説明

除振装置

【課題】除振装置において、外来振動などを絶縁するための除振性能を極力低下させることなく、振動の減衰性能を向上させる。
【解決手段】本発明の除振装置1は、精密機器のXYステージ9などが搭載される架台12と、架台12を底部側から弾性的に支持する架台支持ユニット41と、架台支持ユニット41に支持された架台12の変位にほぼ連動して変位し粘弾性体30を押圧する押圧部材23を備えた連動機構36、及び押圧部材23の変位量を増幅して粘弾性体30への押圧力を増大させる押圧力増大機構35を有するダンパユニット21とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密機器などに対して除振を行うための除振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体ウェハの検査装置や液晶基板の検査装置の設置には、検査装置本体に対して床側から伝わり得る外来振動を絶縁するために除振装置が利用されている。この種の除振装置は、除振の対象物が搭載される架台(定盤)を、例えば、高さ調整可能な複数の空気ばねで弾性的に支持する構造などを採用している(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ところで、このような除振装置を併用する上記検査装置としては、半導体ウェハの表面や液晶基板の表面の所定位置に対し、検査用のカメラを適宜移動させるためのXYステージなどを備えたものも多数利用されている。
【特許文献1】特開平5−296288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、XYステージを備えた検査装置を上記特許文献の除振装置を用いて除振する場合、架台が空気ばねで弾性的に支持されていることで、XYステージの移動時に架台上に生じる振動を減衰させることが難しくなり(空気ばね固有振動数の低周波の揺れが生じ)、この点を改善したいところである。
【0005】
そこで、架台と床側との間に緩衝材を両側から挟み込むかたちで介在させることで、振動の減衰性能(制振性能)を高めることが考えられる。さらにここで、架台と床側と間に上記した緩衝材を、より強固に締め付ける状態で挟持させることで、緩衝材とこれを挟持する部材との密着性が向上し、緩衝材自体が有する振動の吸収性能を効果的に発揮させることができる。
【0006】
しかしながら、上記構成を採用した場合、架台を支持する支持機構全体の剛性が高まり、この支持機構を含む架台の固有振動数(共振周波数)が高域側にシフトすることになる。このため、外来振動の絶縁に必要な比較的高い帯域における振動の抑制効果が低減し、良好な除振性能を得ることが難しくなる。つまり、緩衝材を単に追加するだけでは、振動の減衰性能は向上するものの、その一方で除振性能が低下してしまうことになる。
【0007】
そこで本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、外来振動などを絶縁するための除振性能を極力低下させることなく、振動の減衰性能を向上させることができる除振装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る除振装置は、除振対象物が搭載される架台と、前記架台を底部側から弾性的に支持する架台支持ユニットと、緩衝材と、前記架台支持ユニットに支持された前記架台の変位にほぼ連動して変位し前記緩衝材を押圧する押圧部材を備えた連動機構と、前記押圧部材の変位量を増幅して前記緩衝材への押圧力を増大させる押圧力増大機構と、を有するダンパユニットと、を具備することを特徴とする。
【0009】
すなわち、本発明では、架台支持ユニットに支持された架台が、振動で変位する動作に対応して押圧部材が変位し、この押圧部材の変位により緩衝材を押圧でき、しかもその押圧力を増大させることが可能なので、緩衝材とこれを押圧する押圧部材との密着性が高まり、緩衝材自体が持つ振動の減衰性能を効果的に得ることができる。さらに、本発明では、実質的に架台が変位して初めて押圧部材が動き出すことにより緩衝材の押圧が開始されるので、架台の支持部分の剛性が向上してしまうことが抑制され、これにより、除振性能の低下を極力抑えつつ、振動の減衰性能を高めることができる。
