説明

防水コネクタ用シール部材

【課題】電線が揺動することによっても防水性が損なわれることがなく、フローティングコネクタのようなインナーハウジングが揺動するタイプにも好適な防水コネクタ用シール部材を提供する。
【解決手段】防水コネクタの端子収容室の後端に装着され、端子に接続された電線が嵌合する電線シール用の挿通孔を有する防水コネクタ用シール部材において、外周部全域と挿入方向の前後部とに、前記端子収容室との間で押圧されて変形するリップ部を有することを特徴とする防水コネクタ用シール部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタハウジング内への防水性能を確保できる防水コネクタ用シール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
図9及び図10に示すように従来の防水コネクタ101は、ハウジング102の端子収容室103内に挿入される雌型端子104と、端子収容室103後端に装着され、複数の電線シール用の挿通孔107を有するシール部材106とを備えている。この雌型端子104は、後部には電線Wの被覆部と芯線部を固着するための加締部109が設けられている。
【0003】
ハウジング102の前方からはパッキン111を有するパッキンホルダ110が被せられ、前方からの防塵及び防水性を確保している。また、ハウジング102の側面からはサイドスペーサ112が挿入され、ストッパ112aが箱状電気接触部105の後端面を押さえて、雌型端子104の後抜けを防止する。また、シール部材106の挿通孔107の内外面には波形状のシール部107aが設けられており、電線Wの外周部と端子収容室103の後端部をシールする。
【0004】
また、ハウジング102の後端面には、シール部材106の後方から該シール部材106を押圧するリアホルダ113が装着される。このリアホルダ113には、複数の端子用挿通孔114が設けられている。更に、ハウジング102の後部上面には相手コネクタと嵌合するまでロック機構を覆うランスカバー115が装着される。
【0005】
上記構成の防水コネクタ101においては、先ずハウジング102の前方からパッキングホルダ110が装着された後、端子収容室103の後方からシール部材106が挿着される。その後、シール部材106後方からリアホルダ113がハウジング102後端に仮係止される。
【0006】
次に、加締部109に電線Wを固着した雌型端子104がハウジング102後端のリアホルダ113後方から端子用挿通孔114及びシール部材106の挿通孔107を貫通して端子収容室103内に挿入される。その後、シール部材106後方からリアホルダ113がハウジング102前方に押圧されることで本係止されるので、シール部材106は弾性変形して強固なシール性を実現する。
【0007】
次に、雌型端子104が端子収容室103内に収容された後、サイドスペーサ112がハウジング102の側面から挿入されることで、ストッパ112aが箱状電気接触部105の後端面に配置される。これにより、端子収容室103内のハウジングランス102aが箱状電気接触部105の底板に設けられたランス穴105bを係止することと相まって雌型端子104が二重係止され、雌型端子の後抜けが確実に防止される。そして、ハウジング2の後部上面にランスカバー115が被せられる。
【0008】
【特許文献1】特開2000−208200号公報(図1〜図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の構成では、防水コネクタ101の後方へ導出された電線Wに上下及び左右方向へ引っ張り等による外力が作用すると、リアホルダ113の電線挿通口114の範囲において電線Wが揺動し、それによってシール部材収容部内のシール部材106も追従して動くことでシール部材収容部内壁からリップ107aがわずかに離間して隙間が生ずることがある。そして、この隙間から水分が侵入する恐れがある。
【0010】
シール部材収容部とリップ107aとの隙間から水分が侵入するのを防止するには、リアホルダ113によるシール部材106の押圧力を強くして緊密性を高めればよいが、リアホルダ113に対する反力が大きくなり、リアホルダ113が離脱する恐れがある。
【0011】
また、フローティングコネクタのようにアウタハウジング内でインナーハウジングを調芯のために揺動可能としている防水コネクタでは、シール部材がリアホルダによって強く圧縮されていると、シール部材に挿通された電線が完全に固定されてしまう。そこで、インナーハウジングが動けるようにするために、シール部材とインナーハウジングとの間にスペースを設ける必要があり、コネクタが大型化するという問題がある。
【0012】
本発明の目的は、上記従来の問題を解消することにあり、電線が揺動することによっても防水性が損なわれることがなく、またフローティングコネクタのようなインナーハウジングが揺動するタイプにも好適な防水コネクタ用シール部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 防水コネクタの端子収容室の後端に装着され、端子に接続された電線が嵌合する電線シール用の挿通孔を有する防水コネクタ用シール部材において、外周部全域と挿入方向の前後部とに、前記端子収容室との間で押圧されて変形するリップ部を有することを特徴とする防水コネクタ用シール部材。
【0014】
(2) 前記防水コネクタがフローティングタイプであることを特徴とする前記(1)1記載の防水コネクタ用シール部材。
【0015】
(3) 前記防水コネクタ用シール部材が一体成型品であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の防水コネクタ用シール部材。
【0016】
