説明

防振ブッシュ、及び該防振ブッシュを備えたトルクロッド

【課題】大変位までの動ばねを低く抑えつつ、大きな荷重入力に対して変位を抑制する。
【解決手段】内筒26と中間筒28の間を一対の内側ゴム脚32で連結するとともに、両者の接近方向での相対変位を制限するストッパゴム部46及びストッパ間隙48からなる内側ストッパ44を設ける。また、中間筒28と外筒30の間を一対の外側ゴム脚38で連結するとともに、両者の接近方向での相対変位を制限するストッパゴム部54及びストッパ間隙56からなる外側ストッパ52を設ける。そして、内筒26と外筒30との接近方向での相対変位に対し、両ストッパ44,52が作用する前の非ストッパ領域と、外側ストッパ52のストッパ間隙56が先に潰れてそのストッパ作用が発揮される第1ストッパ領域と、更なる変位により内側ストッパ44のストッパ間隙48も潰れて双方のストッパ作用が発揮される第2ストッパ領域とを持せたる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振ブッシュに関し、より詳細には、例えば自動車のエンジンを車体に対して防振しながら連結するトルクロッドに好適に用いることができる防振ブッシュ、及び、該防振ブッシュを備えたトルクロッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体と振動発生源であるエンジンとの間には、エンジンのロール方向の動きや振動を抑制するためにトルクロッドが設けられている。かかるトルクロッドは、一般に、長手方向の両端部に、内筒及び外筒とそれらの間に介設されたゴム弾性体とからなる防振ブッシュをそれぞれ備えてなる。
【0003】
この種のトルクロッドに関し、下記特許文献1には、大径側の防振ブッシュにおいて、内筒の周りに中間筒を設け、中間筒と外筒との間をV字状に拡開した一対のゴム脚で連結した上で、外筒の内周面に、中間筒に当接してストッパ作用をなす第1ストッパゴム部と、ゴム脚に当接してストッパ作用をなす第2ストッパゴム部とを並べて設けた構成が開示されている。この例では、加速時に中間筒と外筒とが接近する相対変位に対し、まず、第2ストッパゴム部がゴム脚に当接し、更なる変位に伴って第1ストッパゴム部が中間筒に当接するようにしている。これにより、加速時の比較的初期の段階では、第2ストッパゴム部をゴム脚に当接させることで、ゴムとゴムとの当接によりストッパ当たりを柔らかくして、ストッパ当たり後のバネ定数を低く維持できるとともに、更なる変位に対しては、第1ストッパゴム部を中間筒に当接させることで、過大な変位を確実に規制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4046072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにトルクロッドは、エンジンのロール方向の動きを規制する変位規制効果を発揮しながら、その一方でエンジンの振動が車体側に伝達しないように大変位時までは動ばね定数を低くするという背反する特性が求められる。上記特許文献1では、第2ストッパゴム部をゴム脚に当てて初期のストッパ機能を与えており、この場合、ゴム同士の当接であるため、ソフトな初期当たりを実現することができる。しかしながら、第2ストッパゴム部は、ゴム脚との当接により圧縮方向に撓む設定となっている。そのため、変位の増加に伴ってバネ定数が増加してしまい、第1ストッパゴム部が作用するまでの領域で、荷重−撓み特性の線形性を確保することができず、振動伝達抑制効果が損なわれる。また、ゴム脚に第2ストッパゴム部を当てているので、ゴム脚の耐久性を低下させる可能性がある。また、第1ストッパゴム部を確実に機能させるために中間筒を設けているが、中間筒の内側のゴムを変形させる構造になっておらず、すなわち、中間筒と内筒を一体化しても機能は変わらないので、スペースとコスト面でデメリットがある。