説明

集束イオンビームによる加工方法

【課題】 試料の表面にイオンビームを照射して加工する際に、試料の損傷を最小限とする集束イオンビームの加工方法を提供する。
【解決手段】 イオン源と試料Pとの間に加速電圧を生じさせ、イオン源から放出されるイオンビームBを集束し所定の加工位置P3に照射させて、試料Pの表面を加工する。この際、加速電圧によって生じるイオンビームBのエネルギー範囲を1keV以上20keV未満に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新素材、半導体デバイス、フォトマスク、X線マスク、記憶素子、磁気ヘッドなどの微細構造物に集束イオンビームを照射し、加工あるいは観察する集束イオンビームによる加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、透過型フォトマスクの修正として、対象箇所に集束イオンビームを照射して加工を行う方法が行われている。集束イオンビームは、加工性を向上させるためにエネルギーを30keV程度とし、かつ30nm以下のビーム径まで集束させることで、迅速にかつ高精細にナノオーダーの加工を行ってきた(例えば、特許文献1参照)。しかし、近年、集束イオンビームの照射による透過型フォトマスクなどの被照射物のダメージが問題となっている。すなわち、透過型フォトマスクの修正において、照射された集束イオンビームのイオンが透過層(例えば、SiO)にも進入してしまい、転写工程時に照射される照射光の透過率が減少してしまう問題が報告されている。この問題の一つの解決方法として、半導体のマスクプロセスでは、集束イオンビームによる加工を行った表面を洗浄し、表面から深さ25nm以上の透過層のダメージ部を取り除く方法が提案されている。この方法によれば、図7に示すように、従来から転写工程時に採用されている波長が248nm以上のレーザ光では、標準操作範囲(走査回数10回)内において、透過型フォトマスクの修正後も97%以上の透過率を確保することができることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。このため、波長が248nm以上のレーザ光で転写可能な線幅90nm以上のパターニングにおいては、透過型フォトマスクは集束イオンビームによって修正され使用されていた。
【特許文献1】特開2001−6605号公報
【非特許文献1】萩原良二・他、プロック・オブ・SPIE(proc. of SPIE)、「アドヴァンスド・FIB・マスク・リペア・テクノロジー・フォア・ArF・リソグラフィー(Advanced FIB mask repair technology for ArF lithography)」、(アメリカ)、2001年、4069号、p.555
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、半導体製造における微細構造化がさらに進み、転写される線幅が90nm未満の範囲となるフォトリソグラフィ技術の開発が進められ、照射されるレーザ光も248nmよりも波長の短いレーザ光(例えば、ArFを媒質とする波長193nmのレーザ光)の採用が検討されている。しかしながら、非特許文献1によれば、図7に示すように、上述の透過型フォトマスクの修正方法では、248nm未満のレーザ光を照射した場合の透過率は十分改善されず、半導体製造の転写工程において修正箇所が転写されてしまう問題があった。また、248nm以上の波長のレーザ光を照射する場合においても、洗浄によってダメージ部を25nm以上取り除くため、透過層の厚さが薄くなってしまい、照射されたレーザ光の位相角度が20度以上変化してしまう。このため、位相効果を利用する位相効果型マスクでは、相互に干渉してしまい、照射されるレーザ光の強度が低下してしまう問題があった。このような集束イオンビームによるダメージ部形成の問題は、照射光(EUV)を反射して転写させる反射型マスクにおいても同様で、反射型マスクの吸収層を集束イオンビームで修正した場合、反射層の反射率を低下させてしまう問題があった。
【0004】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、試料の表面にイオンビームを照射して加工する際に、試料の損傷を最小限とする集束イオンビームの加工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、イオン源と試料との間に加速電圧を生じさせ、前記イオン源から放出されるイオンビームを集束し所定の加工位置に照射させて、前記試料の表面を加工する集束イオンビームによる加工方法であって、前記加速電圧によって生じる前記イオンビームのエネルギー範囲を1keV以上20keV未満に設定することを特徴としている。