【0010】
ここで、本発明においては、例えば、架台の水平方向の変位を取り出して押圧部材を変位させる連動機構を構成することなどが例示され、また、連動機構が備える押圧部材の変位量をてこを用いて増幅させる押圧力増大機構をダンパユニットの構成要素として適用することが可能である。
【0011】
てこの原理を利用したダンパユニットの構成例としては、押圧部材を起立させた姿勢で揺動可能に支持する揺動支持部と、架台に設けられかつ揺動支持部に支持された押圧部材上の被支持部分から第1の長さだけ上部側へ離れた力点部分を、隙間を空けた状態で当該押圧部材の揺動可能な方向から挟むように配置された発動部と、を前記した連動機構に設け、さらに、揺動支持部に支持された押圧部材上の前記被支持部分から前記第1の長さよりも長い第2の長さだけ底部側へ離れた作用点部分を、当該押圧部材の揺動可能な両方向から緩衝材越しに挟持するストッパ部を、前述した押圧力増大機構に設ける構成などが例示される。また、架台を弾性的に支持する上記架台支持ユニットの構成部品には、比較的固有振動数の低い空気ばねなどを適用することが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
したがって、本発明によれば、外来振動などを絶縁するための除振性能を極力低下させることなく、振動の減衰性能を向上させることが可能な除振装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る除振装置1の平面図、図2は、この除振装置1の正面図である。また、図3は、この除振装置1が備える架台支持ユニット41を一部断面で示す図であり、図4は、図3の架台支持ユニット41の構造を概略的に示す図である。
【0014】
図1、図2に示すように、本実施形態の除振装置1は、XYステージ9を備える半導体ウェハの検査装置や液晶基板の検査装置などに対して除振を行うためのパッシブタイプ(受動型)の除振装置である。すなわち、除振装置1は、除振対象物として上記検査装置のXYステージ9が搭載される矩形状の架台12と、この架台12を底部側から弾性的に支持する架台支持ユニット41と、ダンパユニット21とを備える。
【0015】
ここで、XYステージ9は、例えば検査用のカメラをワーク上の所定位置に移動させるための、いわゆるガントリ型の移動ステージである。図1、図2に示すように、このXYステージ9は、例えば上記の検査用のカメラなどを保持した状態で、Y1−Y2方向に移動可能なY軸移動体9bと、上記カメラなどを保持するY軸移動体9bと一体になってX1−X2方向に移動可能な断面コの字状のX軸移動体(ガントリ本体部)9aと、から構成される。
【0016】
図1、図2に示すように、架台支持ユニット41は、矩形状の架台12の各コーナ部の近傍位置5、6、7、8の四箇所に設けられており、この近傍位置5、6、7、8の底部と床面(又は設置基礎)11との間に介在される状態で配置されている。四つの架台支持ユニット41は、図3、図4に示すように、それぞれ空気ばね45を内蔵しており、これらの空気ばね45は、例えばフィルタレギュレータなどを介してコンプレッサなどの空気源に接続されている。空気源からフィルタレギュレータなどを介して放出される圧縮空気は、給気孔42を通じて空気ばね45内に給気される。
【0017】
また、架台支持ユニット41には、架台12の高さ方向Z1−Z2への上下動と共に昇降移動する被検出部44と、被検出部44と圧接した場合に埋没しかつ被検出部44と非接触状態で突出する高さ検出部43と、を有する自動圧力調整機構が設けられている。つまり、この自動圧力調整機構では、高さ検出部43が被検出部44と圧接して埋没した場合には、当該高さ検出部43の直上の架台12の位置をZ1方向に上昇させるように、各給気孔42から個別に空気ばね45内に給気が行われる。
【0018】
