説明

防振支持装置、それを搭載した車両、及び車両の振動低減方法

【課題】
簡単な制御で、振動発生体の挙動による変動する圧力を低減し、振動発生体から基台への伝達される力を低減することができる防振支持装置、それを搭載した車両、及び車両の振動低減方法を提供する。
【解決手段】
エンジン(振動発生体)2を車体(基台)3に支持する複数のラバーマウント(マウント装置)4a及び4bを備え、ラバーマウント4a及び4bとエンジン2との間に、内部をオイル(液体)OLで満たし、エンジン2の変位によってオイルOLに圧力をかける油圧ユニット(液圧装置)20a及び20bを備え、油圧ユニット20a及び20bの間で、オイルOLが双方向に移動する連通管11を設け、前記連通管11に双方向バルブ(弁装置)12を備え、双方向バルブ12の開閉により連通管11を連通又は遮断するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラックのエンジンなどの振動発生体から圧力を低減し、振動発生体から基台への伝達力を低減する防振支持装置、それを搭載した車両、及び車両の振動低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、エンジンなどの内燃機関(振動発生体)を、ラバーマウント(マウント装置)によって、支持し、そのラバーマウントを、車体(基台)に取り付けている。このラバーマウントは、エンジン本体の姿勢が変化しないようにエンジンを車体に支持するものである。エンジンのアイドル時から全力走行時にわたる広いエンジン回転数域で発生するエンジンの振動が車体側へ伝達されることを防ぐと同時に、エンジンを回転駆動させることにより発生するトルクや路面からエンジンへ伝達される振動を低減させる働きを持っている。
【0003】
しかし、エンジンを含むパワープラントとそれを支持するラバーマウントでは、エンジン停止と始動時に振動が発生し、この振動が原因で乗員を不快にさせるという問題がある。この振動悪化は、筒内圧から起こされるクランク軸系の回転変動が原因であり、パワープラント懸架系とそれを支持するラバーマウントの共振により、その振動が助長されるために起こるものである。
【0004】
一方で、燃費改善の観点からアイドリングストップを行うことが当たり前となっている。このアイドリングストップは、短時間のエンジン停止と再始動という一連の制御を、特別な操作を必要とすることなく、自動的に行う制御であり、信号停止中や渋滞中に車両の停止と共に燃費低減および、排気ガス低減のためにエンジンを停止することである。
【0005】
上記のようにアイドリングストップが行われているが、エンジンの起動及び停止が頻発し、そのため、エンジンの起動停止時の大きい振動が車両の乗員に不快感を与えている。
【0006】
ここで、その振動について、図5を参照しながら説明する。図5に示すように、防振支持装置1Xは、エンジン2のトルクロール軸を跨いだ両側にラバーマウント4a及び4bを配置して、エンジン2を車体3に支持している。ラバーマウント4a及び4bはそれぞれマウントブラケット5aX及び5bXを介してエンジン2と接合し、マウントブラケット6a及び6bを介して車体3と接合している。このようにエンジン2は複数のラバーマウント4a及び4bで支持されるのが一般的である。
【0007】
エンジン2の筒内圧の圧力変動から起こされる振動は、トルクロール軸の回転方向に円を描く様に変動する。この際、ラバーマウント4a及び4bは、変形し、その減衰力により振動を低減する。
【0008】
しかし、特に起動又は停止時は、力の伝導率を示す図6に示すように、エンジンを含むパワープラントとエンジンマウントで決まる振動伝達率のグラフにおける10Hz付近の共振点を通過するときに、大きな振動を発生する。
【0009】
そこで、その共振点を通過するときの大きな振動を低減する装置として、振動体の両側に設けられる2つの防振ユニットを一つの切換手段で制御する装置(例えば、特許文献1及び2参照)や、防振支持装置に空気室を設けて空気バネの機能を持たせた装置(例えば、特許文献3参照)が提案されている。これらの装置は、防振ユニットのバネ定数を高く
することで、共振点をずらすように構成されている。しかし、これらの装置は、振動体であるエンジンの両側に設けた防振ユニットや防振支持装置に対して、個別に制御する必要がある。また、さらに振動を低減するためには、エンジンから車体への伝達力を低減することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−246278号公報
【特許文献2】特開2002−089616号公報
