説明

鋼板用アルカリ洗浄剤組成物

【課題】 55〜70℃の洗浄温度において、洗浄効率よく、鋼板の汚れを洗浄除去することができ、かつ、泡立ちが小さく作業性に優れる、鋼板用アルカリ洗浄剤組成物を提供すること。
【解決手段】 アルカリ剤と、下記一般式(1):R−O−(EO)a(PO)−H(式中、Rは炭素数12〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、EOはオキシエチレン基であり、POはオキシプロピレン基であり、EOの平均付加モル数aは11〜15、POの平均付加モル数bは2.5〜5である)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの少なくとも1種と、アルドン酸類とを含む、55〜70℃で使用する鋼板用アルカリ洗浄剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄所等において鋼板(鋼帯)を連続洗浄する場合、特に電解洗浄する際に用いられる、鋼板用アルカリ洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板表面の脱脂洗浄は、酸洗と共にメッキ、塗装等の表面処理を行う前処理として必要であり、製品の良否を決定づける非常に大きな因子である。鋼板表面に付着している汚れとしては、冷間圧延時に付着する牛脂等のエステル、脂肪酸や鉱物油等の圧延油、防錆油などの油汚れや、鉄粉等の固体汚れ等が挙げられる。これらの中でも、特に油汚れが残っていると、焼鈍する場合に炉内でガス化して揮散はせず、鋼板表面上に炭化物として残存し、メッキ、塗装むら等の原因となる。
【0003】
鋼板の洗浄設備は通常、コイル状に巻き取られた鋼板(鋼帯)を連続して洗浄する構造になっており、30〜1100m/分程度の速度で操業される。従って、鋼板の洗浄時間は最大でも数秒という極めて短い時間である。洗浄は通常80℃程度の高い温度で行われており、温度を一定に保つために蒸気を用いて加熱しているが、設備の大幅な改造を行うことなく、洗浄温度低下による蒸気コストの削減が要望されている。
【0004】
一方、近年の鋼板の冷間圧延においては、ミル清浄性や生産性向上のために、冷間圧延油を牛脂系圧延油から常温で液体の合成エステル系圧延油へと変更することが進められている。合成エステルはアルカリによる鹸化を受けにくく、短時間ではナトリウム石鹸に鹸化しないため、従来の洗浄剤では洗浄しきれない。さらに最近では圧延油の酸価を高くする傾向にあるが、酸価が高くなったことから圧延後に鉄石鹸が大量に発生し、圧延油の洗浄における乳化性が低下するため洗浄性が低下するという問題も起こっている。
【0005】
上記課題に対して、アルカリ剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、およびアルドン酸類を含む洗浄剤が提案されている(特許文献1)。特許文献1の洗浄剤は、50℃以下の洗浄温度の低温においても、物理的洗浄方法の付加や使用濃度や洗浄時間の増大を必要とせず、洗浄不良を起こさず、また、高濃度でも流動性があり、保存安定性に優れ、作業性にも優れる。
【特許文献1】特開平11−222687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の洗浄剤は、50℃以下の洗浄温度で洗浄性が良好になるように設計されており、50℃を超える態様で用いたとしても、洗浄性をさらに向上させられるものばかりではなかった。また、特許文献1の洗浄剤のなかで、50℃を超える態様で用いることで洗浄性が向上するものは、泡立ちが大きく、作業性の点で十分ではなかった。また、従来の高温洗浄設備で、洗浄温度を50℃以下にする場合、冷却設備の追加等が必要になることもある。
【0007】
本発明は、55〜70℃の洗浄温度において、洗浄効率よく、鋼板の汚れを洗浄除去することができ、かつ、泡立ちが小さく作業性に優れる、鋼板用アルカリ洗浄剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、
アルカリ剤と、
下記一般式(1):R−O−(EO)a(PO)−H
(式中、Rは炭素数12〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、EOはオキシエチレン基であり、POはオキシプロピレン基であり、EOの平均付加モル数aは11〜15、POの平均付加モル数bは2.5〜5である)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの少なくとも1種と、アルドン酸類とを含む、55〜70℃で使用する鋼板用アルカリ洗浄剤組成物、に関する。
【0009】
また本発明は、前記鋼板用アルカリ洗浄剤組成物を、55〜70℃の洗浄温度で用いて、鋼板に付着する汚れを洗浄する方法、に関する。
【0010】
