説明

長手方向異径断面スパイラル鋼管、その製造方法及びその製造装置

【課題】閉断面として剛性が高く、しかも鋼管の長手方向で径の異なる自動車用構造部材に適した薄肉鋼管およびその製造技術を提供する。
【解決手段】板厚tが0.4〜5.0mmであり、片側または両側が幅変更されたハイテン鋼板をスパイラル造管し、外径Dが300mm以下でV=t/Dとして定義される薄肉比Vが0.3%〜2%である異径断面を有するスパイラル鋼管とする。このスパイラル鋼管に、拡管と縮管の一方または双方の成形を施して自動車構造用部材とすることもできる。電縫鋼管では成形できなかった薄肉比Vの薄肉小径の鋼管を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車構造用部材等に好適な外径Dが200mm以下の長手方向異径断面スパイラル鋼管、その製造方法及びその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のフレーム構造を形成するセンターピラーやサイドレール等の自動車構造用部材は、特許文献1,2に示されるように、従来は電縫鋼管による成形品または板材による構造部材で製造されていた。特に閉断面の自動車構造用部材は、電縫鋼管による成形品が主流であった。近年、薄肉ハイテン化の要求が高まり、ハイテン鋼への材料変換が進行しているところであるが、成形性に劣るハイテン鋼により電縫鋼管を製造する場合には、V=t/D(t:板厚、D:直径)として定義される薄肉比で1.2%が成形上の限界となっていた。このため閉断面として剛性の高いハイテン薄肉鋼管のニーズに十分には応えられていなかった。
【0003】
また、上記したセンターピラーやサイドレール等の自動車構造用部材は、鋼管の長手方向で径を変化させることが望まれる。そこで従来は電縫鋼管を素材としてハイドロフォーミング等の二次加工を施してこの要求に応えてきたが、拡管率には限界がある。このため径の変化をより大きくしたいような場合には、顧客のニーズに十分には応えられていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−219154号公報
【特許文献2】特開2009−154563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、閉断面として剛性が高く、しかも鋼管の長手方向で径の異なる薄肉鋼管とその製造方法および製造装置を提供することを目的とするものである。本発明者はこの課題を解決するために検討を重ねた結果、従来は直径が400〜2600mmの大径鋼管に用いられてきたスパイラル造管技術を小径鋼管の製造に適用することにより、電縫鋼管よりも薄肉比Vが小さく、しかも鋼管の長手方向で径の異なる薄肉鋼管を製造できることを究明した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はこの知見に基づいてなされたものであって、請求項1の発明は、外径Dが300mm以下、板厚tが0.4〜5.0mmであり、V=t/Dとして定義される薄肉比Vが0.3%〜2%であり、かつ鋼管の長手方向で異径断面を構成することを特徴とする長手方向異径断面スパイラル鋼管を要旨とするものである。
【0007】
また請求項2の発明は、請求項1の長手方向異径断面スパイラル鋼管に、拡管と縮管の一方または双方の成形を施した自動車構造用部材を要旨とするものである。
【0008】
また請求項3の発明である長手方向異径断面スパイラル鋼管の製造方法は、板厚tが0.4〜5.0mmであり、片側または両側が幅変更された鋼板をスパイラル造管し、外径Dが300mm以下でV=t/Dとして定義される薄肉比Vが0.3%〜2%である異径断面を構成することを特徴とするものである。この発明においては、幅変更を、サイドトリマーにて片側または両側のトリム幅を走間変更することにより行うことが好ましい。また、スパイラル造管の際の溶接をシーム溶接またはレーザー溶接とすることが好ましい。
【0009】
さらに請求項6の発明である長手方向異径断面スパイラル鋼管の製造装置は、入側鋼板供給部と、溶接装置と、出側鋼管送り出し部とを備えるスパイラル鋼管製造装置において、入側鋼板供給部は片側または両側が幅変更された鋼板を供給するものであり、その鋼板を溶接する際に、鋼板の幅変更に同調して、入側鋼板供給部と出側鋼管送り出し部の一方または双方が、溶接装置を中心として回転移動することを特徴とするものである。
