説明

離型フィルム

【課題】 プリント基板製造の際、熱プレス成型時に基盤の表面形状への追随性に優れ、熱プレス時における接着剤のはみ出し、及びフィルム端面でのクッション層の浸み出しを抑制する多層離型フィルム。
【解決手段】 中心層として示差走査熱量計による融点が60〜120℃である、電子線などの放射線にて容易に架橋するαオレフィン及び/あるいはαオレフィン系共重合体を有し、外層に示差走査熱量計による融点が200℃以上である、電子線などの放射線にて架橋しない離型層を有する多層フィルムを押し出し成型し、成型後、電子線などの放射線にて中心層のαオレフィン及び/あるいはαオレフィン系共重合体のみを選択的に架橋することを特徴とするプリント基板製造用多層離型フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板を製造する際に、電気回路(銅箔)面を保護する保護層として回路被覆用フィルムを加熱及び加圧して接着する際に使用される離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント配線基板(以下FPCと呼ぶ)などプリント基盤の製造工程では、ポリイミド樹脂フィルム等絶縁基材の表面に形成された回路を、絶縁及び回路保護を目的として接着剤付き耐熱樹脂フィルムであるカバーレイ(以下、CLという。)で被覆し、離型フィルムを重ねた後、金属板を重ねて加熱成型(以下プレス工程と呼ぶ)する。プレス工程では金属板を製品から容易に離型できるように金属板と製品の間に離型フィルムが用いられる。FPCと表面を接する離型フィルムに対しては、優れた離型性の要求とともにFPCの表面凹凸形状に十分追従することによるCL端面からの接着剤浸み出し抑制、更にFPC全体を包み込むことによる圧力の均一化、FPC全体への均一な圧力による脱ボイド性、プレス後のFPC表面の外観を改良するため離型フィルム自体のプレス時の伸展性(以下成型性という)が求められている。
【0003】
プレス工程の生産性アップのためにさらに高温加熱によるプレスが採用され、カバーレイの接着剤がプリント基板の電極部に流れ出すことも問題である。電極部を汚染した接着剤は、例えば、めっき処理等の障害となることがある。更に、近年、FPC等のプリント基板の回路パターンがより微細化していることから、流れ出した接着剤が電極部に与える影響は大きくなっており、熱プレス成形における歩留まりを向上させるうえで接着剤の流れ出しを抑制することはますます重要な課題となっている。成型性及び追随性の改良には例えば、離型層とクッション層とからなる多層離型フィルムが用いられている。このような多層離型フィルムは、耐熱性、離型性、追従性がよいとされている。(特許文献1)
【0004】
最近は回路が複雑化、微細化されてきたためより薄いカバーレイを用いられている。そのため離型フィルムに発生したシワがカバーレイに転写しやすくなり、プレス時におけるプリント基板の歩留まりの悪化を招いている。離型フィルムのシワの発生を抑制する方法として、例えば、離型フィルムの表面に凹凸形状を付与する方法が開示されている。(特許文献2)
【0005】
追随性を改良するために中心層に低融点のフィルムを有する多層フィルムはフィルム端面でのクッション層の溶融による浸み出しが発生する。フィルム端面でクッション層が浸み出した場合には、フィルムから浸み出したクッション層樹脂残片がプレス熱板に付着し残留する。以上の課題を改良しプレス時における熱によってもシワを生じない程の耐熱性を有し、離型性、及び基板表面への追従性を有しつつ、プレス時における接着剤の流れ出し、及び、フィルム端面でのクッション層の浸み出しを抑制することが可能である多層離型フィルムとして、少なくとも離型層とクッション層とを有する多層離型フィルムであって、クッション層は、示差走査熱量計を用いて測定した融点が70〜130℃のポリオレフィン系樹脂Aと、示差走査熱量計を用いて測定した融点が150〜180℃のポリオレフィン系樹脂Bを含有する多層離型フィルムが開示されている。(特許文献3)
【0006】
追随性の向上のためにクッション層のプレス温度での流動性が求められるが、溶融粘度を下げるとクッション層が溶融して端面からの浸み出しや離型多層フィルム間の接着が発生し、FPC歩留まりの低下がおこる。一方、上記の端面からの浸み出しや離型多層フィルム間の接着を発生させない程度にクッション層の溶融粘度を上げると共押し出し法では多層フィルム製造が困難である。したがってこれまでは共押し出し可能な低溶融粘度と端面からの浸み出し及び離型多層フィルム間の接着の両方を満足するFPC製造に最適な多層フィルムはなかった。
【0007】
クッション層に用いられているエチレン含有ポリマー及び成型体に、電子線などの放射線を照射し、分子間架橋を行う技術は公知であり、ポリエチレンに電子線を照射し分子間架橋することにより耐熱性を向上し電線やケーブルの被覆に実用化されている。一方、一般的な芳香族ポリエステルあるいはポリ(4−メチルー1−ペンテン)は、ポリエチレンの様に放射線によって架橋され易いポリマーではなく、むしろポリマー鎖の切断が優先して起こるポリマーであることも公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開第2003−246019号公報