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、大変位までのばね定数を低く抑えつつ、大きな荷重入力に対しては確実に変位を抑制することができる防振ブッシュ、及び該防振ブッシュを用いたトルクロッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る防振ブッシュは、内筒と、前記内筒を軸平行に取り囲む中間筒と、前記中間筒を軸平行に取り囲む外筒と、前記内筒の第1の軸直角方向において前記内筒を挟んだ両側で当該内筒と前記中間筒の間を連結する一対の内側ゴム脚と、前記第1の軸直角方向において前記中間筒を挟んだ両側で当該中間筒と前記外筒の間を連結する一対の外側ゴム脚と、前記第1の軸直角方向に垂直な第2の軸直角方向における前記内筒を挟んだ両側のうちの少なくとも一方側において、前記内筒と前記中間筒との間に設けられ、両者の接近する方向での所定以上の相対変位を制限するストッパゴム部及びストッパ間隙からなる内側ストッパと、前記第2の軸直角方向における前記中間筒を挟んだ両側のうち少なくとも前記一方側において、前記中間筒と前記外筒との間に設けられ、両者の接近する方向での所定以上の相対変位を制限するストッパゴム部及びストッパ間隙からなる外側ストッパと、を備えるものである。そして、前記第2の軸直角方向における前記一方側への前記内筒と前記外筒との接近する方向での相対変位に対して、前記内側ストッパと前記外側ストッパが作用する前の非ストッパ領域と、前記内側ストッパと前記外側ストッパのいずれか一方のストッパ間隙が先に潰れて当該一方のストッパゴム部によるストッパ作用が発揮される第1ストッパ領域と、更なる相対変位によりもう一方のストッパ間隙も潰れて双方のストッパゴム部によるストッパ作用が発揮される第2ストッパ領域とを持つものである。
【0008】
本発明に係るトルクロッドは、ロッド本体と、前記ロッド本体の長手方向における一端部に設けられた第1防振ブッシュと、前記ロッド本体の長手方向における他端部に設けられた第2防振ブッシュと、を備えてなり、前記第1防振ブッシュが上記特有のストッパ構造を持つ防振ブッシュからなり、該防振ブッシュが前記第2の軸直角方向を前記ロッド本体の長手方向に向けて設けられたものである。
【0009】
本発明の好ましい態様において、前記内側ストッパと前記外側ストッパのうち少なくとも先にストッパ間隙が潰れるストッパでは、ストッパゴム部のストッパ面が断面円弧状に形成されて、前記ストッパ面に対向する被ストッパ部との間のストッパ間隙が周方向で一定に形成されてもよい。また、前記外側ストッパのストッパ間隙が、前記内側ストッパのストッパ間隙よりも小さく設定されてもよく、あるいはまた、前記内側ストッパのストッパ間隙が、前記外側ストッパのストッパ間隙よりも小さく設定されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る防振ブッシュであると、内筒と外筒との接近する方向での相対変位に対し、非ストッパ領域では内側ゴム脚と外側ゴム脚との直列ばねによる低ばね特性が発揮される。内側ストッパと外側ストッパの一方のストッパ間隙が潰れて当該一方のストッパ作用が発揮される第1ストッパ領域では、主としてもう一方のストッパが設けられた側のゴム脚が撓み変形する。すなわち、一方のストッパ作用が発揮されることでばね定数は増加するが、第2ストッパ領域までは主として上記もう一方側のゴム脚の剪断変形により荷重−撓み特性の線形性を確保することができ、ばね定数を低く抑えることができる。そして、更なる相対変位によりもう一方のストッパ間隙も潰れる第2ストッパ領域では、双方のストッパ作用が発揮されることで大変位を確実に規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態に係るトルクロッドの正面図である。
【図2】第1実施形態に係る防振ブッシュの図であり、(a)は正面断面図、(b)はそのb−b線断面図、(c)はc−c線断面図である。
【図3】同防振ブッシュの変位時の状態を示す図であり、(a)は無負荷時(非ストッパ領域)、(b)は小変位時(第1ストッパ領域)、(c)は大変位時(第2ストッパ領域)を示す。