【特許文献3】特開2005−155661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単な制御で、振動発生体の始動及び停止時の挙動による圧力の変動を低減し、振動発生体から基台への伝達される力を低減することができる防振支持装置、それを搭載した車両、及び車両の振動低減方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を解決するための本発明の防振支持装置は、振動発生体を基台に支持する複数のマウント装置を備える防振支持装置において、前記マウント装置と前記振動発生体との間に、内部を液体で満たし、前記振動発生体の変位によって前記液体に圧力をかける液圧装置を備え、少なくとも2つの前記液圧装置の間で前記液体が双方向に移動する連通管を設けて構成される。
【0013】
この構成によれば、振動発生体の回転変位によって、液圧装置の液体に圧力がかかり、液圧装置の間で液体が連通管を通って移動する。これにより、液圧装置内の液体の容積の変動を小さくして、圧力の変動を小さくすることができるので、車体へ伝達する力を小さくすることができる。また、振動発生体の挙動が大きくなっても液圧装置はマウント装置と繋がっており、大きい角変位が生じてもマウント装置で吸収するため、液圧装置に大きな力はかからない。
【0014】
また、上記の防振支持装置において、前記連通管に弁装置を備える。
【0015】
この構成によれば、振動発生体であるエンジン(内燃機関)の始動時、又は停止時にエンジンの回転変位が大きくなるとき、弁装置を開いて、連通管を連通し、双方向に液体が行き来するようにできる。これにより、上記と同様の作用効果を得ることができる。また、エンジンの通常稼働時には、液体が行き来するとエンジンの動きが大きくなり不安定になるため、弁装置を閉じて、連通管を遮断し、液体の行き来を止めることができるようにしている。また、複数の液圧装置を個々に制御する必要がなくなり、弁装置をエンジンの状態に合せて開閉するだけで上記の作用効果を得ることができる。
【0016】
加えて、上記の防振支持装置において、前記液圧装置が、液体を満たしたチャンバーと、該液体を該チャンバー内に密閉すると共に、前記振動発生体と接合され、前記振動発生体の変位によって、前記チャンバー内を摺動するプランジャとを備える。
【0017】
この構成によれば、プランジャはロッドを介してエンジンに固定され、エンジンロール方向に回転変位が大きくなると、その変位に合せて、チャンバー内を摺動することができる。そのため、エンジンの回転変位でチャンバー内を摺動するプランジャによって、押された液体は、連通管を通ってもう一つの液圧装置のチャンバーへと移動する。これにより
、液体の容積の変動を小さくして、圧力の変動を小さくすることができるので、車体へ伝達する力を小さくすることができる。また、プランジャがエンジンの回転変位で液圧装置内部の液体に圧力をかけることができるので、別途アクチュエータなどの装置を必要としない。
【0018】
上記の問題を解決するための車両は、上記に記載の防振支持装置で、内燃機関又は該内燃機関を含むパワープラントを車体に支持して構成される。この構成によれば、エンジンの始動停止時に、エンジンから車体へ伝達する力が低減することで、車室内振動が低減し、快適性を向上することができる。 特に、アイドリングストップシステムを搭載した車両は、エンジンの始動又は停止の回数が多くなるため、有効である。
【0019】
上記の問題を解決するための車両の振動低減方法は、内燃機関又は該内燃機関を含むパワープラントを支持する複数のマウント装置による車両の振動低減方法において、少なくとも2つの前記マウント装置に備えた液圧装置を連通する連通管を備え、前記内燃機関が始動、又は停止するときに、連通管を連通して、各前記液圧装置の間で前記液圧装置内の液体を双方向に移動させ、前記内燃機関が通常稼働するときに、前記連通管を遮断して、各前記液圧装置の間で前記液圧装置内の液体を移動させないことを特徴とする方法である。
【0020】
この方法によれば、エンジンの始動又は停止時で、エンジンの回転変位が大きくなるときに各マウント装置の液圧装置の内部を連通管で連通して、双方向に液体を行き来させることができる。このため、液体の容積の変動を小さくして、圧力の変動を小さくすることができるので、車体へ伝達する力を小さくすることができる。
【0021】
また、エンジンの始動、又は停止時ではない通常走行において、連通管を連通するとエンジンの動きが大きくなり不安定になるため、連通管を遮断する。これにより、液体の液圧変動が生じ、マウントにその加振力が伝達されるが、この状態では、マウント変位は小さいので伝達する力も小さく問題がない。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡単な制御で、振動発生体の始動及び停止時の挙動による圧力の変動を低減し、振動発生体から基台への伝達する力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る実施の形態の防振支持装置を示した断面図である。
【図2】図1の防振支持装置の動作を示した断面図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の防振支持装置の制御を示したフローチャートである。