本発明の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物は、55〜70℃の洗浄温度において、洗浄性が良好であり、かつ、泡立ちがなく、作業性も良好である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、55〜70℃の洗浄温度において、洗浄効率よく、鋼板の汚れを洗浄除去することができ、かつ、作業性に優れる鋼板用アルカリ洗浄剤組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において用いられるアルカリ剤は、水溶性のアルカリ剤であればいずれのものも使用できる。具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、オルソ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、セスキ珪酸ナトリウム等の珪酸塩、リン酸三ナトリウム等のリン酸塩、炭酸二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸二カリウム等の炭酸塩、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩等が挙げられる。二種以上の水溶性アルカリ剤を組み合わせてもよい。好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、オルソ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウムであり、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。
【0013】
本発明において用いられるポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、上記した一般式(1)で示されるものである。式中のRは炭素数12〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、直鎖の場合が好ましい。なお、オキシエチレン基、オキシプロピレン基の付加形態は、上記一般式(1)で示されるブロック体であり、かかる順番でブロック付加したものが本発明において、好適に用いられる。
【0014】
オキシエチレン基の平均付加モル数aは11〜15であり、好ましくは11〜14であり、より好ましくは11〜13、更に好ましくは12〜13である。オキシプロピレン基の平均付加モル数bは2.5〜5であり、好ましくは2.5〜4であり、より好ましくは2.5〜3.5、更に好ましくは3〜3.5である。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのなかでも、オキシエチレン基の平均付加モル数aおよびオキシプロピレン基の平均付加モル数bが前記範囲内にある、一般式(1)で表されるものは、洗浄温度を55〜70℃において、洗浄剤の浸透と乳化のバランスがよくなり、洗浄性が向上する。また、一般式(1)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、洗浄温度55〜70℃において泡立ちがなく、作業性も良好である。
【0015】
本発明においては、アルドン酸類がキレートとして用いられ、鉄石けん由来の汚れに作用して鉄イオンをキレートし、脂肪酸石けんにして汚れを溶解し易くすると考えられている。アルドン酸類はカルボキシル基を有する単糖類及びそのアルカリ金属塩もしくはアミン塩である。具体例としては、グリセリン酸、テトロン酸、ペントン酸、ヘキソン酸、ヘプトン酸等及びそれらのアルカリ金属塩もしくはアミン塩が挙げられる。好ましくはグルコン酸、グルコヘプトン酸等及びそれらのアルカリ金属塩もしくはアミン塩であり、より好ましくはグルコン酸ナトリウム又はグルコヘプトン酸ナトリウムである。アルドン酸類は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
本発明の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物は、アルカリ剤、前記一般式(1)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルおよびアルドン酸類に、さらには任意の添加剤を加え、さらに溶媒を配合することにより調製される。
【0017】
本発明の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物は、鋼鈑洗浄時には、洗浄性を確保する見地から、アルカリ剤の配合量が、0.1〜10重量%、さらには0.5〜8重量%であることが好ましい。
【0018】
前記一般式(1)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの配合量は、アルカリ剤を基準として配合され、アルカリ剤1重量部に対して、好ましくは0.005〜5重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部、さらに好ましくは0.05〜0.1重量部である。0.005重量部以上であると、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが鋼板洗浄時に必要な濃度に保たれる。また、5重量部以下であると、濃厚製品での製品安定性がよい。
【0019】
アルドン酸類の配合量は、鉄石けん由来の汚れを低減する観点から、アルカリ剤を基準として配合され、アルカリ剤1重量部に対して、好ましくは0.005〜5重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部、さらに好ましくは0.1〜0.2重量部である。
【0020】