【図4】第2実施形態に係る防振ブッシュの変位時の状態を示す図であり、(a)は無負荷時(非ストッパ領域)、(b)は小変位時(第1ストッパ領域)、(c)は大変位時(第2ストッパ領域)を示す。
【図5】第3実施形態に係る防振ブッシュの変位時の状態を示す図であり、(a)は無負荷時(非ストッパ領域)、(b)は小変位時(第1ストッパ領域)、(c)は大変位時(第2ストッパ領域)を示す。
【図6】第1実施形態に係る防振ブッシュの荷重−撓み(変位)特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1に示すように、実施形態に係るトルクロッド10は、ロッド本体12と、該ロッド本体12の長手方向Lにおける一端部に設けられた大径の第1防振ブッシュ14と、ロッド本体12の長手方向Lにおける他端部に設けられた小径の第2防振ブッシュ16とを備えてなる。このトルクロッド10は、自動車の車体と振動発生源であるエンジンとの間に組付けられて、エンジンのロール方向の動きや振動を抑制するものである。
【0014】
ロッド本体12は、アルミニウム合金などの軽金属や樹脂などからなる剛性部材であり、長手方向Lの一端部に第1防振ブッシュ14が取り付けられる第1取付穴18と、他端部に第2防振ブッシュ16が取り付けられる第2取付穴20を有する。第1取付穴18と第2取付穴20は、内周面が円筒状をなす開口部であり、両者の軸が互いに平行で、かつロッド本体12の長手方向Lに垂直に設けられており、第1取付穴18の方が大径に形成されている。
【0015】
小径の第2防振ブッシュ16は、剛性のある内筒22と、該内筒22と第2取付穴20との間に介設されたゴム弾性体24とよりなる。この内筒22は、車体とエンジンのいずれか一方、例えばエンジン側に連結される金属等からなる剛性部材である。ゴム弾性体24は、内筒22と第2取付穴20の間に全周にわたって設けられた筒状ゴム部材であり、内筒22の外周面に加硫接着されている。そして、内筒22の外周に加硫成形されたゴム弾性体24を持つ第2防振ブッシュ16は、ロッド本体12の第2取付穴20に対して軸方向に圧入することにより装着されている。
【0016】
次に、本実施形態の特徴とする第1防振ブッシュ14について詳細に説明する。第1防振ブッシュ14は、第2防振ブッシュ16よりも大径の防振ブッシュであり、第1取付穴18内に軸平行に配された内筒26と、該内筒26を軸平行に取り囲む中間筒28と、該中間筒28を軸平行に取り囲みロッド本体12の第1取付穴20に内嵌される外筒30とを備えてなる。
【0017】
内筒26は、車体とエンジンのいずれか他方、例えば車体側に連結される金属等からなる剛性部材であり、この例では円筒状をなしている。中間筒28は、内筒26の外周を所定の間隔をおいて取り囲む金属等からなる剛性部材であり、この例では円筒状をなしている。外筒30は、中間筒28の外周を所定の間隔をおいて取り囲む金属等からなる剛性部材であり、この例では円筒状をなしている。このような中間筒28を設けた上で、中間筒28の内側と外側とで受け持つ荷重領域を使い分けるために、中間筒28の内側と外側のゴム脚が次のように構成されている。
【0018】
図2に示すように、内筒26の第1の軸直角方向Y1(軸方向Xに垂直な方向、即ち径方向)において、内筒26を挟んだ両側には、内筒26と中間筒28の間に介設されて両者を連結する一対の内側ゴム脚32,32が設けられている。内側ゴム脚32は、内筒26の外周面と中間筒28の内周面とに加硫接着されており、内筒26と中間筒28との間にゴム弾性体を一体に加硫成形することにより形成されている。これにより、第1の軸直角方向Y1に垂直な第2の軸直角方向Y2において、内筒26を挟んだ両側には、すぐりと称される軸方向Xに貫通する一対の空洞部34,36が設けられている。この例では、一対の内側ゴム脚32,32は、内筒26からややV字状に拡開した形状をなすように、第1の軸直角方向Y1に対して若干傾斜して形成されている。
