説明

長尺体のロール状原反の評価方法

【課題】長尺体のロール状原反の評価を正確に定量的に評価する方法を提供することを目的としている。
【解決手段】長尺体のロール状原反の幅方向の表面形状の評価方法であって、該表面形状を二次元曲線で表し、該二次元曲線を平均中心線との関連においてデータ処理することにより表面形状を定量化して、長尺体の厚みむらを判定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は長尺体(例えばテープ状記録媒体、各種塗設シート、金属薄膜、フィルムシートなど)のロール状原反の形状評価方法に関する。さらにくわしくはテープ状記録媒体およびそれに用いられるフィルムシートのロール状原反の幅方向の形状評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シート状長尺体が巻回されてなるロール状原反は、シートの長手方向や幅方向の厚みむらによってロール状原反幅方向の形状は完全な直線とならず歪曲したものとなる。このロール状原反の歪曲性を把握しておくことすなわち形状を評価しておくことは、ロール状原反を所定の幅に裁断して最終の製品形態になった場合の種々の欠陥の要因を事前に防止するうえで重要であり、歩留まりの向上につながるものである。例えば、テープ状記録媒体(以下磁気テープまたはテープともいう)の場合ではロール状原反の歪曲によって所定幅に裁断したテープが、図3に示すようにテープ幅方向に右側あるいは左側に曲折した形状のテープ1のようになる。このことが起因してテープを巻回したときの巻き乱れや走行させた場合のエッジダメージの現象、出力変動などが生じる場合がある。また磁性層を塗布するまえのフィルムシートの原反が歪曲していると磁性層が均一の厚みに形成されずに上述したような現象が同様に生じる。したがって、ロール状原反の形状評価は、製品の品質確保の上でも生産コストの上でも極めて重要なことである。
【0003】
従来のこの種の評価方法においては、例えば特開平8−102064号公報には磁気テープの原反ロールの一側縁部から他側縁部に亘って走査して周面の形状を検出する測定手段を有し、周面の形状と相関関係にある磁気テープの曲折量を評価する方法が開示されている。この方法によれば、磁気テープの形状を容易且つ確実に判定し、磁気テープ曲折量の規定値より小である磁気テープのみを製品とすることを可能として、製品の歩留まり及び信頼性の大幅な向上を図ることができるとしている。
【0004】
また、特開2002−283438号公報では、シートの厚みむらを低減すると共に、ロール状の原反形状も良好にするロール状シートの製造方法及び装置が開示されている。これはリップから溶融樹脂をシート状に押し出し、そのシートを延伸してロール状の原反に巻き上げるロール状シートの製造方法において、リップの間隙を調整する機械的調整機構、リップ先端の溶融樹脂の温度を調整する温度調整機構、延伸後のシートの厚みを測定する厚み計、原反形状の外径を測定する形状測定手段または予測する形状演算手段を用いて、シート厚みむらがその所定の値の範囲内になるまで機械的調整機構を用いて厚み形の情報に基づくシート厚みむらとその目標値との偏差をなくす厚みむら制御を行い、その後温度調整機構を用いて形状測定手段または形状演算手段の情報に基づく原反形状偏差とその目標値との偏差をなくす原反形状偏差制御を行うよう制御を切り替えることを特徴とする。
【0005】
この方法によれば、シート製造開始時におけるシート厚みむらの安定しない初期には、機械的調整機構によるリップ間隙幅の制御により比較的短時間に厚みむらをその目標値内にし、厚みむらが目標値内に達してからは、原反形状測定手段または形状演算手段の情報に基づき原反形状偏差を温度調整機構によりその目標値内になるように制御するため、厚みむらのみならず、原反形状についても凹凸の目立たない美しい外観にすることができるとしている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−102064号公報
【特許文献2】特開2002−283438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1ではテープの曲折量に着目し、製品の歩留まり及び信頼性の大幅な向上を図っている。しかし、長尺体のロール状原反を製品の状態にした時に不良が発生する原因は曲折量だけではなく、例えば外観不良(むら不良)といった不具合が製造工程で発生してそのまま製品にした時に不良品であることが判明する場合や、加工前の時点ですでに不良品である場合、すなわち磁気テープとするための磁性層の塗設前のフィルムシート単独でのロール状原反が歪曲してる場合などがあり、特許文献1ではこれらの問題にまで言及していない。また、磁気テープ原反ロールをテープ幅にした時に、磁気テープ曲折量が規定値を満たすか満たさないかという判定のみで、原反ロールそのものの形状評価が数値化されておらず、したがって生産上での原反ロールの定量的な品質管理ができない。
【0008】
特許文献2では、シートの厚みむらや原反形状偏差が目標値内になるように制御し、シートの厚みむらを低減させ、ロール状の原反形状を良好にしようとしている。しかし、この方法は溶融樹脂からシート状にし、それ巻いてロール状原反にする時のみ有効で、すでにロール状になっているものには適応できない。