また、この自動圧力調整機構は、高さ検出部43が被検出部44と非接触(離間した)状態の場合、当該高さ検出部43の直上の架台12の位置をZ2方向に下降させるように、二個所に設けられた排気孔(図示せず)各々から個別に空気ばね45内の排気が行われる。つまり、このような自動圧力調整器により、架台12のレベル(高さ方向の位置及び傾き)は、各架台支持ユニット41の空気ばね45を通じて自動的に設定される。これにより、架台支持ユニット41は、架台12の主に高さ方向Z1−Z2に生じる振動を除振する。なお、本実施形態の除振装置1において、架台12のコーナ部の図1に示す近傍位置6に設置された架台支持ユニット(41)には、上述した高さ検出部43や被検出部44が設けられておらず、当該近傍位置6に設置される架台支持ユニットのレベル調整(空気ばね内の給排気)は、近傍位置7に設置された架台支持ユニット41の高さ検出部43及び被検出部44による検出結果に基づいて(検出結果を併用して)自動制御される。また、これに代えて、高さ検出部43や被検出部44などで実現される架台底部の高さ検出機構を図1に示す上記近傍位置6と近傍位置7との間に設置し、設置したこの高さ検出機構による検出結果に基づいて、上記近傍位置6及び近傍位置7に設置される架台支持ユニットのレベル調整(空気ばね内の給排気)を、自動制御するようにしてもよい。
【0019】
また、図4に示すように、架台支持ユニット41は、空気ばね45を三本のワイヤ46で吊持(吊り下げた状態で支持)する吊り下げ式の弾性支持機構である。すなわち、架台支持ユニット41は、床面11の直上に置かれる基台部37及び側壁部47を備えたフレーム48と、このフレーム48に対して各(三本の)ワイヤ46の上端部側を留金37などを介して保持する保持部49と、空気ばね45を搭載する共に各ワイヤ46の下端部側が留金38などを介して接合された空気ばね支持台39とを備える。このような空気ばね吊り下げ式の架台支持ユニット41は、振動発生時に空気ばね45を矢印S1−S2方向に変位(スイング)させることにより低固有振動数を実現し、架台12の水平方向の振動をも除振する機能を持つ。
【0020】
次に、ダンパユニット21の構造を上述した図1、図2に加え、図5〜図8に基づき説明する。ここで、図5は、ダンパユニット21の平面図であり、図6は、ダンパユニット21の右側面図である。また、図7は、ダンパユニット21の正面図であり、図8は、ダンパユニット21の構造を模式的に示す図である。
【0021】
図1、図2に示すように、ダンパユニット21は、矩形状の架台12の四つのコーナ部のうちの、一方の対角線上の二つのコーナ部の近傍位置5、7の二箇所に設けられており、この近傍位置5、7の底部と床面(又は設置基礎)11との間に介在される状態で配置されている。すなわち、図5〜図8に示すように、各ダンパユニット21は、緩衝材としてVEM(Visco Elastic Material)を適用した粘弾性体30と、架台支持ユニット41に支持された架台12の変位にほぼ連動して変位し粘弾性体30を押圧する押圧部材23を備えた連動機構36と、押圧部材23の変位量を増幅して粘弾性体30への押圧力を増大させる押圧力増大機構35と、を有する。
【0022】
粘弾性体30は、液状の当該粘弾性体の構成材料(主剤と硬化剤を含む)を型中に入れ、所定の条件で処理を施して例えばゲル状に形成されている。粘弾性体30の構成材料としては、上記VEMの他、軟質ポリウレタン、シリコーンゲル、MNCS(Micro Network Controlled Structure)などを適用することが可能である。軟質ポリウレタン、シリコーンゲル、MNCSは、引張強度(Kgf/cm2)が、それぞれ5〜23、2、10〜25程度である。また、軟質ポリウレタン、シリコーンゲル、MNCSは、それぞれ(環境温度を20℃、振動数を1〜30Hzとした場合の)損失係数が、各々1.2〜1.4、1.2〜1.5、0.6〜2.0程度であり、さらに、反発弾性(%)が、それぞれ5〜22、15〜20、1〜10程度の特性を有する。
【0023】