【0019】
上記第1の軸直角方向Y1において、中間筒28を挟んだ両側には、中間筒28と外筒30の間に介設されて両者を連結する一対の外側ゴム脚38,38が設けられている。外側ゴム脚38は、中間筒28の外周面と外筒30の内周面とに加硫接着されており、中間筒28と外筒30との間にゴム弾性体を一体に加硫成形することにより形成されている。これにより、上記第2の軸直角方向Y2において、中間筒28を挟んだ両側には、すぐりと称される軸方向Xに貫通する一対の空洞部40,42が設けられている。
【0020】
この例では、内側ゴム脚32は、図2(a)に示すように外側ゴム脚38よりも周方向での幅が大で、かつ、図2(b)に示すように軸方向Xでの長さが長く設定されており、これにより、内側ゴム脚32の方が外側ゴム脚38よりも第2の軸直角方向Y2におけるばね定数が高く設定されている。
【0021】
上記第2の軸直角方向Y2における内筒26を挟んだ両側のうちの一方側Y21には、内筒26と中間筒28との間に内側ストッパ44が設けられている。内側ストッパ44は、第2の軸直角方向Y2において内筒26と中間筒28との接近する方向での所定以上の相対変位を制限するものであり、ストッパゴム部46とストッパ間隙48とからなる。詳細には、内側ストッパ44は、上記V字の内側に相当する空洞部34に設けられており、ストッパゴム部46が、中間筒28側、すなわち中間筒28の内周面に固設され、ストッパゴム部46と内筒26との間で第2の軸直角方向Y2における間隙としてのストッパ間隙48が形成されている。ストッパゴム部46は、内側ゴム脚32から連なるゴムにより形成されており、この例では中間筒28の内周面を覆うゴム層状をなし、内筒26側に突出する凸状には形成されていない。ストッパゴム部46は、中間筒28の軸方向Xの全体にわたって一定の断面形状とされている。なお、この例では、上記と反対側の空洞部36にも、中間筒28の内周面にストッパゴム部50が設けられている。
【0022】
上記第2の軸直角方向Y2における中間筒28を挟んだ両側のうちの一方側Y21には、中間筒28と外筒30の間に外側ストッパ52が設けられている。外側ストッパ52は、第2の軸直角方向Y2において中間筒28と外筒30との接近する方向での所定以上の相対変位を制限するものであり、ストッパゴム部54とストッパ間隙56とからなる。詳細には、外側ストッパ52は、中間筒28に関して上記一方側Y21の空洞部40に設けられており、ストッパゴム部54が、外筒30側、すなわち外筒30の内周面に固設され、ストッパゴム部54と中間筒28との間で第2の軸直角方向Y2における間隙としてのストッパ間隙56が形成されている。ストッパゴム部54は、外側ゴム脚38から連なるゴムにより形成されており、外筒30の軸方向Xの全体にわたって一定の断面形状とされている。なお、この例では、上記と反対側の空洞部42にも、外筒30の内周面にストッパゴム部58が設けられている。
【0023】
上記一方側Y21に設けられた外側ストッパ52のストッパゴム部54は、図2(a)に示すように、被ストッパ部である中間筒28の外周面を受け止めるストッパ面54Aが断面円弧状に形成されており、該ストッパ面54Aとこれに対向する中間筒28の外周面との間で形成されるストッパ間隙56が周方向で一定に形成されている。このようにストッパゴム部54は、中間筒28が当接したときに、当接開始時点から接触面積を大きくして、撓み規制効果を高め、この部分をばねとして効かせないために、幅広に形成されている。より詳細には、ストッパゴム部54は、被ストッパ部である中間筒28を幅広い面で受けるように、周方向での長さが中間筒28の半径よりも大きく設定されている。
【0024】
図2(a)及び(c)に示すように、この例では、外側ストッパ52のストッパ間隙56は、内側ストッパ44のストッパ間隙48よりも十分に小さく設定されている。
【0025】
