説明

難燃性接着剤組成物、及びそれを用いたカバーレイフィルム

【課題】 ハロゲン原子及びリン原子を含まない、難燃性、密着性、耐熱性、及び耐マイグレーション性に優れる接着剤組成物、並びにその組成物を用いたカバーレイフィルムを提供する。
【解決手段】 (A)非ハロゲン系エポキシ樹脂であり、当該エポキシ樹脂中の脂肪族基の炭素数をa、芳香族基の炭素数をbとした場合、b/a≧2.0である非ハロゲン系エポキシ樹脂 100質量部、
(B)反応性官能基を有する合成ゴム 15〜70質量部、
(C)硬化剤 1〜20質量部、及び
(D)無機充填材 10〜170質量部
を含み、ハロゲン原子及びリン原子を含まない難燃性接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化させて得られる硬化物が難燃性および耐マイグレーション性に優れ、かつハロゲン原子およびリン原子を含有しない接着剤組成物、並びに該組成物を用いたカバーレイフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス分野の発展が目覚しく、特に通信用・民生用の電子機器の小型化、軽量化、高密度化が進み、これらの性能に対する要求がますます高度なものとなっている。このような要求に対して、フレキシブル印刷配線板は可撓性を有し、繰り返し屈曲に耐えるため、狭い空間に立体的に高密度の実装が可能であり、電子機器への配線、ケーブル、コネクター機能等を付与した複合部品として、その用途が拡大しつつある。
【0003】
フレキシブル印刷配線板とは、フレキシブル印刷配線用基板に常法により回路を作製し、使用目的によってはこの回路を保護するような形でカバーレイフィルムを貼り合わせたものである。このフレキシブル印刷配線用基板に要求される特性としては、接着の耐久性、耐熱性、屈曲性、耐折性、耐マイグレーション性、難燃性等が挙げられる。
【0004】
近年の環境問題を背景として、電子機器に実装される部品に対して、ハロゲン化合物の使用を抑制する傾向があり、従来、フレキシブル印刷配線用基板材料を難燃化するために多用されてきた臭素化合物の使用が困難となってきている。
【0005】
上記のような背景により、最近では、接着剤に難燃剤として臭素化合物の代わりにリン化合物を添加して、難燃化する手法が取られているが、リン化合物は一般的に耐湿熱性に劣るため、絶縁信頼性に問題を生じる場合がある。例えば、リン化合物を難燃剤に用いる従来技術として、エポキシ樹脂、リン酸エステル化合物、フェノール系硬化剤およびNBRゴムを主成分とする樹脂組成物(特許文献1、特許文献2)が提案されている。しかしながら、リン酸エステルは耐湿熱性に劣るため、高温高湿条件下ではリン酸エステルが加水分解することによりイオン成分が生じ、基板の耐マイグレーション性が不十分となった。
【0006】
【特許文献1】特開2001−339131号公報
【特許文献2】特開2001−339132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、絶縁信頼性に劣るリン系難燃剤成分を添加せず、難燃性の高い骨格を有するエポキシ樹脂を主成分とした組成物が、難燃性及び耐マイグレーション性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、ノンハロゲンかつノンリンでありながら、難燃性、密着性、耐熱性、及び耐マイグレーション性に優れる接着剤組成物、並びにその組成物を用いたカバーレイフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意研究を行った結果、フェニルアラルキルエポキシ樹脂やビフェニルアラルキルエポキシ樹脂のような芳香族系エポキシ樹脂と、反応性官能基を有する合成ゴムと、難燃助剤となる無機充填材とを組み合わせた難燃性接着剤組成物が、難燃性及び耐マイグレーション性に優れる組成物を与えることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、
(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂であり、当該エポキシ樹脂中の脂肪族基の炭素数をa、芳香族基の炭素数をbとした場合、b/a≧2.0である非ハロゲン系エポキシ樹脂 100質量部
(B)反応性官能基を有する合成ゴム 15〜70質量部
(C)硬化剤 1〜20質量部、及び
(D)無機充填材 10〜170質量部
を含み、ハロゲン原子及びリン原子を含まない難燃性接着剤組成物を提供する。
【0010】
