と溶接ビードとの干渉のために微小な亀裂には超音波ビームを直射させることはできずこのような亀裂は検出できない。しかしながら、鋼床版の上面に設けられた構造物(アスファルトなど)を除去する必要がなく定期点検で実施することができるため、亀裂が進展してデッキに深刻な損傷をもたらす前に検出することが可能となる。
【0010】
なお、本発明による探傷方法では、集束型超音波探触子による集束された超音波ビームが被検査領域を直射するように、集束型超音波探触子の配置(例えば溶接部から集束型超音波探触子までの離間距離や集束型超音波探触子の向きなど)を定める必要がある。またリブの延在方向に沿って集束型超音波探触子をスライドながら亀裂の存否を検出するためにさせるときには、溶接部から集束型超音波探触子までの離間距離や向きなどをスライド中に維持する必要がある。集束型超音波探触子による超音波ビームは指向性が強く、これらの作業には熟練が必要であった。
そこで本発明では、集束型超音波探触子を下面に接触させる際に使用する探触子ホルダを提供し、集束型超音波探触子の取り扱いを容易にする。
【0011】
本発明の第1形態によれば、鋼床版のデッキとその下面に溶接されたリブとの溶接箇所からデッキ内へと進展する亀裂を検出する際に、集束型超音波探触子を下面に接触させ、かつ集束型超音波探触子から生じる集束された超音波ビームが下面に対して斜めに入射するように、集束型超音波探触子を保持する探触子ホルダが提供される。この探触子ホルダは、リブとの当接部と、当接部をリブに当接させた状態におけるリブからの集束型超音波探触子の後退量を調整する調整機構と、を有し、当接部をリブに当接させたとき亀裂を検出する被検査領域を超音波ビームが直射するように集束型超音波探触子を位置付ける。
【0012】
本発明の第2形態によれば、上記の探触子ホルダを備える探傷装置が提供される。本探傷装置は、探触子ホルダをリブの延在方向に沿ってスライドさせた移動量を検出する移動量検出手段と、探触子ホルダをスライドさせたときに移動量検出手段が順次検出する各移動量及びそれぞれの位置において集束型超音波探触子により検出されるエコー信号を記録する記録手段と、超音波ビームのエコー信号の強度が所定の閾値より大きいとき、被検査領域に亀裂が存在することを検出する亀裂検出手段とを備える。
【0013】
本発明の第3形態によれば、鋼床版のデッキとその下面に溶接されたリブとの溶接箇所からデッキ内へと進展する亀裂を検出する、鋼床版のデッキ内の亀裂の探傷方法が提供される。本方法では、デッキの下面に配置した集束型超音波探触子からデッキの内部へと下面に対して斜めに入射される集束された超音波ビームが、所定深さ以上の亀裂を直射するように、所定深さと超音波ビームの入射角とに応じて溶接部から集束型超音波探触子までの離間距離を定め、この離間距離を保ちつつ集束型超音波探触子をリブの延在方向に沿ってスライドさせながら超音波ビームをデッキへ入射させて、所定の閾値より大きいエコー信号が検出される範囲を亀裂が存在する範囲として検出する。
【発明の効果】
【0014】
発明によれば、鋼床版に使用されるデッキとその下面に溶接されるリブとの溶接箇所からデッキ内へと進展する亀裂を探傷する検査作業を容易化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付する図面を参照して本発明の実施例を説明する。図3は本発明の実施例による探傷装置の全体構成図である。探傷装置1は、デッキ100内に集束された所定の超音波ビームを入射させてそのエコーを受信する集束型超音波探触子を備えるセンサ部2と、センサ部2に接続されたワイヤ31の繰り出し量に応じた数のパルス信号を出力するワイヤ式エンコーダ3と、センサ部2が有する集束型超音波探触子を駆動し、また集束型超音波探触子が受信したエコー波を収集して被検査物体内の欠陥の有無を検査する超音波探傷器4と、収集したエコー波を超音波探傷器4から取得してデッキ100内に存在する亀裂を検出するコンピュータ200を備えて構成される。
【0016】
なお、以下の説明において、トラフリブ101の延長方向に沿った方向をX方向とし、デッキ100に平行でかつトラフリブ101の延長方向に直角な方向をY方向とし、デッキ100に直角な方向をZ方向とする。
