説明

防振装置

【課題】簡単かつ安価に製造することができ、圧入された弾性ブッシュを効果的に抜け止めすることができるスリーブを具えた防振装置を提供する。
【解決手段】外筒と、この外筒の内周面に接合させた筒状の弾性体とを具える弾性ブッシュを、腕部材に取付けられた剛性スリーブ2に、外筒の縮径変形下で圧入して、外筒の外周面をスリーブ2の内周面に摩擦係合させてなるものにおいて、前記スリーブ2を、一枚の金属板を曲げ加工してなる管状成形体2aにて構成するとともに、この管状成形体2aの、金属板の合わせ目部分に、円周方向に延びて、前記外筒の局部的な入り込みを許容するスロット7を設けてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外筒と、この外筒の内周面に接合させた、ゴムその他からなる筒状の弾性体とを具え、この弾性体のさらに内周面に接合させた剛性の内筒を具えることもある弾性ブッシュを、自動車のリアサスペンションアーム、トレーリングアーム、トルクロッド等の腕部材に取付けられたスリーブに、外筒の縮径変形下で圧入して、外筒の外周面をスリーブの内周面に摩擦係合させてなる防振装置に関するものであり、とくには、簡易に製造できる安価なスリーブに対する、弾性ブッシュの高い抜け止め力を確保することができる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
軽量化の目的の下に外筒を合成樹脂製としたこの種のブッシュタイプ防振装置の、アーム等に取付けたスリーブからの抜け出しを防止するための従来技術としては、たとえば特許文献1に開示されているように、樹脂製の外筒と、内筒と、ゴム弾性体とを有するゴムブッシュを、外筒の外面において剛性スリーブに圧入してなる筒形防振装置において、スリーブの内面かつ軸方向の両端部に凹陥部を形成して同内面を段付形状となし、そこに外筒を縮径させながら圧入して外筒をスリーブの内面形状に倣った段付形状となすとするものがあり、これによれば、均一外径になる樹脂製外筒が、スリーブの凹陥部と対応する部分で、スリーブによる縮径外力の作用から解放されて拡径状態となることから、その外筒、ひいては、ゴムブッシュの、スリーブからの抜け出し方向の変位は、たとえ、外筒の中央部分の縮径復元力が合成樹脂のクリープ等によって低下することがあっても、その外筒の両端部分の拡径部分と、スリーブの凹陥段付部との物理的な掛合下にて拘束されることになるとする。
【特許文献1】特開2004−211810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかるに、この従来技術では、筒形になる剛性スリーブの内面に、凹陥部を別途形成する工程が必要になることから、スリーブ、ひいては、防振装置のコストの上昇が否めないという問題があった。
【0004】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題点を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、簡単かつ安価に製造することができ、圧入された弾性ブッシュを効果的に抜け止めすることができるスリーブを具えた防振装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の防振装置は、外筒と、この外筒の内周面に、加硫接着、接着剤接着等によって接合させた筒状の弾性体、たとえばゴム弾性体とを具え、このゴム弾性体のさらに内周側に接合させた高剛性の内筒を具えることもある弾性ブッシュを、自動車のリアサスペンションアーム、トレーリングアーム、トルクロッド等の腕部材に取付けられた剛性スリーブに、外筒の縮径変形下で圧入して、外筒の外周面をスリーブ内周面に摩擦係合させてなるものであり、前記スリーブを、打抜き加工等された一枚もしくは二枚の金属板を曲げ加工してなる管状成形体によって構成するとともに、この管状成形体の、金属板の合わせ目部分に、円周方向および長さ方向の少なくとも一方向に延びて、または、それらのいずれの方向に対しても傾いて延びて、外筒の、たとえば、弾性変形下での、もしくは永久変形下での局部的な入り込みを許容するスロットを設けてなるものである。