さらに本発明は、当該接着剤組成物を電気絶縁性フィルム上の少なくとも片面に塗布してなるカバーレイフィルムを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物は、硬化させて得られる硬化物が難燃性、密着性、及び耐熱性に優れ、従来よりもさらに耐マイグレーション性に優れている。従って、この組成物を用いて作製したカバーレイフィルムも、耐マイグレーション性、難燃性、密着性(剥離強度)、半田耐熱性等の耐熱性に優れたものとなる。更に、本発明の組成物はハロゲン原子およびリン原子を含有しないので、環境に優しく、絶縁信頼性に優れているため、フレキシブル印刷配線板の製造等への応用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<難燃性接着剤組成物>
以下、本発明の難燃性接着剤組成物の構成成分について、以下により詳細に説明する。
〔(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂〕
(A)成分である非ハロゲン系エポキシ樹脂は、その分子内に臭素等のハロゲン原子およびリン原子を含まないエポキシ樹脂で、かつ、難燃性の高い骨格である芳香族環を多く含有するエポキシ樹脂であり、当該エポキシ樹脂分子中に含まれる脂肪族基の炭素数をa、芳香族基の炭素数をbとした場合、b/a≧2.0であることが必須である。b/aが2.0以上の場合、燃えやすい構造である脂肪族炭素に対して、難燃性に優れる芳香族環を多く含んでいることを示し、従って、難燃性に優れたものとなる。反対にb/aが2.0より小さい場合には、分子内に燃えやすい脂肪族炭素を多く含んでいることとなり、難燃性に劣るものとなる。また、当該エポキシ樹脂は、一般的にエポキシ当量が大きいため、硬化反応後に生成するOH基量が少なく、低吸水性で耐湿熱性に優れる硬化物を与える。
【0013】
このような非ハロゲン系エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、NC−2000(日本化薬製、フェノールフェニレン型、エポキシ当量265〜285、b/aの平均値=2.37)、NC−3000−H(日本化薬製、フェノールビフェニレン型、エポキシ当量280〜300、b/aの平均値=2.51)等が挙げられる。また、上述以外のハロゲン原子およびリン原子を含まないエポキシ樹脂でも、全エポキシ樹脂成分中の脂肪族基炭素数aと芳香族基炭素数bとの比(b/a)が2.0以上となる範囲内であれば、使用することができる。上記エポキシ樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0014】
〔(B)反応性官能基を有する合成ゴム〕
本願で(B)成分の反応性官能基を有する合成ゴムとしては、アクリル酸エステルとアクリロニトリルを主成分とするアクリルゴム;エチレンとアクリル酸エステルとから成るエチレン−アクリルゴム;及びアクリロニトリルとブタジエンゴムとの共重合体であるアクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)を用いることができるが、いずれも分子内に反応性官能基、好ましくはカルボキシル基又はエポキシ基、更に好ましくはカルボキシル基を有することが必須である。
【0015】
用いることができるカルボキシル基若しくはエポキシ基含有アクリルゴム若しくはエチレン−アクリルゴムは、アクリル酸エステル、アクリロニトリル、エチレン等を主成分とし、これと少量のカルボキシル基若しくはエポキシ基を有するモノマーから構成されるものであればよい。
なお、上記アクリルゴムは、通常の溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、高圧ラジカル重合等で調製することができるが、耐マイグレーション性に影響を及ぼすイオン性不純物を極力減らすという観点から、懸濁重合又は高圧ラジカル重合で得られるアクリルゴムがより好ましい。
【0016】
上記カルボキシル基含有アクリルゴムとしては、例えば、商品名で、パラクロンME―3500−DR(根上工業製、−COOH含有)、テイサンレジンWS023DR(ナガセケムテックス製、−OH/−COOH含有)、テイサンレジンSG−280DR(ナガセケムテックス製、−COOH含有)、テイサンレジンSG−708−6DR(ナガセケムテックス製、−OH/−COOH含有)等が挙げられる。上記カルボキシル基含有アクリルゴムは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0017】
上記エポキシ基含有アクリルゴムとしては、例えば、商品名で、テイサンレジンSG−80HDR(ナガセケムテックス製、エポキシ基含有アクリルゴム)等が挙げられる。
上記エポキシ基含有アクリルゴムは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
