説明

防錆性グリース組成物及び転動装置

【課題】優れた防錆性を有するとともに環境に悪影響を及ぼすおそれがないグリース組成物を提供する。また、錆が生じにくい転動装置を提供する。
【解決手段】内輪3,外輪2,転動体4を備える深溝玉軸受1の空隙部内に、基油と増ちょう剤と導電性ポリマーとを含有する防錆性グリース組成物7を封入した。防錆性グリース組成物7には、導電性ポリマーに対して電子供与体又は電子受容体として作用するドーパントがさらに添加されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆性に優れたグリース組成物及び転動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
道路上の水、塩水、海水の付着,侵入が走行中に生じやすい自動車用電装補機に用いられる転がり軸受や、常に冷却水の侵入に曝される圧延ローラ等の製鉄用機器に用いられる転がり軸受については、発錆を抑えることが重要である。特に、海岸での走行や、路面凍結防止のために塩化カルシウム等が散布された道路の走行など、自動車の使用条件の多様化に伴い、転がり軸受に使用されるグリース組成物に対する防錆性の要求が強くなってきている。
【0003】
また、製鉄産業の連続鋳造設備においては、モールディングパウダーの変遷に伴って、冷却水中にその成分の一部が溶解し転がり軸受の発錆を促進させているので、転がり軸受に使用されるグリース組成物に対する防錆性向上の要求が強まってきている。
転がり軸受の発錆を抑えるために、シールを設けたりその他の機構上の対策を施して、錆の原因となる物質の内部への侵入を直接防ぐ対策が行われている。例えば、自動車においては、泥水等が直接かからない位置にオルタネータ等の自動車用電装補機を配置する、泥よけを取り付ける等の対策がなされている。しかし、転がり軸受は、その機構上の理由から完全な密封が不可能であるため、封入されるグリース組成物に優れた防錆性が求められている。
【0004】
従来、防錆性グリース組成物としては、油溶性インヒビター,水溶性無機不働態化剤,非イオン界面活性剤が配合されたグリース組成物(特許文献1を参照)や、バリウムスルホネートが添加された軸受封入用グリース組成物(特許文献2を参照)が知られている。また、多価アルコール系エステルを添加剤とし合成炭化水素油を基油とするグリース組成物(特許文献3を参照)が知られている。
【特許文献1】特開平3−200898号公報
【特許文献2】特開平5−140576号公報
【特許文献3】特開2004−51912号公報
【非特許文献1】「高分子新素材 One Point−5 導電性ポリマー」,吉村進,高分子学会編,p.17〜18
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水溶性無機不働態化剤として知られる亜硝酸ソーダは、第二級アミンと酸性条件下で反応してニトロソアミンを生成することが知られているが、このニトロソアミンは環境負荷物質であることから、亜硝酸ソーダを含有するグリース組成物は環境に悪影響を及ぼすおそれがある。また、特許文献2,3に記載のグリース組成物は、前述のような高い防錆性が求められる用途の場合は、防錆性が不十分であるおそれがある。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、優れた防錆性を有するとともに環境に悪影響を及ぼすおそれがないグリース組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、錆が生じにくい転動装置を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の防錆性グリース組成物は、基油と増ちょう剤と防錆剤とを含有する防錆性グリース組成物において、前記防錆剤を導電性ポリマーとしたことを特徴とする。
このような構成の防錆性グリース組成物は導電性ポリマーを含有しているので、優れた防錆性を有している。すなわち、活性の高い金属表面が導電性ポリマーによって不働態化されるので、発錆が抑制される。また、ニトロソアミンのような環境負荷物質が生成することがないので、環境に悪影響を及ぼすおそれがない。
【0007】
また、本発明に係る請求項2の防錆性グリース組成物は、請求項1に記載の防錆性グリース組成物において、前記導電性ポリマーに対して電子供与体又は電子受容体として作用するドーパントを含有することを特徴とする。
ドーパントによりドーピングがなされると、導電性ポリマーの導電性が向上するため、防錆性が向上する。
【0008】
さらに、本発明に係る請求項3の転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転動装置において、前記内方部材と前記外方部材との間に形成され前記転動体が配された空隙部内に、請求項1又は請求項2に記載の防錆性グリース組成物を配したことを特徴とする。このような構成の転動装置は防錆性に優れている。
【0009】