ワイヤ式エンコーダ3は、上面に設けられた磁石等の固定手段によってデッキ100に固定される。したがってセンサ部2がX方向に移動してトラフリブ101とデッキ100との溶接線を走査するのに従ってワイヤ31が繰り出され、センサ部2のX方向の移動量に応じた数のパルス信号を出力する。
【0017】
図4は探傷装置1のブロック図である。センサ部2には集束型超音波探触子20が備えられている。
超音波探傷器4は、図示するとおりMPU41、記憶部42、パルス発生回路44、A/Dコンバータ45、入出力インタフェース回路(I/F)46及び表示部47を備えている。そして、MPU41に対して記憶部42、入出力インタフェース回路46及び表示部47がバス48を経由して接続されている。
【0018】
MPU41は、集束型超音波探触子20による超音波の発生及び受信の制御と、測定データの演算や処理と、表示部47の表示内容の制御などを行う。
記憶部42には、集束型超音波探触子の制御や測定データの演算処理などの基本処理をMPU41に実行させる基本プログラム421や、後述する表示画面作成プログラム422、これらプログラムをMPU41が実行する際に生成、使用する演算データ及び一時データ、並びに集束型超音波探触子20が受信したエコー波形が記憶される。
パルス発生回路44は、入出力インタフェース回路46を介してMPU41から超音波出力指示信号を受けると、集束型超音波探触子20にパルス信号を出力する。集束型超音波探触子20には内蔵した圧電素子によりパルス信号を超音波に変換し、この超音波を被検査物体内に入射する。
【0019】
被検査物体内に欠陥があるとそこで超音波の反射波(エコー)が発生し、このエコーは集束型超音波探触子20に受信され電気的なエコー波形信号に変換される。A/Dコンバータ45は、集束型超音波探触子20から出力されるエコー波形信号をディジタル信号に変換して入出力インタフェース回路46に入力する。
ワイヤ式エンコーダ3は、センサ部2の移動に伴ってワイヤ31が繰り出されると、この移動量に応じた数のパルス信号を出力する。パルス信号は入出力インタフェース回路46を介して超音波探傷器4内に入力される。基本プログラム421は入力されるパルス数を計数することによりあらかじめセットした基準位置からセンサ部2が移動した移動量を算出する処理をMPU41に行わせる。
【0020】
基本プログラム421は、算出されたセンサ部2の移動量と、センサ部2がこの移動量だけ移動したときに入出力インタフェース回路46に入力されるエコー波形信号を記憶部42内に記憶する処理を、MPU41に行わせる。また基本プログラム421は、記憶部42内に記憶されたセンサ部2の各移動量及びセンサ部2がこの移動量だけ移動したときに検出された波形信号を、入出力インタフェース回路46を介してコンピュータ200に出力する処理をMPU41に行わせる。
【0021】
コンピュータ200は、図示する通りCPU201、記憶部202、入出力インタフェース回路(I/F)203及び表示部204を備えている。そして、CPU201に対して記憶部202、入出力インタフェース回路203及び表示部204がバス206を経由して接続されている。
記憶部202には、コンピュータ200に接続された超音波探傷器4から出力される上記データを入出力インタフェース回路203を介して読み込み記憶部202内に記憶する処理をCPU201に実行させるデータ入力プログラム211や、亀裂検出プログラム212、これらプログラムをCPU201が実行する際に生成、使用する演算データ及び一時データ、並びに超音波探傷器4から入力したエコー波形信号が記憶される。亀裂検出プログラム212については後述する。
【0022】
図5の(A)〜図5の(C)は、それぞれ図4の(A)に示したセンサ部2の側面図、正面図及び平面図であり、図6の(A)及び図6の(B)は、それぞれ図5の(A)のA−A’断面図及びB−B’断面図である。
センサ部2は、集束型超音波探触子20とこれを保持するための探触子ホルダとからなる。この探触子ホルダは、集束型超音波探触子20を保持する保持部材51と、ナット62a及び62bにより保持部材51に固定されるスライド部材61とからなる。