【0006】
この発明に係る集束イオンビームによる加工方法によれば、イオンビームのエネルギーを1keV以上20keV未満に設定することでイオンの試料に侵入する深さを浅くすることができ、イオンビームの照射による試料の損傷を深部にまで至らないようにすることができる。
【0007】
また、上記の集束イオンビームの加工方法において、前記加工位置に前記イオンビームを照射するとともに、アシストガスを吹き付けることが好ましいとされている。
この発明に係る集束イオンビームによる加工方法によれば、イオンビームによる加工をアシストガスによって促進させることができるので、イオンビームの照射量を少なくすることができる。このため、イオンビームの照射による試料の損傷をさらに軽減させることができる。
【0008】
さらに、上記の集束イオンビームの加工方法において、前記加工位置に前記イオンビームを照射した後、該イオンビームのイオンが侵入した前記試料のダメージ部を洗浄する洗浄工程を備えることがより好ましいとされている。
この発明に係る集束イオンビームによる加工方法によれば、洗浄工程によってイオンビームのイオンが侵入したダメージ部を取り除くことができる。この際、上述のようにイオンが侵入する深さを浅くできるので、取り除かれる厚さを最小限に留めることができる。
【0009】
また、本発明は、上記の集束イオンビームの加工方法において、前記試料は、透過層と、該透過層上にパターニングされた遮光層とで構成され、該遮光層がパターニングされた部分以外に照射された照射光を透過し転写させる透過型フォトマスクであり、前記遮光層を修正することを特徴としている。
この発明に係る集束イオンビームによる加工方法によれば、遮光層の修正箇所(加工位置)にイオンビームを照射し加工した際、その下の透過層の損傷を最小限とすることができ、透過層の透過率の低下を防止することができる。このため、修正された透過型フォトマスクは、短い波長の照射光においても使用することができ、線幅をより狭くして転写させることができる。
【0010】
また、本発明は、上記の集束イオンビームの加工方法において、前記試料は、反射層と、該反射層上の干渉層と、該干渉層上にパターニングされた吸収層とで構成され、該吸収層がパターニングされた部分以外に照射された照射光を反射し転写させる反射型マスクであり、前記吸収層を修正することを特徴としている。
この発明に係る集束イオンビームによる加工方法によれば、吸収層の修正箇所(加工位置)にイオンビームを照射し加工した際、イオンビームによる損傷を吸収層の下の干渉層で留めることができ、反射層にイオンビームのイオンが侵入するのを防ぎ、反射率の低下を防止することができる。このため、修正された反射型マスクは、短い波長の照射光においても使用することができ、線幅をより狭くして転写させることができる。
【0011】
さらに、上記の集束イオンビームの加工方法において、前記試料は、照射し転写させる前記照射光の波長が13.5nm以上248nm未満であることを特徴としている。
この発明に係る集束イオンビームによる加工方法によれば、透過型フォトマスクにおいては透過層の透過率の低下を防止し、反射型マスクにおいては反射層の反射率の低下を防止することができるので、13.5nm以上248nm未満である短い波長の照射光であっても影響無く使用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の集束イオンビームの加工方法によれば、イオンビームを照射した際の試料へのイオンの侵入を抑え、試料の損傷を最小限とすることができる。例えば、透過型フォトマスクの修正においては透過率の低下、反射型マスクにおいては反射率の低下を防ぐことができる。このため、短い波長の照射光を照射する場合においても、加工による影響を最小限に留めることができ、65nm以下の細かい線幅のパターニングも可能とさせる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1の実施形態)
図1から図5は、この発明に係る第一の実施形態を示している。図1に集束イオンビーム装置の構成図を示す。また、図2に透過型フォトマスクの断面図を示す。さらに、図3に集束イオンビーム装置によって透過型フォトマスクにイオンビームを照射する説明図を示す。また、図4はエネルギーを変えてイオンビームを照射した場合の試料のダメージ部の深さとイオン濃度の関係を示すグラフ、図5は洗浄工程前及び洗浄工程後において照射されるイオンビームのエネルギーと照射後の透過型フォトマスクの透過率との関係を示すグラフである。