【図4】本発明に係る実施の形態の防振支持装置で支持したパワープラントを示した側面図である。
【図5】従来のパワープラントとラバーマウントを示した側面図である。
【図6】従来のパワープラントとラバーマウントで決まる振動伝達率のグラフを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施の形態の防振支持装置、それを搭載した車両、及び車両の振動低減方法について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
最初に本発明に係る実施の形態の防振支持装置1について、図1を参照しながら説明する。防振支持装置1は、防振支持ユニット10a及び10bをエンジン(内燃機関)2の
両側に配置して構成され、エンジン2を車体(基台)3に支持している。また、防振支持装置1は、防振支持ユニット10a及び10bを連通する連通管11と、この連通管11の途中に配置された双方向バルブ(双方向弁装置)12を備える。加えて、防振支持ユニット10a及び10bは、それぞれラバーマウント(マウント装置)4a及び4bと、油圧ユニット(液圧装置)20a及び20bとからなる。
【0026】
防振支持装置1に防振支持ユニット10a及び10bを設ける台数は限定しないが、防振支持ユニット2つを一組として、少なくとも1組設ける。また、その防振支持ユニット10a及び10bの配置も限定しないが、好ましくは、エンジン2のトルクロール軸を跨ぐようにしてエンジン2の両側に配置する。この構成によれば、エンジンロール方向の回転変位に対応することができる。加えて、防振支持ユニット10a及び10bの他に、ラバーマウントを追加して配置してもよい。
【0027】
連通管11を、オイルOLが内部を移動できるパイプなどの周知の技術の配管で形成する。この連通管11は、オイルOLが防振支持ユニット10aと10bの双方向へ移動することができればよく、その材質などは限定しない。
【0028】
双方向バルブ12は、オイルOLが双方向へ移動可能な連通管11の途中に設けられ、連通管11を遮断又は連通するバルブである。本発明においては、双方向バルブ12として、双方向2方弁を用いたが、オイルOLを双方向へ移動可能で、連通管11を遮断又は連通することができればよく、その構成を限定しないが、好ましくは制御の容易化を考慮して、電磁弁を用いたものがよい。
【0029】
上記の双方向バルブ12を、連通管を遮断又は連通するように制御しているECU30は、エンジンコントロールユニットと呼ばれる制御装置であり、電気回路によってエンジン2の制御を担当している電気的な制御を総合的に行うマイクロコントローラである。オートマチック車においては、ECU30にあらゆる運転状態における最適制御値を記憶させ、その時々の状態をセンサで検出し、センサからの入力信号により、記憶しているデータの中から最適値を選出し各機構を制御している。このECU30と双方向バルブ12とは電気を移送する電線で接続され、連通管11の遮断又は連通するように双方向バルブ12の開閉制御を行っている。また、このECU30は、アイドリングストップシステムの制御も行っている。
【0030】
ラバーマウント4a及び4bは、負荷荷重に対して弾性変形する弾性体を有する周知の技術のラバーマウントを用いることができる。また、マウント装置としては、ラバーマウント4a及び4bに限らずに、液体封入式マウント装置や油圧式アクティブマウント装置なども用いることができる。しかし、液体封入式マウント装置や油圧式アクティブマウント装置では、相殺することができるマウント変位が限られてしまうため、好ましくは大きい変位を吸収することができるラバーマウント4a及び4bがよい。このラバーマウント4a及び4bは車体3と接合されるが、マウントブラケットを介してもよい。加えて、このラバーマウント4a及び4bを、力の向きと変位の向きが一致する方向つまり弾性主軸方向にエンジンのトルクに起因する力が作用するように、エンジンに配置する。
【0031】
油圧ユニット20a及び20bは、同一の構成あるので、ここでは油圧ユニット20aについてのみ説明する。油圧ユニット20aは、チャンバー21a、プランジャ22a、ロッド23a、及びフランジ24aを備える。また、チャンバー21aの内部にオイルOLを充填する。
【0032】
チャンバー21aを円筒状に形成し、このチャンバー21aの断面に合せて、このチャンバー21aを摺動するプランジャ22aを円板状に形成する。チャンバー21aの断面
とプランジャ22aの形状は同一形状が好ましい。しかし、このチャンバー21aとプランジャ22aは、内部のオイルOLが、プランジャ22aの外に漏れなければその形状は特に限定しない。例えば、チャンバー21aの断面とプランジャ22aの形状を多角形に形成してもよい。
【0033】