本発明の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物は、通常、保管時に好適なように、濃厚製品として調製される。溶媒としては、通常、水が用いられる。本発明組成物の溶媒に用いる水としては、脱イオン水が望ましい。溶媒により、洗浄剤組成物中の濃度を制御できる。濃厚製品は、鋼板の洗浄時には、さらに、溶媒で希釈して用いることができる。また、鋼板の洗浄時に、それぞれの成分をあらかじめ一液ないし二液等に配合しておいて、洗浄槽で使用前に希釈してもよく、それぞれの成分をそれぞれ単独で洗浄槽に投入し、水で希釈してもよい。
【0021】
濃厚製品では、アルカリ剤、前記一般式(1)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルおよびアルドン酸類、さらには任意の添加剤、並びに、残部を溶媒(好ましくは水)とする組成物の合計量を基準として、当該組成物中のアルカリ剤の配合量が、好ましくは20〜48重量%、より好ましくは30〜45重量%、さらに好ましくは33〜42重量%、さらに好ましくは36〜41重量%になるように調整される。20重量%以上であると、安定化剤として用いるアルドン酸類の添加量を少なくすることができ、またスラリとしての安定性の点でも好ましい。また、48重量%以下であると、洗浄剤の粘度が使用上の適正範囲に保たれる。
【0022】
なお、濃厚製品に係わる鋼板用アルカリ洗浄剤組成物において、前記一般式(1)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの割合は、0.1〜30重量%、より好ましくは0.2〜20重量%、さらに好ましくは0.5〜20重量%である。濃厚製品での割合を0.1重量%以上とすることで、鋼板洗浄時に必要なポリオキシアルキレンアルキルエーテルの濃度が得られる。また、この組成物はスラリー状で安定化するため、比重の低いポリオキシアルキレンアルキルエーテルの割合を30重量%以下とすることで製品安定性が良好となる。
【0023】
また、濃厚製品に係わる鋼板用アルカリ洗浄剤組成物において、アルドン酸類の割合は、0.05〜20重量%、より好ましくは0.1〜15重量%、さらに好ましくは0.5〜15重量%である。濃厚製品での割合を0.05重量%以上とすることで鋼板洗浄時に必要なアルドン酸類の濃度が得られる。また、濃厚製品での割合を20重量%以下とすることで、アルドン酸を溶解させるのに必要な水の量を少なくでき、製品安定化に必要なアルカリ剤の必要量を確保できる。
【0024】
また、本発明の高濃度アルカリ洗浄剤組成物には、水溶性高分子カルボン酸類を配合することができる。水溶性高分子カルボン酸類を配合する場合、その割合は、濃厚製品に係わる鋼板用アルカリ洗浄剤組成物において、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜8重量%である。濃厚製品での割合を0.5重量%以上とすることで製品安定性を確保でき、10重量%以下とすることで、洗浄剤の粘度を適度に制御でき、洗浄剤の配管輸送を確保できる。水溶性高分子カルボン酸類としては、アクリル酸ホモポリマー(MW:5,000〜20,000)、アクリル酸−マレイン酸共重合体(MW:5,000〜20,000)及び/又はこれらのナトリウム塩があげられ、これら、1〜6重量%の割合で用いるのが特に好ましい。
【0025】
本発明の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物には、スラリー安定化剤として、一分子中に2〜50個の極性基を有する芳香族化合物を用いることができる。スラリー安定化剤としては、置換基を有していてもよいベンゼン誘導体、ナフタレン誘導体またはアントラセン誘導体等があげられる。極性基の数を2個以上とすることで、洗浄液がゲル化したり、不安定化したりすることを抑えることができうる。また、極性基の数を50個以下とすることで、抑泡効果を維持しながら安定な洗浄剤を得ることができる。洗浄効果および抑泡効果を総合すると、極性基数は2〜4個が特に好ましい。
【0026】
極性基としては、アルカリ水溶液中で分解しない、あるいは分解されにくいものであって、比較的強い親水性を示すものであれば特に限定されてないが、例えばCOOM、SO3M、OSO3M、NH2、NO2、NR1H、NR23およびOHからなる群より1種以上を選ぶことができる。ここで、Mは水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、炭素数1〜4の脂肪族アミン、アンモニア、またはアルカノールアミンを表し、R1、R2およびR3は同一または異なる基であり、いずれも炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐の、飽和もしくは不飽和のカルボン酸基を表す。本発明においては、なかでもCOOM、SO3Mを含む芳香族化合物が好適に使用される。
【0027】
スラリー安定化剤の具体例としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、スルファニル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アミノ安息香酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、2,6−ナフタレンジスルホン酸、2,7−ナフタレンジスルホン酸、2−ナフトール−6−スルホン酸、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸、1,5−ナフタレンジアミン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、β−ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物等もしくはその塩等が挙げられる。好ましくは、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジスルホン酸、2,7−ナフタレンジスルホン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アミノ安息香酸である。