【0014】
図1に示すように、集束イオンビーム装置1は、試料である透過型フォトマスクPを配置する試料設置部2と、透過型フォトマスクPの表面Sに照射されるイオンビームBを供給するイオン供給部3と、イオン供給部3からイオンビームBを引き出し加速させる加速手段4と、加速手段4によって加速されたイオンビームBを減速し、集束させる集束手段5とを備える。図2に示すように、透過型フォトマスクPは照射されるレーザ光(照射光)を透過させる透過層P1と、透過層P1上にパターニングされ、照射されるレーザ光を遮蔽する遮光層P2とで構成される。より詳しくは、透過層P1は、例えば石英ガラスであり、遮光層P2は、例えばクロムなどの金属膜やモリブデンシリサイドなどの無機物を主体とした薄膜である。また、図1に示すように、透過型フォトマスクPは、試料設置部2に配置されることで、接地された状態となっている。
【0015】
図1に示すように、イオン供給部3にはイオン源6が備えられている。イオン源6は、例えば、液体ガリウムであり、図示しないフィラメントが設けられていて、フィラメント電源6aと接続されている。このため、イオン源6は、フィラメントによって熱せられて常に液体状態に保たれ、周辺に生じる電位差によってイオンビームBであるガリウムイオン(Ga)を放出可能な状態になっている。さらに、イオン供給部3には電圧を調整可能な加速電源7が接続され、正の加速電圧Eが印加されている。
【0016】
また、加速手段4及び集束手段5には、それぞれ第一のバイポテンシャルレンズ8及び第二のバイポテンシャルレンズ9が備えられている。第一のバイポテンシャルレンズ8及び第二のバイポテンシャルレンズ9は、それぞれ、入射側電極8a、9a、中間電極8b、9b及び出射側電極8c、9cが並列されているとともに、それぞれ異なる電圧を印加させることが可能となっている。すなわち、図1に示すように、第一のバイポテンシャルレンズ8の入射側電極8aは、電圧を調整可能な引き出し電源11の陰極と接続され、中間電極8bは電圧を調整可能なコンデンサレンズ電源12の陰極と接続されている。また、第一のバイポテンシャルレンズ8の出射側電極8cと第二のバイポテンシャルレンズ9の入射側電極9aとは、導電性を有する中間加速管13で接続されているとともに、中間加速管13は電圧を調整可能な中間加速電源14の陰極と接続されている。また、第二のバイポテンシャルレンズ9の中間電極9bは、電圧を調整可能な対物レンズ電源15の陰極と接続されている。さらに、出射側電極9cは接地されており、同じく接地されている透過型フォトマスクPとの間には電場が形成されない構成となっている。また、入射側電極8a、9a、中間電極8b、9b及び出射側電極8c、9cには、同軸に貫通する貫通孔8d、9dが形成され、入射されたイオンビームBが貫通可能な構成となっている。
【0017】
これらのバイポテンシャルレンズは、入射側電極8a、9a、中間電極8b、9b、及び出射側電極8c、9cのそれぞれに異なる電圧が印加されることによって、それぞれの間に電場を形成することができる。そして、この形成された電場によって、貫通孔8d、9dを貫通するイオンビームBを集束(拡散)させることができる。また、加速電圧Eと出射側電極8c、9cの電圧との電位差によって、貫通孔8d、9dを貫通するイオンビームBは加速(減速)することができる。つまり、バイポテンシャルレンズに入射された陽イオン(Ga)であるイオンビームBは、加速または減速させることでエネルギーを調整することが可能であるとともに、収差を抑え効果的に集束されることとなる。
【0018】
また、図1に示すように、イオンビーム装置1は、さらに中間加速管13の内部において、照射されるイオンビームBのON/OFFを行うブランキング電極16と、イオンビームBの光軸のずれを修正するアライメント電極17と、イオンビームBの断面形状の歪みを補正し、真円に形成する非点補正器18とを備えている。ブランキング電極16は、ブランキング電源19と接続され、電圧を印加することで、通過するイオンビームBを透過型フォトマスクPに照射されないように偏向させることができる。また、アライメント電極17は、アライメント電源20と接続され、電圧を印加し電場を形成することで、通過するイオンビームBの光軸を修正することができる。さらに、非点補正器18は、非点補正電源21と接続され、電圧を印加し電場を形成することで、通過するイオンビームBの断面形状の歪みを修正することができる。また、イオンビーム装置1は、第二のバイポテンシャルレンズ9と透過型フォトマスクPとの間に走査電極22を備えている。走査電極22は走査電源23と接続され、走査電源23の電圧の操作によって、通過するイオンビームBの透過型フォトマスクPに照射する位置を調整することができる。