【0023】
保持部材51は、集束型超音波探触子20を固定するためのナット54、54…及び55、55…と、ワイヤ式エンコーダ3のワイヤ31が連結されるワイヤ連結部52と、集束型超音波探触子20をデッキ100の底面に当接又は近接させながらセンサ部2をデッキ100の底面に沿ってスライドさせるときに、デッキ100の底面に当接させるキャスタ56a〜56dとを備えている。
ナット54、54…及び55、55…は、保持部材51の側面に設けられたねじ穴にねじ込まれたときに、それぞれの底面で集束型超音波探触子20の両側面を押圧することによって、集束型超音波探触子20を保持部材51に固定する。
【0024】
スライド部材61には、トラフリブ101の側面に当接させる当接部63a及び63bが設けられている。この当接部63a及び63bをトラフリブ101の側面に当接させながらセンサ部2をスライドさせることによって、集束型超音波探触子20をトラフリブ101とデッキ100との溶接線に平行にスライドさせることができる。
後述するとおり集束型超音波探触子20は、デッキ100の下面からこの面に対して斜めに超音波ビームを入射する。当接部63a及び63bは、集束型超音波探触子20が超音波ビームの入射角が傾斜する方向に突出するように設けられる。このように当接部63a及び63bを設けることにより、これらをトラフリブ101の側面に同時に当接させたとき、超音波ビームはトラフリブ101とデッキ100との溶接箇所に向かって伝搬し、溶接箇所からデッキ100内へと進展する亀裂を直射するように、集束型超音波探触子20の方向(すなわち超音波ビームの方向)を定めることが可能となる。
【0025】
スライド部材61には、スリット状の貫通口64a及び64bが設けられており、ナット62a及び62bは貫通口64a及び64bをそれぞれ貫通して、保持部材51のねじ穴に螺合される。
これらナット62a及び62bを緩めてからスライド部材61を保持部材51に対してスライドさせ、これらナット62a及び62bを締め付けて任意の位置でスライド部材61を保持部材51に固定することができる。このようにスライド部材61をスライドさせることによって、当接部63a及び63bをトラフリブ101に当接させた状態におけるリブ101から集束型超音波探触子20までの後退量を調節し、集束型超音波探触子20による超音波ビームの入射位置を調整することができる。
【0026】
図7は、集束型超音波探触子20の説明図である。集束型超音波探触子は、圧電素子などにより発生させた超音波を、サファイヤや水晶などで形成した音響レンズにより集束させ、集束された超音波ビームを発生させる。本実施例にて使用したジャパンプローブ株式会社製の「SD−5Z10A70」は、入射角約70度で超音波ビーム21を入射し、そのビーム径は被検査物体の表面下6mmの位置で直径約2mmであり、表面下10mmの位置で直径約3.5mmである。
【0027】
図8を参照して本発明による探傷方法の原理を説明する。いま、図3に示すセンサ部2をデッキ100の下面に当てる。そして集束型超音波探触子20による超音波ビーム21がトラフリブ101とデッキ100との溶接箇所の方へと進むように、センサ部2を方向付ける(図7参照)。このときに集束型超音波探触子20が捉えるエコー波形(Aスコープ画像)の1つを図8において実線で示す。
また一点鎖線及び二点鎖線は、センサ部2とトラフリブ101との間の離間距離を変えたとき(すなわちセンサ部2をY方向に移動させたとき)に検出される各エコー波形の最大値の包絡線を示す。ここに一点鎖線は、トラフリブ101とデッキ100との溶接箇所にデッキ100内へ進展する亀裂122が存在する場合の包絡線を示し、二点鎖線はこのような亀裂が存在しない場合の包絡線を示す。なお溶接ビード110とセンサ部2との干渉のためにセンサ部2がトラフリブ101へ接近するには限界がある。このため図8では、この接近限界までセンサ部2を近づけた場合のビーム路程Lbよりも長いビーム路程の範囲についてのみ包絡線を示している。
【0028】