【0028】
スラリー安定化剤は、アルカリ水溶液に難溶性のアルコール、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤および鉱物油などを高濃度アルカリ水溶液中で均一に分散させ、安定な流動性を有するアルカリ洗浄剤の調製を可能とする。従って、従来の均一透明型の洗浄剤に比べ、高濃度アルカリ水溶液中での上記難溶性薬剤の配合量を飛躍的に増大させることができるため、高濃度型の洗浄剤を調製することができる。
【0029】
本発明の濃厚製品に係わる鋼板用アルカリ洗浄剤組成物において、スラリー安定化剤を配合する場合、その割合は、0.1〜20重量%、好ましくは0.3〜5重量%である。0.1重量%以上とすることで安定な洗浄剤組成物が得られ、20重量%以下とすることで洗浄剤の増粘もしくはゲル化する傾向を抑えられる。スラリー安定化剤としては、上記の極性基を有する芳香族化合物を2種以上併用することもできる。また、同種の極性基を有する脂肪族系化合物を併用してもよい。本発明に用いられる上記のスラリー安定化剤は、優れたスラリー安定化作用を有するが、本発明の洗浄剤組成物の洗浄性能に対しても抑泡性能に対しても悪影響を与えないという特性を有する。
【0030】
濃厚製品を、鋼板の洗浄時に希釈するにあたっては、希釈の程度は適宜に設定することができるが、アルカリ剤の配合量が、0.1〜10重量%、さらには0.5〜8重量%になるように希釈するのが好ましい。
【0031】
さらに、本発明の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物には一般的に使用されている洗浄性を向上させる有機ビルダー、例えばニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン二酢酸、テトラエチレンテトラミン六酢酸等のアルカリ金属塩もしくは低級アミン塩等のアミノカルボン酸類等の添加剤を、COD及びコストの上昇を考慮した上で配合することも可能である。
【0032】
本発明の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物は、洗浄温度55〜70℃において、洗浄剤の浸透と乳化のバランスがよくなり、鋼板に付着する汚れを、洗浄効率よく、洗浄除去することができる。洗浄温度は、55〜65℃が好ましい。なお、洗浄温度が低くなると、一般式(1)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの浸透力が弱くなるが、本発明では、洗浄温度を55℃以上の範囲とすることで、洗浄性を十分に満足できるようになる。また、洗浄温度が低くなり、一般式(1)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの曇点以下になると、洗浄剤は新液においても泡立ちが生じるが、洗浄温度を55℃以上の範囲としており、洗浄剤の泡立ちを抑えることができる。一方、洗浄温度が高くなると、一般式(1)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル自体が油滴となって、鋼板に残留して洗浄性が低下するが、本発明では、洗浄温度を75℃以下に制御しており、洗浄性の低下はない。また、洗浄温度が高くなると、コンタミのエステル油のけん化が進んで、多量の脂肪酸の石鹸を生成しやすくなるが、洗浄温度を75℃以下に制御しており、脂肪酸石鹸の生成による問題もない。
【0033】
本発明の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物は、ライン速度が500m/分以上の高速で洗浄する際に効果的であり、ライン速度が800m/分以上の高速で洗浄する際により効果的である。特に、電解洗浄に要する時間が1秒以下の高速で冷延鋼板を洗浄する際に効果的である。一般の鋼板洗浄ラインは、浸漬洗浄→ブラシ洗浄→電解洗浄→ブラシ洗浄→リンス→乾燥という構成を取るが、浸漬洗浄から乾燥まではおよそ50mであり、ライン速度500m/分の場合には全工程で6秒という極めて短い時間の中で洗浄が行われる。そのうち電解洗浄工程は10〜20m程度であり、ライン速度が500m/分の場合には1.2〜2.4秒程度という計算になる。本発明の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物は、こうした短時間での、さらにはより短い時間での電解洗浄に効果的であり、またそれによって洗浄ライン速度を増大させることを可能にする。
【0034】