また、粘弾性体30の損失係数ηは、0.6〜2.0の範囲内にあることが望ましい。損失係数ηが、0.6未満では、粘弾性体の物性が一般のゴムの物性に近似することになり、良好な振動減衰特性を得ることが難しくなる。一方、損失係数ηが、2.0を超えると、流動性が高くなりすぎて成形が困難となる。したがって、このような粘弾性体30は、いわゆるゴム及び粘土の両方の性質を有する。この粘弾性体30に、引張力を瞬間的に与えると、ゴムの性質により、元の形状に戻ろうとするものの、粘度の性質である粘性抵抗によりゆっくりとした復元動作となる。したがって、この粘弾性体30に振動が加わった場合には、当該粘弾性体30は、振動エネルギを粘性抵抗により熱エネルギに変換して振動を減衰させることができる。
【0024】
連動機構36は、図5〜図8に示すように、架台支持ユニット41に支持された架台12の水平方向(本実施形態では、矢印X1−X2方向)の変位を取り出して押圧部材23を変位させる。つまり、連動機構36は、一対の発動部材26にそれぞれ設けられた発動部26bと、揺動支持部24aとを有する。揺動支持部24aは、プレート状の押圧部材23を矢印Z1−Z2方向に起立させた姿勢で、かつ押圧部材23を図8に示すように矢印S3−S4方向に揺動可能に支持する。また、発動部材26の発動部26bは、架台12に取り付けられかつ揺動支持部24aに支持された押圧部材23上の被支持部分(支点部分25b)23cから第1の長さm1だけ上部側(矢印Z1方向)へ離れた力点部分22a(球状の始動部22)を、隙間t1を空けた状態で当該押圧部材23の揺動可能なS3−S4方向から挟むように配置されている。
【0025】
一方、押圧力増大機構35は、連動機構36が備える押圧部材23の変位量をてこを用いて増幅し、粘弾性体30への押圧力を増大させる。つまり、押圧力増大機構35は、揺動支持部24aに支持された押圧部材23上の被支持部分23cから第1の長さm1よりも長い第2の長さm2だけ底部側(矢印Z2方向)へ離れた作用点部分23bを、当該押圧部材23の揺動可能な両方向(矢印S3−S4方向)から粘弾性体30越しに挟持する(ストッパ部材28に設けられた)ストッパ部28bを備える。
【0026】
ここで、上述した連動機構36の構造をより詳細に説明する。すなわち、連動機構36は、図5〜図8に示すように、上記の押圧部材23及び発動部材26に加え、揺動支持部24aを有する一対のベアリングホルダ24と、このベアリングホルダ24を床面11上に支持する一対のベアリングホルダ固定台27と、をさらに備える。各ベアリングホルダ固定台27は、ほぼ四角柱状に形成されており、起立した姿勢で配置されるプレート状の押圧部材23を、その板面に沿った方向(矢印Y1−Y2方向)から間隔をおいて挟む位置に配置されている。各ベアリングホルダ固定台27は、その底部に設けられた台座部27cを介してボルト27bにより床面11に締結されている。
【0027】
これらのベアリングホルダ固定台27の上端部27aには、図5〜図7に示すように、各ベアリングホルダ24がボルト24bにより締結されている。各ベアリングホルダ24の中央部には、軸受(ベアリング)としての上記揺動支持部24aがそれぞれ設けられている。これらの各揺動支持部24aには、先端側にねじ部25aを有する一組の片持ちピン25が摺動(揺動)可能に支持されている。これらの片持ちピン25のねじ部25aは、押圧部材23の両側端部に設けられたねじ穴を有するねじ止め部23aに締結されている。つまり、押圧部材23は、片持ちピン25を介して揺動支持部24a(軸受)から吊り下げられた状態となり、これにより、揺動支持部24a及び片持ちピン25を支点(支点部分25b)として、図8に示すように矢印S3−S4方向に揺動可能な支持状態となる。
【0028】
一方、一対の発動部材26は、図5〜図8に示すように、プレート状の部材をL字状に折曲した形状に各々形成されており、上述した発動部26bと、この発動部26bと直交する架台取付部26cとで構成されている。発動部材26の架台取付部26cは、架台12の底面にボルト26aを通じて締結されている。ここで、架台取付部26cには、ボルト26aのねじ部分を挿通させるための挿通穴が長穴で形成されており、互いに対向する各発動部26bどうしの離間距離(取付位置)を調整可能となっている。
【0029】