【0019】
さらに、透過型フォトマスクPの表面S付近には、透過型フォトマスクPの表面Sにおける遮光層P2の加工位置である修正箇所P3にアシストガス24を吹き付けるガス銃25が備えられている。アシストガス24は、より詳しくは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン系ガス、またはハロゲン系ガスを含むガス、若しくは窒素酸化物系のガスなどである。図3に示すように、このようなアシストガス24は、修正箇所P3にイオンビームBを照射した際に、修正箇所P3の削り込みを促進させることができる。なお、図示しないが、修正箇所P3にイオンビームBを照射した際に発生する二次電子を検出する二次電子検出器や二次イオンを検出する二次イオン検出器などを透過型フォトマスクPの表面S付近に設ける構成としても良い。二次電子検出器や二次イオン検出器によって、イオンビームBが照射された透過型フォトマスクPの表面Sの状態を観察することができる。
【0020】
次に、この集束イオンビーム装置1を使用して、透過型フォトマスクPの遮光層P2の修正箇所P3にイオンビームBを照射し、修正する工程について説明する。まず、図1に示すように、集束イオンビーム装置1の各電源の電圧を設定して、イオンビームBを所定のエネルギーで照射する。例えば、加速電源の加速電圧Eを10kV、引き出し電源の電圧を6kV、コンデンサレンズ電源の電圧を20kV、中間加速電源の電圧を10kV、対物レンズ電源の電圧を20kVに設定したとする。これにより、イオン供給部3は+10kVに、第一のバイポテンシャルレンズ8の入射側電極8aは+4kVに、中間電極8bは−20kVに、出射側電極8cは−10kVに印加される。また、第二のバイポテンシャルレンズ9の入射側電極9aは−10kVに、中間電極8bは−20kVに印加される。つまり、イオンビームBは、第一のバイポテンシャルレンズ8で20keVのエネルギーまで加速され、第二のバイポテンシャルレンズ9で減速されるとともに集束する。そして、イオンビームBは、加速電源7で設定された加速電圧E(=10kV)に従い、10keVの低エネルギーで透過型フォトマスクPの修正箇所P3に照射される。なお、このイオンビームBの照射時のエネルギーは、加速電圧Eを設定することで、1keV以上の範囲で調整して透過型フォトマスクPの加工を行うことが可能である。そして、図3に示すように、アシストガス24の促進作用とあいまって、最小限のイオンビームBの照射量で修正箇所P3を削り込むことができる。この際、修正箇所P3の下部の透過層P1にイオンビームBのイオンが侵入し、ダメージ部P4が形成されてしまう。
【0021】
図4は、加速電圧E(イオンビームBのエネルギー)を5kV、10kV、20kV、30kVとしたそれぞれの場合において、透過型フォトマスクPの表面Sからの深さZ(nm)と、侵入したガリウム(Ga)の濃度(Ions/cm)との関係を計算によって算出したものである。図4に示すように、イオンビームBのエネルギーを低くすることで、ガリウムイオンが侵入する最大深さ及びイオン濃度がピークとなる深さは、ともに浅くなり、特に加速電圧Eが20kV未満(イオンビームBのエネルギーが20keV未満)で大きく変化し、加速電圧Eが10kV以下(イオンビームBのエネルギーが10keV以下)でその傾向がさらに顕著となることがわかる。つまり、イオンビームBのエネルギーを低くすることで、透過型フォトマスクPのダメージ部P4を深部にまで至らないようにすることができる。
【0022】