超音波ビーム21が集束されているため、亀裂122が存在する場合には、超音波ビーム21が亀裂122を直射したときにエコー波が発生するため包絡線の信号強度がある程度の強度を有するのに対し、亀裂122が存在しない場合には包絡線の信号強度が非常に低い。
したがって、集束された超音波ビーム21が被検査領域を直射するように集束型超音波探触子20を位置付け、このとき受信したエコー波の強度が所定の閾値THを超えるか否かを判定することによって、被検査領域まで進展する亀裂があるか否かを判定することができる。所定の閾値THとしては、亀裂がない場合に検出されるエコー波の最大強度よりも所定マージンだけ強い信号強度をしようすればよい。
実際には、集束型超音波探触子20が受信するエコー信号には、被検査領域以外の場所(例えばデッキ100の端面など)で反射した反射エコー信号が混入する。したがって上記閾値THとの比較においては比較の対象とするエコー波のビーム路程の範囲を制限する。デッキ100内にて亀裂122の検出を行う被検査領域は、デッキ100のうちトラフリブ101と溶接される部分とその周辺のみであり、検査の対象となる範囲は検査前に予め定められるから、この所定の被検査領域とセンサ部2との間の間隔に応じて、閾値THと比較するエコー波のビーム路程の範囲を設定する。
【0029】
図9は、本発明の実施例による探傷方法のフローチャートである。本方法ではセンサ部2をデッキ100の下面に当ててデッキ100の下面から亀裂の有無を探傷し、かつセンサ部2をトラフリブ101の延長方向(X方向)に沿って走査させることによって、トラフリブ101の延長方向に亘る亀裂の範囲を検出する。
【0030】
まずステップS1において、検出の対象とする亀裂の深さを決定する。そしてステップS2において、対象とする深さに応じてセンサ部2のY方向位置、すなわち集束型超音波探触子20のY方向位置を決定する。本方法では集束型超音波探触子20により得られる集束された超音波ビームをデッキ100の下面から入射させ、被検査領域に直射したときに生じるエコー波を検出する。またこの超音波ビームはデッキ100の下面に対して斜めに入射する。したがって、集束型超音波探触子20のY方向位置、すなわちデッキ100とトラフリブ101との溶接箇所から集束型超音波探触子20までの離間距離を変えることによって、亀裂を検出するべき被検査領域の深さを変えることができる。
【0031】
図10は、溶接箇所から集束型超音波探触子20までの距離の決定方法の説明図である。後述するように超音波ビーム21の中心が亀裂122の端点123で反射したとき、集束型超音波探触子20に受信されるエコー信号は最も強くなる。したがって、集束型超音波探触子20による超音波ビーム21の入射位置と溶接箇所との間の離間距離をΔDは、例えば、次式、
ΔD=tanθ×ΔW1 (1)
によって決定してよい。ここにθは超音波ビーム21の入射角(本実施例ではθ=70度)であり、ΔW1はステップS1で定めた亀裂の深さである。
【0032】
ステップS3において、センサ部2をデッキ100の下面の走査開始位置に配置し集束型超音波探触子20をデッキ100の下面に当てる。このとき探触子ホルダの当接部63a及び63bをトラフデッキ101の側面に当接させる(図5の(A)参照)。また、保持部材51に対するスライド部材61の固定位置を予め調節しておき、リブ101から集束型超音波探触子20までの後退量を、超音波ビーム21の入射位置と溶接箇所との間の離間距離が上記決定したΔDとなるように調節しておく。
【0033】
ステップS4では、デッキ100の下面から超音波ビーム21を入射させて、エコー波を測定する。このとき超音波探傷器4のパルス発生回路44は集束型超音波探触子20にパルス信号を印加することにより集束された超音波ビーム21を生じさせる。そして超音波探傷器4は集束型超音波探触子20が受信したエコー波のエコー波形信号を記憶部42に記憶する。また超音波探傷器4は、ワイヤ式エンコーダ3から出力されたパルス数をカウントすることにより、センサ部2が走査開始位置から現在位置まで移動した距離を記憶する。
【0034】