また、このような発動部材26の各発動部26bの互いに対向する内壁面には、図7に示すように、テフロン(登録商標)層26dが形成されている。これらの発動部26bの各テフロン(登録商標)層26dの間には、押圧部材23の上端部を構成する球状の始動部22(力点部分22a)が隙間(t1×2)を空けた状態で介在されている。上記のテフロン(登録商標)層26dは、発動部26bと始動部22との接触時の潤滑性を高めて、部材どうしの磨耗などを防止している。また、上記した始動部22の表面と発動部26b内面のテフロン(登録商標)層26dとの最短の離間距離となる隙間t1が、例えば0、3mmとなるように、架台12に対する発動部材26の取り付け位置は調整される。
【0030】
また、押圧部材23の底部側の作用点部分23bには、図6〜図8に示すように、当該押圧部材23の底部側の両面に粘弾性体30を、接着などにより例えば二つずつ並べて接合するための接合部材29が設けられている。これら四つの接合部材29を介して、各々ほぼ円板状に形成された四つの粘弾性体30は、押圧部材23の上記作用点部分23bに接合されている。ここで、本実施形態では、図8に示すように、(接合部材29及び)押圧部材23を挟んで各々対向する円板状の粘弾性体30の重心位置どうしを結ぶ線分の中点を、上記作用点部分23bの位置とする。
【0031】
次いで、押圧力増大機構35の構造について詳述する。図6〜図8に示すように、押圧力増大機構35は、上述したストッパ部材28を一組備えている。個々のストッパ部材28は、プレート状の部材をL字状に折曲したかたちで各々形成されており、上記ストッパ部28bと、このストッパ部28bに直交する床面取付部28cとで構成されている。ストッパ部材28の床面取付部28cは、床面11上にボルト28aを介して締結されている。ここで、床面取付部28cには、ボルト28aのねじ部分を挿通させるための挿通穴が長穴で形成されており、押圧部材23上の作用点部分23b及びその両面の各粘弾性体30を挟んで対向する個々のストッパ部28bどうしの離間距離を、取付調整可能となっている。
【0032】
ここで、押圧部材23は、図8に示すように、当該押圧部材23上の支点部分25b及び作用点部分23b間の離間距離である第2の長さm2と、押圧部材23上の支点部分25b及び力点部分22a間の離間距離である第1の長さm1と、の長さ比であるm2/m1が例えば4/1になるように構成されている。つまり、押圧部材23上端の力点部分22aに位置する始動部22が変位したストロークの4倍分、押圧部材23上の作用点部分23bでのストロークが増幅され、これにより、図8に示すように、押圧部材23で粘弾性体30を矢印S3−S4方向に押圧する押圧力が増大される。
【0033】
したがって、このようなダンパユニット21を備える除振装置1では、図8に示すように、架台支持ユニット41に支持された架台12(の底部の発動部26b)が、振動で変位する動作にほぼ連動して押圧部材23(の始動部22及び作用点部分23b)が変位し、この押圧部材23の変位により粘弾性体30を押圧できる。しかも、除振装置1では、その押圧力を増大させることが可能なので、粘弾性体30とこれを押圧する押圧部材23(作用点部分23b)との密着性が高まり、粘弾性体30自身が持つ振動の減衰性能を効果的に発揮させることができる。これにより、XYステージ9の移動により生じる振動を迅速に減衰させることが可能となる。
【0034】
さらに、当該ダンパユニット21を備える除振装置1では、発動部26bと始動部22との間に隙間(クリアランス)t1が設けられていることにより、架台12が変位して初めて押圧部材23が動き出し粘弾性体30の押圧が開始されるので、架台12の支持部分の剛性が向上してしまうことが抑制され、これにより、例えば床面11側からの外来振動の絶縁などを目的とする除振性能の低下を極力抑えながら、振動の減衰性能を高めることができる。
【0035】
ここで、上述した除振装置1においては、図1に示すように、XYステージ9の構成要素のうちで、一般に質量の大きいX軸移動体(ガントリ本体部)9aのX1−X2方向の移動に伴う振動を減衰し易くすることを考慮して、ダンパユニット21の押圧部材23の揺動方向S3−S4が、上記X1−X2方向に沿った方向になるように、意図的に向きを定めてダンパユニット21を設置している。また、設置の向きを同一としたダンパユニット21をもう2セット用意し、これを、図1に示す矩形状の架台12の四つのコーナ部のうちの、残りのコーナ部の近傍位置6、8の二箇所に追加し、四つのダンパユニット21を備えた除振装置を構成してもよい。