図5は、加速電圧E(イオンビームBのエネルギー)を5kV、10kV、20kV、30kVとしたそれぞれの場合において、透過型フォトマスクPにイオンビームBを照射し修正箇所P3を修正した時の加速電圧Eと、修正後の透過型フォトマスクPに波長193nmのレーザ光(ArF)を照射した時の透過率との関係を表わしたものである。なお、イオンビームBの走査回数は、図7に示す標準操作範囲内となる10回としている。さらに、修正した透過型フォトマスクPのダメージ部P4を洗浄し、ダメージ部P4を除去する洗浄工程を実施した時の透過率についても示す。洗浄工程は、より詳しくは、水を主体とする洗浄液やドライアイスやアッシングによって行われる。図5に示すように、洗浄前においては、加速電圧Eを変化させても透過率に大きな変化は見られなかった。これは、図4に示すように、加速電圧Eを低くすることでダメージ部P4の深さZは浅くなるが、その分ガリウム濃度は高まり、侵入したガリウムイオンの量は変らないことに起因する。一方、図5に示すように洗浄後においては、加速電圧Eが20kV未満(イオンビームBのエネルギーが20keV未満)の場合において透過率が回復し、その傾向は加速電圧Eが10kV以下(イオンビームBのエネルギーが10keV以下)においてさらに顕著となることがわかる。これは、図4に示すように、加速電圧Eが低くなるとダメージ部P4の深さZが浅くなるので、洗浄工程によって確実に除去されるからである。なお、この際の除去されたダメージ部P4の深さZは、計測の結果15nm以下であった。
【0023】
以上のように、透過型フォトマスクPの修正において、修正箇所P3に照射するイオンビームBのエネルギーを集束イオンビーム装置1で照射可能な1keV以上20keV未満とすることで、ダメージ部P4の深さZを浅くすることができる。そして、洗浄工程においてダメージ部P4が確実に除去されることで、248nm未満の短い波長のレーザ光を照射する場合においても、透過型フォトマスクPの透過率を改善させることができる。これは、特にArFを媒質とするレーザ光の波長である193nm以下から、レーザプラズマを光源としたレーザ光の波長である13.5nm以上の波長を有する照射光において特に有効である。そして、修正した透過型フォトマスクにおいて、短い波長の照射光によるフォトリソグラフィが可能であることで、従来248nmの波長の照射光では転写可能なウエハ上の線幅は90nm程度であったが、線幅が90nm未満、特に22nm以上65nm以下の範囲においても転写することが可能となる。つまり、ArFイマージョンリソグラフィー、EUVリソグラフィーにおいても、修正した透過型マスクを転写に使用することが可能となる。また、除去されるダメージ部P4の深さZを15nmと、従来が25nm以上であったのに比べて浅くすることができるので、照射されたレーザ光の位相変化を最小限とすることができる。このため、位相効果型マスクにおいても、位相差によって互いに干渉してレーザ光の強度が低下してしまうのを防止することができる。
【0024】
(第2の実施形態)
図6は、この発明に係る第二の実施形態を示していて、反射型マスクの断面図を示す。この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0025】
図6に示すように、反射型マスクQは、照射されるレーザ光(照射光)を反射させる反射層Q1と、反射層Q1上に形成される干渉層Q2と、干渉層Q2上にパターニングされ、照射されるレーザ光を吸収する吸収層Q3とで構成される。より詳しくは、反射層Q1は、例えば複数のシリコンで形成された層と、複数のモリブデンで形成された層との積層構造であり、干渉層Q2は、例えば、クロムであり、吸収層Q3は、例えばタンタル系化合物である。
【0026】
このような反射型マスクQにおいても、パターニングされた吸収層Q3の修正箇所Q4(加工位置)に集束イオンビームBを照射し、修正することができる。この場合、第一の実施形態同様に、イオンビームBのエネルギーを20keV未満として照射することで、修正箇所Q4を削り取るとともに、イオンビームBのイオンが吸収層Q3の下層に侵入するが、その侵入を干渉層Q2までに留めることができる。このため、修正完了後に、洗浄工程として、干渉層Q2をドライエッチングで取り除くことで、露出する反射層Q1にダメージ部を形成しないようにすることができる。このような反射型マスクQは、248nm未満の短い波長の照射光を照射させて転写させる場合に有効であり、特に前述の13.5nm以上193nm以下の波長を有する照射光で転写させる場合に有効である。そして、前述のように、ArFイマージョンリソグラフィー、EUVリソグラフィーにおいても、修正した反射型マスクを転写に使用することが可能となる。
【0027】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0028】