ステップS5にて、亀裂を検査すべき全範囲に亘ってセンサ部2を移動させたか否かを判定し、全範囲に亘ってセンサ部2を移動させていない場合は、ステップS6において探触子ホルダの当接部63a及び63bをトラフデッキ101の側面に当接させたままセンサ部2をX方向に移動させて、処理をステップS4に戻す。
【0035】
ステップS5にて全範囲に亘ってセンサ部2を移動させたと判定される場合には、処理はステップS7に移る。ステップS7では、採取した各エコー波形信号の強度が所定の閾値THを超えるか否かを判定し、ステップS4〜S6にてセンサ部2を走査した範囲のうち、所定の閾値THを超える強度を有するエコー波形信号が検出された部分に亀裂があると判定する。
上記判定の際には、採取したそれぞれのエコー波形信号のうちの所定のビーム路程範囲内の信号の強度だけを所定の閾値THと比較する。ここで超音波ビームの入射位置と被検査領域との間の距離は既知であるから、超音波ビームの入射位置と被検査領域との間のビーム路程が取りうる最短〜最長のビーム路程の範囲を上記所定のビーム路程範囲として定めることによって、被検査領域以外の場所で反射したエコーによる影響を除去する。
【0036】
このとき超音波探傷器4は、各エコー波形信号と、それぞれのエコー波形信号を検出したときのセンサ部2の各移動量と、を記憶部42から読み出してコンピュータ200に出力する。その際に超音波探傷器4は、記憶部42内に記憶されている各エコー波形信号から上記所定のビーム路程範囲内の波形信号のみを抽出して、コンピュータ200に出力する。
コンピュータ200の記憶部202に記憶される亀裂検出プログラム212は、超音波探傷器4から入力され記憶部202内に記憶されている各エコー波形信号と閾値THとを比較する処理と、閾値THを超える各エコー波形信号が検出されるセンサ部2の移動量の範囲を決定する処理とを、コンピュータ200に実行させる。
【0037】
図11の(A)に、本発明による探傷方法を試験するためにデッキ100の代わりに使用された鋼板のXZ断面図を示す。図においてクロスハッチングで示した領域122に亀裂が存在していることを示している。図11の(B)は、センサ部2をX方向に走査させながら図11の(A)の鋼板内の亀裂を探傷したときに検出した各エコー波形信号の最大値の変化を示す。なお各エコー波形を採取する際には、トラフリブ101の外側面とこれに平行かつ超音波ビーム21の入射位置を含む面との間の距離L’が20mmとなるように、センサ部2と溶接箇所との間の離間を調整した。
図示するとおり、亀裂の深さが約6mm以上となる範囲Rにおいてエコー強度の最大値が閾値THを超え、亀裂の深さが約6mm未満の範囲ではエコー強度の最大値が閾値TH以下となった。したがって本実験の装置構成によれば深さ6mm以上の亀裂をデッキ100の下面から探傷することが可能であることが分かる。
【0038】
図12は、溶接箇所から集束型超音波探触子20までの離間距離を変えた場合における、エコー強度の分布の相違を示す図である。図に示すエコー強度の各分布は、センサ部2をX方向に走査させながらデッキ100内の亀裂を探傷したときに検出した各エコー波形信号の最大値の変化を示す。また図において実線は距離L’を20mmにした状態で探傷した結果を示し、一点鎖線は距離L’を33mmにした状態で探傷した結果を示す。
集束型超音波探触子20を溶接箇所から離して距離L’を33mmにすると被検査領域の深さが深くなる。したがって図12は、デッキ100内の亀裂が深くなるほど幅が狭まっていることを示す。
このように、溶接箇所からの集束型超音波探触子20の離間距離を変えることによって、検出する亀裂の深さを変えることができる。したがってこの離間距離を適切な値に設定することによりデッキ100の上面まで達した亀裂のみを検出することが可能である。
【0039】
なお、図9のフローチャートのステップS2において集束型超音波探触子20のY方向位置を決定する方法は上式(1)のような計算による方法には限定されない。例えば、予め既知の深さΔWの亀裂を含んだ鋼板内を集束型超音波探触子20のY方向位置を変えながら探傷し、エコー信号の強度が閾値THを超えるようなエコー波形信号が得られた位置を、深さΔWに応じた集束型超音波探触子20のY方向位置として決定してもよい。