【0036】
さらに、これに代えて、上記向きと同一の設置向きとした単一のダンパユニット21を架台12の中央部分の底部に設置した除振装置を構成してもよい。また、これに代えて、四つのダンパユニット21を除振装置に設ける場合、所定の2つのダンパユニット21が、他の2つのダンパユニット21に対して押圧部材23の揺動方向が90度異なる向きとなるように(押圧部材23の揺動方向が、例えばX1−X2方向に沿った向きと、この向きと90度異なるY1−Y2方向に沿った向きになるように)、個々のダンパユニットの設置向きを定めた除振装置を構成してもよい。
【0037】
次に、図1、図2及び図5〜図8に示したダンパユニット21を備える除振装置1の除振性能及び振動の減衰性能を図9〜図16に基づき説明する。ここで、図9は、除振装置1の除振性能の測定方法を説明するための図であり、図10は、除振装置1の振動の減衰性能の測定方法を説明するための図である。また、図11は、従来のダンパユニット91の構造を模式的に示す図である。また、図12は、本実施形態の除振装置1から各ダンパユニット21を削除した場合の除振性能を示す図であり、図13は、図2に示す本実施形態の除振装置1の除振性能を示す図である。さらに、図14は、本実施形態の除振装置1から各ダンパユニット21を削除した場合の振動の減衰性能を示す図であり、図15は、図2に示す本実施形態の除振装置1の振動の減衰性能を示す図である。また、図16は、本実施形態の除振装置1が備える各ダンパユニット21に代えて、図11に示す従来のダンパユニット91を適用した場合の除振性能を示す図である。
【0038】
すなわち、図9に示すように、同一スペックの加速度センサK1、K2を用意し、加速度センサK1で床面11上の加速度を測定すると同時に、本実施形態に係る除振装置1の架台12上面の加速度を加速度センサK2で測定した。上記図13は、この加速度センサK2の出力を加速度センサK1の出力で除算した振動伝達率(dB)を周波数解析した結果を示している。また、図10に示すように、本実施形態に係る除振装置1の架台12における所定の側面に矢印X1方向から荷重F1を瞬間的に加えると同時に、矢印X1−X2方向における架台12の変位量を変位センサK3で測定した。上記図15は、この変位センサK3により得られた、時間経過に伴う架台12の変位量を示している。
【0039】
ここで、図11は、上述したように従来のダンパユニット91の構造を示すものであり、従来のこのダンパユニット91は、架台12の底部側に固定された挟持プレート92と、床面11側に固定された挟持プレート93と、で二つの粘弾性体30を両側から挟持する構造を適用している。さらに、従来のダンパユニット91では、振動の減衰性能のさらなる向上を図るために、挟持プレート92及び挟持プレート93の設置間隔t2を狭め、二つの粘弾性体30に高い押圧力F2を加えている。
【0040】
上記の高い押圧力F2を粘弾性体30に加えることで、粘弾性体30と挟持プレート92、93との密着性が向上し、粘弾性体30自体が有する振動の吸収(減衰)性能を効果的に発揮させることができる。しかしながら、このような構造を採用すると、ダンパユニット91全体の剛性が高まり、ダンパユニット91及び架台支持ユニット41を含む架台の共振周波数(例えば図13に示した1.5Hz近辺の周波数)が、高域側にシフト(図16に示すように3Hz近辺にシフト)することになる。このため、外来振動の絶縁に必要な比較的高い帯域における振動の抑制効果が低減し、図16に示すように、良好な除振性能を得ることが難しくなる。
【0041】
ここで、図12は、上述したように、図9に示す本実施形態の除振装置1から各ダンパユニット21を削除した除振装置を測定対象とし、同図9に例示する測定方法と同様に測定した除振性能を示している。さらに、図14は、図10に示す本実施形態の除振装置1から各ダンパユニット21を削除した除振装置を測定対象とし、同図10に例示する測定方法と同様に測定を行った、時間経過に伴う架台12の変位量を示している。さらに、上記図16は、図9に示す本実施形態の除振装置1の各ダンパユニット21を、図11に示す従来のダンパユニット91にそれぞれ代えた除振装置を測定対象とし、同図9に例示する測定方法と同様に測定した除振性能を示している。
