説明

長さ方向において厚さが変化する鋼ストリップを焼きなましする方法

本発明は、少なくとも厚肉部及び薄肉部を備えることで長さ方向において厚さが変化する鋼ストリップを焼きなましする方法であって、ストリップが冷間圧延されて厚肉部及び薄肉部を形成しており、一つの厚肉部及び一つの薄肉部が数メートル以下の長さを有する方法に関する。本発明によれば、焼きなましが連続焼きなましにより行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも複数の厚肉部及び薄肉部を備えることで長さ方向において厚さが変化する鋼ストリップを焼きなましする方法であって、ストリップが冷間圧延されて複数の厚肉部及び薄肉部を形成しており、一つの厚肉部及び一つの薄肉部が数メートル以下の長さを有する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長さ方向において厚さが変化する鋼ストリップは、ストリップの厚さ変化が反復し、ストリップの厚肉部の後に薄肉部が続き、その薄肉部の後に厚肉部が続き、これがストリップの長さ全体にわたって繰り返すように、製造することが多い。薄肉部は全て大体同じ長さを有し、厚肉部も同様であることが多い。一つの厚肉部及び一つの薄肉部は、数メートル以下の長さを有する。一つのストリップが少なくとも数百の厚肉部及び薄肉部を有することができる。厚肉部及び薄肉部は、数十分の一ミリメートル〜数ミリメートルの厚さを有する。特別な目的には、ストリップが3種類以上の異なった厚さに圧延され、これがストリップの長さ全体にわたって繰り返す。この鋼ストリップは冷間圧延されているために、厚肉部と薄肉部との間に移行部分が形成され、そこではストリップの厚さが、ある部分の厚さからそれに続く部分の厚さに徐々に変化する。この移行部分の長さは、最も重要なパラメータの中で、部分同士の間の厚さ変化、圧延速度、および冷間圧延機がロール間の間隔を変えることができる速度により決定される。通常、移行部分の長さは、厚肉部及び薄肉部の長さと等しいか、またはより短いオーダーにある。ストリップの幅は、数デシメートルから約2メートルまででよい。ストリップは、幅が小さい2個以上のストリップにスリットすることができるが、これが常に必要という訳ではない。そのようなストリップは、例えば自動車工業用の、テーラーロールドブランク(TRB)と称される断片に切断される。従って、これらのブランクは、それらの長さにわたって、目的及び使用箇所の必要性に応じて、少なくとも2種類の異なった厚さを有する。
【0003】
鋼ストリップの圧延中、その厚さは薄肉部で大きく縮小する。これによって鋼が硬化するので、圧延されたストリップを直接使用することはできない。鋼ストリップは、焼きなましし、ストリップ中の応力を解除する、及び/またはストリップを結晶化させる必要がある。
【0004】
厚さが変化しない鋼ストリップの焼きなましは、バッチ焼きなましにより、または連続焼きなましにより行うことができる。しかし、長さ方向において厚さが変化するストリップの焼きなましは、薄肉部及び厚肉部の両方を同じ温度にするために、バッチ焼きなましによってのみ行われる。しかし、バッチ焼きなましは、連続焼きなましよりも経費がかかり、通常、鋼の強度に対するある程度の劣化効果を有する。バッチ焼きなましの場合に起こる遅い加熱及び冷却速度のために、バッチ焼きなましは、全ての鋼種に対して好ましい訳ではなく、特に高強度を有する鋼種には適していない。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、長さ方向において厚さが変化する鋼ストリップのための、改良された焼きなまし方法を提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、長さ方向において厚さが変化する鋼ストリップのための、バッチ焼きなましよりもコスト効率が高い焼きなまし方法を提供することである。
【0007】
本発明のさらに別の目的は、全ての鋼種ではないにしても、多くの鋼種に使用できる鋼ストリップの焼きなまし方法を提供することである。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、バッチ焼きなましと比較して、より高い強度を与える、鋼ストリップの焼きなまし方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、バッチ焼きなましと比較して、鋼の品質を改良する、鋼ストリップの焼きなまし方法を提供することである。
【0010】
本発明により、これらの目的の少なくとも一つは、少なくとも複数の厚肉部及び複数の薄肉部を備えることで長さ方向において厚さが変化する鋼ストリップを焼きなましする方法であって、ストリップが冷間圧延されて厚肉部及び薄肉部を形成しており、一つの厚肉部及び一つの薄肉部が数メートル以下の長さを有するものであり、焼きなましが連続焼きなましにより行われる方法を使用して達成される。