集束型超音波探触子20からデッキ100に入射する超音波ビームは、集束されているとはいえある程度のビーム径の広がりがあるため、亀裂の先端が超音波ビームの中心に至っていなくてもある程度の強度のエコー波形信号が得られる。一方で被検査領域に全く亀裂がない場合にはエコー波形信号の強度は非常に小さくなるため、亀裂がない場合との峻別は容易である。したがって、計算によってある深さΔW1の亀裂の先端をビーム中心で捉えるように集束型超音波探触子20の位置を決定した場合、実際にはその深さよりも浅い亀裂を検出することができる。
この様子を図13の(A)及び(B)並びに図14を参照して説明する。
【0040】
図13の(A)は比較的深い亀裂を探傷している場合を示す図であり、(B)は比較的浅い亀裂を探傷している場合を示す図である。図13の(A)に示す亀裂122の先端123は超音波ビーム21の中心まで至っており、一方で図13の(B)に示す亀裂122はそれよりも浅くその先端123は超音波ビーム21のビーム径まで含まれているもののビーム中心までは至っていない。
図14は、図13の(A)及び(B)に示す亀裂と集束型超音波探触子20との間の距離を変えながら検出したエコー波形の最大値の包絡線を示す。一点鎖線は図13の(A)に示す亀裂を探傷した場合の波形であり、二点鎖線は図13の(B)に示す亀裂を探傷した場合の波形である。
【0041】
図13の(A)に示す亀裂を探傷した場合の波形では、ちょうど超音波ビーム21の中心が端点123に当たって散乱したときにエコー信号の強度が最大となるため包絡線にピークAを生じるが、図13の(B)に示す亀裂を探傷した場合の波形では超音波ビーム21の中心が端点123に当たらないため包絡線にピークは生じない。しかしこのような場合でも、エコー信号の強度が閾値THに比べて十分大きいため、亀裂がない場合との区別は十分可能である。
【0042】
図4に戻り、超音波探傷器4の記憶部42に記憶される表示画像作成プログラムは、記憶部42に記憶される各エコー波形信号と、それぞれのエコー波形信号を検出したときのセンサ部2の各移動量とを組み合わせてBスコープ画像を生成する処理を、MPU41に実行させる。表示部47はMPU41により作成されたBスコープ画像を表示する。
図15は、超音波探傷器4により作成されるBスコープ画像の例を示す図である。
図15に示すBスコープ画像は、探触子を1方向にスキャンさせて得られた各移動距離におけるそれぞれのエコー波形のビーム路程をY軸で示し、探触子のスキャン方向をX軸で示し、あるスキャン位置で得られたエコー波形のあるビーム路程のエコー信号の強度を色の違いで表したものである。
かかるBスコープ画像には検出した亀裂を示す島が表示されるので、検査者はコンピュータ200にエコー波形信号を出力しなくとも、簡易に亀裂の存在を確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、高架構造物等の鋼床版に使用されるデッキとその下面に溶接されるリブとの溶接箇所からデッキ内へと進展する亀裂を検出するための超音波探傷に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】一般的な鋼橋の構造を説明する斜視図である。
【図2】(A)はデッキとトラフリブとの溶接線に発生する亀裂を示す図であり、(B)はデッキ内へ進展する亀裂を探傷する方法案を説明する図である。
【図3】本発明の実施例による探傷装置の全体構成図である。
【図4】本発明の実施例による探傷装置のブロック図である。
【図5】(A)〜(C)は、それぞれ図3の(A)に示したセンサ部の側面図、正面図及び平面図である。
【図6】(A)及び(B)は、それぞれ図4の(A)のA−A’断面図及びB−B’断面図である。
【図7】集束型超音波探触子の説明図である。
【図8】本発明による探傷方法の原理説明図である。
【図9】本発明の実施例による探傷方法のフローチャートである。
【図10】溶接箇所から探触子までの距離の決定方法の説明図である。