【0009】
本発明はかかる問題点を解決してテープ状記録媒体などのロール状原反やそのもととなるフィルムシートのロール状原反の形状を極めて容易にかつ正確に定量化して、製品の歩留まり向上を図るとともに生産上での品質管理も実質的に可能とする形状評価方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の問題を解決するために鋭意検討した結果なされたものであり、長尺体のロール状原反の幅方向の表面形状の評価方法であって、該表面形状を二次元曲線で表し、該二次元曲線を平均中心線との関連においてデータ処理することにより表面形状を定量化して、長尺体の厚みむらを、最終使用形態における所定の幅にしなくてもロール状原反の状態で判定できることを特徴とするロール状原反の評価方法である。
【0011】
該表面形状の二次元曲線を平均中心線との関連においてデータ処理するということの一例を、以下に示す。
【0012】
まず、長尺体のロール状原反の表面形状をロール幅方向に沿って測定し、二次元曲線で表す。この時の長尺体のロール状原反の表面形状の測定方法は従来技術を用いることができる。次にその二次元曲線を得た各ポイントにおける測定値を所定の移動区間で移動平均をとりそれを一次移動平均値とする。一次移動平均値をまた所定の移動区間で移動平均をとりそれを二次移動平均値とし、その操作を一度目の移動平均操作から数えて複数回繰り返す。一度目の平均操作時の移動区間と、二度目以降の平均操作時の移動区間は同一でなくても良い。
【0013】
ここでいう移動平均操作とは、データの狭い領域での変動ではなく、広い領域でのおおまかな傾向をみるためのフィルター処理といえる。移動平均操作の回数は,ロール状原反が適用される製品によって異なるが、ロール状原反から以降の対象とする工程における歩留まりと次に述べるロール状原反表面形状を評価する数的指標との関係から,希望する課題についての歩留まりに応じて適宜決めればよい。データ処理時間や簡便性から、通常は2〜3回が好ましい。
【0014】
その最終的な移動平均値を結んで得た二次元曲線を平均中心線とする。平均中心線における数値と最初に測定して得た表面形状の各ポイントにおける測定値との偏差を定める。この各ポイントの偏差を結んで得た二次元曲線をK線とする。K線における最大山の高さ、最深谷の深さ、最大山から最深谷の差といったデータあるいはK線と変位0の基本線によって閉じられた部分の面積の比較など、要求される品質項目に応じてデータ処理を行って適宜利用することも可能である。これら種々のデータを処理することで、要求する品質項目について利用することができることを見出した。
【発明の効果】
【0015】
本件の発明によれば、長尺体ロール状原反の幅方向の表面形状を二次元曲線で表し、平均中心線との関連においてデータ処理することで長尺体のロール状原反の表面形状を定量的に評価して数的指標を用いて形状評価を行うことができるので、長尺体ロール状原反の加工前又は加工工程においてロール状原反の計測・評価をし、後の工程に反映させることにより生産性や品質を向上させることができるとともに生産管理にも十分に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本来、長尺体ロール状原反の表面形状の厚みむら測定は、後の工程で起こるロール状原反の厚みむらによるシワや変形の発生を軽減するために行うものと言える。このシワや変形の発生の指標を明確にしたのが今回の発明である。以下に長尺体ロール状原反形状の評価方法について評価対象物に磁気テープに用いるフィルムシートのロール状原反を用い、本発明の、表面形状測定におけるデータ処理に基づく評価方法を詳しく説明する。
【実施例1】
【0017】
実施例の手順をまとめると以下のとおりである。
(1)ロール状原反の表面形状を測定する。
(2)(1)で得た測定値を横軸にロール状原反幅方向位置、縦軸にロール状原反変位量をとって各ポイントにおける測定値を結び二次元曲線で表示する。
(3)一次移動平均の移動平均区間を設定・入力し、(1)で得た測定値を元データにして一次移動平均の平均操作を行い、一次移動平均値を得る。(1)で得た測定値の二次元曲線と同じグラフ面上に各ポイントにおける一次移動平均値を結んで一次移動平均線を表示する。
(4)二次移動平均の移動平均区間を設定・入力し、一次移動平均値を元データにして二次移動平均の平均操作を行い、二次移動平均値を得る。各ポイントにおける二次移動平均値を結んだものを二次移動平均線とし、この二次移動平均線を平均中心線と設定、(2)で得た測定値の二次元曲線と(3)で得た一次移動平均線と同じグラフ上に平均中心線を表示する。尚、この時一次移動平均値を求める時の平均操作と、二次移動平均値を求める時の平均操作では所定の移動区間が同じでなくとも良い。
(5)この平均中心線の各ポイントにおける値(この場合、二次移動平均値)と各ポイントにおける測定値との偏差をとり、各ポイントをつなげて表示した二次元曲線をK線とする。そのK線を、(2)で得られた実測した測定値の二次元曲線と(3)で得た一次移動平均線と(4)で得た平均中心線と同じグラフ上に表示する。
(6)K線の各ポイントにおける絶対値の平均値を、K値とする。