【0006】
ここで好ましくは、外筒を、高剛性のスリーブより軟質の弾性材料もしくは可撓性材料にて形成することとし、この場合、より好ましくは、外筒を、弾性変形させることができるとともに、所要の凸部等を簡易に成形できる合成樹脂製とする。
【0007】
また、外筒には、それを合成樹脂製にすると、金属製にするとの別なく、その外表面に、前記ストロットに、たとえば丁度嵌まり込む凸部を設けることもできる。
【0008】
ところで、二枚の金属板にて形成した管状成形体については、その成形体の、円周方向でのそれぞれの半部をともに、腕部材に固定もしくは固着して、それらの両者の相対関係を特定することが、それらの両者を溶接等によって直接的に固着する場合に比して、作業工程数を少なくする上で好ましい。
【発明の効果】
【0009】
この発明の防振装置では、リヤサスペンションアーム、トレーリングアーム、トルクロッド等の腕部材に取付けられる剛性スリーブを、板金加工その他によって打抜き加工等された一枚もしくは二枚の金属板を曲げ加工してなる管状成形体によって構成することにより、スリーブそれ自体を簡単にかつ安価に製造することができ、しかも、その管状成形体の、金属板の合わせ目部分に、弾性ブッシュ、直接的には、弾性ブッシュの外筒の抜け止めに寄与する所要のスロットを設け、そのスロット内への、外筒の局部的な入り込みを許容して、この入り込み部分をスロットの縁部に掛合させることにより、筒状成形体に特別の加工等を施すことなしに、弾性ブッシュに、外筒外周面とスリーブ内周面との摩擦係合力と相俟って、高い抜け出し拘束力を及ぼすことができるので、安価なスリーブをもって、圧入された弾性ブッシュを効果的に抜け止めできる低廉な防振装置をもたらすことができる。
【0010】
ここで、外筒を、スリーブより軟質の弾性材料もしくは可撓性材料にて形成したときは、縮径変形下でスリーブ内へ圧入されたその外筒を、縮径反力に基く局部的な変形によって、スロット内へ十分円滑に、かつ確実に進入させて、その進入部分に、高い抜け止め機能を発揮させることができる。
【0011】
そしてこのことは、外筒を合成樹脂製として、その外筒を、合成樹脂に固有の弾性復元力に基いて、スリーブのスロット内へ局部的に進入させることによって簡易に実現することができる。
【0012】
ところで、外筒の外表面に、その外筒の材質のいかんにかかわらず、前記スロットに、たとえば丁度嵌まり込む、所要の高さの凸部を予め設けた場合には、外筒の、スロット縁部への掛合力を一層高めて、弾性ブッシュの、スリーブに対する引き抜け抗力をより効果的に増加させることができる。
【0013】
またここで、二枚の金属板にて形成した管状成形体の、円周方向でのそれぞれの半部をともに、腕部材に固定もしくは固着して、それぞれの半部の位置関係を特定するときは、それらの半部を、予めの溶接等によって位置決めする場合に比し、作業工程数および工数を低減させて、防振装置の低廉化をより効果的に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、この発明の実施の形態を示す、中心軸線を含む断面図であり、図中1は弾性ブッシュを、2は、取り付けられる腕部材を省略した高剛性のスリーブをそれぞれ示す。
【0015】
ここで、弾性ブッシュ1は、合成樹脂製を、金属製等とすることができる外筒3の内周面に、ゴムとすることができる筒状の弾性体4を、加硫接着、接着剤接着等によって接合させるとともに、この弾性体4の内周面に、高剛性の内筒5を、これも加硫接着、接着剤接着等によって接合させ、また、外筒3の、スリーブ2に対する圧入方向の後端に、スリーブ2の端面に面接触する外向きフランジ6を設けるとともに、この外向きフランジ6の背面に、弾性体4の一部を貼着させてなるものである。
【0016】