なお、本発明は、種々の転動装置に適用することができる。例えば、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。本発明における内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の防錆性グリース組成物は、優れた防錆性を有するとともに環境に悪影響を及ぼすおそれがない。また、本発明の転動装置は、錆が生じにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る防錆性グリース組成物及び転動装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る転動装置の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。この深溝玉軸受1は、外周面に軌道面3aを有する内輪3と、軌道面3aに対向する軌道面2aを内周面に有する外輪2と、両軌道面2a,3a間に転動自在に配された複数の転動体(玉)4と、内輪3及び外輪2の間に複数の転動体4を保持する保持器5と、内輪3及び外輪2の間の隙間の開口をほぼ覆うシール6,6と、を備えている。また、内輪3及び外輪2の間に形成され転動体4が配された空隙部内には、防錆性グリース組成物7が充填されており、シール6,6により深溝玉軸受1の内部に密封されている。なお、保持器5やシール6は備えていなくてもよい。
【0012】
この防錆性グリース組成物7は、基油と増ちょう剤とを含有するとともに、防錆剤として導電性ポリマーを含有している。この導電性ポリマーの作用によって、摩擦等により生じた活性の高い金属表面が不働態化されるので、深溝玉軸受1の発錆が抑制される。防錆性グリース組成物7に、導電性ポリマーに対して電子供与体又は電子受容体として作用するドーパントがさらに添加されていれば、上記の導電性ポリマーの作用がより高まるため、防錆性グリース組成物7の防錆性がより向上する。さらに、このような防錆性グリース組成物7からはニトロソアミンのような環境負荷物質が生成することがないので、防錆性グリース組成物7は環境に悪影響を及ぼすおそれがない。なお、導電性ポリマーは基油に溶解していてもよいし、溶解せず固体として防錆性グリース組成物7中に存在(すなわち分散)していてもよい。
【0013】
ここで、上記の導電性ポリマーの作用について、さらに詳細に説明する。導電性ポリマーは、その導電性を利用して、電磁波シールド材,電池用電極,静電防止剤等としての使用が期待されているが、本発明においては、その導電性により発現する防錆性を利用して、グリース組成物の添加剤(防錆剤)として使用している。
導電性ポリマーの導電性は、導電性ポリマーを酸化又は還元することにより変化することが知られており、特に、電気的酸化反応,電気的還元反応,酸又は塩基との反応(ドーピング)により変化する。そして、導電性ポリマーが電子供与体又は電子受容体としての性能を有する場合は、これらの反応によって導電性が大きく変化しやすい。
例えば、ポリアニリンは、酸化反応,還元反応,酸との反応,塩基との反応により、化1に示すように構造が変化することが知られている(非特許文献1を参照)。
【0014】
【化1】

【0015】
ポリアニリンを酸化した場合には、導電性は金属と同等となり色は緑色となり、還元したる場合には、導電性は絶縁体と同等となり色は青色から無色透明となる。また、酸と反応させ酸性化した場合には、導電性は向上し色は緑色となり、塩基と反応させ塩基性化した場合には、導電性は低下し色は青色となる。酸化され且つ酸性化されたポリアニリンは、酸をドーパントとして保持しており、この酸が金属表面に作用して薄い酸化膜(不働態)を生成するので、さらなる酸化の進行が防止される。
【0016】
導電性ポリマーの種類は特に限定されるものではなく、公知の導電性ポリマーが使用可能である。例えば、ポリアニリン,ポリピロール,ポリチオフェン,ポリチオフェンビニレン,ポリイソチアナフテン,ポリアセチレン,ポリアルキルピロール,ポリアルキルチオフェン,ポリp−フェニレン,ポリフェニレンビニレン,ポリメトキシフェニレン,ポリフェニレンスルフィド,ポリフェニレンオキシド,ポリナフタレン,ポリアントラセン,ポリピレン,ポリアズレン,及びこれらの誘導体があげられる。これらの導電性ポリマーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
また、ドーパントの種類は特に限定されるものではなく、導電性ポリマーの導電性を向上させるものであれば公知のドーパントが使用可能である。例えば、アルカリ金属(例えばLi,Na,K),アルカリ土類金属(例えばCa)等のドナー型ドーパントや、塩素,臭素,ヨウ素等のハロゲンや、PF3 ,AsF5 ,BF3 等のルイス酸があげられる。また、HF,HCl、HNO3 ,H2 SO4 ,HClO4 等のプロトン酸や、FeCl3 ,FeOCl2 ,TiCl4 ,WCl3 等の遷移金属化合物や、Cl- ,Br- ,I- ,ClO4 - ,PF3 - ,BF3 - ,AsF3 - 等の電解質アニオンのアクセプター型ドーパントがあげられる。
【0018】
さらに、防錆性グリース組成物7の基油の種類は特に限定されるものではなく、グリース組成物において一般的に使用される基油を問題なく使用することができる。例えば、鉱油,合成炭化水素油(例えばポリα−オレフィン油),エステル油,エーテル油,ポリグリコール油,シリコーン油,フッ素油があげられる。これらの基油は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0019】
