説明

防汚性建築用不飽和ポリエステル樹脂成形体

【課題】 接触角を50度以下とすることによって浴槽等水回り製品に好適な防汚性を備えた不飽和ポリエステル樹脂成形体を提供する。
【解決手段】 ジカルボン酸,グリコール,アクリル酸やメタクリル酸等のカルボキシル基を有する重合性単量体及びスチレンの溶液を硬化剤によって硬化して不飽和ポリエステル樹脂成形体を形成した後に,この成形体にポリエチレングリコール又はそのアルキルエステルを塗布乃至浸漬して窒素気流下でグラフト重合することによって成形体の表面に親水化処理を施す。接触角30度程度の高度な親水性の成形体とし得る一方,95℃100時間の熱水浸漬後でも接触角50度程度を維持して浴槽等に使用しても優れた耐久性を呈して浴槽等の防汚性を充分に確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,浴槽,ユニットバスの床面や壁面,洗面ボール,システムキッチン天板等の特に水回り製品として好適に使用し得る防汚性建築用不飽和ポリエステル樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅におけるこの種の水回り製品に使用する建築用樹脂成形体として,広く不飽和ポリエステル樹脂が使用されているが,該不飽和ポリエステル樹脂には防汚性がないため頻繁に清掃を施す必要があり,このため不飽和ポリエステル樹脂を用いた製品の防汚性を確保することが求められている。
【0003】
不飽和ポリエステル樹脂体に親水性を付与するため,例えば不飽和ポリエステル樹脂溶液にピロリドン骨格を有する,2−ピロリドン,N−メチル−2―ピロリドン,N−ビニル−2−ピロリドン等を混合して加熱圧縮成形することによって接触角を60〜70度程度とした建築用不飽和ポリエステル樹脂成形体が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−115793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この場合,例えば不飽和ポリエステル樹脂の成形体としてその光沢をそれ程損うことなく,比較的良好な水切性を確保したものとし得るとされるが,その接触角は60〜70度程度とされることによって表面の親水性が低く,従ってこれを建築用の上記浴槽等の水回り製品としてその防汚性を充分に確保できないという問題点を残している。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので,その解決課題とするところは,不飽和ポリエステル樹脂に可及的高度な親水性を付与することによって防汚性に優れて水回り製品として好適に使用し得るようにした防汚性建築用不飽和ポリエステル樹脂成形体を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に添って検討したところ,本発明者らは,一般に不飽和ポリエステル樹脂は,ジカルボン酸とグリコールの重合によって形成するものとされるが,これらジカルボン酸,グリコールに更にアクリル酸やメタクリル酸等のカルボキシル基を有する重合性単量体及びスチレンを加えた溶液を硬化剤により硬化することによって形成した不飽和ポリエステル樹脂の成形体とするとともにこの不飽和ポリエステル樹脂の成形体にポリエチレングリコール又はそのアルキルエステルをグラフト重合することによって,接触角を低く抑制し,この種の水回り製品として好ましい親水性を呈して防汚性に優れることによって清掃の頻度を大幅に減少し得る防汚性不飽和ポリエステル樹脂成形体を得ることができる事実を見出した。本発明はかかる知見に基づいてなされたものであって,即ち請求項1に記載の発明を,ジカルボン酸,グリコール,アクリル酸やメタクリル酸等のカルボキシル基を有する重合性単量体及びスチレンの溶液を硬化剤によって硬化した不飽和ポリエステル樹脂成形体にポリエチレングリコール又はそのアルキルエステルをグラフト重合して表面の親水化を施してなることを特徴とする防汚性建築用不飽和ポリエステル樹脂成形体としたものである。
【0008】
請求項2に記載の発明は,上記に加えて,特に接触角を50度以下とすることによって優れた防汚性を発揮し,特に水回り製品として好ましい形態のものとするように,これを,上記表面の親水化を,接触角を50度以下の親水性によって行なってなることを特徴とする請求項1に記載の防汚性建築用不飽和ポリエステル樹脂成形体としたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は以上のとおりに構成したから,ジカルボン酸,グリコールに更にアクリル酸やメタクリル酸等のカルボキシル基を有する重合性単量体及びスチレンを加えた溶液を硬化剤により硬化することによって形成した不飽和ポリエステル樹脂の成形体とするとともにこの不飽和ポリエステル樹脂の成形体にポリエチレングリコール又はそのアルキルエステルをグラフト重合することによって,接触角を低く抑制し,この種の水回り製品として好ましい親水性を呈して防汚性に優れることによって清掃の頻度を大幅に減少し得る防汚性建築用不飽和ポリエステル樹脂成形体を提供することができる。