【0011】
本発明者らは、最新技術に従って使用される唯一の焼きなまし方法である良く知られたバッチ焼きなましではなく、長さ方向において厚さが変化する鋼ストリップを連続的に焼きなましできることを見出した。連続的焼きなましには、より迅速な方法であり、新規で、より優れたTRBを提供するという利点がある。連続的焼きなましを使用して製造されるTRBは、バッチ焼きなましを使用して製造された、同じ組成及び圧延履歴を有するTRBよりも、優れた機械的特性、例えばより高い強度、を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好ましい実施態様では、長さ方向において厚さが変化するストリップを形成する際、鋼ストリップの熱間圧延後の圧下率が、厚肉部では15%未満、薄肉部では15%よりも高いものであり、焼きなまし中のストリップの加熱が、厚肉部の温度が厚肉部の再結晶温度より低いままであり、薄肉部の温度が薄肉部の再結晶温度を超えて上昇するような速度で行われる。その結果、焼きなましの後、薄肉部は再結晶し、厚肉部は再結晶せず、より一様な特性がストリップに与えられる。
【0013】
好ましくは、鋼ストリップを連続的に焼きなましする際の再結晶後の冷却速度は、高強度鋼、例えばDP、TRIP及び多相高強度鋼、を製造するように、5〜150℃/sである。連続的焼きなまし製法における高い冷却速度、通常は5〜150℃/s、のために、マルテンサイト、ベイナイト、残留マルテンサイト及び他の形態の変態生成物が、DP、TRIP及び多相高強度鋼の形成に必要なオーステナイトから形成されるが、これは、バッチ焼きなましでは冷却速度が遅いために不可能である。
【0014】
特定のTRB鋼種を得るために、使用する鋼の種類に応じて、ストリップの厚肉部及び薄肉部の温度が必要な温度になるように、幾つかの手段を採る必要があるが、本発明では、これらの手段を採ることができる。
【0015】
好ましい実施態様では、焼きなましの際に鋼ストリップの最高温度及び/または均熱(soaking)温度を、100℃の幅がある範囲内に、好ましくは50℃の幅がある範囲内に、より好ましくは25℃の幅がある範囲内に維持する。少なくともある鋼ストリップで、100℃の幅がある範囲内の最高温度及び/または均熱温度による焼きなましにより、鋼ストリップに妥当な品質が与えられ、この範囲が50℃の幅を有する場合にはこの品質が改良され、この範囲が25℃の幅を有する場合には、さらに改良される。
【0016】
好ましくは、鋼ストリップの厚肉部及び薄肉部を選択的に加熱して鋼ストリップを焼きなましする。選択的な加熱により、ストリップの厚肉部及び薄肉部が異なった量の熱を受け取る。
【0017】
好ましい実施態様では、焼きなましの際に、鋼ストリップの薄肉部が受ける熱は、鋼ストリップの厚肉部より少ない。ストリップの厚肉部は、平方cmあたりの質量が大きいので、薄肉部より高い熱容量を有し、従って、厚肉部は、ほぼ同じ温度に達するには、薄肉部より多くの熱を必要とする。
【0018】
好ましくは、鋼ストリップの選択的加熱は、従来の焼きなましにおける加熱段階の最中及び/または後に行う。従来の連続的焼きなましの際、ストリップの各長さは、通常は直接燃焼炉中で、大体同じ熱エネルギーを獲得するので、厚肉部は、熱容量がより高いので、薄肉部よりも低い温度に到達する。従来の焼きなまし後に厚肉部を選択的に加熱し、厚肉部の温度を増加するのは非常に効率的である。しかし、選択的加熱はより早期の段階で行うこともできるが、この場合、あまり効果的ではない。
【0019】
好ましい実施態様では、選択的加熱を誘導加熱を使用して行う。誘導加熱は、非常に迅速で効果的な加熱方法であり、これによって、鋼の特に厚肉部を加熱し、薄肉部を僅かに加熱することができる。
【0020】
好ましくは、誘導加熱は、厚肉部を選択された温度に加熱するような周波数を使用する。誘導エネルギーが厚肉部により吸収され、ストリップの焼きなましする部分の特定厚さに適合するように周波数を選択することにより、誘導エネルギーのほとんど全てが厚肉部により吸収され、薄肉部は誘導エネルギーをほとんど吸収しない。
【0021】
好ましくは、誘導加熱は、1000 kW/m以上の電力密度で行う。この電力密度により、本方法を経済的に有効にする速度で連続的焼きなましを行うことができる。
【0022】
ほとんどの鋼種及び鋼厚さに対して、誘導加熱は、好ましくは5〜50 kHz、好ましくは10〜30 kHzの周波数で行う。これらの振動数により、誘導エネルギーの吸収が、厚肉部で良くなり、薄肉部では低くなる。
【0023】
上記の方法は、高強度鋼、例えばDP、TRIP及び多相高強度鋼、の製造に好適であるが、これは、厚肉部及び薄肉部を急速に加熱する必要があるが、薄肉部は高すぎる温度に到達すべきではないためである。
【0024】