さらに、防錆性グリース組成物7の増ちょう剤の種類は特に限定されるものではなく、グリース組成物において一般的に使用される増ちょう剤を問題なく使用することができる。例えば、アルミニウム石けん,バリウム石けん,カルシウム石けん,リチウム石けん,ナトリウム石けん等の金属石けんや、リチウムコンプレックス石けん,カルシウムコンプレックス石けん,アルミニウムコンプレックス石けん等の金属複合石けんがあげられる。また、ジウレア,トリウレア,テトラウレア,ポリウレア等のウレア化合物や、シリカゲル,ベントナイト等の無機系化合物も好適に使用可能である。さらに、ウレタン化合物、ウレア・ウレタン化合物、テレフタルアミド酸ナトリウム等も好適に使用可能である。これらの増ちょう剤は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
防錆性グリース組成物7における基油と増ちょう剤の配合割合は、その用途や使用温度に適したちょう度となるように、適宜設定すればよい。
さらに、防錆性グリース組成物7には、本発明の目的を損なわない範囲であれば、グリース組成物において一般的に使用される添加剤(例えば酸化防止剤,油性剤,摩耗防止剤,極圧剤)を問題なく添加することができる。
【0021】
酸化防止剤としては、例えばアミン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤を使用することができる。アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、ジフェニル−p−フェニレンジアミン、ジピリジルアミン、フェノチアジン、N−メチルフェノチアジン、N−エチルフェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンがあげられる。また、フェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−tert−ジブチルフェノール、ジ−tert−ブチルクレゾール等があげられる。
【0022】
また、油性剤としては、例えば、オレイン酸,ステアリン酸等の脂肪酸や、ポリオキシエチレンステアリン酸エステル,ポリグリセリルオレイン酸エステル,コハク酸エステル等の脂肪酸エステルを使用することができる。また、アミン系化合物や、オレイルアルコール等の脂肪族アルコールも使用可能である。さらに、アルケニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物や、リン酸,トリクレジルホスフェート,ラウリン酸エステル,ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸等のリン酸エステル等も使用可能である。
【0023】
さらに、摩耗防止剤としては、例えば有機リン系化合物を使用することができる。有機リン系化合物としては、例えば、一般式(RO)3 POで示される正リン酸エステルや、一般式(RO)2 P(O)Hで示される亜リン酸ジエステル及び一般式(RO)3 Pで示される亜リン酸トリエステルのような亜リン酸エステルがあげられる(Rはいずれもアルキル基,アリール基,又はアルキルアリール基である)。
さらに、極圧剤としては、ジチオリン酸亜鉛(Zn−DTP),ジチオリン酸モリブデン(Mo−DTP)等のDTP金属化合物や、ニッケルジチオカーバメイト(Ni−DTC),モリブデンジチオカーバメイト(Mo−DTC)等のDTC金属化合物があげられる。また、イオウ,リン,塩素等を含む有機金属化合物も好適である。
【0024】
さらに、所望により、金属不活性化剤や一般的な防錆剤を添加してもよい。一般的な防錆剤としては、有機スルホン酸アンモニウム塩,有機スルホン酸金属塩(金属はアルカリ金属,アルカリ土類金属(カルシウム,マグネシウム,バリウム等),亜鉛等),カルボン酸塩等があげられる。また、アルキルコハク酸エステル,アルケニルコハク酸エステル等のようなコハク酸誘導体も、防錆剤として好ましく使用できる。さらに、ソルビタンモノオレエート等の多価アルコールの部分エステル、オレオイルザルコシン等のヒドロキシ脂肪酸類、1−メルカプトステアリン酸等のメルカプト脂肪酸類及びその金属塩、ステアリン酸等の高級脂肪酸類、イソステアリルアルコール等の高級アルコール類、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル、チアジアゾール類(例えば2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプトチアジアゾール)、イミダゾール類(例えばベンゾイミダゾール)、ジスルフィド化合物(例えば2−デシルジチオベンゾイミダゾール、2,5−ビス(ドデシルジチオ)ベンズイミダゾール)、リン酸エステル類(例えばトリスノニルフェニルフォスファイト)、チオカルボン酸エステル化合物(例えばジラウリルチオプロピオネート)、亜硝酸塩も使用可能である。
【0025】
さらに、金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール,トリルトリアゾール等のトリアゾール化合物があげられる。