【0010】
また請求項2に記載の発明は,上記に加えて,特に接触角を50度以下とすることによって優れた防汚性を発揮し,特に水回り製品として好ましい防汚性建築用不飽和ポリエステル樹脂成形体とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を更に具体的に説明すれば,防汚性不飽和ポリエステル樹脂成形体は,ジカルボン酸,グリコール,アクリル酸やメタクリル酸等のカルボキシル基を有する重合性単量体及びスチレンの溶液を硬化剤によって硬化した不飽和ポリエステル樹脂成形体にポリエチレングリコール又はそのアルキルエステルをグラフト重合して表面の親水化を施したものとしてある。
【0012】
これをその製造方法によって説明すれば,不飽和ポリエステル樹脂成形体は,上記ジカルボン酸及びグリコールを常法に従って重合し,これをカルボキシル基を有する重合性単量体及びスチレンに溶解して硬化剤を用いて重合して硬化することによって得るものとしてある。
【0013】
このときジカルボン酸は,一般に不飽和ポリエステルに使用されるテレフタル酸,イソフタル酸,無水フタル酸,テトラヒドロ無水フタル酸等の飽和ジカルボン酸や,無水マレイン酸,フマル酸,イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸を使用することができる。
【0014】
グリコールは,同じく一般に不飽和ポリエステル樹脂成形体に使用されるプロピレングリコール,ネオペンチルグリコール,エチレングリコール,ブタンジオール,ヘキサンジオール,ビスフェノールA,水素化フィスフェノールA等を使用することができる。
【0015】
これらジカルボン酸,グリコールは,これを重合することによって酸価3〜50mgKOH/g,好ましくは5〜20mgKOH/gの不飽和ポリエステル樹脂の溶液とする。
【0016】
この不飽和ポリエステル溶液を溶解するカルボキシル基を有する重合性単量体は,アクリル酸,メタクリル酸,マレイン酸,無水マレイン酸,フマル酸等を用いることができる。この重合性単量体とスチレンとは50:30〜5:95,好ましくは60:40〜10:90の重量比で混合したものを用いて,これに上記不飽和ポリエステルを溶解するが,このとき該不飽和ポリエステル樹脂の溶解濃度は,これを40〜80wt%,好ましくは50〜70wt%とする。
【0017】
これら溶液を重合して硬化する硬化剤,即ち重合開始剤は,メチルエチルケトンパーオキサイド,シクロヘキサンパーオキサイド,アセチルアセトンパーオキサイド,t−部チルパーオキサイド,クメンハイドロパーオキサイド倒の過酸化物を使用することができる。この硬化剤は,不飽和ポリエステル樹脂の溶液に対して0.5〜3wt%,好ましくは1〜2wt%の量を添加して混合するが,必要に応じてコバルト等のレドックス還元剤を添加使用することができる。
【0018】
硬化剤を添加した後に,その種類に応じて50〜200℃の加熱下で重合硬化して用途に応じた形状に成形することによって上記不飽和ポリエステル樹脂成形板を形成すればよい。
【0019】
不飽和ポリエステル樹脂成形体は上記組成のものでもよいが,用途に応じて,その重合硬化前に炭酸カルシウム,水酸化アルミニウム等の充填剤を加えて,ガラス繊維に圧着含浸するシート状のSMCとして成形し,またガラス繊維,炭素繊維,有機繊維等の繊維を加えて塊状のBMCとして成形してもよい。
【0020】
このように形成した不飽和ポリエステル樹脂成形体に,ポリエチレングリコール又はそのアルキルエステルをグラフト重合することによって上記表面の親水化を施すものとしてある。
【0021】
ポリエチレングリコールは,両末端が水酸基のものを通常使用するが,片末端がアルキル基で封鎖したアルキルエステルや,アクリレート等の誘導体をなすものを使用してもよく,またプロピレンオキサイドを共重合して,末端又は鎖の一部をプロピレングリコールの共重合体としたものを使用することもできる。これらポリエチレングリコール乃至その誘導体の分子量は200〜4000,好ましくは400〜3000とするのがよい。
【0022】
不飽和ポリエステル樹脂成形板は,ポリエチレングリコール又はそのアルキルエステルをそのままでも,溶剤で希釈した状態でグラフト重合することができる。
【0023】
不飽和ポリエステル樹脂成形板に対するグラフト重合は,例えば不飽和ポリエステル樹脂成形板にポリエチレングリコール又はそのアルキルエステルを塗布し又は不飽和ポリエステル樹脂成形板を該ポリエチレングリコール又はアルキルエステル中に浸漬した後に,常温〜250℃,好ましくは50〜200℃で,10分〜20時間反応させるようにすればよく,このとき該グラフト重合は,温度と時間を変化した複数回の反応を行なうことができる。
【0024】