【特許文献2】特許第4332204号公報
【特許文献3】特開第2008−105319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
容易に共押し出しで製造しうる多層フィルムであってプリント基盤のプレス時にカバーレイ表面にシワを発生せず、優れた成型性と離型性と追随性を与え、さらに端面からクッション層が溶融し浸み出すことがなく、離型多層フィルム間の接着もない多層フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は示差走査熱量計による融点が200℃以上であって、放射線にて架橋しない樹脂を離型層とし、示差走査熱量計による融点が60〜120℃であって、放射線にて架橋するαオレフィン及び/あるいはαオレフィン系共重合体のクッション層を有する多層フィルムを成型した後、放射線にてクッション層のみを選択的に架橋することを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は少なくとも一つの離型層が芳香族ポリエステルであり、好ましくはポリブチレンテレフタレート及び/またはその共重合体あるいはポリエチレンテレフタレート及び/またはその共重合体であることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は少なくとも一つの離型層がポリ(4−メチルー1−ペンテン)及び/またはその共重合体であることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明はクッション層がエチレンとメタクリルエステルを主成分とする共重合体であることを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明はクッション層がエチレンと酢酸ビニルを主成分とする共重合体であることを特徴とする
【0015】
請求項6の発明は請求項1の放射線が電子線であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明によれば、示差走査熱量計による融点が200℃以上であって、放射線にて架橋しない樹脂である離型層は放射線の照射にては架橋せずに、示差走査熱量計による融点が60〜120℃であって、放射線にて架橋するαオレフィン及び/あるいはαオレフィン系共重合体のクッション層のみが架橋することによってプレス時の追随性や離型性を損なわずにプレス時の加熱によるクッション層の溶融浸み出しを抑えることができる。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、離型層として融点が200℃以上であるポリブチレンテレフタレートあるいはポリエチレンテレフタレートを用いることによって高温でのプレス条件にも離型フィルムとして使用することができる。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、離型層として融点が200℃以上であるポリ(4−メチルー1−ペンテン)及び/またはその共重合体を離型層に用いることによって高温でのプレス条件にも離型フィルムとして使用することができる。
【0019】
請求項4記載の発明によれば、クッション層として追随性に優れたエチレンとメタクリルエステルを主成分とする共重合体を示差走査熱量計による融点が200℃以上である樹脂と成型後、架橋するによってプレス時の多層離型フィルム端面からの溶融浸み出しを抑えることができる。
【0020】
請求項5記載の発明によれば、クッション層として追随性に優れたエチレンと酢酸ビニルを主成分とする共重合体を示差走査熱量計による融点が200℃以上である樹脂と成型後、架橋するによってプレス時の多層フィルム端面からの溶融浸み出しを抑えることができる。
【0021】
請求項6記載の発明によれば、成型後の多層フィルムを電子線にて中心層のクッション層のみを架橋することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明の実施例を具体的に説明する。本発明の実施例では、限定した樹脂及びフィルムを使用したが本発明の実施形態では記載した内容に限定するものではないことは自明である。
【実施例1】
【0023】
積水化学製OT−110(示差走査熱量計による融点が228℃である芳香族ポリブチレンテレフタレートを主とする離型層を両側に有し示差走査熱量計による融点が95℃であるエチレン/メチルメタクリレート系共重合体のクッション層を中心に有する多層フィルム)を株式会社NHVコーポレーション製の電子線照射装置EPS−800により電子線を100kグレイ(Gy)照射した。プレス評価結果を表1に示した。
【0024】
クッション層である示差走査熱量計による融点が95℃であるエチレン/メチルメタクリレート系共重合体の電子線照射前後のメルトフローレートを測定した。照射前は0.3g/10分であったが、照射後は0.0g/10分であった。
【実施例2】
【0025】