【0010】
さらに請求項7の発明である長手方向異径断面スパイラル鋼管の製造装置は、入側鋼板供給部と、溶接装置と、出側鋼管送り出し部とを備えるスパイラル鋼管製造装置において、入側鋼板供給部は片側または両側が幅変更された鋼板を供給するものであり、その鋼板を溶接する際に、鋼板の幅変更に同調して、入側鋼板供給部の鋼板と出側鋼管送り出し部のスパイラル鋼管の一方または双方が、溶接装置を中心として回転移動することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スパイラル造管技術を用いることにより、ハイテン鋼による電縫鋼管の成形限界であった1.2%の薄肉比を下回る鋼管を製造することができるとともに、予め片側または両側が幅変更された鋼板をスパイラル造管することにより、鋼管の長手方向で径が大きく異なる薄肉鋼管をも製造することができる。また請求項2のように本発明の長手方向異径断面スパイラル鋼管に、拡管と縮管の一方または双方の成形を施せば、さらに大きな径変化を与えることができるとともに、断面形状を非円形とすることもできる。
【0012】
さらに本発明の長手方向異径断面スパイラル鋼管の製造装置によれば、溶接装置を中心として入側鋼板と出側鋼管とがなす角度を鋼板の幅変更に同調して調整することができるので、スパイラル造管の直径が変化しても溶接位置を一定に保ったままで、安定した溶接が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一般的なスパイラル造管方法を示す説明図である。
【図2】本発明のスパイラル造管方法を示す説明図である。
【図3】入側鋼板の幅変更の例を示す平面図である。
【図4】入側鋼板の幅変更の例を示す平面図である。
【図5】本発明のスパイラル鋼管の製造装置の平面図である。
【図6】本発明のスパイラル鋼管を二次加工した自動車構造用部材の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態を説明する。
従来のスパイラル鋼管は、直径が400〜2600mmで板厚が4.5〜25mmの大径鋼管であり、図1に示すように一定幅の鋼板(入側鋼板)1を成形ロール2を通して連続的に送り込んでスパイラル状に成形し、鋼板の端面どうしを内面溶接装置3と外面溶接装置4とによって溶接する造管方法によって製造されている。この造管方法では、入側鋼板1の進行方向と、スパイラル造管された出側鋼管5の進行方向とは、水平面内において入側鋼板1の板幅に応じた角度θをなす。なお、溶接はシーム溶接またはレーザー溶接とすることが好ましい。
【0015】
本発明ではこのスパイラル造管法を、外径Dが300mm以下、板厚tが0.4〜5.0mmの薄肉小径の分野に適用する。このスパイラル造管法によれば入側鋼板1を電縫鋼管を製造する場合よりも無理なく管状に成形することができるため、成形性の悪いハイテン鋼を用いた場合にも、V=t/Dとして定義される薄肉比Vがハイテン鋼による電縫鋼管の成形限界であった1.2%の薄肉比を下回る、0.3%〜2%のスパイラル鋼管を製造することができる。なお、板厚tが0.4mm未満となると構造部材としての強度が不足し、逆に板厚tが5.0mmを超えるとこのような小径に曲げ加工することが困難となる。
【0016】
また本発明においては、図2に示されるように入側鋼板1を片側または両側が幅変更された鋼板とし、これをスパイラル造管することにより、鋼管の長手方向で異径断面を構成するスパイラル鋼管を製造する。電縫鋼管の場合には入側鋼板1の板幅を連続的に変化させることは困難であるが、スパイラル鋼管の場合には可能である。図3は入側鋼板1の幅変更の例を示す図であり、入側鋼板1の板幅を次第に狭くして行けば管径が鋼管長手方向に小さくなった異径断面のスパイラル鋼管となり、図3の左上図のように入側鋼板1の板幅を次第に広くしたうえで狭くすれば、管径が鋼管長手方向に拡大したうえで縮小した異径断面のスパイラル鋼管となる。
【0017】
図3は1本のスパイラル鋼管に対応させた図であるが、実際には連続的にスパイラル造管したうえで切断するのが効率的であり、その場合には図4に示すように入側鋼板1の板幅を連続的に変化させる。なおこのような幅変更は、公知のサイドトリマーにて入側鋼板1の片側または両側のトリム幅を走間変更することにより行うことができる。
【0018】