なお、試料に照射されるイオンビームBはガリウムイオン(Ga)としたが、これに限るものでは無い。例えば、希ガス(Ar)やアルカリ金属(Cs)など、陽イオンだけに限らず陰イオンでも良い。また、イオンビームBを照射する試料として、透過型フォトマスクP及び反射型マスクQを例に示したが、これに限ることは無く、様々な微細構造物の加工に対応することが可能である。例えば、X線マスクにおいても同様の効果を得ることができる。また、試料に所定のエネルギーでイオンビームを照射するものを集束イオンビーム装置1としたが、これに限られるものでは無く、少なくとも20keV以下のエネルギーを有するイオンビームを集束し照射させることが可能な装置であれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の第一の実施形態の集束イオンビーム装置の構成図である。
【図2】この発明の第一の実施形態の透過型フォトマスクの断面図である。
【図3】この発明の第一の実施形態の集束イオンビーム装置によって透過型フォトマスクにイオンビームを照射する説明図である。
【図4】この発明の第一の実施形態のエネルギーを変えてイオンビームを照射した場合の試料のダメージ部の深さとイオン濃度の関係を示すグラフである。
【図5】この発明の第一の実施形態の洗浄工程前及び洗浄工程後において照射されるイオンビームのエネルギーと照射後の透過型フォトマスクの透過率との関係を示すグラフである。
【図6】この発明の第二の実施形態の反射型フォトマスクの断面図である。
【図7】レーザ光の照射回数と透過率の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1 集束イオンビーム装置
3 イオン供給部
4 加速手段
5 集束手段
6 イオン源
24 アシストガス
25 ガス銃
B イオンビーム
E 加速電圧
P 透過型フォトマスク(試料)
P1 透過層
P2 遮光層
P3 修正箇所(加工位置)
P4 ダメージ部
Q 反射型マスク(試料)
Q1 反射層
Q2 干渉層
Q3 吸収層
Q4 修正箇所(加工位置)
S 表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源と試料との間に加速電圧を生じさせ、前記イオン源から放出されるイオンビームを集束し所定の加工位置に照射させて、前記試料の表面を加工する集束イオンビームによる加工方法であって、
前記加速電圧によって生じる前記イオンビームのエネルギー範囲を1keV以上20keV未満に設定することを特徴とする集束イオンビームによる加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の集束イオンビームによる加工方法において、
前記加工位置に前記イオンビームを照射するとともに、アシストガスを吹き付けることを特徴とする集束イオンビームによる加工方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の集束イオンビームによる加工方法において、
前記加工位置に前記イオンビームを照射した後、該イオンビームのイオンが侵入した前記試料のダメージ部を洗浄する洗浄工程を備えることを特徴とする集束イオンビームによる加工方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の集束イオンビームによる加工方法において、
前記試料は、透過層と、該透過層上にパターニングされた遮光層とで構成され、該遮光層がパターニングされた部分以外に照射された照射光を透過し転写させる透過型フォトマスクであり、前記遮光層を修正することを特徴とする集束イオンビームによる加工方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の集束イオンビームによる加工方法において、
前記試料は、反射層と、該反射層上の干渉層と、該干渉層上にパターニングされた吸収層とで構成され、該吸収層がパターニングされた部分以外に照射された照射光を反射し転写させる反射型マスクであり、前記吸収層を修正することを特徴とする集束イオンビームによる加工方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の集束イオンビームによる加工方法において、
前記試料は、照射し転写させる前記照射光の波長が13.5nm以上248nm未満であることを特徴とする集束イオンビームによる加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−103108(P2007−103108A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289717(P2005−289717)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】