上記カルボキシル基含有エチレン−アクリルゴムとしては、例えば、商品名で、ベイマックG(三井デュポンポリケミカル製、−COOH含有)が挙げられる。
【0019】
上記カルボキシル基含有NBRとしては、例えばアクリロニトリルとブタジエンとを、アクリロニトリルとブタジエンとの合計量に対するアクリロニトリル量が、好ましくは5〜70質量%、特に好ましくは10〜50質量%の割合となるように共重合させた共重合ゴムの分子鎖末端をカルボキシル化したもの、または、アクリロニトリルおよびブタジエンと、アクリル酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有単量体との共重合ゴム等が挙げられる。このカルボキシル化には、例えばメタクリル酸等のカルボキシル基を有する単量体を用いることができる。
【0020】
前記カルボキシル基含有NBR中におけるカルボキシル基の割合(即ち、カルボキシル基含有NBRを構成する全単量体に対する、該カルボキシル基を有する前記単量体単位の割合)は、特に限定されないが、好ましくは1〜10モル%、特に好ましくは2〜6モル%である。この割合が1〜10モル%であると、得られる組成物の流動性をコントロールできるため、良好な硬化性が得られる。
【0021】
このようなカルボキシル基含有NBRとしては、例えば、商品名で、ニポール1072(日本ゼオン製)、イオン不純物量が少なく高純度品であるPNR−1H(JSR製)等が使用できる。高純度なカルボキシル基含有NBRは高価なために多量に使用することはできないが、接着性と耐マイグレーション性とを同時に向上させることができる点で有効である。
【0022】
上記カルボキシル基含有NBRは、各々、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは15〜70質量部であり、特に好ましくは20〜65質量部である。(B)成分が15〜70質量部の範囲であると、得られるカバーレイフィルムは、難燃性、及び銅箔との剥離強度により優れたものとなる。
【0024】
〔(C)硬化剤〕
(C)成分である硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として通常使用され、且つハロゲン原子及びリン原子を含まないものであれば特に限定されないが、難燃性を悪化させないという観点から、分子骨格内に芳香族環を有する硬化剤がより好ましい。この硬化剤としては、例えば、ポリアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール樹脂等が挙げられる。ポリアミン系硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、テトラエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族アミン系硬化剤、イソホロンジアミン等の脂環式アミン系硬化剤、ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミン等の芳香族アミン系硬化剤、ジシアンジアミド等が挙げられるが、前述の通り、芳香族アミン系硬化剤が特に好ましい。酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、ピロメリト酸無水物、トリメリト酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。中でも、得られる組成物を、カバーレイフィルムに用いる場合には適度な反応性が求められることから芳香族ポリアミン系硬化剤、フェノール樹脂型硬化剤が好ましい。
上記硬化剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0025】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部であり、より好ましくは3〜15質量部である。(C)成分が1質量部未満の場合、組成物の硬化が不十分となり、耐熱性や密着性に劣る。また、(C)成分が20質量部を超えた場合、得られる硬化物の架橋度が上がりすぎて、密着性に劣るものとなる。
【0026】
〔(D)無機充填材〕