プランジャ22aとロッド23aとを接合し、また、ロッド23aの先端をフランジ24aに形成して、マウントブラケット5aと接合する。この構成によれば、プランジャ22aはロッド23aとマウントブラケット5aを介してエンジン2と接合されており、エンジン2の回転変位により、チャンバー21aの内部を摺動することができる。プランジャ22a、ロッド23a、及びフランジ24aは一体に形成してもよい。
【0034】
プランジャ22aがチャンバー21aの内部を摺動することができれば、油圧ユニット20aとマウントブラケット5aは上記の構成に限定しない。例えば、マウントブラケット5aとロッド23aとの接合にフランジ24aを用いたが、この接合部に球軸受などを用いて、マウントブラケット5aに対してある程度ロッド23aが稼働できるように設けると、エンジン2からの変位に対して、プランジャ22aの摺動を円滑にすることができる。
【0035】
上記の油圧ユニット20a及び20bとラバーマウント4a及び4bとの接合は、ブラケットを介したボルト締め、又は溶接で固定する方法を用いる。油圧ユニット20a及び20bは、ロッド23aと23b、及びマウントブラケット5aと5bを介してエンジン2に固定され、エンジン2始動時の大きなローリング振動により、傾く。しかし、大きいローリング振動により、油圧ユニット20a及び20bは傾くが、ラバーマウント4a及び4bの変形によって、その角変位を吸収することができる。
【0036】
マウントブラケット5a及び5bとエンジン2とを接合する箇所は、エンジン2のトルクロール軸と略平行な箇所とする。また、マウントブラケット5a及び5bをロッド23a及び23bに対して、略垂直にエンジンロールの変位が加わるように形成する。この構成によれば、エンジンロールの変位によってプランジャ22a及び22bを摺動することができる。
【0037】
次に、本発明に係る実施の形態の防振支持装置1の動作について図1、及び図2を参照しながら説明する。双方向バルブ12を閉じて、連通管11を遮断した状態を図1に示し、双方向バルブ12を開けて、連通管11を連通し、オイルOLを双方向に移動可能にした状態を図2に示す。また、図2の図中の左右方向をx方向、上下方向をy方向とする。
【0038】
図2に示すように、エンジン2の始動及び停止時のエンジン2の回転変位が大きくなるときに、双方向バルブ12を開放する。エンジン2は回転し、マウントブラケット5aは斜めy方向に上がり、マウントブラケット5bは斜めy方向に下がる。その回転変位が、ロッド23a及び23bを介してプランジャ22a及び22bに伝わる。プランジャ22aは斜めy方向に上がり、プランジャ22bは斜めy方向に下がる。
【0039】
プランジャ22a及びプランジャ22bの動作により、チャンバー21a内部のオイルOLの圧力が低く、チャンバー21b内部のオイルOLの圧力が高くなるため、チャンバー21b内部のオイルOLが、連通管11と双方向バルブ12を通り、チャンバー21aへと移動する。このとき、エンジン2の回転変位により、油圧ユニット20a及び20bが斜めに傾くが、ラバーマウント4a及び4bが変位することで、油圧ユニット20a及び20bにかかる力を吸収しているので、油圧ユニット20a及び20bに余計な力が加わることがない。
【0040】
ここで、オイルOLの容積変動と圧力変動の関係は、オイルOLの容積をV、チャンバー内で変動するオイルOLの容積(以下、容積変動という)をdV、エンジン2の回転変位により変動する圧力(以下、圧力変動という)をdP、体積弾性率をB、時間をtとすると、次に示す数式(1)により表すことができる。
【0041】
【数1】

【0042】
双方向バルブ12を開き、防振支持ユニット10aのチャンバー21aと防振支持ユニット10bのチャンバー21bとの内部のオイルOLを双方向に移動可能にすると、容積変動dVが小さくなる。数式(1)から容積変動dVが小さくなると、圧力変動dPが小さくなることが分かる。従って、エンジン2の回転変位により、油圧ユニット20a及び20bの間でオイルOLが双方向に行き来することで、オイルOLの容積変動dVを小さくして、圧力変動dPを小さくすることができるので、エンジン2から車体3への伝達力を小さくすることができる。
【0043】
また、このとき、エンジン2の挙動が大きくなっても油圧ユニット20a及び20bはラバーマウント4a及び4bと繋がっているため、大きい角変位が生じてもラバーマウント4a及び4bで吸収するため、油圧ユニット20a及び20bに大きな力はかからない。
【0044】
エンジン2の起動又は停止時は、上記のように双方向バルブ12を開けて、オイルOLを双方向に移動可能にするが、エンジン2が通常走行するときは、図1に示すように、双方向バルブ12を閉じることにより、オイルOLを両油圧ユニット20a及び20bの間で移動させない。
【0045】
上記の動作によれば、エンジン2の始動及び停止時に、双方向バルブ12を開くことによって、エンジン2の回転変位で両油圧ユニット20a及び20bのプランジャ22a及び22bがチャンバー21a及び21b内を摺動して、オイルOLを両油圧ユニット20a及び20bの間で移動することができる。これにより、オイルOLの容積変動を小さくして、圧力変動を小さくすることができるので、車体3への振動の伝達力を小さくすることができる。