以上よりなる第1防振ブッシュ14は、図1に示すように、上記第2の軸直角方向Y2をロッド本体12の長手方向Lに向けて(即ち、第2の軸直角方向Y2と長手方向Lとが一致するように)、ロッド本体12の第1取付穴18に取り付けられている。より詳細には、車両の加速時におけるエンジンのロール方向の動きによって内筒26と外筒30とが接近する側に、上記内側ストッパ44と外側ストッパ52が配されるように、第1防振ブッシュ14は、第2の軸直角方向Y2の上記一方側Y21をロッド本体12の長手方向Lの外方側に向けた姿勢に取り付けられている。
【0026】
かかる第1防振ブッシュ14であると、第2の軸直角方向Y2における上記一方側Y21への内筒26と外筒30との接近する方向での相対変位に対して、非ストッパ領域と、第1ストッパ領域と、第2ストッパ領域との3つの荷重領域を持つ。
【0027】
すなわち、まず、アイドリング時のような無負荷時ないし微小変位時は、図3(a)に示すように、内側ストッパ44と外側ストッパ52がともに作用していない非ストッパ領域となっている。この場合、内側ゴム脚32と外側ゴム脚38との直列ばねによる低動ばね特性が発揮される。荷重が加わると、内側ゴム脚32と外側ゴム脚38はそれぞれのばね定数に反比例した分だけ撓むことになり、図6に示すように荷重−撓み曲線の傾きは小さく、ばね定数が小さい。
【0028】
非ストッパ領域から実用加速領域(例えば、2速全開)のように変位が大きくなると、図3(b)に示すように、まず外側ストッパ52のストッパ間隙56が潰れてストッパゴム部54によるストッパ作用が発揮される第1ストッパ領域となる。すなわち、この例では、外側ストッパ52のストッパ間隙56が内側ストッパ44のストッパ間隙48よりも小さく、かつ外側ゴム脚38が内側ゴム脚32よりもばね定数が小さく設定されているので、先に、中間筒28が外側ストッパ52のストッパゴム部54に当接する。これにより、小変位時に、中間筒28の更なる動きが規制され、主に内側ゴム脚32が撓むようになる。そのため、上記直列ばねの場合に比べてばね定数が増加するが、内側ゴム脚32における剪断変形による撓み(変位)であるため、図6に示すように、第1ストッパ領域内で変位が大きくなっていってもばね定数は一定の値を確保することができ、荷重−たわみ曲線の線形性を確保することができる。そのため、実用加速領域において、加速時のこもり音等を効果的に低減しつつ、ストッパとしての機能を両立させることができる。これに対し、上記従来技術では、2段階で作用するストッパゴム部の内、先に当接するストッパゴム部が圧縮方向に撓む設定となっているので、図6において点線で示すように、変位に伴いばね定数も上がってしまい、こもり音等の振動が伝わりやすい。
【0029】
第1ストッパ領域から更に変位が大きくなると、図3(c)に示すように、次は内側ストッパ44のストッパ間隙48が潰れて内側ストッパ44のストッパ作用も発揮される第2ストッパ領域となる。すなわち、第1ストッパ領域から荷重が上がっていくと、内筒26と内側ストッパ44のストッパゴム部46とが当接し、これにより内側ストッパ44と外側ストッパ52の双方でストッパ作用が発揮させるようになるので、図6に示すように、荷重−撓み曲線が急激に立ち上がり、更なる変位を規制する効果を大きくすることができる。
【0030】
以上のように本実施形態によれば、アイドリング時には、内側ゴム脚32と外側ゴム脚38との直列ばねによる低動ばね定数を実現することができ、また、実用加速時には、ある程度のストッパ機能を発揮しながら、こもり音等を効果的に低減することができる。また、このように大変位時までの動ばね定数を低く抑えながら、大きな荷重入力に対しては内外のストッパ44,52の双方でストッパ作用を発揮させることで、大変位を確実に規制することができる。
【0031】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態に係る防振ブッシュ60を示したものである。この防振ブッシュ60は、上記第1実施形態に係るトルクロッド10の第1防振ブッシュ14として用いられるものであり、トルクロッド10への取付構造は第1実施形態と同じである。
【0032】