(4) 前記防水コネクタ用シール部材が積層構造であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の防水コネクタ用シール部材。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シール部材の外周部全域と挿入方向の前後部とに、前記端子収容室との間で押圧されて変形するリップ部を有することにより、シール部材と端子収容室との間が常に液密にシールされる。また、電線が外部からの力により揺動してシール部材が電線の揺動に追従しても、押圧されて変形したリップ部が更に変形してシール部材の動きを許容するので、シール部材のシール性が低下することはなく、確実なシールが保証される。
【0018】
シール部材に設けられるリップ部は、弾性体からなり、シール部材と一体成形されてもよく、また単独に成形された後にシール部材に固着されてもよい。
【0019】
リップ部はゴム、軟質プラスチック等の弾性変形可能な弾性体からなる。
リップ部がシール部材と一体成形される場合は、シール部材も上記弾性体からなり、シール部材自身も弾性変形可能となる。この場合、シール部材は自身の変形によっても電線の揺動に追従しながら防水性も維持することができ、シール部材の防水性が低下することはなく、確実な防水が保証される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の1実施形態であるコネクタに用いられるシール部材の斜視図、図2はシール部材の側面図、図3はシール部材の平面図である。図4はシール部材の第2実施形態の斜視図である。図5はシール部材を雌コネクタのインナーハウジングに装着した状態の横断面図、図6はシール部材をインナーハウジングに装着した状態の縦断面図、図7はシール部材をインナーハウジングに装着した状態の横断面図である。
【0021】
シール部材10は、ゴムや軟質プラスチック等の弾性材からなり、所定の厚みを有する長方形の板状に一体成形されている。シール部材10には、端子12に接続される電線14が挿通する挿通孔16が多数形成されている。挿通孔16の内面には山形のリップ部16aが形成されており、電線14が挿通孔16に挿通するとリップ部16aにより液密にシールされるようになっている。
【0022】
シール部材10の外周には全域にわたってリップ部18が形成されている。シール部材の各長辺には、山形の2条の上下リップ部18が形成されている。また、シール部材の各短辺には、厚み方向にわたる1条の山形の左右リップ部20が形成されている。更に、シール部材の短辺の厚み方向両端(挿入方向の前後面)に沿った周囲には1条の山形の前後リップ部21が形成されている。
【0023】
図1〜図3に示すシール部材10は1部品で構成されたものであるが、図4にシール部材の第2実施形態を示すように、シール部材11は1部品でなく、複数に分割された部材11a,11b,11c,11d,11eを上下方向に積層した構成であってもよい。
【0024】
次に、シール部材10の装着について説明する。
図5に示すように、雌コネクタ22はインナーハウジング24内にプレートハウジング26が遊嵌状態で収容された、フローティング構造となっている。プレートハウジング26内には、多数の雌端子12が収容されており、各雌端子12には電線14が接続されている。電線14はプレートハウジング26から後方に延出し、更にシール部材10の挿通孔に嵌合して支持固定され、更に後方に延出している。
【0025】
インナーハウジング24の内壁にはシール部材10の周縁部を支持する受け面28が形成されている。シール部材10の後方には電線14及びシール部材10をインナーハウジング24に固定するためのリアホルダ30が装着されている。
【0026】
一方、雄コネクタ32には多数の雄端子34が収容されており、雄コネクタ32から突出した雄端子34がインナーハウジング24内の雌端子12と嵌合することにより、両者が電気的に接続される。
【0027】
雌コネクタ22がフローティング構造となっているので、図5に示すように雄コネクタ32の雄端子34が斜めに曲がって雌コネクタ22に挿入されても、プレートハウジング26が曲がった方向に追従して動くことができるので、両コネクタ22,32は適正な電気接続状態で嵌合することができる。
【0028】
図6及び図7に、シール部材10とリアホルダ30を雌コネクタ22のインナーハウジング24に装着した状態の要部縦断面図を示す。図6に示すように、インナーハウジング24の後側からシール部材10を挿入すると、シール部材10の外周に形成された上下リップ部18及び左右リップ部20がインナーハウジング24の内壁との間で押しつぶされて変形する。このとき、シール部材10の短辺の前後側に形成された前後リップ部21にはまだ押圧力が作用しておらず、前後リップ部21はまだ変形していない。
【0029】
更に、シール部材10の後方からリアホルダ30を挿入し、リアホルダ30を適正位置に装着すると、シール部材10の短辺の前後側に形成された前後リップ部21はインナーハウジング24の受け面28に押し付けられ、受け面28及びリアホルダ30との間で変形する。
【0030】
なお、図6はリアホルダ30が装着されているが、シール部材10をまだ押圧していない状態であり、シール部材10の前後リップ部21はまだ変形していない。また、図7はリアホルダ30が装着され前後リップ部21のうち前側のリップ部21だけが変形した状態である。
【0031】
図5に示すように、プレートハウジング26の雌端子12と雄コネクタ32の雄端子34とが斜めに嵌合した場合、シール部材10に嵌合した電線14の曲がりによりシール部材10が矢印Aで示すような回転力を受ける。従来のシール部材であれば、シール部材とインナーハウジング24の内壁との間に隙間が生じてしまうが、上記構成のシール部材10によれば、シール部材10の左右リップ部21が変形するのでインナーハウジング24の内壁との間に隙間が生じないようになる。
【0032】