図5は本発明のスパイラル鋼管製造装置の平面図である。前記したようにこの造管方法では、入側鋼板1の進行方向とスパイラル造管された出側鋼管5の進行方向とは、水平面内において入側鋼板1の板幅に応じた角度θをなす。そして本発明では入側鋼板1の板幅を変化させるため、この角度θを変更しながら造管する必要がある。本発明では、内面溶接装置3と外面溶接装置4を一定位置としたまま、入側鋼板供給部6と出側鋼管送り出し部7との一方または双方を,入側鋼板1の幅変更に同調して、溶接装置を中心として水平面内で回転移動させる。これによって長手方向に板幅を変化させた入側鋼板1をスパイラル造管することができる。
【0019】
なお、図5に示すように入側鋼板供給部6と出側鋼管送り出し部7の一方または双方を回転移動するほか、入側鋼板供給部6と出側鋼管送り出し部7は一定位置としたままで、鋼板の幅変更に同調して、入側鋼板供給部6の入側鋼板1と出側鋼管送り出し部7のスパイラル鋼管(出側鋼管5)の一方または双方を回転移動させるようにしてもよい。
【0020】
このようにして造管された小径のスパイラル鋼管は鋼管の長手方向で異径断面を構成するものであり、そのままで自動車構造用部材等に用いることができるが、図6に示すようにハイドロフォーム等の手法により一部拡管を施したり、プレスによって断面形状を変化させたりする二次加工を施し、自動車構造用部材とすることもできる。スパイラル鋼管を用いた自動車構造用部材は、電縫鋼管のようにシームラインが同一位置にならないため、どの方向からの加重に対しても均等な強度を持つ利点がある。
【0021】
本発明に適したハイテン鋼の組成(質量%)は次のとおりである。
C :0.001〜0.350%、
Si:0.02〜1.50%、
Mn:0.10〜2.70%、
P :0.1%以下、
S :0.02%以下、
Al:0.01〜5.00%、
N :0.03%以下、
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
【0022】
さらに圧延材の成分が、質量%で、
Ti:0.01〜1.00%、
Nb:0.01〜1.00%、
V :0.01〜1.00%、
Hf:0.01〜1.00%、
Zr:0.01〜1.00%、
Ta:0.01〜1.00%、
W :0.01〜3.00%、
Co:0.01〜3.00%、
Mo:0.01〜3.00%、
Cr:0.01〜20.00%、
Ni:0.01〜10.00%、
Cu:0.01〜2.00%、
B :0.0003〜0.030%、
Ca:0.0003〜0.030%、
Mg:0.0003〜0.030%、
REM:0.0003〜0.030%、
の1種または2種以上を含有するものであってもよい。
【0023】
上記した各成分の数値範囲の理由は次のとおりである。
Cは、0.001〜0.350%とする。C含有量0.001%未満では強度が確保できないので、これを下限とし、C含有量0.350%以上では溶接性が著しく劣化するため、機械構造部品としては不適となることからこれを上限とする。
【0024】
Siは、強度確保の観点および加工性、低温靭性に影響を及ぼす元素である。Si含有量0.02%未満では、強度が確保できないのでこれを下限とし、Si含有量1.50%以上では、鋼板製造時のめっきの濡れ性劣化や、鋼板製造後の化成処理性劣化、低温靭性劣化が生じるため、これを上限とする。
【0025】
Mnは、強度確保の観点および耐高温酸化性改善に有効な元素である。Mn含有量0.10%未満では、強度が確保できないのでこれを下限とし、Mn含有量2.70%以上では、Mnの偏析が大きくなり、製品の加工性を著しく劣化させるため、これを上限とした。
【0026】
Pは、固溶強化元素として作用し、鋼板の強度を上昇させるが、その含有量が高くなると、鋼板の加工性や溶接性が低下するので、好ましくない。特に、P含有量が0.1%を超えると、鋼板の加工性や溶接性の低下が顕著となるので、P含有量は0.1%以下に制限するのが好ましい。
【0027】
Sは、含有量が多すぎるとMnSなどの介在物を形成し伸びフランジ性を劣化させ、さらに、熱間圧延時に割れを引き起こすので、極力、低減するのが好ましい。特に、熱間圧延時に割れを防止し、加工性を良好にするためには、S含有量を0.02%以下に制限するのが好ましい。
【0028】