また本発明の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物は、合成エステルを50重量%以上含有する圧延油が付着してなる鋼板に対して効果的であり、合成エステルを70重量%以上含有する圧延油が付着してなる鋼板に対してより効果的である。合成エステルとしては、ゾーマリン酸、オレイン酸、リノール酸、ガドレイン酸、トール油脂肪酸等の炭素数16〜20の高級脂肪族不飽和酸のダイマー酸又はポリマー酸を原料とする合成エステル、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン等の多価アルコールと炭素数6〜22の脂肪族カルボン酸を原料とする合成エステル、炭素数1〜12の脂肪族アルコールと炭素数6〜22の脂肪族カルボン酸を原料とする合成エステル、多価アルコールと炭素数6〜22の脂肪族ヒドロキシカルボン酸を原料とする合成エステル、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多塩基酸と炭素数1〜12の脂肪族アルコールを原料とする合成エステル、及び上記アルコールのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド付加物とのエステル等が挙げられる。
【0035】
さらに、本発明の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物は、酸価が10KOHmg/g以上である圧延油が付着してなる鋼板に対して効果的であり、酸価が20KOHmg/g以上である圧延油が付着してなる鋼板に対してより効果的である。本発明の鋼板洗浄用アルカリ洗浄剤組成物は、合成エステルを50重量%以上含有し、かつ酸価が10KOHmg/g以上である圧延油が付着してなる鋼板に対して特に効果的である。
【0036】
また本発明の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物は、40℃における粘度が70mm2/s以上である高粘度エステルを10重量%以上含有する圧延油が付着してなる鋼板に対して効果的であり、高粘度エステルを20重量%以上含有する圧延油が付着してなる鋼板に対してより効果的である。特に粘度が40℃で好ましくは100mm2/s以上、より好ましくは150mm2/s以上である圧延油が付着してなる鋼板に対して効果的である。高粘度エステルとしては、前記の炭素数16〜20の高級脂肪族不飽和酸のダイマー酸又はポリマー酸を原料とする合成エステル、前記の多価アルコールと炭素数6〜22の脂肪族カルボン酸を原料とし多価アルコールの水酸基を1以上残した合成エステル、多価アルコールと炭素数6〜22の脂肪族ヒドロキシカルボン酸を原料とする合成エステル等が挙げられる。なおエステルではないが、本発明の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物は、ポリブテン等の高粘度化合物に対しても効果的である。
【0037】
さらに本発明の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物は、炭素数16〜20の高級脂肪族不飽和酸の重合物を1重量%以上含有する圧延油が付着してなる鋼板に対して効果的である。高級脂肪族不飽和酸の重合物としては、ゾーマリン酸、オレイン酸、リノール酸、ガドレイン酸、トール油脂肪酸等の炭素数16〜20の高級脂肪族不飽和酸のダイマー酸及びポリマー酸が挙げられる。
【0038】
本発明の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物は、製鉄所等における冷間圧延等の加工処理により得られた鋼板(鋼帯)の連続洗浄、即ち浸漬洗浄、スプレー洗浄、ブラシ洗浄、電解洗浄等においてその効果を発揮するが、特に低温において冷間圧延鋼板を電解洗浄する際に使用すると効果が大きい。
【実施例】
【0039】
<鋼板洗浄試験>
(1)被洗浄鋼板
被洗浄鋼板は全て合成エステル系圧延油で冷間圧延された鋼板を、25mm×50mmの大きさに切断して用いた。本洗浄試験に用いた被洗浄鋼板の付着油分量は、100mg/m2である。
【0040】
(2)擬似劣化洗浄液の調製
圧延機に付着し堆積したスカムから油分を溶剤で抽出して得たスカム抽出油を、洗浄剤組成物に対して、1重量%添加し、十分撹拌して擬似劣化洗浄液を調製した。
【0041】
(3)洗浄試験
洗浄剤組成物(汚れ無し洗浄液)及び擬似劣化洗浄液中に、それぞれ設置した縦100mm×横50mmの大きさの電極板1対(電極間距離は20mm)から等距離かつ中心に被洗浄鋼板を1秒間浸漬し、その後、電流密度10A/dm2で鋼板電位を負から正に一度切り替えて、それぞれ0.5秒間ずつ電解洗浄し、電解洗浄した。その後、5秒間80℃で浸漬リンスし、温風乾燥した。なお、試験洗浄液の温度は、表1に示すように、実施例では60℃、比較例では60℃または40℃とした。
【0042】
(4)残存付着油分量測定方法
汚れ無し洗浄液及び擬似劣化洗浄液について、それぞれ洗浄及びすすぎ後の鋼板付着油分量を、鋼板付着油量測定装置EMIA−111(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。測定値は5回測定の平均値である。洗浄性の評価基準は、汚れ無し洗浄液については新液洗浄性、擬似劣化洗浄液については繰り返し洗浄性として評価した。すなわち、繰り返し洗浄性の評価は鋼板評価に付着した油分が洗浄槽に蓄積した場合の洗浄性評価であるので、擬似劣化洗浄液を用いて行った。
【0043】
