説明

雑音抑圧フィルタ内蔵伝送装置

【課題】フィルタ箱の圧入取付けによらず、フィルタ箱と導波管との隙間に入る高次モードの共振を抑圧する。
【解決手段】伝送周波数帯域減衰特性を持つフィルタ12Fが形成された直方体状のフィルタ箱12を、導波管部10内に取り付けるフィルタ内蔵伝送装置で、上記フィルタ箱12の導波管部10内壁側の上下面(矩形開口長辺側の面)における長辺方向中心部に、例えば円形の貫通孔20を設ける。これにより、導波管10の内壁とフィルタ箱12の外側面との僅かな隙間に流入する高次モードは、貫通孔20からフィルタ箱12内に戻され、またフランジ12bの後面で反射された高次モードも、貫通孔20からフィルタ箱12内に戻され、高次モードの共振が抑圧される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波帯、ミリ波帯の通信装置に使用される雑音抑圧フィルタ内蔵伝送装置で、特に伝送波へ与える雑音やスプリアスを抑圧するためのフィルタ箱を導波管に内蔵する伝送装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
図5には、従来の雑音抑圧フィルタ内臓伝送装置(例えば下記特許文献1)の構成が示されており、図5(A)に示されるように、矩形導波管1の開口部に、伝送周波数帯域減衰特性を持つ直方体状のフィルタ箱2が固着される。このフィルタ箱2は、端部側(図左側)に開口2a及びフランジ2bが設けられ、この開口2aに対向する面(図右側)で導波管伝送路の伝送方向に直交する面に、伝送周波数帯域減衰特性を持つフィルタ2Fが形成される。このフィルタ2Fは、伝送路の伝送方向に直交する面の一部に、例えば形状、寸法を調整した開口を形成したものである。
【0003】
このようなフィルタ箱2によれば、導波管1の内部の所定位置にフィルタ2Fを容易に配置することができ、このフィルタ2Fによって、例えば受信機側への影響としての受信帯域の雑音やスプリアスを抑圧することができる。
【特許文献1】特開2005−333445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のフィルタ箱2を有する伝送装置においては、導波管1の開口部からフィルタ箱2を挿入配置することになるが、この導波管1の内壁とフィルタ箱2の外側面との間に、微少の隙間(クリアランス)ができ、この隙間にフィルタ面で発生した高次モードが入ることで、高次モードの共振が発生し、これが受信帯域等の雑音やスプリアスとして現れるという問題があった。
【0005】
即ち、図5(A)に示される例(隙間を大きく描いている)では、導波管1の内壁とフィルタ箱2の外側面との隙間に入った高次モード(波)がフランジ2bの後面で反射されることで、この隙間に流入した高次モードにより高次モード共振が生じる。また、図5(B)に示される例では、フランジのないフィルタ箱4(フィルタ4Fを有する)が用いられているが、この場合でも、導波管1の開口部に接続される他の部材5の面で、隙間に入った高次モードが反射され、これによって高次モードの共振が生じる。
【0006】
図6は、上記フィルタ箱2を内蔵する伝送装置を送信機に適用した場合の特性の一例であり、この図6では、通過特性が101、反射特性が102となるが、この例では、通過特性101に示されるように、受信帯域(Rx)のEq部分において、上記高次モード共振により減衰帯域の抑圧特性が悪化している。このような減衰帯域の抑圧特性の悪化は、伝送出力の低下をも招くことになる。
【0007】
また、このような問題を解決する方策として、例えばフィルタ箱2を導波管1の開口部から圧入させて取り付け、フィルタ箱2と導波管1内壁とのクリアランスをなくす方法も考えられるが、この場合は、フィルタ箱2の変形が生じたり、このフィルタ箱2と導波管1の寸法精度を上げる必要からコスト高を招いたりすることになり、得策ではない。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、フィルタ箱の圧入取付けによらず、フィルタ箱と導波管との隙間に入る高次モードの共振を抑圧することができる雑音抑圧フィルタ内蔵伝送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、矩形導波管伝送路の伝送方向に直交する面に伝送周波数帯域に減衰特性を持つフィルタが形成された直方体状のフィルタ箱を、上記導波管内に取り付ける雑音抑圧フィルタ内蔵(導波管)伝送装置において、上記フィルタ箱の上記導波管内壁側の面に貫通孔を設けたことを特徴とする。
請求項2に係る発明は、上記貫通孔を、上記フィルタ箱の矩形開口長辺側の面で、その長辺方向中心部に設けたことを特徴とする。
【0010】
本発明の構成によれば、フィルタ箱と導波管との微少の隙間に入った高次モードが貫通孔からフィルタ箱内へ戻り、また隙間を通ってフィルタ箱フランジの後面や導波管に接続される他の部材の面で反射された高次モードが、貫通孔からフィルタ箱内へ入ることで、隙間に入った高次モードが分散され、高次モード共振が抑圧される。