また、シール部材10に逆方向の回転力が作用しても同様に左右リップ部21が変形するので、インナーハウジング24の内壁との間に隙間が生じないようになる。更に、シール部材10の上下リップ部18も同様に変形するので、インナーハウジング24の内壁との間に隙間が生じないようになる。
【0033】
また、シール部材10はリアホルダ30により押圧されているので、シール部材10とインナーハウジング24の受け面28との間で前リップ部21が変形して受け部28と密接し、シール部材10とリアホルダ30との間で後リップ部21が変形してリアホルダ30と密接し、受け面28及びリアホルダ30との間に隙間が生じることがない。
【0034】
したがって、シール部材10がどのような方向に力を受けても、シール部材10とインナーハウジング24との間、及びシール部材10とリアホルダ30との間に隙間が生じることはなく、確実な防水性が保証される。
【0035】
特に、図5に示すようなフローティングタイプのコネクタのように、電線14によりシール部材10に力が作用しがちなコネクタにおいては、シール部材10にどのような力が作用してもシール部材10による確実な防水性が保証される。またシール部材10自身も弾性材により成形されていることから適度にインナーハウジング24内で変形できるので、一層防水性が確実となる。
【0036】
更に、リアホルダ30は、変形してつぶれたリップ部21に接しているので、リアホルダ30がシール部材10から受ける反力はそれほど大きくならず、リアホルダ30が脱落する恐れはない。
【0037】
図8は上記実施形態が適用される防水コネクタの一例を表す分解斜視図である。
図8に示すように、防水コネクタ40は、雄コネクタ41と、雌コネクタ42と、レバー43と、電線カバー44とからなる。雄コネクタ41は、雄ハウジング45と、基板46と、雄アウターカバー47と、基板台座48とからなる。雌コネクタ42は、雌インナーハウジング49と、雌アウターハウジング50と、雌プレートハウジング51と、ワイヤーシール52とからなる。
【0038】
雄ハウジング45は多数の雄端子53を収容しており、雄端子53が基板46に実装されることで基板46上に固定されている。雄端子53は、基板46に設けられているプリント配線や基板46上に実装されている電子素子にそれぞれ電気的に接続されている。雄ハウジング45は、基板46を挟んで雄アウターカバー47が基板台座48に固定されることで雄コネクタ41の端部に配置される。
【0039】
雌インナーハウジング49は、四角形の枠形状に形成されており、雌インナーハウジング49よりもわずかに大きい雌アウターハウジング50に収容される。雌アウターハウジング50は、一対の天板53の内面に枢支軸54がそれぞれ突出形成されている。枢支軸54はレバー43に形成された枢支孔56と係合する。
【0040】
雌プレートハウジング51は、多数の雌端子55を収容しており、雌インナーハウジング49に収容されてから、レバー43が回動されることで、雌アウターハウジング50を介して雌インナーハウジング49が雄ハウジング45側にスライド移動されて雌端子55を雄端子53に接続させる。雌端子55に電気的に接続される電線(図示せず)は、雌プレートハウジング51に組み付けられるワイヤーシール52によって水密を保持され、雌アウターハウジング50に外装される電線カバー44に囲まれて保護される。
【0041】
上記実施形態のシール部材は、図8に示す防水コネクタのワイヤーシールとして用いることができ、上述のような効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施形態であるシール部材の斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態であるシール部材の側面図である。
【図3】本発明の第1実施形態であるシール部材の平面図である。
【図4】本発明の第2実施形態であるシール部材の平面図である。
【図5】シール部材をインナーハウジングに装着した状態の横断面図である。
【図6】シール部材をインナーハウジングに装着した状態の縦断面図である。
【図7】シール部材をインナーハウジングに装着した状態の横断面図である。
【図8】本発明が適用される防水コネクタの一例を表す分解斜視図である。
【図9】従来の防水コネクタの分解斜視図である。
【図10】従来の防水コネクタの断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10,11 シール部材
12 雌端子
14 電線
16 挿通孔
18 上下リップ部
20 左右リップ部
22 前後リップ部
24 インナーハウジング
26 プレートハウジング
28 受け面
30 リアホルダ
32 雄コネクタ
34 雄端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水コネクタの端子収容室の後端に装着され、端子に接続された電線が嵌合する電線シール用の挿通孔を有する防水コネクタ用シール部材において、外周部全域と挿入方向の前後部とに、前記端子収容室との間で押圧されて変形するリップ部を有することを特徴とする防水コネクタ用シール部材。
【請求項2】
前記防水コネクタがフローティングタイプであることを特徴とする請求項1記載の防水コネクタ用シール部材。
【請求項3】
前記防水コネクタ用シール部材が一体成型品であることを特徴とする請求項1又は2記載の防水コネクタ用シール部材。
【請求項4】
前記防水コネクタ用シール部材が積層構造であることを特徴とする請求項1又は2記載の防水コネクタ用シール部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−335298(P2007−335298A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167560(P2006−167560)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】