このような防錆性グリース組成物7の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば下記のような方法で製造できる。基油に増ちょう剤を加え加熱しながら攪拌すると、半固体状の生成物が得られる。この生成物を徐冷した後に防錆剤として導電性ポリマーを加え、ロールミル等により均一に混合する。加熱温度,攪拌時間,混合時間等の条件は、使用する基油,増ちょう剤,導電性ポリマーの種類により適宜設定される。
【0026】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては転動装置の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。さらに、本発明は、転がり軸受に限らず、他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。
【0027】
〔実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。パーフルオロポリエーテル(PFPE)を基油、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を増ちょう剤とする8種のグリース組成物を用意して(表1を参照)、その防錆性を評価した。
【0028】
【表1】

【0029】
まず、グリース組成物の構成について説明する。実施例1,2のグリース組成物は、表1に示すように、防錆剤として導電性ポリマーを含有するものである。また、比較例1のグリース組成物は、防錆剤を含有していないものであり、比較例2〜6のグリース組成物は、それぞれ防錆剤として以下の化合物を含有するものである。すなわち、比較例2〜4は基油に可溶な油溶性腐食防止剤であり、具体的には、比較例2はカルボキシル基を有するフッ素化合物誘導体(表1においてはフッ素化合物誘導体Aと記してある)、比較例3はヒドロキシル基を有するフッ素化合物誘導体(同じくフッ素化合物誘導体Bと記してある)、比較例4はエステル基を有するフッ素化合物誘導体(同じくフッ素化合物誘導体Cと記してある)である。また、比較例5は酸化マグネシウム、比較例6は亜硝酸ソーダである。なお、防錆剤の含有量は、比較例1を除いていずれもグリース組成物全体の3質量%である。
【0030】
これらのグリース組成物は、以下のようにして製造した。まず、PFPE(40℃における動粘度は270mm2 /sである)にPTFEサスペンジョンを加え、加熱しながら攪拌して、半固体状の生成物を得た。この生成物を徐冷した後に防錆剤を加え(比較例1のグリース組成物は防錆剤なし)、ロールミルにより均一に混合してグリース組成物を得た。グリース組成物の混和ちょう度(25℃)は、増ちょう剤の量によって、いずれもNLGIちょう度番号のNo.2に調整した。
【0031】
これらのグリース組成物について防錆性試験を行った。以下にその方法を説明する。ゴムシールを備えた呼び番号6303の密封深溝玉軸受に、グリース組成物を2.4g封入し、回転速度1800rpmで30秒間回転させた。その後、軸受内部に濃度0.1質量%の塩水を0.1ml注入し、再び回転速度1800rpmで30秒間回転させた。次いで、温度80℃,湿度100%RHに調整された恒温恒湿槽にこの深溝玉軸受を48時間静置した後に分解して、内輪,外輪の軌道面に発生している錆の状況を目視により観察した。そして、錆の状況により、以下のようなランクに評価した。なお、#1〜#4を防錆性良好とし、#5〜#7を防錆性不良とした。
【0032】
#1:錆の発生なし
#2:シミ状の微小な錆あり
#3:直径0.3mm以下の点状の錆あり
#4:直径1.0mm以下の錆あり
#5:直径5.0mm以下の錆あり
#6:直径10.0mm以下の錆あり
#7:軌道面のほぼ全面に錆が発生
結果を表1示す。実施例1,2のグリース組成物は、比較例1〜6のグリース組成物よりも防錆性が優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る転動装置の一実施形態である深溝玉軸受の構造を説明する部分縦断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 深溝玉軸受
2 外輪
2a 軌道面
3 内輪
3a 軌道面
4 転動体
7 防錆性グリース組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と増ちょう剤と防錆剤とを含有する防錆性グリース組成物において、前記防錆剤を導電性ポリマーとしたことを特徴とする防錆性グリース組成物。
【請求項2】
前記導電性ポリマーに対して電子供与体又は電子受容体として作用するドーパントを含有することを特徴とする請求項1に記載の防錆性グリース組成物。
【請求項3】
外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転動装置において、前記内方部材と前記外方部材との間に形成され前記転動体が配された空隙部内に、請求項1又は請求項2に記載の防錆性グリース組成物を配したことを特徴とする転動装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−138138(P2008−138138A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328408(P2006−328408)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】