第2実施形態の防振ブッシュ60は、内筒26、中間筒28及び外筒30の構成については第1実施形態と同じである。また、外側ゴム脚38についても第1実施形態と同じであるが、内側ゴム脚32については、周方向での幅を外側ゴム脚38と略同一に設定した点で第1実施形態と異なり、その他は第1実施形態の通りである。一方、内側ストッパ44及び外側ストッパ52の構成については、上記第1実施形態とは異なり、次のように構成されている。
【0033】
すなわち、この例では、第1ストッパ領域において、まず先に内側ストッパ44のストッパ間隙48が潰れて内側ストッパ44によるストッパ作用が発揮され、その後の第2ストッパ領域において、外側ストッパ52のストッパ間隙56が潰れて外側ストッパ52のストッパ作用も発揮されるようになっている。そのため、上記一方側Y21の空洞部34に設けられた内側ストッパ44のストッパゴム部46が、中間筒28の内周面から内筒26側に突出させて設けられている。一方、外側ストッパ52については、ストッパゴム部54が、外筒30の内周面を覆うゴム層状をなしている。これにより、内側ストッパ44のストッパ間隙48が、外側ストッパ52のストッパ間隙56よりも十分に小さく設定されている。
【0034】
また、先にストッパ間隙48が潰れる内側ストッパ44では、内筒26側に突出するストッパゴム部46のストッパ面46Aが断面円弧状をなして、ストッパ面46Aに対向する被ストッパ部である内筒26との間のストッパ間隙48が周方向で一定に形成されている。これにより、ストッパゴム部46は、内筒26が当接したときに、当接開始時点から接触面積を大きくなるように幅広に形成されている。より詳細には、ストッパゴム部46は、被ストッパ部である内筒26を幅広い面で受けるように、周方向での長さが内筒26の半径よりも大きく設定されている。
【0035】
以上より、防振ブッシュ60は、第2の軸直角方向Y2における上記一方側Y21への内筒26と外筒30との接近する方向での相対変位に対して、非ストッパ領域と、第1ストッパ領域と、第2ストッパ領域との3つの荷重領域を持つ。非ストッパ領域については、第1実施形態と同様であり、図4(a)に示すように、アイドリング時のような無負荷時ないし微小変位時には、内側ゴム脚32と外側ゴム脚38との直列ばねによる低動ばね特性が発揮される。
【0036】
非ストッパ領域から実用加速領域(例えば、2速全開)のように変位が大きくなると、図4(b)に示すように、まず内側ストッパ44のストッパ間隙48が潰れてストッパゴム部46によるストッパ作用が発揮される第1ストッパ領域となる。すなわち、この例では、内側ストッパ44のストッパ間隙48が外側ストッパ52のストッパ間隙56よりも十分に小さく設定されているので、先に、内筒26が内側ストッパ44のストッパゴム部46に当接する。これにより、小変位時に、内筒26と中間筒28との更なる相対変位が規制され、主に外側ゴム脚38が撓むようになる。そのため、上記直列ばねの場合に比べてばね定数は増加するが、外側ゴム脚38における剪断変形による撓み(変位)であるため、第1ストッパ領域内で変位が大きくなっていってもばね定数は一定の値を確保することができ、荷重−たわみ曲線の線形性を確保することができる。そのため、実用加速領域において、加速時のこもり音等を効果的に低減しつつ、ストッパとしての機能を両立させることができる。
【0037】
第1ストッパ領域から更に変位が大きくなると、図4(c)に示すように、次は外側ストッパ52のストッパ間隙56が潰れてストッパゴム部54によるストッパ作用も発揮される第2ストッパ領域となる。すなわち、第1ストッパ領域から荷重が上がっていくと、中間筒28と外側ストッパ52のストッパゴム部54とが当接し、これにより内側ストッパ44と外側ストッパ52の双方でストッパ作用が発揮させるようになるので、荷重−撓み曲線が急激に立ち上がり、更なる変位を規制する効果を大きくすることができる。
【0038】