【0046】
また、エンジン2の通常走行時に、双方向バルブ12を閉じることによって、オイルOLが両油圧ユニット20a及び20bの間を行き来することを防ぎ、エンジン2の動きが大きくなり不安定になることを防ぐことができる。
【0047】
加えて、エンジン2の状態に対して、双方向バルブ12を開閉するだけで上記の作用効果を得ることができるため、制御を単純化することができる。
【0048】
次に、本発明に係る実施の形態の防振支持装置1を用いた車両の振動低減方法を、図3を参照しながら説明する。まず、車両を停止する操作をしたか否かを判断するステップS1を行う。ステップS1で車両を停止する操作をしたと判断されると、次に、エンジン2の停止を開始するステップS2を行う。このステップS1からステップS2の間に車両が何秒間停止しているか判断するステップを追加してもよい。
【0049】
このステップS2により、エンジン2の停止が開始され、エンジン2の回転数が小さくなる。次に、エンジン2の回転数がアイドル時の回転数以下になることを検知するステップS3を行う。ステップS3で用いるエンジン2の回転数は周知のクランク角センサから検知されるものである。
【0050】
ステップS3で、エンジン2の回転数がアイドル時のエンジン2の回転数以下になると、次に、双方向バルブ12を開けて、連通管11を連通するステップS4を行う。連通管11が連通すると、エンジン2の回転変位により、プランジャ22a及び22bがチャンバー21a及び21b内を摺動する。そして、オイルOLを移動することにより、チャンバー21a及び21b内部のオイルOLの変動する容積を小さくして、エンジン2によって増加する圧力を小さくする。
【0051】
両油圧ユニット20a及び20bの間で、オイルOLを双方向に移動させながら、変動する圧力を小さくした状態で、エンジン2が停止するステップS5が完了する。ステップS5が完了すると、双方向バルブ12を閉じて、連通管11を遮断するステップS6を行う。
【0052】
次に、車両の発進操作が行われた否かを判断するステップS7を行う。ステップS7で車両の発進操作が行われたと判断されると、双方向バルブ12を開けて、連通管11を連通するステップS8を行う。前述したように、連通管11が連通すると、油圧ユニット20a及び20bの間でオイルOLが行き来することができ、オイルOLの変動する容積を小さくすることができる。これにより、変動する圧力も小さくなる。これにより、エンジン2から車体3への振動の伝達率が小さくすることができる状態となる。
【0053】
次に、エンジンの始動を開始するステップS9を行う。次に、エンジン2の回転数がアイドル時の回転数以上になることを検知するステップS10を行う。ステップS10でエンジン2の回転数がアイドル時のエンジン2の回転数以上になると、双方向バルブ12を閉じて、連通管11を遮断するステップS11を行いこの制御は完了する。
【0054】
この方法によれば、エンジンロール方向に回転変位が大きくなる、エンジン2の始動、又は停止時に、双方向バルブ12を開けて、連通管11を連通することにより、双方向にオイルOLを行き来させることができるので、油圧ユニット20a及び20bの圧力変動dPを小さくすることができる。これにより、エンジン2から車体3への振動の伝達率を低減することができる。
【0055】
また、エンジン2の通常走行時に、双方向バルブ12を閉じて、連通管11を遮断することによって、オイルOLが両油圧ユニット20a及び20bの間を行き来することを防ぎ、エンジン2の動きが大きくなり不安定になることを防ぐことができる。その結果として、オイルOLの油圧変動が生じ、ラバーマウント4a及び4bにその加振力が伝達するが、この状態では、マウント変位は小さいので、伝達される力も小さい。
【0056】
加えて、上記の制御はエンジン2の状態を検出して、その状態に合せて双方向バルブ12を開閉するだけの制御であるので、制御方法を単純化することができる。
【0057】
次に、エンジン2を含むパワープラントを防振支持装置で支持する場合を、図4を参照しながら説明する。ここで、図中の表裏方向をx方向、上下方向をy方向、左右方向をz方向とする。エンジン2を含むパワープラント40は、クラッチ41とトランスミッション(変速装置)42とを含み、防振支持装置50は、防振支持ユニット10a(図示しない)、防振支持ユニット10b、及びラバーマウント4cとからなる。防振支持ユニット10a及び10bは前述と同様の構成であり、連通管11(図示しない)で連通している
。ラバーマウント4cはマウントブラケット5cを介して、パワープラント40と接合し、パワープラント40を車体3に支持している。
【0058】