このような弾性ブッシュ1を、外筒3、ひいては、外筒3および弾性体4の縮径変形下で圧入されるスリーブ2は、板金加工その他によってたとえば打抜き加工された平坦な金属板、たとえば一枚の金属板を、図2に平面図および断面図を示すような円筒形状に曲げ加工してなる管状成形体2aによって構成してなり、その金属板の端部分の、凹陥部と凸出部との嵌め合わせになる雌雄嵌合合わせ目部分に、図では、所定の間隔をおいて円周方向に直線状に延びる、二条のスロット7を設けてなる。
【0017】
ここで、各スロット7は、縮径変形下でスリーブ2内へ圧入された、たとえば合成樹脂製の外筒3が、縮径反力に基く弾性復元力によって、そのスロット7内へ、図1に例示するように局部的に入り込むに足る、または、合成樹脂製もしくは金属製の外筒3に予め形成した凸部が十分に入り込み得る幅寸法等を有するものとする。
【0018】
なお、図に示すところにおいて、管状成形体7における、金属板端の突合わせ面は、溶接等によって、相互に固着もしくは固定させることも可能であるが、弾性ブッシュ1の圧入抵抗等との関連の下で、突合わせ面の相互の離隔変位によって、その圧入抵抗の低減を図るためには、金属板端の相互の突合わせ面は、固着も固定もしないことが好ましい。
【0019】
ところで、合成樹脂製の外筒3を、それの縮径反力に基いて、図1に例示するように、スリーブ2のスロット7内へ局部的に入り込ませるときは、その外筒3へのクリープ歪の発生に伴う外筒3の事実上の小径化に起因して、その外筒3の、スロット7内への入り込み量が減少することになるも、このようなクリープ歪の発生によってなお、スリーブ2による、外筒3の締め代は依然として残存するので、弾性ブッシュ1の抜け止め拘束力が低下することはあっても、外筒3の圧入下での見かけの外径低下は有効に防止されることになる。
この一方で、外筒3の材質のいかんにかかわらず、それの外表面に、スロット内へ嵌まり込む、所要の高さの凸部を予め形成した、その凸部をスロット7内へ嵌め込むときは、抜け止め拘束力の低下のおそれをより有利に取り除くことができる。
なおこの場合、凸部の突出高さを高く設定しすぎと、その凸部がスロット7内に嵌まり込むに到るまでの弾性ブッシュの圧入抵抗が、たとえ金属板端の突合わせ面の相互を離隔変位させてなお大きくなりすぎる嫌いがある。
【0020】
図3は、スロットの他の形成態様を例示する平面図であり、図3(a)に示すものは、一枚の金属板の一方の端部の一の凹陥部内に、他方の端部分の二本の凸出部を嵌め込むことによって、円周方向に直線状に延びる三条のスロット7を、そして図3(b)に示すものは、一方の端部分の二個所の凹陥部内へ、他方の端部分の各一本の凸出部を嵌め込むことによって、円周方向に直線状に延びる四条のスロット7をそれぞれ形成したものである。
【0021】
また、図3(c)に示すものは、一枚の金属板端の、スリーブ2の長手方向に延びる、端部分の突合わせ部間に、円周方向および長さ方向のいずれに対しても傾いて延びる一本の直線状傾斜スロット7を形成したものである。
ここで、傾斜スロット7の、スリーブ中心軸線に対する傾き角度は、所要に応じて適宜に変更することができ、図に示すところとは逆に、右上がりの傾きを有するものとすることもできる。
【0022】
そして図3(d)に示すものは、一枚の金属板のそれぞれの端部分をともにステップ状に形成して、金属板の両端の突き合わせ状態で、階段の各段差部に相当する部分に、円周方向に延びる三条のスロット7を設けたものである。
【0023】
図4(a)に示す、スロットのさらに他の形成態様は、一枚の金属板の合わせ目部分から、金属板端の突合わせ部分を省いて、円周方向および長さ方向のそれぞれの延在成分を有するスロット7を、スリーブ2の全長にわたってほぼクランク状に形成したものである。
このようなスロット7を有するスリーブ2は、たとえば、図4(b)に側面図で示すように、スロット7を腕部材8側に向けた姿勢で、それを腕部材8に、たとえば溶接することで、スリーブ2の不測の拡縮径変形を十分に拘束することができる。この一方で、図示例とは逆に、スロット7を、腕部材8の反対側に向けて位置させたときは、スリーブ2の拡縮径変形の許容下で、弾性ブッシュ1の圧入抵抗の低減を図ることができる。