Alは、0.01〜5.00%とする。Al含有量を0.01%以上としたのは、脱酸元素としてAl添加を行うことで、効率的に溶鋼中の溶存酸素を減らすことが出来るからであったり、Crと並存した場合に耐酸化性を補うのに有効な元素であるため、必要に応じて添加すればよい。一方、Al含有量を5.00%以下としたのは、多量のAlは亜鉛めっき性や化成処理性を劣化させたり、加工性を低下させる要因となるためである。Alは、脱酸に使用することや、不可避的に混入するため、0.01%を下限とした。
【0029】
Nは、鋼板の加工性を低下させるので、可能な限り少ないほうが好ましい。鋼板の加工性が劣化するので、N含有量は0.03%以下に制限するのが好ましい。
【0030】
上記以外に、たとえばTi,Nb,V,Hf,Zr,Taは強度を向上させる元素として有効であり、効果を発生させるために0.01%以上添加する。また逆に加工性を低下させないために、その上限を1.00%とする。W,Co,Moは強度を向上させる元素として、ステンレスの場合には高温強度を向上させる元素として有効であり、効果を発生させるために0.01%以上添加する。また逆に加工性を低下させないために、その上限を1.00%とする。Cr,Ni,Cu,は、強度を向上させる元素として、ステンレスの場合には耐食性を向上させるために、0.01%以上添加する。また靭性の低下、高温耐酸化性の劣化を回避するために上限をそれぞれCr:20.00%,Ni:10.00%、Cu:2.00%とする。また、Bは硬度向上や二次加工脆性改善のために、Ca、Mg、REMはの介在物を制御するために、それぞれ0.0003〜0.0030%の範囲で添加する。
【0031】
以上に説明したように、本発明によれば、閉断面として剛性が高く、しかも鋼管の長手方向で径の異なる自動車用構造部材に適した薄肉鋼管およびその製造技術を提供することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 入側鋼板
2 成形ロール
3 内面溶接装置
4 外面溶接装置
5 出側鋼管
6 入側鋼板供給部
7 出側鋼管送り出し部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径Dが300mm以下、板厚tが0.4〜5.0mmであり、V=t/Dとして定義される薄肉比Vが0.3%〜2%であり、かつ鋼管の長手方向で異径断面を構成することを特徴とする長手方向異径断面スパイラル鋼管。
【請求項2】
請求項1に記載の長手方向異径断面スパイラル鋼管に、拡管と縮管の一方または双方の成形を施したことを特徴とする自動車構造用部材。
【請求項3】
板厚tが0.4〜5.0mmであり、片側または両側が幅変更された鋼板をスパイラル造管し、外径Dが300mm以下でV=t/Dとして定義される薄肉比Vが0.3%〜2%である異径断面を構成することを特徴とする長手方向異径断面スパイラル鋼管の製造方法。
【請求項4】
幅変更を、サイドトリマーにて片側または両側のトリム幅を走間変更することにより行うことを特徴とする請求項3に記載の長手方向異径断面スパイラル鋼管の製造方法。
【請求項5】
スパイラル造管の際の溶接をシーム溶接またはレーザー溶接としたことを特徴とする請求項3または4に記載の長手方向異径断面スパイラル鋼管の製造方法。
【請求項6】
入側鋼板供給部と、溶接装置と、出側鋼管送り出し部とを備えるスパイラル鋼管製造装置において、入側鋼板供給部は片側または両側が幅変更された鋼板を供給するものであり、その鋼板を溶接する際に、鋼板の幅変更に同調して、入側鋼板供給部と出側鋼管送り出し部の一方または双方が、溶接装置を中心として回転移動することを特徴とする長手方向異径断面スパイラル鋼管の製造装置。
【請求項7】
入側鋼板供給部と、溶接装置と、出側鋼管送り出し部とを備えるスパイラル鋼管製造装置において、入側鋼板供給部は片側または両側が幅変更された鋼板を供給するものであり、その鋼板を溶接する際に、鋼板の幅変更に同調して、入側鋼板供給部の鋼板と出側鋼管送り出し部のスパイラル鋼管の一方または双方が、溶接装置を中心として回転移動することを特徴とする長手方向異径断面スパイラル鋼管の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−115890(P2012−115890A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269869(P2010−269869)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】