また、請求項2の構成の場合は、フィルタ箱の導波管内壁側の面の中の電界が強い部分に貫通孔が設けられるので、高次モードの共振が効率よく抑圧できることになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の雑音抑圧フィルタ内蔵伝送装置によれば、フィルタ箱の圧入取付けによらず、導波管内壁とフィルタ箱外側面との微少の隙間に入る高次モードの共振を抑圧することができ、減衰帯域の抑圧特性の悪化、伝送出力の低下を招くことがないという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1には、本発明の実施例に係る雑音抑圧フィルタ内蔵伝送装置の構成(導波管の矩形短辺部側から見た図)が示され、図2には、フィルタ箱の構成が示されている。図1において、実施例の伝送装置は、矩形の導波管部(マイクロストリップ線路−導波管変換部)10の開口部に、フィルタ箱12を嵌合配置する構成とされ、この導波管部10の開口部には、フィルタ箱12を嵌合させる空間部分にインピーダンスステップ14を介して短絡面15が形成される。また、導波管部10の上面側にマイクロストリップ線路16が形成されており、このマイクロストリップ線路16から導波管伝送路内へ向けてプローブ17が貫通・配置される。
【0013】
一方、図2に示されるように、フィルタ箱12は、上記導波管部10の矩形開口部の嵌合部分に嵌合する大きさの直方体の箱で、その前面(導波管部10の矩形開口に対応する面)を開口12aとしており、この開口12aの外周に、フランジ(つば状部)12bが設けられている。また、このフィルタ箱12の後面、即ち導波管伝送路の伝送方向に直交する面には、従来と同様に、その一部に例えば形状、寸法を調整した開口を形成したフィルタ12Fが設けられる。
【0014】
そして、このフィルタ箱12の上下面、即ち矩形開口12a(導波管部10の矩形開口でもある)の長辺側の2面のそれぞれにおいて、その長辺方向Gの中心部に、円形(正方形、長方形等、その他の形状でもよい)の貫通孔20を設けており、実施例の貫通孔20は、フィルタ箱12外側面と導波管部10内壁との隙間の中で電界が強い部分に設けられる。
【0015】
図3には、フィルタ箱12の上面(又は下面)と導波管部10内部の上面(又は下面)との隙間の電界の強さ(矢印)を正面(開口部側)から見た図が示されており、この図3に示されるように、電界は、矩形開口長辺方向Gの中央部が最も強く、端部へ向かう程、弱くなる。そこで、実施例では、電界が最も強くなる中央部に貫通孔20を設け、高次モード共振を効率よく抑圧している。
【0016】
このような実施例の構成によれば、図1に示されるように、導波管10の内壁とフィルタ箱12の外側面との僅かな隙間(図は、隙間を大きく描いている)に、高次モードが流入しても、その高次モードは貫通孔20からフィルタ箱12の伝送路内に戻され、またフランジ12bの後面(フランジがないタイプでは、接続される他の部材)で反射された高次モードも、貫通孔20からフィルタ箱12内に戻され、分散される。従って、反射波(位相がずれた波等)によって生じる高次モードの共振が良好に抑圧される。
【0017】
図4には、実施例の雑音抑圧フィルタ内蔵伝送装置における伝送特性が示されており、通過特性は201、反射特性は202に示されるようになる。この通過特性201を図6の通過特性101と比較すると、受信帯域(Rx)において生じていた高次モード共振の影響部分(Eq)がなく、受信帯域(Rx)、送信帯域(Tx)共に、良好な特性が得られている。
【0018】
上記実施例では、円形の貫通孔20をフィルタ箱12の矩形開口長辺側の上下面のそれぞれに1つずつ設けたが、この貫通孔20は、上下面のそれぞれに複数個配置してもよく、またフィルタ箱12の矩形開口短辺側となる左右側面に追加して配置してもよい。更に、フィルタ箱12の上下面と左右面の壁を、箱の構造的強度が維持できる範囲で取り除き、前面開口12aの枠と後面フィルタ12Fを4本の支柱部で支える構成とすることもできる(左右面を残し、上下面の壁を全て取り除いてもよい)。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例に係る雑音抑圧フィルタ内蔵伝送装置の構成を示す断面図である。
【図2】実施例のフィルタ箱の構成を示す斜視図である。
【図3】実施例のフィルタ箱の上面(又は下面)と導波管内部の上面(又は下面)との隙間の電界の強さを正面(開口部側)から見た図である。
【図4】実施例の雑音抑圧フィルタ内蔵伝送装置の伝送特性(通過特性及び反射特性)を示す特性線図である。
【図5】従来のフィルタ内蔵伝送装置の構成を示し、図(A)はフィルタ箱にフランジが設けられるタイプの断面図、図(B)はフランジがないタイプの断面図である。
【図6】従来のフィルタ内蔵伝送装置の伝送特性(通過特性及び反射特性)を示す特性線図である。
【符号の説明】
【0020】
1,10…導波管部、 2,4,12…フィルタ箱、
2a,12a…開口、 2b,12b…フランジ、
2F,4F,12F…フィルタ、
20…貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形導波管伝送路の伝送方向に直交する面に伝送周波数帯域に減衰特性を持つフィルタが形成された直方体状のフィルタ箱を、上記導波管内に取り付ける雑音抑圧フィルタ内蔵伝送装置において、
上記フィルタ箱の上記導波管内壁側の面に貫通孔を設けたことを特徴とする雑音抑圧フィルタ内蔵伝送装置。
【請求項2】
上記貫通孔は、上記フィルタ箱の矩形開口長辺側の面で、その長辺方向中心部に設けたことを特徴とする請求項1記載の雑音抑圧フィルタ内蔵伝送装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−21599(P2010−21599A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177462(P2008−177462)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000191238)新日本無線株式会社 (569)
【Fターム(参考)】