好ましい実施態様では、連続的焼きなましの後に鋼ストリップを溶融亜鉛めっきする。亜鉛層で被覆することにより、良好な耐食性が特に鋼ストリップに与えられ、溶融亜鉛めっきは、連続的焼きなましのすぐ後に同じ連続的ストリップに行うことができる。
【0025】
別の好ましい実施態様では、連続的焼きなましの後に鋼ストリップを調質圧延する。調質圧延により、降伏現象が低下し、表面粗さが改良され、ストリップの形状が改良される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
以下に、本発明の方法を、図面及び例を参照しながら説明する。
【図1】連続的焼きなましの時間-温度サイクルを図式的に示す。
【図2】TRBの薄肉部と厚肉部との間の温度、加熱及び冷却速度の差を図式的に示す。
【図3】TRBの薄肉部と厚肉部との間の温度、加熱及び冷却速度の差を調節するための、選択的加熱の使用を図式的に示す。
【図4】バッチ焼きなまし及び連続的焼きなましした多くの鋼種に対して測定した降伏強度間の比較を示す。
【0027】
図1、2及び3では、温度Tを垂直軸に、時間tを水平軸に表示する。
【0028】
図1に、典型的な連続的焼きなましの時間-温度曲線を示す。鋼ストリップの連続的焼きなましラインにおける工程は、様々な加熱及び冷却部分の連続からなることが多い。図1に図式的に示すように、通常は、急速加熱部分(H1)の後に低速加熱部分(H2)が続き、その後でストリップはその最高温度に達する。この最高温度は、鋼の微小構造を確実に完全再結晶させるために、通常は再結晶温度より高い。高強度鋼、例えばDP、TRIP及び多相高強度鋼、の場合、最高温度は、材料をオーステナイトとフェライトの2相区域にするために、720℃を超える必要がある。後に続く冷却の際にマルテンサイト、ベイナイト及び/または残留オーステナイトに変態することができるオーステナイトの存在は、高強度鋼、例えばDP、TRIP及び多相高強度鋼、を製造するための前提条件である。最高温度を実現した後、ストリップを冷却することができるが、耐食性は、幾つかの冷却部分で行うことが多い。図1では、低速冷却部分(C1)、急速冷却部分(C2)及び最終冷却部分(C3)が示されている。ストリップの冷却は、金属被覆工程(MC)、例えば溶融亜鉛めっき、を行うために中断することができる。ストリップの冷却後、調質圧延及び/または他の表面及び/または形状変性をライン中で行うことができる。全工程は、通常は1000秒間未満で完了する。
【0029】
図2に、TRBに対する連続的焼きなましの効果を例示する。厚さが変化する部分は、加熱及び冷却速度の差を示し、その結果、異なった時間-温度サイクルを辿る。線S1は、TRBの薄肉部に対する時間-温度サイクルを示し、線S2は、TRBの厚肉部に対する時間-温度サイクルを示す。無論、正確な時間-温度プロファイルは、多くのパラメータ、例えばストリップの厚さプロファイル、線速度、ストリップの幅、連続的焼きなましラインにおける個別部分の加熱及び冷却容量、によって異なる。図2で、急速加熱部分の最後における温度差(ΔT1)が比較的大きいことに注目すべきである。差ΔT1は、場合により、100℃を超える値に達する。
【0030】
最高温度における温度差(ΔT2)は、連続的焼きなましされたTRB製造の成否を決める重要なパラメータである。ΔT2が大きすぎる場合、厚肉部及び/または薄肉部の機械的特性が不安定になる。厚肉部の温度が低すぎる場合、その材料は、十分に再結晶せず、機械的特性、特に伸長、が十分に発達せず、最高温度の小さな変化に対して極めて敏感になる。他方、薄肉部の温度が高すぎて、800℃より高くなる場合、特に高強度鋼の機械的特性が劣化する。この劣化は、冷間圧延及び再結晶後の微細結晶粒度が変態により排除されるので、結晶粒度が最高温度と共に増加することにより、引き起こされる。720℃を超える、より高い温度では、より多くのオーステナイトが形成され、連続的焼きなまし後の微小構造のより大きな画分が、再結晶材料の代わりに、変態した材料からなる。この影響は、800℃を超えると、オーステナイト画分が増加するために、特に有害となる。高強度鋼、例えばDP、TRIP及び多相高強度鋼、の場合、機械的特性が最高温度、すなわち冷却前のオーステナイト量、に直接関連しているので、大きな温度差(ΔT2)は好ましくない。
【0031】
冷却の際の、TRBの厚肉部と薄肉部との間の温度差(ΔT3またはΔT4)も重要である。特に、金属被覆工程、例えば溶融亜鉛めっき、を行う場合である。亜鉛浴中に入るストリップが冷たすぎる場合、亜鉛はストリップ表面と良く接触せず、亜鉛の密着性及び表面品質の問題が生じる。亜鉛は、420℃の温度未満でのみ、固化し始める。亜鉛浴に入るストリップの温度が高すぎる場合、亜鉛中に溶解する鉄の量、従って、亜鉛浴中に形成される金属垢の量が増加する。このために、材料の表面品質が悪くなる。高いストリップ温度により、亜鉛層と基材との間の合金化が増大することがある。