【0042】
図12〜図16に示す結果から明らかなように、本実施形態のダンパユニット21を備える除振装置1は、図14、図15に示すように、ダンパユニット21を備えていない除振装置よりも優れた振動の減衰性能を発揮できることに加え、図12、図13に示すように、ダンパユニット21を設けていない除振装置とほぼ同様の除振性能を得ることができる。つまり、粘弾性体30に対する密着性を高めるために、粘弾性体30に絶えず高い押圧力F2を加える図11に示す従来のダンパユニット91は、比較的高い振動減衰性能が得られる一方で、除振性能の低下を招くことになる。これに対し、ダンパユニット21を備えることで、除振性能の低下を抑制しつつ、粘弾性体30に高い押圧力を加えることができる(粘弾性体30に対する密着性を実質的に高められる)本実施形態のダンパユニット21は、粘弾性体30自身が持つ優れた振動減衰性能が十分に発揮される。
【0043】
既述したように、本実施形態の(架台支持ユニット41及び)ダンパユニット21を備える除振装置1では、図8に示すように、架台支持ユニット41に支持された架台12が、振動で変位する動作にほぼ連動してダンパユニット21の押圧部材23が変位し、この押圧部材23の変位により粘弾性体30を押圧できる。しかも、除振装置1では、その押圧力を増大させることが可能なので、粘弾性体30とこれを押圧する押圧部材23との密着性が高まり、粘弾性体30自身が持つ振動の減衰性能を効果的に発揮させることができる。したがって、本実施形態の除振装置1によれば、床面11側からの外来振動を絶縁するための除振性能を極力低下させることなく、振動の減衰性能を向上させることができる。
【0044】
以上、本発明を実施の形態により具体的に説明したが、本発明は前記の実施形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、前記実施形態の除振装置1が備えていた図3に示す空気ばね吊り下げ式の各架台支持ユニット41に代えて、図17に示すゴム併用型の架台支持ユニット51を適用してもよい。この架台支持ユニット51は、水平方向に柔らかい複数の防振ゴム(又は積層ゴム)54で空気ばね55を支持していると共に、架台12の底部と接触する検出部53の矢印Z1−Z2方向の昇降動作と連動するカンチレバー52の動作に基づき、空気ばね55内の給排気を機械的に自動制御するものである。
【0045】
また、上記除振装置1が備えていた各架台支持ユニット41に代えて、図18に示すように、いわゆるジンバル機構62を空気ばね63に搭載した架台支持ユニット61を適用することもできる。この架台支持ユニット61では、架台12の荷重は、ディスク部64で支持され、このディスク部64は、ダイアフラム66の下方のピストン部67の底部に対し、ロッド部65を介してピポット68により支持されている。これにより、架台支持ユニット61では、架台12に対する垂直方向(矢印Z1−Z2方向)の除振に加え、スイング動作により架台12における揺動方向(矢印S5−S6方向)の除振が可能となる。
【0046】
さらに、上記のダンパユニット21及び架台支持ユニット41(又は51若しくは61)に加えて、図19に示すように、ケーシング73内にオイル72を貯留したオイルダンパ71を、図2に示す除振装置1に設けてもよい。
【0047】
また、上述した実施形態では、架台12の水平方向の変位を連動機構36が取り出し、この変位を押圧力増大機構35が増幅して、緩衝材である粘弾性体30への押圧力を増大させるものであったが、これに代えて、架台の垂直方向の変位を取り出せる連動機構と、この垂直方向の変位を増幅して緩衝材を押圧できる押圧力増大機構と、を備えたダンパユニットを本発明の除振装置に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態に係る除振装置の平面図。
【図2】図1に示す除振装置の正面図。