【図11】(A)はデッキ内に進展する亀裂を示す図であり、(B)は(A)の亀裂に応じたエコー強度の分布を示す図である。
【図12】溶接箇所から集束型超音波探触子までの離間距離を変えた場合における、エコー強度の分布の相違を示す図である。
【図13】(A)は比較的深い亀裂を探傷している場合を示す図であり、(B)は比較的浅い亀裂を探傷している場合を示す図である。
【図14】図13の(A)及び(B)に示す亀裂と集束型超音波探触子との間の距離を変えながら検出したエコー波形の最大値の包絡線を示す。
【図15】超音波探傷器により作成されるBスコープ画像の例を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 探傷装置
2 センサ部
3 ワイヤ式エンコーダ
4 超音波探傷器
20 集束型超音波探触子
21 超音波ビーム
31 ワイヤ
100 デッキ
101 トラフリブ
110 溶接ビード
111 溶接ルート部
122 亀裂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼床版のデッキとその下面に溶接されたリブとの溶接箇所から、前記デッキ内へと進展する亀裂を検出する際に、集束型超音波探触子を前記下面に接触させ、かつ前記集束型超音波探触子から生じる集束された超音波ビームが前記下面に対して斜めに入射するように、前記集束型超音波探触子を保持する探触子ホルダであって、
前記リブとの当接部と、
前記当接部を前記リブに当接させた状態における前記リブからの前記集束型超音波探触子の後退量を調整する調整機構と、を有し、
該当接部を前記リブに当接させたときに前記亀裂を検出する被検査領域を前記超音波ビームが直射するように前記集束型超音波探触子を位置付けることを特徴とする探触子ホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載の探触子ホルダを備え、鋼床版のデッキとその下面に溶接されたリブとの溶接箇所から、前記デッキ内へと進展する亀裂を検出する探傷装置であって、
前記探触子ホルダを前記リブの延在方向に沿ってスライドさせた移動量を検出する移動量検出手段、
前記探触子ホルダをスライドさせたときに前記移動量検出手段が順次検出する各移動量と、それぞれの位置において前記集束型超音波探触子により検出されるエコー信号と、を記録する記録手段、及び
前記超音波ビームのエコー信号の強度が所定の閾値より大きいとき、前記被検査領域に亀裂が存在することを検出する亀裂検出手段、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の探傷装置。
【請求項3】
鋼床版のデッキとその下面に溶接されたリブとの溶接箇所から前記デッキ内へと進展する亀裂を検出する、鋼床版のデッキ内の亀裂の探傷方法であって、
前記デッキの下面に配置した集束型超音波探触子から前記デッキの内部へと前記下面に対して斜めに入射される集束された超音波ビームが、所定深さ以上の亀裂を直射するように、該所定深さと前記超音波ビームの入射角とに応じて前記溶接部から前記集束型超音波探触子までの離間距離を定め、
前記離間距離を保ちつつ前記集束型超音波探触子を前記リブの延在方向に沿ってスライドさせながら前記超音波ビームを前記デッキへ入射させて、所定の閾値より大きいエコー信号が検出される範囲を、亀裂が存在する範囲として検出する、
ことを特徴とする鋼床版のデッキ内の亀裂の探傷方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2008−209231(P2008−209231A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45984(P2007−45984)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年9月1日に社団法人土木学会発行の第61回年次学術講演会講演概要集において発表
【出願人】(505389695)首都高速道路株式会社 (47)
【出願人】(591216473)財団法人首都高速道路技術センター (8)
【Fターム(参考)】