【0032】
好ましい実施態様では、TRBの厚肉部と薄肉部との間の温度差を、選択的加熱により小さくことができる。これを図3に示す。ストリップ加熱中の幾つかの点で、厚肉部の温度を増加する(H3)。厚肉部の温度を、薄肉部の温度に近い、またはさらに上の温度レベルに増加させることができる。このようにして、最高温度の差(ΔT2)を大きく縮小することができる。
【実施例】
【0033】
以下に、テーラーロールドブランク焼きなましの4つの例を記載する。4例の化学組成を表1に示す。バッチ及び連続的焼きなましの両方の後の機械的特性を表2に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
例1
鋼ストリップを熱間圧延により製造する。熱間圧延の後、厚肉部及び薄肉部の両方を少なくとも15%の圧下率で冷間圧延することにより、長さ方向において厚さが変化する鋼ストリップを形成する。その結果、厚肉部及び薄肉部の両方が焼きなまし中に再結晶する。
【0036】
連続的焼きなましを行う場合、TRBの強度は、バッチ焼きなましを行う場合よりも、常に高くなる。連続的焼きなましの後、厚肉部の降伏強度は、薄肉部より高い。例1の場合、選択的加熱を行わなかった。連続的ラインにおける線速度は比較的低かったので、この場合、薄肉部と厚肉部との間の温度差は比較的小さい。
【0037】
例2
鋼ストリップを熱間圧延により製造する。熱間圧延の後、厚肉部を15%未満、通常は約5%の圧下率で冷間圧延することにより、及び薄肉部を少なくとも15%、通常は20〜50%の圧下率で冷間圧延することにより、長さ方向において厚さが変化する鋼ストリップを形成する。
【0038】
この圧延種類には、厚肉部で熱間圧延降伏強度が小さな冷間圧下率により増加し、これが降伏強度を改良し、この降伏強度が、その後に続くアニーリングの際にかなりの程度に維持されるという利点がある。もう一つの利点は、薄肉部だけをより薄くするので、薄肉部の冷間圧延がより容易である。
【0039】
連続的焼きなまししたストリップの薄肉部における降伏強度は、バッチ焼きなましした製品に対するよりも、73 MPa高い。厚肉部における降伏強度も、連続的焼きなましの後で、より高い。薄肉部に大きな加工率を作用させるだけのTRB製造は、多くの経済的優位性を有する製造経路である。バッチ焼きなましの場合、機械的特性の、薄肉部と厚肉部との間の不均質性は問題である。厚肉部における、熱間圧延条件における機械的特性により得られる高降伏強度の利点は、薄肉部における降伏強度が常に遙かに低くなるので、バッチ焼きなましでは十分に活用することができない。連続的焼きなましの場合、薄肉部における降伏強度は、厚肉部における降伏強度に非常に近くなり、その結果、機械的特性がより優れた、より均質なTRBが得られる。
【0040】
【表2】

【0041】
例2の場合も選択的加熱は行わなかった。連続ライン中の線速度は比較的低く、従って、この場合、薄肉部と厚肉部との間の温度差は、比較的小さい。
【0042】
例3
連続的焼きなましラインにおける線速度は、重要な経済的パラメータである。線速度が冷却装置、例えばガスジェット、より低い場合、冷却を正常な操作様式外の最小容量で操作する必要があり、溶融亜鉛めっき前のストリップ温度を制御することがより困難になる。正常な線速度でTRBを製造することは、経済的及び実用的の両方の理由から有益である。選択的加熱は、製造業者が線速度を増加し、同時に、TRBの機械的特性を改良することができる、有効な方法である。
【0043】
例3で、比較として、高強度鋼を線速度50 m/分で製造する。厚肉部における温度が、完全な再結晶を確保するには低すぎることが分かる。その結果、例えば総伸長が僅か14%であることから分かるように、機械的特性が不十分である。選択的加熱により、厚肉部の温度を結晶化温度より上に増加させることができる。このようにして、薄肉部の温度を上昇させずに、厚肉部の機械的特性を改良することができる。薄肉部の温度は800℃より十分に高く、薄肉部の温度上昇は強度低下につながることがあるので、選択的加熱は、妥当な線速度でTRBを製造するのに効果的な方法である。
【0044】
例4
例4では、二相組織鋼を製造する。二相組織鋼の製造には、(二相区域における)高い焼きなまし温度及びオーステナイトからマルテンサイト、ベイナイト及び/または残留オーステナイトへの変態を促進するための比較的高い冷却速度が不可欠である。二相組織鋼の場合、低い線速度は、冷却速度も低くなるので、不利である。
【0045】
例3のように、選択的加熱は、TRB製造に効果的な方法であり、薄肉部を過熱することなく、厚肉部及び薄肉部の両方が十分に高い温度に達すると共に、十分に高い線速度が得られる。連続的焼きなまし後の化学組成及び機械的特性を表1及び表2に示す。機械的特性は、明らかに二相標準に従っている、すなわち引張強度と降伏強度の比が2を超えている。