住友ベークライト製910E(示差走査熱量計による融点が224℃であるポリ(4−メチルー1−ペンテン)を主とする離型層と示差走査熱量計による融点が94℃であるエチレン/酢酸ビニル系共重合体のクッション層を有する2層フィルム)のクッション層側にポリエチレンテレフタレートを離型層としてウレタン接着剤にてドライラミネートし多層フィルムを製造した後、株式会社NHVコーポレーション製の電子線照射装置EPS−800により電子線を50kGy照射した。プレス試験を行った。プレス評価結果を表1に示した。
【0026】
クッション層である示差走査熱量計による融点が94℃であるエチレン/酢酸ビニル系共重合体の電子線照射前後のメルトフローレートを測定した。照射前は0.2g/10分であったが、照射後は0.0g/10分であった。
【0027】
(比較例)
比較例1として実施例1に示した積水化学製OT−110をサンプルとした。比較例2として実施例2に示した住友ベークライト製910E(示差走査熱量計による融点が224℃であるポリ(4−メチルー1−ペンテン)を主とする離型層と示差走査熱量計による融点が94℃であるエチレン/酢酸ビニル系共重合体のクッション層を有する2層フィルム)をさらにポリエチレンテレフタレートを離型層としてクッション層側にウレタン接着剤にてドライラミネートし製造した多層フィルムをサンプルとした。
【0028】
(プレス評価方法)
実施例1,2と比較例1,2の多層離型フィルムを用い、ステンレス板/クッション紙/多層離型フィルム/CL/FPC/多層離型フィルム/クッション紙/ステンレス板の順となるようなプレス構成にて、一段型熱プレス機によりプレスした。プレス条件は5MPa圧力下において180℃にて30℃分間保持した。その後、プレスサンプルについて以下の項目と基準で評価を行なった。
【0029】
(評価項目)
離型性:離型性は多層離型フィルムのFPCからの離型性を評価した。具体的には、CLプレス後の多層離型フィルムのFPCからの剥離状態と多層離型フィルム間の剥離状態を目視にて評価した。評価サンプル数を各n=5として評価を行い、表面に破れや破損がなく、剥がし強度が軽いものを○とし、表面に破れや破損がなくとも剥がし強度が重いものを△とし、破れあるいは破損が発生したものを×とした。
【0030】
CL接着剤の浸み出し量:FPCにCLの接着剤層の浸み出しの評価を浸み出し長さの測定により浸み出し量として評価した。浸み出し量が0.1mm未満を○とし、0.1〜0.2mm未満を△とし、0.2mm以上を×とした。
【0031】
フィルム端面浸み出し量:多層離型フィルム端面からの浸み出し長さ(フィルム4方向端面からの樹脂が浸み出した長さを測定し平均値を計算した)により評価した。浸み出し平均長さ3mm未満を○とし3〜5mm未満を△とし、5mm以上を×とした
【0032】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0033】
FPC製造のプレス工程において製造後に表面にシワを発生せず、またプリント基盤のプレス時に優れた離型性と追随性を与え、プレス時に端面からクッション層が溶融し浸み出すことのない多層フィルムを提供する。本発明の多層フィルムは容易に共押し出しで製造しうる多層フィルムを成型後架橋するために離型層の性質を保ち優れた耐熱性、追随性を有するので半導体の封止工程の離型フィルムにも適用できる。さらの本発明を芳香族ポリエステルの外層と融点の低い中心層を有する多層フィルムの高温での利用に応用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計による融点が200℃以上であって、放射線にて架橋しない樹脂を離型層とし、示差走査熱量計による融点が60〜120℃であって、放射線にて架橋するαオレフィン及び/あるいはαオレフィン系共重合体のクッション層を有する多層フィルムを成型した後、放射線にてクッション層のみを選択的に架橋することを特徴とする離型フィルム。
【請求項2】
少なくとも一つの離型層が芳香族ポリエステルであり、好ましくはポリブチレンテレフタレート及び/またはその共重合体、あるいはポリエチレンテレフタレート及び/またはその共重合体であることを特徴とする請求項1の離型フィルム。
【請求項3】
少なくとも一つの離型層がポリ(4−メチルー1−ペンテン)及び/またはその共重合体であることを特徴とする請求項1の離型フィルム。
【請求項4】
クッション層がエチレンとメタクリルエステルを主成分とする共重合体であることを特徴とする請求項1の離型フィルム。
【請求項5】
クッション層がエチレンと酢酸ビニルを主成分とする共重合体であることを特徴とする請求項1の離型フィルム。
【請求項6】
放射線が電子線であることを特徴とする請求項1の離型フィルム。


【公開番号】特開2012−179827(P2012−179827A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44898(P2011−44898)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(710006600)株式会社奥田 (5)
【Fターム(参考)】