(D)成分である無機充填材は、耐熱性と難燃性を向上させるものである。該無機充填材としては、従来、カバーレイフィルム等に使用されているものであれば特に限定されない。具体的には、無機充填材は難燃助材としても作用する点から、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、硼酸亜鉛、酸化モリブデン等の金属酸化物が挙げられ、好ましくは、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが挙げられる。これらの無機充填材は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0027】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは10〜170質量部、より好ましくは20〜160質量部である。(D)成分が10質量部未満の場合、組成物の耐熱性や難燃性が不十分となる。また、(D)成分が170質量部を超えた場合、密着性に劣るものとなる。
【0028】
〔その他の任意成分〕
上記(A)〜(D)成分以外にも、以下に示すような、ハロゲン原子及びリン原子を含まないその他の任意成分を添加してもよい。
・硬化促進剤
硬化促進剤は、(A)ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂と(C)硬化剤との反応の促進に用いられるものであれば特に限定されない。この硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、およびこれらの化合物のエチルイソシアネート化合物;2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;トリエチレンアンモニウム・トリフェニルボレート等の第三級アミン、およびそのテトラフェニルホウ素酸塩;オクチル酸錫、オクチル酸亜鉛等のオクチル酸塩等が挙げられる。
上記硬化促進剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。その配合量は、(A)成分100質量部に対して通常10質量部以下、好ましくは0.1〜5質量部である。
【0029】
・イオン捕捉剤
イオン捕捉剤は、耐マイグレーション性をさらに向上させるものである。イオン捕捉剤としては、イオン捕捉能を有する化合物であり、リン酸アニオン、有機酸アニオン、ハロゲンアニオン、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン等を捕捉することによりイオン性不純物を減少させるものである。イオン性不純物が多く含まれた場合、配線の腐食や絶縁層の耐マイグレーション性を著しく低下させる。このようなイオン捕捉剤の具体例としては、ハイドロタルサイト系イオン捕捉剤、酸化ビスマス系イオン捕捉剤、酸化アンチモン系イオン捕捉剤等が挙げられる。上記イオン捕捉剤の市販品としては、例えば、DHT−4A(協和化学工業製、ハイドロタルサイト系イオン捕捉剤)、IXE−300(東亞合成製、酸化アインチモン系イオン捕捉剤)、IXE−500(東亞合成製、酸化ビスマス系イオン捕捉剤)、IXE−600(東亞合成製、酸化アンチモン・酸化ビスマス系イオン捕捉剤)等が挙げられる。
上記イオン捕捉剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。その配合量は、(A)成分100質量部に対して通常30質量部以下、好ましくは10〜20質量部である。
【0030】
・非ハロゲン系エポキシ樹脂
本発明の組成物は、更に(A)成分以外の、分子内に臭素等のハロゲン原子およびリン原子を含まない非ハロゲン系エポキシ樹脂(即ち、エポキシ樹脂分子中に含まれる脂肪族基の炭素数をa、芳香族基の炭素数をbとした場合、b/a<2.0の非ハロゲン系エポキシ樹脂)を含んでもよい。かかる非ハロゲン系エポキシ樹脂の配合量は、(A)成分100質量部に対して通常60質量部以下、好ましくは50質量部以下である。
【0031】
・有機溶剤
上記の(A)〜(D)成分および必要に応じて添加される成分は、無溶剤でカバーレイフィルムの製造に用いてもよいが、有機溶剤に溶解または分散し、該組成物を溶液または分散液(以下、単に「溶液」という)として調製して用いてもよい。この有機溶剤としては、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン等が挙げられ、好ましくはN,N−ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン及びトルエン、特に好ましくはN,N−ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン及びトルエンが挙げられる。これらの有機溶剤は、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0032】