【図3】図2に示す除振装置が備える架台支持ユニットを一部断面で示す図。
【図4】図3の架台支持ユニットの構造を概略的に示す図。
【図5】図1に示す除振装置が備えるダンパユニットの平面図。
【図6】図5に示すダンパユニットの右側面図。
【図7】図5、図6に示すダンパユニットの正面図。
【図8】図7のダンパユニットの構造を模式的に示す図。
【図9】図2に示す除振装置の除振性能の測定方法を説明するための図。
【図10】図2に示す除振装置における振動の減衰性能の測定方法を説明するための図。
【図11】従来のダンパユニットの構造を模式的に示す図。
【図12】図2に示す除振装置から各ダンパユニットを削除した場合の除振性能を示す図。
【図13】図2に示す除振装置の除振性能を示す図。
【図14】図2に示す除振装置から各ダンパユニットを削除した場合の振動の減衰性能を示す図。
【図15】図2に示す除振装置の振動の減衰性能を示す図。
【図16】図2に示す除振装置が備える各ダンパユニットに代えて、図11に示す従来のダンパユニットを適用した場合の除振性能を示す図。
【図17】図3に示す架台支持ユニットと構造の異なる他の架台支持ユニットを示す図。
【図18】図3及び図17に示す架台支持ユニットと構造の異なる他の架台支持ユニットを示す図。
【図19】図2に示す除振装置に適用可能なオイルダンパの構造を示す図。
【符号の説明】
【0049】
1…除振装置、9…XYステージ、11…床面(又は設置基礎)、12…架台(定盤)、12…架台、21…ダンパユニット、22…始動部、22a…力点部分、23…押圧部材、23b…作用点部分、23c…被支持部分、24…ベアリングホルダ、24a…揺動支持部、25b…支点部分、26…発動部材、26b…発動部、28…ストッパ部材、28b…ストッパ部、30…粘弾性体、35…押圧力増大機構、36…連動機構、41,51,61…架台支持ユニット、71…オイルダンパ、m1…第1の長さ、m2…第2の長さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
除振対象物が搭載される架台と、
前記架台を底部側から弾性的に支持する架台支持ユニットと、
緩衝材と、前記架台支持ユニットに支持された前記架台の変位にほぼ連動して変位し前記緩衝材を押圧する押圧部材を備えた連動機構と、前記押圧部材の変位量を増幅して前記緩衝材への押圧力を増大させる押圧力増大機構と、を有するダンパユニットと、
を具備することを特徴とする除振装置。
【請求項2】
前記連動機構は、前記架台の水平方向の変位を取り出して前記押圧部材を変位させることを特徴とする請求項1記載の除振装置。
【請求項3】
前記押圧力増大機構は、前記連動機構が備える前記押圧部材の変位量をてこを用いて増幅することを特徴とする請求項1又は2記載の除振装置。
【請求項4】
前記連動機構は、
前記押圧部材を起立させた姿勢で揺動可能に支持する揺動支持部と、
前記架台に設けられかつ前記揺動支持部に支持された前記押圧部材上の被支持部分から第1の長さだけ上部側へ離れた力点部分を、隙間を空けた状態で当該押圧部材の揺動可能な方向から挟むように配置された発動部と、を備え、
さらに、前記押圧力増大機構は、前記揺動支持部に支持された前記押圧部材上の前記被支持部分から前記第1の長さよりも長い第2の長さだけ底部側へ離れた作用点部分を、当該押圧部材の揺動可能な両方向から前記緩衝材越しに挟持するストッパ部を備える、
ことを特徴とする請求項3記載の除振装置。
【請求項5】
前記架台支持ユニットは、空気ばねを備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の除振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−162273(P2009−162273A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340870(P2007−340870)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(594192095)株式会社昭和サイエンス (6)
【Fターム(参考)】