グラフト重合に際しては,その使用するポリエチレングリコールの種類の応じて,通常の酸,アルカリ等のエステル化触媒,またアンチモン化合物,チタン化合物等のエステル重合触媒,メチルエチルケトンパーオキサイド,シクロヘキサンパーオキサイド,過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウム等の過酸化物を使用してその反応を促進することができる。
【0025】
このように形成した不飽和ポリエステル樹脂成形体は,例えば接触角を30〜40度台の50度以下として,接触角を可及的に低く抑制し,各種の水回り製品として好ましい親水性を呈して防汚性に優れたものとし,その清掃の頻度を大幅に減少し得る建築用に好適なものとして,浴槽,ユニットバスの床面や壁面,洗面ボール,システムキッチン天板等の用途に広く使用することができる。
【実施例1】
【0026】
ジカルボン酸としてテレフタル酸(21.3部),グリコールとしてネオペンチルグリコール(33.6部)及びプロピレングリコール(10.5部)を窒素気流下で205℃で脱水反応後,カルボキシル基を有する重合性単量体としてフマル酸(34.7部)を添加し,215℃で脱水反応して不飽和ポリエステル樹脂の溶液を得るとともに,これにスチレン(33.4部)及びアクリル酸(33.4部)を加えて希釈して,濃度60%の不飽和ポリエステル樹脂溶液を得た。この不飽和ポリエステル樹脂溶液(100部)に,硬化剤としてジベンゾイルパーオキサイド(1部)を加えて,ガラス板に挟んで60℃で16時間,80℃で2時間,100℃で2時間,120℃で2時間の重合硬化の反応を行って,厚さ5mmの不飽和ポリエステル樹脂成形板を得た。
【0027】
この不飽和ポリエステル樹脂成形板を50mm×50mmの大きさに切断して試験片とし,これを分子量2000のポリエチレングリコール(300g)中に浸漬した後,窒素気流下200℃で20時間のグラフト重合の反応を行ない,これを水洗して未反応のポリエチレングリコールを除去し,その親水化処理を行なった。
【0028】
この試験片の接触角を,協和界面科学(株)製の自動接触角計で液滴法によって測定したところ,その接触角は28度であり,接触角が低く抑制され,防汚性に優れたものであることが確認された。
【0029】
更に水回り製品としての使用に際しての耐久性を,製品として想定外の95℃の熱水中に試験片を100時間浸漬した後に,該浸漬後の接触角を同様に測定したところ,その接触角は48度であり,高度な耐久性が確認された。
【実施例2】
【0030】
上記親水化処理のポリエチレングリコールを用いたグラフト重合を,200℃で8時間,150℃で1時間とする以外,実施例1と同様として試験片とした。
【0031】
同様に接触角を測定したところ42度であり,50度以下の好ましい親水化処理がなされたことが確認された。また同様に95℃の熱水中に100時間浸漬した後の接触角は50度であり,同様に優れた耐久性が確認された。
【実施例3】
【0032】
アクリル酸をメタクリル酸に変更し,またポリエチレングリコールを用いたグラフト重合を8時間とする以外,実施例1と同様として試験片とした。
【0033】
同様に接触角を測定したところ42度であり,50度以下の好ましい親水化処理がなされたことが確認された。また同様に95℃の熱水中に100時間浸漬した後の接触角は45度であり,同様に優れた耐久性が確認された。
【比較例1】
【0034】
スチレン(33.4部)とアクリル酸(33.4部)をスチレン(66.8部)として,アクリル酸を使用することなく不飽和ポリエステル樹脂成形板を得た以外,実施例1と同様として試験片とした。
【0035】
同様に接触角を測定したところ56度であり,水回り製品として好ましい親水性の接触角50度を超えるものであった。
【比較例2】
【0036】
上記ポリエチレングリコールによる親水化処理を行なう以外,実施例1と同様として不飽和ポリエステル樹脂成形板を試験片とした。
【0037】
同様に接触角を測定したところ80度であり,親水性とこれによる防汚性を期待し得ないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸,グリコール,アクリル酸やメタクリル酸等のカルボキシル基を有する重合性単量体及びスチレンの溶液を硬化剤によって硬化した不飽和ポリエステル樹脂成形体にポリエチレングリコール又はそのアルキルエステルをグラフト重合して表面の親水化を施してなることを特徴とする防汚性建築用不飽和ポリエステル樹脂成形体。
【請求項2】
上記表面の親水化を,接触角を50度以下の親水性によって行なってなることを特徴とする請求項1に記載の防汚性建築用不飽和ポリエステル樹脂成形体。

【公開番号】特開2006−298985(P2006−298985A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119167(P2005−119167)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(302045705)トステム株式会社 (949)
【Fターム(参考)】