上記接着剤溶液中の有機樹脂成分および無機固形成分の合計濃度は、通常10〜45質量%であり、好ましくは20〜40質量%である。この濃度が10〜45質量%の範囲であると、接着剤溶液は電気絶縁性フィルム等の基材への塗布性が良好であることから、作業性に優れ、塗工時にムラが生じることがなく、塗工性に優れ、かつ環境面、経済性等にも優れたものとなる。
【0033】
なお、「有機樹脂成分」とは、本発明の接着剤組成物を硬化させたときに得られる硬化物を構成する不揮発性有機成分を云い、具体的には主として(A)〜(C)成分であり、更に場合によって加えられる成分をも含む。該接着剤組成物が有機溶剤を含む場合には、通常、有機溶剤は有機樹脂成分に含まれない。また、「無機固形成分」とは、本発明の接着剤組成物に含まれる(D)成分であり、その他の場合によって加えられる成分をも含む。
【0034】
本発明組成物中の有機樹脂成分、ならびに無機固形成分および有機溶剤は、ポットミル、ボールミル、ホモジナイザー、スーパーミル等を用いて混合すればよい。
【0035】
<カバーレイフィルム>
上記組成物は、カバーレイフィルムの製造に用いることができる。具体的には、例えば、電気絶縁性フィルムと、該フィルム上に設けられた上記組成物からなる層とを有するカバーレイフィルムが挙げられる。以下、その製造方法を説明する。
【0036】
予め所要成分と有機溶剤とを混合することにより液状に調製した接着剤溶液を、リバースロールコータ、コンマコータ等を用いて、電気絶縁性フィルムに塗布する。接着剤溶液が塗布された電気絶縁性フィルムをインラインドライヤに通し、80〜160℃で2〜10分間かけて有機溶剤を除去することにより乾燥し、半硬化状態とし、次いでロールラミネータを用いて保護層と圧着、積層することにより、カバーレイフィルムが得られる。保護層は使用に際して剥離される。なお、「半硬化状態」とは、組成物が乾燥した状態で、その一部において硬化反応が進行している状態を意味する。
【0037】
上記カバーレイフィルムの組成物塗布膜の乾燥後の厚さは、通常5〜50μmであり、好ましくは5〜45μmである。
【0038】
・電気絶縁性フィルム
前記電気絶縁性フィルムは、本発明のカバーレイフィルムに用いられるものである。この電気絶縁性フィルムとしては、通常、カバーレイフィルムに用いられるものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、ポリイミドフィルム、アラミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、並びにガラス繊維やアラミド繊維、ポリエステル繊維等をベースにして、これにマトリックスになるエポキシ樹脂、アクリル樹脂等を含浸させて、フィルムまたはシート状にして銅箔と貼り合わせたもの等が挙げられる。得られるカバーレイフィルムの耐熱性、寸法安定性、機械特性等の点から、特に好ましくは低温プラズマ処理されたポリイミドフィルムやコロナ処理されたアラミドフィルムが好適に利用できる。該ポリイミドフィルムとしては、通常、カバーレイフィルムに用いられるものであればよく、この電気絶縁性フィルムの厚さは、必要に応じて任意の厚さのものを使用すればよいが、好ましくは9〜50μmである。また、該アラミドフィルムとしては、通常、カバーレイフィルムに用いられるものであればよく、この電気絶縁性フィルムの厚さは、必要に応じて任意の厚さのものを使用すればよいが、好ましくは3〜9μmである。
【0039】
・保護層(離型基材)
保護層は、接着剤層の形態を損なうことなく剥離できるものであれば特に限定されないが、通常、ポリエチレン(PE)フィルム及びポリプロピレン(PP)フィルム等のポリオレフィンフィルム、ポリメチルペンテン(TPX)フィルム、離型処理を施したポリエステルフィルム等のプラスチックフィルム;並びにPEフィルム、PPフィルム等のポリオレフィンフィルム、TPXフィルム、離型処理を施したポリエステルフィルム等を紙材料の片面または両面にコートした離型紙等が挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明についてより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。実施例で用いた(A)〜(D)成分およびその他の任意成分は、具体的には下記のとおりである。なお、表中の配合比を示す数値の単位は「質量部」である。
【0041】
<接着剤組成物の成分>
・(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂
(1)NC−3000−H(商品名)(日本化薬製、フェノールビフェニレン型、エポキシ当量280〜300、b/aの平均値=2.51)
(2)NC−2000(商品名)(日本化薬製、フェノールフェニレン型、エポキシ当量265〜285、b/aの平均値=2.37)