洗浄性の測定基準は、測定後の残存付着油分量を以下のように設定した。新液洗浄性は、測定後の残存付着油分量が20mg/m2未満であれば合格、20mg/m2以上であれば不合格とした。また繰り返し洗浄性は、測定後の残存付着油分量が30mg/m2未満であれば合格、30mg/m2以上であれば不合格とした。
【0044】
<泡立ち性試験>
1000mlのメスシリンダーに洗浄液を300ml充填し、液温を、表1に示すように、実施例では60℃、比較例では60℃または40℃に保持した。その後、その洗浄液にガラスボールフィルターを通じて、窒素を1.0L/minで流し、1分間後の洗浄液の高さと泡高さで評価した。評価は、新液泡立ち性とスタミナ泡立ち性について行った。スタミナ泡立ち性は、コンタミとして入るエステル油がけん化して脂肪酸石鹸となることを考慮して、ラウリン酸を洗浄液に対して0.05重量%添加して行った。いずれの評価においても、泡高さが400ml未満であれば「◎」、400mm以上600ml未満であれば「○」、600ml以上1000ml未満であれば「△」として、これらは合格とした。泡高さが1000ml以上で、メスシリンダーをオーバーフローした場合を「×」として、これは不合格とした。
【0045】
<曇点>
曇点の測定は、ASTM D2024に記載の曇点の測定に基づいて行った。150mlのビーカーに、実施例および比較例で示した割合になるように、水酸化ナトリウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、グルコン酸ナトリウム及び30℃以下のイオン交換水を全量で100gとなるように計り入れ、溶解するまで十分に撹拌する。この溶液を200mmの試験管に50±5mLとなるように注ぎ入れ、水浴中に入れる。温度計で撹拌しながら、明らかに白濁が目視で確認できた時点で水浴から試験管を取り出し、温度計でゆっくりと撹拌しながら冷却し、溶液が透明になる温度を曇点とした。
【0046】
実施例1
水酸化ナトリウム2重量%、
一般式(1)のポリオキシアルキレンアルキルエーテル(Rは炭素数12〜14の直鎖アルキル基の混合物、ポリオキシエチレン(平均付加モル数は12モル)、ポリオキシプロピレン(平均付加モル数は3モル))0.2重量%
グルコン酸ナトリウム0.2重量%、
及び残部水(バランス量は脱イオン水を使用)からなる洗浄剤組成物を調製し、表1に示す洗浄温度条件で、洗浄評価及び泡立ち性試験を行った。
【0047】
実施例2〜4、比較例1〜9
実施例1において、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを表1に示すものに変えたこと以外は実施例1と同様にして洗浄剤組成物を調製した。また、表1に示す洗浄温度条件で、洗浄評価及び泡立ち性試験を行った。
【0048】
【表1】

【0049】
表1の結果から、実施例1〜4の洗浄剤組成物は、一般式(1)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有しており、55〜70℃の洗浄温度で用いることで、新液洗浄性、繰り返し洗浄性ともに向上する。一方、比較例1〜3の洗浄剤組成物に含有される、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルでは、油の乳化力が低下するため、繰り返し洗浄性が低下する。また、泡立ち性に関しては、実施例1〜3の洗浄剤組成物は、新液泡立ち性とスタミナ泡立ち性のいずれも合格レベルにある。特に末端のプロピレンオキサイド鎖の長い、一般式(1)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルを用いた、実施例2、3の洗浄剤組成物は、高い抑泡性を示す。一方、末端のプロピレンオキサイド鎖の短い、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを用いた、比較例4では、スタミナ泡立ち性が不合格であり、末端のプロピレンオキサイド鎖のない比較例5ではいずれの泡立ち性も不合格であった。また、実施例1と同じ洗浄剤組成物であっても、洗浄温度が40℃の場合には、曇点以下で洗浄するため、いずれの泡立ち性も不合格レベルであった。比較例6、8は曇点以下で洗浄するため泡立ち性が不合格であった。また比較例7は、アルドン酸ナトリウムを添加していないため、鋼板に付着した油をほとんど除去できなかた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ剤と、
下記一般式(1):R−O−(EO)a(PO)−H
(式中、Rは炭素数12〜14の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、EOはオキシエチレン基であり、POはオキシプロピレン基であり、EOの平均付加モル数aは11〜15、POの平均付加モル数bは2.5〜5である)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの少なくとも1種と、アルドン酸類とを含む、55〜70℃で使用する鋼板用アルカリ洗浄剤組成物。
【請求項2】
請求項1記載の鋼板用アルカリ洗浄剤組成物を、55〜70℃の洗浄温度で用いて、鋼板に付着する汚れを洗浄する方法。

【公開番号】特開2007−297461(P2007−297461A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125197(P2006−125197)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】