【0046】
図4は、表3に組成を示す複数の低炭素鋼種に関するバッチ焼きなまし及び連続的焼きなまし間の比較を示す。降伏強度(YS)を垂直軸に、異なった鋼種を水平軸に示す。図4から、連続的焼きなまし鋼の降伏強度は、バッチ焼きなましした同じ鋼種の降伏強度より大幅に高いことが明らかである。上記の例で説明したように、そのような改良された降伏強度は、厚さが変化する鋼ストリップの薄肉部でも、バッチ焼きなましの代わりに連続的焼きなましした場合に、達成される。
【0047】
下記の表3に示す元素の中で、特定量は不可避不純物である。
【0048】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも複数の厚肉部及び複数の薄肉部を備えることで長さ方向において厚さが変化する鋼ストリップを焼きなましする方法であって、ストリップが冷間圧延されて厚肉部及び薄肉部を形成しており、一つの厚肉部及び一つの薄肉部が数メートル以下の長さを有するものであり、焼きなましが連続焼きなましにより行われることを特徴とする、方法。
【請求項2】
長さ方向において厚さが変化するストリップを形成する際、鋼ストリップの熱間圧延後の圧下率が、厚肉部では15%未満、薄肉部で15%よりも高いものであり、焼きなまし中のストリップの加熱が、厚肉部の温度が厚肉部の再結晶温度より低いままであり、薄肉部の温度が薄肉部の再結晶温度を超えて上昇するような速度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
鋼ストリップを連続的に焼きなましする際の再結晶後の冷却速度が、高強度鋼、例えばDP、TRIP及び多相高強度鋼、を製造するように、5〜150℃/sである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
焼きなましの際に鋼ストリップの最高温度及び/または均熱温度が、100℃の幅がある範囲内に、好ましくは50℃の幅がある範囲内に、より好ましくは25℃の幅がある範囲内に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
鋼ストリップの厚肉部及び薄肉部を選択的に加熱して鋼ストリップを焼きなましする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
焼きなましの際に、鋼ストリップの薄肉部が、鋼ストリップの厚肉部より少ない熱を受ける、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
鋼ストリップの選択的加熱が、連続的焼きなましの加熱段階の最中及び/または後に行われる、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
選択的加熱が、誘導加熱を使用して行われる、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
誘導加熱が、厚肉部を選択された温度に加熱するような周波数を使用する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
誘導加熱が、1000 kW/m以上の電力密度で行われる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
誘導加熱が、5〜50 kHz、好ましくは10〜30 kHzの周波数で行われる、請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
焼きなましが、高強度鋼、例えばDP、TRIP及び多相高強度鋼、を製造するために行われる、請求項4〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
連続的焼きなましの後に鋼ストリップが溶融亜鉛めっきされる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
連続的焼きなましの後に鋼ストリップが調質圧延される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−533788(P2010−533788A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516433(P2010−516433)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【国際出願番号】PCT/EP2008/053324
【国際公開番号】WO2008/104610
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(500252006)コラス・スタール・ベー・ブイ (16)
【Fターム(参考)】