・(B)反応性官能基を有する合成ゴム
(1)テイサンレジン SG−80HDR(商品名)(ナガセケムテックス製、エポキシ基含有アクリルゴム)
(2)ベイマックG(商品名)(三井デュポンポリケミカル製、カルボキシル基含有エチレン−アクリルゴム)
(3)ニポール1072(商品名)(日本ゼオン製、カルボキシル基含有NBR)
・(C)硬化剤
(1)4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(DDS、芳香族ジアミン系硬化剤)
(2)フェノライトTD−2093(商品名)(大日本インキ化学製、ノボラック型フェノール樹脂、OH当量:104)
・(D)無機充填剤
(1)水酸化アルミニウム
・任意成分
硬化促進剤
(1)2E4MZ(商品名)(四国化成工業製、イミダゾール系硬化促進剤)
イオン補足剤
(1)DHC−4C(商品名)(協和化学工業製、ハイドロタルサイト系イオン捕捉剤)
エポキシ樹脂
(1)EK1001(ジャパンエポキシレジン製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:450〜500、b/aの平均値=1.73)
・本発明以外の成分
リン系難燃剤
(1)PX−200(商品名)(大八化学工業(株)製、芳香族縮合リン酸エステル、リン含有量:9.0質量%)
【0042】
〔実施例1〕
接着剤組成物の成分を表1に示す割合で混合し、得られた混合物に、メチルエチルケトン/トルエンの質量比1/1混合溶剤を添加することにより、有機固形成分および無機固形成分の合計濃度が35質量%の分散液を調製した。
・カバーレイフィルムの作製
アプリケータで上記分散液を乾燥後の厚さが25μmとなるようにポリイミドフィルム(商品名:アピカルNPI、カネカ製、厚さ:12.5μm)表面に塗布し、それを120℃で10分間、送風オーブン内で乾燥させることにより、接着剤組成物が半硬化状態であるカバーレイフィルムを作製した。このカバーレイフィルムの特性を下記測定方法1に従って測定した。また、カバーレイフィルムの耐マイグレーション性を下記測定方法2に従って測定した。それらの結果を表2に示す。
【0043】
〔実施例2〜4〕
接着剤組成物の成分を表1の実施例2〜4に示す割合で混合した以外は実施例1と同様にしてカバーレイフィルムを作製した。このカバーレイフィルムの特性を下記測定方法1に従って測定した。さらに、フレキシブル銅張積層板及びカバーレイフィルムの耐マイグレーション性を下記測定方法2に従って測定した。それらの結果を表2に示す。
【0044】
〔比較例1〜7〕
接着剤組成物の成分を表1の比較例1〜7の各欄に示す割合で混合した以外は実施例1と同様にしてカバーレイフィルムを作製した。これらのカバーレイフィルムの特性を下記測定方法1に従って測定した。さらに、カバーレイフィルムの耐マイグレーション性を下記測定方法2に従って測定した。それらの結果を表2に示す。
【0045】
測定方法1
1−1.剥離強度
JIS C6471に準拠して、圧延銅箔(日鉱マテリアルズ製、厚さ:18μm)の光沢面とカバーレイフィルムの接着剤層とをプレス装置(温度:160℃、圧力:3MPa、時間:30分)を用いて貼り合わせることにより、プレスサンプルを作製した。得られたプレスサンプルを幅1cm、長さ15cmの大きさに切断して試験片とし、その試験片の電気絶縁性フィルム面を固定し、25℃の条件下で銅箔を該電気絶縁性フィルム面に対して90度の方向に50mm/分の速度で引き剥がすのに要する力の最低値を測定し、剥離強度として示した。
1−2.半田耐熱性(常態・吸湿)
JIS C6471に準拠して、前記剥離強度の測定で作製したカバーレイフィルムのプレスサンプルを25mm角に切断することにより試験片を作製し、その試験片を300℃の半田浴上に30秒間浮かべた。その試験片に膨れ、剥がれ、及び変色のいずれも生じない場合を「良」と評価して○で示し、該サンプルが膨れ、剥がれ、又は変色した場合を「不良」と評価して×で示した。
半田耐熱性(吸湿)については、前記半田耐熱性(常態)の測定用のものと同様にして作製した試験片を40℃、相対湿度90%の雰囲気下で24時間放置した後、その試験片を260℃の半田浴上に30秒間浮かべ、その試験片に膨れ、剥がれ、及び変色のいずれも生じない場合を「良」と評価して○で示し、該サンプルが膨れ、剥がれ、又は変色した場合を「不良」と評価して×で示した。
1−3.難燃性
ポリイミドフィルム(アピカルNPI、カネカ製、厚さ:12.5μm)とカバーレイフィルムの接着剤層とをプレス装置(温度:160℃、圧力:3MPa、時間:30分)を用いて貼り合わせることによりプレスサンプルを作製した。得られたプレスサンプルをUL94VTM−0難燃性規格に準拠して、そのサンプルの難燃性を測定した。該サンプルがUL94VTM−0規格を満足する難燃性を示した場合を「良」と評価して○で示し、UL94VTM−0規格を満足しなかった場合を「不良」と評価して×で示した。