よって、第1実施形態と同様に、大変位時までの動ばね定数を低く抑えながら、大きな荷重入力に対して確実に変位を規制することができる。その他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様であり、同じ構成要素には同じ符号を付して説明は省略する。
【0039】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態に係る防振ブッシュ70を示したものである。この防振ブッシュ70は、上記第1実施形態に係るトルクロッド10の第1防振ブッシュ14として用いられるものであり、トルクロッド10への取付構造は第1実施形態と同じである。
【0040】
第3実施形態の防振ブッシュ70は、内筒26、中間筒28及び外筒30の構成については第1実施形態と同じである。内側ゴム脚32、外側ゴム脚38、内側ストッパ44及び外側ストッパ52についても、基本的には第1実施形態と同様であるが、この例では、これらゴム部分の形状を、上記第2の軸直角方向Y2において対称にした点で第1実施形態とは異なる。
【0041】
すなわち、この例では、内側ゴム脚32は、第1の軸直角方向Y1に沿ってまっすぐ延びており、第2の軸直角方向Y2において、内筒26を挟んだ両側には、一対の空洞部34,36が上下対称形状に形成されている。そして、これら両空洞部34,36に、上記ストッパゴム部46とストッパ間隙48とからなる内側ストッパ44が上下対称に形成されている。
【0042】
また、外側ゴム脚38についても、上下対称に形成され、これにより、第2の軸直角方向Y2において、中間筒28を挟んだ両側には、一対の空洞部40,42が上下対称形状に形成されている。そして、これら両空洞部40,42に、上記ストッパゴム部54とストッパ間隙56とからなる外側ストッパ52が上下対称に形成されている。
【0043】
なお、外側ストッパ52のストッパ間隙56が内側ストッパ44のストッパ間隙48よりも小さく、かつ、外側ゴム脚38が内側ゴム脚32よりもばね定数が小さく設定された点は、第1実施形態と同様である。
【0044】
以上より、本実施形態では、第1実施形態と同様、第2の軸直角方向Y2における上記一方側Y21への内筒26と外筒30との接近する方向での相対変位に対して、内側ストッパ44と外側ストッパ52が作用する前の非ストッパ領域(図5(a)の状態)と、外側ストッパ52のストッパ間隙56が先に潰れてストッパゴム部54によるストッパ作用が発揮される第1ストッパ領域(図5(b)の状態)と、更なる相対変位により内側ストッパ44のストッパ間隙48も潰れて内側ストッパ44のストッパゴム部46によるストッパ作用も発揮される第2ストッパ領域(図5(c)の状態)を持つ。但し、この例では、該一方側Y21だけでなく、他方側Y22についても、同様に、上記非ストッパ領域と第1ストッパ領域と第2ストッパ領域との3つの荷重領域を有するように変位する。
【0045】
従って、第2の軸直角方向Y2における両方向Y21,Y22について、大変位時までの動ばね定数を低く抑えながら、大きな荷重入力に対して確実に変位を規制することができる。その他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様であり、同じ構成要素には同じ符号を付して説明は省略する。
【0046】
(その他の実施形態)
上記実施形態においては、内筒26、中間筒28及び外筒30を断面円形状としたが、これらは単なる円形状に限定されるものではなく、長円形状や多角形状など、種々とすることができ、形状は特に限定されない。また、上記実施形態では、ストッパゴム部46,54を中間筒28の内周面や外筒30の内周面に設けたが、ストッパゴム部46,54は、内筒26と中間筒28との間、又は中間筒28と外筒30との間に設ければよく、そのため、内筒26の外周面や中間筒28の外周面に設けてもよい。また、上記実施形態では、中間筒28を、周方向の全周にわたって連続した完全な筒体の場合について説明したが、中間筒28は周方向の1箇所又は2箇所で分断された分割形状のものであってもよく、分割することにより、ゴム脚32,38の加硫成形後に外筒30に絞り加工(縮径加工)を行うことで、中間筒28の外側のゴム脚38だけでなく、内側のゴム脚32にも予圧縮を付与することができる。その他、一々列挙しないが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0047】