この防振支持装置50は、防振支持ユニット10a及び10bを、x方向にパワープラント40を跨いで配置し、ラバーマウント4cをトルクロール軸線上で、トランスミッション42の下に配置する。この配置は、縦置きの重心支持方式と呼ばれる配置である。この防振支持装置50は、パワープラント40が、トルクロール軸を回転軸として回転変位するため、パワープラント40をx方向に跨ぐように少なくとも2つの防振支持ユニット10a及び10bを配置する。
【0059】
この構成によれば、トルクロール軸をx方向に跨ぐように、パワープラント40の両側に防振支持ユニット10a及び10bが配置されているため、エンジン2の起振力を原因とする回転変位により、防振支持ユニット10a及び10bが作動して、圧力変動dPを少なくすることができる。そのため、パワープラント40から車体3への振動の伝達を低減することができる。
【0060】
上記のパワープラント40の防振支持装置50は、トルクロール軸を跨ぐように連通管11で連通した少なくとも一組の防振支持ユニット10a及び10bを設ければよく、上記の構成に限定しない。例えば、上記の構成のラバーマウント4cに油圧ユニットを設けてもよい。しかし、運転時のピッチング振動は、エンジン2始動時のローリング振動のように大きな振動ではないため、ラバーマウントなどのマウント装置を設ければ十分にその振動を低減することができる。また、別途一組の防振支持ユニットを追加することや、ラバーマウントを追加することも可能である。
【0061】
上記の防振支持装置1及び50で、エンジン2、又はパワープラント40を車体3に支持した車両は、エンジン2の始動又は停止時に、エンジン2から車体への伝達される力を低減することができる。そのため、車室内振動が低減し、快適性を向上することができる。
【0062】
また、上記の防振支持装置1及び50はエンジン2などの内燃機関を支持することに限らず、振動を発生する振動発生体を、振動発生体を支持する基台に固定する装置として適用できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の防振支持装置は、エンジンの始動又は停止時に、エンジンから車体への伝達される力を低減することができるため、特に筒内圧力が高くエンジントルク変動も大きいディーゼルエンジンを搭載したトラックなどの車両に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1、50 防振支持装置
2 エンジン(振動発生体)
3 車体(基台)
4a、4b、4c ラバーマウント
5a、5b、5c マウントブラケット
10a、10b 防振支持ユニット
11 連通管
12 双方向バルブ(双方向弁装置)
20a、20b 油圧ユニット(液圧装置)
21a、21b チャンバー
22a、22b プランジャ
23a、23b ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生体を基台に支持する複数のマウント装置を備える防振支持装置において、前記マウント装置と前記振動発生体との間に、内部を液体で満たし、前記振動発生体の変位によって前記液体に圧力をかける液圧装置を備え、少なくとも2つの前記液圧装置の間で前記液体が双方向に移動する連通管を設けることを特徴とする防振支持装置。
【請求項2】
前記連通管に弁装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の防振支持装置。
【請求項3】
前記液圧装置が、液体を満たしたチャンバーと、該液体を該チャンバー内に密閉すると共に、前記振動発生体と接合され、前記振動発生体の変位によって、前記チャンバー内を摺動するプランジャとを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の防振支持装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の防振支持装置で、内燃機関又は該内燃機関を含むパワープラントを車体に支持することを特徴とする車両。
【請求項5】
内燃機関又は該内燃機関を含むパワープラントを支持する複数のマウント装置による車両の振動低減方法において、少なくとも2つの前記マウント装置に備えた液圧装置を連通する連通管を備え、
前記内燃機関が始動、又は停止するときに、連通管を連通して、各前記液圧装置の間で前記液圧装置内の液体を双方向に移動させ、
前記内燃機関が通常稼働するときに、前記連通管を遮断して、各前記液圧装置の間で前記液圧装置内の液体を移動させないことを特徴とする車両の振動低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−57348(P2013−57348A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195422(P2011−195422)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】