【0046】
測定方法2
2−1.耐マイグレーション性
電解銅箔(三井金属製、厚さ:12μm)の処理面と実施例1で得られたカバーレイフィルムの接着剤層とをプレス装置(温度:160℃、圧力:3MPa、時間:30分)を用いて貼り合わせることによりプレスサンプルを作製した。そのプレスサンプルにライン幅/スペース幅=50μm/50μmの櫛型回路を作製し、実施例1で得られたカバーレイフィルムをプレス装置(温度:160℃、圧力:3MPa、時間:30分)にてそれぞれ貼り合わせ、耐マイグレーション性測定用サンプルを作製した。
同様にして、実施例2〜4、及び比較例1〜7で得られたカバーレイフィルムを用いて、上記の方法により耐マイグレーション性評価用サンプルをそれぞれ作製した。
これらの試験片に対して、温度85℃、相対湿度85%の条件下で、回路の両極に50Vの直流電圧を印加し、耐マイグレーション性を評価した(マイグレーションテスター、IMV社製、MIG−86)。電圧印加後、1,000時間以内に導体間で短絡(抵抗値の低下)が発生した場合、又は1,000時間経過後デンドライトの成長が認められた場合を「不良」と評価して×で示し、1,000時間経過後も抵抗値を維持し、かつデンドライトを生じなかった場合を「良」と評価して○で示した。
【0047】
【表1】

【0048】



【表2】

【0049】
評価
実施例1〜4で調製した組成物は本発明の要件を満足するものであって、それを用いたカバーレイフィルムは、剥離強度、半田耐熱性、難燃性および耐マイグレーション性に優れていた。
比較例1で作製したカバーレイフィルムは、本発明の要件の全エポキシ樹脂中の脂肪族基炭素数aと芳香族基炭素数bとの比が2.0以下であるため、難燃性に劣るものであった。
比較例2で得られたカバーレイフィルムは、(B)成分の配合量が本発明要件の範囲を超えているため、難燃性に劣るものであった。
比較例3で得られたカバーレイフィルムは、(B)成分の配合量が本発明要件の範囲より少ないため、接着性に劣るものであった。
比較例4で得られたカバーレイフィルムは、(C)成分の配合量が本発明要件の範囲より少ないため、吸湿時の耐熱性に劣るものであった。
比較例5で得られたカバーレイフィルムは、(C)成分の配合量が本発明要件の範囲を超えているため、剥離強度が劣るものであった。
比較例6で得られたカバーレイフィルムは、(D)成分の配合量が本発明要件の範囲を超えているため、剥離強度が若干劣るものであった。
比較例7で得られたカバーレイフィルムは、本発明要件以外の成分であるリン酸エステルを含んでおり、耐マイグレーション性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂であり、当該エポキシ樹脂中の脂肪族炭素の数をa、芳香族炭素数をbとした場合、b/a≧2.0である非ハロゲン系エポキシ樹脂 100質量部
(B)反応性官能基を有する合成ゴム 15〜70質量部、
(C)硬化剤 1〜20質量部、及び
(D)無機充填材 10〜170質量部
を含み、ハロゲン原子およびリン原子を含まない難燃性接着剤組成物。
【請求項2】
上記成分(A)〜(D)と、硬化促進剤、及びイオン捕捉剤、成分(A)以外の非ハロゲン系エポキシ樹脂、及び有機溶剤から選ばれる1種又は2種以上とから成る、請求項1記載の難燃性接着剤組成物。
【請求項3】
(B)成分中の反応性官能基がカルボキシル基又はエポキシ基である、請求項1又は2記載の難燃性接着剤組成物。
【請求項4】
(B)成分の反応性官能基を有する合成ゴムが、アクリル酸エステルとアクリロニトリルを主成分とするアクリルゴム、エチレンとアクリル酸エステルを主成分とするエチレン−アクリルゴム、及びアクリロニトリルとブタジエンとの共重合体であるアクリロニトリル−ブタジエンゴムから選ばれる少なくとも1種類である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1、2又は3に記載の組成物を電気絶縁性フィルム上の少なくとも片面に塗布してなるカバーレイフィルム。
【請求項6】
前記電気絶縁性フィルムがポリイミドフィルムである請求項5に記載のカバーレイフィルム。

【公開番号】特開2008−291171(P2008−291171A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140245(P2007−140245)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】