10…トルクロッド 12…ロッド本体 14…第1防振ブッシュ
16…第2防振ブッシュ 26…内筒 28…中間筒
30…外筒 32…内側ゴム脚 38…外側ゴム脚
44…内側ストッパ 46…ストッパゴム部 48…ストッパ間隙
52…外側ストッパ 54…ストッパゴム部 56…ストッパ間隙
60,70…防振ブッシュ L…長手方向 Y1…第1の軸直角方向
Y2…第2の軸直角方向 Y21…一方側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒と、
前記内筒を軸平行に取り囲む中間筒と、
前記中間筒を軸平行に取り囲む外筒と、
前記内筒の第1の軸直角方向において前記内筒を挟んだ両側で当該内筒と前記中間筒の間を連結する一対の内側ゴム脚と、
前記第1の軸直角方向において前記中間筒を挟んだ両側で当該中間筒と前記外筒の間を連結する一対の外側ゴム脚と、
前記第1の軸直角方向に垂直な第2の軸直角方向における前記内筒を挟んだ両側のうちの少なくとも一方側において、前記内筒と前記中間筒との間に設けられ、両者の接近する方向での所定以上の相対変位を制限するストッパゴム部及びストッパ間隙からなる内側ストッパと、
前記第2の軸直角方向における前記中間筒を挟んだ両側のうち少なくとも前記一方側において、前記中間筒と前記外筒との間に設けられ、両者の接近する方向での所定以上の相対変位を制限するストッパゴム部及びストッパ間隙からなる外側ストッパと、
を備えてなり、
前記第2の軸直角方向における前記一方側への前記内筒と前記外筒との接近する方向での相対変位に対して、前記内側ストッパと前記外側ストッパが作用する前の非ストッパ領域と、前記内側ストッパと前記外側ストッパのいずれか一方のストッパ間隙が先に潰れて当該一方のストッパゴム部によるストッパ作用が発揮される第1ストッパ領域と、更なる相対変位によりもう一方のストッパ間隙も潰れて双方のストッパゴム部によるストッパ作用が発揮される第2ストッパ領域とを持つ
ことを特徴とする防振ブッシュ。
【請求項2】
前記内側ストッパと前記外側ストッパのうち少なくとも先にストッパ間隙が潰れるストッパでは、ストッパゴム部のストッパ面が断面円弧状に形成されて、前記ストッパ面に対向する被ストッパ部との間のストッパ間隙が周方向で一定に形成されたことを特徴とする請求項1記載の防振ブッシュ。
【請求項3】
前記外側ストッパのストッパ間隙が、前記内側ストッパのストッパ間隙よりも小さく設定されたことを特徴とする請求項1又は2記載の防振ブッシュ。
【請求項4】
前記内側ストッパのストッパ間隙が、前記外側ストッパのストッパ間隙よりも小さく設定されたことを特徴とする請求項1又は2記載の防振ブッシュ。
【請求項5】
ロッド本体と、前記ロッド本体の長手方向における一端部に設けられた第1防振ブッシュと、前記ロッド本体の長手方向における他端部に設けられた第2防振ブッシュと、を備えてなり、前記第1防振ブッシュが請求項1〜4のいずれか1項に記載の防振ブッシュからなり、該防振ブッシュが前記第2の軸直角方向を前記ロッド本体の長手方向に向けて設けられたことを特徴とするトルクロッド。
【請求項6】
前記第1防振ブッシュが前記第2防振ブッシュよりも大径であることを特徴とする請求項5記載のトルクロッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−127441(P2012−127441A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280445(P2010−280445)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】