【0018】
図1には手順(2)〜(5)で得られたニ次元曲線を表したグラフを示した。図5は実施例の手順を示したフローチャートである。以下、上述した(1)〜(6)の手順にしたがって説明する。(図1を参照)
手順(1)で実施例に供したロール状原反は、磁気テープに使用される厚さ9.0μm、幅1015mm、長さ6000mのフィルムシートのロール状原反を用いた。測定手段として図4に示したようにロール状原反21の一端から他端へ移動させるガイド12と接触式形状センサ13(Mitsutoyo製リニアゲージ)を搭載したものを用い、表面形状を測定した。実測値の測定点は全部で1013ポイントとした。
【0019】
(3)一度目の移動平均操作は実測値を元データにして±30ポイントの移動区間で行った。
【0020】
(4)二度目の移動平均操作は一次移動平均値を元データにして±50ポイントの移動区間で行った。本実施例の場合,(図2のように予備実験におけるフィルムシートにおけるシワ不良率との関係から、)ニ度の移動平均で得られた二次元曲線を中心平均線とした。
【0021】
(5)上記中心平均線と(2)で得た実測した表面形状の測定値の二次元曲線との偏差からK線を得た。
【0022】
(6)このK線から、各ポイントにおける絶対値の平均値をコンピュータを用いて算出されたK値は0.020であった。
【0023】
図2は本実施例の場合のフィルムシートの複数のロール状原反について、各々の表面形状の二次元曲線をデータ処理して得たK値と各々のフィルムシートに実際に磁気塗料を塗設したテープのロール状原反厚みむらからくる不良発生率とをグラフ化したものである。横軸がK値、縦軸がロール状原反表面形状の厚みむらからくる不良発生率(むら不良率)である。図からわかるように、K値とむら不良率に相関関係があることがわかり、またK値がある一定の値(本実施例では0.008)よりも小さい時にロール状原反の表面形状の厚みむらによる不良発生率が0となることを明らかにした。
【0024】
K値がある値以下の時に、ロール状原反シワ発生および変形が0となることがわかったので、ロール状原反の加工工程または加工前で測定を行うことでその時点のK値を知り、ある値に近づけるように対策することができる。例えば、カレンダ処理による鏡面処理工程前の磁気テープのロール状原反の場合は表面形状計測からK値を算出し、K値が大きいと評価されれば、通常よりもカレンダの線圧を上げてカレンダ処理を行うなど、計測・評価の結果を受けて、後工程で補正・矯正することができる。また、本実施例のように、塗料塗設前のフィルムシートの場合では、不良品を次工程に投入する前に排除することも可能である。
【0025】
つまり、本発明者は、表面形状を二次元曲線で表し、新しい概念に基いて平均中心線との関連においてデータ処理することでロール状原反表面形状を評価する数的指標が利用できることを見出した。ここでは平均中心線から数的指標としてK値を述べたが、当然これに限らず、K線における最大山の高さ、最深谷の深さ、最大山から最深谷の差といったデータあるいはK線と変位0の基本線によって閉じられた部分の面積の比較など、要求される品質項目に応じてデータ処理を行って適宜利用することも可能である。
【0026】
移動平均操作の移動区間は、±30ポイント、±50ポイントに限ったものではなく、要求する精度に応じて適宜区間を変更することが可能なのはいうまでもない。ここでは被評価物として磁気テープ用フィルムシートのロール状原反で実施例を挙げたが、これに限られたものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実測値と一次移動平均線と平均中心線と
【図2】K値とむら不良率の関係
【図3】テープの曲折した様子
【図4】ロール状原反の測定手段の斜視図
【図5】ロール状原反の評価を行うフローチャート
【符号の説明】
【0028】
1 曲折した形状のテープ
11 測定手段
12 ガイド
13 接触式センサ
21 原反ロール



















【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺体のロール状原反の幅方向の表面形状の評価方法であって、該表面形状を二次元曲線で表し、該二次元曲線を平均中心線との関連においてデータ処理することにより表面形状を定量化して、長尺体の厚みむらを判定することを特徴とするロール状原反の評価方法。
【請求項2】
請求項1のロール状原反の評価方法であって、
表面形状の二次元曲線を所定の移動区間で移動平均操作を行い、平均中心線を定めるステップと、
前記平均中心線と表面形状の二次元曲線との偏差を二次元曲線で表すステップと、
前記偏差の二次元曲線から表面形状を定量化するステップと、
定量化した数値により長尺体の厚みむらを判定することを特徴とするロール状原反の評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−234605(P2006−234605A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50235(P2005−50235)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】