そしてこれらのことは、図3に関連して述べたそれぞれのスロット7についてもまた同様である。
なおこれらのいずれの場合にあっても、スリーブ2を腕部材8に溶接その他によって固着させることに代えて、ボルト止めその他によって固定することも可能である。
【0024】
図5(a),(b)および(c)はそれぞれ、他の実施形態を示す平面図、底面図および断面図であり、これは、二枚の金属板のそれぞれに曲げ加工を施して、円周方向に二分割された部分からなる管状成形体2aによってスリーブ2を構成するとともに、各金属板の、凹陥部と凸出部との嵌め合わせになる雌雄嵌合合わせ目部分に、二条ずつのスロット7を形成したものである。
このスリーブ2は、いずれか一方側の二条のスロット7を腕部材側に向けて、円周方向のそれぞれの半部をともに、腕部材に固定もしくは固着させることで、所要の筒形態を維持することができる。
なおこのスリーブ2によれば、直径方向に対向する二個所に所要のスロット7を設けることができるので、外筒3の、それらのスロット7内への入り込みに基く、弾性ブッシュ1の抜け力をより一層高めることができ、また、弾性ブッシュ1の抜け拘束力を、スリーブ2の円周方向で、より均等に発揮させることができる。
【0025】
以上、スロット7の各種の形成態様を図面に示すところに基いて説明したが、スロット7の延在形態は、所要に応じて、図示以外の各種のものを適宜に選択することができ、たとえば、スリーブ2の一端から他端まで、中心軸線と平行に、所要の開口幅で直線状、曲線状、ジグザグ状等の形態で延在するものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施の形態を示す、中心軸線を含む断面図である。
【図2】スリーブの平面図および断面図である。
【図3】スロットの他の形成態様を示す平面図である。
【図4】スロットのさらに他の形成態様を示す正面図および側面図である。
【図5】二枚の金属板からなるスリーブを例示する平面図、底面図および断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 弾性ブッシュ
2 スリーブ
2a 管状成形体
3 外筒
4 弾性体
5 内筒
6 外向きフランジ
7 スロット
8 腕部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒と、この外筒の内周面に接合させた筒状の弾性体とを具える弾性ブッシュを、腕部材に取付けられた剛性スリーブに、外筒の縮径変形下で圧入して、外筒の外周面をスリーブの内周面に摩擦係合させてなる防振装置において、
前記スリーブを、一枚もしくは二枚の金属板を曲げ加工してなる管状成形体にて構成するとともに、この管状成形体の、金属板の合わせ目部分に、円周方向および長さ方向の少なくとも一方向に延びて、または、それらのいずれの方向に対しても傾いて延びて、前記外筒の局部的な入り込みを許容するスロットを設けてなる防振装置。
【請求項2】
外筒を、スリーブより軟質の弾性材料もしくは可撓性材料にて形成してなる請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
外筒を合成樹脂製としてなる請求項2に記載の防振装置。
【請求項4】
外筒の外表面に、前記スロットに嵌まり込む凸部を設けてなる請求項1〜3のいずれかに記載の防振装置。
【請求項5】
二枚の金属板にて形成した管状成形体の、円周方向でのそれぞれの半部をともに、腕部材に固定もしくは固着してなる請求項1〜4のいずれかに記載の防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−14258(P2010−14258A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177200(P2008−177200)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】